澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

浜の一揆控訴審人証採用はせず。

平成30年(行コ)第12号 サケ刺網漁不許可取消請求等控訴事件

控訴人の進行意見

                                                      2019年7月19日

仙台高等裁判所第1民事部 御中

控訴人ら訴訟代理人 弁護士    澤  藤  大  河

 本件の進行について、口頭で意見を申し上げます。
まずは、結論を申し上げますと、控訴人らが本年5月24日付で申請した、証人の二平章さん、控訴人本人のKTさん、このお二人の人証を本日採用決定いただきたい。
その上で、次回をその両名の尋問期日とし、次々回に最終準備書面を陳述しての結審という日程の設定を希望いたします。このようなスケジュールにしていただければ、最終準備書面には、2018年漁業センサスの結果を引用して、控訴人としての主張を完結することが可能です。
なお、もし貴裁判所が主張整理の必要があるとお考えなら、あるいは各当事者に求釈明がおありなら、弁論期日間に進行協議の機会を持つことに異論はありません。

各人証採用の必要については、既に被控訴人の否定意見に反論する形で、7月16日付の書面で詳細に述べているとおりですので、ここでは概括的に意見を申しあげます。

本件の進行を振り返って見ますと、原審においては、長く原審被告岩手県が訴の不適法にこだわり、主として本案前の抗弁としての主張の展開に固執したため、本案における当事者の主張の応酬が必ずしも十分とは言い難く、また噛み合わない憾みを残したままに結審に至った経緯があります。
控訴審においては、これまで貴裁判所が進行協議を積極的に活用されて、両当事者に十分な主張と反論を促してきました。その訴訟指揮のよろしきを得て、ようやくにして、各当事者の主張が明確となり、幾つかの新たな論点も整理されて噛み合った形が整い、その論点に沿った形で、控訴人は最小限に絞った人証の申請をしたのです。ところが、その時点で裁判体が交代して、訴訟進行の継続性が途切れた感を否めません。貴裁判所が被控訴人の側に人証の採否についての意見を書面で求め控訴人がこれに反論したというのが、れまでの経緯です。

本来6月末までにいただけるはずの被控訴人意見書を7月10日に受領いたしました。内容を一読して驚きました。被控訴人の、控訴人らに対する敵意を隠そうともしない姿勢についてです。岩手県知事ともあろう公益的立場にある者が、どうしてこれほどにも、余裕のない非寛容な態度となるのか。どうしてこれほどにも、県民である控訴人ら漁民の主張と立証活動を嫌うのか。人証申請対象の控訴人を威嚇し、証言を萎縮させようとするのか。明らかに、過剰に権力的な被控訴人の姿勢といわざるを得ません。当事者対等の訴訟の場においてなおこの姿勢です。岩手県水産行政の零細漁民に対する姿勢の苛烈さを彷彿とさせるものと指摘せざるを得ません。

控訴審では、本件固定式刺し網漁の不許可処分の理由をめぐって、漁業法および岩手県漁業調整規則にいう「漁業調整」のあり方が争われています。
具体的には、そもそも漁業調整という理念とはどういうものなのか。戦後漁業法が、法の目的として掲げた「民主化」とは何を指すのか。そして、本件漁業調整にどう関わるのか。また、公益性を有する漁協が自営定置網漁を行っているのだから、「定置のサケ漁獲に影響を与える組合員の固定式刺し網漁は、禁止して当然」と本当に言えるのか。これが、水協法4条の漁協の目的に照らしての問題です。
 さらに、サケの人工増殖事業が主として漁協によって、また公費を投入して行われていることが、控訴人ら漁民に、サケ採捕を禁じる理由になり得るのか。また、貴裁判所が提示された、「サケ延縄漁許可は、刺し網漁許可の代替性を持っているのか」という新たな論点もあります。これに加えて、各員年間10トンを上限とするという固定式刺し網漁許可の実効性・合理性の有無。そして、三陸沿岸の漁業衰退の中で、固定式刺し網漁許可はどのようなインパクトを持ちうるか。

このような論点の全般について、社会科学者として、また水産行政の実務担当の経験もある二平章氏の証言は必須です。主張はしたが立証はさせないという訴訟指揮はあり得ません。二平証言は、甲29の意見書を敷衍する内容になるはずです。加えて、近時の国連における重要テーマとして、零細漁民の営業と生活、その基盤としての漁村というコミュニティを護ろうという大きな流れがあること、これが各国が共有すべき国際的な公序となっていることについても、二平氏ならではの証言を聞いていただきたいのです。

また、控訴人本人KTさんには、小型船舶漁業者としての実体験から、これまでの県の漁業行政の実態を語っていただきます。定置網漁業者のサケ漁独占と零細漁民のサケ漁からの排除が、いかに不合理で、サケ漁の許可を求める切実さについて、耳を傾けていただきたいのです。また、漁業行政や漁協の運営について予定されている民主的手続の形骸化の実態は、漁業調整のあり方が強者の欲しいままとなっていることを示唆するものとして、重大事だと思料されるものです。

 控訴人ら漁民は、長く浜の有力者や行政と対峙して絶望感を抱いて、今、裁判所の公正を信じて、その判断に希望を見出そうと期待しています。この期待を裏切ることなく、漁民らの切実で真摯な声を十分に聞いていただくよう、切望いたします。

**************************************************************************

この意見陳述の後、裁判所は「合議します」と休廷して、再開後の法廷で、人証不採用とした。抗議はし異議を申し立てたが、覆らない。裁判長に理由を問い質すと、「既に両名の意見書陳述書が提出され、被控訴人側では反対尋問の必要がないと言っておられますから」「もし、補充の陳述内容があれば、次回までに書面での提出を」という。

裁判長交代で、法廷の空気は変わってしまった。残念だが、次回は12月。最終準備書面提出となった。

閉廷後の報告集会は盛り上がった。県側の書面の酷さに怒り心頭のところに、裁判所の態度が火に油だった。みんな喋らないではおられないと、意気盛ん。証人採用しないのなら、それに代わる証拠を積み上げようとやる気十分。なるほど、これは「浜の一揆」のボルテージだ。

そして、話題は漁業法改正や規制改革委員会の姿勢。「こんな事態でまだ、自民党の選挙やってるのが漁協の幹部だ」という言葉が印象的だった。

(2019年7月19日・連続更新2300日)

全国の漁民の皆さん、安倍自民党に票を投ずることは、自分の首を絞めることですぞ。

またまた、法と民主主義」6月号《特集・アベノミクス崩壊と国民生活のお薦めである。本日は、アベノミクスと漁業… 加瀬和俊」論文のご紹介。

「特集にあたって」と標題するリードでは、南典男編集委員が、加瀬論文をこう要約して紹介記事を書いている。

 「加瀬和俊氏(帝京大学教授)は、安倍内閣による漁業・農業の『成長産業化』方針の下で、漁業法が大幅に改変され、企業的経営体が優良漁場を優先的に確保し、免許された海面を私有地のように排他的に占有し続ける仕組みが作られ、
①小規模漁業者を排除し、
②都道府県行政を国の付属物とみなし、
③現場の実情を軽視している
と指摘している。
アベノミクスによって、漁業のみならず地域経済全体が壊されようとしている。」

加瀬さんは、長く東大社研の助教授・教授だった方。専門は、日本近代経済史(雇用・失業問題、農漁業問題)だという。今次の漁業法改正問題では、その新自由主義的本質を追及して、政府に果敢な論戦の先頭に立った。

アベノミクスとは何か、どんな特徴をもっているのか、4頁の論文によく表れている。さらに、そもそも経済とはあるいは経済政策とは、いったい何を目指すものなのかが、鋭く問われているとも思う。いったい、今の政権は、何を大義として、誰のためにどのような経済社会を作ろうとしているのだろうか。そのような問題意識が、この論文の最後の次のまとめの一文に鮮明である。

 以上のように、今回の漁業法の改訂の経緯には、資本力を有する企業的経営に最大限の便宜を図り、それが当該産業内の大多数の経営体にマイナスに作用するものであっても、それこそが「成長産業化」なのだという思い込みと、それを強権的な方法で実現するという手法とが鮮明に表れており、アベノミクスの典型例とみなすことができる。

 アベノミクスが推進するものは、「資本力を有する企業的経営に最大限の便宜」を実現することである。そのことによって、「当該産業内の大多数の経営体へのマイナスの作用」が強行される。大義は、「成長産業化」である。

もう少し砕いて端的に言えば、こういうことだ。
今のまま零細漁民に小規模な漁業をやらせていたのでは、漁業はいつまでも成長産業にはならない。今の零細漁民保護制度を抜本的に改変して、漁業界外部からの大資本を呼び寄せて漁業を企業的経営の対象とすることが肝要なのだ。そのための、最大限の企業誘致策を講じることが喫緊の課題で、零細漁民の切り捨て強行もやむを得ない。

具体的な内容は、およそ以下のとおりである。

新制度の意図するところは在来型の各種の管理方式を撤廃して漁船規模を大型化し、操業を自由に行いたいという企業の主張を受け入れていることにほかならない。

今回の漁業法「改正」は、「規制改革推進会議等の官邸主導の諸会合で水産政策審議会等にはかることもなく、仲間内だけで作った方針の提示を通じて、一気苛成に漁業法の全面改訂(2018年12月成立)に至った」のである。

 漁業法はその章別編成を含めて全文改訂といって良い大幅な変更がなされた。
 その特徴の第1は、法律の目的から「漁村の民主化」(旧法第1条)を削除し、法全体をそれに対応させて改変した。
 第2は、家族経営は遅れた存在であり、「成長産業化」のためには企業経営の優遇とともに、家族経営を企業的レベルに引き上げる必要があり、そのレベルに到達した者だけが存続する資格があるという発想」である。(以下略)

私は思う。いま、アベノミクスが強行しようとしている漁業政策は、漁民と漁村を根こそぎ破壊しようとするものなのだ。アベノミクス推進派にとっては、現在の沿岸漁業とその保護政策は、資本の自由な操業にとっての障害物でしかない。
企業的漁業に桎梏となっている零細漁民による沿岸漁業を清算して、その後に大資本による企業的漁業が行われようとしている。これは、国際的潮流である「小規模農業者・小規模漁業者の重視」とは大きく異なる特異な経済政策に外ならない。

かつては、農漁村が、保守政治の金城湯池といわれた。今や、まったく、事情は異なるのだ。アベノミクスに、新自由主義に、生業とコミュニティを奪われようとしている農民・漁民は、反安倍の立場に立たざるを得ない。

 全国の漁民の皆さんに、警鐘を鳴らさねばならない。漁民が、安倍自民党に一票を投ずることは、おのれの首を絞めることなのだ。農業においても同様である。君、欺されて与党に票を投ずることなかれ。

**************************************************************************
「法と民主主義」(略称「法民」)は、日民協の活動の基幹となる月刊の法律雑誌です(2/3月号と8/9月号は合併号なので発行は年10回)。毎月、編集委員会を開き、全て会員の手で作っています。憲法、原発、司法、天皇制など、情勢に即応したテーマで、法理論と法律家運動の実践を結合した内容を発信し、法律家だけでなく、広くジャーナリストや市民の方々からもご好評をいただいています。定期購読も、1冊からのご購入も可能です(1冊1000円)。

お申し込みは、下記のURLを開いて、所定のフォームに書き込みをお願いいたします。なお、2019年6月号は、通算539号になります。
https://www.jdla.jp/houmin/form.html
よろしくお願いします。
(2019年7月10日)

零細漁民に敵意を露わにする達増拓也岩手県知事よ、岩手県の水産行政は何ゆえにかくも無慈悲なのか。

三陸の沿岸漁民が、岩手県知事(達増拓也)を相手に起こした「サケ刺網漁不許可処分取消請求訴訟」。その控訴審が、そろそろ大詰めである。公平に見て、法廷の議論では漁民の側が圧倒的に優勢である。岩手県知事側の焦りからか、本日(5月31日)の法廷では、看過できない被控訴人準備書面の記述が問題となった。

裁判官が入廷して驚いた。3人の裁判官のうち、裁判長と左陪席が交替していた。明らかに、従前の訴訟の流れが途切れ法廷の雰囲気が変わった。年度末の交替ではなく、5月10日に新任裁判長の着任だという。

