澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

安易な弁護士懲戒請求は、損害賠償請求の対象となり得る。

この国は、いまだにヘイトスピーチ天国なのか。臆面もない民族差別の横行を恥ずかしいとも、腹ただしいとも思う。

「懲戒請求:弁護士会に4万件超」「『朝鮮学校無償化』に反発」「インターネットに文書のひな型掲載」という見出しの記事が報道されている。

朝鮮学校への高校授業料無償化の適用、補助金交付などを求める声明を出した全国の弁護士会に対し、弁護士会長らの懲戒を請求する文書が殺到していることが分かった。毎日新聞の取材では、少なくとも全国の10弁護士会で計約4万8000件を確認。インターネットを通じて文書のひな型が拡散し、大量請求につながったとみられる。

各地の弁護士によると、請求は今年6月以降に一斉に届いた。現時点で、
▽東京約1万1000件
▽山口約6000件
▽新潟約6000件
▽愛知約5600件
▽京都約5000件
▽岐阜約4900件
▽茨城約4000件
▽和歌山約3600件--などに達している。

請求書では、当時の弁護士会長らを懲戒対象者とし、「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、活動を推進するのは犯罪行為」などと主張している。様式はほぼ同じで、不特定多数の賛同者がネット上のホームページに掲載されたひな型を複製し、各弁護士会に送られた可能性が高い。

請求書に記された「声明」は、2010年に民主党政権が高校無償化を導入した際に各弁護士会が朝鮮学校を含めるよう求めた声明や、自民党政権下の16年に国が都道府県に通知を出して補助金縮小の動きを招いたことに対し、通知撤回や補助金交付を求めた声明を指すとみられる。 (以下略)

弁護士に対する批判を遠慮する必要はない。しかし、この懲戒請求は、弁護士懲戒に名を借りた朝鮮学校に対する悪罵であり民族差別である。少数者の側、弱者の側の人権を擁護すべき弁護士の使命に対する不当な攻撃でもある。

この、特定弁護士や弁護士の特定業務への大量懲戒請求呼びかけ戦術は、2007年に橋下徹が始めたものだ。殺人事件被告の弁護団への懲戒請求をテレビで呼び掛け、同年中に約8000件の請求が届いたという。橋下を被告とする民事訴訟は、最高裁が2011年に「表現行為の一環に過ぎず、不法行為に当たらない」として終了した。一方、別の訴訟で最高裁は07年に「懲戒請求の乱用が不法行為になり得る」ことを明言している。

私は、DHCスラップ訴訟の被告となって、この種の事案に敏感となっている。スラップ訴訟は民事訴訟制度を濫用して表現の自由を侵すものだが、同じことは刑事告訴でもできるし、弁護士に対しては懲戒請求という戦術で達成できる。DHCスラップ訴訟弁護団で、この3者が違法となる要件について比較検討したことがある。

この点については、私は何か言わねばならないと思っていたところ、先を越された。親しい弁護士から、こんなメールをいただいた。抜粋して紹介させていただく。

「問題は、弁護士懲戒制度が自分の気に入らない意見や立場を攻撃する手段として濫用させることが一般化しつつあることです。この風潮を止めないと、制度そのものが破壊され、弁護士自治が揺らぎかねません。さらに、本件で標的となっている朝鮮学校支援のような類の問題に関わりを持つ弁護士の行動に制約がかかったり、弁護士会がこの種の問題に関わることを躊躇させる危険もはらんでいます。

このような事案について、ありがちな態度は『馬鹿は相手にしない』という大人の対応です。しかし、そのような『大人の対応』がこれまでどれほど排外主義や反知性主義を増長させてきたでしょうか?私は、そのような『大人の態度』は断固拒絶し、強く批判したいと思います。」

「被害者である各弁護士に訴えたいのですが、このような濫用的懲戒については、毅然とした対応をしましょう。具体的には、民事の不法行為を根拠とした損害賠償請求がもっとも有効だと思われます。これについては、最高裁平成19年4月24日第三小法廷判決(民集61巻3号1102頁)が明確な基準を示していますから、決然と行うべきです。」

なんと素晴らしい毅然たる姿勢。そう、弁護士は逃げてはならないのだ。不当な攻撃とは精一杯闘わなければならない。それが、弁護士が享受する自由に伴う責任というものだ。

同弁護士が引用する、懲戒濫用に対抗の武器となる最高裁判例の一部。
「…懲戒請求を受けた弁護士は、根拠のない請求により名誉、信用等を不当に侵害されるおそれがあり、また、その弁明を余儀なくされる負担を負うことになる。そして、同項が、請求者に対し恣意的な請求を許容したり、広く免責を与えたりする趣旨の規定でないことは明らかであるから、同項に基づく請求をする者は、懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように、対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査、検討をすべき義務を負うものというべきである。そうすると、同項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、請求者が、そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、あえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。」

つまり、「通常人としての普通の注意を払うことなく」軽々に弁護士懲戒請求をすれば、不法行為として損害賠償請求されることを覚悟しなければならないのだ。

当然のことながら、懲戒請求は請求者の住所氏名を明記しなければ、受け付けられない。うかうか、扇動に乗せられると、ある日、裁判所から損害賠償請求の訴状が届くことになりかねない。
よく考えるべきなのだ。
(2017年10月12日)

兵戈無用 ― 「不殺生戒」は平和憲法理念に通じる

昨日(9月1日)の都立横網町公園での朝鮮人犠牲者追悼式典では、実行委員長宮川泰彦さんの「開式のことば」と、韓国伝統舞踊家・金順子(キム・スンジャ)さんの「鎮魂の舞」が大きな話題となったが、開式のことばの直後には、「鎮魂の読経」が行われている。「日本宗教者平和協議会 浄土真宗本願寺派・僧侶」小山弘泉さんを導師とするもの。

普通、読経はサンスクリットの漢訳をそのまま音読するから、聞いていて意味はさっぱり分からない。「はんにゃはらみた」も、「ぎゃーてー、ぎゃーてー、はらぎゃてー」も、チンプンカンプン。本来が聴衆に聞かせて分からせるための読経ではないのだ。

ところが、小山弘泉さんの読経は、半分以上は日本語だった。聴いていて分かるのだ。大震災とその後の混乱の中で、朝鮮人と中国人と社会主義者や労働運動活動家が殺された経過と背景を語って、再びの悲劇を繰り返してはならないとする内容。これこそが、鎮魂の式典のあり方といえよう。

その読経の中で、「仏説無量寿経」の中のお釈迦様の言葉が紹介された。「兵戈無用(ひょうがむよう)」というのだ。

いうまでもなく、「兵」とは軍のこと、「戈」とは武器のことである。「兵戈無用」とは、軍隊も武器もまったく不要とする非武装平和主義、まさしく憲法9条の思想ではないか。

ネットで検索すると、出典は次の一節であるらしい。
『仏説無量寿経』
「天下和順 日月清明 風雨以時 災厲不起  国豊民安 兵戈無用」

読み下しは、
『仏説無量寿経(ぶっせつ むりょうじゅきょう)』
「天下和順(てんげわじゅん)し 日月清明(にちがつしょうみょう)なり 風雨ときをもってし 災厲(さいれい)起こらず 国豊かに民安くして兵戈(ひょうが)用いることなし」とのこと。

