澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

漁業法大改悪の日に ― 「浜の一揆」訴訟第3回法廷

本日、浜の一揆訴訟第3回法廷。仙台高裁401号室での本日の弁論テーマは、「漁業の民主化」や「漁業調整のあり方」、あるいは「漁協の組合員に対する責務」などという抽象的なものではない。非常に具体的な、「延縄漁」と「刺し網漁」の比較の問題。

三陸沿岸の漁民は、サケ漁を禁止されているが、釣り針にエサを付けた延縄漁でならサケを獲ってよいことになっている。それなら、延縄で漁をすればよいじゃないか。刺し網漁の許可は必要ないことにならないか。そのような観点からの「延縄」と「刺し網」の比較。

下記が法廷での代理人陳述要旨。その後の進行協議の場では、「延縄」と「刺し網」の実物を持ち込んで、原告漁師が裁判官に雄弁に説明をした。裁判官諸氏は、興味深そうによく話しを聞いてくれた。これだけのことで、原告たちの裁判所に対する信頼感が醸成される。

その後、仙台弁護士会の会議室を借りて2時間余。具体的な話題になると、原告らの発言が実に活発になる。「延縄」はコストに見合った漁獲を見込めず経済的にペイしないことが縷々語られた。「なぜ、一部のものにせよ、延縄での出漁をする者がいるのか」という問に、いくつもの答が返ってきた。

「数値を見ればバカげた漁のように見えるが、それは結果論」「出漁するときは、今日こそは大漁になるかも知れないと思うのが漁師なんだ」「他の漁師はダメでも、自分だけはうまく行くと考える」「漁師は博打打ちみたいなもので、一山当てたいのさ」「当たれば、うんと獲れることもある」「過去の栄光の経験が忘れられない」「過去の夢もあり、将来の夢も見るのが漁師」「その時期、ほかの漁ができないからやらざるを得ない」「おれは、延縄なんかやらない」「いまごろ、延縄やっている者の気が知れない」「どうしても刺し網でなくてはダメだ」

出漁日数がどうなるか、どんなに家族労働に頼っているか、油代が幾らかかるか、魚価がどうなるか、水揚げに対して各種付加金がどうなるか…。話は尽きない。

そして、他の漁師の寄り合いと違うのは、漁業法改正問題の国会審議が話題になること。「県漁連会長が、おれは個人的には賛成だと」「なんでだ。県漁連会長が漁協潰しになぜ賛成する」「反対してもダメだ。いずれ企業参入の流れができている、っていうことらしい」「企業を入れて、その売り上げから漁連が口銭を取れると思っているんじゃないのか」「漁協の頭越しに、知事から企業に許可が行くのだから、漁連は口銭取れないだろう」「すっかり欺されているんじゃないのか」「全漁連の会長もおんなじだ」「漁協の将来はどうなるだろう」

これからの漁業はどうなる? 漁業者の誰もが不安を持つ漁業法大改悪が、今日にも国会で成立しそうである。

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意 見 陳 述 要 旨

仙台高等裁判所第1民事部 御中

控訴人ら訴訟代理人弁護士  澤 藤 大 河

※本日陳述の準備書面(2)は、裁判所から求釈明のありました「延縄漁と刺し網漁の比較」について回答するものです。
おそらく、裁判所はこうお考えなのでしょう。
「控訴人らは、サケ刺し網漁の許可を求めているが、必ずしも刺し網ではなく、延縄でもサケはとれるのではないか。延縄でのサケ漁の許可が取れるのなら、刺し網許可の必要性は低いのではないか」。「岩手県漁業調整規則3条1項にいう、漁業許可申請に対する不許可要件としての『漁業調整の必要』の有無を判断するに際しては、延縄が許可される方針だということも考慮に入れる必要があるのではないか」。

※もし、「サケ延縄漁」が「サケ刺し網漁」に代わるものとして十分な内容をもつ漁法であるとすれば、特にサケ刺し網漁を許可する必要性は希薄となります。しかし、それなら、控訴人ら漁民が、サケ刺し網漁の許可を求める必要もないことになります。
結論から言えば、両漁法に互換性も代替性もありません。サケ延縄漁が許可されることをもってサケ刺し網漁を不許可とする根拠とはなり得ないのです。
被控訴人岩手県の水産行政と県内大規模定置網業者とが、サケ刺し網漁を許可できないとしてきたのは、サケ刺し網漁が定置網漁と競合して、定置漁の漁獲量を減殺させるというものでした。この主張が、サケ延縄漁に向けられることはありません。サケ延縄漁は定置網漁の漁獲に影響を与えるほどの漁獲がありえないからです。控訴人らが求めているものは、収益性の低いサケ延縄漁ではなく、飽くまでも刺し網漁の許可なのです。