本日予定の各主張は、被控訴人(県知事)側第3準備書面と、控訴人(漁民)らの反論を述べた準備書面(6)。裁判長が、型どおりに「被控訴人、第3準備書面をしますか」と発言したのを、控訴人代理人が遮った。「まず、控訴人代理人の意見陳述をさせていただきたい。被控訴人第3準備書面の中には、陳述すべきでない記述がある。そのことについての意見も述べたい」。

以下が、控訴人ら代理人の弁護士澤藤大河が意見陳述である。

 控訴人ら代理人の澤藤大河から、以下の3点について、口頭で意見を申し上げます。
 第1点は、本日陳述の控訴人準備書面(6)の内容の要約です。
 第2点は、本件の進行についての意見。
 そして、第3点が被控訴人第3準備書面の一部主張についての削除の要請です。

第1点。この間の主張の応酬によって、本件の争点が明確になってまいりました。
本日陳述の控訴人準備書面(6)の主要な内容は、「水産業協同組合法4条の理解に関して」と表題したものですが、その論述が訴訟の全体像の中で占める位置をご理解ください。
控訴人らの本件サケ刺し網漁許可申請を不許可とする要件は、2点に限られます。
その第1が「漁業調整の必要」であり、
第2が「資源の保護培養の必要」です。
この2要件が積極的に認定されない限り、申請に対しては許可がなされなければなりません。
とりわけ、「漁業調整の必要」の有無こそが本件での最重要の争点です。つまりは、サケ漁の漁利の配分をめぐる利害の調整はいかにあるベきかということが問題なのです。具体的には、岩手県内82ケ統の大規模定置網漁業者と、控訴人ら小型漁船漁業者との間のサケ漁の漁獲配分をめぐる利害の調整を意味します。《巨額の資本を有する大規模漁法の経営者》と、《一艘の小型船舶だけで操業する零細漁民》の間の、サケ漁をめぐる経済的利益の配分についての利害の調整です。
現状は、大規模定置網漁業者がサケ漁の漁獲を独占しています。もちろん各定置網に漁獲量の制限などありません。これに対して、固定式刺し網漁希望の漁民は一匹のサケも獲ってはならないとされています。獲れば最高刑6月の懲役というのです。極端な不公平・不平等。一見明白といって差し支えない、この不合理な現状を変更して、新たな漁業秩序形成の調整が必要なのです。
問題は、この82ケ統の定置網中に漁協単独経営の定置網が46ケ統、漁協・個人共同経営のものが10ケ統あることです。漁協は公益性が高いから、他の個人や会社形態の定置網漁業者はともかく、漁協の自営定置についてだけは、その漁獲量を確保するために、漁民のサケ刺し網は禁止されてもやむを得ないのだろうか。そんな疑問に徹底して詳細に反論したのが、準備書面(6)の主たる内容です。
 結論から言えば、漁協の利益のために、漁民が要望するサケ刺し網漁の許可を禁止すべき正当性はまったくあり得ません。
 漁協とは漁民の漁業経営に直接奉仕するための存在です。その漁協が、漁民と競合する漁業を経営して組合員の漁業経営を圧迫する、あるいは漁民が希望する漁業を禁じて漁協が漁業を自営するなどの事態は、明らかに漁協設立の目的を逸脱するものです。水協法4条は、漁協の目的を「組合員のために直接の奉仕をすること」と定めています。水協法11条は、漁協が行うことができる事業を限定列挙していますが、もちろん、そのなかに漁業の自営ははいっていません。本来、漁協が漁民と競合する事業を行うことは想定されていないのです。仮に、漁民と漁協が、競合する漁業において利害衝突した場合には、譲るべきは漁協であって、漁民ではありません。漁民あっての漁協であって、漁協あっての漁民ではないからです。
結局、漁協の自営定置漁の漁獲に支障を生じるおそれがあることを理由に、「漁業調整の必要有り」としてサケ刺し網の申請を不許可にすることは、違法と言わざるを得ません。

☆第2点。進行についての意見です。控訴人としては、既に当審で控訴理由書と6通の準備書面を提出し、主張の応酬は一応完結したものと考えています。
現時点まで明確になった論点について、鑑定人的証人として二平章氏、そして控訴人本人の一人を人証として採用をお願いします。既に、各陳述書を提出済みです。証拠調べ後に、最終準備書面を提出して結審とする進行を考えています。
なお、前回、裁判所から控訴人らに、主張補充の必要性の有無について意見を求められていた、岩手沿岸漁民が置かれている経済事情や、漁業の実態についての最新事情については、2018年漁業センサスが現在集計中です。その「概数値」発表は本年8月末、「確定値」については12月末と予定されています。おそらく最終準備書面作成時には、その成果を援用しての主張が可能かと思いますが、主張補充のために、特に漁業センサスの発表を待つ必要はないものと考えています。

☆第3点。被控訴人第3準備書面の不適切な一部主張について、被控訴人に当該部分の削除を求め、裁判所には、被控訴人に対する削除の勧告を要請いたします。
被控訴人は、第3準備書面の「第3・6項」において恐るべきことを述べています。
 控訴人らの内の、かつてサケの混獲を認めた時代があったと陳述した者を指して、「このような者は遵法精神を欠き『漁業に関する法令を遵守する精神を著しく欠く者(岩手県漁業調整規則24条)』にあたるので、サケ刺網規制の当否以前の問題として、固定式刺網漁業の許可はできない(同規則23条)というべきである。」というのです。これは、「サケ刺網の許可を与えない」というだけでなく、サケを除いては現在許可されている「固定式刺し網漁の許可もしない」、「許可の取り消し」もありうるという威嚇であり恫喝にほかなりません。
 もちろん、県であろうと知事であろうと、あるいは国であろうとも、法廷では一当事者に過ぎませんから、岩手県知事が法廷で精一杯その主張を尽くすこと自体になんの異議もありません。しかし、被控訴人は公権力の担い手でもあります。訴訟上の攻撃防御の必要を超えて、相手方当事者にその権限を笠に着た不利益の予告は、明らかに節度を超えた公権力の作用としての威嚇であり恫喝と指摘せざるを得ません。
 漁業で生計を立てている漁民にとって、知事は許可漁業における許可・不許可権者ですから、その限りでは生殺与奪の権を握っている権力者と言って過言ではありません。その知事が、特定の控訴人の名を具体的に挙げて、控訴人らの生計を支えている漁業について、「許可を与えない」「許可を取り消す」と言っているのです。しかもこれは、訴訟上の攻撃防御になんの必要もありません。無意味、かつ有害な主張なのです。その言動の重大性を知事は認識しければなりません。
 これは、漁民の切実なサケ刺し網漁許可を求める運動への萎縮を狙った、岩手県政の恫喝として到底看過し得ません。県民に対する福祉を増進すべき立場にある県知事が述べるべき言葉ではありません。
 被控訴人第3準備書面「第3・6項」(9頁)の、末尾9行の記述を削除されるよう強く求めます。

**************************************************************************
被控訴人第3準備書面「第3・6項」の全文が次のとおり。

6 控訴人は「事実上容認されていた刺網による混獲が、1990年頃(平成2年)から厳しく規制されるようになった」とか、「それまで容認されていた混獲が突然厳しく規制されることになった」などと主張するが(第5準備書面21頁)、事実に反する。刺網によるサケの採捕については、原審で詳細に説明したとおり(乙9等)、本県ではサケ刺網漁業を許可したことはなく、「事実上容認した」とか「混獲を容認した」ことも全くない。控訴人は、「1990年頃(平成2年)から厳しく規制されるようになった」と述べるが。正しい事実は、平成2年に気仙地区の漁船漁業者が県の規制に違反し、それ以前から禁止されていた「刺網でのサケ漁獲」を(混獲名目で)行い水揚げを強行する事件が発生したため、刺網漁業自体の操業を一定期間禁止し、漁具を規制する等の措置をとったというものである(乙9・4頁)。控訴人A(原文は実名)によれば、平成2年の事件以前から刺網にかかったサケを市場に運ぷ際白トラックを抑えられた(販売したくてもできなかった)ことがあったとか、一斉水揚げの10年ぐらい前、1980年代初頤から問題が起きていた(検挙等を受けることがあったと述べていると解される)、混獲で水揚げしたものが検挙される例が相次ぎ、流通・販売段階での規制が日増しに強くなっていた、などと述べており(甲16・9頁)、それらに照らしても、控訴人ら(の多く)は、平成2年以前から固定式刺網漁業ではサケを採捕してはならない(許可の制限又は条件となっている)ことを認識していた(その上で当時から当該規制に不満を持っていた)ことが窺える。
控訴人Bも「規制がそれほど厳しくなかった時期の前例からすれば、サケ刺網を実施できれば、それだけで年収800万円ぐらいが期待できる」と述べており(甲17・4頁)、過去に(混獲名目で)刺網によりサケを採捕して多額の収入を得ていた(者がいた)ことを認めている。
 このような控訴人らの陳述と上記の「平成2年以前は容認されていた」との主張を併せて考えれば、当時から操業していた控訴人らの中には、規制があることを知りながら、摘発が厳しくないことなどに藉口して「事実上容認されている」との勝手な認識を抱き刺網でサヶを採捕(混獲を含め)し水揚げをしていた者がいることが窺われる。このような者は遵法精神を欠き「漁業に関する法令を遵守する精神を著しく欠く者(岩手県漁業調整規則24条)」にあたるので、サケ刺網規制の当否以前の問題として、固定式刺網漁業の許可はできない(同規則23条)というべきである。

上記の末尾(赤字イタリック)が、削除を求める部分である。
私は、被控訴人代理人は削除要求に同意するだろうと思っていた。訴訟の場でこんなことを言ってなんの得にもならない。しかも、これは岩手県知事の言としてあるべきものではない。明らかに、知事の政治的な責任が論じられるべき内容なのだ。漁民の切実な要求に「事情があって応じられない」というのならともかく、居丈高に運動参加の漁民を敵視して、「漁業に関する法令を遵守する精神を著しく欠く者」と決めつけたのだ。述べる必要のない余計なこと、「(現状では許可されている、サケ以外の)固定式刺網漁業の許可さえできない」を言って挑発したのだ。

ところが、県の代理人弁護士は「削除の意思はありません。陳述します」と言ってしまった。控訴人代人両名こもごもの申し入れにも拘わらず、積極的に削除勧告をしようとしない裁判所の姿勢に意を得たごとくに、である。漁民としては、知事の責任を追及する覚悟を固めなければならない。知事も責任を覚悟しなければならない。

達増拓也岩手県知事に問いたい。
県の方針に異議を申し立てる者は県政の敵なのか。
零細漁民の切実な要求に、何故かくまでに耳を塞ごうというのか。
漁民の生計防衛の自主的な運動をかくまで敵視するのは、いったいいかなる理由に基づくものなのか。
岩手県政には、漁民に寄り添おうという姿勢はないのか。零細漁民は県民とは思っていないのか。

30年前のことを持ち出して、「遵法精神なき者」と本当に考えているのか。
「固定式刺網漁業の許可さえできない」は、県の方針なのか。
県民の支持を得て知事の座にある者が、どうしてかくも県民に無慈悲な言葉を発せられるのか。
きちんと回答されたい。
(2019年5月31日)

「浜の一揆」訴訟、仙台の法廷で。

2019年2月12日

平成30年(行コ)第12号 サケ刺網漁不許可取消請求等控訴事件

 意 見 陳 述 要 旨

仙台高等裁判所第1民事部 御中

控訴人ら訴訟代理人弁護士  澤  藤  大  河

 本日陳述の準備書面(3) (4) 及び(5)の3通は、いずれも本件の主たる争点であるサケ刺網漁不許可要件としての「漁業調整の必要」の有無に関して、被控訴人への反論を行うものです。この間の、被控訴人との論争を通じて、本件の法的主張の枠組みと主要な争点が明確になってきたものと考えます。
以下に、4点の主要な争点に限って、要約して口頭で意見を陳述いたします。