「み仏が歩み行かれるところは、世の中は平和に治まり、 太陽も月も明るく輝き、風もほどよく吹き、雨もほどよく降り、災害や疫病なども起こらず、国は豊かに、民衆は平穏に暮らし、武器をとって争うこともなくなる。」

お釈迦様が、悪を戒め信を勧められるところで語られることばで、その背景には「不殺生」という仏教の根本思想があるという。仏教は五戒を説くが、その筆頭は「不殺生戒(ふせっしょうかい)」である。大量の殺生である戦争は佛教徒の最も忌むべきものであろう。

民族差別、排外主義は、それ自体が殺生の原因となる。そして、戦争の温床となって、さらに大規模な殺生に至るのだ。

「今に生きる私たちは、そのような差別と憎しみを克服して、戦争のない平和な世界、民衆が国境を越えて仲良く豊かに平穏に暮らせる世の中を作ります。そのために、けっして武器をとって争うことをしません。」

小山弘泉さんは、宗教者として、参列者とともに、亡くなられた犠牲者にそう語りかけていたのだと思う。
(2017年9月2日)

ヘイトスピーチに、もっと敏感になろう。もっと強く批判しよう。

岩波ジュニア新書「1945年8月6日ーヒロシマは語り続ける」(伊藤壮著)に、次の一節がある。

 満州事変がはじまって以来、町は戦争一色にぬりつぶされようとしていた。学校でも家庭でも、中国軍という「悪者」をやっつける「正義」の味方、日本車の勇敢な戦いぶりに、子どもたちはすっかり感激していた。
 満州事変のさなかに茨城県に住む小学校高等科一年生(いまの中学一年生)が書いた『朝日新聞』への投書がある。
「毎日、毎日の新聞は、連盟(国際連盟)における日本の不利を報じています。私は連盟って何だかわかりません。が、日本をつぶす会のようにしか考えられません。なぜ、外国は支那をたすけ正義の日本を悪くしているのでしょう。満州にいる兵隊さんたちよ、あまりにも馬鹿な支那をうちこらしてください。日本の国のために、たとえ支那にアメリカがつこうが、ロシヤがつこうとも、断然立って戦ってください。九千万の同胞のために戦ってください。二七年前に私たちの父祖が血を流した満州の地を守ってください。広い満州の野は日本の生命です。ああ私たちの兄さんよ、どうか奮闘してください。お国のために闘ってください。正義にはむかう不正なる支那をうちこらしてください。」

この投書を読んで、背筋が寒くならないか。恐怖を感じないか。これが、あの時代の日本であり、日本人だった。恐るべき国の恐るべき時代。

この投書の子どもは、しっかりとした文章の書ける明晰な頭脳を持っている。中学一年生の年齢で、国際連盟の動きにも、満州の歴史にも通じている。そして、おそらくは、「正義感」も強い優等生だったのではないか。

彼のいう「正義」とは、「お国」と同義である。日本こそが正義そのもので、これと闘っている「支那」は、「あまりにも馬鹿」なのだから、「うちこらして」当然なのだ。アメリカもロシヤも、国際連盟も、日本に敵対するものは全て不正義で、「お国のため」に闘うことが正義の闘いという確信に満ちて、少しの揺るぎもない。

戦前の政府は、子どもたちをこのように育てることに成功したのだ。恐るべき「教育」いや、マインドコントロールの成果。戦争とは国家の名における大量殺人にほかならない。自国を美しい正義とし、敵国を醜い不正義としなければ、闘いはできない。敵国の民を憎むべき人々に仕立て上げなければ、大量の人殺しはできない。そのような刷り込みがあって初めて、戦争を始めることができるのだ。

ヘイトスピーチとは、そういう刷り込みの性格をもったものだ。他国を他民族を、憎むべき集団として描き出す。その差別者意識は、薄汚いだけでなく、きわめて危険なのだ。

たとえば、今話題の「アベ疑惑・小学校」の開設申請者として知られるようになった籠池泰典塚本幼稚園長などは、中国・韓国などへのヘイト感情を隠そうともしない。

同園への批判に対し、「これらの内容は全くの事実無根であり、保護者間の分裂を図り、当園の教育活動を著しく害するものです。専門機関による調査の結果、投稿者は、巧妙に潜り込んだ韓国・中国人等の元不良保護者であることがわかりました」と言ってみたり、「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」などと記載した文書を保護者向けに配布したり。また、「名古屋の塾から小学校を興した人も市内の高校を買収した人も在日ですから、この学校では勉強はできても国家観はズタズタになり反日の人間になり得る」「現(沖縄)知事は親中華人民共和国派、娘婿も支那の人である。もともと中共に従いたいと心から思っているので、中共の手先かもしれない」といった調子。

安倍晋三は、国有地払い下げへの関与は否定しても、この右翼・差別主義者との親密さを隠そうとはしていない。「価値観を共有する間柄」の如く思われて痛痒を感じないようなのだ。一方、この右翼幼稚園経営者は「アベの後ろ盾」を誇示する如くである。

ヘイトスピーチを行う者は、唾棄すべき存在として、この社会から強く指弾されなければならない。だが、もう子どもではないアベと籠池。諭しても説教しても聞く耳は持たないだろう。有効な手段は、ヘイトスピーチを繰り返している限り、問題のアベ疑惑小学校の開設はなく、幼稚園の経営も成り立たないと知らしめる以外にない。

塚本幼稚園の元保護者が作る「T幼稚園退園者の会」がホームページを立ち上げて、貴重な情報を提供している。
https://youchienblog.wordpress.com/

園から保護者に対して、信じられない数々の愚行が繰り返されてトラブルを引きずっており、この幼稚園の経営が継続できるとは思えない。

昨年(2016年)5月の時点で、定員315人に対して、園児の数は以下のとおり。
年長 51名
年中 36名
年少 68名
計155名で充足率は50%を切っている。そして現在の実数は、もっと少ないという。これでは、経営がずいぶん苦しかろう。もう少しの批判の積み重ねで、園の方針を変えることができるのではないか。

新設予定の「アベ疑惑小学校」の定員は1学年80名。塚本幼稚園の年長組が全員入学しても30名不足という。世論の批判を大きくすれば、経営が成り立たなくなる。さすれば、小学校の開設認可もなくなる。アベに擦り寄っても意味のないことを明らかにもできる。ヘイトスピーチ幼稚園、ヘイト小学校の経営が成り立たない状態をつくり出すことが、最も現実的な対応策だろう。

「お国のために闘ってください。正義にはむかう不正なる支那をうちこらしてください。」と投書する子どもを再び作ってはならない。アベと籠池と、両者に対して強い批判を積み重ねなければならない。
(2017年2月22日)

大阪府知事は「アベ疑惑小学校」の認可を留保せよ

当ブログでは、2月11日(建国記念の日)に取り上げた「瑞穂の國記念小學院」の設立認可問題。次から次へと「疑惑」が噴出している。その「疑惑」とは、安倍晋三夫妻と真正右翼との関わりであり、その関わりが、国有地払い下げに格別の取り計らいをもたらしたのではないかという強い疑いである。