※延縄漁は「釣り漁法」の1種であり、刺し網漁は「網漁法」の1種です。
一般に、漁獲効率の比較において、「釣り漁法」は「網漁法」に劣ります。岩手沿岸におけるサケ延縄漁の効率はサケ刺し網漁の効率に数段劣ります。
それだけでなく、それぞれの漁を実施できる海域も時期も異なります。延縄漁は、海面付近で行う漁であって、海面付近での魚が餌に食いつかなくては成立しません。サケ延縄においても海面付近でサケが餌に食いつく活発さが必要であるところ、その活発さは海水の温度に依拠することが知られており、その海水温の適温はおよそ14度です。つまり、海面付近の海水温が    14度程度になっていなくては延縄漁を行うことはできません。
近年の地球温暖化の影響で、海面の温度は上昇しており、サケ漁の適期にサケ延縄漁が可能であるのは岩手県では県北部に限られています。県南部では「秋サケ」の適漁期に海面付近の水温が高すぎるため、延縄漁はできないのです。
もちろん、真冬ともなれば、県南でも海面水温は下がってきますが、そのころには、サケが沿岸で回遊する漁の適期は過ぎています。とりわけ、サケの人工増殖事業は、シーズン初期のサケの漁獲を重視し、その時期の採卵を繰り返してきたため、サケ回帰の早期化が進んでいます。このことは原審に提出した井田齊意見書に詳しく述べられていいます。
これに対して、固定式刺し網漁は、海底付近にサケがいれば実施することができます。 海底においてサケが好む水温となるような水深の場所を選ぶことによって、固定式刺し網漁は、より広範な水域で、延縄漁に比較して時期も長く実施できることになります。

※延縄漁は、1本の幹縄に多数の枝縄をつけ、枝縄の先端に付けられた一つ一つの針に餌をつけて魚を釣る漁法です。漁の準備には、針の一つ一つに餌をつけていく必要があります。サケ延縄漁の場合、体長7cm程度の鰯を餌として使用します。餌付けは出漁の前日などに漁師の家族総出で行います。この労働は漁家の家族労働として金銭対価なく行われてきました。一回の操業は、潮の変わり目の魚が活発な時間帯を狙って行われます。
潮の変わり目にサケの行動は活発になり、その時間帶はわずか20分程度です。この時間帯の見極めが肝要で、これを逃すと漁果皆無となります。
サケ漁の漁期は、10月中旬からから1月中旬までの約3ヶ月90日間程度です。そのうち気象条件と準備が整って出漁可能なのは半分程度、年間45日が標準的なものです。
巻き上げられた幹縄の約7割は再利用ができません。海流や潮の満ち引きで揉まれた延縄は、ひどく絡まるからです。特に、他の漁船が敷設した延縄と絡まると、切断するしかないこともあります。ひどい絡まりようになると、幹縄とナイロンテグスが絡まった団子状態になり、漁民の家の庭先に山となって積まれることになります。サケ延縄漁を行っている漁師の家族は、これを延々とほどき続けるのです。

※サケ延縄は、効率が悪く高コストで収益性が低く、その上苛酷で無償の家族労働なしでは成り立たない漁法です。経済的にはおよそペイしない漁法と言わざるを得ません。
準備書面に詳述していますが、サケ延縄漁を開始する場合、船を別として初期費用として560万円ほどが必要です。次年度以後は毎年400万円あまりの経費が必要となります。また、金額に見積もれない労働と労働の過酷さも考えなくてはなりません。
生産地におけるサケのキログラムあたりの単価は平均すると400円程度なので、年間3.4トンの水揚げを想定すれば、136万円程度の収入となります。しかし、合理的な試算では年間コストが387万円にもなります。到底経済的になりたつ漁業ではありません。

※刺し網漁の網の価格は標準的なもので76万円。巻き上げ機は120万円から200万円程度。船を別にすれば、初期費用は安ければ200万円程度で可能です。
また、刺し網漁は、サケ以外の魚種に広く行われている漁法であるため、現役の小型漁船漁師の多くは、既に刺し網を所有しています。現在、刺し網漁許可を有している漁師は当然刺し網を所有しているし、刺し網漁の許可を受けていなくとも、過去に刺し網漁をしていたり、廃業した仲間から譲り受けて、刺し網を所有している者は多いのです。
燃料費は、延縄漁の1/3程度です。長大な縄を投入するために走り回る必要がないからです。仮に10tの水揚げがあれば、400万円の収入を得ることができます。
操業コストの年間支出は43万5000円程度であり、300万円台の収入が見込めることになり、十分に経済的に成り立つ漁法となります。

※以上のとおり、サケ延縄漁の許可が可能とされていることを、サケ刺し網漁申請の不許可理由として考慮する合理性は皆無なのです。十分なご理解をいただきたいと思います。

(2018年12月7日)

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