澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

売春防止法の視点からの橋下徹の責任

風俗業活用発言と、飛田の料理組合顧問問題に限って、橋下徹の弁護士としての責任を考えて見たい。いずれも、売春防止法の視点からの検討である。

売春防止法第3条は、「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない」と定める。売春をすることも、その相手方となる(買春する)ことも、法は明確に禁止している。まずもってその原則を確認しなければならない。

なぜ、売春は禁止されているのか。
売春防止法の目的規定である第1条に、次の文言がある。「売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ、売春を助長する行為等を処罰する…」
法は、売春を
人としての尊厳を害するものであり、
性道徳に反するものであり、
社会の善良の風俗をみだすものである、
ととらえている。実定法上の定めだからそのように考えなければならない、というのではなく、よく考えぬかれた納得できる規定ではないだろうか。通常の感覚からは首肯するしかなく、反論はなし難い。

ここまでは分かりやすい。問題は、売春とはなんぞやにある。何が「法において禁止された売春」なのか。
同法は、定義規定である第2条で、「この法律で『売春』とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう」と定める。この定義は、かなり厳格なもので、禁止される売春は限定され、あるいは立証を困難としている。別の角度から見れば、悪智恵の発揮次第では脱法が可能となる。

売春防止法は、処罰を伴う特別刑法に属する以上、罪刑法定主義が貫徹されなければならない。したがって、処罰対象行為が厳格に定められることを要する。そのため、性交類似行為などという曖昧な概念を処罰対象としていない。そのことから、橋下の言う「風俗業の活用」論が出てくる。

「売春」とは性行為のみに限定される。たとえ、「対価を受けて不特定の相手方に性的サービスを行った」としても、性交を伴うものでない限りは売春にならない。売春でなければ犯罪ではない。だから大いに活用したらよい、との論法につながりうる。

橋本の言を朝日から引用すれば、次のとおり。
「だから僕はあの、沖縄の海兵隊、普天間に行ったときに、司令官の方に、もっと風俗業を活用してほしいっていうふうに言ったんです。そしたら司令官はもう凍り付いたように苦笑いになってしまって」「米軍ではオフリミッツだと。禁止って言ってるもんですからね。そんな建前みたいなことを言うからおかしくなるんですよと。法律の範囲内で認められてるね、中でね。」「いわゆるそういう性的なエネルギーをある意味合法的に解消できる場所は、日本にあるわけですから、もっと真正面からそういう所を活用してもらわないと、海兵隊のあんな猛者の性的なエネルギーをきちんとコントロールできないじゃないですか。」

法は、売春の定義を厳格化した。犯罪の範囲は、限定されたものになった。
しかし、「性風俗産業における対価を受けて不特定の相手方に対してする性的サービスの提供」は、性交を伴わないものとはいえ、
人としての尊厳を害するものであり、
性道徳に反するものであり、
社会の善良の風俗をみだすものである、
とは言えないだろうか。通常の感覚からは首肯するしかなく、反論はなし難い。

売春防止法は、売春の助長行為を犯罪とする。風俗業活用の勧めは、確かに売春の助長行為でない。しかし、「人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだす」行為の助長ではないのか。犯罪でないことは当然としても、弁護士としての品位にもとる行為というべきではないか。

弁護士法56条は、「職務の内外を問わずその品位を失うべき非行」を懲戒事由としている。性風俗産業の活用を勧めることは、売春を勧めたものではないにせよ、懲戒事由たりうる。橋下の「僕は政治家の立場として発言した。懲戒請求権の乱用で、政治活動に対する重大な挑戦だ」は、噛み合わない反論である。法が、職務の内外を問わずと明定しているのだから、問題は「品位を失うべき非行」にあたるか否かの判断に尽きる。

その際、「風俗業」の所管法である「風俗営業等取締法」の立法趣旨をも勘案すべきであろう。
同法は、「本法の風俗営業は、風俗犯罪の予防という見地を特に入れて、これに関係あるものに範囲を限った。風俗犯で最も実質的内容をなすものは、売淫と賭博であって、こうした犯罪がこの種の営業にはとかく起こりやすいので、これを未然に防止するために、防犯的な見地からこの種の営業を規制する」(立法時の政府説明員の委員会答弁)との見地からの立法である。

橋下の発言は、人としての尊厳を蹂躙する行為の勧めであるだけでなく、「直接に売春を勧めてはいないが、とかく売春に陥りやすい風俗業の活用を積極的に勧めた」点でも、品位に欠ける発言というべきである。

ところで、飛田新地の営業の実態は、性交を伴う点において売春の要件を具備している。となると、橋下が顧問をしていたという料理組合加盟の各「料亭」には、売春の場所の提供者として以下の各条の犯罪該当行為があったことになる。

第11条(場所の提供) 情を知つて、売春を行う場所を提供した者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2  売春を行う場所を提供することを業とした者は、七年以下の懲役及び三十万円以下の罰金に処する。
第12条(売春をさせる業) 人を自己の占有し、若しくは管理する場所又は自己の指定する場所に居住させ、これに売春をさせることを業とした者は、十年以下の懲役及び三十万円以下の罰金に処する。

飛田新地の営業を「売春ではない」と強弁するためには、知恵を絞らなければならない。「性交との対価関係に立つ対償の授受がない」「金銭の授受はあったが、それは料理の対価に過ぎない」「不特定の相手方との性交ではない」「場所は提供したけど売春が行われるなどの事情は知らなかった」…などという苦しい言い訳をしなければならない。形ばかりの料理を出して、料亭、料理屋、料理組合などと称する必要も出てくる。顧問弁護士の役割は、そのような智恵を求められての法的アドバイスであることが推認される。あるいは、警察の取締りへの牽制の役割を期待されてのことなのかも知れない。

いずれにせよ、彼が飛田料理組合顧問の時代に飛田の営業態様が抜本的に変わったとの話しを耳にしない以上は、
法が禁圧する売春を覆い隠し、
売春を持続させることによって、
人としての尊厳を害する営業を助長し、
性道徳に反する行為を助長し、
社会の善良の風俗をみだすことを助長した、
と認定される可能性が極めて高い。

犯罪者も違法業者も弁護士の法的助言を受けることができる。弁護士も犯罪者や違法業者に法的助言をすることができる。しかし、犯罪を隠蔽し助長する内容の助言については、この限りでない。弁護士は、依頼人の正当な権利の実現には誠実に努力する義務を負うが、違法、不当な目的に利用されてはならない。法の抜け道を探すことが弁護士の仕事であってはならないのだから。
(2013年6月1日)

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