新体制のNHK経営委員会に意見と質問を申しあげる。
本日(1月10日)、NHK経営委員会に赴き、下記の「新体制のNHK経営委員会に対する意見と質問」書を提出してきた。この意見をご覧いただけたら、申し入れの趣旨がお分かりいただけようが、新体制のNHK経営委員会に反省の姿勢が見られないのではないか、ということである。
「クローズアップ現代+」の制作フタッフは、郵政グループによるかんぽ生命不正販売の事実を生々しく暴いた。これを日本郵政の上級副社長鈴木康雄が、元総務次官の肩書にものを言わせてもみ消しに動いた。情けないことに、NHK経営委員会がこれに同調し、NHK会長がこれに屈した。この事件の後、かんぽ生命不正販売の事実は「クロ現代+」の報道の通りであったことが確認され、昨年暮れに、日本郵政グル―プ3社の社長が引責辞任することとなり、更に鈴木康雄の辞任も発表された。また、NHK経営委員会も、石原経営委員長から森下俊三新委員長に交替した。この新体制の真摯な反省の有無が問題なのだ。
本日、提出に出向いたのは醍醐聰さん、小田桐誠さん、渡辺真知子と私の4人。応接されたのは、経営委員会事務局副部長以下3名の事務職員。1時間に近い口頭でのやり取りがあった。
最初に醍醐さんが各経営委員に対する「意見と質問」書を提出し、そのコピーを配布して「意見」の趣旨を詳細に説明した。「質問」個所は全文を読み上げた。
次いで、小田切さんが自己紹介の後、ジャーナリズム本来のありかたからみてのNHK経営委員会のありかたの批判をし、渡辺さんも短く国民の意見を代表するものとの立場からの短い意見を述べた。
本日の私の発言の大要は以下のとおり。このように整理された形でしゃべったわけではないが、まとめればこう言うこと。
私は、これまでNHKのあり方には厳しい批判をしてきた。しかし、けっして一面的に批判だけをしてきたつもりはない。実は、NHKには親近感をもっている。本来あるべきNHKになっていただきたいのだ。
私は、中退ではあるが東大文学部社会学科の出身。当時の学科の同級生は圧倒的にジャーナリズム志望で、中でもNHK就職希望者が多かった。もしかしたら正確でないかも知れないが、私の記憶では31名の級友の内9名がNHKに就職した。私がそのうちの1人だった可能性もある。当時、ジャーナリスト志望の若者には、NHKは輝く存在だった。
しかし、今、どうだろうか。NHKは若者にとっての輝きを失っているのではないだろうか。政権との距離が近く、財界との関係のみ深い。ジャーナリズム本来の仕事ができる環境と言えるだろうか。とりわけ、今回のかんぽ不正問題を、現場スタッフが見事な取材をし報道をしたことに対して、取材先の圧力を受けて経営委員会とNHK会長が現場を押さえ込んだ。国民のNHKに対する信頼は地に落ちている。これを回復するための、真摯な反省の弁を聞きたい。
私は、優れた現場スタッフが、存分に働けるNHKであって欲しいと願っている。けっして、どんな回答でも揚げ足をとってやろうなどと思っているわけではない。国民世論を代表する立場で、経営委員諸氏の真摯な回答をお待ちしている。
? なお、私は、「経営」と「制作」の分離は当然と考えている。分離とは、「制作」が「経営」の意向を気にすることなく、思う存分活動できること。そのためには、「経営」は、外部から制作への圧力を受けとめる防波堤でなければならない。
NHKにおけるコンプライアンスとは憲法と一体となった放送法の理念を忠実に守って、国民の知る権利に奉仕すること。ガバナンスとは、そのために必要な制度の運営に幹部が責任を果すべきこと。上命下服の経営秩序をコンプライアンスと言いガバナンスと言って現場を締めつけているのなら、明らかに、そんなものはメディアには有害というしかない。
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?2020年1月10日
NHK経営委員長 森下俊三 様
同経営委員各位
「日本郵政と経営委首脳によるNHK攻撃の構図を考える
11. 5 シンポジウム」実行委員会
世話人:小林 緑(国立音楽大学名誉教授・元NHK経営委員)/澤藤統一郎(弁護士)/杉浦ひとみ(弁護士)/醍醐 聰(東京大学名誉教授・「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」共同代表)/田島泰彦(早稲田大学非常勤講師・元上智大学教授)/皆川 学(元NHKプロデューサー)
新体制のNHK経営委員会に対する意見と質問
2019年12月27日、日本郵政グル―プ三社長が引責辞任し、更に鈴木康雄日本郵政上級副社長の辞任も発表されました。私たちは、鈴木副社長がNHK「クローズアップ現代+」の「かんぽ不正問題」続編放送に対し不当な圧力を掛け続けたことを批判してきましたが、それとともにNHK経営委員会が、副社長の「かんぽ不正」もみ消しに加担した責任は重いと考えます。
