「浜の一揆」訴訟第8回法廷(6月22日)・案内
2017年6月20日
岩手・県政記者クラブ各社殿
同 ・県警記者クラブ各社殿
弁護士 澤藤統一郎
同 澤藤 大河
「浜の一揆」訴訟第8回法廷(6月22日)・案内
6月22日、盛岡地裁「浜の一揆」訴訟の第8回法廷のご案内をいたします。
この日、原告漁民4人と担当の県職員1名の尋問で、審理はヤマ場を迎えます。
この訴訟は、注目され話題になってしかるべき大型訴訟です。
行政のあり方を問い、民主主義を問い、震災後の地域復興の問題でもあります。
社会的意義のある訴訟としてご注目いただき、ぜひとも、取材をお願いします。
第1 事案の概要
岩手の河川を秋に遡上するサケは岩手沿岸における漁業の主力魚種である。1992年2月、岩手県は三陸の海の恵みを象徴する「南部さけ」を「県の魚」に指定している。古くから三陸沿岸の漁民は、秋に盛漁期を迎えるサケ漁を生業としてきた。
ところが、三陸沿岸の漁民は、県の水産行政によって、厳格にその捕獲を禁じられている。うっかりサケを網にかけると、最高刑懲役6月となる。漁船や漁具の没収の規定もある。岩手の漁民の多くが、この不合理を不満として、長年県政にサケ捕獲の許可を働きかけてきた。とりわけ、3・11の被災後はこの不合理を耐えがたいものと感じることとなり、これまで岩手県の水産行政に請願や陳情を重ねてきたがなんの進展も見ることがなかった。
そのため、2015年11月100人の沿岸漁民が岩手県(知事)を被告として、盛岡地裁に行政訴訟を提起した。要求は「固定式刺し網によるサケ漁を認めよ」「漁獲高は無制限である必要はない。各原告について年間10トンを上限として」。原告らは、これを「浜の一揆」訴訟と呼んでいる。
訴訟における請求の内容は二つ、「漁民がした『固定式刺し網によるサケの採捕の許可申請』に対する不許可処分を取り消せ」。そして、「県知事は、『固定式刺し網によるサケの採捕の許可』をせよ」というもの。
では、三陸沿岸の海の恵みは誰が手にしているか。二つの類型がある。一つは浜の有力者が経営する定置網業者である。そして、もう一つの類型が漁協の自営定置である。いずれも、大型定置網による漁獲。その漁獲に影響あるからとして、小型漁船で零細な漁業を営む漁民にはサケ漁が禁止されているのだ。
だから、「おれたちにもサケを獲らせろ」という漁民の切実な要求は、社会構造の矛盾に対する挑戦という意味を持っている。社会的強者と一体となって、零細漁民に冷たい県政への挑戦でもある。だから、「浜の一揆」なのだ。
個々の漁民にとって、「零細漁民の漁業を保護して、漁業の生計がなり立つ手立てを講じよ」という切実な要求である。そして、漁民が高齢化する中で、「後継者が育つ希望ある漁業」をという地域の切実な願いを背景にするものでもある。
本件訴訟は県の水産行政のあり方を問うとともに、地域の民主主義のあり方を問う訴訟でもある。また、3・11被災後の沿岸漁業と地域経済の復興にも、重大な影響をもってもいる。
原告ら漁民は、岩手県民の理解を得たいと願う立場から、県内メティアの取材を希望するものである。
第2 当日の日程
1 法廷
午前10時 開廷(盛岡地裁301号法廷)午前中2名尋問
原告藏さん? 主尋問20分 反対尋問20分
サケ漁許可を求める運動の経過について
原告瀧澤さん 主尋問30分 反対尋問30分
漁民が主張する資源保護のあり方(IQ)について
午後1時 再開廷午後3名尋問
原告熊谷さん? 主尋問20分 反対尋問20分
漁民の生計の実態、サケ漁許可を求める理由の切実さについて
原告菅野さん 主尋問20分 反対尋問20分
宮城との県境海域で宮城の漁民はサケを獲っていること
海区漁業調整委員会運営の実態
被告側証人 県漁業調整課長? 主尋問40分 反対尋問40分
2 法廷終了後の記者会見と報告集会
閉廷後直ちに、報告集会