校舎建設は進んでいる様子だが、この右翼小学校の設立認可はまだ下りていない。その認可の権限は大阪府知事にある。「大阪府私立小学校及び中学校の設置認可等に関する審査基準」によれば、3月31日が手続的には、知事権限による認可の期限である。しかし、「首相関与の国有財産不正払い下げ疑惑」はますます深まっている。その解明あるまで、軽々に認可を与えてはならない。

本日(2月21日)の赤旗は、同紙が入手した、大阪府私立学校審議会(私学審)での審議録に基づいて、次のように報道している。

「府側は私学審での認可適当の答申を前提に15年2月に国有地の処分の是非を審議する国有財産近畿地方審議会が開かれると報告したものの、14年12月の(私学審)会議では結論を保留。15年1月27日に臨時の審議会(私学審)を開催。指摘された問題について学園側が提出した書類についてなお『人件費が30%いかない。相当ひどいことをしないとできない』『まずい場合は認可しかるべしを取り下げる』などの意見が出されました。しかし、学校建設にかかる工事請負契約の締結状況や寄付金の受け入れ状況、詳細なカリキュラム、入学志願の出願状況など、開校にむけた進捗状況を次回以降も審議会に報告する条件付きで認可適当と認め府に答申しています。」

私学審の認可適当の答申は実は条件付きなのだ。その条件に関わって、重要な事実が2点大きな疑惑として浮かびあがってきている。

第1点は、法人の基本財産でもある校地(校舎敷地、屋外運動場等)の取得が確定的であるかの疑問である。国有地を「ただ同然」で取得した疑惑の経過が世に明らかとされてなお契約が有効として維持されるかどうか、はなはだ疑問ではないか。適正な価格を再算定してなお、経営主体がこれを取得する十分な財政能力を有しているとは考え難い。

要するに、特別のはからいでの価格と支払い方法での校地取得を否定されたら、学校経営などできはしないだろうということだ。

近畿財務局と森友学園とが、どんなからくりを使って文字通り「ただ同然」で、国有財産をアベとつるんだ右翼に払い下げたか。今のところ、最もよく調べているのは、下記のサイトであろう。筆者は京都の自由法曹団員弁護士である。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/watanabeteruhito/20170220-00067887/

第2点は、「寄付金の受け入れ状況」についての疑惑である。森友学園が、「安倍晋三記念小学校」の校名で、設立費用の寄付を募集していたことが明らかになっている。いつからいつまで、安倍晋三の名を使って、いったいいくらの金額を集めたのか。これが明らかにされないうちの認可はあり得ない。アベ首相自身が、「自分の名が使われたことは知らなかった」と国会答弁しているのだ。アベは、金集めのために勝手に自分の名が使われたことをもっと怒ってしかるべきではないか。

私学審答申の「認可適当」の条件は、単に形式的に報告があればよいというものではない。報告の内容が、再議を必要とするものであれば、当然に条件成就とはならないはずではないか。

それにしても、「秘すれば花」とは風流の世界のこと。豊洲にしても、南スーダンの日報にしても、「隠すのは醜悪さを見られては困る」からなのだ。情報公開請求を拒否した近畿財務局の経過隠蔽が、疑惑の発端となったこの事件。隠しきれなくなっての疑惑がふくれ、その醜悪さが際立ってきた。

森友学園理事長籠池泰典とは、経営する塚本幼稚園の保護者に「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」などと記載したヘイトスピーチ文書を配布して物議を醸した人物。アベとは「類は友を呼ぶ」、あるいはもともとが「同じ穴のムジナ」というべきか。「あい寄る魂」は美しいが、政治右翼と真正右翼の醜悪この上ないあい寄る疑惑の関係。

両者の関係を白日の下にさらけ出す努力が今求められている。その疑惑解明までの間に、この「アベ疑惑小学校」設立の駆け込み認可があってはならない。
(2017年2月21日)

「DHC」「DHCシアター」「東京MXテレビ」そして「長谷川幸洋」に、『デマ』と『ヘイト』の刻印をーDHCスラップ訴訟を許さない第100弾

本日(2月2日)の東京新聞1面に、「『ニュース女子』問題 深く反省」と、社としての謝罪記事が出ている。いささか遅きに失した感は否めないが、さすがに東京新聞。誠実に詫びるべきを詫びている。

記事には、「論説主幹・深田実が答えます。沖縄報道 本紙の姿勢は変わらず」とサブタイトルがついている。この記事掲出まで社内でいかなる論議がなされたかは知る由もないが、社としての本格的な取り組みとの姿勢を窺うことができる。これなら、読者の信頼を繋げるのではないか。

謝罪記事の全文を引用しておこう。
「本紙の長谷川幸洋論説副主幹が司会の東京MXテレビ『ニュース女子』1月2日放送分で、その内容が本紙のこれまでの報道姿勢および社説の主張と異なることはまず明言しておかなくてはなりません。
 加えて、事実に基づかない論評が含まれており到底同意できるものでもありません。
 残念なのは、そのことが偏見を助長して沖縄の人々の心情、立場をより深く傷つけ、また基地問題が歪めて伝えられ皆で真摯に議論する機会が失われかねないということでもあります。
 他メディアで起きたことではあっても責任と反省を深く感じています。とりわけ副主幹が出演していたことについては重く受け止め、対処します。
 多くの叱咤の手紙を受け取りました。 
 『1月3日の論説特集で主幹は「権力に厳しく人に優しく」と言っていたのにそれはどうした』という意見がありました。
 それはもちろん変わっていません。
 読者の方々には心配をおかけし、おわびします。
 本紙の沖縄問題に対する姿勢に変わりはありません。」

続けて、東京新聞自身が、「『ニュース女子』問題とは」と解説をつけている。
「東京MXテレビは1月2日放送の番組『ニュース女子』で冒頭約20分間、沖縄県東村高江の米軍ヘリコプター離着陸帯建設への反対運動を取り上げた。本紙の長谷川幸洋論説副主幹が司会を務めた。『現地報告』とするVTRを流し、反対派を「テロリストみたい」「雇われている」などと表現。反ヘイトスピーチ団体「のりこえねっと」と辛淑玉(シンスゴ)共同代表(58)を名指しし「反対派は日当をもらってる!?」「反対運動を扇動する黒幕の正体は?」などのテロップを流した。辛さんは取材を受けておらず、報告した軍事ジャーナリストは高江の建設現場に行っていなかった。
 MXは「議論の一環として放送した」とし、番組を制作したDHCシアターは「言論活動を一方的に『デマ』『ヘイト』と断定することは言論弾圧」としている。辛さんは名誉を侵害されたとして、1月27日、放送倫理・番組向上機構(BPO)放送人権委員会に申し立てた。
 のりこえねっとは沖縄の現場から発信してもらう『市民特派員』を募集、カンパで捻出した資金を元手に、本土から沖縄までの交通費として5万円を支給。昨年9月から12月までに16人を派遣した。」

関連記事が5面の「読者部便り」に掲載されている。「読者部長・榎本哲也」による「読者の批判重く受けとめ 『ニュース女子問題』」と題するもの。これも、貴重な記事として、全文を引用しておきたい。

