澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

よく似ている。DHCスラップ反撃訴訟の上告理由書と、美々卯スラップ訴訟の訴状と。

(2020年9月25日)
本年(2020年)3月18日に言い渡された「DHCスラップ『反撃』訴訟」控訴審判決。DHC・吉田嘉明両名の私(澤藤)に対する損害賠償請求の提訴を違法として、165万円の支払を命じた。その判決理由において、DHC・吉田嘉明のスラップ提訴の違法を一審以上に明確に認めている点で、私にとって極めて満足度の高いものとなっている。

私の満足は、DHC・吉田嘉明の不満足。両名は、この判決を不服として上訴期限最終日の4月1日(水)に、最高裁宛の上告状兼上告受理申立書を原審裁判所(東京高裁)に提出した。6月1日付の各申立の理由書が最高裁に到着したという通知を9月15日に受け、同日副本送付の申請をして、これを同月17日に受領した。係属は第一小法廷である。その各要旨は、以下のとおりである。

上告理由要旨(R2年(オ)第995号)

 原判決は,上告人ら(DHC・吉田嘉明)の提訴を不当提訴と判示したが,その判断は,憲法32条に違反する。
 上告人ら(DHC・吉田嘉明)が,訴訟提起したのは,披上告人(澤藤)が,8億円を貸付けた動機について政治を金で買ったなどと事実無根の主張をし,それが犯罪動機についての最高裁判所の判例の考え方に従えば,事実の摘示となり,名誉毀損が成立すると考えたからであり,言論の萎縮効果を狙ったからでは毛頭ない。
 また,債務不存在確認訴訟を提起したのは,前訴において,裁判所が,不当提訴には当たらないと判断したからである。
 それにもかかわらず,裁判所が前訴と異なる判断をすることは矛盾挙動であるし,事実の摘示か意見ないし論評かの区別は,通常人が容易に判断できる事項ではない。
 いずれにせよ,原判決は,結論ありきで,上告人ら(DHC・吉田嘉明)の主張に対して全く説得力のない判示をしており,上告人らの裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害するものであり,原判決は,すみやかに破棄されるべきである。

上告受理申立理由要旨(R2年(受)第1245号)

 原判決は,申立人ら(DHC・吉田嘉明)の提訴を不当提訴と判示したが,その判断は,不当提訴の要件を判示した最高裁判所の判例に違反しており,民法709条の違法性について重要な法令解釈を誤った違法がある。
 また,対抗言論を経ないで訴訟提起したことを不当提訴の根拠としており,これは,東京高判平成21年12月16日(平成21年(ネ)第2519号)に違反する。
 申立人らが,訴訟提起したのは,相手方(澤藤)が,8億円を貸付けた動機について政治を金で買ったなどと事実無根の主張をし,それが犯罪動機についての最高裁判所の判例の考え方に従えば,事実の摘示となり,名誉毀損が成立すると考えたからであり,言論の萎縮効果を狙ったからでは毛頭ない。
 また,債務不存在確認訴訟を提起したのは,前訴において,裁判所が,不当提訴には当たらないと判断したからである。
 それにもかかわらず,裁判所が前訴と異なる判断をすることは矛盾挙動であるし,事実の摘示か意見ないし論評かの区別は,通常人が容易に判断できる事項ではない。
 いずれにせよ,原判決は,結論ありきで,申立人らの主張に対して全く説得力のない判示をしており,申立人ら(DHC・吉田嘉明)の裁判を受ける権利をも侵害するものであり,原判決は,すみやかに破棄されるべきである。

裁判所を説得しようという迫力はない。すべきではなかった提訴をしてしまったことについての言い訳に終始しているとしか読めない。

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ところで、本日(9月25日)配達された『週刊金曜日』の「金曜アンテナ」欄に、ジャーナリスト北健一さんの「美々卯がスラップ訴訟」「東京都内一斉閉店・従業員解雇の報道に社長が激怒」の記事。このスラップの被告が北さんご自身なのだ。同病相憐れむの強い親近感を抱かざるを得ない。

北さんには、私のDHCスラップ訴訟の公判傍聴や報告集会にも参加していただいた。勝訴判決に祝意のメールもいただいた。ジャーナリストとしての関心からか、出版労連役員としての行動なのかは分からない。この人、とても落ちついた雰囲気で、筆を滑らせるような人には見えない。それでも、スラップの被害者となっているのだ。

私のスラップ訴訟は、DHCと吉田嘉明が原告だった。北さんは、美々卯とその社長薩摩和男が原告。私は6000万円を請求された。北さんは1100万円だが、大阪地裁で応訴を強いられている。私の事件は被告は私一人。北さんは、記事を掲載したダイヤモンド社と編集長も訴えられているという。

