弁護士会懲戒委員の皆様に、代理人として、総論的な意見を申し上げます。
(2023年3月15日)
対象弁護士(被懲戒請求人)代理人の東京弁護士会の澤藤と申します。23期です。1971年4月に弁護士となって以来、司法はどうあるべきか、司法の一翼を担う弁護士は、あるいは弁護士会は如何にあるべきかを考え続けてきました。その立場から本件綱紀委員会の議決を拝読して、どうしても一言したいと思い立ち、その機会を得ましたので、意見を陳述いたします。
まず申しあげたいことは、弁護士の社会的発言に対して、とるべき弁護士会の基本姿勢についてです。弁護士会が、弁護士の品位保持の名のもとに、軽々に弁護士の表現の自由を規制してはならないということです。
弁護士の言論に対して、権力的な、あるいは社会的な圧力があった場合に、断固として当該弁護士を擁護すべきが弁護士会本来の責務です。綱紀委員会の議決には、その基本姿勢が欠落していると指摘せざるを得ません。
今の状況を大局的に見れば、対象弁護士がツィッターで少数者の人権を擁護する立場からの社会的発言をし、これを快しとしない社会の多数派を代表する形で、懲戒請求人がその表現の規制を求めて弁護士会に懲戒請求をしている、という構図です。
本件綱紀委員会議決の理由にも意識されていますが、一般の「表現の自由保障範囲」と、弁護士がその使命である基本的人権擁護のためにする「表現の自由の保障範囲」とは自ずから異ならざるを得ません。弁護士が弁護士であることを前提に社会的な発言を行うに際しては、それに対する異論があることは当然として、その表現の自由はより広く保障されなければなりません。「弁護士の表現の自由は制約されてしかるべき」などと、弁護士会が言ってはなりません。
いま本件において貴弁護士会がなすべきことは、少数者の人権擁護を趣旨とする対象弁護士の当該発言の自由を保障する立場を貫くとともに、懲戒請求者と社会に対して、その理由の説明を尽くすべきことと考えます。
弁護士法1条1項に定める弁護士の使命としての「基本的人権の擁護」は、けっして法廷活動のみにおいてなされるものではありません。弁護士は、多面的な社会的活動に携わります。その中で最も貴重なものは、埋もれている新たな人権を見つけ、育て、確立して行く活動です。対象弁護士がいま携わっているのは、まさしくそのような活動です。
少数者の人権は、権力や社会的な多数者の圧力と抗う中で、育まれて確立に至ります。今、生成中の新たな人権の芽を、弁護士会が摘むことに加担してはなりません。
弁護士法1条1項は、『弁護士の使命』として「人権の擁護」を掲げています。56条によって弁護士に求められる「品位」という要請は、人権の擁護という大原則の遂行に附随して求められるものです。本来、弁護士の使命である人権擁護の姿勢に徹することを以て、弁護士の品位評価の基準となると考えるベではありませんか。
「人権の擁護」と「品位の保持」。この両者を統一的に理解すべきではありますが、しからざるものとしても、両者の重みの違いを十分に認識しなければならないところです。弁護士の活動の根幹と枝葉とを混同することのないよう、お願いする次第です。
人権擁護活動の一端である対象弁護士の行為を、極めて曖昧で分かりにくい「品位に欠ける」との評価で、懲戒処分を科するようなことをしてはなりません。