ところが、2018年9月25日、鈴木副社長と面会し、日本郵政からの抗議を経営委員会に取り次ぐなど続編の放送中止に加担した森下俊三氏が、あろうことか新しい経営委員長に選ばれました。しかも森下氏は、反省するどころか、今なお筋違いな「ガバナンス論」を盾に、上田NHK会長への厳重注意を正当化し続けています。森下氏は、12月24日の経営委員長就任記者会見で、次のように発言しました。「現場が”経営と制作は分離している”と認識しているとしたら、ガバナンス上の大変な問題である」。私たちはこの発言は重大な誤りであり、NHK経営委員長としての資格に欠けた認識であると考えます。
以下、私たちの見解を述べ、貴職と経営委員会の回答を求めます。
別の市民団体が2019年10月15日に、石原NHK経営委員長(当時。以下、同じ)、森下委員長職務代行者(同上)、経営委員各位に提出した質問書、「日本郵政によるNHKの番組制作への介入に係る経営委員会の対応に関する質問」に対して、石原経営委員長と貴委員会は10月29日、回答をされました。そこでは、経営委員会は、NHKの自主自律を損なった事実はないとして、次のように表明されています。
「去年9月25日に森下委員長職務代行者が鈴木副社長と面会した後、経営委員会は、昨年10月に郵政3社から書状を受理し、10月9日、23日に経営委員で情報共有および意見交換を行った結果、経営委員会の総意として、ガバナンスの観点から、会長に注意を申し入れました。 なお、放送法第32条の規定のとおり、経営委員会が番組の編集に関与できないことは十分認識しており、自主自律や番組の編集の自由を損なう事実はございません。」
この回答に対する私たちの見解は以下のとおりです。
森下職務代行者は、日本郵政三社の社長が連名で経営委員会あてに文書を送った10日前に日本郵政鈴木康雄上級副社長と個別に面会し、NHKへの不信を聞き取り、正式に経営委員会に申し入れるよう伝えたとされています。こうした行為は、経営委員が、自社商品の不正販売が社会的に大きな問題となり、当該問題を取り上げたNHK番組の取材対象となった法人の首脳と非公式に面会し、そこで聞き取ったクレームを経営委員会に取り次ぎ、続編の放送計画に影響を与えた行為ですから、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることはない」と定めた「放送法」第3条に抵触します。また、NHKの全役職員は「放送の自主・自律の堅持が信頼される公共放送の生命線であるとの認識に基づき、全ての業務にあたる」と定めた「NHK放送ガイドライン2015」に明確に違反しています。
「ガバナンスの観点」とは、当初当該番組幹部が郵政に出向いて「番組制作と経営は分離し、会長は番組制作に関与しない」と発言したことを批判してのことと思われますが、放送法第51条は、「会長は協会を代表し、・・・業務を総理する」とあって、これはいわゆる「編集権」が意味する番組内容に関する決定権が会長にあることは意味していません。実際の業務の運営は、放送総局長に分掌され、その上で個別の番組については、番組担当セクションが責任を持って取材・編集に当たっています。
「経営と制作の分離」とは、個別の番組に対して経営者が介入し、政治的判断でゆがめることのないよう、長い言論の歴史の中で培われてきた不文律で、一部の独裁的国家を除いて、世界のジャーナリズムではスタンダードのシステムです。経営委員会が放送法で個別番組への介入を禁じられているのも同様の所以です。
森下俊三新経営委員長は、職務代行者時代、「ガバナンスの強化」を理由とすれば、行政や企業が経営委員会を通して放送に介入できる回路を作ってしまいました。また経営委員会は「総意」としてそれを追認してしまいました、「コンプライアンスの徹底」が求められるのは、経営委員会自身だと考えます。そこで質問です。
[質問―1] 今後も、個別の番組について、「ガバナンスの問題」として申し入れることはあり得ますか?
[質問―2] 森下氏は、経営委員会の席上で、「ネットで情報を集める取材方法がそもそもおかしい。非はNHKにある」と発言しました。しかし、ネットで情報提供を呼び掛けることは「オープンジャーナリズム」の名で放送業界では広く定着している手法です。森下氏は今も「非はNHKにある」と考えていますか。
また、取材も番組編集の一環ですから、上記のような森下氏の言動は、「放送法」が禁じたNHKの番組編集への経営委員の干渉に当たると私たちは考えます。森下氏の見解をお聞かせ下さい。
[質問―3] 今回経営委員として異例ともいえる三選をされた長谷川三千子氏は、「2012年安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の代表幹事に名前を連ね、経営委員就任時に自らを「安倍氏の応援団」と公言されました。政治的公平が求められる経営委員として、真に適格性があるとお考えですか。
「経営委員会委員の服務に関する準則」は不偏不党の立場に立つことを謳い(第2条、) 「経営委員会委員は、日本放送協会の信用を損なうような行為をしてはならない」(第5条)と定めていますが、上記のような発言を公開の場で行うのはNHKの不偏不党、政治からの自律に対する視聴者の信頼を失墜させるものだと私たちは考えます。長谷川委員の見解をお聞かせ下さい。
以上の質問に別紙住所宛に、1月23日までに各項目に沿ってご回答下さるようお願いします。誠実な回答をお待ちします。
以上
(2020年1月10日)