澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

絵本『花ばぁば』が語る「戦争のおぞましさ」と「出版の不自由」

私の手許に、「花ばぁば」という絵本がある。やさしい筆使いのやわらかい絵。たくさんの花が描かれている。子どもたちに読んでもらおうという、紛れもない上質の絵本。しかし、内容はこの上なく重い。日本軍慰安婦だった一人の女性の人生を描いた作品。

絵と文は、クォン・ユンドク。1960年生まれで大家という年齢ではないが、「韓国絵本界の先駆者」と紹介される人。翻訳は桑畑優香。早稲田を出たあと、延世大学、ソウル大学で学んだ人だという。絵本にふさわしい、優しさあふれる文章になっている。

『花ばぁば』とは、元日本軍「慰安婦」だったシム・ダリヨンさんのこと。その辛い体験の証言をもとにストーリーが組み立てられている。晩年の彼女は、園芸セラピーを受け、押し花の作品作りを楽しみに過ごしていたという。

通常の絵本にはない、前書きとしての「著者からの言葉」がある。その冒頭の一文が、「戦争で被害を受け苦しんでいる、すべての女性たちにこの本を捧げます」というもの。重ねて後書きとして、Q&A形式の「読者のみなさんへ」がある。いずれもやや長い。著者のこの本の出版へのこだわりや思いの深さが痛いほど伝わってくる。

その中の一節にこうある。
「この本では、黄土色と『空っぽの服』を象徴として、私たちが『慰安婦問題』を見つめるときに注目すべきことに対する考え方を表現しています。旧日本軍の服の色である黄土色は帝国主義を、『空っぽの服』は人間の考え方と行動を規定し支配する制度や習慣、国家体制などをそれぞれ象徴しています」
「誰もがそのような服を着れば、自分でも気付かない行動をとる可能性があります。つまり、『私たちは、慰安婦問題の責任を一人ひとりの具体的な個人ではなく、彼らを指揮し煽動した国家と支配勢力に問うべきだ』という意味を込めているのです」

大いに異論があってしかるべき論争点だろうが、これがこの作品の中心テーマで、作家の視点には揺るぎがない。大日本帝国の責任、旧日本軍の責任、どの部隊の誰の責任と決めつけ特定してしまうと普遍性が薄れる。戦争一般に性暴力の原因があり、弱者に深刻な被害を強いるものという基本認識から、戦争そのものをなくそうという平和志向の思想。だから、最後は、こう締めくくられている。

「今も地球上のあちこちで絶えず戦争が起きています。花ばぁばが経験した痛みは、ベトナムでもボスニアでも繰り返されました。そして今、コンゴやイラクでも続いているのです。」

この本の刊行は、今年の4月29日の日付。「ころから」という小さな出版社から、「202名の(クラウドファンディングでの)支援で刊行されました」と記されている。が、この本が実は8年も前に日韓同時に出版されるはずだったことを知らなかった。このことは、日本社会の表現の自由の現状を雄弁に物語っているのだ。

以下は、東京新聞2018年6月20日の「『花ばぁば』が伝える戦争」というコラム。この間の事情を手際よくまとめている。

「東京・赤羽の小さな出版社「ころから」から出された絵本『花ばぁば』は、旧日本軍の慰安婦とされた韓国人のシム・ダリョンさんの証言に基づき、韓国の作家クォン・ユンドクさんが描いた物語だ。

日本が朝鮮半島を植民地としていたころのこと。突然連れ去られた少女は軍の施設に閉じ込められ、その部屋の前には兵隊たちが毎日列を作った…。水彩の絵の美しさが、軍隊の暴力性をより鮮烈に伝えるようだ。

2010年に韓国でオリジナル版が出版された後、日本での出版は、シムさんの証言が慰安所設置に関する公文書記録と一致しないという理由で見送られた。一度お蔵入りしたこの作品を日本で出そうと奔走したのは、絵本作家の田島征三さんら日本の有志だった。

実は私(記者)も05年、大邱(テグ)市にあったシムさんの自宅を訪ね、被害の体験を聞いたことがある。けれども連行された時期や場所など分からない点が多く、証言を記事にできなかった。彼女は『私は頭がおかしくなった。覚えていないんだ』と涙ぐみながら、日本からきた記者の私に語ろうとしたのに。あの日、私がするべきだったのは、『埋められない記憶』を問うことではなく、彼女が経験した痛みの重さにもっと心を寄せることだった。

シムさんは日本版の出版を待たず10年に83歳で他界したが、彼女が残した絵本は戦争の真実を静かに語り続ける。(佐藤直子)」

「マガジン9:http://maga9.jp/」には、「この人に聞きたい」シリーズで、クォン・ユンドクのインタビュー記事が掲載されている。今年の5月30日にアップされたもの。これは、衝撃的な内容。

クォン・ユンドクさんに聞いた:日本軍「慰安婦」にされた女性の物語 『花ばぁば』で伝えたかったこと

クォン 日本での版元からは最初、日本で出版するためにはここを変えてほしい、といって何度も修正依頼が来ました。受け入れられる点については修正しましたが、とても受け入れられない点もあって、それについては「できません」とお答えしたのです。

──たとえば、どんな点でしょうか。

クォン 『花ばぁば』では、慰安所の見取り図のような場面や、慰安所がつくられていた地域分布を示す場面なども出てくるのですが、こうした資料的な絵を入れず、もっと「一人の女性の人生」という観点からストーリーをつくれないか、と言われました。でも、私は単なるハルモニの個人史ではなく、その背景にある社会的な要素もあわせて描きたかった。そこは変えたくありませんでした。
また、もっとも受け入れがたかったのは、モデルを別のハルモニに変えてほしいと言われたことです。シム・ダリョンさんは慰安婦として連れて行かれた後、戦後にかけて記憶を失っている時期があるので、証言の確実性がないのではないか、というのです。シム・ダリョンさんのように無理矢理トラックに乗せられたケースではなく、「お金を稼げるよ」と騙されて連れて行かれたハルモニの証言をもとにしたほうが、普遍的な物語になるのではないかとも言われました。

でも、シム・ダリョンさんが記憶喪失になってしまったのは、慰安婦にされて性暴力を受けたことや、戦後に韓国で差別を受けたことの結果であって、そのこと自体が重要な「記憶」です。それを証言として信用できないということには、まったく納得が行きませんでした。私はシム・ダリョンさんだから描きたいと思ったのだし、出版社が「こういうおばあさんの話を描いてほしい」というのなら、それを描いてくれる作家を別に探せばいいじゃないか、という話ですよね。
最終的には、「他のハルモニの話に変えないのならうちの出版社からは出せません」という返事でした。

──それが本当の理由というよりは、慰安婦問題というセンシティブな問題を扱った絵本を出したくなかったのかもしれないという気がします。特に、ここ数年の日本では、「慰安婦」という言葉を出すだけで一部の層からひどいバッシングを受けるという傾向がありますし、「シム・ダリョンさんの証言に問題があるから出さない」ではなく、「日本社会に問題があるから出せない」だったのではないでしょうか。

クォン 本当にそうです。その「日本社会の問題」を、「ハルモニの問題」にすり替えて断りの理由にされたことが本当に悲しくて。そのときにはもう亡くなられていたシム・ダリョンさんに対しても、申し訳ない思いでいっぱいでした。被害者が自分の受けた被害の話をするというのは、本当に苦しくてつらいことなのに、それを否定されたわけですから……。私だけでなく、「平和絵本」シリーズにかかわっていた作家たちはみんな、大きなショックを受けていました。

──しかし、田島征三さん、浜田桂子さんら日本の絵本作家の奔走もあって、2018年に別の出版社からの刊行が決まります。資金集めのためのクラウドファンディングでは、当初の目標額だった95万円がわずか4日間で集まったそうですね。

クォン 2000年の女性戦犯法廷の話などを聞いて、日本には慰安婦の存在を否定したい勢力もいるけれど、それをきちんと検証して知らせようとしている人たちも大勢いるんだということを知りました。日本での出版前から、韓国語版を自分たちで翻訳して読書会を開いてくれているグループもありましたし、そうした人たちが支援してくれたのではないかと思っています。

さらに本日(6月24日)、友人の勧めで詳細に事情を語るドキュメントDVD「わたしの描きたいこと」を観た。日本語版は、本年5月25日発売。93分が短かった。

惹句では、「絵本『花ばぁば』(クォン・ユンドク絵/文)が出来上がるまでを描くドキュメンタリー映画。韓国を代表する絵本作家クォン・ユンドク(権倫徳)が、日本軍「慰安婦」の証言をテーマに絵本創作に取りかかる2007年から、予定されていた日本語版刊行が無期限延期となる2012年までを描く。クォン・ヒョ監督は、作家性と出版の軋轢を、ノーナレ(ナレーションなし)で見事に描きだす。」という。なるほど、まったくそのとおりだ。

日本で出版を予定し、最終的に断念したのは「童心社」である。松谷みよ子と関係の深かった児童書の大手。良心的な出版社である。その童心社が恐れたのは、日本社会のありかたを象徴する「右翼」の攻撃。できるものなら出版したいが、「今の情勢では、このままでの出版はできない」という。

幾つかの点での妥協を覚悟して修正作業に取りかかった作家に、日本から「今、日本社会の事態はより悪くなっている。修正しても出版は難しい」との最終の連絡がはいる。本来日韓同時出版の予定だった「花ばぁば」は、韓国ではシム・ダリョン生前に出版して好評を博したが、日本での出版はできないという結論でこのドキュメントは終わる。

なるほど、日本社会とはこんなものなのだ。日本とは、右翼の跳梁する恐るべき国、民主主義や人権の後進国と見られてやむを得ないのだ。世界の報道の自由度ランキングでは、16年72位、17年72位と続いて、今年(2018年)は68位だが、本当だろうか。アベ政権のもと、右翼の跳梁やヘイトスピーチが、おさまる気配は見えない。

「花ばぁば」は、その内容において戦争のおぞましさを語っているが、はからずもその出版を通じて日本の出版の自由の制約や右翼の跳梁の実態、民主主義や人権のありかたについても語るものとなった。
(2018年6月24日)

「保守速報」サイトからすべてのバナー広告が消えた。 ― これが企業の合理的判断なのだ。

私には、ネット世界の見通しが利かない。どちらを見回しても、あふれかえるデマとヘイトに辟易せざるを得ない。ネトウヨ諸君は、権力者や富のあるものにはへつらって、弱い立場にあるものへの誹謗中傷に余念がない。実は、ヘイトのサイトに読者がつけば、広告料収入がはいる仕組みだという。

そのようなネトウヨ・サイトの典型に、「保守速報」なるものがある。とある名誉毀損裁判の被告になり、「他人の記事を転載しただけだからウチに責任はない」と争って敗訴したことで有名になった。その後、こともあろうに私の顔写真を掲載して「DHCの吉田嘉明会長」とキャプションを付けた。私にとってはこの上ない侮辱であり不名誉な仕打ち。このことについて「保守速報」は謝罪記事を書いたが、私に謝罪したのか吉田嘉明に謝罪したのか、わけの分からないものだった。その程度のいい加減なサイトなのだ。

記事はいい加減ではあっても、まとめサイトとして、他人が書いた記事を繋げて読者を得、広告を満載して相当の収入を得ていたようだった。ビジネスモデルとしては成功していたわけだ。

ところが、驚くべきことが起こった。下記のURLを覗いていただきたい。不愉快な記事を読む必要はない。記事ではなく広告欄にだけ注目していただきたい。すべての広告が消えて、空白になっているではないか。
http://hosyusokuhou.jp/

これは、すごいことだ。「まとめサイト『保守速報』から広告バナーが完全消滅」「まとめサイト『保守速報』に掲載されていた広告が、6月13日までに全て撤去されていたことが分かりました」という記事をネットのあちこちで見ることができる。

