偉大なるかな「写経共闘」の成果
どこにも言語感覚豊かな人がいる。野党の議員から、「写経共闘」という言葉を聞かされた。社共共闘ではなく、「写経」の共闘。これが含蓄深い。
写経といえば、静謐な環境の中で、ひたすら経文を書き写す。それが精神修行でもあり、功徳でもあるという。その「写経」をともにしたのが、野党の議員諸君。
入管法改正問題で重要な基礎資料となっているのが、失踪外国人技能実習生への聴取票。正確には「実習実施者から失踪した技能実習生にかかる聴取票」。2892枚に及ぶその手書きでの書き写しを「写経」と名付けたのだ。これを立憲民主党、国民民主党、日本共産党、無所属の会、自由党、社民党、参院会派「沖縄の風」の7野党(含む会派)の各議員が分担し、休日返上でやり遂げた。
野党議員の神妙な「写経」ぶりは、下記のURLがよく映している。
https://tr.twipple.jp/p/bb/5860d1.html
スキャンを掛けて統計処理をすれば、あっという間に終わる作業。それをさせたくないというのが、政権側による明らかないやがらせ。衆院法務委員会と参院予算・法務委員会の委員に限定して閲覧を許可したが、コピーもダメ、写メも許可しないと言う。これで、野党議員のやる気を封じようという作戦。
ところが、この姑息な政権の思惑が完全に裏目に出た。野党各党の議員は写経を共にするうちに、安倍政権に対する闘志を共有して、大いに連帯感を醸成したという。のみならず、その集計結果が「なるほど、これでは見せたくなかったわけだ」と肯かせる代物。安倍政権の「ウソとごまかし」体質を裏書きする重要な1事例として加えられることになった。「写経共闘」の偉大なる成果にほかならない。
昨日(12月3日)、写経に携わった7野党(含会派)の議員団が国会内で記者会見し、写経・集計の結果を発表した。
その結果、2892人(重複22人分含む)の対象者(聴取票では「容疑者」)のうち、67%の1939人が最低賃金を下回っていたという。
野党議員団は、月額給与と労働時間から時給を算出し、全国で最も低い宮崎・沖縄両県の最賃時給714円(16年)と比較した。その結果、時給714円に満たない者が、3分の2なのだ。
これまでの政府発表では、「最低賃金以下」を「失踪の理由」として上げた者は22人、0・8%とされてきた。67%と0・8%。こういう比較を「月とスッポン」という。あるいは、「ムチャクチャなウソとごまかし」とも。貴重な教訓を噛みしめなければならない。「安倍政権の言い分も、統計資料も、まずは眉に唾を付けてから聴き、目を通すべし」。うっかり鵜呑みにするとたいへんな目に遭う。
また集計の結果、過労死ライン(月80時間)を超える残業をしていた人が1割に上ることも判明した。これも、写経共闘の貴重な成果。
野党議員団は口を揃えて、「外国人労働者受け入れ拡大の出入国管理法改定案審議の土台は崩れた」と指摘した。誰が見てもそのとおりだろう。これまで法務省が言っていた、「より高い賃金を求めて失踪する者が3分の2」との見解は虚偽だった。「そのウソがばれないよう野党に手書きさせ、その間に法案を衆院で通過させた」のだから悪質極まる。まことに、「嘘つきは安倍の始まり」であり、「ごまかしは法務省の始まり」ではないか。
これだけ追い詰めてなお、法案成立が強行されるとなれば、国民は政権からよほどなめられている。「国民が主権者だって言うのは、投票日一日だけのこと」「どうせ次の選挙までに、みんな忘れてくれる」「だから、何をやってもへっちゃらさ」
これが、今の政権と国民の関係。民主主義の実態なのだ。
(2018年12月4日)
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