公布70周年?日本国憲法の試練は続く
戦後70周年の旧年(2015年)に続いて、憲法公布70周年の新しい年(2016年)の始動である。本日、首相の年頭記者会見があり、通常国会が召集され、アベノミクスの成否を占う東証の大発会もあった。解釈改憲の旧年から明文改憲の新年となりかねない、危うさを感じる。
首相年頭記者会の全文が官邸のホームページに掲載されている。
質疑前の首相のコメントは、我田引水の他愛のないもの。「昨年は、平和安全法制が成立し、私たちの子や孫の世代に平和な日本を引き渡していく基盤を築くことができました。」などという牽強付会のトーンの一色。
質疑応答なければそれだけのこと。幹事社からの質問が2問あった。そのうち1問が選挙情勢と改憲に関わる質問。その問と回答を掲載する。
(記者)
幹事社の西日本新聞です。今年は夏に最大の政治決戦となる参議院選があります。現在は自民党が115議席、公明党の20議席を加えて過半数に達しているような状況です。これを夏の参議院選では自民党単独で過半数を目指すのか、それとも、自民・公明におおさか維新の会などを含めたいわゆる改憲勢力で3分の2を目指すのか、勝敗ラインについてはどのように考えていらっしゃいますか。
それと、改めて参議院選の争点についてはどのように考えていらっしゃいますか。
また、更に衆院解散による同日選の可能性についてもお聞かせください。
(安倍総理)
まず、自由民主党と公明党の連立政権、この連立政権は風雪に耐えた、強固な連立政権と言ってもいいと思います。この安定した政治基盤の上に、「一億総活躍」への「挑戦」を初め、内政・外交の課題に決して逃げることなく、真正面から「挑戦」し続けていきたいと考えています。
参議院選挙においては、全ての候補者の当選を目指していくことは当然のことであり、それが自由民主党総裁の責務であろうと思います。その上で、自公での連立政権の下、安定した政治を前に進めるため、参議院において自公で過半数を確保したいと考えています。その勝利を勝ち取るために全力を尽くしていく考えであります。
憲法改正については、これまで同様、参議院選挙でしっかりと訴えていくことになります。同時に、そうした訴えを通じて国民的な議論を深めていきたいと考えています。
なお、衆議院の解散については、何度も同じことを申し上げて恐縮でございますが、全く考えていないということであります。
参議院の選挙のテーマは様々でありますが、3年間の安倍政権の実績に対する評価、そして、今、私たちが進めようとしている「一億総活躍社会」について、国民の審判をいただきたいと思っております。
これにどう見出しを付けるか、各紙のセンスが問われる。
朝日は、平板に「参院選『自公で過半数確保』 安倍首相が年頭会見」>とした。読売も「参院選『自公で過半数確保』…年頭会見で首相」。両紙とも、「改憲」の文字が出て来ない。
さすが東京新聞は「年頭会見、参院選で改憲争点化 首相、自公過半数目指す」とし、毎日は「首相年頭会見 改憲 参院選で訴える『国民的議論を』」と打った。「改憲争点化」「改憲 参院選で訴える」をアピールポイントとしたのだ。
ちなみに、産経は「『未来へ挑戦する1年に』『参院選で憲法改正訴える』『同日選は考えていない』」というもの。右派の立場で、右派なりに改憲に敏感なのだ。
それにしても、幹事社の質問がこれで終わりなのがもの足りない。
「参院選でしっかりと訴えることになる改憲のテーマは、どんなものをお考えですか」「憲法9条改憲については参院選の争点としますか」「昨年9月安保関連法成立時に、総理は『国民の皆様の理解が更に得られるよう、政府としてこれからも丁寧に説明する努力を続けていきたいと考えております』と言われました。あの説明はどうなりましたか」「まず、この点についての丁寧な説明なければ、憲法に関する国民的な議論は深まらないのではありませんか」「今年の参院選で改憲賛成の議席が3分の2に達しなければ総理在任中の改憲はあきらめざるを得ないと思いますが、いったいどの勢力を改憲賛成派とお考えですか」などと、突っ込んでもらいたかった。
さて、第190回通常国会が本日開会した。会期は6月1日までの150日間。参院選の日程から、会期の延長はないと言われている。問題は山積だ。が、今日のところの私の関心は、もっぱら共産党議員団が初めて開会式に出席したこと。玉座の天皇を見上げ、他党の議員たちと同様に、おとなしく「(お)ことば」を聞いたという。
私は、「日の丸・君が代」強制を受け入れがたいとする教員たちの訴訟を担当している。自らの思想、教員としての良心に忠実であろうとして、不利益を覚悟して起立・斉唱を命じる職務命令に毅然と不服従を貫いている尊敬すべき教員たち。その教員たちにとって、これまでは共産党こそが最も頼りになる支援の政治勢力であった。スジを通す、原則に忠実、けっしてぶれない、その姿勢を貫く共産党であればこそ、躊躇することなく懲戒処分を受けた教員の側に立って都教委を批判してきた。教員たちからの厚い信頼を勝ち得てもきた。共産党の「スタンド・バイ・ミー」の姿勢は今後も変わらないのだろうか。一抹の不安なきにしもあらずである。党勢拡大や国民連合政府構想推進のためとする大所高所に立っての天皇制やナショナリズムへの妥協。残念と言わざるを得ない。
憲法公布70周年(11月3日)を迎える今年。情勢は険しくも複雑である。その中での明文改憲をめぐるせめぎ合いは一層熾烈になるものと覚悟しなければならない。
(2016年1月4日)