澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

自治体はヘイト集会への施設使用を拒否しなければならないー東京弁護士会バンフレットの普及と活用を

昨日(1月10日)の毎日新聞に、「ヘイト集会拒否できる」「東京弁護士会がパンフ 自治体向け」の記事が掲載されている。ヘイトスピーチの集会に公共施設が利用される事態を防ごうと、東京弁護士会が利用申請を拒否する法的根拠をまとめたパンフレット「地方公共団体とヘイトスピーチ」を作製し自治体向けに配布している、との内容。

このパンフの内容となっている「地方公共団体に対して人種差別を目的とする公共施設の利用許可申請に対する適切な措置を講ずることを求める意見書」の発表は、昨年(2015年)9月7日のこと。以来4か月、東京弁護士会は、東京都内の全自治体や議会事務局、全国の弁護士会に配布してきたという。東京以外からも「参考にしたい」との問い合わせが相次ぎ、これまでに全国の25団体に送付。具体的な取り組みについて、東京弁護士会の担当弁護士と話し合いを始めた自治体もあるとのこと。

パンフの内容となっている意見書の全文は、東京弁護士会の下記URLで読むことができる。表現は慎重で穏やかだが、ヘイトスピーチの撲滅が国際条約上の国の義務となっているにもかかわらず政府は無為無策、これを放置している人権後進国日本の現状がよく分かる。
  http://www.toben.or.jp/message/ikensyo/post-412.html

国がなんの施策も行おうとしない現状で、自治体がヘイト集会への会館使用を拒否することは、ヘイト対策として実効性のある手段の提供としてその着眼がすばらしい。しかも、このパンフは、実によくできている。表現の自由にも慎重な目配りをしたうえでの具体的な提言である。説得力がある。今後の課題は、これを全国の自治体に普及して啓発し、遵守してもらうよう粘り強く働きかけること、さらにはその実現のための実効的措置を追求すること、だと思う。

東京弁護士会は、日本が締結し批准もしている人種差別撤廃条約を根拠に、「自治体は差別行為に関与しない義務を負って」おり、「公共施設が人種差別に利用されると判断される場合には会館等の利用を拒否できる」だけではなく、「会館等の利用を拒否しなければならない」と指摘している。

もちろん、要件は厳格でなければならないが、昨今問題となっているヘイトスピーチの集会に、会館等使用を許可すれば違法となり、当該自治体の住民の誰もが、自治体の財産管理における違法を主張して、住民監査請求から住民訴訟を提起することができることになる。

また、この東京弁護士会の「反ヘイト・バンフ」が普及してくれば、自治体の首長や責任者がヘイト集会に会館使用を許可したことは、違法というだけでなく、過失の認定も容易になる。集会と、それに引き続くデモなどで精神的被害を受けたという被害者にとって国家賠償請求が容易になると考えられる。このような事後的な法的支援についても、具体的な方策が考えられてしかるべきではないか。

東京弁護士会意見書の意見の趣旨は以下のとおりである。読み易いように、カギ括弧などを入れてみた。

地方公共団体は,「市民的及び政治的権利に関する国際規約」及び「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」に基づき,人種差別を撤廃するために,人種的憎悪や人種差別を扇動又は助長する言動など,人種差別行為を行うことを目的とする公共施設の利用申請に対して,「条件付許可」,「利用不許可」等の〈利用制限その他の適切な措置〉を講ずるべきである。」

この意見書の下記の言及は、襟を正して読まねばならない。

ヘイトスピーチなどの人種差別行為の放置は,社会に深刻な悪影響を与える。差別や憎悪を社会に増大させ,暴力や脅迫等を拡大させる。国連人種差別撤廃委員会が2013年の一般的勧告「人種主義的ヘイトスピーチと闘う」で強調しているように,それらの放置は,「その後の大規模人権侵害およびジェノサイドにつながっていく」。ナチスによるホロコーストやルワンダにおける民族大虐殺等だけでなく,日本においても,1923年に発生した関東大震災で,朝鮮人が暴動を起こしているとの流言飛語が広まり,日本軍や,民間の自警団によって少なくとも数千人の朝鮮人が虐殺された。これは,1910年に朝鮮半島を植民地とした後,被支配民族としての朝鮮人に対する蔑視と,植民地化に対する朝鮮人の抵抗運動に対する恐れから,日本国内で朝鮮人に対するヘイトスピーチが蔓延した結果であった。日本にもこのような過去があることが想起されなければならない(2003年8月25日付け日弁連「関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺人権救済申立事件」勧告書参照)。

人種や民族間の差別意識は、人為的に創られ煽られて生じる。植民地支配や戦争の準備と重なる。アベ政権の好戦的な憲法改正の策動と切り離せない問題といわざるを得ない。

ナチスはユダヤ人をホロコーストの対象とした。その数、500万人を超す。一般のドイツ人がそのことを知らなかったわけではない。ある日ユダヤ人が消える。その財産は、ドイツ人に分け与えられる。あるいは消えたユダヤ人が占めていた地位をドイツ人が襲うことになる。こうして、ホロコーストは、ドイツ人に現実的な利益をもたらしたのだ。

社会の中の特定の集団を敵として、多数派が寄ってたかっていじめるとはそういう実利に結びつくことなのだ。恥ずべき泥棒根性といわざるを得ない。いま、ヨーロッパでもアメリカでも、そしてもちろん日本でも、弱い立場の人種や民族に対しての非寛容な空気の醸成がおぞましい。ヘイトスピーチの抑制は、平和に通じるのだ。東京弁護士会の試みを、成功を念じつつ見守りたい。

なお、紹介されている具体例を挙げておく。
公共施設の利用拒否が可能になり得る具体的な例。
・人種差別集会を繰り返している団体や個人から申請があった
・施設の利用申請書に特定の民族を侮辱する表現が含まれていた
・集会の案内状に人種差別をあおる内容が書かれていた

施設の利用拒否が可能な人種差別行為の具体例
・「○○人は犯罪者の子孫」などの発言を繰り返す
・「○○人を殺せ」などのプラカードを掲げる
・「○○人のゆすり・たかりを粉砕せよ」などと告知して集会を開く

ここを出発点に、ヘイトスピーチ撲滅の動きを作り出せそうな気がする。
(2016年1月11日)

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