どうやら、ネットの景色が変わりつつあるのだ。多くの人の知恵と惜しみない労力とが、バナー広告のスポンサーを動かしているのだ。こんなデマとヘイトのサイトへの広告は、企業イメージを損なうものではないか、という指摘が功を奏しているのだ。

保守速報の広告撤去に至ったきっかけを作ったのは、エプソン販売だった。
ユーザーからの問い合わせを受けて、同社は6月5日に保守速報への広告出稿を停止したという。これが引き金となって、多くのネットユーザーによる広告主への通報が加速して他の企業にも広告引き上げの動きが波及したもののようだ。

BuzzFeed Newsが報じている。
「保守速報への広告掲載をやめたエプソン 『嫌韓、嫌中の温床』との通報がきっかけに」というタイトル。記事の関心は、「広告売り上げなど資金の流入を断つことで、ネットに溢れるヘイトやフェイクをも断つことはできるのか。」という視点。

同記事によると、「(エプソンに)メールで通報をしたのは6月1日金曜日の夜。Youtube上にあるヘイト動画がユーザーの通報を受け相次いで削除されたのを見て、ヘイト記事が載るサイトの広告主に通報しようと思ったという。メールでは、『保守速報』が『ヘイトスピーチ、いわゆる嫌韓、嫌中の温床となっている』『ヘイト記事で告訴を受けて裁判中』だと伝え、『広告が収入源になっている』と指摘。」こうも書き添えたという。

「ヘイトスピーチを許さない社会的責任と御社の製品のブランドイメージを守るためにも、ご検討なにとぞ、よろしくお願い致します」

同社から出稿を取りやめると返答があったのは、6月5日火曜日の昼のこと。「ご不快な思いをさせ」たことを謝罪するとして、「今後は、出稿先を注意して選定してまいります」と記されていたという。

エプソンは、代理店を通じて広告を出稿していたが配信先までの把握はなく、通報があるまで保守速報への掲載を認識していなかった、という。

エプソンは、「エプソングループコミュニケーション規程」に基づき、すべてのステークホルダーの皆様に対して、正確な情報を偏りなく提供しています。公序良俗の遵守や中立性の維持はもとより、性別、年齢、国籍、民族、人種、宗教、社会的立場などによる差別的な言動や表現を排除し、常に個人を尊重するとともに、文化の多様性を尊重して、世界の人々から信頼されるコミュニケーション活動を行っています。

と言っている。この規程の遵守必ずしも十分ではなかったわけだが、指摘を受けて直ちに差別に毅然とした反応したことは立派なものだ。エプソンのブランドイメージは大いに上がったというべきだろう。私も、今度はエプソンの製品を買おう。

まだ、企業の主流は健全だ。一通のメールがエプソンを動かしたのだ。そして、多くの人のメールが続き、いまネットに溢れるヘイトやフェイクをも断つ動きが加速している。「保守速報」への広告引き上げは、他のヘイトサイトに飛び火して、ネットの世界を一新するきっかけとなるかも知れない。

実は、この動きには前史がある。YouTubeでも同様の動きがあるのだという差別表現を含む動画に自社の広告が表示されることを嫌った大手企業の広告出稿取り下げ騒動が発生したことを受け、YouTubeでは昨年(2017年)から差別表現に対して厳しい姿勢で臨むよう方針が大きく転換し、10万本を超す投稿動画か削除され、またYouTubeチャンネルが相次いで閉鎖されているという。

ひときわ注目されたのは、「皇族の血統」をウリにして稼いでいたタレント竹田恒泰。差別的言動で、YouTubeの規約によるチャンネル閉鎖に追い込まれた。ネットでは「YouTubeから生前退位」「ヘイトエンペラー」などと揶揄する声があるという。

保守速報は、「嫌韓」「反中」で知られていた。こんなサイトに広告を出していたとなれば、韓国や中国でのビジネスに差し支えが生じる。それを避けるのが、企業活動の合理的判断というべきだろう。ユーチューブにしても、まともな企業からの広告料を得ようと思えば、ヘイト動画を削除せざるを得ないのだ。ネットの世界の浄化の動きは、きっと実を結ぶことになるだろう。

ところで、この件に関して個人的に見過ごせない一点が残っている。「保守速報」サイト左上に残っている「NO!残紙キャンペーン」のバナーだ。これは広告ではなく、収入には結びつかない。「キャンペーンに賛同したサイトであれば自由に貼れるもの」なのだという。だから、保守速報側が勝手に貼ったもので、キャンペーンの主催者側としては保守速報への掲載について関知していない、との経過のようである。

とはいうものの、保守速報のサイトにたった1件残ったバナーである。そのキャンペーンには右から左まで、まことに幅の広い32人の賛同人の名が連ねられており、その1人として私の名前もある。私は、確かに「NO!残紙キャンペーン」の賛同者にはなったが、保守速報にこんな形で名前が出るような不名誉は望むものではない。さりとて、自由や民主主義のためには、右派とも連携すべきでもあろう。複雑な思い、というしかない。
(2018年6月15日)

緊急のご賛同お願い ― 「NHK大阪記者の不当異動人事中止を求める要望」

加計問題が愛媛県文書(「いいね文書」)の開示で新たな展開を見せている。森友問題についても、明日(5月23日)国有地値下げ交渉に関わる大量の新文書が提示される。アベ内閣は、既に詰んでいるはずなのだが、潔く投了という気配はない。頑強に記録の事実を否定し続けて国民のアキラメを待つ作戦。

そんなアベ政権の指示なのか、NHK上層部の忖度なのか。NHKの不当人事に衝撃が走っている。

第一報は日刊ゲンダイの5月17日記事。次のリードだ。

「皆様のNHK」どころか、これでは“安倍様のNHK”だ。森友学園問題に関するスクープを連発していたNHK大阪放送局の記者が突如“左遷”されるというのだ。安倍政権の急所である森友問題を報道させないための“忖度人事”ではと、NHK内部に衝撃が走っている。

 「森友問題スクープ記者を“左遷” NHK『官邸忖度人事』の衝撃」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/229227

その後、この 『NHK官邸忖度人事』記事の信憑性が確認された。このままでは、5月25日付の異動が実行となる模様。

そこで、この異動を止めるために、「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」が下記の緊急の要望書提出に賛同者を募っている。

 2018年5月24日

NHK会長 上田良一様
NHK放送総局長 木田幸紀

 NHK大阪放送局の記者の不当な異動人事の中止を求める要望書

NHK視聴者有志(賛同者名簿は別紙)

 皆様にはNHKの健全な経営と充実した放送のためにお忙しい毎日をお過ごしのことと存じます。
  この間私たちは、森友学園問題に関して、貴局が多くのスクープを行い、森友問題の真相解明に大きな役割を果たしてきたと評価しています。
 ところが、先日、私たちは、森友学園問題の真相に迫る取材に精力的に取り組んできた大阪放送局の記者を記者職から外す人事異動が検討されているとの報道に接しました。
 私たちが関与しない貴局内の人事ですが、異動人事が伝えられる記者は、政権寄りと批判が向けられてきたNHKの政治報道において、時の首相夫妻が疑惑の中心人物となっている森友問題の真相に迫る貴重な取材を続けてきた記者といわれています。このような記者は私たち市民の知る権利に応える誠実で頼もしい人材であり、NHKに対する視聴者の信頼の揺らぎを食い止めるために貢献をしてきた人材でもあると思います。
 そのような記者が森友問題の真相解明の重要な局面で取材現場から外されるとすれば大変不可解なことであり、視聴者は強い疑惑を向けざるを得ません。

 皆様におかれましてはNHKに対する視聴者の信頼を失墜させるような異動人事を中止する措置を直ちに講じられるよう強く要望します。
 仮にも、伝えられたような異動人事が強行されるなら、私たちのみならず、多くの視聴者はそれを左遷人事とみなし、今後のNHKの政治報道に強い不信を抱くことになるのは必至です。

 受信契約の締結義務を是認した先の最高裁判決を引くまでもなく、受信契約も受信規約で定められた受信料の支払い義務も、NHKが放送法第4条他を遵守し、自主自律の放送を貫いて、国民の知る権利に応える放送を続けているという視聴者の信頼を得ていることが大前提です。NHKがそうした前提を自ら壊すような人事を強行するなら、今、受信料の支払いを続けている視聴者の間でも、支払い意欲を減退させる人々が増えるのは必至です。
 NHKの人事担当部署がそのような愚行を犯さないよう、皆様の賢明なご判断と早急な措置を強く要請します。
  以上

賛同の締め切りは5月23日(水)24時である。
下記アドレスにメールでの賛同通知をお願いいたします。     mekiki2018@yahoo.co.jp
ファクスなら、043-461-7004

呼びかけの中心を担っている醍醐聰さんからは次のような連絡をいただいた。

NHK大阪放送局の記者の左遷と受け取れる異動人事の動きは、NHK内で市民の知る権利に応えるため、森友問題の真相に迫る取材をしてきた記者の良識を踏みにじるものであり、NHKの報道現場にも計り知れない萎縮を生む恐れが大きいと考えられます。
そこで、私たち「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は全国のNHK視聴者団体、個人や森友問題で一緒に行動した方々に、賛同の呼びかけをして、不当な異動人事の中止を求める添付のような要望書を24日午前中にNHK上田会長ほかに提出することにしました(25日に異動人事の内示が予定されているため)。

急な呼びかけですが、皆様にご賛同の呼びかけをさせていただきます。
大変短い期間ですが、皆さまの団体、お知り合いの方々にも至急、呼びかけを広めていただけると幸いです。

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大阪の阪口徳雄君は、5月20日に下記のブログを発表している。
http://blog.livedoor.jp/abc5def6/

      NHK記者の「不当配転」が真実なら受信料拒否宣言をしようと思う

日刊ゲンダイが森友問題を精力的に取材しスクープを発していた辣腕記者を森友問題の取材から外し内勤に変えるとの報道があった。
真相は不明である。
しかし、NHKのトップが「ニュースのトップに森友、加計問題を扱うな」という指示の「内部告発」があったということが国会で議論になっていた。その後の報道を見ていると森友、加計問題はニュースのトップではなく「途中」になってきた印象を持つ。

日刊ゲンダイの報道を信じたくないがNHKのトップは安倍総理のくだらない発言を大げさに、さも重要なことのように誇張して報道するニュースの様子とかを見るにつけ官邸に忖度した報道が多すぎる。

森友問題を一番詳しく取材した記者は本来はNHKの誇りである。このような記者を優遇することはあっても、不当配転をすれば、これは他の諸問題でも官邸が困る報道を取材してきた記者をNHKは同様に不利益取り扱いをすることを意味する。いわば見せしめ人事となろう。これは当該記者のみならず、他の記者への萎縮効果も甚大となろう。

もし日刊ゲンダイの記事の通りであるなら私個人はNHKに受信料の支払いを「拒否」しようと思う。NHKに内容証明郵便で拒否理由を明白にして通知して拒否しようと思う。いつまで続けるかは未だ不明である。

私は以前、籾井会長がNHKの会長に任命されていた間の3年のうち籾井が辞めるまでの約2年半あまり受信料の支払いを拒否した。この時はNHKに内容証明郵便で通知した。何回か督促があったが、断り続け、籾井が辞めたので再開した。

今回の処置は籾井の個人的資質とは異なり、NHKの持つ本質的、構造的な権力忖度人事であり、これでは放送法4条の趣旨をNHKが安倍政権の前で自ら放棄するに等しい。

受信料拒否する者にNHKが裁判するなら私自らは受けて立つし,他の者に裁判でもあれば法的な支援は惜しまない気持ちである。

日刊ゲンダイの記事が間違いであると信じたい。

(2018年5月22日)