 特定のニュースや問題について、同じ趣旨のお問い合わせや要望が多くの方から読者部に相次ぎ、関心が高いと判断した時は、紙面で紹介したり、関連記事を掲載するよう心掛けています。ですが、年明け以来、1カ月にわたり連日、ご意見が相次いでいることに、きょうまでお答えしていませんでした。まず、深くおわび申し上げます。
 東京MXテレビの1月2日放送の番組「ニュース女子」に、沖縄県の米軍施設建設に反対する人々を中傷する内容があり、その番組の司会を長谷川幸洋・本紙論説副主幹が務めていたことです。厳しいご批判や、本紙の見解表明を求める声は、読者部にいただいた電話やファクス、メールや手紙だけでも250件を超えました。重く受け止めており、きょうの1面に論説主幹の見解を掲載しました。
 新聞は、事実に基づいて、本当のことを伝えるのが使命です。編集局では現在、沖縄の在日米軍基地問題を取材するために、社会部や政治部の記者を沖縄に派遣し、東村高江や辺野古などで、住民の方々などの取材を重ねています。近く、紙面でご報告いたします。
 また、「沖縄ヘイト」問題の本質を問う識者インタビュー連載記事を、きょうから始めました。
 沖縄で今、何が起きているのか。本当のことをお伝えする努力を、これからも続けていきます。

この記事のとおり、3面に「『沖縄ヘイト』言説を問う」の第一回として、津田大介が、それなりのインパクトのある記事を書いている。
今回の「ニュース女子」の報道を「メディアが、間違いだらけで、偏見と憎悪に基づく番組を放送してしまった。…根底にあるのは沖縄への差別意識以外のなにものでもない」「ほかのメディアはこの問題に対して、もっと怒るべきだ。そうしないと、政府が放送に介入するきっかけを作ってしまう」と言っている。

幾つか、感想を述べておきたい。
先に今回の謝罪を評価すると述べたが、必ずしも満足しているわけではない。東京新聞が、読者に何を謝り何を反省しているのかが、必ずしも明確でないのだ。自社の幹部の肩書きを持つ者の不祥事として、監督不行き届きを謝罪しているのだろうか。あるいは、何らかの内規違反なのだろうか。さらには、ジャーナリストの風上におけぬ輩を社内のしかるべき地位に就けていたことなのだろうか。

この件の反省と謝罪は、真っ先に長谷川幸洋(論説副主幹)自身がすべきであろう。本日の紙面には、長谷川幸洋が自らの責任を認めている記事がない。おそらくは、長谷川は反省していないのだ。であれば、東京新聞として、その責任を明確にしなければなない。いったい、どのような経過で、沖縄ヘイト番組が作られ、その制作に長谷川がどう関わったのかが、明らかにされなければならない。今のところ、その作業がなされた形跡はない。

私は、1面の謝罪記事の「他メディアで起きたことではあっても責任と反省を深く感じています。とりわけ副主幹が出演していたことについては重く受け止め、対処します。」の部分を、最初は迂闊にも「処分します」と読んで、あとで間違いに気が付いた。「対処」は、「処分」も含むのだろうが、処分以外の対処もあり得る。さて、東京新聞は、これからこの問題にどう対応するだろうか。

もう一つ、この問題の対応には、大手の広告スポンサーであるDHCが絡んでいる。「ニュース女子」は、東京MXテレビの制作番組ではない。DHCの子会社であるDHCシアター制作の持ち込み番組である。DHCは東京MXテレビの最大スポンサーであるとともに、ヘイトスピーチを恥じない吉田嘉明が主宰する企業でもある。スラップ訴訟を提訴して恥じない企業である。明らかにDHCの息のかかったこの番組にたいする批判は、DHC批判に直結する。東京新聞も広告スポンサーであるDHCを意識せずには批判を徹底できない事情がある。それでも、経済事情よりはジャーナリズムの使命を優先して、ブレないことを示してもらいたい。

そして、反省皆無のDHCシアターに、腹の底からの怒りの一言を記しておきたい。「言論活動を一方的に『デマ』『ヘイト』と断定することは言論弾圧」だと? その開き直りに、開いた口が塞がらない。

報道とは、真摯な取材によって確認された正確な事実を伝えることである。そして、正確な事実に基づく公正な論評をすることでもある。放送メディアは、そのことを放送法(4条)で義務付けられてもいる。ところが、DHCシアターのやったことは、取材もせずに不正確な事実を伝えた。これを『デマ』という。さらに、不正確な事実を前提に差別感情丸出しの偏見を述べたのだ。これを『ヘイト』という。DHCシアターの「ニュース女子」こそは、真正の『デマ』と真正の『ヘイト』というべきなのだ。ヘイトは「沖縄ヘイト」と「在日ヘイト」の両者を含んでいる。

「DHC」と「DHCシアター」と「東京MXテレビ」と、そして東京新聞論説副主幹「長谷川幸洋」の4者に、『デマ』『ヘイト』の刻印を押そう。真摯な謝罪があるまでは、その『デマ』『ヘイト』の刻印を強く深く押し続けよう。
(2017年2月2日)

極右排外主義者同士の「ドン」「シン」会談

よう。オレのファストネームはドナルドだ。ドンと呼んでくれ。
では、ワタクシはシンゾーですから、シンとでも。

オレがドンで、あんたがシン。意味深でいいじゃないか。今後はずっとこれでいこう。
ドンとシンの友情。結構でございます。

あんたとは、ウマが合いそうだ。ドイツやフランスの首脳は、結構うるさいことを言って面白くない。礼儀に欠けるんだな。あんただけが、私に批判めいたことを一切言わないのが、気に入った。
それはもう、ワタクシは身の程をよくわきまえていますから。

メルケルも、オランドも、メイも、みんなヒラリーとおんなじ気取り屋だ。オバマも、オレをバカにしている。あんただけだよ、オレと同類という雰囲気をもっているのは。
そりゃそのとおりです。ワタクシもオバマとは肌が合わない。オバマはワタクシのことは「右翼の軍国主義者」という目で見ていますから。

オレは、「偉大なアメリカを取り戻す」というのがスローガン。
ワタクシは、「戦後民主々義を脱却して日本を取り戻す」。よく似ているのは偶然でしょうか。

お互い、支持勢力が極右の排外主義者。差別のホンネもそっくりだ。民主主義とか人権が大嫌いなところも、よく似ている。
それだけじゃありません。反知性のレッテルがよく似ているし、選挙の前とあとでは、正反対のことを言って平気なことも一緒。お友だちや身内を平気で登用することまで似た者同士。こういうのを、価値観を同じくするって言うんでしょうね。

オレが、次期大統領に決まって以来、全米が湧いているぜ。これまでしおたれていた白人が、ようやく男らしさを取り戻して、ヒスパニックや黒人に威勢を張り始めた。クー・クラックス・クランも眠りから覚めたようだし、ヨーロッパのネオ・ナチ連中も、勢いづいている。
さすがに大きなドンの影響力。でも、ワタクシだって負けてはいませんよ。ワタクシが総理になって以来、日本の差別主義者は勇気百倍、在日に対するヘイトスピーチ・ヘイトデモでの弱い者イジメに懸命です。やっぱり、彼ら右翼は分かるんですね。右翼を支持し差別を推進している、ワタクシの心の内が。