☆ まず、漁業法の目的規定である第1条「漁業の民主化」をめぐる論点です。
控訴人らは、漁業法第1条を、あるべき漁業秩序の理念の表現と主張してきました。
これに対して、被控訴人は「漁業の民主化」とは手続的原則に過ぎない、と反論しています。しかし、「民主化」の理念が、形式的手続に留まるものであるはずはありません。「漁業の民主化」を形式的手続的理念のみに押し込めてしまえば、「民主化」は目的理念を喪失した無内容なものとなってしまいます。
漁業法の制定は、戦後の経済民主化の一環として、農地改革とならぶものです。農業における「経済民主化」は、小作人に一定の土地を与えることで、独立農業経営主体を作り出すことを主眼としたものでした。「漁業における民主化」とは、漁民に海面の一区画を付与することに代えて、適切な漁業調整を通じて、独立漁業経営主体の形成を可能とすることにあります。ですから、漁業調整とは、単なる手続的概念ではありません。被控訴人は、「民主化とは、構成員が一人一票など対等な立場で漁業調整機構の運営に参加することの手続的保障」だと言いますが、それでは不十分なのです。実体的に零細漁民の生計の維持が可能となるよう調整の目的をもたねばなりません。本件では、漁業法が定める「民主化」という目的に照らして漁業調整が行われたか、そのことが鋭く問われているのです。

☆ 次いで水協法4条の問題です。最初に、この論争の局面を確認しておきます。
本件における漁業調整は、いったい誰と誰との漁業利害を調整しているのでしようか。「控訴人ら漁民と漁協」の調整ではありません。飽くまで、「控訴人ら漁民と定置網漁業者」との間の調整なのです。乙15によれば、岩手沿岸の定置網は82ケ統を数えます。そのうち漁協経営のものが漁協と個人との共同経営を含めて56ケ統、およそ3分の2に過ぎません。残りの26ケ統、3分の1は漁協の関わりのない定置網事業者なのです。
控訴人ら漁民が、漁協との関わりのない定置網事業者、しかもサケの孵化放流事業とも無縁なこれらの定置網事業者との関係で、その事業者の利益を擁護するために、サケ刺し網漁を禁止とされる正当性はおよそ考えられないところです。
そのことを前提とした上で、控訴人ら全員が所属している漁協の定置網事業との競合の関係をどう考えるべきか。それが問題の局面です。控訴人らは、漁協に自営定置を止めろなどとは言っていません。漁協の定置網漁の漁獲に差し支えるから、組合員である原告ら漁民にはサケ刺し網漁は一切禁止という漁業調整のあり方は、本末転倒で違法だと言っているのです。
水協法4条は、「漁協とは組合員のために直接の奉仕をすることを目的とする存在」と定めています。本来、漁民と競合する事業を行うことは想定されていないのです。二平氏の意見書が指摘するとおり、「漁協が組合員構成員の漁業を直接侵害する場合には、自営事業を行うことは、法的な目的に反する」というほかありません。いかなる法人も、法の目的に反した行為はできません。仮に漁協が漁業を営むための法17条の手続要件が具備されたとしても、4条違反を治癒することはできないのです。結局、サケ固定式刺し網漁許可申請を不許可とにする理由として、漁協の定置網漁に支障を生じるという事情を挙げて、「漁業調整の必要有り」として不許可にすることは違法と言わざるを得ません。
なお、被控訴人は、関連して「県内の定置漁業者は公的資金投入を受けた孵化放流事業の担い手でもあり、投下資本回収の必要がある」と言っています。「県内の定置漁業者が公的資金投入を受けた孵化放流事業の担い手」というのは明らかな間違いですが、孵化放流事業者がサケを優先的に漁獲する権利はありません。公的資金と賦課金とで経営されているのであれば、なおさらのことです。

☆ サケ延縄漁業が、刺し網漁の代替性を有するについては、詳細に述べたところです。被控訴人には、誠実に追加の資料を提出していただくよう求めます。
この論争で浮かびあがってきた論点があります。どうして、行政は漁民に対して、非効率的な漁法は許可して、効率的な漁法は許可しないのか。漁獲上限がない延縄漁は許可して、10トンを上限とするサケ刺し網漁は許可できないのか、という疑問です。控訴人らは、いずれも年間最大漁獲高10トンを上限とする許可を申請していますから、効率がよいから、取り過ぎて資源枯渇をきたすという不許可の理由は成り立ちえません。
何よりも、行政が漁民に対して、あえて非効率な漁法を強制して、効率的な漁法を禁止することは、合理的な理由を欠くものとして、漁民の憲法上の職業選択の自由を侵害するものと言わざるを得ません。

☆ 最後に、漁協による自営定置の利益還元について述べます。
現在、被控訴人は直接的な還元があるとの主張ではなく、定置網事業の利潤が漁協の運営コストに充当されることで、組合員の負担を減らす間接的な還元がなされていると主張しています。しかし、この「間接的還元」論は倒錯した論理と言わざるを得ません。
漁業者の漁業経営を成り立たせることが最優先事項です。漁協は漁民の生活を成り立たせるためにのみ存在するのです。漁業者の収入から、漁協の会計を支えることがあるべき姿です。ところが、サケ漁を漁民から取りあげ、漁協がサケを獲って、漁協のコストを差し引いたものが、間接的に還元されている、という「論理」は、法の予定していないところで、倒錯と言わざるを得ないのです。
更に根本の問題は、漁協から組合員への「還元」の有無や内容ではなく、「還元」の前提となっている、組合員のサケ漁の権利を剥奪して、漁協が独占している構造の正当性の問題です。なぜ、小型漁船漁業者の自らサケを採る権利を奪うことができるのかということなのです。控訴人らの主張は、これを正常に復して、サケ漁の利益を組合員の手に取り戻そうというものです。しかも、全部の収益を組合から取り戻そうというのではなく、年間10トンの漁獲に限ってのささやかな要求であることを、ご理解ください。

☆ なお、本件許可申請を不許可とする事由として、漁業調整の必要」と並んで、「サケ資源の維持培養の必要」があります。この点については、控訴人としては基本的には原審での井田齊氏の意見書と証言で立証は十分と考えていることを申し添えます。

(2019年2月12日)

漁業法大改悪の日に ― 「浜の一揆」訴訟第3回法廷

本日、浜の一揆訴訟第3回法廷。仙台高裁401号室での本日の弁論テーマは、「漁業の民主化」や「漁業調整のあり方」、あるいは「漁協の組合員に対する責務」などという抽象的なものではない。非常に具体的な、「延縄漁」と「刺し網漁」の比較の問題。

三陸沿岸の漁民は、サケ漁を禁止されているが、釣り針にエサを付けた延縄漁でならサケを獲ってよいことになっている。それなら、延縄で漁をすればよいじゃないか。刺し網漁の許可は必要ないことにならないか。そのような観点からの「延縄」と「刺し網」の比較。

下記が法廷での代理人陳述要旨。その後の進行協議の場では、「延縄」と「刺し網」の実物を持ち込んで、原告漁師が裁判官に雄弁に説明をした。裁判官諸氏は、興味深そうによく話しを聞いてくれた。これだけのことで、原告たちの裁判所に対する信頼感が醸成される。

その後、仙台弁護士会の会議室を借りて2時間余。具体的な話題になると、原告らの発言が実に活発になる。「延縄」はコストに見合った漁獲を見込めず経済的にペイしないことが縷々語られた。「なぜ、一部のものにせよ、延縄での出漁をする者がいるのか」という問に、いくつもの答が返ってきた。

「数値を見ればバカげた漁のように見えるが、それは結果論」「出漁するときは、今日こそは大漁になるかも知れないと思うのが漁師なんだ」「他の漁師はダメでも、自分だけはうまく行くと考える」「漁師は博打打ちみたいなもので、一山当てたいのさ」「当たれば、うんと獲れることもある」「過去の栄光の経験が忘れられない」「過去の夢もあり、将来の夢も見るのが漁師」「その時期、ほかの漁ができないからやらざるを得ない」「おれは、延縄なんかやらない」「いまごろ、延縄やっている者の気が知れない」「どうしても刺し網でなくてはダメだ」

出漁日数がどうなるか、どんなに家族労働に頼っているか、油代が幾らかかるか、魚価がどうなるか、水揚げに対して各種付加金がどうなるか…。話は尽きない。

そして、他の漁師の寄り合いと違うのは、漁業法改正問題の国会審議が話題になること。「県漁連会長が、おれは個人的には賛成だと」「なんでだ。県漁連会長が漁協潰しになぜ賛成する」「反対してもダメだ。いずれ企業参入の流れができている、っていうことらしい」「企業を入れて、その売り上げから漁連が口銭を取れると思っているんじゃないのか」「漁協の頭越しに、知事から企業に許可が行くのだから、漁連は口銭取れないだろう」「すっかり欺されているんじゃないのか」「全漁連の会長もおんなじだ」「漁協の将来はどうなるだろう」

これからの漁業はどうなる? 漁業者の誰もが不安を持つ漁業法大改悪が、今日にも国会で成立しそうである。

**************************************************************************

意 見 陳 述 要 旨

仙台高等裁判所第1民事部 御中

控訴人ら訴訟代理人弁護士  澤 藤 大 河

※本日陳述の準備書面(2)は、裁判所から求釈明のありました「延縄漁と刺し網漁の比較」について回答するものです。
おそらく、裁判所はこうお考えなのでしょう。
「控訴人らは、サケ刺し網漁の許可を求めているが、必ずしも刺し網ではなく、延縄でもサケはとれるのではないか。延縄でのサケ漁の許可が取れるのなら、刺し網許可の必要性は低いのではないか」。「岩手県漁業調整規則3条1項にいう、漁業許可申請に対する不許可要件としての『漁業調整の必要』の有無を判断するに際しては、延縄が許可される方針だということも考慮に入れる必要があるのではないか」。

※もし、「サケ延縄漁」が「サケ刺し網漁」に代わるものとして十分な内容をもつ漁法であるとすれば、特にサケ刺し網漁を許可する必要性は希薄となります。しかし、それなら、控訴人ら漁民が、サケ刺し網漁の許可を求める必要もないことになります。
結論から言えば、両漁法に互換性も代替性もありません。サケ延縄漁が許可されることをもってサケ刺し網漁を不許可とする根拠とはなり得ないのです。
被控訴人岩手県の水産行政と県内大規模定置網業者とが、サケ刺し網漁を許可できないとしてきたのは、サケ刺し網漁が定置網漁と競合して、定置漁の漁獲量を減殺させるというものでした。この主張が、サケ延縄漁に向けられることはありません。サケ延縄漁は定置網漁の漁獲に影響を与えるほどの漁獲がありえないからです。控訴人らが求めているものは、収益性の低いサケ延縄漁ではなく、飽くまでも刺し網漁の許可なのです。

※延縄漁は「釣り漁法」の1種であり、刺し網漁は「網漁法」の1種です。
一般に、漁獲効率の比較において、「釣り漁法」は「網漁法」に劣ります。岩手沿岸におけるサケ延縄漁の効率はサケ刺し網漁の効率に数段劣ります。
それだけでなく、それぞれの漁を実施できる海域も時期も異なります。延縄漁は、海面付近で行う漁であって、海面付近での魚が餌に食いつかなくては成立しません。サケ延縄においても海面付近でサケが餌に食いつく活発さが必要であるところ、その活発さは海水の温度に依拠することが知られており、その海水温の適温はおよそ14度です。つまり、海面付近の海水温が    14度程度になっていなくては延縄漁を行うことはできません。
近年の地球温暖化の影響で、海面の温度は上昇しており、サケ漁の適期にサケ延縄漁が可能であるのは岩手県では県北部に限られています。県南部では「秋サケ」の適漁期に海面付近の水温が高すぎるため、延縄漁はできないのです。
もちろん、真冬ともなれば、県南でも海面水温は下がってきますが、そのころには、サケが沿岸で回遊する漁の適期は過ぎています。とりわけ、サケの人工増殖事業は、シーズン初期のサケの漁獲を重視し、その時期の採卵を繰り返してきたため、サケ回帰の早期化が進んでいます。このことは原審に提出した井田齊意見書に詳しく述べられていいます。
これに対して、固定式刺し網漁は、海底付近にサケがいれば実施することができます。 海底においてサケが好む水温となるような水深の場所を選ぶことによって、固定式刺し網漁は、より広範な水域で、延縄漁に比較して時期も長く実施できることになります。