黙ってはならない ― 天皇制批判にもセクハラにも

4月29日。かつての天皇誕生日で、その前は天長節だった。戦争責任を免れた昭和天皇裕仁が誕生したこの日を選んで、「春の叙勲」受賞者が発表されている。その数4151人。かたじけなく、うやうやしく、天皇から格付けられたクンショウをもらってありがたがっているのだ。

この4151人に、芥川龍之介の言葉を贈ろう。

「軍人の誇りとするものは必ず小児の玩具に似ている。緋縅の鎧や鍬形の兜は成人の趣味にかなったものではない。勲章も―わたしには実際不思議である。なぜ軍人は酒にも酔わずに、勲章を下げて歩かれるのであろう?」

勲章をもらうのは軍人だけでない。なぜ良い齢をした大人が酒にも酔わずに、勲章をもらったことを人に知られて、それでも恥ずかしげなく往来を歩けるのであろうか。

たまたま、本日の東京新聞9面「読書」に、「沖縄 憲法なき戦後」(古関彰一・豊下楢彦共著)の書評が出ている。表題が、「米軍にささげた『捨て石』」というもの。沖縄を「捨て石」として米軍に捧げた人物、それがほかならぬ天皇裕仁である。

この書評が指摘するとおり、「沖縄に基地が集中したのは地政学上の理由ではなく、そこが『無憲法状態』にあったからだ」「沖縄の運命を決める政策決定の〈現場〉に、当の沖縄は不在だった。」「アメリカにフリーハンドを与えることを提案した昭和天皇の『沖縄メッセージ』の役割は大きい」(評者・田仲康博)。まことにそのとおりだ。今日は、この指摘を噛みしめるべき日だろう。

昭和天皇(裕仁)は、自由なき国家の主権者の地位にあったことだけで、責任を問われねばならない立場にある。のみならず、国の内外にこの上ない戦争の惨禍をもたらしたことについての最大の責任者でもある。さらに、敗戦後には何の権限もないはずの身で、沖縄を米国にささげたのだ。なんのために…。保身以外には考えられない。

そんな人物ゆかりの日に、クンショウもらってニコニコなどしておられまいに。

いま、天皇や天皇制を批判する言論に萎縮の空気を感じざるを得ない。アベやその取り巻きにおもねる言論が大手を振って、権力や権威の批判が十分であろうか。「国境なき記者団」が今月25日に発表した「報道の自由度ランキング・18年度版」では日本は67位とされている。昨年の72位よりも5ランク上げた理由は理解し難いが、43位の韓国や45位の米国の後塵を拝しているのは納得せざるを得ない。

言うべきことは言わねばならない。空気を読んで口を閉ざせば、空気はいっそう重くなるばかり。萎縮せず、遠慮せず、躊躇せず、黙らないことが大切だ。「私は黙らない」と宣言し続けねばならない。

昨日の新宿「アルタ」前での若者たちの『私は黙らない』行動。セクハラ批判に声を上げた彼らの行動を頼もしいと思う。持ち寄られたカラフルなプラカードには、「With You」「どんな仕事でもセクハラは加害」「私は黙らない」などの文字。

ここでも「勇気を出して声をあげる」ことが大切なのだ。一人の声が、他の人の声を呼ぶ。多くの人が声を合わせれば、社会の不合理を変える。「萎縮して黙る」ことは、事態をより悪くすることにしかならない。

集会は「いつか生まれる私たちの娘や息子たちが生きる社会のため、ここから絶対に変えていきましょう」との言葉で締めくくられたそうだ。

安倍や麻生が権力を握るこの時代。ときに絶望を感じざるを得ないが、社会の不当に黙ることなく声を上げる人々がいる限り確かな希望は消えない。天皇や天皇制や叙勲についての不合理の指摘や批判の言論についても、黙してはならない。
(2018年4月29日)

「落とし前をつけます」と宣告して始められた、議員に対するスラップ訴訟

遅ればせながら、「高須クリニック」(高須克弥院長)の大西健介衆院議員に対する名誉毀損訴訟の提訴について取り上げたい。昨日(4月23日)原告高須側に敗訴の判決言い渡しがあったとの報道だが、この判決の内容は、あまりに当然の「陳腐」なものとして論評に値しない。注目しなければならないのは「判決」ではなく、もっぱら「提訴」の事実である。もちろん、訴権濫用の提訴という観点からの注目である。なぜ、こんな事案で提訴までなされたのか。

信頼できるメディアが以下のとおり報道している。
「美容外科『高須クリニック』を運営する愛知県西尾市の医療法人が、大西健介衆院議員(希望)の発言が名誉を毀損したとして、大西氏と当時所属していた民進党などに計1千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は23日、請求を棄却した。
 判決によると、大西氏は昨年5月17日の衆院厚生労働委員会で、美容外科の広告規制問題に触れ「『イエスまるまる』と連呼するだけのCMなど非常に陳腐なものが多い」と発言した。
 河合芳光裁判長は、発言は高須クリニックを指していると指摘したが「直接評価を加えたものではなく、社会的評価を低下させるものではない」と判断した。(毎日新聞)

議員の院内での発言をとらえての提訴も乱暴極まるが、所属政党を被告にしたことはさらなる驚愕というほかない。議員の発言に対する請求の根拠は不法行為(民法709条)であろうが、所属政党に対してはどのような構成をしたのだろうか。使用者責任(715条)なのか、それとも共同不法行為(719条)か。いずれにしても、およそ原告側に勝訴の見込みがない。のみならず、良識ある社会人においてこのような訴訟は提起すべきではないのだ。議員や政党が、厳重に抗議をしないのが不思議である。

何よりも、名誉毀損とされた大西議員の発言は、議院(衆院厚生労働委員会)での演説または討論に当たる。仮に、その発言内容に、刑事・民事の違法があったとしても、責任を問われることはない。憲法51条は、「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」と規定するからである。

国会議員が、議院において自由に発言を行うことの保障がなければ、その職責を全うすることができない。院内における言論の自由を手厚く保障することによって、議員の自由な活動を促進し議会制度の適正を確保しようとする制度の趣旨である。

もちろん、不適切な議員の発言があれば、言論による反論は保障されている。議員のレイシズムにもとづく発言や、セクシャルハラスメントによる人権侵害には、断固言論で反論すればよい。高須クリニックは十分に言論による反論の力量を持っているではないか。

少し長くなるが、大西議員の当該の発言は後掲のとおりである。極めて真っ当であり、真摯な姿勢でもある。一見して、特定の医療機関や医師を攻撃の対象としたものではないことが明白である。美容整形外科診療という、消費者問題でもあり医療問題でもある特殊な分野において、現実に増大している患者・消費者の被害を、どう防止するかという観点からの法改正について有益な議論を展開している。むしろ、立派な質疑をしていると称賛してもよい。

大西議員の発言に、高須クリニックの名前は出てこない。問題の個所は、前後を端折ると分からなくなるので、まとまった文章として引用する。

  一方で、医療分野においては、先ほど言ったように、原則広告が禁止になっていて、非常に限定的な事項しか広告することが認められていない、医療機関名であったり、連絡先であったりということでありますので。だから、非常にCMも陳腐なものが多いんですね。
  皆さんよく御存じのように、例えば、イエス○○とクリニック名を連呼するだけのCMとか、若い女性が、〇一二〇で始まる電話番号とクリニックの名前を言いながらごろごろごろごろ転がっているCMというのを皆さん見たことがあるというふうに思います。あるいは、テレビでおなじみのニューハーフタレントが音楽に合わせて踊りながら○○美容外科というのをずっと言い続ける、こういうCMがよく見られるんですね。
  選挙でも、我々、名前の連呼というのをやります、名前の連呼というのを。確かに、知らない人の名前は書けませんから名前連呼するわけですけれども、ただ、名前連呼だけだったら、その候補者が何を考えているのかもわからない、誰に投票していいのかわからないということがあります。
  そういう意味では、こうしたクリニックの名前とか電話番号だけを連呼するこういう広告というのは、患者が医療機関や治療方法を選択する上では私は有用なものではないというふうに思うんですけれども、こういう広告というのは非常に陳腐だと思いますけれども、大臣はどのように思われますでしょうか。

 「たとえば、イエス○○」との言及は、消費者にとって適正な選択をするのに有益な宣伝広告はいかにあるべきかという議論のためで、これが名誉毀損となるとは、言いがかりも甚だしい。

ところで、社会には、特定の職業人に対する特定のイメージがある。政治家・官僚・教師・宗教者・文筆家・スポーツマン、それぞれである。弁護士のイメージはあまり良くはなかろうとの自覚はある。医師の職業人としてのイメージは、ヒポクラテスの誓詞を胸に収めている人ではないだろうか。教養人で軽挙妄動せず、患者第一と考えている人というのが、少なくとも私のイメージ。そのような多くの医師を見てきてもいる。

しかし、高須克弥という人物は、そのような医師のイメージからはほど遠い。ネットを検索すると、彼の提訴当時の発言が残されている。

 明日、顧問弁護士に連絡しておとしまえをつけます。ただでは済まさせません」

「今、顧問弁護士に民進党中西健介(ママ)議員に対して提訴するよう指示したぜ。」

 「売られたら買います。僕はアホで馬鹿です。喧嘩強いです」

 「ホテルニューオータニに顧問弁護士の伊藤先生に来てもらって作戦会議終了。 明日の朝、民進党大西健介議員と連坊(ママ)代表を提訴するぞなう」

  いったいこれが、人の命と健康を預かる医師の発言だろうか。本当に、いついかなるときでも冷静であることを要求される医療従事者の言なのだろうか。信じがたい思いである。おそらく、彼は、当日の厚生労働委員会の議事録に目を通していない。

「顧問弁護士の伊藤先生」なる人物がこの事件を受任したようだ。医師もいろいろあるように、弁護士もいろいろである。
先年、私がDHC・吉田嘉明から、スラップを仕掛けられたとき、たまたま逢った同期の弁護士に顛末を説明した。二弁の会長経験者である彼がこう言ったのが印象的だった。

「澤藤君。その手の訴訟は、僕なんかには何件も依頼がある。『悔しいから、慰謝料を請求したい。負けてもいいから引き受けてくれ』というんだな。もちろん一応は話しを聞いて、辞めた方がよいと説得する。もっと不愉快な思いをすることになりかねないとね。でも、どうしても聞き入れてもらえないときは、『僕はそういう弁護士ではない』と言って断るんだ」

高須クリニックの提訴に勝ち目はない。にもかかわらずの提訴には別の目的があったとしか考えられない。

 「弁護士に連絡しておとしまえをつけます。ただでは済まさせません」「売られたら買います。喧嘩強いです」という発言は、自らに対する批判を許さないという発信である。これが、批判の言論の萎縮を狙ったスラップである。「自分を批判すると面倒なことになるぞ」と恫喝する者に対する批判の言論に萎縮があってはならない。
(2018年4月24日)
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大西議員の発言は、2017年の第193回通常国会に提出された「医療法等の一部を改正する法律案(内閣提出第57号)」審議をめぐる厚生労働委員会でのもの。

問題とされた発言は5月17日のものだが、19日の議事録で、消費者委員会事務局長黒木理恵の答弁が、美容医療サービスの問題実態を簡明によく説明しているので、まずこれを抜粋する。

医療法等の一部を改正する法律案(内閣提出第五七号)
http://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku%20/009719320170519021.htm

