DHCスラップ「反撃」訴訟・附帯控訴状 ― 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第169弾
DHCスラップ「反撃」訴訟控訴審第1回口頭弁論は、1月27日(月)午前11時? 511号法廷でおこなわれる。ことは、表現の自由にも、政治とカネの問題にも、消費者の利益にも関わる。是非、多くの方に傍聴いただきたい。
昨年(2019年)10月4日、東京地裁民事第1部で一審の勝訴判決を得た。この判決は、DHC・吉田嘉明が私(澤藤)を訴えたスラップは違法であると明確に断じた。だから、認容の金額(110万円)にかかわらず、勝利感の強い判決で、当方から積極的に控訴する気持にはならなかった。
ところが、被告側DHC・吉田嘉明が控訴し、私は被控訴人となった。控訴審に付き合いを余儀なくされる立場に立つと、660万円の請求に対する110万円の認容額の少なさに不満が募る。そこで、昨日(1月14日)、弁護団の議を経て、弁護団長の光前さんから附帯控訴状を提出してもらった。その抜粋を掲載する。
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附 帯 控 訴 状(抜粋)
2020年(令和2年)1月14日
東京高等裁判所第5民事部 御中
附帯控訴人(被控訴人、第1審原告) 澤 藤 統一郎
附帯被控訴人訴訟代理人弁護士 光 前 幸 一 外
附帯被控訴人(控訴人、第1審被告) 吉 田 嘉 明
附帯被控訴人(控訴人、第1審被告) 株式会社ディーエイチシー
代表者代表取締役 吉 田 嘉 明
損害賠償請求附帯控訴事件
訴訟物の価額 550万円
貼用印紙額 4万8000円
被控訴人(附帯控訴人)は、上記当事者間の東京高等裁判所令和1年(ネ)第4710号損害賠償請求控訴事件に附帯して、同控訴事件の第1審である東京地方裁判所平成29年(ワ)第38149号損害賠償請求反訴事件について2019年(令和1年)10月4日に言い渡された判決に対して控訴を提起する。
第1 附帯控訴の趣旨
1 原判決中附帯控訴人敗訴部分を取り消す。
2 附帯被控訴人らは、附帯控訴人に対し、連帯して660万円及びこれに対する2014年(平成26年)8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも附帯被控訴人らの負担とする。
4 仮執行宣言
第2 附帯控訴の理由
1 原判決に対する附帯控訴人の不服
(1) 原判決は、附帯被控訴人両名による前件訴訟等(東京地方裁判所平成26年(ワ)第9408号事件、およびその控訴事件ならびに上告受理申立事件)の提起を附帯控訴人に対する違法な行為と認め、不法行為の成立を認定した。
従って原判決は、本来当該違法行為から生じた被害者(附帯控訴人)の全損害の賠償を加害者(附帯被控訴人)に命じなければならないところ、そうなっていない。財産的損害をまったく認めなかった点において、そのような体裁さえとっていないものと指摘せざるを得ない。
(2) 差額説に立つ限り、不法行為に因果関係を有する積極消極の全損害の金銭賠償によって、不法行為被害者の経済状態が不法行為以前に回復されなければならない。しかし、原判決は、その視点を欠き、附帯被控訴人(原審被告)の有責を認めながら、被害者(附帯控訴人)が打撃を受けた経済状態を回復しようとの観念がない。
原判決には、誠実に被害者の財産的・精神的損害の内容や深刻さに思いを致すところはなく、損害を金額に見積もる際の慎重さも欠いて、名目的あるいは象徴的な損害賠償額を命じる判決をもって足りるとしている。この原審裁判所の姿勢は、その点において明らかに誤っており、原判決の損害に関する判断は是正されなければならない。
(3) さらに、不法行為損害賠償制度の理念には、同種違法行為の再発予防の効果と機能を期待する側面がある。同種の違法行為の再発を予防するためには、相応の金額の賠償を命じる判決が必要である。
附帯被控訴人吉田嘉明は自らの経済力を誇示する人物であって、いわゆるスラップ訴訟の常習者でもある。経済力とスラップ訴訟常習とは無関係ではない。通常の金銭感覚をもつ者にとっては、弁護士費用や民事訴訟費用法に定められた手数料(以下、「貼用印紙」)などの費用負担が障壁となって、勝訴の見込みが薄い提訴には軽々に踏み切ることができない。経済的強者であって、かつ勝訴を目的とせず被告となる者に多大な負担を与える目的をもつ者のみが、いたずらに高額請求の提訴に及ぶことになる。これがスラップ訴訟であり、前件訴訟はまさしくその典型にほかならない。