場所 岩手県公会堂 2階講堂(21号室)
冒頭の訴訟経過説明のあと 記者会見
その後 意見交換
第4 これまでの経過概要
1 県知事宛許可申請⇒小型漁船による固定式刺し網漁のサケ採捕許可申請
2014年9月30日 第1次申請
2014年11月4日 第2次申請
2015年1月30日 第3次申請
2 不許可決定(102名に対するもの)
2015年6月12日 岩手県知事・不許可決定(277号・278号)
*277号は、固定式刺し網漁の許可を得ている者 53名
*278号は、固定式刺し網漁の許可を得ていない者 49名
3 審査請求
2015年7月29日 農水大臣宛審査請求(102名)
2015年9月17日 県側からの弁明書提出
2015年10月30日 審査請求の翌日から3か月を経過
4 提訴と訴訟の経過
2015年11月5日 岩手県知事を被告とする行政訴訟の提起
2016年1月14日 第1回法廷
2017年4月20日 第7回法廷 証拠決定
2017年6月22日 第8回法廷 原告本人4名・被告側証人1名尋問
2017年9月 7日 第9回法廷(予定)学者証人2名尋問予定
第3 訴訟の内容
1 当事者 原告 三陸沿岸の小型漁船漁業を営む一般漁民100名
(すべて許可申請・不許可・審査請求の手続を経ている者)
被告 岩手県(処分庁 岩手県知事達増拓也)
2 請求の内容
*知事の不許可処分(277号・278号)の取消し
*277号処分原告(既に固定式刺し網漁の許可を得ている者) 51名
*278号処分原告(固定式刺し網漁の許可を得ていない者) 49名
*知事に対するサケ漁許可の義務づけ(全原告について)
「年間10トンの漁獲量を上限とするサケの採捕を目的とする固定式刺網漁業許可申請について、申請のとおりの許可をせよ。」
第4 争点の概略
1 処分取消請求における、知事のした不許可処分の違法の有無
(1) 手続的違法
行政手続法は、行政処分に理由の付記を要求している。付記すべき理由とは、形式的なもの(適用法条を示すだけ)では足りず、実質的な不許可の根拠を記載しなければならない。それを欠けば違法として取消理由となる。ましてや、本来国民の自由な行為を一般的に禁止したうえ、申請に従って個別に解除して本来の自由を回復すべき局面においては、飽くまでも許可が原則であって、不許可として自由を制約するには、合理性と必要性を備えた理由が要求される。その具体的な理由の付記を欠いた本件不許可処分はそれだけで手続的に違法である。
本件不許可処分には、「内部の取扱方針でそう決めたから」というだけで、まったく実質的な理由が書かれていない。
(2) 実質的違法
法は、申請あれば許可処分を原則としているが、許可障害事由ある場合には不許可処分となる。下記2点がサケ採捕の許可申請に対する障害事由として認められるか。飽くまで、主張・立証の責任は岩手県側にある。
?漁業調整の必要←漁業法65条1項
?水産資源の保護培養の必要←水産資源保護法4条1項
2 義務づけの要件の有無 上記1と表裏一体。
第5 義務付けについての原告主張の概要
1 基本的な考え方
*三陸沖を泳ぐサケは、無主物であり、そもそも誰が採るのも自由。
これが原則であり、議論の出発点。
*憲法22条1項は営業の自由を保障している。
⇒漁民がサケの漁をすることは原則として自由(憲法上の権利)
⇒自由の制限には、合理性・必要性に支えられた理由がなくてはならない。
*漁業法65条1項は、「漁業調整」の必要あれば、
水産資源保護法4条1項は、「水産資源の保護培養」の必要あれば、
「知事の許可を受けなければならないこととすることができる。」
*岩手県漁業調整規則23条
「知事は、「漁業調整」又は「水産資源の保護培養」のため必要があると認める場合は、漁業の許可をしない。」
⇒ということは、許可が原則。
県知事が「漁業調整」「水産資源の保護培養」の必要性について