消費者委員会事務局長黒木理恵君
○黒木政府参考人 お答え申し上げます。
消費者委員会では、委員御指摘のとおり、平成二十三年の十二月二十一日に、エステ・美容医療サービスに関する消費者問題についての建議を発出しております。その中で、美容医療サービスに関しましては、不適切なインターネット上の表示の取り締まりの徹底及び美容医療サービスを利用する消費者への説明責任の徹底等を求めたところでございます。
これを受けまして、厚生労働省では、ガイドラインを策定される等、一定の対策を講じられたものの、全国の消費生活センターに寄せられました美容医療サービスに関する相談件数は、平成二十三年度の約千六百件から平成二十六年度には約二千六百件に増加をいたしまして、対策の効果は十分とは言いがたい状況にございました。
このような状況を踏まえまして、消費者委員会において美容医療サービスに関する問題を再度調査審議いたしましたところ、消費生活センターに寄せられた美容医療サービスに関する相談事例において、そのきっかけとなった広告媒体がインターネット上のホームページなどの電子媒体が最も多く、その割合も平成二十三年度に比べ高まっていることや、美容医療のホームページにおいてガイドラインが遵守されていない事例が見受けられること、また、美容医療の事前説明同意に際して、あたかもリスクが少ない施術と勘違いさせるような説明等が見受けられることがわかりました。
そこで、これを踏まえまして、二十七年七月七日に、医療機関のホームページを医療法上の広告に含めて規制の対象とすること、少なくとも、医療法等で禁止されている、内容が虚偽にわたるものあるいは誇大なもの等についてはホームページについても禁止すること、また、消費者がリスクなどを正しく理解した上で施術を受けるかどうか判断できるよう、患者の理解と同意を得た上で施術を行うこと、説明を適切に行うこと等について建議を行ったところでございます。

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名誉毀損とされた大西議員の5月17日発言は、多岐にわたっているが、当該部分の前後だけを抜粋して紹介する。これだけでも、美容医療業界の問題点がよく出ている。全文は、下記URLをご覧いただきたい。

http://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku%20/009719320170517020.htm

○大西(健)委員 民進党の大西健介でございます。
テレビで盛んにCMをしている超有名な美容クリニックの医師のブログの中に次のような記述がありました。
最近は、美容クラークと呼ばれる専門のカウンセラーを雇っているクリニックも多く、美容クラークは個室で患者様と二人きりになって時間をかけて話し、括弧、これを専門用語でクロージングといいます、料金や効果の高い治療を受けるように説得し、場合によっては医療ローンを組ませるように促します。美容クラークさんは、生命保険の勧誘、セールスレディー出身の人が多く、人心掌握術にたけ、言葉巧みに勧めてきます。生命保険の勧誘と同じで、成約させた治療代金の何%かがインセンティブとして歩合給になるので、患者様の幸せよりも自分の利益を優先し、必死に勧めてきます。
これは実際にブログに書いてあるんです。有名な、テレビにも出ている美容クリニックの医師の先生が書いているブログです。その人は、うちはそういうことはやっていませんよということを書いているんですけれども。
消費者被害のパターンを実際に見ましても、無料カウンセリングを受けたらいろいろと強引に説得されて契約するまで長時間拘束されたり、廉価の、安い手術を受けるつもりだったのが、あなたの場合はこのコースでは効果が出ませんよと言われて、説得を受けて、オプションを追加するなど高額な契約に誘導されるというケースが多く見られるということであります。
私は、この後議論する広告のあり方もさることながら、こういう勧誘のあり方に問題があるのではないかというふうに思っていますが、こうした不当な勧誘行為に何らかの規制を行うことはできないんでしょうか。

○神田政府参考人 お答えいたします。
インフォームド・コンセントにつきましては、先ほど申し上げましたように、医療法に基づきまして、医師、看護師等の医療の担い手が医療提供するに当たっては、適切な説明を行って、医療を受ける者の理解を得るように努める旨、規定をしているところでございます。
厚生労働省では、美容医療サービス等の自由診療におけるインフォームド・コンセントの取り扱い等について通知等を発出いたしまして、医療を受ける者の適切な選択を阻害することがないよう、実施しようとする施術の有効性、安全性、費用等について説明しなければならないというふうにするとともに、虚偽、誇大な情報を用いて説明してはならないというふうにいたしております。
それから、その中では、美容医療というのは即日施術をしなければならないというものではございませんので、即日施術を強要する等の行為は厳に慎むべきであるということもお示しして、指導をしているところでございます。
厚生労働省としては、個々の事例について問題があれば、地方公共団体と連携をして、行政指導等の適切な対応を行っていきたいというふうに考えております。

○大西(健)委員 ちょっと何か答弁が私はずれているような気がしますけれども。
言っているのは、まさに部屋に閉じ込めてなかなか出してくれない、契約をするまで、あるいは、初めは安いものを受けるつもりで、あるいは無料カウンセリングを受けるつもりで行ったのが、どんどんオプションを追加したらどうですかと説得される、こういうやり方がおかしいんじゃないかということなんです。
これは、先ほどの特商法の改正が今検討されているということでありますけれども、そうなれば、クーリングオフや中途解約と同時に、こういう不当な勧誘行為も私は特商法の方で問題になるんじゃないかというふうにも思いますので、そこは消費者庁と連携をしてしっかりやっていただきたいというふうに思います。

さて、広告の話にちょっと入っていきたいと思うんです。
今回の医療法では、医療に関する広告規制の見直しが含まれているわけですが、そもそも医療分野は人の生命身体にかかわるものであり、また専門性が高いということで、広告が原則禁止のような非常に強い規制がかかっているということであります。
ただし、美容医療というのは、今、医政局長の答弁の中にも少しありましたけれども、普通の医療とはちょっと違う。つまり、何かすぐ治さないといけない病気があるわけじゃなくて、客観的な医療の必要性ではなくて、患者の主観的な意向に沿って施術が行われる、また、結果についても、きれいになったかどうかは患者の主観で決まる、また、美容医療を受けたことがある人は普通は他人には余り自分から言いませんから、私、美容医療を受けたのよというのは、ですから、口コミというのが余り機能しない、それから自由診療であるので非常に金額が高くなる、こういういろいろな特徴が医療の中でも少し違うんだろうなと。だから、派手な広告であったり、強引な勧誘による集客行為が行われやすい傾向があるのではないかというふうに思います。

一方で、医療分野においては、先ほど言ったように、原則広告が禁止になっていて、非常に限定的な事項しか広告することが認められていない、医療機関名であったり、連絡先であったりということでありますので。だから、非常にCMも陳腐なものが多いんですね。

皆さんよく御存じのように、例えば、イエス○○とクリニック名を連呼するだけのCMとか、若い女性が、〇一二〇で始まる電話番号とクリニックの名前を言いながらごろごろごろごろ転がっているCMというのを皆さん見たことがあるというふうに思います。あるいは、テレビでおなじみのニューハーフタレントが音楽に合わせて踊りながら○○美容外科というのをずっと言い続ける、こういうCMがよく見られるんですね。

選挙でも、我々、名前の連呼というのをやります、名前の連呼というのを。確かに、知らない人の名前は書けませんから名前連呼するわけですけれども、ただ、名前連呼だけだったら、その候補者が何を考えているのかもわからない、誰に投票していいのかわからないということがあります。

そういう意味では、こうしたクリニックの名前とか電話番号だけを連呼するこういう広告というのは、患者が医療機関や治療方法を選択する上では私は有用なものではないというふうに思うんですけれども、こういう広告というのは非常に陳腐だと思いますけれども、大臣はどのように思われますでしょうか。

○塩崎国務大臣 テレビコマーシャルで、今お取り上げをいただいたようなのを私も見たことがございますけれども、医療法の広告規制の対象にテレビコマーシャルについてもなっているわけで、医療機関の名称については現行の広告規制において広告可能な事項ということに一応なっています。

現行の広告規制の範囲内でいかなる広告を行うかというのは個別の医療機関の判断でありますけれども、そこはどういう、何というか矜持を持ってやっているのかということがそこに出るものでありますので、法律に触れていない限りはやってはいけないということにはならないんだろうなと思いますけれども、それと少し違う価値観はあり得るというふうに私も思っております。

○大西(健)委員 私はバランスが悪いと思うんですよね。

だから、一方では電話番号と名前しか連呼しない。でも、これで今回法改正が入るわけですけれども、ホームページに行けば今はホームページはもう全くフリーになっている。あるいは、後で言いますけれども、では、チラシとか、雑誌に掲載されている広告とか、フリーペーパーに出ている広告というのはどうなのかというと、これはもうまたひどいものなんですよ、後でこれは指摘しますけれども。

ですから、これは何か、ある部分で非常に厳しくしているんだけれども、その分何か別のところで非常にゆがみが生じてしまっている。

ですから、さっき言ったように、本来は、患者さんが治療方法とかクリニックを選択する上で有用な情報であれば私は別にテレビCMでも流してもいい。ただ、先ほど来言っているような、間違った誘引をするようなとか虚偽のとか、そういう内容についてはしっかりチェックをかけていかなきゃいけないけれども、今言ったように、ある部分ではすごく厳しくしているからクリニック名だけ言っているんですけれども、ある部分ではめちゃくちゃやっているわけですよ。このアンバランスというのを、大臣、どのように思われますか。

○塩崎国務大臣 なかなか難しい問題だと思いますが、やはり誇大広告とか明示的にやってはいけないことをやっていない範囲内でいろいろなことを考えておやりになっている方がおられるんだろうというふうに思いますが、そこのところをどう規制するかというと、やはりなかなかそう、違法なことをやっていない限りは規制がしづらいというのが実態で、それを見てどう思うかということは、いろいろあろうかというふうに思いますので。

実態として、人を間違った方向に引っ張っていくようなことがあればそれは当然規制をしなきゃいけないことになろうかと思いますが、そうではない範囲内であれば、なかなか直接的な規制を加えるというのは難しいのかなというふうに思っているところでございます。

○大西(健)委員 私はやはり個人的にちょっと規制の仕方を見直した方がいいんじゃないかなと思っているんですね。

というのは、派手なテレビCMを流すことで名前を刷り込みして、テレビCMでもやっているあの大手だから大丈夫というように信じ込ませるという、これはブランド戦略だと思うんですけれども、それは、できるところはばんばん金かけてやるわけですよ。ですから、これがちょっとゆがんでいると思うんですね。

この派手な宣伝広告には当然多額の費用がかかります。

例えば、これもちょっとあれですけれども、あるものに書いてあったんですけれども、スーツ姿の医師たちが、好きな言葉は向上心です、好きな言葉は感謝です、私たちは○○美容外科のクリニックのドクターです、こういうことを言っている、またこれは意味不明のCMなんですけれども、ここは、月、放映料に四千万かけている。これだけの金がかけられているわけです。それで自由診療ですよ。

ですから、美容クリニックでは売上高に対する宣伝広告費が三〇%から多いところでは五〇%に達する、こういうふうな指摘があります。こうした多額の費用をかけてこれを回収しようとするから、無理な勧誘だとかさまざまなトラブルが生じるその要因になっているんじゃないかというふうに私は思います。

この点、売上高に占める宣伝広告費の割合について、美容クリニックのまず実態調査、今私が指摘したみたいに、いろいろなものを調べると、売上高の三〇%から五〇%、それぐらいの割合を広告費にかけているという話がありますけれども、本当にそうなのか。まず、これは実態調査していただきたい。その結果、もしそういうことがあるんだったら、私が言ったように、それだけ宣伝広告費をかけたらそれを回収しようとするわけですから。ですから、必要があれば広告費の総量規制とか、そういうやり方もあるんじゃないかというふうに思いますが、いかがでしょうか。