※延縄漁は、1本の幹縄に多数の枝縄をつけ、枝縄の先端に付けられた一つ一つの針に餌をつけて魚を釣る漁法です。漁の準備には、針の一つ一つに餌をつけていく必要があります。サケ延縄漁の場合、体長7cm程度の鰯を餌として使用します。餌付けは出漁の前日などに漁師の家族総出で行います。この労働は漁家の家族労働として金銭対価なく行われてきました。一回の操業は、潮の変わり目の魚が活発な時間帯を狙って行われます。
潮の変わり目にサケの行動は活発になり、その時間帶はわずか20分程度です。この時間帯の見極めが肝要で、これを逃すと漁果皆無となります。
サケ漁の漁期は、10月中旬からから1月中旬までの約3ヶ月90日間程度です。そのうち気象条件と準備が整って出漁可能なのは半分程度、年間45日が標準的なものです。
巻き上げられた幹縄の約7割は再利用ができません。海流や潮の満ち引きで揉まれた延縄は、ひどく絡まるからです。特に、他の漁船が敷設した延縄と絡まると、切断するしかないこともあります。ひどい絡まりようになると、幹縄とナイロンテグスが絡まった団子状態になり、漁民の家の庭先に山となって積まれることになります。サケ延縄漁を行っている漁師の家族は、これを延々とほどき続けるのです。

※サケ延縄は、効率が悪く高コストで収益性が低く、その上苛酷で無償の家族労働なしでは成り立たない漁法です。経済的にはおよそペイしない漁法と言わざるを得ません。
準備書面に詳述していますが、サケ延縄漁を開始する場合、船を別として初期費用として560万円ほどが必要です。次年度以後は毎年400万円あまりの経費が必要となります。また、金額に見積もれない労働と労働の過酷さも考えなくてはなりません。
生産地におけるサケのキログラムあたりの単価は平均すると400円程度なので、年間3.4トンの水揚げを想定すれば、136万円程度の収入となります。しかし、合理的な試算では年間コストが387万円にもなります。到底経済的になりたつ漁業ではありません。

※刺し網漁の網の価格は標準的なもので76万円。巻き上げ機は120万円から200万円程度。船を別にすれば、初期費用は安ければ200万円程度で可能です。
また、刺し網漁は、サケ以外の魚種に広く行われている漁法であるため、現役の小型漁船漁師の多くは、既に刺し網を所有しています。現在、刺し網漁許可を有している漁師は当然刺し網を所有しているし、刺し網漁の許可を受けていなくとも、過去に刺し網漁をしていたり、廃業した仲間から譲り受けて、刺し網を所有している者は多いのです。
燃料費は、延縄漁の1/3程度です。長大な縄を投入するために走り回る必要がないからです。仮に10tの水揚げがあれば、400万円の収入を得ることができます。
操業コストの年間支出は43万5000円程度であり、300万円台の収入が見込めることになり、十分に経済的に成り立つ漁法となります。

※以上のとおり、サケ延縄漁の許可が可能とされていることを、サケ刺し網漁申請の不許可理由として考慮する合理性は皆無なのです。十分なご理解をいただきたいと思います。

(2018年12月7日)

「漁業栄えて漁民は亡ぶ」で良いのか― アベ政権の水産改革批判(その5)

私はテレビを観ないが、ラジオは聞く。いま、自ずと選局はTBSに落ちついている。朝は森本毅郎スタンバイ、夜はセッション22。いずれも、その姿勢や良しである。さすがと感嘆させられることも多い。しかし、いつも同感というわけにはいかない。

10月30日徴用工訴訟・韓国大法院判決を、森本毅郎が批判したのには驚いた。虐げられた無念の思いをようやく晴らした老齢の元徴用工に祝意を表すべきところ、虐げた側の日本政府や日本企業の立場に立っての判決批判。あらためて、この問題での日韓の意識の溝を認識させられた。

セッション22での荻上チキのインタビュー。いつもは感心してばかりだが、漁業法改正問題では大きな違和感をもった。世論をミスリードしたと言っても差し支えない。勝川俊雄(東京海洋大学准教授)を招いての解説では、法改正礼賛の論調。改革の方向は正しい。遅ればせながらも、この法改正でようやく世界の水準に近づくことができる、というもの。これまでこの研究者には比較的良いイメージを持っていただけに、落胆した。

その解説は、今回の改正のポイントを水産資源の持続可能性とした。彼は、現行の漁業法には、水産資源の「持続性」や「持続可能性」という語彙が全く存在しないことを、「驚くべきこと」として、ようやくこれを盛り込んだ法改正を肯定した。政権にとって有り難い学問であり学者というべきだろう。

荻上チキはこれに切り込まなかった。このあたり、「漁民の要求ではなくアベ政権が提出した法案だから、どうせ碌なものではない」「しかも規制改革推進会議が出所だ、財界の要請に決まっている」という感覚があって当然なのに鈍感。アベ政治への警戒感が希薄なのだ。

漁業法制定時、法に「持続性」の文言は確かになかった。しかし、法65条には、「主務大臣または都道府県知事は水産動植物の繁殖保護のため一定の事項に関して、省令または規則を定めることができる。」とあり、この規定が「水産資源枯渇防止法」、さらに現行の「水産資源保護法」に受け継がれている。今回の法改正のポイントは、資源の「持続性」や「持続可能性」ではない。それだけの法改正であれば、漁民の中からこんな反対運動が出てくるわけはないのだ。

今、ようやくメディアは、勝川流の欺瞞から脱して、今次漁業法改正のポイントを、「漁場の企業への開放」「企業の漁業参入の促進」ととらえるようになった。企業の漁場への参入は漁民にとっての生業の危機にほかならない。企業のチャンスは、漁民のピンチなのだ。

ネットに大きく、西日本新聞の記事が紹介されている。漁業権を企業に開放、70年ぶり大改正案」「臨時国会の焦点に浮上」「漁業者は反発」という見出し。一昨日(11月26日)の配信。九州のブロック紙は、有明海の漁業に関心をもたざるを得ない。各地方紙とも、それぞれに事情は同じだ。

漁業への企業参入を促す漁業法改正案が、入管難民法改正案と並ぶ臨時国会の焦点に浮上している。地元漁協に漁業権を優先付与する規定を廃止し、沿岸水域の利用を企業に「開放」するもので、成立すれば約70年ぶりの大改正となる。だが「水産業の成長産業化に不可欠」と成立を急ぐ政府に漁業者は反発。野党も「沿岸漁業のあり方を根本から崩す法案だ」と批判を強める。

政府が想定するのは養殖業への企業参入だ。企業の投資でマグロ養殖などが大規模化すれば、水産業が成長産業になり、従事する漁業者が増え、所得も上がる-とシナリオを描く。

 漁協からは懸念の声が上がる。ノリ養殖が盛んな有明海では、色落ちなどを防ぐため、一部の漁場を使わないなど漁協が生産調整をしてきた。佐賀県有明海漁協の徳永重昭組合長は「漁業者が共同管理し、生産調整してきたが、新規参入企業が空いた区画で勝手に作られると困る」と話す。

法改正の目的の把握に関して、まことに正鵠を射た報道である。学者の解説よりも数段正確ではないか。さらに、同紙の記事はこうも続ける。

改革のもう一つの柱は資源管理の強化だ。魚種ごとに漁獲上限を定める漁獲可能量(TAC)制度は現在、サンマやクロマグロなど8魚種が対象だが、これを他の魚種にも広げる。漁船のトン数や隻数を制限してきた管理制度も、実効性を高めるため個別の漁船ごとに漁獲枠を割り当てる方式に改める。

この方式では、資金力のある企業が多数の漁船を確保し、漁獲枠が集約される恐れもある。小規模漁業者でつくる全国沿岸漁民連絡協議会の二平章事務局長は「大きな事業者を有利にする制度変更だ。小規模事業者が淘汰されかねない」と危ぶむ。

ここで、描かれているのは、「企業対漁民」「大規模事業者対小規模事業者」の対抗関係の構図である。

官邸(アベ政権)の考え方はこうだ。

大切なのは生産性の向上である。それが国民全体の利益となる。漁業の衰退とは漁業における生産性の低下ということだ。企業が漁民よりも、大規模事業者が小規模事業者よりも、効率的で生産性の高い漁業を行うことが可能なのだから、企業による漁業経営の道を開き、大規模事業者に存分に活躍してもらうことが国民全体に利益をもたらすことになる。これができていない現状は、既得権益擁護の岩盤規制があるからにほかならない。この岩盤規制にドリルで穴を開けて、企業あるいは大規模事業者を送り込むことが、漁業活性化の唯一の途であり、アベノミクスの普遍的目標でもある。企業に出番を与えることが、漁民の生業を奪うことになるかも知れないが、それは常に社会の進歩に伴う犠牲というべきで甘受してもらうしかない。

こんな法案、漁民・漁協が猛反対すべきが当然である。政府、与党は全国の漁民・漁協を敵にまわす覚悟での法案提出である。深い審議をされる事態になってはたいへんなのだ。メデイアの注目度が低いうちに無理にでも通してしまえ、という態度。臨時国会での成立を目指し、野党4党派は入管難民法と並ぶ対決法案と位置付けて、本格審議を求めている。

ようやくことの本質が見えてきた。政権が漁業を立て直すというのは、零細漁民によってではない。零細漁民を押しやって、企業あるいは大規模事業者の参入をさせようということなのだ。まさしく「ビジネスチャンス創設の漁業改革」であり、漁業栄えて漁民亡ぶ」「漁民なきあとの漁場に、企業こそ栄えよ」なのだ。本当にこれでよいのか。
(2018年11月28日)

**************************************************************************

ウソとごまかしの『安倍政治』総検証!

12月3日(月)18時~20時(開場17時30分)

衆議院第1議員会館 地下1階「大会議室」

最寄り駅は、丸ノ内線・「国会議事堂前」、または有楽町線・「永田町駅」です。
(集会にはどなたでもご参加いただけます。議員会館ロビーで、担当の者が入館証を配布していますので、お受け取りのうえ入館下さい。)

「企業のための海づくり」を許さない ― 「沿岸漁民緊急フォーラム」報告

一昨日(11月19日)、盛岡で「東北沿岸漁民緊急フォーラム」が開催された。東北各県から80名を越える参加者があって、盛況だったという。二平章さん(茨城大学客員研究員・北日本漁業経済学会/会長)からいただいたご報告を紹介したい。

プログラムは以下のとおり。
■開催趣旨説明 二平 章
■主催者挨拶 瀧澤英喜(全国沿岸漁民連絡協議会共同代表・大船渡)
■報告「漁民に知らせず成立ねらう改定漁業法案の驚くべき内容」
      長谷川 健二(福井県立大学名誉教授)
   「沿岸漁家・漁協経営を破綻に導く改定漁業法案に反対」
      濱本 俊策(香川海区漁業調整委員会会長)
■意見表明 赤間廣志(宮城県漁業調整委員会委員)
      菅野修一(岩手県漁業調整委員会委員)
      片山知史 (東北大学教授)
      綱島不二雄 (元 山形大学教授) そのほか参加者より

長谷川福井大学名誉教授、濱本香川県漁業調整委員会会長の講演で「改正」漁業法案の問題点を学習、綱島山形大学名誉教授、横山岩手大学教授、赤間宮城県調整委員会委員、管野岩手県調整委員会委員、鈴木千葉県調整委員会委員らから、漁業法「改正」に反対する立場から意見表明があり、活発な質疑が行われた。

なお、昨日(11月20日)の河北新報は、「漁業権見直しに異議 東北の漁師が緊急集会『漁業者に一切説明のない改定許せぬ』」と次のとおり報じている。

 企業などに漁業への新規参入を促す水産改革関連法案の閣議決定を受け、漁業法改定に反対する「東北沿岸漁民緊急フォーラム」が19日、盛岡市であった。全国沿岸漁民連絡協議会などが主催し、約70人が参加した。
 改定案は、地元漁協や漁業者を優先していた漁業権の割り当てを廃止する方針。長谷川健二福井県立大名誉教授(漁業経済学)は「漁協による漁場の利用調整が働かなくなり、混乱を招く。企業利益は地元に還元されない」と指摘した。
 各都道府県の海区漁業調整委員の選任を選挙から知事の任命に変更する政府案には、塩釜市の漁師で宮城海区の赤間広志委員が「漁業者が自分の意見を主張する機会を奪う」と反対を表明した。
 岩手海区の菅野修一委員は「海の資源は効率化を求める企業だけのものではない。漁業者に一切説明のない改定は許せない」と表明。全国海区漁業調整委員会連合会が「地方議会に改定反対の意見書を提出するよう働き掛けてほしい」と呼び掛けた。

