名護高校の生徒諸君 ― 小泉進次郎のトークに欺されてはいけない。
稲嶺候補敗北という名護市の選挙結果は衝撃だった。「名護ショック」症状からの早期回復が今の課題だ。この結果を選択した名護市民とは、決して異世界の住民ではない。日本国民の一部の住民であり、明らかに私たち自身なのだ。その選択は、どのようにしてなされたのか、納得できる分析がほしい。
巷間言われていることはいくつかある。稲嶺陣営は基地反対を焦点に据え、渡具知陣営は争点をそらして経済活性化を訴えた、その作戦が功を奏したというのだ。なるほど、政権が露骨に一方陣営にはムチを他方にはアメの露骨な誘導を行ったというわけだ。
また、基地反対運動の先が見えず、住民が疲れ果ててこれまでとは別の選択を強いられた結果ともいう。公明党がその存在感を示さんがために全力をあげた結果だとも、さらには、この選挙では初めての18歳・19歳の選挙権行使が影響を与えた…のだとも。
政権が地元に、基地の負担を強いたうえに、こう言っているのだ。
「おとなしく基地の建設を認めろ。そうすれば悪いようにはしない。その見返りは真剣に考えてやろう。」「しかし、言うことを聞かないのなら、徹底して経済的に締め上げるから覚悟しろ。」
こう言われて、「我々にも五分の魂がある」という派と、「魂では喰えない。背に腹は代えられない」という派が真っ二つになった。前2回の選挙は「五分の魂」派が勝ち、今回は「背に腹」派が勝ったということのように見える。
若者の動向、とりわけ初めての18歳選挙導入の効果が、「背に腹」派に有利に働いた模様なのだ。
地元OTV(沖縄テレビ)の出口調査では、年代別の投票先は次のようだったという。若者世代の保守化は著しいというほかない。
10代 稲嶺37% 渡具知63%
20代 稲嶺38% 渡具知62%
30代 稲嶺39% 渡具知61%
40代 稲嶺41% 渡具知59%
50代 稲嶺38% 渡具知62%
60代 稲嶺65% 渡具知35%
70代 稲嶺68% 渡具知32%
80代 稲嶺67% 渡具知33%
90代 稲嶺86% 渡具知14%
RBC(琉球放送)の出口調査では、
10代 稲嶺33.3% 渡具知66.6%
20代 稲嶺44.0% 渡具知56.0%
私にとって衝撃だったのは小泉進次郎の名護高校生に対する語りかけ、いや、その語りかけに対する高校生の反応だ。進次郎演説の無内容のひどさにも驚いたが、この無内容演説に対する高校生のあまりに無邪気な肯定的反応は衝撃というほかない。なるほど、アベ政権の18歳選挙権導入実現には、それだけの読みと狙いがあったのだ。
私には信じがたい。若者が政権与党の幹部にあのような、アイドルに接するような態度をとれるものだろうか。ユーチューブで見聞く限りだが、小泉には若者に地元の展望を語る何ものもない。蕎麦がうまかった。渡具知は名護高の出身だ。娘も同じ高校に通っている。地元で生まれ育った人で地元の振興を。名護湾は美しい。名護とは「なごやか」が語源ではないか。18歳の皆さんの投票で逆転できる…程度のことしか言わない。驚いたが、具体的な地域振興策さえ口にしないのだ。落語家が枕を振って、これからどんな噺が始まるかと思いきや、枕に終始してオシマイ、というあのはぐらかし。
ところが、高校生はおとなしくにこやかにこのつまらぬマクラを聞いている。「和みの名護湾に、基地を作ってよいのか」「オスプレイで、学校の騒音はどうなるのか」「ヘリが校庭に落ちてきたらどうする」などと、ヤジは飛ばない。君らの大半は、基地建設にゴーサインを出したことになる。君たちは、名護の将来を真剣に考えたのか。
名護高校生諸君に聞いてもらいたい。
私は、弁護士になって以来、詐欺ないしは悪徳商法に欺された人々の被害救済訴訟を自分の使命として多数手がけてきた。欺された人々は例外なく、悪徳商法のセールスマンを、「自分に幸運をもたらす親切なよい人」と思い込むのだ。笑顔で、礼儀正しくて、口当たりの良い言葉を話して、こうすれば利益が確実と思い込ませるのが、悪徳商法のセールスマンなのだ。
だから、甘い言葉には、欺されぬよう気をつけなければならない。欺されぬためには、まずは徹底して疑問をぶつけることだ。それから、一セールスマンの意見を鵜呑みにせず、ライバル関係にある他の意見にも耳を傾けて、対比をしなければならない。さらに、自分一人で判断せず、周囲の人々と意見交換も大切だ。
ベネフィットだけを誇張してリスクを隠すセールストークが悪徳商法の基本だ。効能だけを語って、決して副作用を語らないサプリメントの売り方も分かり易い。選挙も同じだ。私の耳には、小泉進次郎の名護高校生諸君に対する選挙応援演説は、ソフトでスマイルいっぱいの悪徳商法トークに聞こえる。
キミたちはなめられているのだ。こんな程度で、ごまかすことのできる相手だと。キミたちを一人前の自立した有権者だと考えていたら、こんな程度の話ができるはずはない。何よりも、建設を許せば耐用年数200年という恒久基地の将来像について一言あってしかるべきではないか。もっと具体的に、今の市政に足りないもの、どうしたらそれを補うことができるのか、どうして稲嶺にはできず渡具知ならできるのか、真剣な訴えがあって当然だろう。
小泉進次郎には、まず問い質すべきだった。「どうして、選挙演説で基地のことをお話ししないの」「辺野古基地の建設は我慢しなければならないの」「基地ができたら、今普天間の学校や保育園で起こっていることが今度は名護で起こることにならないの」「オスプレイはどのくらいうるさいの」「どうして、渡具知さんが勝った場合だけ経済振興になるのですか。稲嶺さんでは応援しないと言うことですか」「あなたは私たちに、具体的に何をお約束されるのですか」「そのお約束は、稲嶺さんが市長ではできないのでしょうか」「稲嶺さんの政策のどこに間違いがあるということでしょうか」「結局あなたは、名護のためにはではなく、基地建設推進のために渡具知さんを応援しているのでではありませんか」
これに小泉がこう答えれば、はじめて議論の出発点になる。ここから論争が始まる。
「基地に反対して、平和や環境や自治を守ろうというのは単なる理想だ。それでは君たちの地元の豊かな暮らしはできないのが現実だ。海は壊されて基地ができ、治安は悪化し、騒音は酷くオスプレイの墜落の心配もあるかもしれない。それでも、アベ政権は君たちに経済の振興策を提供することができる。基地反対派には支援はしない。君たちは決断すべきなのだ。基地に反対を貫くことで理想や理念を守ろうというのか、それとも基地反対では喰えない現実を覚って賛成にまわるのか。」
なお、質問される前からこう言っておけば、詐欺商法の汚名を甘受せずともよい。これは詐欺商法とは別種の脅迫商法ないしは恫喝商法なのだから。
名護高校の諸君に、いや全県・全国の若者に、心からのお願いをしたい。これからの人生には何回もの選挙があるだろう。悪徳商法に欺されてはならないという気構えで、とくと考えて投票されよ。少なくとも、選挙運動のセールストークを鵜呑みにするようなことがあってはならない。甘い言葉には毒があるのだ。疑問点は徹底して問い質すこと。そして、相手陣営の見解もよく聞いて比較してみること。最低限これだけのことはしなければならない。これからの選挙の結果には、若者の命がかかってくることにもなりかねないのだから。
(2018年2月5日)