澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

9条改憲を許したら‥こんな泥沼の戦争に

自民党憲法改正草案における9条改憲の大目標は国防軍の創設だが、これと並んで集団的自衛権容認がある。具体的には、アメリカの戦争に日本の軍隊が加担できるようにすることだ。そのアメリカの戦争の実態を『勝てないアメリカー「対テロ戦争の日常」』(大治朋子著 岩波新書)が懇切に教えてくれる。

09年毎日新聞の取材で、アフガニスタンの米軍基地を訪れた著者は、米軍の中尉とともに厳重な装甲車に乗ってパトロールに出かける。基地から8キロメートルぐらい離れた時、「突然座席の下から巨大なかなづちで一撃されたような衝撃を受けた」。持っていたカメラもノートもペンも散乱し、背中に激痛が走る。結局、けが人は出なかったが、装甲車は大破していた。「わずか10ドルほどのIED (手製爆弾)が、4800万円以上の米軍の最新鋭の装甲車を一瞬にして破壊し、部隊全員を不安に陥れる。立ち往生させ、待ち伏せ攻撃の可能性に何時間も緊張を強いられる。基地に戻ったのは爆発から7時間後だった」「「持たざる者」が、「持てる者」を振り回す。小さな蜂の群れが、巨象を襲う。それがこの戦争の日常だ。これが非対称の戦争なのだ。」

装甲車の防備も、兵士のボディアーマーも格段の進歩を遂げた。戦場での医療も手厚い。以前の戦争なら確実に命を落とした爆弾攻撃でも、いまでは兵士は生き延びる。ところが、新たな傷害、PTSD(心的外傷ストレス障害)やTBI(外傷性脳損傷)が兵士を蝕む。外見は元気に帰還した若者たちが長期にわたって、こうした「見えない傷」で苦しんで、療養を強いられる。09年、米国防総省はイラクやアフガンに派遣された米兵180万人のうち、約1?2割(18?36万人)がTBIだと発表した。退役軍人省によると帰還兵の治療や保障に02年?10年までの間に費やした費用は60億ドル、帰還した兵士が急増した10年1年間で20億ドルということだ。

戦争の非対称性の象徴が、戦争のゲーム化だ。米国本土から遠隔操縦される、無人飛行機・プレデター(捕食動物) やリーパー(死神)がイラクやアフガンの上空を飛び回り、偵察し、爆撃する。ハリウッド映画のような罪悪感を伴わない「テロリストとの殺人ゲーム」。必然的に引き起こされる、誤爆や民間人殺害。これらは時と場所によっては、民間戦争請負会社やCIAの職員が肩代わりする。米軍の責任回避に都合がいい。「兵士の戦死という犠牲があるからこそ、米国はこれまで国民も政治家も、戦争には慎重になってきました。多数が死傷すれば、派遣に賛成した議員は選挙で負けるからです。けれどもパキスタンでの空爆は(米兵が死なないので)米議会で審議されず、戦争という認識さえ持たれていません。これは無人機戦争の拡大が生み出した民主主義社会の破壊です。」(ブルッキングス研究所研究員ピーター・シンガー氏の弁)

イラク・アフガン戦争の関連出費は4兆ドル。米兵と治安部隊の死者3万人。民間人と武装勢力死者25万人(ブラウン大学ワトソン研究所試算)。「米国がこれほど莫大な戦費と人命をかけたにもかかわらず、両国は安全になったのか、テロの脅威は消え去ったのかといえば、決してそうではない。テロ事件はなお続き、多くの市民が犠牲となっている」「責任ある終結」など容易に出来はしない。

オバマ政権は11年にイラク戦争の終結を宣言し、部隊は撤退した。14年にはアフガン戦争の終結をしようとしている。しかし、アフガンのカルザイ大統領は、5月9日、14年以降も米軍が国内基地9カ所での駐留継続を要求していると演説している。米国がひっくり返したびっくり箱からテロリストが世界中にばらまかれてしまった。11年1年間に起きたテロ事件は世界70カ国で1万283件、犠牲者は1万2533人にのぼると、米国務省が発表している。

「多数の人命と莫大な戦費、膨大な時間を使い果たしてもなお勝てないアメリカの現実だ」とこの本の著者は結論づけている。

さて、日本では憲法改定論議が盛んだ。目標は9条を変えて、米国と一緒に戦争できる国にすること。9条改憲で国防軍を持てば、自衛の範囲にこだわらずに世界の各地でアメリカの下請けの戦争ができる。あるいは集団的自衛権行使を可能とすれば、アフガンでもパキスタンでもアメリカと一緒に戦闘が可能だ。しかし、どう考えても、こんな無責任で危険な米国と組んで、泥沼のような戦争をしてはいけない。蟻地獄のような戦争に引きずり込まれてはいけない。自分の首が回らないのに、これ以上の借金を重ねて貢いではいけない。そしてなにより、大切な若者たちを大義のない、果てしもない戦場に送ってはいけない。

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