 美々卯スラップの訴状には、薩摩社長の「平気で従業員の生活の糧を奪い、その人生を踏みにじる人物である、という仮にこれが真実であれば会社経営者として万死に値する恥ずべき汚名を着せられた」との述懐があるそうだ。

こういうことであろうか。「私・薩摩は、決して平気で従業員の生活の糧を奪い、その人生を踏みにじる人物などではない」。にもかかわらず、「平気で従業員の生活の糧を奪い、その人生を踏みにじる人物と描写されてしまった」。「仮に私が真実そのような人物であるとすれば、会社経営者として万死に値する恥ずべきことである。」しかし、それは事実と異なるので、「私は、その記事によって不実の汚名を着せられた」

これは、DHC・吉田嘉明の言い分とたいへんよく似ている。今回の上告理由書・上告受理申立理由書にも、まったく同文でこんなことが書いてある。
「真実は,脱官僚を目指して頑張っている政治家を支援するためにお金を貸したのに,これを政治を金で買ったなどの誹膀中傷がなされた」

つまりこういうことだ。「真実は,(吉田嘉明は)脱官僚を目指して頑張っている政治家(渡辺喜美)を支援するためにお金(8億円)を貸したのに,これを(澤藤から)『政治を金で買った』などの誹膀中傷がなされた」。美々卯事件の薩摩社長と同じことだ。

「私・吉田嘉明は、決して『政治を金で買う』などと考える人物ではない」。にもかかわらず、「脱官僚を目指して頑張っている政治家(渡辺喜美)を支援するためにお金(8億円)を貸したことを捉えて、あたかも私が、『政治を金で買った』人物と描写されてしまった」。「仮に私が真実『政治を金で買う』人物であるとすれば、まことに恥ずべきことである。」しかし、それは事実と異なるので、「私は、その記事によって不実の汚名を着せられた」。

問題は、吉田嘉明が、政治家(渡辺喜美)に8億円もの裏金を提供したことを、常識的にどう捉えるかということである。政治資金収支報告書にも、選挙運動費用収支報告書にもまったく記載しない、明らかに選挙のための巨額のカネの交付である。これを『政治を金で買った』と表現するに何の差し支えがあろうか。これを司法が咎めるようなことになれば、民主主義社会は崩壊する。

美々卯スラップ訴訟を知っていただくために、また、北さんを支援する意味で、金曜日の記事を紹介しておきたい。

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「東京都内一斉閉店・従業員解雇の報道に社長が激怒」
美々卯がスラップ訴訟

うどんすきの老舗として名高い美々卯(本社・大阪市)とその社長・薩摩和男氏が筆者(北)を訴えた名誉毀損訴訟が波紋を広げている。筆者が執筆した記事が対象で、原告は被告の筆者と記事を掲載したダイヤモンド社、編集長にI100万円の支払いと記事削除、謝罪を求めている。

問題の記事はウェブ媒体「ダイヤモンド・オンライン」に掲載の「『美々卯』 一斉閉店の裏に再開発利権か コロナ便乗解雇の深層」(6月26日付)。美々卯から暖簾分けした東京美々卯が今年5月20日に解散、全6店を閉鎖し約200人の従業員を退職、解雇させた事件の背景を探っている。同社は無借金で、雇用調整助成金も申請することなく解散を決めた。

訴状には薩摩氏が「平気で従業員の生活の糧を奪い、その人生を踏みにじる人物である、という仮にこれが真実であれば会社経営者として万死に値する恥ずべき汚名を着せられた」とある。薩摩氏らは他方で東京美々卯解散や退職・解雇は問題なかったと主張している。問題のないことへの関与がなぜ「汚名」になるのだろうか。

9月16日、大阪地裁で第1回目頭弁論が開かれた。新型コロナ感染防止で一人置きに座る形の傍聴席は関心を持った市民でいっぱいに。薩摩氏は法廷に姿を見せなかったが、被告側の意見を受け、金地香枝裁判長は次回以降も公開の口頭弁論とすることを決めた。

弁論後のミニ報告集会で美々卯元店長が出汁づくりの苦労にふれると、交響楽団でバイオリンを弾く音楽ユニオンの斎藤清さんは「いい味といい音とは共通する。同じ職人として解決を望む」。不当配転と闘う連帯ユニオン・十三市民病院分会の大西ゆみさんは「職人さんは素晴らしい。私も問題が解決したら美々卯に食べにいきたい」と会場を沸かせた。批判封じのスラップ訴訟に見える提訴が却って連帯の輪を広げた格好だ。

次回弁論は‥11月18日13時10分から大阪地裁807号法廷の予定。
北健一 ジャーナリスト

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