下記は、このフォーラムに配布された、二平さんの報告資料。分かり易く、問題点を鋭く指摘している。少し長いが、貴重な資料として全文をご紹介しておきたい。

*****************************************************

東北沿岸漁民緊急フォーラム資料(2018・11・19)

「漁業法改悪と沿岸家族漁業」

二平 章(茨城大学客員研究員)

●はじめに  
安倍首相は2018年10月24日の臨時国会冒頭で「70年ぶりに漁業法を抜本的に改正し、
①漁獲量による資源管理を導入する。
②船のトン数規制をなくして大型化を可能とし漁業の生産性を高める。
③漁業権の付与は法律で優先順位を定めた現行制度を廃止し、養殖業への新規参入、規模拡大を促す。」との施政方針演説をしました。
続いて11月6日には「漁業法の一部を改正する等の法律案」(以下、改正漁業法案)を閣議決定し、国会に提出したのです。
規制緩和で企業活動を刺激することなどを柱とした成長戦略は2012年12月から始まった第2次安倍内閣が掲げた経済政策「アベノミクス」の3本の矢のうち、大胆な金融緩和、機動的な財政出動に続く政策でした。それに基づき、安倍首相は2013年の第183国会で施政方針演説し「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指し、聖域なき規制改革を進め、企業活動を妨げる障害を一つひとつ解消する」として「規制改革会議(座長:岡素之 住友商事相談役)」を設置しました。
規制改革会議は、翌年の2014年5月には農業分野において、
①農業委員会の等の見直し、
②農地を所有できる法人の見直し、
③農業協同組合の見直し
の3本を柱とする「農業改革に関する意見」を提言し、安倍内閣は企業参入の障壁になるとして農協法、農業委員会法、農地法を「改悪」しました。
さらに、規制改革会議を受け継ぎ2016年9月に発足した規制改革推進会議(座長:大田弘子 政策研究大学院大学教授)にも提言を出させ、安倍政権は2017年5月に「農業競争力強化支援法」など8法案を国会で可決・成立させたのです。
その主な目的は「生産、資材、流通、種子など食の安定供給を支えてきた制度の変更や収入保険の導入によって競争力のある一部の農業経営体に資源を集中させ、川上・川下部門における民間参入を促すもの」(植田2018)であり、また「自主・自立の農協組織に過剰介入して民間企業に農業・農村でのビジネスチャンスを拡大し農業には全く似合わない新自由主義の効率化と市場競争原理を農村社会に持ち込むもの」(松澤2017)でした。

●漁業権と漁協への攻撃
「農業改革」の名のもとに、農協組織を弱体化させ、農業への大企業の参入・支配力を強め、家族農業経営を破壊へと導く法案を次々と成立させていった安倍内閣は、次には漁業関連法の見直しに乗り出します。
規制改革推進会議は、2017年5月23日に「第一次答申」を発表し、「岩盤規制改革に徹底的に取り組み、ここで一気にアクセルを踏み込む」とし、「漁業改革」について答申は「漁業の成長産業化等の推進と水産資源の管理の充実」を掲げ、2017年に検討を開始し2018 年に結論を出し、結論を得次第速やかに措置するとしたのです。この第一次答申では直接漁業権問題には触れていませんが、答申直前の5月10日に開かれた規制改革推進農業ワーキンググループ(WG)会合では、水産庁に対して「沿岸の漁業権が漁協を通じて管理されていることについての見直し」についてヒヤリングをおこなっており、当初から規制改革推進会議の狙いは、漁業権の見直しにあったことは明瞭でした。
2017年の9月からは規制改革推進会議の中に「漁業改革」を専門的に議論するための水産WG(座長:野坂美穂 多摩大学経営情報学部専任講師)がつくられ、2018年5月までに17回の会合を重ねて、6月に最終答申を行っています。
この水産WGがスタートする直前の2017年7月27日には、安倍内閣の漁業改革への意向を公表する形で、行政改革推進本部行政改革レビューチーム水産庁特別班が、河野太郎行政改革推進本部長、平将明、中西健治、小林史明行政改革本部役員らの出席のもと横やりを入れる形で「区画漁業権の運用見直し」と題する提言をわざわざ記者発表しています。
その内容は、クロマグロ養殖業や真珠養殖業などの区画漁業権の運用について、「漁業法で定められた区画漁業権の優先順位などの参入ルールが漁業への新規参入の障壁となっている。(新規参入にあたっては)企業などが漁業協同組合の組合員となって参入せざるを得ない状況にある。養殖業への参入に際しては、養殖漁場の運用管理上で優位な立場にある漁業協同組合との交渉や調整などで、参入事業者は膨大な時間や労力を費やしている。こうした状況は、養殖業を営む漁業経営者の不必要なコスト増につながり、漁業の成長産業化などの政策推進の妨げになっている。意欲と能力のある者が漁業に円滑に参入できるよう参入ルールや養殖漁場の運用管理について見直しを検討すべき」としたのです。つまり、企業が活躍しやすい海面利用のためには、漁業権や漁業協同組合は企業活動を妨げる障害であり、その影響を排除することが安倍政権の行政改革推進であることを明確に述べたのです。
「農業改革」でなされた実績から見てもわかるように、漁業における「規制改革推進」=「水産改革」のねらいが、企業活動の妨げになる漁業協同組合の弱体化と公選制である漁業調整委員会の権限を縮小し、海面での大規模養殖や風力発電などの企業活動や諫早湾などの開発行政、辺野古などの軍事基地建設での海面埋め立てなど、これまで様々な開発事業の物理的・経済的障害となってきた「漁業権」をなくし、「企業資本が自由に海と資源を利用できる体制に作り変えること」にあることは明瞭といえます。
「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す」と公言し、農業や林業つぶしの悪法を次々と成立させてきた安倍政権が、最後の漁業分野で漁民から海を取り上げ「企業のための海づくり」を狙っていると言えるのです。

●「改正漁業法案」の問題点
改正漁業法案は、
第1に水産資源管理手法の見直し、
第2に許可漁業の見直し、
第3に漁業調整委員会制度の見直し
を主要な改革としています。
「法案」は「水産資源の保存および管理」を筆頭に掲げて、あたかも「水産資源の持続的な利用」をめざした法案であるかのような装いを凝らしていますが、その一番のねらいは、企業資本が自由に海面を利用し利潤追求の場にできる漁業権制度の見直しです。
漁業権には共同漁業権、定置漁業権、区画漁業権とよばれる3種類の漁業権があります。戦後民主化の動きの中、1949年にできた戦後漁業法では、地元に居住し、海で働く沿岸漁民に優先的に漁業権を与え、そのために地元漁民が加入する漁協を地元海面の漁業権の一括した受け手とし、漁協内の合議のもとに漁場の円満な利用をはかろうとしました。それは戦前の不在地主的企業免許制度下では、地元漁民は地元資源を利用することができずに、企業の利潤が都市に流出していった反省からつくられた制度でした(加瀬,2018)。
今回の改正漁業法案では、養殖のための区画漁業権を漁協を通さずに企業に直接免許したり、定置漁業権についても、申請が重複した場合これまでは漁協や地元漁民に優先的に与えられていた漁業権を知事の裁量で企業に直接免許することができるようになっています。まさに戦前の「不在地主的企業免許制度」に逆戻りの内容といってもよいものです。

**************************************************************************

●漁業権制度の歴史と現状
魚は海の中を自由に泳ぎ回り、漁民はそれを追って漁を営むことから、海面には農業のような排他的な個人所有の「農地」は存立しえません。江戸時代から小さな舟でヒラメを釣る、地引網でイワシを捕る、目の前の磯や浜でアワビやハマグリを捕るといった地先の海がその漁村の専有的な漁場とされ、地元漁民がルールをつくり共有で利用してきました。村と村の境界が地先漁場の境界でもありました。カツオなどの回遊魚が来遊する沖の漁場は少数の大きな舟しか行けず、広大な海なので各船の競合もなく調整も必要ではないことから、各漁村から自由に入り会える自由な漁場として利用されました。現在の漁場利用制度も、基本的にはこのような江戸時代からの「磯は地付、沖は入会(いりあい)」の制度が受け継がれてきていたのです。
地元漁村の漁業者が優先して地先の漁場を利用できる制度としてできた漁業権漁場制度ですが、距岸距離で漁場利用をながめると、日本漁船だけが利用でき、他国の漁船が操業できないのが排他的経済水域(EEZ)で、国連海洋法会議で決められています。これが200海里ラインといわれ岸から370kmで、200海里の外が公海となります。ちなみに日本の領海は12海里で22.2kmです。これに対して漁業権漁場は各地で若干の違いもありますが、おおよそ距岸3~5km以内で極めて狭い範囲に限定されています。

●漁業権の種類
先に述べたように漁業権には漁場の利用の仕方によって、共同漁業権、定置漁業権、区画漁業権があります。
共同漁業権は一定の水面を多数の漁業者が利用する漁業権で、アワビやサザエ、ハマグリやアサリ、ワカメやコンブ、フノリなど地域的な資源を守りながら一定地区の漁民が皆で漁業を営む権利です。一定漁場を多くの漁民で集団的に利用することから漁民の間で混乱が生じないよう利用上の規則をつくり、資源の増殖・管理のために漁場造成、種苗放流、密漁対策などを行っています。そのためにその地区の関係漁民全員が加入している地元漁業協同組合に対して知事が免許を与え、漁協が組合内協議の上で希望漁民に免許を与えています。 定置漁業権は、一定の水面で定置網などの漁具を設置して漁業を営む権利で、網の目合を変えてブリやマグロからサバ・イワシまでをねらう大型定置網および北海道ではサケ定置を営む権利で、経営者の申請に対して県知事が免許します。広い範囲の地先海面を長期間独占することから、その収益を地元漁村・漁民に還元させる趣旨から、商人よりは漁民、個人よりは団体、よそ者よりは地元人を優先する優先順位が現行漁業法には定められています。 区画漁業権は、海面にブリやタイ、最近ではクロマグロ育成用の大型生簀(いけす)や、カキやホタテをつるす筏(いかだ)を設置して、養殖業を営む権利です。養殖業では多数の漁民が内湾など限られた静穏な一定海面に入り会いながら集団的に利用することから、共同漁業権同様、漁場利用のためのルールづくりや漁業者間調整、監視や監督が必要となります。そのため、関係漁民全員が加入している地元漁業協同組合に対して知事が免許を与え、漁協が個人を決定しています。多数の組合員が免許申請することから、県では漁民一人ひとりのことも、漁場の条件も判断できないことから、漁民が全員加入している地元漁協内で協議のうえで養殖施設の台数や設置場所を組合員合意のもとで決定しているのです。ただし、企業などの個別経営であっても漁協の組合員となれば養殖業を営むことは可能で、現在も企業は地元に子会社をつくり、漁協組合員になって養殖業を行っています。

