毎日新聞社もスラップ訴訟の被告になったー「DHCスラップ訴訟」を許さない・第41弾
私自身が被告にされ、6000万円の賠償を請求されているDHCスラップ訴訟の次回期日は明後日4月22日(水)13時15分に迫っている。舞台は東京地裁6階の631号法廷。誰でも、事前の手続不要で傍聴できる。また、閉廷後の報告集会は、東京弁護士会507号会議室(弁護士会館5階)でおこなわれる。集会では、関連テーマでのミニ講演も予定されている。どなたでも歓迎なので、ぜひご参加をお願いしたい。
さて、私は、DHC・吉田から私に対する訴訟を「スラップ訴訟」と位置づけている。この場合のスラップ訴訟とは、権力者や経済的な強者が自分に対する批判の言論を嫌って、言論封殺を目的とする提訴のこと。DHC・吉田は渡辺喜美に対して「届出のない8億円を拠出していた」ことを自ら曝露した。多くの論者がこれを批判したが、DHC・吉田はその内10人を選んでスラップ訴訟をかけている。私もそのひとり。トンデモナイ高額請求で、うるさい人物を黙らせようということなのだ。
このようなスラップ訴訟の被害は、フリーランスのジャーナリストや個人ブロガーなど恫喝に弱い立場の者に集中してきた。ところが、大手新聞社もスラップの対象となっている。これは、ジャーナリズム全体に由々しき事態ではないか。既に報道の自由そのものが被害者となっているのだから。
以下は、毎日新聞4月17日夕刊(社会面・第14面)の記事である。多くの読者には目にとまらなかったであろう、小さな扱いのベタ記事。しかし、記事の内容は見過ごせない。
見出しは「サンデー毎日記事巡り稲田氏が本社提訴」というもの。
「サンデー毎日の記事で名誉を傷付けられたとして、自民党の稲田朋美政調会長が発行元の毎日新聞社を相手取り、550万円の損害賠償などを求める訴えを大阪地裁に起こした。17日の第1回口頭弁論で毎日新聞社は請求棄却を求めた。
訴状によると、サンデー毎日は2014年10月5日号で、稲田氏の資金管理団体が10〜12年、『在日特権を許さない市民の会』(在特会)の幹部と行動する8人から計21万2000円の寄付を受けたと指摘。稲田氏について『在特会との近い距離が際立つ』とする記事を載せた。
稲田氏側は『寄付を受けることは寄付者の信条に共鳴していることを意味しない』と主張。記事によって『在特会を支持していると読者に受け取られ、(稲田氏の)社会的評価を低下させる』と訴えている。
▽毎日新聞社社長室広報担当の話 記事は十分な取材に基づいて掲載しています。当方の主張は法廷で明らかにします。」
原告は自民党の政調会長である。安倍晋三にきわめて近い立場にあると見られている人物。このような政権与党の中枢に位置する人物のメディアに対する提訴は、被告が大手新聞社であっても、記事の内容が意図的な事実の捏造でもない限り、言論封殺を目的としたスラップ訴訟とみるべきであろう。また、現時点における複数の報道による限り、提訴の内容はまさしく、「権力者が自分に対する批判の言論を嫌って、言論封殺を目的とする」ものと考えてよいと思われる。
問題の「サンデー毎日」2014年10月5日号記事は、『安倍とシンパ議員が紡ぐ極右在特会との蜜月』というメインタイトル。大きな反響を呼んだ記事だ。サブタイトルは、「スクープ 国連が激怒」「自民党がヘイトスピーチ規制に後ろ向きな噴飯ホンネ」「山谷えり子との『親密写真』公開!」「お友達議員にバラ撒かれるカネ」「高市早苗とネオナチ団体」などと賑やかだ。しかし、サブタイトルに稲田の名がないことに注目いただきたい。
使われている写真は、「山谷氏を囲む在特会関係者」「ネオナチと高市氏(左)、稲田氏(右)の写真を報じる海外メディア」と、これは文句のつけようがない。
記事全体としては、「安倍自民と在特会」との蜜月関係を洗い出して、「今さら簡単に断ち切れないほど関係を深めている」「ナショナリズムを政権浮揚に使ってきたツケが回ってきた」と、政権の右翼化を批判したもの。
この記事に出て来る「シンパ議員」の名を挙げておきたい。
安倍晋三・山田賢司・高市早苗・下村博文・山谷えり子・有村治子・古屋圭司・衛藤 晟一、そして稲田朋美だ。稲田の名は最後に出て来る。扱いも、高市や山谷に較べて遙かに小さい。
稲田に関する主要な記事を抜粋してみよう。
