澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「日本国憲法は、原爆死没者の遺言」ーアベ首相は、この語りかけに真摯に答えよ。

8月は、戦争と平和を考える季節。とりわけ上旬は、原爆の犠牲を見つめ直すとき。中旬はあらためて戦争の原因と敗戦の決断が遅れた理由を考え直すとき。そして下旬は、日本再生の理念を再確認するときではないか。加えて、今年の8月には改憲問題が色濃く影を落としている。沖縄の辺野古と?江の問題も絡んでいる。おまけに、天皇生前退位という、さしたる重要事ではないことに世間がかまびすしい。

昨日に引き続いて、広島の話題。

アベが本当に行きたいところは靖國神社。沖縄や、広島・長崎の平和式典は行きたくないところ。「戦争屋」「何しに来た」と罵声を浴びせられたこともあり、明らかに居心地が悪い。それでも行かざるを得ないのは、圧倒的な平和を求める世論のしからしめるところ。

これまでの「首相あいさつ」の定型から、「日本国憲法を遵守し」の一文を外すなど、密やかに姑息な抵抗を試みるのが精一杯。昨年は、「非核三原則堅持」が抜け落ちていると叩かれ、今年渋々と復活した。式典では明らかに主役ではない。脇役と言うよりは、仇役という役どころ。

昨日(8月6日)平和式典後の、被爆者7団体代表との「懇談」も、明らかにいやいやながらも応じざるを得ないからだ。いつものことながら、「ねんごろに話し合う」という雰囲気ではない。

ところで、報道されている限りでの、この席のアベ発言。
「核保有国と非核保有国の双方に協力を求め、世界の指導者や若者に悲惨な実態に触れてもらうことで被爆の実相を世界に伝え、核兵器のない世界の実現に向けた取り組みをさらに進めたい」(NHK)

「(原爆症認定について)迅速な認定審査に引き続き取り組む」「唯一の戦争被爆国として、広島・長崎の悲劇を繰り返してはならない」(時事)

「唯一の戦争被爆国として、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向け、国際社会の努力をリードし続けていく」「71年前、われわれは二度と戦争の惨禍を繰り返してはならないという不戦の誓いをたてました。そして戦後一貫して平和国家として歩んできました。この平和国家としての歩みが変わることは今後も決してありません」(赤旗)

これだけを読んで、「アベもそんなに悪くない」と早とちりする人もあるのではないか。しかし、記事の全部を読めば、アベの真意は敢えて述べていないところにあることが明らかなのだ。首相挨拶から、意識的にはずそうとした、「憲法を遵守し」や「非核三原則」へのこだわりを見なければならないように。

NHKの記事は以下のとおりで、その報道姿勢はけっして悪くない。
「広島県被団協=広島県原爆被害者団体協議会など、広島県内7つの被爆者団体の代表らは平和記念式典のあと、広島市内のホテルで安倍総理大臣と面会しました。
この中で被爆者団体側は、核保有国が入らずに国連の作業部会で議論が行われている『核兵器禁止条約』について、条約に反対する核保有国の立場に同調するのではなく、被爆国として早期の締結に向けて行動するよう要望しました。

これに対し、安倍総理大臣は、『核保有国と非核保有国の双方に協力を求め、世界の指導者や若者に悲惨な実態に触れてもらうことで被爆の実相を世界に伝え、核兵器のない世界の実現に向けた取り組みをさらに進めたい』と応じました。

面会のあと、広島県被団協の坪井直理事長は、「安倍総理大臣は『過ちは繰り返さない』とか、『二度と被爆者は作らない』と言っていたが、はっきりと『核兵器をゼロにする』と言ってほしかった」と話していました。
また、もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長は、「核廃絶に向けては、これまでの発言と比べて変化がなかった印象だ。被爆国の立場で『核兵器禁止条約』の締結を核保有国に働きかけてほしい」と話していました。」