そうだよ、トップの心もちひとつで、国中が変わる。なんてったってアメリカ・ファーストだ。アメリカっていうのは、白人ってことだ。ヒスパニックもムスリムも黒人も「アメリカ」じゃなくて、よそ者だ。民主党の連中は、こんな簡単なことをはっきり言えないから、選挙に勝てない。
日本でもがんばって、在日だけでなく沖縄を差別しています。先日は、内地の機動隊が現地のデモ隊に、「土人」と差別語を浴びせて侮辱しています。鶴保庸介という沖縄・北方担当大臣が、現地の沖縄県民の側に立たずに、土人発言をした内地の機動隊員の擁護に回っています。大臣も、機動隊も、右翼も、ワタクシの気持を忖度してくれています。

ところで聞きたかったのは、あんたの「積極的平和主義」ってやつ。平和主義なんて、あんた嫌いだろう。一人前の男が口にすることじゃない。でも、国民の多くは平和主義が好きだ。そこで「積極的」を付けると、言葉は平和主義だけど、内容は武力行使容認なんだ。このからくりでどこまで国民をだませる?
国民騙しのテクニックは、ワタクシが先輩ですからお教えします。問題は、TPPですよ。以前はTPP反対で、「ぶれない自民党」と言ってました。「反対だけど、アメリカや近隣諸国が望む以上は、聖域を護りつつの交渉参加はやむを得ない」と言って舵を切りました。今では自民党は強行採決までしてTPPを通そうとしています。もちろん、すべてはアメリカへの義理立てでのことです。そんなことをお考えいただき、もう選挙は済んだことですから、TPPについては、候補者としての発言と、行政の責任者としての発言は分けていただきたいところ。

あんた、そりゃ駄目だ。TPP離脱は、オレの公約の目玉だ。他のことはとかく、この公約はアメリカ・ファーストと結びついているんだ。どうしても骨抜きにはできない。
とは言ってもですね。そもそも、自由貿易の伸展は歴史の流れでございまして、貴国の利益にもなることですから、ここは相互主義の立場から譲歩をお願いしたのです。

なんだと。あんたはオレに説教しようというのか。
いいえ、とんでもない。お願いしているだけで。

なら、お断り。こちらは、アメリカ・ファーストの旗は降ろせない。アメリカ・ファーストとは、日本も敵ということだ。
それは上等でございます。こちらも、ジャパン・ファーストの旗は降ろせない。ジャパン・ファーストとは、アメリカが敵ということでございます。

そういえば、お互いが排外主義のナショナリストだ。そもそも利害が一致するはずはないんだ。我が合衆国には、「黄禍」という言葉が伝統としてある。
こちらも一緒でございます。表面は取り繕っても、排外主義者同士が親密になれるはずはございません。我が日本には、「鬼畜米英」という言葉が伝統としてあります。

「リメンバー・パールハーバー」だ。
東京を焼き、広島・長崎に原爆を落としたのはアメリカじゃないか。

今日のところは、決裂はまずい。表面だけは取り繕っておこう。「両者は、日米関係の緊密化こそが、両国の利益のみならず、世界の平和や経済発展にとって、死活的な重要事であることを相互に確認した」くらいの発表で、お茶を濁しておこう。それでいいな。しんきくさいシンよ。

「親密に、将来の夢と希望を語り合った」とか。今日のところだけはね。どんくさいドンよ。
(2016年11月17日)

9・1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典にて

9月1日は、単に大震災の日と記憶すべき日ではない。続発した、日本人の在日朝鮮人に対する集団虐殺が行われた日として、忘れてはならない日である。いったい何が起こったか、「9・1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼実行委員会」の案内ビラは、簡明に次のとおり訴えている。

「93年前の関東大震災のとき、全く罪のない朝鮮人が6000人以上、中国人が700人以上も当時の天皇の軍隊・警察や自警団によって虐殺されました。日本の社会主義、労働運動の指導者たち10数人も国家権力によって殺されました。
 しかし、政府は今もなおこの事実を明らかにせず、加害責任を自覚さえしていません。アジアの平和と安定に寄与することを願い、震災における犠牲者の追悼とこのような歴史を繰り返さない決意を込めて追悼式を開きます。
 これを機会に歴史をしっかり学び、その教訓を現在に生かしたいと思います。」

起こったのは、日本人による朝鮮人(中国人を含む)虐殺である。実行委員会の式次第から、引用する。

「関東大震災に乗じた虐殺
1923年9月1日の関東大震災では、その直後から『朝鮮人が井戸に毒を流した』、『朝鮮人が攻めてくる』などの流言が人々の恐怖心をあおりました。朝鮮人への差別や、三・一運動以後の民族運動の高揚に対する恐怖が流言発生の背景であったといわれています。政府は直ちに軍隊を出動させ朝鮮人を検束し、『不逞』な朝鮮人に対し『取締』や『方策』を講ずるように指令を出し、流言を広げました。軍隊や民衆などによって多くの朝鮮人や中国人等、社会主義者をはじめとした日本人が虐殺されました。」

「真相究明と謝罪求め
自警団など民間人による虐殺については型どおりの裁判が行なわれたのみで、軍隊など国家が関わった虐殺は不問に付されています。戦後に調査研究と追悼の運動が進められ、2003年には日弁連が真相究明と謝罪を国家に勧告しましたが無視されています。国家が調査と謝罪を行ない、虐殺事件への真の責任を取ることが、いま求められているのです。」

東京都墨田区の横網町公園内に「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑」がある。
そこには、次の碑文が刻されている。
 「この歴史
  永遠に忘れず
  在日朝鮮人と固く
  手を握り
  日朝親善
  アジア平和を
  打ちたてん
        藤森成吉」

この追悼碑は建立実行委員会の東京都への強い働きかけで墨田区横網の都立公園に建てられたもの。追悼碑建立の経過が次のとおり、書かれている。
「1923年9月に発生した関東大震災の混乱のなかであやまった策動と流言蜚語のため6千余名にのぽる朝鮮人が尊い生命を奪われました。私たちは、震災50周年をむかえ、朝鮮人犠牲者を心から追悼します。この事件の真実を知ることは不幸な歴史をくりかえさず民族差別を無くし人権を尊重し、善隣友好と平和の大道を拓く礎となると信じます。思想・信条の相違を越えてこの碑の建設に寄せられた日本人の誠意と献身が、日本と朝鮮両民族の永遠の親善の力となることを期待します。
1973年9月 関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑建立実行委員会」

本日、その追悼碑の前で、「関東大震災93周年朝鮮人犠牲者追悼式典」がしめやかに行われ、私も参列した。式典の実行委員長として吉田博徳・日朝協会都連会長が開式の言葉を述べたほか、僧侶の読経があり、鎮魂の舞があり、そして各界からの追悼の辞が述べられた。追悼の辞は、東京都知事や墨田区長、「関東大震災朝鮮人虐殺の国家責任を問う会」、「亀戸事件追悼会」、朝鮮総聯、日本共産党、日本平和委員会、日中友好協会など。

