澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

歴史認識と日中友好

学生時代の友人である須田育邦君からお誘いを受けた。
「私の出版発表会を兼ねた、日中交流会へご参加ください。ここは日中友好人士の慰労会のようなところで、国家間の厳しい対決とは無関係です」

古稀を迎えた須田君の処女出版発表会となれば参加せずばなるまい。しかもその書物のタイトルがズバリ「戦争と平和」なのだ。副題が「徐福伝説で見直す東アジアの歴史」と付けられている。壮大な歴史観・文明観が語られており、それには賛否の留保があっても、彼の平和愛好者としての姿勢に評価を惜しむべきではない。日中の友好、東アジアの安定を望む立ち場からの提言がなされている。

最近の彼の生活は7割が上海で暮らし、3割が埼玉だそうだ。日中間の往来の中で、両国の愚かな政治による、日中民衆間の友好意識の冷却化の無念を肌身に感じて、この書物を著したという。

彼は、自分の著書の歴史的意味を堂々と語った。過日の台風のあとに美しい虹が出たように、今日中関係の嵐はやがて晴れて、美しい虹をつくるだろう。私の著書がそのために役立つ、というスピーチ。ああいう風に語れるように真似をしてみたい。

私にとっては馴染みのない雰囲気の日中交流会。在日中国人と中国ビジネスに携わっている日本人との名刺交換会のようなもの。なるほど、中小業者はこのような会合で人脈を掴み、ビジネスチャンスをゲットするのだ。

主催者挨拶のあと、「人民日報・日本週刊版」の副社長氏が日本語でスピーチをした。「私の日本語はボロボロ」などと言いながら、さすがにみごとな演説。

「今、政治的に日中関係は最悪の事態ですが、これは飽くまで一時的なこと。やがて、友好関係は必ず回復します。政治的な関係が悪くても、経済や民間交流の発展はできるはずですし、推し進めなければなりません」「政治がどうであれ、中国の人々の日本製品に対する信頼はとても厚い。ぜひ、中国との取引に熱意をもっていただきたい」「中国進出企業が、全て順調というわけではない。順調なのは3分の1、なんとかやっているのが3分の1。そしてあとの3分の1が見込み違いだったと思っている、と言われています」「順調でない企業の原因は、決して政治や経済の状況が悪化したからではなく、中国流のビジネスへの適合が不十分だからと思われます。ぜひとも、適切なアドバイスを得てそのあたりを心得ていただきたい」

私も、ごく短く、「平和・友好関係を築くためには、なによりも民衆の直接の接触が大切で、経済・文化・情報・人間の交流の活発化が大切。これあれば、政治の思惑を圧して安定した友好関係が保たれる。政治外交関係が悪化しても、平和を維持する力となる」との趣旨を語った。

会合の合間に日本版・人民日報の見本紙が配布された。たまたま私に配布された号を見ておどろいた。一面トップの大見出しが、「高円宮妃久子殿下ご来臨 承子女王も」というのだ。なんのことはない。東京ドームでの世界蘭展の紹介記事。取り立てて中国と関係がある展覧会ではない。なぜ、この展覧会がトップの扱いで、しかもなぜ皇族が見出しに踊るのか。

ほどなく、「人民日報副社長氏」が名刺交換にやってきた。どうしても一言発せずにはおられない。

「私は、かつては中国革命に心惹かれた世代で、『人民中国』を定期講読していたこともある。中国共産党に幻滅を味わった今も、対中・対韓関係での日本政府の歴史認識はおかしいと声を上げ続けている。天皇や皇族の戦争責任をうやむやにしてはならないとの思いは強い。ところが、人民日報が、なんのこだわりもなく皇族礼賛に等しい紙面をつくっているのを見るのは悲しい。日本人に対する配慮でそのような紙面をつくっているとすれば考え直した方がよい。靖国や歴史認識問題を真面目に考え、日中友好を願う人々を失望させることのないように、お願いしたい」
(2014年7月12日)

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