「一方で在持会関係者が直接、自民党国会議員ににカネをバラ撒いているケースもある。稲田政調会長の資金管理団体『ともみ組』10〜12年、在特会で顧問に近いポジションにいる有力会員M氏ら、在特会幹部とともに活動している8人から計21万2000円の寄付を受けた。稲田氏の事務所は『稲田の政治理念と活動に賛同してくださる個人を対象に、広く浅く浄財を頂いている。事務手続きに必要な事項、法令で定められた事項、政治資金収支報告書に記載された事項以外の情報は確認していない』というが、在特会との近い距離が際立つ。稲田氏といえば、高市総務相とともにネオナチ団体の代表と撮影したツーショット写真が流出し、2人とも『相手の素性や思想は知らなかった』と弁明した。」
この記事にクレームがつけられて、今年の2月13日提訴となっていたことは、4月17日毎日夕刊の記事が出るまで知らなかった。それにしても、疑問が湧いてくる。なぜ、稲田だけが提訴したのだろうか。他の安倍・高市・下村・山谷らは、なぜダンマリなのだろう。
資金管理団体『ともみ組』の政治資金報告書は誰でもネットで閲覧可能である(下記URL参照)が、サンデー毎日記者は、事前に稲田の事務所を取材している。そのコメントも丁寧に記事にしている。手続的に問題はない。
http://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/seijishikin/reports/SS2020131129.html
毎日新聞の記事による限りだが、原告稲田側は「在特会との近い距離が際立つ」とする記事が怪しからん、ということのようだ。「寄付を受けることは寄付者の信条に共鳴していることを意味しない」にもかかわらず、同記事によって『在特会を支持していると読者に受け取られ、(稲田氏の)社会的評価を低下させた」との主張のようだ。稲田も、在特会と近しいとされることは迷惑なのだ。せっかく「稲田の政治信条と活動に共鳴して政治資金を寄付した」在特会側は、この稲田事務所の連れない言辞をどう受け止めるだろうか。
朝日の報道はやや異なる。
「『在日特権を許さない市民の会』(在特会)と近い関係にあるかのような記事で名誉を傷つけられたとして、稲田朋美・自民党政調会長(56)が週刊誌『サンデー毎日』の発行元だった毎日新聞社に慰謝料など550万円の損害賠償と判決が確定した場合の判決文の掲載を求め、大阪地裁に提訴した。」
「稲田氏側は、在特会の会員と確認できるのは8人のうち1人だけと主張。さらに『寄付を受けることは、必ずしも寄付者の思想信条に共鳴していることを意味しない』と訴えた。」
稲田の提訴目的は、いつまでも「在特会と近い関係」と言われることを嫌っての縁切り宣言にあったのかも知れない。それでも、「寄付を受けることは、必ずしも寄付者の思想信条に共鳴していることを意味しない」は、記事を批判し得ていない。サンデー毎日の記事は、「在特会との近い距離が際立つ」というものである。寄付を受ける者と寄付者との関係を「距離が近い」と言って少しも不都合なところはない。これは典型的な記事の「意見・論評」の部分である。意見・論評には幅の大きな表現の自由が保障される。これでは稲田側の主張が裁判所で認められる余地はない。
「在特会の会員と確認できるのは8人のうち1人だけ」との稲田側の主張の真偽は第三者には分からない。しかし、サンデー毎日の記事は、「在特会で顧問に近いポジションにいる有力会員M氏ら、在特会幹部とともに活動している8人」となっている。「8人がすべて在特会の会員」と言ってはいない。立証のハードルはきわめて低い。
摘示された事実には真実性が求められるが、「主要な点において真実であればよい」ので、必ずしも完璧な立証が求められるわけではない。また、真実であると信じたことに相当な根拠があれば毎日側の過失は否定される。こうして、表現の自由は保護され、国民の知る権利が保障される。
どう見ても、稲田側の勝訴の見込みはあり得ないが、「自分を批判すると面倒だぞ」とメディアを萎縮させる効果は計算しての提訴ではあろう。それゆえのスラップ訴訟である。
私は、DHC・吉田に対してだけでなく、社会に「スラップ訴訟は許されない」と発言し続けている。是非、毎日も同じように声を揃えていただきたい。
(2015年4月20日)