挨拶は概ね次のような趣旨であった。
「93年前のこの事件は、過去のものとなっていない。日本政府は、これまで事件の解明にも責任の追及にも熱意を示さず、遺族への謝罪もしてこなかった。そして、民族的差別感情の醸成は、植民地支配と侵略戦争の準備行為でもあった。いま、憲法改正をたくらむ危険な政権下で、戦後経験したことのないヘイトスピーチやヘイトクライムが続発していることに警戒の目を向けなければならない。過去の歴史を正しく見つめるところから、民族間の信頼と平和が生まれる。この事件の教訓をしっかりと承継しなければならない」

この事件の最暗部は関東各地に無数に結成された「自警団」にある。自警団とは、町内会であり商店会であって、要するに一般民衆である。これが、虐殺集団となった。つまり、日本人の誰も彼もが、積極消極の虐殺事件加害者となったのだ。このことを歴史からも記憶からも抹消してはならない。

「随所で続発した朝鮮人虐殺事件は、各町々で結成された一般民衆による組織によって行われた。かれらは、日本刀、銃、竹槍、棍棒等を所持し、朝鮮人を探し出すことに狂奔し、朝鮮人と認めると容赦なくこれを殺害し、傷つけた。この虐殺事件は、大震火災で無法化した地に公然と行われた」(文春文庫『関東大震災』吉村昭)

姜徳相著『関東大震災』(中公新書)には、「自警団の活動」という章があり、そのなかに「自警団の殺し方」という項がある。「自警団の殺人は、人殺しをしたというだけの簡単なものではない」として、恐るべく残虐な集団虐殺の目撃談が連ねられている。以上の二書は、日本人必読の文献である。

異常な事態において人間一般の習性がかくも残虐なのか、あるいは日本人が特別に残虐なのかは、定かでない。しかし、日本人の一般民衆が、マイノリティとしての朝鮮人(ならびに中国人にも)に対して、集団で残虐な蛮行に及んだことを忘れてはならない。

なぜこんなことが行われたのか、どうしたら同様なことを防げるのか。誰にどのような責任があるのか、日本人として今どのように事件と向き合うべきなのか。戦争責任と同様に、考えることをやめてはならない。
(2016年9月1日)

ネトウヨ諸君、匿名でも探し出される。インターネットの誹謗中傷に高額賠償判決。

本日(8月3日)東京地裁民事第24部で、注目すべき判決が出た。新しい法解釈を含むところはまったくないが、インターネット上に氾濫する匿名言論の誹謗中傷記事に歯止めが掛かることを期待させる判決である。

在特会の京都朝鮮学校襲撃事件や徳島教組威力妨害事件では、首謀者だけでなく、付和雷同した参加者も有罪となり高額損害賠償責任を負担した。今度は、ネットだ。匿名に隠れての言いたい放題は通じない。ヘイト記事はなおさらのこと。本人は匿名に隠れて安全地帯にいるつもりでも、探し出せるのだ。住所氏名が割り出せれば、あとは簡単。本日のような判決になる。そして、弁護団は判決認容の170万円とほぼ1割の遅延損害金を厳しく取り立てるはずだ。

原告は女子高生。卑劣なネトウヨ君は、葛飾区四つ木の住人。このネトウヨ君が何をしたのか。判決から要約引用すれば、「被告は,平成26年9月8日,インターネット上のサービスであるツイッターにおいて,原告の写真を掲載し,『原告が,高校生平和大使に選ばれた。詐欺師の祖母,反日韓国人の母親,反日捏造工作員の父親に育てられた超反日サラブレッド。将来必ず日本に仇なす存在になるだろう。』との投稿をした。これは,原告の社会的評価を低下させ,原告の名誉権を侵害するものである。さらに,本件投稿は,原告の肖像権を侵害する。」

ネトウヨ諸君、原告の請求が満額認容されて、このツイッター1通が170万円だ。君も、「反日韓国人」「反日捏造工作員」などと書いてはいないか。口は災いの元、筆は損害賠償の源だ。悪いことは言わない。今後は慎んだ方がよい。君も、被告となり得るのだから。

興味深いのは損害論だ。170万円の内訳は以下のとおり。
ア 精神的損害に対する慰謝料 100万円
イ 調査費用 
  発信者情報開示の仮処分に関する弁護士費用20万円
  発信者情報開示の仮処分に関する翻訳費用20万円
  経由プロバイダに対する発信者情報開示手続に関する弁護士費用20万円
ウ 本件訴訟の弁護士費用10万円

実は、裁判所は判決理由の中で、「本件の慰謝料額は200万円が相当」と意見を述べている。しかし、原告が100万円しか請求していないから、その上限の判決となった。実質的に本件は270万円の判決と理解しなければならない。

匿名を暴くのには手間暇かかる。そのための手続費用が加算されることになる。これも教訓として世のネトウヨ諸君に知ってもらわねばならない。

本件の被告ネトウヨ君は、ネトウヨ族の代表として、貴重な体験をした。身をもって「匿名に隠れての言いたい放題は、実は真っ当な社会では通用しないことなのだ。」「調子に乗ってバカ言ってると、手痛い損害賠償の判決を喰うことになる」ことを学んだ。その学習費が170万円だ。世のネトウヨ諸君も貴重な教訓として、我が身を糺してほしい。

以下はNHKの報道。
「判決のあと、元記者の長女(原告)は、弁護士を通じてコメントを出しました。
この中で、当時の気持ちについて『ひぼう中傷の言葉が大量に書き込まれた時、私は「怖い」と感じました。匿名の不特定多数からのいわれのないひぼう中傷はまるで、計り知れない「闇」のようなものでした」と振り返っています。
 その上で『今回の判決がこうした不当な攻撃をやめさせるための契機や、健全なインターネットの利用とは何かについて考える機会になってほしいと思います』と訴えています」

この言は立派なものだ。原告は「将来必ずや日韓の平和に貢献する存在」になるものと思わせる。
(2016年8月3日)

「6月5日川崎ヘイトデモ」に禁止仮処分命令ーデモ参加者には不法行為損害賠償責任

本日(6月2日)、横浜地方裁判所川崎支部が、以下の仮処分命令を出した(仮処分事件では、申立てた者を「債権者」、申し立てられた相手方を「債務者」という)。

当裁判所は,債権者に債務者のため30万円の担保を立てさせて,次のとおり決定する。
主文 債務者は,債権者に対し,自ら別紙行為目録記載の行為をしてはならず,又は第三者をして同行為を行わせてはならない。
行為目録
債権者(社会福祉法人)の主たる事務所(川崎市川崎区桜本○丁目△番□号)の入口から半径500m以内(別紙図面の円内)をデモしたりあるいははいかいしたりし,その際に街宣車やスピーカーを使用したりあるいは大声を張り上げたりして,「死ね,殺せ。」,「半島に帰れ。」,「一匹残らずたたき出してやる。」,「真綿で首絞めてやる。」,「ゴキブリ朝鮮入は出て行け。」等の文言を用いて,在日韓国・朝鮮人及びその子孫らに対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命,身体,名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し,又は名誉を毀損し,若しくは著しく侮辱するなどし,もって債権者の事業を妨害する一切の行為