○神田政府参考人 広告宣伝費について実態調査をしてはどうかということでございますけれども、使途を規制するということについてはなかなか難しいのではないかと思いますけれども、美容関係の団体の連絡会をつくりまして、私ども、規制の周知ですとか、そういう取り組みを進めていきたいというふうに考えておりますので、そういった関係団体を通じて、どれぐらい広告宣伝費をかけているのかということについては調査をすることは可能かと思いますので、そういったルートを通じて把握について検討したいと思います。

○大西(健)委員 よく病院の経営実態調査とかをやられるわけじゃないですか。ですから、私は、ぜひ、美容医院がどれだけ広告宣伝費を使っているのか、これを一回調べてみたらいいと思いますよ。ぜひやっていただきたいというふうに思います。

テレビCM以外でも、折り込みやポスティングのチラシ、週刊誌やフリーペーパーなどに掲載された広告なども、当然のことですけれども、医療広告の規制の対象になっています。でも、さっき言ったように、テレビのCMは名前と電話番号しか言わないけれども、この今からお話しする週刊誌とかフリーペーパーに載っている広告というのは、これはもう大変野放しの状態だと私は言っていいと思います。

きょう、私、ここに女性週刊誌、それからうちの地元で普通の店に置いてあるフリーペーパーを持ってきましたけれども、この中を見ると、さまざまな美容医療の広告が打たれているんですけれども、そのうち幾つかを皆さんのお手元に資料としてお配りしました。

まず、資料のちょうど一枚目の裏ですけれども、これは週刊女性に掲載されていた広告ですけれども、ここに書いてあるこの「アクアミド注射」というのは、そもそも法律の承認を得た治療法ではないので書けないんです。「九九%の人が非常に満足」、こういう客観的な根拠に欠ける記述もできないはずであります。あるいは、「糸リフト」「片側一本で二歳ぐらい」「片側三~四本入れれば六~八歳」「片側五本入れれば十歳ぐらい若く見えるようになる」、これも主観的な話なので書けないんです。

それから、次のページ、次の広告、これは私の地元のグルメ情報とかが書いてある普通のフリーペーパーです。これに入っていた広告ですけれども、これは先ほどの、女性がぐるぐる床を転がる派手なCMをしている、全国に二十七院を展開している大手の美容医院の広告ですけれども、これは、違反表示のオンパレードですよ。丸をつけたところを見てください。

まず、一番上に豊胸手術、「豊胸術」のやつが載っていますけれども、それ以外にも全部ビフォー・アフターの写真が載せてあるんです。これはやっちゃいけないことになっているんです。しかも、これは、きのうちょっと聞いてみたら、この胸のところがきらきらっとしているんですけれども、こういうのもだめだそうです。こういうのもだめだそうです。

また、あちこちに「口コミサイト」「愛知県」「第一位」という優良性を示す記述があります。これもだめです。それから、「ヒアルロン酸注入法」「バストアップ」とか「サーマクールCPT」、これも承認を得ていない治療法で書けないはずであります。あるいは、「初回特別限定価格」という、実際、標準的な価格が幾らなのかよくわからない、何かいかにも安くてお得なように誘引するような言葉が並んでいる。

これは、本当に、最大手でテレビでばんばんCMを打っているところですよ。だから、さっきも言ったように、テレビCMは名前と電話番号しか言わないけれども、このフリーペーパーに載っている広告は違反表示のオンパレードなんですよ。ですから、これが私はおかしいんじゃないかと。

次のページも、これはフリーペーパーに載っていたものですけれども、「初回トライアル半額」「リピート率No.1」「切らずに十才若返り」「人気No.1」、それから「特別技術指導医」という、この特別医というんですかね、こういうのも書けない記述になっています。また、「今まで何をしても効果のなかった目の下の小じわが気にならなくなりました(四十代女性)」、こういう意図的な体験談まで載せてある。

厚労省にはこの広告を事前に渡して、目を通してもらっているはずですけれども、今私が指摘したような記述は全て違反表示ということでいいか。また、一つの広告についてもこれだけ多くの違反表示がある。また、こうした広告は、私がきょう持ってきているこういう週刊誌とかあるいはフリーペーパーにもうあふれているんですよ。こういう現実を今厚労省はどのように受けとめているか、医政局長から御答弁いただきたいと思います。

○神田政府参考人 先ほど先生から御指摘ございましたように、ここに掲載されているものは、多くは自由診療ということでございますので、まさに広告が制限されている事項でございます。

それから、リピート率ナンバーワンですとか、そういった比較広告も禁止されているものでありますし、十歳若返るとか、そういったことも誇大な広告に当たるのではないかというふうに考えております。

それから、特別技術指導医というものも、医師の専門性に関する事項については一定のものしか広告ができないということですので、実体のないような資格については広告できないということでございますので、いずれも先生御指摘のとおりかというふうに思っております。

それから、価格が今行うと安いというような費用を強調した広告につきましては、ガイドラインの中で、適切な選択を阻害するおそれがあるということで、医療に関する広告として適切ではないとして厳に慎むべきものとしているところでございまして、今後、こうしたものについてさらに指導の徹底を図っていく必要があるというふうに考えております。

○大西(健)委員 大臣も今、これはちょっとちっちゃいですけれども、見ていただいたと思うんですけれども、御感想があればいただきたいと思います。

○塩崎国務大臣 今局長から答弁したように、違反のオンパレードになっているわけでありますので、そういうところはやはり是正をしていかなきゃいけないというふうに思います。

○大西(健)委員 先ほどの繰り返しになりますけれども、お金をかけてテレビCMを打てるところは、ばんばんお金をかけてテレビCMを流して、そして名前を刷り込む。そうやってテレビでCMを打っている大手だから大丈夫だろうと思ったら、その大手が、今私が示したこの事例の二ページ目のこの表のやつ、その最大手ですよ、左の上に「TVCM好評放映中!!」と書いてあるじゃないですか。ここが、この違反のオンパレードの広告を平気でフリーペーパーに載せているんですよ。
資料の最後に東京都が行った調査というのをつけていますけれども、平成二十七年に、東京都がチラシ等における美容医療の広告調査の結果というのを発表しています。ここに「調査の目的」云々と書いてありますけれども、「調査対象」、新聞の折り込みチラシ、ポスティングチラシ、町中のカフェ、駅頭のスタンド、地下通路、郊外ではスーパーマーケットの店舗内で配布されているクーポン雑誌等のフリーペーパー、一般雑誌、今の週刊女性のような週刊誌ですね、これを調査対象としたと。
これは、右を見てください。百四十件の調査員の判断、不当と思われる表示百三十四件、不当と思われる表示なし六件ですよ。まともなやつは六件しかないんですよ、百四十件のうち。百三十四件、ほとんどが違反。これが野放しにされているんですよ。これが私は最大の問題だと思いますよ。
これを野放しにしておいて、今回、ホームページを今度規制の対象にします、そして、ウエブの監視体制を強化すると。これは、外部の業者に委託してウエブを監視してもらうと言っていますけれども、さっきから私が言っているように、私の地元で普通にどこにでも置いてあるフリーペーパーとか、みんなが、美容院に行ったら奥様方が読む女性週刊誌とかにこれだけ違反の広告が堂々と載っていて野放しになっている状況でそんなことを言っても、私は全く信憑性はないと思いますよ。信頼性がないと思いますよ。

ですから、これは都道府県がやるということですけれども、大臣、ちょっとこの個別のケースを、私が言ったやつを都道府県に伝えておきますときのう厚労省が言っていたけれども、そういう問題じゃないんです。さっきの東京都のやつに、百四十件調査して百三十四件は違反表示なんです。まともな表示の方が少ない。これをちゃんとやらないで新たにホームページを規制対象にしますと言っても、ちゃんちゃらおかしいと私は思いますけれども、大臣、いかが思われますか。(以下略)

「安倍は歴代の首相でもっとも愚か。論理的能力に欠ける。バカほど恐ろしいものはない」という言論に違法はない。

昨日(4月14日)の国会前大集会。本日の赤旗によると、主催者発表の参加者数は5万人だったという。一面の写真がすごい。国民の怒りのマグマを実感せざるを得ない。これで、安倍政権がもつはずがなかろうと思うのは甘いのだろうか。
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-04-15/2018041501_01_1.html

ところで、その集会で某有名教授が熱弁を振るって、聴衆を大いに沸かせた。そのなかに、次の一節があった。
「安倍は歴代の首相でもっとも愚か。論理的に考える能力が著しく欠ける。しかし、バカほど恐ろしいものはない。自らが愚かな者は批判者を強権で弾圧するしかないからだ」

このスピーチへの盛大な共感の拍手と喝采にまじって、「あそこまで言って、大丈夫かしら」という、小声のつぶやきが聞こえた。拍手した人の中にも、刑事弾圧や民事の損害賠償提訴を心配の気持があったかも知れない。

そこで書き留めておきたい。心配することはない。この程度のことは言ってよいのだ。この程度のことを言えない社会にしてはならない。端的に言えば、「隣のおじさんはバカだ」と言ってはいけない。しかし、しかるべき場で「首相はバカだ」と言ってもよいのだ。

同じ行為に対して、刑事罰の発動と民事判決による制裁とでは要件の厳格さが異なる。ある行為を対象として、これを起訴して有罪判決を得るための刑事罰のハードルは、民事賠償や謝罪広告を命じる判決よりも、はるかに高い。そこで、「安倍は愚か。バカほど恐ろしいものはない」が、民事的な制裁の対象となり得るかを検討してみたい。

問題の大枠は、「表現の自由という憲法的価値」と、「個人(安倍晋三)の人格権の尊重という憲法的価値」の衝突を、どう調整するかという課題である。

この点についての最高裁判例の立場は、必ずしも「先進国水準」に達しているとは言えないが、こんな基本構造となっている。

ある批判の言論が、「公然たる事実の摘示によって、原告(被批判者)の社会的評価を低下させた」と認められれば、名誉毀損行為として原則違法である。

ある言論が、人(原告)の社会的評価を低下させた場合でも、次の3要件を被告(批判者)の側で立証できれば、違法性が阻却されて請求棄却の原告敗訴判決となる。

違法性棄却の3要件とは、
(1)表現の内容が公共の利害に関するものであること(公共性)、
(2)表現の目的がもっぱら公益を図るものであったこと(公益性)、
(3)表現内容の重要部分あるいは論評の根拠が真実であること(または、真実と信ずるにつき相当の理由があること)(真実性・相当性)。

「安倍は愚か。バカほど恐ろしいものはない」の言論が、公共性・公益性を具備していることに、疑問の余地はない。そして、「安倍は愚か。バカほど恐ろしいものはない」という論評ないし意見の根拠に真実性・相当性があることも明確なのだ。

但し、表現内容が不必要な人身攻撃におよぶなど、意見・論評として許容される域を逸脱したものとされた場合には、名誉毀損にはならなくても侮辱として違法にはなり得る。なお、仮に侮辱になったとしても、慰謝料額は名誉毀損に比較してはるかに低額である。

類似した参考判例として適切なものが、「弁護士バカ」事件として、知られているもの。正確には、「世間を知らない弁護士バカ」という表現が名誉毀損ないしは侮辱に当たるのかが争われた事例。

原告は弁護士の稲田龍示(稲田朋美の夫)、被告は新潮社。週刊新潮の記事をめぐる名誉毀損訴訟である。

この件については、当ブログで何度か言及している。以下の2ブログをご参照願いたい。自分で読み返して、力がはいっていると思う。

「『弁護士バカ』事件で勇名を馳せたイナダ防衛大臣の夫は防衛産業株を保有」
http://article9.jp/wordpress/?p=7458  (2016年9月18日)

「イナダ敗訴確定の名誉毀損訴訟は、DHCスラップ訴訟と同じ構造」ー 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第103弾
http://article9.jp/wordpress/?p=8637   (2017年6月2日)