●クロマグロ養殖と企業
海面養殖業は多岐にわたりますが、大多数が小規模・家族経営の形態です。そこに近年、マルハニチロやニッスイ、双日などの大手企業資本が現地に子会社を設立し、漁協に加入してクロマグロ養殖業に参入してきています。「世界6位の排他的経済水域(EEZ)を有効に活用し持続可能で成長力ある漁業を実現する」と規制改革推進会議水産WGの審議事項(2018年9月20日)では「広い海」を喧伝しています。しかし、クロマグロ養殖漁場も、実は多数の沿岸漁民が漁業を営む内湾など狭い共同漁業権内の沿岸域なのです。混乱を起こさずに養殖業を行うためには、内湾域を利用する企業経営体も漁民もすべてが地元漁協に加入した上で、全組合員合意でその水面の有効利用と環境管理につとめることは至極当然のことといえるでしょう。
漁協では養殖漁場を利用する組合員からは個人であれ企業であれ、漁場使用料や市場出荷・販売した場合の販売手数料を徴収しています。これは漁協の運営経費にあてられます。漁場利用にあたっては組合内調整のための協議や漁場管理の労役義務も当然、漁協組合員としては義務となります。また、漁協は漁船登録などの行政代行業務や、種苗放流、漁場監視や海難事故対策などいろいろな公益的な役割も果たしています。まさに協同組織として地先の海の環境と地域漁業を守る役割を担っているのが漁協なのです。利潤追求の企業資本にとっては、漁業権免許を漁協からでなく知事から直接受けることにより、漁協から離脱して、漁協に対する費用負担や調整協議、労役負担をなくし、地元漁民や漁協に制約を受けることなく、企業本位に海面を自由に利用して利潤追求したいというのが本音でしょう。行政改革レビューチームの自民党議員からの提言内容もそのままです。

●企業資本優先の海づくり
沿岸漁場の中に地元漁協と無関係の直接経営者免許の企業養殖が出現すれば、どうなるでしょう。これまでは漁協内で組合員である養殖漁家が協議して海を汚染しないよう過剰な餌やりを防止したり、価格暴落を起こさないように養殖魚の数量調整を行ってきました。その漁場に漁協には所属しない経営者免許の企業養殖ができてきたら、彼らは漁協には無関係に企業の論理で養殖生産することができます。そうなれば漁協を中心とする沿岸の共有海面利用の秩序と体制が崩壊し、沿岸漁場には混乱と対立が生じるのは必然です。株主の利益を優先し、ともすると「今だけカネだけ自分だけ」となる企業論理では、利潤を最優先して共有漁場環境を荒廃させ、利潤がなくなればさっさと撤退して他へ資本を投下するのは、これまで各地で営まれた参入企業養殖の事例をみても明らかです。漁協に支払う各種負担金がいらないとなれば、個別養殖漁家からも直接経営者免許に切り替える経営体が出現し、漁協を中心とした地域の共同体制は壊され、無秩序な養殖生産から次第に小規模・家族経営の養殖漁家は駆逐され、地域漁協も組合員や収入が減少することから縮小していくことになります。地域資源から生み出される富が企業資本によって中央に流出する戦前の状況が生み出されることになり、地域自治体も一層衰退していくことは明らかです。
漁民と漁協の努力でブランドのブリやマダイ養殖業を成功させ豊かな漁村を築いてきている愛媛県うわうみ漁協の佐々木譲組合長も、今回の水産改革について「知れば知るほど正に漁業の成長を企業にゆだねるものであり、歴史的に連帯・協調・相互協力の精神を基本に漁業・漁村社会を守るため、浜の力を漁協に結集し、将来にわたって、その役割を果たすべき零細漁民の救済・成長とは逆に企業の成長を促進するものであり絶対に許せない改革だと思う」とし「協同漁業権区域内に経営者免許での企業参入で漁場行使すれば、生産のすべてにおいて調整不能となる。魚類養殖の免許は組合免許である現状を変更しないこと。共同漁業権内には企業参入を認めないこと」と提言する意見書をまとめています(2018年9月4日意見書)。
定置漁業権でもこれまで、地元漁民や漁協に優先的に免許された定置漁業権が、行政の裁量で企業的経営に直接免許されることになります。また、全国の漁業調整委員会の反対意見を無視して漁業調整委員会委員を公選制から知事の任命制に変更します。今回の漁業法改正は、養殖漁業権や定置漁業権における漁協の漁場管理や漁場調整の権限を無くし、漁業調整委員を任命制にして地方の行政機構にその責任を負わせ、企業資本に優先的に漁場利用権を与え、沿岸漁場を企業資本に明け渡す企業のための海づくりなのです。

●漁船の規模撤廃で強まる漁獲圧力
次に、漁船漁業の企業資本のために「規制緩和」をねらって盛り込まれたのが、大臣許可漁業・沖合漁業における「漁業許可制度の見直し」です。「漁船の数や船の大きさである総トン数規制をなくして船の大型化を可能とし漁業の生産性を高める」条項です。一般的に魚類資源に対する漁獲圧力は漁船の数や漁船の大きさに比例します。現代の漁獲行為は最新鋭の漁網漁撈装置、遠くの海中の魚群を探索できる高性能な魚群探索機器類を用いて行われます。漁船のトン数規模が多くなればより大きなエンジンを積み込み、より高度な魚群探索機器を導入して、魚群を探索する範囲と能力を高め、より大きな漁網を曳く力も強くなります。一隻あたりの漁獲効率が上昇するのは歴然です。漁獲効率をめぐって企業間では漁船装備の船間競争も激化します。高額な漁撈装置や探索機器類ですので導入コストも上昇するでしょう。国は漁獲可能量(TAC)制度を導入するので心配は要らないと言うのでしょうが、企業資本同士が競争する海の上の世界はそう単純にはいかないのが現実の世界です。海上では制限された漁獲量の元、低価格の小型魚は海上廃棄され高価格の魚だけを漁獲したり、資源豊富な沿岸漁場へ違法侵入することが起きてくるでしょう。漁獲効率を高める沖合漁業の出現で沿岸漁業・漁船との間で今以上に資源と漁場をめぐる軋轢が一層顕在化してくると思われます。
また、知事許可漁業・沿岸漁業にたいしても、「制限措置など、大臣許可漁業に関する所要の規定を準用する」となっています。知事許可漁業である県まき網漁業や底びき網漁業においても、トン数規定が外されていったならば、大臣許可船同様、漁獲効率の高い船が地域内漁場に出現し、沿岸資源に対する漁獲圧力は一層強まり、釣り漁業など小規模沿岸漁業は窮地に追い込まれていくことは必然です。現に、今でもM県では一本釣りの天然礁漁場に夜間、灯火で魚を集めて一網打尽に魚をまく、まき網船が出現、一夜にして小規模漁民の釣り漁場が消滅したり、まき網船が一度に多量に魚を水揚げすることから、小規模漁民が水揚げする魚の単価が下落したりする事例が生じて議会でも問題化しています。また、C県では内湾で操業していた県知事許可のまき網が漁船装備を高度化してそれまで操業できなかった外海漁場へ進出、深場のつり対象魚種を漁獲して、小規模つり漁民の操業を不安に落とし入れている事例もあります。漁船のトン数規模制限の廃止は漁船間競争を一層激化させ、小規模漁民が多数で利用していた海を、次第に資本力のある企業の船だけが独占する海につくりかえていくことにつながるでしょう。

●TACによる資源管理
海洋生物の資源管理手法には
①漁船隻数や漁船のトン数規模制限、操業期間の制限、漁船の馬力制限など漁獲圧力を入口で制限する投入量規制(インプットコントロール)、
②漁船設備や漁具の制限による技術的規制(テクニカルコントロール)、
③漁獲可能量(TAC)の設定による漁獲量を制限する漁獲量規制(アウトプットコントロール)の3つがあります。
日本では従来、①の投入量規制や②の技術的規制により漁業管理が行われてきました。③の漁獲量制限管理(TAC管理)は欧米で普及した方法で、魚種ごとに総漁獲可能量(TAC)を決めて、最大持続生産量(MSY)を直接実現しようという管理手法です。
MSY理論とは、ある資源水準に資源を維持しておけば、毎年、最大の漁獲量(MSY)が得られるという理論で、国連海洋法条約では加盟国に資源をMSY資源水準に維持し、MSYを達成することを奨励しています。日本では1996年に国連海洋法条約の批准を行い、TAC法(海洋生物資源の保存及び管理に関する法律)を成立させTAC制度の導入が始っています。 TACによる漁獲量規制はこれまで、サンマ、マアジ、サバ類、マイワシ、スルメイカ、スケトウダラ、ズワイガニの7種で行われていましたが、2018年からクロマグロが8番目の魚種として加わっています。
改正漁業法では、8割の漁獲量魚種にTAC管理を拡大し、魚種ごとの総漁獲可能量(TAC)を計算、個々の漁船へ漁獲量を割り当てる制度(IQ制度)にするとしています。
規制改革推進会議の議論のなかでは2017年9月の水産WGのスタートにあたり野坂美穂座長が「水産ワーキンググループにおける今期の主な審議事項」を示し、第1項の「漁業の成長産業に向けた水産資源管理の点検」において、「産出量規制や個別割当の積極的活用を含め、必要な見直しを行う」としました。これは社団法人日本経済調査協議会の「提言」(2007)以来、規制改革論者が賛美してきた西欧型漁業における出口管理や個別漁獲割当IQ/譲渡制ITQ論を引き継ぐものでした。第6回WGに提出された、「これまでの議論の整理」文書には、「インプットコントロールを重視する漁業許可制度のあり方について検証し改革することが重要」とし、「漁業資源管理の方法は、アウトプットコントロールを基本に・・・可能な限り個別割当(IQ)方式を活用することが重要」と記しています。
しかし、個別漁獲割当であるIQ方式だけで、漁獲権利を商品化して自由に売買できる譲渡制ITQの導入がなければ、漁業資本にとっては「規制緩和」ではなく「規制強化」の面だけが強く出ることになり、必ずしも「一番企業が活躍しやすい国」になるわけではありません。そこで第7回WGに出席した太田弘子規制改革推進会議座長は、「これまでの議論の整理文書」に不満を示して、「これで漁業が成長産業になるかというと、心もとない」と述べ、経営力、資金力、技術力をもつ能力ある担い手(企業資本)が円滑に漁業参入できるよう、漁業資源管理、漁業許可制度、漁業権の配分権を持つ漁協機能の見直しについて、さらなる具体的方策を提示するよう求めました。ここに規制改革推進会議のめざす本質が端的に現れていたと言って良いでしょう。

●TAC管理とMSY理論
MSY理論は密度効果の存在を前提に成り立つ概念で、密度(個体数)の増大により、増加率、死亡率、成長率が変化し、密度効果によって持続生産量に最大値が存在する場合にしか適用可能ではありません。密度効果は親の量と子供の量との関係性で判断されますが、世界中の海洋生物資源のうち親魚量と子供の量に関係性が認められるのは224魚種のうちわずか36種(16%)との報告もあり、近年はMSY理論そのものに科学者たちの批判が高まっています。
川崎(1996)は、FAOはじめ西欧で用いられている水産資源管理理論=MSY理論は、漁業資源の変動を漁業努力量と資源量だけの関係としてとらえ、環境変動が水産生物資源にあたえる影響を無視している。資源変動には環境変動(=レジームシフト)影響の方が一般的であり、日本も世界の漁獲量変動も「乱獲」による「資源枯渇」とするMSY的乱獲理論では説明できないとし、渡邊(2017)は海洋動物の特性は、小型の卵を多量にばらまき、低い生残確率を持つ個体の寄せ集めに次世代を依存するため、当たり年とはずれ年が生じやすく、資源量の変動が大きい。このような特性を持つ資源の安定化にはMSYは使えない。親と子の量的な関係に依拠して加入量を予測することはできないとしています。
片山(2017)は、沿岸資源は「親を獲り残せば増える」例は極めて少なく,もともと親子関係に依存しないで変動する資源特性を持つとしています。産卵親魚量確保のためにIQ等で出口管理を徹底する「ノルウエー型漁業管理」を行っても、加入量の増加は保障されないと述べています。さらに桜本(2018)は、西欧型資源管理手法であるTAC管理の基本にあるMSY理論については、「マユツバ」ものであり、MSY理論に基づいて管理を行おうとすること自体が、管理を失敗させる主因となっていると厳しく批判しています。

