澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

国連・人種差別撤廃委員会のヘイトスピーチ処罰勧告

戦争を語るべき8月も残り僅か。昨日に続いて、話題はヘイトスピーチ。

日本における民族的な差別意識は、侵略戦争と植民地侵脱の準備の過程で人為的につくられ、煽られたものだ。かつての圧倒的な文化大国・中国、文化先進国・朝鮮、そして西洋文明の一端を形成していたロシアやその国民に対して、日本国民は概ね畏敬ないしは敬愛の念を抱いていた。少なくも近世まではそうだった。

しかし、そのような消極的民族意識では対外戦争はできない。とりわけ、国家の総力を挙げての近代戦争は不可能である。戦争には、経済的・軍事的な国家総動員だけではなく、国民精神総動員が必要で、国民精神動員の方向は、仮想敵国への差別意識を植えつけ、これを侮蔑し、さらには憎悪の対象とすることにある。敵として憎む心なければ、闘うことはできないのだから。

植民地政策の遂行にも、根拠のない自国の優越意識と、煽動された他国への侮蔑的感情の醸成が必要であった。

そのような国民精神を、国家主導の教育とメディアが作り出した。当時の国民の多くが煽動された結果とはいえ、これに易々と掬い取られた。

日米友好の象徴として語られる「青い目の人形」がアメリカから日本各地の小学校に送られたのは1927年のことである。私の母の母校も人形をもらっている。ちょうど母が6年生のころのことだ。この人形は大切にされたはず。

その母が成人し結婚するころには、人形を送ってくれた国民を「鬼畜米英」という社会になっていた。人種や民族による差別意識の醸成は、人権の侵害であるだけでなく平和への脅威であり、再びの戦争の準備でもある。ヘイトスピーチは、それ自体が人権侵害であるばかりでなく、平和への脅威としても根絶を要する。

あらためて「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」を読み直してみた。
その前文の一節に、「人種、皮膚の色又は種族的出身を理由とする人間の差別が諸国間の友好的かつ平和的な関係に対する障害となること並びに諸国民の間の平和及び安全並びに同一の国家内に共存している人々の調和をも害するおそれがあることを再確認し…」と明記されている。

いま日本に蔓延しているヘイトスピーチは、「日本と近隣諸国間の友好的かつ平和的な関係に対する障害、諸国民の間の平和及び安全を害して」おり、また「日本という同一の国内に共存している、日本人と日本以外の出自をもつ人々との調和をも害する」ることが明らかではないか。差別は、国家間・国民間の平和と安全そして調和を害することが国際条約において確認されているのだ。

ところで、この国際条約のハイライトは第4条である。読みやすく抜粋して引用しておきたい。

「締約国は、
《人種の優越性若しくは皮膚の色や種族的出身の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体》又は
《人種的憎悪及び人種差別を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体》
を非難し、
《差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとること》
を約束する。

このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則に十分な考慮を払って、特に次のことを行う。
(a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、すべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対するいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。
(b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。」

「人種(民族)的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布や差別の扇動は、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言」したうえに、「人種差別を助長し及び扇動する宣伝活動を犯罪として禁止する」ことが締約国の義務となっている。これがグローバルスタンダードなのだ。

この国際条約は、1965年12月21日第20回国連総会で全会一致で成立した。しかし、我が国が批准したのはなんと30年後の1995年12月15日。締約順位は146番目であった。人権後進国との批判は避けられない。

しかも、日本は、第4条に関して「日本国憲法の下における『集会、結社及び表現の自由その他の権利』の保障と抵触しない限度において、これらの規定による義務を履行する。」という留保を宣言している。だから、日本にはヘイトスピーチそのものを処罰対象とする刑罰規定はない。

その国際条約の履行を確保するために、条約自身が国連に「人種差別撤廃委員会」を置くことを定めている。その委員会が、日本のヘイトスピーチに大きな関心をもった。7月の「規約人権委員会」の勧告に続いて、昨日(8月29日)日本政府に対して、さらに厳しい勧告がなされたことが報道されている。

勧告の全文は大部で多項目にわたるもののようだ。ヘイトスピーチ問題だけではなく、慰安婦問題にも、「琉球民族問題」にも触れているという。

毎日の報道を抜粋する。
「ヘイトスピーチ 起訴含め刑事捜査を日本に勧告 国連委
ジュネーブにある国連の人種差別撤廃委員会は29日、異なる人種や少数民族に対する差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)を行った個人や団体に対して『捜査を行い、必要な場合には起訴すべきだ』と日本政府に勧告した。インターネットを含むメディアでのヘイトスピーチについても適切な措置をとることを要請。

国連人権委員会も7月、ヘイトスピーチなど人種差別を助長する行為の禁止を勧告。両委員会の勧告に強制力はないが、国連がヘイトスピーチへの厳しい対応を相次いで求めたことで、日本政府や国会は早期の対応を迫られた形だ。

撤廃委員会の最終見解は、前回に比べ、ヘイトスピーチの記述が大幅に増加。日本での問題の深刻化を印象づけた。見解は、日本での暴力的なヘイトスピーチの広がりに懸念を表明。一方で、ヘイトスピーチ対策を、その他の抗議活動などの『表現の自由』を規制する『口実にすべきではない』ともくぎを刺した。

日本は人種差別撤廃条約に加盟するが、ヘイトスピーチの法規制を求める4条は『表現の自由』を理由に留保している。委員会はこの留保の撤回も求めた。

国連の日本に対する苛立ちがよくわかる。また、「ヘイトスピーチ対策を、その他の抗議活動などの『表現の自由』を規制する『口実にすべきではない』ともくぎを刺した。」という言及にはよく耳を傾けなければならない。とりわけ、自民党は。そして、高市早苗政調会長は。

従軍慰安婦問題については、産経の報道が詳しい。
「慰安婦の人権侵害調査を」国連人種差別撤廃委 ヘイトスピーチ捜査も要請
国連の人種差別撤廃委員会は29日、人種差別撤廃条約の履行を調査する対日審査を踏まえ、慰安婦問題について、慰安婦に対する人権侵害を調査し、責任者の責任を追及することなどを勧告する「最終見解」を公表した。

最終見解では、…「真摯な謝罪表明と適切な補償」を含む包括的な解決を目指し、慰安婦への中傷や問題を否定する試みを非難するよう求めた。

20、21日の対日審査では元慰安婦が「売春婦」とも呼ばれていることなどへの懸念が委員から示され、日本側は従来の取り組みを説明するなどした。4回目となる同委の最終見解で慰安婦問題への言及は初めて。

また、沖縄の人々を「先住民族」だとして、その権利を保護するよう勧告する内容も含まれているという。
最終見解は、日本政府が沖縄の人々を「先住民族」と認識していないとの立場に「懸念」を表明。また、消滅の危機にある琉球諸語(しまくとぅば)の使用促進や、保護策が十分に行われていないと指摘。教科書に琉球の歴史や文化が十分に反映されていないとして、対策を講じるよう要求した。(琉球新報)
ことほど、差別問題は広範囲にわたる。差別自体に憤りを禁じ得ないことは当然として、歴史認識と結びつき、かつての侵略戦争や植民地主義と一体となった民族差別に、わけても今進行している安倍政権下でのヘイトスピーチの横行に、平和主義の観点からも敏感でなければならないと思う。
(2014年8月30日)

Comments are closed.

澤藤統一郎の憲法日記 © 2014. Theme Squared created by Rodrigo Ghedin.