前件訴訟の訴額は金銭請求部分だけで6000万円であった。その標準的な弁護士費用は、現在なお弁護士界で標準的な規準とされている「(旧)日弁連報酬等基準」によって算定されるべきであり、附帯被控訴人もこの規準に従って弁護士費用を負担したものと推認することに合理性がある。
附帯被控訴人らは、勝訴の見込みのない事件の提訴を訴訟代理人弁護士に依頼したのであるから、弁護士費用としては着手金の支払いだけが負担になるところ、同基準によれば、各審級ごとに必要な着手金額は、249万円である。結局、その3倍である747万円が前件訴訟において附帯被控訴人らが負担した弁護士費用である。確実な反証のない限り、そのように推認すべきである。
また、前件訴訟の訴状に貼付すべき印紙額は、6000万円の損害賠償請求部分に限っても20万円を要し、控訴状には30万円、上告受理申立書には40万円が必要となる。附帯被控訴人らは、少なくとも合計90万円の印紙貼付費用を負担した。
以上のとおり、弁護士費用と貼用印紙とを併せて計837万円となる。附帯被控訴人らはこの支出を負担と感じることなく、勝訴の見込みのない前件訴訟の提訴に及んだものである。
原判決が請求を認容した110万円は、この附帯被控訴人らの実費負担金額に比してまことに過小というほかはない。837万円の費用負担に110万を上乗せしても947万円である。見方によっては947万円の出捐を覚悟しさえすれば、同様のスラップ訴訟の提起を繰り返すことが可能ということなのである。同種事件を10件も提起した附帯被控訴人らにとって、自分を批判する言論を封じるための費用として、さしたる負担ではない。結局、附帯被控訴人らには、この程度の認容金額では到底同種違法行為再発の予防効果を期待することができないことになる。
この点からも、原判決の損害賠償認容額はまことに不十分で、再考を要するものと言わねばならない。
2 原審における損害額の主張(略)
(4) 以上の損害合計金額の内金として、660万円の賠償を請求する。
3 損害額についての原判決の認定
以上の請求に関する原判決の判断は以下のとおりである。
(1) 原告は、前件訴訟に係る弁護士費用500万円を損害として主張する。
しかしながら、原告は、前件訴訟及び本件訴訟を通じて、訴訟追行に関して原告自身が出捐した費用の総額が200万円である旨を供述している(原告本人14頁、15頁)。
当該供述を前提とすると、上記出捐に係る費用には、前件訴訟に係る弁護士費用以外の費用が相当程度含まれるものと推認するほかなく,一方で,原告は、前件訴訟に係る弁護士費用のうち、自らが出損した部分について、他の客観的証拠を提出していない。
以上によれば、前件訴訟の弁護士費用に係る損害の発生を認めるに足りる証拠はないものというほかない。
(2) また、被告らによる前件訴訟の提起等については、原告において、応訴の負担等があったものと認められる反面、以上述べたところに照らせば、敗訴の可能性(多額の損害賠償債務の負担)の観点から、原告の精神的な損害を過大に評価することは困難である。その他、本件に現れた一切の事情を総合すると、原告の精神的損害に対する慰謝料として100万円を認めるのが相当である。
そして、原告が本件を提起せざるを得なかったことについての弁護士費用としては、上記損害額合計100万円の1割に相当する10万円を認めるのが相当である。
4 前件訴訟による財産的損害を認めない原判決の誤り
(1) 以上のとおり、附帯控訴人が主張する損害費目と損害額は次のとおりである。
?前件訴訟応訴のための財産的損害(弁護士費用)少なくとも500万円
?前件訴訟提起による精神的損害(慰謝料) ??? 少なくとも500万円
?本件訴訟提起のための弁護士費用 100万円
?損害合計1100万円の内金660万円の請求
これに対する、原判決の認定は、以下のとおりとなっている。
?前件訴訟応訴のための財産的損害(弁護士費用) ゼロ
?前件訴訟提起による精神的損害(慰謝料)??? 100万円
?本件訴訟提起のための弁護士費用 10万円
?合計認容額 110万円
(2) 以上の3費目の内、前件訴訟提起等による財産的損害(応訴費用)をまったく認めなかった原判決の判断が際だって不当というべきである。
