まだ弁護士の世界は健全だ。弁護士会役員選挙のキャッチフレーズに見る安堵。
(2022年1月29日)
日本弁護士連合会の会長選挙は2年に一度。現在その選挙の真っ最中で2月4日(金)が投開票日、1月31日から「不在者投票」が始まる。コロナ禍・第6波のさなかの選挙に「郵便投票」の制度はあるが、「遠隔、長期疾病等」に要件が限られ使い勝手は頗る悪い。もう、郵便投票は締め切られた。投票率に影響するかも知れない。
立候補者は、受付順に下記の3名。どの候補者も、憲法問題や人権・民主主義、そして弁護士自治、司法権の独立などの基本課題について、それなりの見識を示している。「ともかく、弁護士会費を値下げしろ」「人権課題への取り組みをやめよ」「一切の政治課題とは手を切れ」「政財界と歩調を合わせろ」などという、乱暴な主張はない。
? 及川智志弁護士(51期・千葉県弁護士会)
? 小林元治弁護士(33期・東京弁護士会)
? ?中正彦弁護士(31期・東京弁護士会)
選挙公報における各候補者の公約は、下記の日弁連サイトで見ることができる。
https://www.nichibenren.or.jp/news/year/2022/220114.html
詳細な公約は、各候補者の公式ホームページをご覧いただきたい。
https://2022kobayashimotoji.com/
https://2022takanakamasahiko.jp/
https://oikawasatoshi2022.com/
そして、いつもながら大阪の山中理司弁護士のブログが、周辺情報を満載している。
https://yamanaka-bengoshi.jp/2022/01/10/2022kaityousenkyo-rikkouhosha/
もちろん、各候補者には、以下のようなそれぞれの独自色がある。
(1) 弁護士人口はその需要に比して既に過飽和の事態にある。まずは、弁護士の増加に歯止めを掛けなければ、弁護士の経済的な逼迫の進行が人権課題への取り組みを不可能にする。その対策が喫緊の課題と強調する候補者。
(2) 若手弁護士の業務支援への理解と実績を誇り、非弁対策問題、隣接士業との業際問題で、弁護士の利益を擁護してきたことを強調する候補者。
(3) そして、立憲主義・平和主義と基本的人権の擁護を政策の第一に掲げる候補者。
弁護士の使命は人権の擁護にあり、弁護士がその使命を果たすための制度的な保障として弁護士自治がある。弁護士が権力から独立し、民衆の側に立って、権力の暴走による民衆の自由や人権を擁護する活動のためには、弁護士自治が保障されなければならない。
弁護士の自治は、けっして永遠不滅のものではない。保守政権にとっては、目の上のコブであるこの制度は、潰せるものなら潰してしまいたいに違いない。ちょうど、学問の自由が政権運営への桎梏であるように。
日本学術会議を潰しにかかっている現政権である。折りあらば弁護士自治にも牙を剥くであろうことは、不思議ではない。だから、弁護士は国民からの信頼を勝ち得なければならない。その意味で、弁護士会の選挙は国民的な関心事でなければならない。
全員加盟制の弁護士会である。だからこそ合意形成は難しいが、だからこその発言は法律専門家集団としての重みをもつことになる。
私が所属する東京弁護士会の会長選・副会長選も始まっており、候補者からの選挙葉書が届いている。概ね、その言や良し、である。主要なキャッチフレーズとして、「憲法とともにある弁護士会に」「足もとの弁護士自治にかがやきを」「弁護士自治を堅持し、多様性を増進する」「人権と社会正義を実現する東弁」「憲法価値の尊重・人権問題への取り組み・弁護士自治の堅持」等々の言葉が並んでいる。
このような理念の訴えが、まだ選挙公約として有効なのだ。この弁護士会全体の雰囲気を大切にしたいものと思う。弁護士会が理念を失って職能の利益団体と化すれば、たちまちにして国民の信頼を失うことになろう。それは、民主主義や人権にとっての由々しき事態。心したいものと思う。