澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

菅義偉 総裁選出馬会見のわかりにくさ

(2020年9月6日)
9月2日夕刻に菅義偉の自民党総裁選出馬会見が行われた。あれからまだ4日である。この4日の内に、何とも事態が急展開である。いや、事態が変わったわけではなく、見えなかった事態が少しずつ見えるようになっただけのようだ。

私も、あの記者会見をラジオで聞いた。菅という人物を初めて見知ったという思いがある。率直に言って、印象はよくない。いや、すこぶる悪い。石破、岸田両人の会見では、それぞれの個性を発揮しながら記者との会話が成立している。しかし、菅と記者との間には会話が成立しないのだ。もちろん、心情の交流など望むべくもない。

アベの答弁には、「ご飯論法」というネーミングが奉られた。以来、アベが口を開けば、「ご飯だ」「パンだ」「朝食だ」と、あげつらわれる宿命となっている。これは、アベの身から出た錆なのだ。自らを怨むほかはない。その点、菅の答弁もよく似ている。決して、聞かれたことに端的に答えようとしないのだ。そこが、印象のよくない、いやすこぶる悪い原因である。

あの会見の全文を誰かが起こしてくれれば論評したいと思っていたが、産経以外に見つからない。必ずしも、完全な文字起こしではないが、産経を引用させていただき、幾つかの問題を指摘しておきたい。

最初の菅のコメントは、総裁選出馬の動機について述べ、次いで自分の生い立ちと、政治家を志して以来の経歴を語ったものだが、面白くもおかしくもない。この人、国民に語るべき政治理念のバックボーンをもたないのだ。大向を唸らせる技倆もない。もちろん、知性も理性も気の利いた言葉を操る感性も感じさせない。一言で評すれば、国民を惹きつける魅力に欠ける。

鈴木宗男という議員(維新)がいる。たまたまそのブログを見たら、「真打ち菅官房長官が立候補表明した。昨日の岸田、石破両氏と決定的に違った会見である。それはなにゆえに政治家になったか。自分自身の出自を述べ、志(こころざし)を持って地方から出てきた生き方を淡々と話され感動した。」という。

ふーん、人はいろいろだ。あの会見に「感動した」という人もいるのだ、など驚いてはいけない。政治家の「感動した」を真に受けるなどは、愚の骨頂である。ふーん、維新の議員は、菅のあの会見に「感動した」と言ってみせる必要があるのだ、と理解しなければならない。

さて、全部にものを言う余裕はない。まずは冒頭コメントの最後の幾つかのフレーズ。

「ポストコロナを見据えた改革を着実に進めていく必要があると思います。その上で、少子高齢化問題への対応、戦後外交の総決算をはじめとする外交、安全保障、その課題。とりわけ、拉致問題解決に向けた取り組み、そして憲法改正。まずは目の前にある危機を乗り越えることに全力挙げつつ、こうした山積する課題にも引き続き挑戦をしていきたいと思います。」

しっかりと、憲法改正を忘れずに言及している。もっとも、何をやりたいのかメリハリはない。感じられない。

「私自身、国の基本というのは、自助、共助、公助であると思っております。自分でできることはまず自分でやってみる、そして、地域や自治体が助け合う。その上で、政府が責任をもって対応する」

この人は、冷たい人だ。このメッセージは、自助の比重を大きくし公序を小さくしようというのだ。今でさえ、公助の不十分が明らかではないか。そのために苦しんでいる人が数多くいる。その人に手を差し伸べようとするのではなく、もっともっと自助だ、「自分でできることはまず自分でやれ」と言い、公助は最後の出番だという。この人は、財界の回し者でしかない。

「当然のことながら、このような国のあり方を目指すときには国民の皆さんから信頼をされ続ける政府でなければならないと思っております。目の前に続く道は、決して平坦ではありません。しかし安倍晋三政権が進めてきた改革の歩みを、決して止めるわけにはなりません。」

えっ?と、耳を疑う。「国民の皆さんから信頼をされ続ける政府でなければならない」が、現実にはそうなっていない。なぜだ? 明らかにアベ政権の国政私物化によるものではないか。モリ・カケ・桜・カジノに河井だ。あるいは、黒川問題だ。加えて、ウソとごまかしの政治手法によるものではないか。さらにはコロナ対策における無為無策ではないか。常識的には、「アベ政権の負の遺産を承継することなく、前政権の反省すべきを反省して」と言わねばならない。にもかかわらず、「安倍晋三政権が進めてきた改革の歩みを、決して止めるわけにはなりません。」などと言うから、辻褄が合わなくなるのだ。

ここからは記者質問に対する回答

--北朝鮮による拉致問題はどのように対応するか
「実は私自身、官房長官として、また拉致問題担当相でありますけども、そもそも私と首相との最初の出会いはこの拉致問題でありました。そういう中で、拉致問題の解決は、ありとあらゆるものを駆使してやるべきであるという考え方。そしてまた、拉致問題担当になる以前から、官房長官として拉致問題については、首相とある意味で、まさに相談をしながら進めてきているということも事実であります。ですから拉致問題解決のためには、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とも条件をつけずに会って、活路を切り開いていきたい。そうした気持ちも同じであります」