「弁護士バカ」事件の顛末は、報道を総合すれば次のとおりである。
「自民党の稲田朋美政調会長への取材対応をめぐり、週刊新潮に『弁護士バカ』などと書かれて名誉を傷つけられたとして、稲田氏の夫の龍示氏が発行元の新潮社と同誌編集・発行人に慰謝料500万円の支払いと同誌への確定判決の掲載を求め、大阪地裁に提訴した。提訴は2015年5月29日付。」

「同誌は15年4月9日号に「『選挙民に日本酒贈呈』をない事にした『稲田朋美』政調会長」との見出しの記事を掲載。その中で龍示氏が同誌の取材に対し、『記事を掲載すれば法的な対抗手段をとる』と文書で通告してきたことを暴露した。そのうえで、『記事も見ないで“裁判!裁判!”の弁護士バカ』『恫喝だと気づかないのなら、世間を知らない弁護士バカ以外の何ものでもない』と書いた。龍示氏は『掲載を強行しようとする場合に、訴訟などの手段を予告して事態の重大性を認識してもらおうと試みるのは正当な弁護活動』と主張。週刊新潮編集部は『論評には相応の理由と根拠がある』と反論している。」

「2016年4月19日に判決言い渡しがあり、大阪地裁は『論評の域を出ない』として請求を棄却した。増森珠美裁判長は判決理由で、『記事は社会的評価を低下させるが、稲田政調会長の公選法違反疑惑を報じた内容で公益目的があった』と認定。『「弁護士バカ」との表現も論評の域を逸脱しない』とした。」

敗訴の原告は、懲りずに大阪高裁に控訴して控訴棄却となり、さらに上告・上告受理申立をしたが、すべて斥けられて、2017年7月10日に確定している。

この事件。メディアでは次のように紹介されている。
「問題になったのは、同誌(週刊新潮)15年4月9日号の記事。当時自民党の政調会長だった稲田(朋美)氏への取材で、代理人として対応した龍示氏(稲田朋美の夫)について、『世間を知らない弁護士バカ』と書いた。一、二審判決はともに『表現は穏当さを欠くが、論評の域を出ない』として龍示氏の請求を棄却していた。」(朝日

言論の自由は、権力批判のためにこそある。「自民党政調会長の夫」に、「世間を知らない弁護士バカ」と言っても損害賠償の対象とされることはない。いわんや、内閣総理大臣批判の言論においてをや。「安倍は愚か。バカほど恐ろしいものはない」という貴重な最高権力者批判の言論に対する攻撃を許してはならない。
(2018年4月15日)

「辛淑玉氏からの提訴はスラップ訴訟」という石井孝明の認識を嗤う

辛淑玉さんが、ジャーナリスト石井孝明を被告として、名誉毀損損害賠償請求訴訟を提起した。一昨日(3月16日)のこと。名誉毀損言論の媒体はツイッター、請求金額は550万円。

BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会が、DHCテレビ制作のデマとヘイトの情報番組「ニュース女子」放映に関して、辛さんの名誉を毀損する人権侵害が成立すると認めて、TOKYO MXに対して再発防止の勧告をおこなったのが、3月8日。ところが、その後も辛さんに対する誹謗中傷ツイッターが絶えないという。そこで、代表格の石井孝明への提訴となったとこと。

朝日の報道では、「訴状によると、辛氏は2016年11月~18年2月、ツイッターで多数回にわたり、石井氏から名指しで「縁もゆかりもない、沖縄で、総連の裏金使って訪問して踊っている」「総連?の使う工作員」などと言及された。17年10月には、ツイッターで「日本人への罵声を繰り返す外国人辛淑玉」「極右が焼き討ちしかねない」などと発言され、安心して生活する権利を侵害されたと主張している。」

訴訟における請求原因は、「被告(石井)は、その言論(ツイッター)において、『原告(辛)は、北朝鮮など外国政府から指示や資金提供を受けて、日本国内で違法な諜報活動をおこなうスパイやテロリストである』と事実を摘示して、原告の社会的評価を低下させた。」ということになる。

被告は抗弁において、この言論の公共性、公益性、そして真実性(ないしは相当性)を立証しなければならない。衆目の一致するところ、それは無理な話しだ。石井の敗訴は火を見るより明らかといってよい。

石井は、身をもって、「デマやヘイトの言論には、損害賠償の責任が伴う」という実例を示すことになる。そのことを通じて、ネトウヨ諸君に、「愚かな言論は慎むべし」と教訓を垂れる反面教師の役割を果たすことになる。

私は、この訴訟の成り行きを特別に注目せざるを得ない。その理由は、石井が「私はこの訴訟をいわゆるスラップ訴訟であると認識しています」と公言したからだ。苦し紛れにもせよ、何と愚かなことを。

これまではDHC・吉田嘉明に言ってきた言葉を、石井にも言っておかなければならない。
「誰にも、デマやヘイトを語る権利はない」「言論の自由の美名で、デマやヘイトを語ることは許されない」「デマやヘイトで他人を傷つければ、民事刑事の法的責任が問われる」

石井の如く「デマやヘイトで他人の人格を傷つければ、民事訴訟において損害賠償を請求される」のは当然のことで、不当に毀損された名誉を回復するためのこの提訴をスラップとは言わない。

スラップとは、典型的にはDHC・吉田嘉明が私(澤藤)にしたような、正当な言論を嫌って、正当な言論の萎縮を狙う、恫喝的な提訴をいう。自分の権利救済を目的とするよりは、自分への批判の言論を封殺することを目的とした提訴。多くの場合、高額損害賠償(私の場合は6000万円)をふっかけることで、恫喝の効果を狙う。辛対石井の訴訟は、スラップとはまったく様相を異にしているではないか。

以下は、下記URLで、石井自身が述べている提訴を受けての「弁明」である。
http://blog.livedoor.jp/ishiitakaaki3/archives/7759599.html

分かりにくいが、小見出しもそのままに引用する

「訴状が到着してから、詳細を言及したいと思います。

目的

私はこの訴訟をいわゆるスラップ訴訟であると認識しています。

辛淑玉氏は、自分が日本に差別されたという主張、外国の力を使う沖縄独立を主張を繰り返し、在日外国人でありながら日本国内の軍事基地建設の妨害工作を支援してきました。私には人権侵害の意図はなく、彼女のその行動と発言を批判しました。

誹謗について

総連の裏金などの言及をしたとのことですが、詳細は存じませんが、実は1年ほど前に、訴訟提起の前に大半を自発的に削除しており、社会的影響はないと思われます。なぜツイッターという動きの速く、過去の検索をしない短文SNSで1年前の話を蒸し返すのか理解に苦しみます。また国会などでも、山田宏参議院議員が指摘したように北朝鮮関連団体の挺身隊対策協議会と一緒に辛淑玉氏は沖縄問題で動いています。外国人でありながら内政干渉行為を繰り返しています。これは異常な行為です。北朝鮮関係者によって基地妨害工作が行われて居るという、公的な目的の提起のための言及の一環であり、その言葉尻をとらえて攻撃するのは、おかしいと思います。

また彼女を「工作員」など、露骨に述べたものは記憶にありません。」

 また彼は、スリーパーセルの言及について「一種の冗談であり、そもそも外国勢力を利用した沖縄独立を主張する話を批判した論評です。これ以外に記録はありません。これで訴訟を起こすのは理解に苦しみます」などとも言っている。

何ともみっともない、締まらない弁明。自分の言論に責任をもつという気概が微塵もない。「訴訟提起の前に大半を自発的に削除しており、社会的影響はない」「彼女を『工作員』など、露骨に述べたものは記憶にありません」「一種の冗談」では、ジャーナリスト失格だ。ジャーナリストたる者、確固たる事実に基づいて信念にしたがった論評を展開しなければならないのだから。

石井の「辛淑玉氏は、自分が日本に差別されたという主張、外国の力を使う沖縄独立を主張を繰り返し、在日外国人でありながら日本国内の軍事基地建設の妨害工作を支援してきました。私には人権侵害の意図はなく、彼女のその行動と発言を批判しました」との一文は、拙劣ながらもこんな構造だろう。

1 辛淑玉氏は、
①自分が日本に差別されたという主張
②外国の力を使う沖縄独立を主張
を繰り返し、

(辛淑玉氏は、)
③在日外国人でありながら日本国内の軍事基地建設の妨害工作を支援してきました。

2私(石井)には
④(辛に対する)人権侵害の意図はなく、
⑤彼女のその行動と発言を批判しました。

石井が批判したという「彼女のその行動と発言」とは、
③の行動と、①②の発言のことと理解するしかない。

「①自分(辛)が日本に差別されたという主張」
を批判することは、よほどの配慮ない限りヘイトとならざるをえない。

「②外国の力を使う沖縄独立を主張」
というまとめ方が、真実性の立証という高いハードルを乗り越えない限りデマである。

「③在日外国人でありながら日本国内の軍事基地建設の妨害工作を支援してきました。」
という決め付けはデマそのものというほかはない。このことは、BPO人権委員会勧告で明確になっていると言ってよい。

そもそも、これだけ誹謗を重ねる言論をしておいて、
「私(石井)には ④(辛に対する)人権侵害の意図はなく、」
などと開き直ることは無意味である。

「⑤彼女のその行動と発言を批判」の違法性阻却も免責もあり得ず、石井は謝罪と賠償をしなければならない。

なお、私は石井のことをよく知らない。ウィキペディアの以下の記載を見て、なるほどさもありなんと納得した。こんな程度の人物なのだ。

「漫画、「美味しんぼ」の東日本大震災における原発事故を反原発の視点で描いた「第604話 福島の真実その22」の中で、福島での被曝由来を思わせる鼻血描写に福島差別との批判が集まる中、石井はTwitter上で美味しんぼに対する猛批判を展開した。2014年5月7日、福島県や双葉町が版元である小学館に「風評被害」であると抗議文を送った流れを受け、石井が「(作者である)雁屋哲をリンチしましょう」とツイートしたところ一転、自身も猛批判にさらされた。批判を受けた石井はリンチの語感を誤解していたと釈明、当該のツイートを削除した。

Webサイト「agora-web」にて、精神科医の香山リカに対して「精神疾患に罹患している。」「参加している運動が外国政府から資金が提供されている。」「組織暴力団や極左暴力集団と繋がりを有している」などと書き、誹謗中傷や名誉棄損を繰り返していたとして香山が石井を提訴。謝罪文を掲載することを条件として、民事訴訟法第267条に基づく裁判上の和解が2017年2月20日に成立。石井は「私は、このような事実と異なる記事を作成し、「agora-web」上に掲載したことにより、香山リカさんの名誉を不当に傷付けたことについて、心より反省し、謝罪いたします」と自身のブログにて謝罪した。」
要するに、軽率で懲りない人なのだ。
(2018年3月18日)

 

 

DHC制作番組『ニュース女子』の人権侵害が明確に ― 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第126弾

本日(3月8日)、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会は、TOKYO MXの番組『ニュース女子』の放送が、辛淑玉さんの名誉を毀損したと判断し、放送倫理上の問題があるとして、同放送局に再発防止に取り組むよう勧告した。

辛さんが申立人となっていた、「沖縄の基地反対運動特集に対する申立て」に関する同委員会決定においてのことである。この件の被申立人は放送局であるTOKYO MXだが、『ニュース女子』は「持込番組」であって、DHCの子会社「DHCテレビジョン」が企画・制作し、DHCがスポンサーとなって放送したもの。TOKYO MXは企画、制作に関わっていないが、「持込番組」であっても放送局が放送責任を負うことは当然であり、TOKYO MXもこれを争わなかった。