●資源乱獲論の流布
FAO(国連食糧農業機関)は、1992年に世界の海産魚類資源の3分の2以上が、乱獲か、これ以上漁獲すると乱獲になるレベルであると発表し,2004年には、「資源が枯渇状態に近い」種類が8%、「過剰な漁獲に陥っている」種類が16%、「これ以上の漁獲圧力が加わると乱獲で資源減少の危機にさらされる」種類が52%、「まだ、漁獲量を増加させる余地がある」種類が24%であると評価しています。また、FAOは1995年12月に京都で開催された「食料安全保障のための漁業の持続的貢献に関する国際会議」において、世界の水産物の供給量の横這いは乱獲の結果だとし、その原因は不適当な漁業管理制度であるとする基調報告を提出しました。まさに近年の日本における規制改革会議の水産資源乱獲論議と同様です。
FAOの報告のあと2000年代に入り,国内外で水産資源の乱獲を「告発」する出版物(例えばC.Clover,2004・井田2005,小松2007)が相次いで刊行されます。これらの著書に特徴的なことは、資源減少の著しい魚種を事例的に取り上げる傾向が強く、増加傾向を示す魚種があることについてはほとんど触れていない点と、資源減少の主な要因を過剰漁獲におき、乱獲の危機を強調する傾向にある点です。
このような漁業資源問題を規制改革推進のための政策作りの一環として、取り上げたのが日本経済調査協議会水産業改革高木委員会でした。「魚食をまもる水産業の戦略的な抜本改革を急げ」とする緊急提言を2007年2月に、ついで提言を同年7月に発表します。これらの提言は同年12月に政府審議会である規制改革会議の「規制改革推進のための第二次答申」に、そのまま盛り込まれます。答申には、わが国水産業は悪循環に陥っており、その背景には、水産資源が枯渇状態にあること、そのことが漁業の衰退と過剰漁獲を招き、さらには漁業の衰退に拍車をかけていると記載されています。現在の規制改革推進会議の議論もまさにこの流れの上にあったと言って良いでしょう。

●日本周辺の魚類資源の動向
規制改革会議の「規制改革推進のための第2次答申」(2007)に盛り込まれた抽象的な「乱獲による資源枯渇論」に対して、「日本沿岸域における漁業資源の動向」を具体的に調べる調査研究委員会(座長:二平章)が組織され、日本沿岸・沖合の漁業資源の個別動向が調査され、結果が東京水産振興会報告書(2011,2012,2013)にとりまとめられました。
そこでは、マイワシ、マサバ、スルメイカ、サンマ、ブリ、ニシン、カタクチイワシなどの浮魚類は1970年代に起きた温暖から寒冷、80年代末に起きた寒冷から温暖への海洋環境のレジームシフトによって資源変動が起きたことが改めて明らかにされています。
さらに、資源変動は比較的安定で漁獲努力量の調節で資源量はコントロールされると長く考えられてきた底魚類についても検討され、漁業が盛んな東北太平洋岸および日本海北部における底魚類、イシガレイ・マガレイ・キアンコウ・ヤナギムシガレイ・アカガレイ・キチジ・ソウハチ・スケトウダラなどが、浮魚類と同様に20年規模の海洋環境のレジームシフトによって資源変動したことが示されました。
また、高木委員会の資料・データ集に「3年間の禁漁で回復させた」として漁業管理成果とされた1990年代の日本海北部のハタハタ資源の復活についても、他魚種の同時的増加現象もふまえ、基本的要因は海洋環境のレジームシフトにあったとされました(二平2013)。

●自然環境破壊による漁業資源の減少
また、東京水産振興会報告書には魚類資源の減少要因として、人為的な環境改変(開発行為)が重要魚種を減少に追い込んだ事例が数多く報告されました。
魚介類資源の減少を続けている瀬戸内海の貝類では、西部のアサリが1973年、サルボウが1976年で消滅、その要因は干拓事業による底質環境の悪化とされています。また、山口県周防灘での底魚類やクルマエビの減少は貧酸素水の影響、兵庫県のカレイ類の減少は、ポートアイランドの二期工事や神戸空港建設工事による潮流の弱勢化による貧酸素の影響、大阪湾のシャコの減少は関西空港工事の影響とされました。兵庫県播磨灘、山口県沿岸でも、埋め立てによりアサリやカレイ・エビが減少し、貝類減少が、植物プランクトン利用の物質循環を遮断し、貧酸素水塊形成を助長、また、埋め立てが多くの魚類の産卵場と幼稚魚の成育場を奪ったと指摘されました。また瀬戸内海の重要資源であるイカナゴは、砂中で夏眠する生態から生息場は海砂の存在に依存します。その瀬戸内海の海砂採取は1960年代から顕著となり6億立米(?)もの膨大な海砂が採取されました。海砂採取実績のない和歌山・大阪、初期に採取禁止にした兵庫県と、岡山・香川・広島・愛媛の4県のイカナゴ漁獲量の比較によれば、前3府県の漁獲量は変動が少ないか増加傾向を示すのに対して、後の4県の漁獲量は1980年代に急減したまま回復することなく低迷していることが明らかにされました。海砂採取の窪地の回復は容易でなく4県でのイカナゴ資源への影響は長期におよぶと報告されています。
伊勢・三河湾では、①埋め立てによる浅海環境の喪失による産卵場、幼稚魚の成育場の減少、②浅海環境の喪失による水質浄化機能の低下、貧酸素化、③資源減少による漁民側の漁獲圧力の増加が起こっているとされ、干潟の埋め立てによる二枚貝資源の減少が海水交換に匹敵する生物ろ過機能を低下させていることが指摘されています。伊勢・三河湾のカレイ類資源では1980年代半ば以降漁獲量の低迷が著しく、休漁しても資源増加はなく、その要因は貧酸素水塊の形成や長良川河口堰建設にともなう海水流動の停滞による泥の堆積など環境悪化にあるとされました。
人為的環境改変の影響は、海面ばかりでなく、湖沼や河川にも現れています。全国第2位の湖水面積をもつ霞ヶ浦の魚類生産量は1970年代半ばの18000トンから現在の2000トンレベルまで低下したが、その要因は河口堰水門の閉鎖による湖水の停滞が湖内の物質循環機能を変化させ魚類群集の構成を変化させたことによるとされました。また、利根川・霞ヶ浦流域は日本でも有数の天然ウナギの生産地でしたが、河口堰建設にともない400トンあった霞ヶ浦の漁獲量は10トンに、700トンあった利根川での漁獲量は50トン以下に減少しています。ウナギ資源の回復には、河口堰建設や河川・湖沼のコンクリート護岸化などで喪失したウナギの生息環境の復元が大きな課題であるとされました。
環境悪化による沿岸資源の生物生産量の低下は、内湾域ばかりではなく、外海域でも起きています。外海域では河川からの砂の供給量の減少や大型港湾建設による砂浜海岸の浸食が全国で問題化しています。鹿島灘のハマグリ漁業は漁業管理の優良事例として有名でしたが、港湾建設による大規模な海岸侵食の影響でハマグリの生育環境はほとんど喪失したことが示されています。

●資源管理と漁業者の合意形成
親子関係に依存しないで変動する資源特性を持つ水産資源についてどのような管理方策を講じるのかが現代の資源管理に問われている課題です。大事な点は海洋環境の変動にも注意を払いながら、毎年の新規加入資源の動向をしっかりとモニタリングし、新規加入の幼魚が確認された場合はできるだけ小型魚の漁獲を控えながら、最大限の経済効果を生み出すような漁獲管理(成長管理)を実行できるよう関係漁業者間で協議・実行すれば良いのです。小型・若齢魚の漁獲実態がある場合、小型魚の漁獲を控えれば単価の高い大型魚に成長するのは明らかです。ただ、漁業現場には資源計算の理屈通りに「管理」の方向に操業が転換できない様々な要因が存在します。小型魚の「管理方策」を実現するには、生産者である漁業者らと徹底した議論を積み重ねながら、実施を阻む様々な課題を漁業者合意のもとで解決しながら「管理方策」の実現に向かうべきです。東北6県の30㎝以下のヒラメ小型魚管理宣言は県水産試験場の資源担当者らが、利害が複雑にからみあう各地区沿岸漁業者らと小型魚保護効果について度重なる協議を重ねて実現にこぎ着けたものです。コンピュータ上の資源計算結果だけを上意下達に示して、このとおりに操業しない漁業者は「乱獲」をする「悪者」であり許可を取り消すなどと脅すような議論だけでは、問題の解決にはなりません。行政や資源研究者たちが漁業現場に降りて実践化のための具体的論議を漁業当事者らと徹底して行うことがなくては、合意形成はつくられず、資源管理体制へ向けた「改革」にはなりません。また、漁業現場との意見交換がなければ資源計算の元となる数字の信憑性や計算結果の妥当性の検証も不十分になりがちであり、西欧型TAC管理だけが資源管理の唯一の方策であるなどという「西欧崇拝主義」の誤りにも気づかないのです。現在のクロマグロの規制をめぐる国内の混乱も現場実態を精査せず上意下達に実行させようとした点に最大の問題があると言えます。

**************************************************************************

●国連家族農業(漁業)10年に向けて
我が国の海岸線の総延長は35,308kmありますが、離島も含め、その海岸線に6,298の漁業集落が存立します。平均して海岸線5.6kmごとに漁業集落が立地しています。漁業集落が条件不利地と言われる島々や半島も含め海岸にくまなく立地することにより、国境を監視し、海岸環境を守り、国土の保全とその均衡ある発展に寄与しています。
また、雇用機会の限られる条件不利地にあって、漁業は地域経済を支える重要な産業の役割を果たしています。養殖漁業を含めると全漁業従事者の79%が沿岸漁業に従事し、全漁業経営体数の94%、漁船漁業の78%が地域に根ざす沿岸漁業を営む経営体となっており、文字通り沿岸漁業が日本の漁業、漁村を支える存在になっています。
これまで沿岸漁業・家族漁業が一方的に衰退してきた背景には、大規模漁業に偏重した対策や土木・開発企業向けの海の公共事業を重視し、小規模・家族漁業経営体の振興対策・所得対策をなおざりにしてきた国の水産政策にその原因があります。
いま国の水産政策に必要なのは、規制改革推進で利潤追求の一部企業資本に漁業権を開放し、沿岸漁場を崩壊させることではありません。沿岸漁場の管理主体として重要な役割をはたしてきた協同組織である漁業協同組合の機能強化をはかり、地域の主体である小規模・家族漁業を育成し、地域漁村を活性化させていくことこそが大切です。このことが、真の「地域創生」であり、島々を含め海に囲まれる日本の国境を守り、国土を守る「安全保障」につながるのです。
 国連は来年から10年を「家族農業10年」と決議し、世界でも9割以上を占める小規模家族農業・漁業の振興を打ち出しました。日本漁業でも94%は小規模沿岸家族漁業です。今回上程された改正漁業法案は日本の沿岸漁業・家族漁業を衰退に導く意味で国連の決議に背を向ける法案といえるでしょう。(にひらあきら)

文献
Clover.C(2004)飽食の海.岩波書店,pp318.
井田哲治(2005)サバがトロより高くなる日.講談社現代新書,pp280.
加瀬和俊(2018)沿岸漁業への企業参入と漁業権..経済,No.269,118-126,新日本出版社.
片山知史(2017)資源操作論の限界.漁業科学とレジームシフト,.東北大学出版会,432-449.
川崎 健(1996)世界の漁業生産量の停滞は乱獲の結果なのか.漁業経済研究,41,114-139.
小松正之(2007)これから食えなくなる魚.幻冬舎新書,pp199.
松澤 厚(2017)戦後農政の総決算へ暴走する安倍政権.労農のなかま,2017年5月号,28-36.
二平 章(2013)秋田県産ハタハタの資源動向と漁業実態.日本沿岸域における漁業資源の動向と漁業管理体制の実態調査.東京水産振興会.87-109.
桜本和美(2018)マグロ類の資源管理問題の解決に向けて.水産振興,605,pp55.
東京水産振興会(2011,2012,2013)日本沿岸域における漁業資源の動向と漁業管理体制の実態調査.各年度版.
植田展大(2018)農業競争力強化に向けた制度改革と農業政策の課題.農林金融,2018年1月号,27-41.
渡邊良朗(2017)自然変動する海洋生物資源の合理的利用..漁業科学とレジームシフト,東北大学出版会,395-412..