アベ政権における拉致問題は、やってる感の印象操作だけで、まったく進展しなかった。7年8か月膠着してしまった拉致問題をどうして解決するのか方策はあるのかが問われている。それに対する回答は、「アベと気持ちが同じ」というだけ。アベが解決できず、むしろ悪化させてしまった問題をどう解決に道筋を着けていくのか。展望はないと答えたに等しい。

--安倍首相は敵基地攻撃能力の保有を強調しているが、この路線も引き継ぐのか
「今の問題については、与党から提言書をいただいています。憲法の範囲内、専守防衛の範囲内においての提言書をいただいておるわけでありますけども、これから与党ともしっかり協議をしながら、そこは進めていきたいというふうに思います」

なんということだ。否定しないのだ。「今はコロナが最重要課題。コロナ対策に目鼻がついてから考えましょう」で十分なのに、「そこは進めていきたい」というのだ。これは、一大事だ。

--「森友・加計学園問題」や首相主催の「桜を見る会」問題について、再調査を求める声がある
「森友問題は財務省関係の処分も行われ、検察の捜査も行われ、すでに結論が出ていることでありますから、そこについては現在のままであります。また、加計学園問題についても、法令にのっとり行うプロセスで検討が進められてきたというふうに思っています。『桜を見る会』については国会でさまざまなご指摘があり、今年は中止して、これからのあり方を全面的に見直すことに致しております」

「森友問題は財務省関係の処分も行われ、検察の捜査も行われ、すでに結論が出ていることでありますから、そこについては現在のままであります。」とは、明確な再調査拒否ということだ。「桜」は、今年止めたのだから。もう済んだことだろう、と言う。この点は、イヤにはっきりとしっかりという。ああそうか。なるほど、そういうことか。そういう約束で主要派閥が菅支持に回っているのか。やっと分かり易い構図が目に見えてきた。

−−菅義偉首相として目指す政治は、安倍晋三政権の政治の単なる延長なのか。違うのであれば、何がどう違うのか
「今私に求められているのは、新型コロナウイルス対策を最優先でしっかりやってほしい。それが私は最優先だと思っております。それと同時に、私自身が内閣官房長官として、官房長官は、役所の縦割りをぶち壊すことができる、ある意味でただ1人の大臣だと思っていますので。やり遂げていきたい、こういうふうに思ってます」

分かりにくい。菅が目指すのは、「安倍晋三政権の政治の単なる延長」なのか、違うのであれば何がどう違うのか。恩義ある派閥には「目指すはアベ政治の延長」と言わねばならないが、独自色を出さなければ国民の支持を得られない。で、言えるのはせいぜいこれくらいのところ。実のところ、総裁候補も辛い立場なのだ。

−−東日本大震災の復興にどう臨むか
「先般、福島県知事から色々な復興の状況の説明を受けました。まさにこれから、復興に向けてさまざまな具体的な事業を進めていかなきゃならない。そういう時期に差しかかっているという風に知事との会談の中でそうした思いをいたしました」

えっ? まさにこれから、復興に向けてさまざまな具体的な事業を進めていかなきゃならないですって? 「そういう時期に差しかかっているという風に知事との会談の中でそうした思いをいたしました」ですって? 東日本大震災の復興なんて、およそ頭の片隅にもなかったのでしょうね。

−−自民党総裁になったとき、番記者の厳しい追及にも応じるか。質問の事前聴取がないものも含め答えるか
「限られた時間の中でルールに基づいて記者会見というのは行っております。ですから早く結論を質問すれば、それだけ時間が浮くわけであります」

この質問者は東京新聞望月衣塑子記者。およそ、真面目に答えようという真摯さに欠ける。記者会見のルールとはなんだ。どのような理念にもとづいて、誰が設定したルールなのか。どうも、菅は記者会見のルールは、自分の都合で運用できるものと考えている如くである。

--安倍晋三政権は原子力発電を重要なベースロード電源と位置付け、安全が確認された原発の再稼働を進めているが、総裁になっても政策を踏襲するのか。東京電力福島第1原発の処理水問題は、次の政権で解決するか
「次の政権と言われましたが、次の政権で解決しなきゃならない、この思いはそうであります。そして、いまの全体の電力政策の中で原子力政策もありますから、それに基づいておこなっていきたいというふうに思います」

これが最後の質問と回答。聞かれた順序に、素直に答えればよいのに、そうならないから、分かりにくい。菅がなんと答えているのか、お分かりだろうか。「次の政権で解決しなきゃならない、この思いはそうであります」とは、「(福1の処理水問題は)次の政権で解決する」と決意を述べているのか、あるいは「思いだけはそうであります」と実際は困難だと言っているのか分からない。そして、…原発再稼働については、「全体の電力政策の中でおこなう」という。ということは、再稼働を推進するということか。端的に言わないから、いちいち聞き手が解釈しなければならない。わかりにくい、面倒な人だ。

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