この決定に対するTOKYO MXの本日付コメントは、以下のとおりである。

「本日、BPO放送人権委員会より、のりこえねっと共同代表の辛淑玉氏から申立てがあった2017年1月2日・9日放送の情報バラエティ番組「ニュース女子」の沖縄基地問題の特集について、審理の結果、本件放送に名誉棄損の人権侵害があり、放送倫理上の問題があるとの勧告を受けました。
当社は、この勧告を真摯に受け止め、現在進めている再発防止策を着実に実行して、信頼される放送の推進に努めて参ります。」

謝罪文言こそないものの真摯なコメントにはなっている。今月限りで『ニュース女子』の放映は終了し、DHCと手を切ることも決めているという。最大のスポンサーであるDHCと手を切って、真っ当なメディアとしての再出発を目指しているものと評価し得よう。

これに比較しておよそ反省のないのが、沖縄差別・在日差別・人権侵害の番組を自ら制作したDHCテレビであり、そのスポンサーとなったDHCである。DHC・吉田嘉明は、根っからのレイシストで、このような番組を作成したことにも、BPOから2度の指摘を受けたことにも、なんの反省の弁もない。

私(澤藤)は、DHC・吉田嘉明の「カネで政治を動かそうという姿勢」を批判して、彼から6000万円請求のスラップ訴訟をかけられた。当然のことながら、一審から最高裁まで勝訴して、今は、その反撃訴訟を闘っている。彼の政治理念や思想の根底に、民族差別があることを知ったのは、スラップ訴訟の経過の中でのことである。醜悪な民族的優越意識の持ち主なのだ。BPO決定を読むと、なるほどレイシストのやりそうなこと、なるほどDHC・吉田嘉明らの制作した番組と思わせる。反省などあり得ないのだろう。

なお、同決定の骨格は以下のとおりである。
決定は、結論として本件放送がつぎのAおよびBの2つの事実を摘示していると判断している。地上波の放送で、信じがたいこの内容である。
「摘示事実A」 申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動を職業的に行う人物でその黒幕である。
「摘示事実B」 申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動の参加者に5万円の日当を出している。

この事実の摘示が、申立人(辛淑玉さん)の社会的評価を低下させるものであるところ、その真実性の立証も、真実と信じるについての相当性の立証もない、と端的に認定している。

この認定は、そのまま民事訴訟における名誉毀損損害賠償請求に使える。辛さんの意思次第で、提訴が可能だ。その場合は、名誉毀損行為の実行者である番組出演者からDHC・吉田嘉明までを連名で被告にして、共同不法行為責任を問うことができる。そのような訴訟の帰趨をこの目で見たいという衝動に駆られる。

なお、本日の辛さんの記者会見での発言が心に残る。
「涙が出た。放送人としてやってはいけないことを明確に示してくれた。日本社会には良心がまだあると思った」とBPOの判断を評価する一方、「ネットは散弾銃だ。撃たれたら拡散する。検証する術がない」と、このデマとヘイトの放送のあとに集中したネットからの攻撃の恐怖を語った。身の危険を避けるためにドイツに避難していたことも明かしたという。

足を踏まれた者の本当の痛みは本人でなければ分からないのだろうが、不当な仕打ちに悲鳴を上げている人の痛みを理解できるようになりたいと思う。

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本日のBPO決定の全文は以下のURLで読むことができる。 https://www.bpo.gr.jp/wordpress/wp-content/themes/codex/pdf/brc/determination/2017/67/dec/k_mx_67.pdf

2018年(平成30年)3月8日
放送と人権等権利に関する委員会決定 第67号
「沖縄の基地反対運動特集に対する申立て」に関する委員会決定― 勧 告 ―
申立人  辛 淑玉
被申立人 東京メトロポリタンテレビジョン株式会社(TOKYO MX)
苦情の対象となった番組 『ニュース女子』
放送日時 2017年1月2日(月)22時から23時のうち 冒頭16分
2017年1月9日(月)22時から23時のうち 冒頭 7分

【決定の概要】
TOKYO MXは2017年1月2日、『ニュース女子』で沖縄の基地問題を取り上げ、1月9日の同番組では1月2日の放送に対する視聴者からの反響について冒頭で取り上げる放送をした。『ニュース女子』は「持込番組」であり、TOKYO MXは企画、制作に関わっていないが、「持込番組」であっても放送局が放送責任を負うことは当然であり、TOKYO MXもこれを争っていない。
この放送について申立人は、「高江でヘリパッドの建設に反対する住民を『テロリスト』『犯罪者』とし、申立人がテロ行為、犯罪行為の『黒幕』であるとの誤った情報を視聴者に故意に摘示した。『テロリスト』『犯罪者』といわれた人間は、当然のごとく社会から排除されるべき標的とされる。本放送によって〈排除する敵〉とされた申立人は平穏な社会生活を奪われたのである」などとしたうえ、そのように描かれた基地反対運動の「黒幕」であり「日当5万円」を支給しているものとされた「申立人の名誉の侵害について主に」問題とするなどと訴え、委員会に申立書を提出した。
これに対しTOKYO MXは、1月2日の放送は、申立人が「のりこえねっと」を主宰する者で、現在は沖縄の基地問題にも取り組んでいるという事実を摘示するものに過ぎず、これらの事実摘示が、直ちに申立人の社会的評価を低下させるものではなく、また、申立人が基地反対運動の「黒幕である」とか、基地反対運動参加者に「日当」を出しているとの内容ではないし、仮にそのような内容であり、それが社会的評価を低下させるとしても、公共性のあるテーマについて公益目的で行われた放送で、その内容は真実であるから名誉毀損にはあたらない、などと反論した。
委員会は、申立てを受けて審理し決定に至った。委員会決定の概要は、以下のとおりである。
1月2日の放送は、前半のVTR部分と後半のスタジオトーク部分からなるが、トークはVTRの内容をもとに展開されており、両者を一体不可分のものとして審理した。VTR部分では基地反対運動が過激で犯罪行為を繰り返すものと描かれており、これを受けてのトーク部分では申立人が関わる「のりこえねっと」のチラシに申立人の名前が記載されていることに言及しつつ、申立人が日当を基地反対運動参加者に支給していると受け取る余地がある出演者の発言やテロップ、ナレーションが重ねて流される。これらの放送内容を総合して見ると、本件放送は「申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動を職業的にやってきた人物でその『黒幕』である」、「申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動の参加者に5万円の日当を出している」との事実を摘示しているものと認められ、それらは申立人の社会的評価を低下させるものと言える。この放送に公共性、公益性は認められるが、TOKYO MXによって、上記各事実の真実性は立証されておらず、申立人に対する名誉毀損の人権侵害が成立する。
これに加えて、1月2日および1月9日放送の『ニュース女子』には以下の2点について放送倫理上の問題がある。第一に、「放送倫理基本綱領」は「意見の分かれている問題については、できる限り多くの角度から論点を明らかにし、公正を保持しなければならない」などとしているところ、1月2日の放送を見れば申立人への取材がなされていないことが明らかであるにもかかわらず、TOKYO MXは考査においてこれを問題としなかった。第二に、「日本民間放送連盟 放送基準」は「人種・民族・国民に関することを取り扱う時は、その感情を尊重しなければならない」などとしているところ、そのような配慮を欠いた1月2日および1月9日のいずれの放送についても、TOKYO MXは考査において問題としなかった。
委員会は、TOKYO MXに対し、本決定を真摯に受け止めた上で、本決定の主旨を放送するとともに、人権に関する「放送倫理基本綱領」や「日本民間放送連盟 放送基準」の規定を順守し、考査を含めた放送のあり方について局内で十分に検討し、再発防止に一層の努力を重ねるよう勧告する。

本文・目次
【決定の概要】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2ページ
Ⅰ 事案の内容と経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4ページ
1.本件放送内容と申立てに至る経緯
2.論点
Ⅱ 委員会の判断・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6ページ
1.はじめに
2.本件放送は申立人の名誉を毀損したか
3.放送倫理上の問題について
Ⅲ 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23ページ
Ⅳ 放送概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24ページ
Ⅴ 申立人の主張と被申立人の答弁・・・・・・・・・・・・・・・42ページ
Ⅵ 申立ての経緯および審理経過・・・・・・・・・・・・・・・・48ページ
(以下略)
(2018年3月8 日)

これが、教育行政のやることか。都教委の再処分に抗議する。

 一昨日(2月21日)のこと、悪名高い都教委は「国旗・国歌(日の丸・君が代)」への敬意表明の強制に服しがたいとした教員2名に、またまたの懲戒処分(戒告)を発令した。これで、「10・23通達」に基づく「不起立懲戒処分」は、延べ482件となった。

今は卒業式直前の時期、入学式も2か月先のことだ。この懲戒処分は、今年の学校行事に関してのものではない。実は昨年のことでも一昨年のことでもなく、驚くべきことだが、2009年と10年の卒業式における不起立が処分理由とされているのだ。8年前と9年前のことが今頃なぜ?

都教委の説明は以下のとおりだ。
「本件服務事故については、平成29年(2017年のこと。つまり昨年-澤藤註)9月の東京地方裁判所判決により、東京都教育委員会が発令した減給処分が取り消され、同処分の取消しが確定したことから、判決を踏まえて懲戒処分の程度を検討し、改めて戒告処分を行った。」

何を白々しい。正確にこういうべきなのだ。
「東京都教育委員会は、国家あっての個人という国家主義理念を徹底すること、また明治維新以来天皇制国家が進めた富国強兵の対外膨張政策の歴史的正当性を堅持することこそが都立学校の基本的な教育理念であり、都立校の教員にはこのような国家主義と大日本帝国憲法的歴史観にもとづく教育を積極的に推進する『正しい』思想の持ち主でなくてはならない。当教育委員会としては、かねてからこのような人事方針を明確にしてきたところであり、その見地から国旗・国歌(日の丸・君が代)への敬意表明は極めて重要な集団儀礼として、これを強制してきた。この当教育委員会の施策は、政権政党である自由民主党の政策とも一致するものとして妥当と考えるべきである。
 都立校の教員には、このような都教委の思想と教育方針を受容するか、少なくとも面従腹背すべきことが求められるのであって、不幸にして面従腹背をなしえないという教員には、思想的な転向をしてもらわねばならない。このことは、国家観や、歴史観、教育観においてのことのみならず、自己の信仰上の理由から国旗・国歌(日の丸・君が代)への敬意は表明しがたいとする者も当然に包含されるものである。
 そのため、当初当教育委員会は、不起立1回なら戒告とするが、2回目には減給1月の処分とし、3回目には減給6月、そして4回目には停職1月と処分量定を累進加重し、7回目には懲戒免職として、思想の転向ない限り当該教員を教育現場から追放することを企図していた。
 ところが、裁判所の判断がこれに横槍を入れ、最高裁も戒告はともかく減給以上は懲戒権の濫用として取り消しを命じるという、思いがけない事態となった。教員らが、いみじくも名付けた「転向強制システム」が崩壊したのだ。
 本件の2名の教員もその一場面なのだ。この2名には、当初減給1月と減給6月の各懲戒処分を発令したものであるが、人事委員会の口頭審理を経て行政訴訟に至り、平成29年(2017年のこと。つまり昨年-澤藤註)9月15日の東京地方裁判所判決により、東京都教育委員会が発令した減給処分を違法として取り消す判決が言い渡され、当教育委員会が控訴を断念したことから各処分の取消しが確定した。なお、同日の判決では6名・7件の減給・停職処分が取り消され、その内5名・5件の処分取り消しが確定している。
 これに対して、当然のことながら、各当事者からは過酷で違法な処分をしたことに対して教育委員会は謝罪すべきだという強い要請があったが、当教育委員会はこれを突っぱねて謝罪を拒絶し、在職教員2名について再処分に及んだものである。残念ながら、減給は取り消されたものの、戒告であれば裁判所も容認してくれるはずと考えている。
 当該教員らは、再び人事委員会の口頭審理を経て処分取消訴訟に至ることになって、過重な労力や時間あるいは費用負担を強いられることになると抗議を寄せているが、当教育委員会の知ったことではない。当教育委員会としては税金をもって争訟の費用をまかなうのであるから、闘争資金も労力も無尽蔵で痛くも痒くもないことを付言しておきたい。
 最後に、当教育委員会はこれまでどおり、国家主義にもとづく愛国教育の一環として国旗・国歌(日の丸・君が代)の強制を貫徹することで、自民党や右翼の皆様のご期待に応える所存であることを申し添える。」
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平成30年2月21日