弁護士を依頼して民事訴訟を追行する場合、その費用負担がゼロであることはあり得ない。しかも、原判決は「原告は、前件訴訟及び本件訴訟を通じて、訴訟追行に関して原告自身が出捐した費用の総額が200万円である旨を供述している(原告本人14頁、15頁)。」ことまでは認定している。にもかかわらず、前件訴訟に関しての訴訟追行のための弁護士費用出捐についての特定に欠けるとして、この費目での損害をまったく認めなかった。これは、極めて偏頗な認定というしかない。原告(附帯控訴人)自身が出捐した費用の全額が、違法な被告(附帯被控訴人)らの前件訴訟提起がなければ出捐の必要のない、相当因果関係を有する出捐であることが明らかだからである。
仮に原審裁判所が当該費目の損害額の認定のためには、出捐実額の主張と立証が必要だと考えたとすれば、その旨の釈明を求めるべきであった。あるいは、民事訴訟法248条の活用によって、相当な金額を認定すべきでもあった。このような手続のないまま、不意打ちでのゼロ認定は、民事訴訟におけるあるべき裁判所の姿勢ではない。
(3) 原審での原告(附帯控訴人)の応訴費用の損害額についての主張は、出捐の実額ではなく「通常生ずべき相当額」をもって認定すべきであり、その相当額の認定は「旧弁護士会報酬規程」における「弁護士報酬標準額」によるべきであるとの主張であった。附帯控訴人は、当審においてなお、主位的にはこの主張を維持するものである。
不法行為による損害の有無や金額の認定には、個別性の高いものとして、実損害額の証明を必要とする範疇のものと、損害実額の証明には馴染まず、規範的な相当額を認定すべき範疇のものとがある。
民事訴訟の被告とされた者が訴訟追行のために弁護士を依頼することはごく自然なことであり、その依頼には費用の負担が伴うことも自明である。必然的に生じるこの負担を損害として把握するに際しては、その額は実出捐額ではなく、規範的な相当額として認定すべきものである。
仮に、弁護士費用としての出捐実額が相当額を超えたとしても、その超過分は相当因果関係ある損害とは見なしがたい。また、仮に、実出捐額が相当額に満たないとしても、その偶然的事情を不法行為者の利益とすることは許されない。
また、不法行為制度における違法行為抑止の効果を期待する側面からも、被害者の出捐実額によらない「通常生ずべき相当額」を損害として認定することが求められる。そのことが、いたずらに高額な請求におよぶ不当訴訟の横行を抑止することになるからである。
(4) 原判決も、本件訴訟提起の弁護士費用については10万円を認めているが、これに関して出捐実額の証明を求めてはいない。個別の具体的証明ないまま、「相当の」損害額を10万円として、同額の賠償請求を認容している。
これは、不法行為被害者が、訴訟追行を余儀なくされたことに付随する財産的損害である訴訟追行費用を、出捐の実額を損害とするものではなく、規範的に定まる「通常生ずべき相当額」を損害と把握していることを示している。
本件訴訟の訴訟追行費用をこのように認めながら、前件訴訟の訴訟追行費用をまったく認めなかった原判決の判断には、明らかな矛盾がある。
(5) 前件訴訟における附帯被控訴人ら(前件訴訟・原告ら)の一連の違法行為は、提訴だけでなく、請求の拡張であり、控訴であり、上告受理申立でもある。本来訴訟委任契約は各審級ごとになされ、弁護士費用の負担も各審級ごとになされる。応訴費用の「相当額」は、各審級ごとの着手金と事件終了後の成功報酬となる。附帯控訴人は、依頼した弁護士の努力によって勝訴を得たのであるから、当然に標準的な各審級ごとの着手金と成功報酬を支払わねばならないことになる。旧弁護士会報酬規程から、その標準額を算出すると、
着手金は、249万円×3=747万円
成功報酬は、6000×0.06+138万円=498万円
総計では、1245万円となる。
この訴額を設定したのは、附帯被控訴人ら自身である。それに相応する負担を甘受すべきである。そのようにして始めて、違法行為を抑止し、再発防止を期待することが可能となる。
(6) これまで、違法な提訴による損害賠償を認容した判決例において、応訴費用(弁護士費用)を損害と認定することについて論じたものは極めて少ない。
しかし、最近いわゆるスラップ訴訟が横行する状況下に、応訴費用を違法な提訴の損害として認定する判決が現れている。
その典型判決が、判例時報2354・60に紹介されている、2017年(平成29年)7月19日東京地方裁判所民事第41部判決(平成28年(ワ)第29284号損害賠償請求事件)である。
