澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

スト破りとは非難さるべき汚い行為だ。行政も社会もスト破りに協力してはならない。

本日(8月18日)の東京新聞朝刊社会面に、「自販機大手求人、紹介中止を」「都内職安に都労委が通報」の見出し。これだけでは直ちに事情が呑みこめないが、「スト実施 新規雇用防ぐ」の中見出しが目に飛び込んでくる。ああ、そういうことか。

これは素敵なニュースだ。今どき、ストライキを打ってがんばる立派な組合運動がある。これに敵対してハローワークを通じてスト破りを雇おうという、悪代官さながらのブラック企業がある。その古典的な労使の対峙の場で、労働者保護法制と労働委員会制度が法の理念のとおりに正常に機能しているのだ。

労働条件は、労働者と企業との交渉によって決まる。企業の本質が利潤追求にある以上、豊かな生活を求める労働者の要求と対立せざるを得ない。そのシビアな交渉における実質的な交渉力の対等性を確保するために、弱い立場にある労働者には、団結権・団交権・争議権が保障されている。憲法が労働権(27条)・団結権(28条)を保障して、この理念を各労働法制が具体化している。

労働者に保障された労働三権を十全に駆使することで高い労働条件の獲得が期待されるところだが、労働組合の組織率が低迷している昨今、ストライキ実行の話題は極めて乏しい。ところが、この東京新聞の記事によれば、悪代官にムシロ旗を立てて迫る一揆さながらの果敢なストが実行されている。多くの労働者を励ますものと拍手を送らざるを得ない。

悪代官役の企業はサントリー・グループの大手自動販売機事業社だという。「ジャパンビバレッジ東京」という会社名には似た商号があって紛らわしい。「サントリーの自動販売機事業部門」と記憶することで十分だ。今後、自販機でサントリーブランドの商品を見たら、「これが不当労働行為企業」「これが悪代官」と連想しなければならない。できることなら、他社の製品を購入すべきだ。それが、労働者階級の連帯というものだ。

ストを決行している組合は、「総合サポートユニオン」。この労働組合のホームページにアクセスしてみるとよい。なかなかに、活動し実績も上げているようではないか。
http://sougou-u.jp/

同労働組合の加入金が1000円。組合費は月額1000円(学生300円)だという。これなら、だれでも気軽に相談もでき、加入もできるだろう。

東京新聞の記事は以下のとおり。
 東京都労働委員会が都内の複数のハローワーク(公共職業安定所)に対し、飲料の自動販売機事業大手でサントリーのグループ会社「ジャパンビバレッジ東京」(東京)に求職者を紹介しないよう通報したことが17日、労働組合への取材で分かった。労組は未払い残業代などを求めてストライキを実施しており、都労委の通報は、新規雇用によるストの無効化を防ぐ狙いとみられる。

 社員の一部が加入する労組「総合サポートユニオン」によると、8月はじめまでに、職業安定所の中立性を定めた職業安定法により、組合員らが働く都内の3支店を所管するハローワークに通報された。この種の通報は珍しく、同労組によると、都労委は「10年以上ぶり」と説明したという。

 同法20条は「求職者を無制限に紹介することで、争議の解決が妨げられる場合は紹介してはならない」としている。会社が新たに社員を雇い、スト実施職場に充てることで、組合員が不利益を受けるのを避ける規定だ。

 争議は昨年9月、ジャパンビバレッジ東京の自動販売機の飲料補充や保守を担当する従業員が、残業代の支払いや休憩時間の確保などを要求した。昨年12月には、自販機の保守担当社員らに適用されていた「事業場外みなし労働時間制」について、労働基準監督署が「無効」と判断。

 労組と会社側は団交を重ねたが、会社側は「未払い残業代はない」と応じず、労組が4月以降、残業拒否や一部職場でのストライキを実施した。

 ジャパンビバレッジ東京の親会社「ジャパンビバレッジホールディングス」は取材に事実関係をおおむね認め「国の中立性を保つ措置で、違法行為によって制裁的に停止されたものではない」とコメントした。同ユニオンは、今後は民間の求人紹介サイトでの募集停止も求めていくという。

<労働問題に詳しい佐々木亮弁護士の話>として、コメントが付されている。
今回の措置は非常に珍しく、労働者の権利を守るためにとても意義があると言える。今後の労働力不足が懸念される中、従業員を確保することは企業にとって最重要課題だ。一部ハローワークの求人だけであっても、それを断たれるダメージは企業にとって大きい。企業のイメージが悪化する可能性もある。

念のために、職業安定法20条(労働争議に対する不介入)の規定を引用しておこう。

1項 公共職業安定所は、労働争議に対する中立の立場を維持するため、同盟罷業(ストライキ)又は作業所閉鎖(ロックアウト)の行われている事業所に、求職者を紹介してはならない。

2項 前項に規定する場合の外、労働委員会が公共職業安定所に対し、事業所において、同盟罷業(ストライキ)又は作業所閉鎖(ロックアウト)に至る虞の多い争議が発生していること及び求職者を無制限に紹介することによつて、当該争議の解決が妨げられることを通報した場合においては、公共職業安定所は当該事業所に対し、求職者を紹介してはならない。但し、当該争議の発生前、通常使用されていた労働者の員数を維持するため必要な限度まで労働者を紹介する場合は、この限りでない。

この記事を目にして思い出すことがある。今はなき、「赤い尾翼のノースウェスト航空」の運行を止めたストライキと、そのスト破り阻止問題である。

成田開港以前の1974年秋のこと、当時羽田にあったノースウェスト航空日本支社労働組合(当時500人規模)が45日間の全面ストライキを打ち抜いた。この間、組合は航空機運航のための諸機材を全面的に押さえてピケを張り、会社の使用を阻止した。そのことによって現実に相当便数の運航が止まった。

会社は対抗策として、スト破りを考えた。まずは羽田空港内の国内他社の従業員と機材を使おうとした。これに対しては、ノースウェスト航空労働組合か加盟する産別組織・民間航空労働組合連合(民航労連)が大きな力を発揮した。各社の現業部門の労働組合が、スト破り参加を拒否したのだ。そこで、会社が企てたのが、国際的スト破りだった。

ノースウェスト航空は、自社の労働者を集団で羽田に送りこんでスト破りの業務に使おうとした。現に、ハワイにまでは作業者を結集させて訓練を行うとともに、日本への入国手続に着手した。

私が所属していた東京南部法律事務所が、民航労連の顧問事務所だった。ノースウェスト航空は、私が主担当者だった。ストに伴う多くの法的問題があったが、国際スト破りの入国阻止がメインテーマとなった。

出入国管理法と職業安定法と労組法とを根拠に、意見書を何度も書き換えて「スト破り集団の入国ビザを出すな」「目的を詐って入国した労働者がスト破り作業に従事したら直ちに刑事告発をする」。そのように関係各所を言ってまわった。

外国からの労働力の流入を日本の労働市場の撹乱要因として、国内労働者の雇用の安定のために単純労働者の入国は制限するという出入国管理法と職業安定法の目的と、スト破りは不当労働行為だという主張。結果として、国際スト破り集団の入国はなかった。

私が弁護士登録をしたのが71年4月、事件は私が弁護士経験3年半ほどで、起きたことになる。若き日の忘れがたい思い出である。
(2018年8月18日)

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Published in 土曜日, 8月 18th, 2018, at 23:39, and filed under 労働.

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