教   育   庁

卒業式における職務命令違反に係る懲戒処分について

東京都立学校で実施された卒業式において、一部の学校で服務事故が発生したことに伴い、以下のとおり教員の懲戒処分を行ったので、お知らせします。

1 処分の事由
平成21年度及び平成22年度に実施された卒業式において、国歌斉唱時に国旗に向かって起立し斉唱することを校長から職務命令として命じられていたにもかかわらず、起立せず職務命令に違反した。

2 処分の内容
職務命令違反を行った教員について、地方公務員法に基づく懲戒処分を行った。
処分の程度   戒告
該当者数  2校 2名
学校名(当時)
都立○○○○高等学校
都立○○○高等学校

3 発令年月日
平成30年2月21日

4 その他
本件服務事故については、平成29年9月の東京地方裁判所判決により、東京都教育委員会が発令した減給処分が取り消され、同処分の取消しが確定したことから、判決を踏まえて懲戒処分の程度を検討し、改めて戒告処分を行った。

【問合せ先】
東京都教育庁人事部職員課 電話03-5320-6798(直通)

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「日の丸・君が代」強制・再処分に抗議する声明

 東京都教育委員会(都教委)は、私たちの「『再処分』を行わないこと」を求める申し入れ(2017年11月15日、2018年1月26日)にもかかわらず、東京地方裁判所(東京地裁)で減給処分を取り消された現職の都立高校教員2名に対して7年前、8年前の事案で、新たに戒告処分を出し直すこと(再処分)を決定し、2月21日付で処分発令を強行した。これにより「日の丸・君が代」を強制する10・23通達(2003年)に基づく懲戒処分の数は延べ482名となった。

東京地裁は2017年9月15日、2010年~2013年に都教委が行った減給・停職処分6名・7件が「裁量権の逸脱・濫用」で「違法」として取り消した。都教委はこのうち1名・2件の減給処分取消のみを不服として控訴し、他の5名・5件の減給・停職処分取消については判決を受け入れ控訴を断念し、処分取消が確定した。
しかし都教委は、違法な処分をしたことを反省もせず、該当者に謝罪するどころか現職の都立高校教員2名に改めて戒告処分を出し直した(再処分をした)のである。私たちは、この暴挙に満身の怒りを込めて抗議し、その撤回を求めるものである。

周知のように、2012年1月16日の最高裁判決は、起立斉唱・ピアノ伴奏を命ずる職務命令が「思想及び良心の自由」の「間接的制約」であることを認め、減給以上の処分については、「戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては,本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要」で「処分が重きに失し、社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者の裁量権の範囲を超え、違法」として減給・停職の懲戒処分を取り消した。その後の最高裁、東京高裁、東京地裁の各判決もこれを踏襲して73件・63名の減給・停職処分を取り消した。

今回の再処分は、減給処分を違法としたこれらの司法の判断を重く受け止めるどころか、その趣旨を無視して、新たに戒告処分を出し直すことで教職員を萎縮させ「屈服」させようとする都教委の異常な「暴力的体質」を改めて露呈した。
今都教委のなすべきことは、東京地裁判決を謙虚に受け止め、違法な処分により筆舌に尽くしがたい精神的、経済的損害を被った被処分者への謝罪と名誉回復・権利回復を早急に行うことである。また、司法により違法とされた処分を行った組織の在り方を点検し、責任の所在を明らかにし、再発防止策を講ずるとともに、10・23通達に基づく校長の職務命令、懲戒処分、再発防止研修など「日の丸・君が代」強制の一連の施策を抜本的に見直し、反省することである。

私たち被処分者の会・原告団と弁護団は、これまで何度となく、都教育委員会及び教育庁関係部署との話し合いを求めてきた。にもかかわらず都教委は、最高裁判決の補足意見が求めている原告団・弁護団との「話し合い」を拒否して問題解決のための努力を放棄する不誠実な対応に終始している。それどころか、司法の判断をもないがしろにして、処分を乱発しているのである。

私たちは、東京の異常な権力的教育行政の抜本的転換を求めると共に、自由で民主的な教育をよみがえらせるために、「日の丸・君が代」強制に反対し、不当処分撤回まで闘い抜く決意である。「子どもたちを再び戦場に送らない」ために!

2018年2月21日
「日の丸・君が代」不当処分撤回を求める被処分者の会・東京「君が代」が代」裁判原告団

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◆かくも不当な再処分を許さないために、戒告処分の取り消しと損害賠償を求めて粘り強く闘っています。東京高裁判決に何としても勝利するため傍聴支援をお願いします。

◆東京「君が代」裁判第四次訴訟・控訴審判決
~いよいよ判決です。こぞって傍聴に来てください。
4月18日(水)13時15分 東京高裁824号法廷

(2018年2月23日)

光てふ縛れざるもの多喜二の忌

本日(2月20日)は多喜二忌。1933年の今日、小林多喜二は築地署で虐殺された。その葬儀の会葬者も一斉に検挙された。この無念の思い忘れまじ。天皇制権力の暴虐許すまじ。そう思いを新たにすべき日。再びあの暗黒の時代の再来を許してはならない。こんな時代の「日本を取り戻」させてはならない。思想・良心の自由、結社の自由、表現の自由、政治活動の自由の貴重さを銘記しよう。そして、その自由獲得のために闘った先人の気概と覚悟を偲ぶ学ぶべき日。

筆名「575fudemakase」氏のサイトに、多喜二忌を詠んだ俳人の50余句が集められている。転載をお許しいただこう。
http://fudemaka57.exblog.jp/23611557/
なお、下記のURLにも同じ句が集められている。
http://taka.no.coocan.jp/a5/cgi-bin/HAIKUreikuDB/ZOU/SHAKAIseikatu/932.htm#takiji

門外漢の私には、とても取捨選択などできない。全句を転載させていただく。(「かぎかっこ」は出典)
かなしげな犬の眼に逢ひ多喜二の忌 河野南畦 「湖の森」
ごぼりごぼりと今もこの川多喜二の忌 原田喬
てのひらで豆腐切らるる多喜二の忌 関谷雁夫
ふつつりと海の暮れたる多喜二の忌 成田智世子
もり塩に人の世灯る多喜二の忌 佃藤尾
スコップに雪の切れ味多喜二の忌 辻田克巳
タラバ蟹足括られて多喜二の忌 村井杜子
バラバラのパックの蟹買ふ多喜二の忌 斎藤由美
傷ぐるみ漉されしおもひ多喜二の忌 栗林千津
口シヤより蟹船の着く多喜二の忌 吉田君子
吹かれゐて髪が目を刺す多喜二の忌 角谷昌子
咽ぶごと雑木萌えおり多喜二忌以後 赤城さかえ
多喜二忌のあをぞらのまま夜の樅 大坪重治
多喜二忌の全灯点る魚市場 木村敏男
多喜二忌の埠頭に刺さる波の先 源 鬼彦
多喜二忌の夜空に白き飛行船 板谷芳浄
多喜二忌の崖に野鳥の骨刺さり 友岡子郷 「遠方」
多喜二忌の市電に走り追ひつくも 本多静江
多喜二忌の干して軍手に左右なし 長岐靖朗
多喜二忌の星大粒に海の上 菖蒲あや
多喜二忌の毛蟹抛られ糶(せ)られけり 菖蒲あや「あや」
多喜二忌の海真つ青に目覚めけり 木村敏男
多喜二忌の海鼠腸抜かれをりにけり 矢代克康
多喜二忌の焼いても口を割らぬ貝 飯田あさ江
多喜二忌の稿更けわたる廻套(まわし)かぶり 赤城さかえ
多喜二忌の肉食の眼のひかるなり 谷山花猿
多喜二忌の魚は海へ向けて干す 大牧 広
多喜二忌やまだある築地警察署 三橋敏雄
多喜二忌やベストの釦掛け違ふ 二宮一知
多喜二忌や地に嫋嫋と濡れわかめ 大木あまり「山の夢」
多喜二忌や工衣の襟のすりきれし 福地 豊
多喜二忌や焦げ目のつかぬ炊飯器 五十嵐修
多喜二忌や発禁の書を読み返し 遠藤若狭男
多喜二忌や糸きりきりとハムの腕 秋元不死男
多喜二忌や赤き実残る防雪林 佐々木茂
多喜二忌や鈍色の浪くづれたる 大竹多可志
夫若く故郷出でし日多喜二の忌 石田あき子「見舞籠」
指で裂く鰯の腹や多喜二の忌 生江通子
比内鶏噛みしめている多喜二の忌 有賀元子
汽罐車の目鼻の雪や多喜二の忌 平井さち子「完流」
沖どめの船が水吐く多喜二の忌 原田青児
洗ふ皿くきくきと鳴く多喜二の忌 岡部いさむ
海に降る雨横なぐり多喜二の忌 吉田ひろし
煙草火を借りて離任す多喜二の忌 国枝隆生
爪深くインク浸みをり多喜二の忌 鈴木智子
石斧のごとき残雪多喜二の忌 関口謙太
紅梅の夜空がそこに多喜二の忌 原田喬
蟹に指挟まれ多喜二忌の渚 石井里風
蟹缶の赤きラベルや多喜二の忌 有田 文
躍りゆく水の分厚さ多喜二の忌 佐々木幸
錐揉んでてのひら熱き多喜二の忌 伊藤柳香
音のして飯炊けてくる多喜二の忌 森田智子
饅頭に焼ごてを当て多喜二の忌 久保田千

このなかの一句。「夫若く故郷出でし日多喜二の忌」の若き夫とは、石田波郷のこと。あき子はその妻で自身も俳人。多喜二忌を悲惨な思い出とするのではなく、出立や希望に重ねているのだ。

多喜二忌やまだある築地警察署」と詠んだ三橋敏雄は、生年が1920年で2001年に没した俳人。多喜二虐殺の頃には13才だったことになる。

その年代の彼が、戦後に「まだある」と詠んだ感慨はどんなものだっただろうか。「あってはならないものがまだある」「忌まわしいものが厳然と滅びずにまだある」ということだったろう。そして、「まだある」のは築地署の建物だけでなく、戦後も続く権力機構としての警察の恐ろしさではなかっただろうか。

三橋敏雄が「まだある」と詠んだ当時の築地署は多喜二虐殺の現場を残したものであっただろう。何年か前、私も築地署に行きその周囲も見てきた。もちろん建て替え済みの庁舎となってはいたが、築地署の裏門近くには、多喜二の死亡診断書を書いた前田医院が残っていた。ここで多喜二が殺されたのか、現場は思いを深くする力をもっている。

なお、昨年の今日、市田忠義さんのツィートが、朝日の俳壇から次の句を紹介している。
『光てふ縛れざるもの多喜二の忌』(向日市・松重 幹雄)
大串章・選評 「今日は多喜二忌。拷問によって獄死した小林多喜二は時代の光であった。」(今朝の朝日 俳壇)

多喜二忌の今ころは、寒さは厳しくも、光の春。光とは希望だ。権力が人の身体を縛ることはできても、心の中の光てふ希望までは縛れない。
(2018年2月20日)

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