これはすばらしい決定だ。「ヘイトスピーチを行う個人や団体に行為の禁止を認める仮処分決定は、京都地裁が『在日特権を許さない市民の会』(在特会)などに対し、京都朝鮮第一初級学校(京都市)近くでの演説禁止などを命じた決定(2010年)に続き、2例目とみられる。」と報道されているが、今回の仮処分はヘイトスピーチ対策法成立後のこの時期、天下の耳目を集めてのもの。影響は大きい。

仮処分命令は「地図上に同法人の事務所から半径500メートルの円を描いて、このなかのヘイトデモを禁止する」という内容。警察は、デモ隊がこのエリアで「デモしたりあるいは徘徊したり」することを阻止しなければならない。制止を無視するヘイトスピーチデモ参加者を、威力業務妨害で逮捕もしなくてはならない。

これから続々と同種仮処分の活用が日常化していくことになるだろう。ヘイトデモ禁止に実効性を有する仮処分戦術が進歩していくだろう。仮処分だけでなく、仮処分の取得をテコにした警察警備のあり方も厳格化されていくだろう。何よりも、仮処分だけでなく本訴の活用にも大きく道が開けた。この仮処分決定は、理由中で「ヘイトデモにおける差別的言動は、平穏に生活する人格権に対する違法な侵害行為に当たるものとして不法行為を構成する」と明記した。しかも、「人格権を侵害する程度が顕著」とも断じている。その結果、ヘイトデモ主宰者や幹部企画者だけでなく、すべての差別デモ参加者が共同不法行為の責任を負わねばならないことになる。損害賠償責任が生じ、ヘイトデモ参加者個人に対する財産の差押えができることになる。

決定書を見ると、債権者は、「在日大韓基督教会川崎教会を母体として社会福祉法人の認可を受けた川崎市内桜本地区の社会福祉法人で、その目的として,人種・国籍・宗教のいかんを問わず,福祉サービスを必要とする者が,心身ともに健やかに育成され,又は社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられることを目指し,個人の尊厳を保持しつつ,自立した生活を地域社会において営むことができるよう支援し,共生社会を実現することを掲げている」という。

裁判所の認定によれば、「川崎市臨海部は,戦前から,在日コリアンと呼称される在日韓国・朝鮮人(その子孫らを含む。以下同じ。)が多数居住する地域であり,特に債権者の事務所が所在する川崎市川崎区桜本地区はその集住地域であり,そのことは広く知られている。債権者は,同地区において,民族を理由に入園を断られた子供を受け入れる保育園を設立する,学校で孤立する在日コリアンの居場所を作る,在日1世の高齢者の福祉も手掛けるなど,民族差別解消・撤廃に向けて取り組み,社会福祉事業を行ってきたものであり,現在,同地区内ないしその周辺において,計9か所の拠点で,保育所,児童館,高齢者・障害者交流施設,通所介護施設等の施設を運営している。債権者の事業所及び施設は,債権者の主たる事務所の入口から半径500m以内(別紙図面の円内)に所在している」という。だから、ここが差別主義者の標的になるのであり、だからこそ卑劣な攻撃から防衛しなければならないわけだ。

裁判所は、住民の人格権尊重と、憲法21条の表現の自由との調整について、次のように判示している。やや長いが重要個所として引用しておきたい。

「人格権の侵害行為が,侵害者らによる集会や集団による示威行動などとしてされる場合には,憲法21条が定める集会の自由,表現の自由との調整を配慮する必要があることから,その侵害行為を事前に差し止めるためには,その被侵害権利の種類・性質と侵害行為の態様・侵害の程度との相関関係において,違法性の程度を検討するのが相当である。しかるところ,その被侵害権利である人格権は,憲法及び法律によって保障されて保護される強固な権利であり,他方,その侵害行為である差別的言動は,上記のとおり,故意又は重大な過失によって人格権を侵害するものであり,かつ,専ら本邦外出身者に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で,公然とその生命身体,自由,名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し,又は本邦外出身者の名誉を毀損し,若しくは著しく侮辱するものであることに加え,街官車やスピーカーの使用等の上記の行為の態様も併せて考慮すれば,その違法性は顕著であるといえるものであり,もはや憲法の定める集会や表現の自由の保障の範囲外であることは明らかであって,私法上も権利の濫用といえるものである。これらのことに加え,この人格権の侵害に対する事後的な権利の回復は著しく困難であることを考慮すると,その事前の差止めは許容されると解するのが相当であり,人格権に基づく妨害予防請求権も肯定される。」

この仮処分命令申立は5月30日で、予告された6月5日のデモを禁止する必要から、急ぎ本日(6月2日)発令となった。ただし、期限は6月5日までと区切られていない。その後もなお、有効なのだ。

また、デモの主催者は、市内2カ所の公園利用を市に申請していたが、市は5月末に不許可としている。市民の意識が中心となり、自治体や裁判所の手を借りることで、「日本の恥」というべきヘイトスピーチデモを根絶することができそうな予感がする。

安倍政権登場とともに、ヘイトデモは跋扈し始めた。ヘイトスピーチを許容する社会の雰囲気が安倍政権を作った側面もあろうし、安倍政権の右翼的体質がヘイトスピーチデモを煽ったことも否定し得ない。しかし、あまりにひどい差別言動には、さすがの安倍政権も距離を置かざるを得ない。世論に押される形で、政権には不本意なヘイトスピーチ対策法が成立し、川崎市もヘイトスピーチデモ排除に乗り出している。このタイミンクでの仮処分決定は、まことに貴重だ。勇気をもって、申し立てた関係者と、代理人の弁護団に敬意を表する。
(2016年6月2日)

熊本地震後に、悪質きわまる「ヘイト・ツィート」

熊本地震には驚いた。古語の「なゐ」は、「なゐ(大地)震る」が原義だそうだが、大地だけでなく人も震る。身も心も震える。被災地の方々は、さぞかし怖かったことだろう。心からお見舞いを申しあげたい。

5年前東北に起こったことも、昨日熊本に起こったことも、明日は日本中のどこにでも起こりうることだ。私は小心なので心底怖い。原発などを作ろうという人たちの神経が理解しかねる。再稼働を容認する社会の空気も恐ろしい。

地震に続いて、さらに怖いことが起こっているという。岩上安身さんから、こんなメールがはいった。

「今回の熊本での地震を受け、一部のネット上で関東大震災の虐殺事件を彷彿とさせるようなヘイトスピーチやデマが流されています。十分にご注意ください。警察は対応を。以下、ご参照ください。
  https://twitter.com/IWJ_sokuhou/status/720607857314402306
このような行為はとても看過できないと思うのですが、ご意見を…」

検索すると次のような「ヘイトツィート」が、いくつも目にはいった。

熊本の朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだぞ
在日朝鮮人 が 熊本中の井戸 に 毒を入れて回っている というのは本当なのですか?
こいつらいつも井戸に毒流してんな
熊本で不逞朝鮮人が暴動を起こそうとしてるってマジ!?
朝鮮人が井戸に毒を投げ入れ回ってるようです!!!
熊本県民の皆さんは自警団を組織して自己防衛に努めてください!!!
朝鮮人かの区別には「がぎぐげご」と言わせてみればわかります!!! 
騒ぎに乗じるのはこっちの趣味ではないのだけど鮮人どもが騒ぎに乗じて悪事を行うからしょうがないよねぇ…、と私は思うのですよ。
こういう時に暴言はもちろん盗みとか嘘募金とかやる中国朝鮮人にご注意。