つまり、被爆者のアベに対する要請は、「『核兵器禁止条約』について、条約に反対する核保有国の立場に同調するな」というものだった。これに対して、アベは「イエス」と言わなかった。核兵器禁止条約については語らず、「核兵器のない世界の実現に向けた取り組みをさらに進めたい」とはぐらかしたのだ。これは、もちろん要請に対する「ノー」というニベもない回答なのだ。被爆者の切実な要望、核廃絶を求める世論に背を向けるもの。

時事はこう伝えている。
「広島の被爆者7団体は6日、安倍晋三首相と広島市内のホテルで面会し、原爆症認定の柔軟な対応や基準の拡大、核兵器禁止条約の制定などを求めた。
 広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長(71)は被爆者の高齢化に言及。『原爆症認定訴訟をしなくていいようにしてほしい』と認定基準の拡大を求めた。核兵器禁止条約についても『日本政府は核保有国に早期制定を呼び掛けてほしい』と訴えた。
 安倍首相は原爆症認定について『迅速な認定審査に引き続き取り組む』と回答。核廃絶に関しては『唯一の戦争被爆国として、広島・長崎の悲劇を繰り返してはならない』と述べるにとどめ、踏み込んだ発言はなかった。
 一方、広島被爆者団体連絡会議の吉岡幸雄事務局長(87)は昨年に続き安全保障関連法の撤回を要請したが、安倍首相は『戦争を未然に防ぐために必要不可欠だ』と説明した。
 面会後、吉岡事務局長は『核兵器を一発でも残したら人類は過ちを犯す。日本は悲惨な思いをしたのに、核兵器をなくしてほしいとなぜ発言できないのか。情けない』と苦言を呈した。」

アベのはぐらかし戦術がよく分かる記事となっている。

赤旗はさすがに厳しい。「核兵器は絶対悪 廃絶を」「被爆者、首相に迫る」「改憲企て許さない」という見出し。

「日本政府は核保有国に同調するのではなく、被爆国としての立場にたて」。6日、広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長らは、広島市の平和記念式典後、市内でおこなわれた安倍晋三首相との懇談の席上、核兵器を禁止し、廃絶する条約をすべての国に求める『ヒバクシャ国際署名』を突きつけました。

 懇談には、広島県の七つの被爆者団体の代表が参加。首相に提出した要望書には「ヒバクシャ国際署名」がもつ国際的意義が示され、「『核と人類は共存できない』『再び過ちは繰り返しません』その達成のため、私たちは息の根の止まるまで未来志向で諦めません」という強いメッセージが書き込まれています。

 佐久間氏は、強い口調で『核兵器は悪魔の兵器であり、絶対悪。非人道性が問われています』とのべ、『核保有国に核兵器禁止条約の早期制定を呼びかけられるように要望します』と厳しく迫りました。

 これにたいし、安倍首相は、署名については一言も言及しませんでした。『唯一の戦争被爆国として、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向け、国際社会の努力をリードし続けていく』などとのべるだけでした。

 広島被爆者団体連絡会議の吉岡幸雄事務局長は、『日本国憲法は、原爆投下の悲劇をもたらした戦争の反省からうまれたもの。戦争と原爆による死没者の遺言ともいえるものです。私たちは重ねて安保関連法の撤回を要求し、憲法改正の企てを中止することを要求します』と訴えました。

 安倍首相は、『71年前、われわれは二度と戦争の惨禍を繰り返してはならないという不戦の誓いをたてました。そして戦後一貫して平和国家として歩んできました。この平和国家としての歩みが変わることは今後も決してありません』とすりかえの答弁をしました。」

生き残った被爆者がいう「日本国憲法は、原爆死没者の遺言」という語りかけには、迫力がある。アベは、この語りかけに真摯に答えなければならない。しかし、壊憲派・アベの答えるところはない。答えようとはしないのだ。

「語られた美しい言葉は偽りで、語られなかったところに危険な真意がひそんでいる」というレトリックの典型ではないか。

気をつけよう。暗い夜道とアベの言。何を言ったかだけでなく、何を言わなかったかに心しよう。
(2016年8月7日)

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