同誌は、同判決の「判示事項」として、「NHKの受託会社の従業員が放送受信契約締結勧奨のために訪問したことが不法行為に当たるとして提起された別件訴訟につき、権利が事実的、法律的根拠を欠くことを知りながら、業務を妨害する目的であえて提訴したもので、裁判制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠く不当訴訟であるとして、別件訴訟の原告と提訴を促し訴状の作成に関与した者との共同不法行為責任を認めた事例」と紹介しているが、より注目すべきはその損害の認定である。
同事件においては、原告の請求が「別件訴訟」の応訴費用についてだけのものであり、判決は訴訟追行に必要な弁護士費用として原告(別件訴訟被告)が支払った54万円の全額を、「相当」と認めた。
このNHKを被告とする「別件訴訟」は、訴額10万円に過ぎない。しかも、本人訴訟である。松戸簡裁に提起されて、千葉地裁松戸支部に移送されたのが2015年(平成27年)10月8日。その後NHKが弁護士費用を支払い、翌16年(平成28年)2月19日には判決に至っている。考えうる限り迅速に審理が終了して判決に至った簡易な事案であって、この判決は控訴なく確定している。
引用の東京地裁民事41部判決は、訴額10万円の損害賠償請求事件における被告NHK側の応訴費用である弁護士費用54万円全額を損害として認定し、その賠償を命じた。
これに比して、本件附帯被控訴人DHCと吉田嘉明が提起した、本件における前件訴訟は訴額6000万円の損害賠償請求事件である。しかも原告側は本人訴訟ではなく訴訟代理人が付いている。さらに、一審だけでなく、控訴審も上告受理申立審まである。それでいて、応訴に不可欠な弁護士費用の負担を損害額としてまったく認めず、その部分の認容額がゼロだという。この極端な不権衡は明らかに不当というほかはない。
(7) なお、同判決の損害額に関する下記の判示が注目される。この考え方は、本件においても、十分に斟酌されるべきである。
「被告らは、訴額が10万円にすぎない別件訴訟の弁護士費用として54万円もの費用をかける必要はなく、因果関係がない旨主張する。しかしながら、応訴の費用として通常生ずべき金額は、弁護士に対する委任の有無、当該訴訟における訴額及び当該訴訟の有する社会的影響力等の諸要素を考慮して判断すべきものであるところ、受信契約締結の勧奨が不法行為に該当するとして、原告に対する損害賠償請求訴訟が相当数提起されており、その勝敗が、係属中の他の訴訟や今後同種の訴訟が提起される可能性に影響を及ぼし得るものであること等を踏まえれば、前記認定金額が不相当であるとか相当因果関係がないということはできず、被告らの主張は採用することができない。」
以上のとおり、同判決も、応訴費用の損害額を「応訴の費用として通常生ずべき金額」としている。また、その通常生ずべき金額の多寡を決するには、「当該訴訟における訴額及び当該訴訟の有する社会的影響力等の諸要素を考慮して判断すべきもの」「原告に対する損害賠償請求訴訟が相当数提起されており、その勝敗が、係属中の他の訴訟や今後同種の訴訟が提起される可能性に影響を及ぼし得るものであること等を踏まえ」るとしていることが、重要である。本件においても、前件訴訟の勝敗がスラップ訴訟提起常習者としての附帯被控訴人らが今後同種訴訟を繰り返し提起する可能性に影響を及ぼし得るものであるからである。
(8) 附帯控訴人は、違法な前件訴訟を提起されたために220万円の出捐を余儀なくされた。
なお、原審での本人尋問では附帯控訴人は自らの出捐額を200万円と述べているが、これは正確な金額ではない。同人は確実な記憶だけを控えめに述べたもので、その後確認したところでは、合計出捐額は220万円である。具体的には後述する。
これに対して、原判決が経済的損害として認めたものは、わずかに10万円に過ぎない。2件の民事訴訟の追行を弁護士に依頼し、しかも、いずれも上訴の審級を重ねるに至っている。その弁護士費用が10万円で済むはずはない。
違法な行為あれば、それに起因する損害を賠償せしめるということが法の正義である。原判決がその正義を実現をしていないことがあまりに明かというべきである。
前述のとおり、そもそも前件訴訟で成算もないままに6000万円という高額な訴額を設定したのは、違法な訴訟を提起した両名の反訴被告(附帯被控訴人)自身である。裁判所が、この不当訴訟の高額請求についての応訴費用負担の重大性を看過して、これに対する標準的な弁護士費用の損害賠償を認めないのでは、違法なスラップ訴訟の横行を黙認するばかりか、スラップ訴訟提起を奨励するに等しい。経済的強者である反訴被告(附帯被控訴人)らは自由に不当訴訟を提起することができる一方、訴訟提起を受けた者は応訴費用の負担をまかなうことができなくなるからである。このことは、表現の自由が逼塞した恐るべき社会を招来するすることに繋がる。