(2018年11月21日)

 

東北沿岸漁民緊急フォーラムのご案内 ― 『漁業法改定』は沿岸漁業に何をもたらすか(その4)

国会で審議入りした漁業法等の改正案。漁民対企業の対決法案となっている。これは、けっして革新対保守の対決ではない。「浜の生活」派と「新自由主義」派との争いなのだ。かつては、地元の保守政治家が漁民の生活の守り手だった。いま、安倍自民党は、漁民の生活を企業に売り渡そうとしている。

この問題で「東北沿岸漁民」の緊急フォーラムが、19日(月)午後盛岡で開かれる。本日はそのご案内。
この案内チラシに、具体的な問題点が次のように指摘されている。
 ①養殖用漁業権免許を漁協を通さず知事が企業に直接免許
 ②地元漁民に優先的に与えられた定置漁業権を知事裁量で直接企業に免許
 ③海区漁業調整委員会を公選制から知事の任命制に変更
 ④沖合漁業の漁獲効率を一層高め、沿岸資源圧迫につながる漁船トン数制限撤廃
 ⑤大規模漁業を優遇し小規模漁業を困窮化へ導く漁獲量割当(TAC)制度の導入

この法案が成立すれば、やがて沿岸漁業は、大企業に取って代わられることになる。個人経営、家族経営が主体の地域経済は確実に衰退する。浜はさびしくなる。ちょうど、商店街のにぎわいが消えて枯れ葉の舞うシャッター街になったように。

これを、漁業資源の持続性のための望ましい改革とミスリードしてはならない。
関心ある方、条件の許す方は、ぜひご参加を。
**************************************************************************

東北沿岸漁民緊急フォーラム

『漁業法改定』は沿岸漁業に何をもたらすか
【日時】2018年11月19日(月)14:00 ~ 17:00
【会場】サンビル7 階 ホール
(岩手県盛岡市大通1丁目2. 1 岩手県産業会館)
安倍内閣は11月6日に、沿岸漁民の漁業権を企業に売り渡す「漁業法改定案」を閣議決定。「今国会で成立させる」と表明しました。
この法案では
①養殖用漁業権免許を漁協を通さず知事が企業に直接免許
②地元漁民に優先的に与えられた定置漁業権を知事裁量で直接企業に免許
③海区漁業調整委員会を公選制から知事の任命制に変更
④沖合漁業の漁獲効率を一層高め、沿岸資源圧迫につながる漁船トン数制限撤廃
⑤大規模漁業を優遇し小規模漁業を困窮化へ導く漁獲量割当(TAC)制度の導入
…などを行うとしています。
この案が通れば沿岸漁家・漁協の経営はいっそう困難になり、地域経済も疲弊してしまいます。地域創生とは真逆の悪法だと言わざるをえません。漁業関係者に「ていねいな説明」もせず、声も聞かずにすすめている改定案。その内容と問題点をさぐります。

資料代:1000 円 どなたでも参加いただけます

『漁業法改定』は沿岸漁業に何をもたらすか
主催:JCFU 全国沿岸漁民連絡協議会,
漁業法改正法案に反対する漁業経済研究者の会,
NPO 法人21 世紀の水産を考える会
連絡先:JCFU 全国沿岸漁民連絡協議会事務局

〒299-5241 千葉県勝浦市松部1963-2 千葉沿岸小型魚船漁協内 事務局長:二平章 080-3068-9941(携帯)
〔開催地 事務連絡先〕FAX:019-635-9753 E-mail:Iwate.Nouminren@kamogawa.seikyou.ne.jp(岩手県農民連)

プログラム

■開催趣旨説明 二平 章(茨城大学客員研究員)
■報告「漁民に知らせず成立ねらう改定漁業法案の驚くべき内容」
      長谷川 健二(福井県立大学名誉教授)
   「沿岸漁家・漁協経営を破綻に導く改定漁業法案に反対」
      濱本 俊策(香川海区漁業調整委員会会長)
■意見表明 赤間廣志(宮城県漁業調整委員会委員)
      菅野修一(岩手県漁業調整委員会委員)
      片山知史 (東北大学教授)
      綱島不二雄 (元 山形大学教授) そのほか参加者より
■各党地元国会議員要請

**************************************************************************

 

(2018年11月16日)

漁業法改正は対決法案に ― アベ政権の水産改革批判(その3)

昨夕(11月14日)NHKラジオ「Nらじ」に、二平章さん(JCFU全国沿岸漁民連絡協議会事務局長・茨城大学客員研究員)が出演し、今回の水産改革について沿岸漁民の立場からの解説をされた。19時30分からの約25分間。落ち着いた語り口で分かり易く説得力があった。下記のURLで、2か月間聞けるという。
http://www4.nhk.or.jp/nradi/24/

「アベ様のNHK」という揶揄は、最高幹部や政治部には当てはまっても、その決め付けが必ずしも常に正しいわけではない。一緒に出演していたNHKの専門解説委員も司会者も、公平な態度だった。

先日、TBSラジオ・荻上チキの「セッション22」が、このアベ水産改革を手放しで礼賛していたのに驚いたが、これに較べてNHKの姿勢が遙かに真っ当なのだ。

また、NHKは下記のURLで聴取者の意見を募集している。ネトウヨの世界とは違った、真面目な意見が寄せられている。反響が大きければ、また「Nらじ」は水産改革関連問題をとりあげたいとの意向だという。
http://www6.nhk.or.jp/nradi/bbs/commentlist.html?i=54038

そして、本日(11月15日)衆院本会議で、漁業法改正案が審議入りした。

本日衆院本会議で各党の代表質問質問に立ったのは以下の議員。

細田健一(自由民主党)  
神谷裕(立憲民主党・市民クラブ)  
緑川貴士(国民民主党・無所属クラブ)
金子恵美(無所属の会)
田村貴昭(日本共産党)
森夏枝(日本維新の会)

下記のURLで、動画を見ることができる。
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=48459&media_type=fp

維新を除く全野党が、明確に漁業法「改正」案に反対の立場からの質問。立憲民主党の神谷裕などは迫力十分。緑川貴士もなかなかのもの。そして、田村貴昭の質問も鋭い。

メディアはこう報道している。

日経の見出しが、「漁業法、企業参入で与野党対決 衆院審議入り」というもの。
「企業が新規参入しやすいように漁業権制度などを見直す漁業法改正案が15日、衆院本会議で審議入りした。漁業権を地元の漁業協同組合に優先する仕組みなどを見直し、漁業を成長産業に育てる狙いがある。野党は小規模漁業者への影響が大きく拙速だと批判しており、今国会で対決型法案となりそうだ。」

「企業の参入規制を緩和して漁業を成長産業に」がアベ水産改革のスローガンだ。これに対して、野党が「小規模漁業者への影響」の立場から反対という図式。明らかに法案の狙いは、「漁民のための漁業法」から、「資本のための漁業法」に、というものだ。

この構図、一見すると「漁民」対「企業」の角逐のごとくである。多くの国民にとっては、「『漁民』の獲った魚も『企業』が獲った魚も、味に変わりはなさそうだ」「それなら、どちらでも廉い方がよい」のだろうか。実はそうではない。

多くの国民は、消費者であると同時に勤労者でもある。かつ勤労者はそれぞれの分野で、企業と共存しつつも対峙している。労働者として、自営業者として、商店主として、農民として、そして漁民として。あるいは、小規模経営者として、より大きな企業と。資本の放縦に対する規制においては、利害を共通にしているのだ。

労働に関する規制をなくして企業が小児労働を雇用すれば、その企業の商品は安価となる。しかし、消費者がこのような商品を安価だからとして歓迎することはできない。アンフェアーな企業の商品流通を許せば、たちまち多くの労働者の賃金の引き下げ圧力として波及する。大店法の規制があった時代には、各地の商店街が賑わった。いま、その規制がなくなって大規模スーパーとショッピングモールに席巻されて、商店街のにぎわいが消えた。多くの商店主の稼働の場が失われたのだ。

規制の緩和ないし撤廃は、一面効率と生産性を向上させるが、他面多くの勤労者の生計の場を奪う。消費者は、市場における適正な競争原理の働きを歓迎はするが、規制の撤廃や過度の緩和は望まない。結局、それは自分の首を絞めることにつながるのだから。漁業の参入規制を緩和して企業に漁業を営ませる。それは、けっして多くの消費者(=勤労市民)にとって歓迎すべきことではない。

いずれにせよ、アベ政権とその取り巻きの思惑のとおりにはことが運んでいない。漁業法改悪問題は、対決法案となってきた。
(2018年11月15日)

「漁民のための漁業法」から、「資本のための漁業法」に ― アベ政権の水産改革批判(その2)

経済という言葉の語源は、「世経済民」《世を經(おさ)め民を濟(すく)う》なのだという。むべなるかな。経済政策は、常に民の生活の安定を第一義とするものでなければならない。

しかし、いま世は資本主義の時代である。この社会の主は、資本ないし企業であって、民ではない。資本の恣の利潤追求の衝動に、政治的な民主主義がどれだけの掣肘を課することが可能か。そのことによって、民衆の福利をどれだけ向上させることが可能か。それが、この社会の最も中心的で基本的な課題である。

もし、法による規制をまったくなくして資本の放縦を許せば、この世は資本という怪獣が民を食い尽くす修羅の巷とならざるを得ない。「世経済民」とは、資本に規制を課することによって「民を済う」ことにほかならない。

規制緩和・規制撤廃とは基本的にそのような、資本の欲求による修羅の巷への一歩である。労働分野や消費生活の分野における規制とその緩和が分かり易いが、至るところに資本対民(生身の人)との対立構造の中で、どこにも規制があり、規制緩和との闘いがある。

漁業法「改正」問題も同様だ。漁業法は戦後の経済民主化策の賜物である。財閥解体と農地解放に続いた、漁業分野の民主化が漁業法に結実した。その目的に「漁業の民主化を図ること」が明記された意味は重い。

1949年の制定当時、「漁業調整」と「水産資源の保護培養」が漁業法の2本の柱であった。その後、「水産資源の保護培養」の課題は水産資源保護法に移され、漁業法と水産資源保護法の両者が漁業を規制してきた。

「漁業調整」が漁業法の最大課題である。農業と異なり、不可避的に水面の総合的利用が必要な漁業においては、他の水面利用者との利害関係の調整が不可欠である。しかし、どのように漁業調整をなすべきかを法自体は語っていない。

法が語るものは、漁業調整の究極理念としての「漁業の民主化」と、「漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用」である。この漁業調整機構は、海区漁業調整委員会として具体化されている。つまり、法はそれぞれの地元に設けられた「各海区漁業調整委員会」の運営によって漁業調整をすることにより、漁業の民主化を達成せよというのだ。

「漁業の民主化」という目的規定、そして「海区漁業調整委員会」という漁民の意思反映手続の制度、これが漁業法の眼目、言わば「両目」である。今回の漁業法『改正』は、この両目を共に潰そうというものなのだ。納得できるはずがない。

改正法案では、「漁業の民主化」という目的規定の文言はなくなる。そして、「海区漁業調整委員会」は公選制から知事の任命制になる。

「民主化」とは、弱い立場の者が強い者と同等に権利主張ができることではないか。政治的、社会的、経済的な弱者が堂々と権利主張をし、相応の権利主張が認められるべきことである。海区漁業調整委員会は、零細漁民、少数派漁民が堂々と権利主張できる場でなくてはならない。その活性化こそが課題なのに、改正法案は、この「民主化」を潰して、弱い立場の者の権利主張を抑えて、強い者の権利を通しやすくしようとするものである。

「民主化」は効率化を意味しない。零細漁民の漁法の生産性は、大規模な企業的漁業に劣ることになるだろう。効率や生産性を規準にすれば、企業的漁業が勝ることは当然のことだろう。しかし、農業も漁業も市場原理だけに任せておくべき産業分野ではない。

なによりも、零細漁業者の経営の安定が第一である。まさしく「経世済民」を優先しなければならないのだ。

大切なことは、効率でも生産性でも、資本の利益でもない。漁民が生計を維持し次世代に繋げる漁業経営を可能にすることこそ大切なのだ。そのような漁業政策を手続的に保障するものが海区漁業調整委員会である。これを骨抜きにしてはならない。

経済原則に任せることでよいのか。外部資本の参入規制を緩和して零細漁民の経営を潰し、浜の地域経済を潰し、漁民の生活を窮地に追いやってよいのか。効率の名で、人の生活を奪うことが許されるのか。

今次水産改革は、そのような問題を提起している。
(2018年11月14日)

澤藤統一郎の憲法日記 © 2018. Theme Squared created by Rodrigo Ghedin.