具体的な事由を提示し、証明しなければならない。
2 ところが、被告(県知事)は、不許可事由として、「漁業調整」「水産資源の保護培養」の必要性にまったく触れるところがない。
不許可の理由は形式的に「庁内で作成した「取扱方針」(2002年制定)にそう書いてあるから」というだけ。
第6 漁協中心主義は漁民の権利を制約しうるか。
1 漁業法にいう、漁業の民主化とはなにか。
零細の個々の漁民の権利にこそ配慮することではないか。漁協の営業のために、漁民の営業を圧迫することは「民主化」への逆行である。
2 漁民あっての漁協であって、漁協あっての漁民ではない。
主客の転倒は、お国のための滅私奉公と同様の全体主義的発想ではないか。
3 結局は、浜の有力者に奉仕する漁業行政の「カムフラージュの理論」ではないか。
☆これに対して、被告岩手県は、訴訟進行後ようやく「固定式刺し網によるサケ漁」を許可しない実質的な理由を整理して述べてきた。
以下のとおりである。
?岩手県の長年に亘るサケ産業(水産振興)政策とそれに基づく関係者の多大な尽力を根本的に損ねてしまうこと
?種卵採取というサケ資源保護の見地からも弊害が大きいこと
?各地漁協などが多大な費用と労力を投じた孵化放流事業により形成されたサケ資源をこれに寄与していない者が先取りする結果となり、その点でも漁業調整上の問題が大きいこと
?解禁に伴い膨大な漁業者が参入し一挙に資源が枯渇するなどの問題が生じること
?沖合で採捕する固定式刺し網漁業の性質上、他道県との漁業調整上の摩擦も看過できないこと
?近年、県内のサケ資源が深刻な減少傾向にあること
以上の各理由は一応なりとも、合理的なものとは到底考えがたい。こんなことで漁民の切実な漁の自由(憲法22条の経済的基本権)が奪われてはならない。
☆各理由に通底するものは、徹頭徹尾定置網漁業完全擁護の立論である。およそいささかなりとも定置網漁業の利益を損なってはならないとする、行政にあるまじき偏頗きわまる立論として弾劾されてしかるべきでもの。利害対立する県民当事者相互間の利益を「調整」するという観念をまったく欠いた恐るべき主張というほかはない。
☆しかも、利害対立の当事者とは、一方は原告ら生身の零細漁民である。20トン以下の小型漁船で生計を立てる者で、法的には経済的基本権の主体である。そして対立するもう一方が、大規模な定置網漁業者である。その主体は、漁協単独の経営体であり、漁協と複数個人の共同経営体であり、株式会社であり、有限会社であり、定置網漁業を営む資本を有する経済力に恵まれた個人である。「浜の有力者」対「一般漁民」のせめぎあいなのである。
☆定置網漁業者の過半は、漁協である。被告の主張は、「漁協が自営する定置営業保護のために、漁民個人の固定式刺し網によるサケ漁は禁止しなければならない」ということに尽きる。
☆漁民の繁栄あっての漁協であって、その反対ではない。飽くまで「漁民優先」が当然の大原則。漁協の健全経営維持のために漁民の操業が規制される筋合いはない。
☆以下は、被告が「近年、県内のサケ資源が深刻な減少傾向にあること」を不許可の理由として挙げていることに対する批判の一節である。
「近年のサケ資源の減少傾向」が、固定式刺し網漁業不許可の理由とはなりえない。これを理由に掲げる被告の主張は、いわゆる「獅子の分け前」(Lion’s Share)の思想にほかならない。
漁協は獅子である。獅子がたっぷり食べて余りがあれば、狐にも分けてやろう。しかし今はその余裕がないから、狐にやる分け前はない。被告岩手県は無邪気に、傲慢な差別を表白しているのである。
行政は平等で、公正でなくてはならない。漁協を獅子とし、漁民を狐として扱ってはならない。原告ら漁民こそが人権の主体であり、漁協は原告ら漁民の便益に奉仕するために作られた組織に過ぎないのだから。」
(2017年6月20日)