以上のとおり、附帯控訴人の前件訴訟における弁護士費用負担の損害は、出捐実額ではなく、標準的な弁護士費用である(旧)日弁連報酬等基準によって算定されるべきであり、その額は少なくとも500万円を下らない。
5 前件訴訟における精神的損害
(1) (略)
(2) なお、原判決は「敗訴の可能性(多額の損害賠償債務の負担)の観点から、原告の精神的な損害を過大に評価することは困難である。」と説示する。
つまりは、一見して請求認容となり得ない訴訟なのだから、こんな提訴の被告とされたところで痛痒を感じるところはなく、精神的被害が大きいとは言えない、との趣意だが、それは一面的な見方に過ぎない。
敗訴の可能性が小だということは、提訴の違法性がより大であることを意味する。一方敗訴の可能性が大だということは違法性の程度が小ということを示している。とすれば、原判決は、違法性が大なる場合には慰謝料額を低額とし、違法性が小なる場合には慰謝料額が高額になるという奇妙な相関を認めていることになる。通常の法感覚も、訴訟実務もその逆である。違法性の高い行為による被害には、高額の慰謝料をもって、精神的損害の慰藉が行われなければならない。
また、現実には、不当訴訟の被害者は、当該不当訴訟における敗訴可能性の有無・濃淡にかかわらず、応訴のためには全力を尽くさざるを得ず、その割くべき時間や労力にさしたる差異はない。荒唐無稽な不当提訴であればあるほど煩わしさや腹立たしさは募るものでもあって、精神的な被害は大きいというべきである。
6 本件訴訟追行費用について
(1) 原判決は、慰謝料として認容した損害額100万円の10%を本件訴訟追行費用とみとめた。当然に十分な金額ではない。10万円の弁護士費用で、訴訟追行が可能であるはずはなく、まったく非現実的で形式的な「損害」の認定である。
原審裁判所のこのような姿勢は、違法行為による損害回復のために不可欠な費用を非現実的で形式的なものにとどめるものとして、違法な被害を被った被害者に対して、被害回復の法的措置への意欲を抑制して、加害者の立場に加担するものと言わざるを得ない。
(2) この点についても、前記引用の2017年(平成29年)7月19日東京地方裁判所民事第41部判決の次の説示を参考にすべきである。
「応訴の費用として通常生ずべき金額は、弁護士に対する委任の有無、当該訴訟における訴額及び当該訴訟の有する社会的影響力等の諸要素を考慮して判断すべきものである」
これは本件訴訟追行費用については、次のように読み替えることができる。
「不法行為による損害を賠償すべき訴訟追行のための弁護士費用として通常生ずべき金額は、当該訴訟における訴額及び当該訴訟の有する社会的影響力、事件の複雑さ等の諸要素を考慮して判断すべきものである」
前述のとおり、同引用判決では訴額10万円の事件で、応訴費用として54万円の弁護士費用を損害として認めた。この程度の費用なくしては、弁護士を依頼しての本格的な訴訟追行は現実的に不可能なのである。この理は、本件訴訟追行費用においても、生かされなければならない。
(3) 事件の規模、社会的影響力、複雑さ等々の諸要素を考慮すれば、前件訴訟による損害額の如何にかかわらず、本件訴訟追行費用たる弁護士費用としては、100万円が相当である。
7 前件訴訟追行費用についての主張の追加
(1) 附帯控訴人は、前述のとおり、飽くまでも前件訴訟追行費用としての損害額は、現実の出捐額ではなく、規範的な意味での損害と把握して、当該訴訟に必要な標準的弁護士費用額とすべきことを主位的主張として維持する。
しかし、貴裁判所の心証が必ずしも附帯控訴人の主位的主張に与しない場合に備えて、以下の負担実額の主張を追加する。
(以下略)
8 結論
以上のとおり、損害額の認定において過小な原判決の附帯控訴人敗訴部分は取り消されなければならず、改めて附帯被控訴人ら両名に、附帯控訴人に対して連帯して660万円及びこれに対する2014年(平成26年)8月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うよう、求める。
附 属 書 類
附帯控訴状副本 2通
(2020年1月15日)