まさしく、現代の流言飛語はツイートが媒体となる見本。「軽いいたずら」と見過ごすことはできない。この愚かな差別表現を芽のうちに摘まなければならない。このような複数のつぶやきが繰り返されて累積するうちに、尾ひれがつきリアリティを獲得するものとなりかねない。罪の深いことこの上ない。

このようなネット上のヘイトスピーチは、人種差別撤廃条約第4条の「人種的優越又は憎悪に基づく思想の流布、人種差別の扇動」にあたるものというべきであろう。国際社会は、日本にもこれを処罰できる法制を整えるよう求めているのだ。このような差別的言論の蔓延は、厳格なヘイトスピーチ処罰法制定の立法事実となるだろう。

現在、このツィートの「犯人」を警察が強制捜査し、処罰する権限はない。しかし、明らかに社会の安全に反する「ヘイトデマ」に惑わされることのないよう「対応」すべきは行政警察の職務である。公共の安全と秩序を維持するために、警察は、悪質な「ヘイトデマ」を否定しその影響を解消すべく広報活動を徹底しなければならない。

朝日(デジタル)にも、「熊本地震のデマ、ネットで出回る 安易な拡散には注意を」という記事が出た。こちらは、「ツイッター上には熊本地震を巡り、『イオンモールが火事』といったデマも出回った。中には画像付きで『熊本の動物園からライオンが逃げ出した』という内容も。」という中身。

ところで、熊本地震後のヘイトツィートの恐ろしさは、関東大震災後の混乱の中で、流言飛語が多数の在日朝鮮人(中国人も含まれている)殺害の要因のひとつとなった事件を思い起こさせるからだ。1923年9月1日震災から始まる軍と警察と民衆とによる朝鮮人・中国人虐殺である。日本の民衆の多くが暴虐な加害者となった恥辱の記憶。

資料は夥しくあるが、吉村昭の「関東大震災」(文春文庫)と、姜徳相の「関東大震災」(中公新書)の両書がコンパクトで信頼できる。前者が客観性にすぐれ、後者が在日の立ち場から「死者の怨念が燃え立つような」情念を感じさせる。そして、2003年8月に日弁連が、「関東大震災人権救済申し立て事件調査報告書」を下記のとおりまとめている。
  http://www.azusawa.jp/shiryou/kantou-200309.html

私のブログも、やや長文の下記「震災時の朝鮮人虐殺から90年」を書いている。以下はその抜粋である。
  http://article9.jp/wordpress/?p=1102

朝鮮人虐殺の主体は、日本刀・木刀・竹槍・斧などで武装した自警団であった。仕込み杖、匕首、金棒、猟銃、拳銃の所持も報告されている。自警団とは日本の民衆そのものである。「彼ら」と客観視はしがたい。自警団をつくったのは「私たち」なのだ。その自警団は、朝鮮人を捜索し誰何して容赦なく暴力を加え殺害した。「武勇」を誇りさえした。その具体的な残虐行為の数々は判決にも残され、各書籍にも生々しい。姜徳相の書は、「単なる夜警ではなく、積極果敢な人殺し集団であったことまた争う余地がない」「天下晴れての人殺し」と言いきっている。さらに、「死体に対する名状しがたい陵辱も、忘れてはならない。特に女性に対する冒涜は筆舌に尽くしがたい」「『日本人であることをあのときほど恥辱に感じたことはない』との感想を残した目撃者がいる」と紹介している。

事後の内務省調査によれば、自警団は東京で1593、神奈川603、千葉366、群馬469など、関東一円では3689に達した。ひとつの自警団が数十人単位だが、中には数百人単位のものもあった。全体として、恐るべき規模と言わねばならない。

在日朝鮮人の被害者数はよく分からない。公的機関が調査を怠ったというだけでなく、調査の妨害までしたからである。一般に、その死者数は6000余と言いならわされている。上海在住の朝鮮独立運動家・金承学の、事件直後における決死的な各地調査の累計数が6415人に達しているからである。

当時、東京・神奈川だけで、ほぼ2万人の朝鮮人がいた。事件のあと、当局は、朝鮮人保護のためとして徹底した朝鮮人の「全員検束」を行った。この粗暴な検束の対象として確認された人数が関東一円で11000人である。少なくとも、9000人が姿を消している。これが、殺害された人数である可能性があるという。

一部犯罪者傾向のある少数者の偶発的犯罪ではない。恐るべき、一民族から他民族への集団虐殺というほかはない。なにゆえ3世代前の日本人(私たち)が、かくも朝鮮人に対して、残虐になり得たのだろうか。当時、「混乱に紛れて、朝鮮人が社会主義者と一緒に日本人を襲撃しに来る」「朝鮮人が井戸に毒を入れてまわっている」「爆弾を持ち歩き、放火を重ねている」などの、事実無根の流言飛語が伝播し、これを信じて逆上した自警団が、朝鮮人狩りに及んだとされている。ではなぜ、そのような流言が多くの人の心をとらえたのだろうか。

歴史的には、朝鮮併合が1910年、最大の独立運動である3・1事件が1919年である。3・1事件には、200万人を超える民衆が参加し、7500人の死者を出す大弾圧が行われた。関東大震災が発生した1923年は、多くの日本人にとって、朝鮮独立運動の記憶生々しい時期に当たる。「不逞鮮人の蜂起」「日本人への報復的加害」の流言飛語は、それなりのリアリティをもつものであった。

自警団の犯罪は、形ばかりにせよ検挙の対象となり、起訴され有罪判決となっている。各地で裁判を受けた被告人の職業別統計を見ると、ほとんどが「下層細民」に属する人々であるという。「おのれ自身搾取され、収奪された人々が、自分たちの受けた差別への鬱積した怒りの刃をよそ者に向けた」「これは、日本帝国主義が植民地を獲得したことの盲点であり、植民地制度によってさずけられた特権であった」「朝鮮人は、軽蔑し圧迫するに適当な集団と見られたのである」という同氏の指摘は重い。

いま、「朝鮮人は殺せ」などと、ヘイトスピーチを繰り返して恥じない集団がいる。おそらくは、彼らは90年前の「都市下層細民」にあたるのだろう。「おのれ自身搾取され、収奪された人々が、自分たちの受けた差別への鬱積した怒りの刃をよそ者に向けたい」「自分たちよりも、もう少し圧迫されている存在を見下して安心したい」心情なのだ。しかし、今やそんなことが許される時代ではない。もともと、「在日コリアンは、軽蔑し圧迫するに適当な集団」ではあり得ない。平等の人格をもつ人権主体であることを知らねばならない。

90年前の日本人(私たち)がした民族差別に基づく集団虐殺を、けっして忘れてはならない。日本人自身の震災被害の甚大さに埋没させ、隠してはならない。その事実を見つめ、そこから教訓を酌まなければ類似の事件が起きかねない。日韓・日朝の友好関係を築くことも困難になる。熊本地震後の混乱のヘイトスピーチ。今こそ、歴史の教訓に学んだ対応をしなければならない。
(2016年4月15日)

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