澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

小坪慎也行橋市議、ヘイトに重ねたスラップで二審判決も敗訴。

(2022年10月9日)
 昨日の赤旗に、「ヘイト告発二審も勝訴」「福岡高裁 共産市議『大きな意味』」という記事。この訴訟もスラップ。しかも、ヘイトが絡んだスラップ。スラップを棄却した裁判例に、また一つが付け加えられた。

 このスラップ訴訟、原告は小坪慎也というヘイト発言の常習者、福岡県行橋市の市議である。注目すべきは、その代理人が江頭節子。最近、この種ヘイト事件を専らにする弁護士。被告は行橋市と日本共産党の徳永克子市議の2者。請求は各被告それぞれに220万円の支払と謝罪広告掲載の要求。2019年12月の提訴で、一審・福岡地裁小倉支部判決が請求を棄却し、一昨日(10月7日)福岡高裁が控訴を棄却する判決を言い渡した。

 赤旗の報道は、「ヘイトスピーチを批判する市議会決議と議会報告で名誉を損なわれたとして福岡県行橋市議会の小坪慎也氏が日本共産党の徳永克子氏に220万円の損害賠償を求めている裁判の控訴審判決が7日福岡高裁でありました。梅本圭一郎裁判長は徳永市議が勝訴した一審判決を支持し、控訴を棄却しました」として、被告行橋市については何も言っていない。マッ、それでもいいか。間違いというわけではないし、読者の関心も徳永市議の勝敗にのみにある。

 赤旗の短い記事が、要領よく事実経過を整理している。

 「小坪市議は2016年の熊本地震の際インターネット記事で「『朝鮮人が井戸に毒を入れた』というデマが飛び交うことは仕方がない」などと発言。市には団体や個人からの多数の抗議が寄せられたほか、爆破予告の脅迫事件が起きました。市議会は、小坪市議に謝罪などを求める決議を可決し、徳永市議はその全文をインターネットの議会報告に掲載したものです。」

 そして、控訴審判決の内容を、これも短く、こう解説している。

 「二審判決は、徳永市議の議会報告は、『専ら公益を図るもの』で、その意見表明には『信じるにつき相当の理由がある』と改めて認定。小坪市議の反論を全て退けました。」

 名誉毀損言論の真実性を証明できれば違法性が阻却される。真実性を証明できなくても、相当性(真実と信じるについての相当の理由)があれば、過失を欠くものとして責任が阻却されることになる。どちらにせよ、請求は棄却となる。

 このスラップを起こした小坪慎也(行橋市議)は、レイシストとして著名な人物である。2016年4月の熊本地震直後に、産経の右翼オピニオンサイト「iRONNA」に、「『朝鮮人が井戸に毒』大騒ぎするネトウヨとブサヨどもに言いたい!」という表題の記事を掲載した。表題が品位を欠くだけでなく、記事もひどい。これによって、彼はヘイトスピーカーとして一躍有名人となったが、良識ある市民からは顰蹙を買い、批判の的となった。のみならず、行橋市に対する爆破予告の脅迫事件まで起こしたのだ。

 その記事の中で、彼は大要こう述べている。「『朝鮮人が井戸に毒を入れた』というデマが飛び交うことに対しては仕方がないという立場である。」「私は、災害時において外の人を恐れるのは仕方ないし、当然のことだと受け入れている。極限状況になればそうなることが自然だと考えるためだ。疑われるのは『外の人』である。もっとも身近な外の人が朝鮮人というだけだろう」。「治安に不安がある場合は、自警団も組むべきだろう。」「しかし、疑心暗鬼から罪なき者を処断する・リンチしてしまうリスクも存在する。そうはなって欲しくないが、災害発生時の極限状況ゆえ、どう転ぶかはわからない。」

 恐るべき人物の恐るべきヘイトスピーチ。こんなものを掲載した産経にも、大きな問題ありと言わねばならない。

 同年9月12日、行橋市議会は、「小坪慎也議員に対する決議」を採択した。評決は16対8、内容は以下のとおりである。

 「9月8日に、行橋市役所に脅迫の電話があった。この事により、市民に対し、また、市当局や議会においても多大な迷惑を及ぼした。この「脅迫事件」は決して許されるべきものではない。
 これは、小坪慎也議員が、平成28年4月に熊本地震が発生した際、差別的にとらえられるSNSでの意見発表を行った事を発端としている。
 公人である市議会議員は、住民を代表する立場にあり、議会外の活動であっても良識ある言動が求められるのは当然である。
 市民・国民に迷惑を及ぼすような意見の表明は、行橋市議会の信用が傷つけられたものといわざるを得ない。
 行橋市議会は、小坪慎也議員が品位を汚すことの無いよう、公人としての立場をわきまえる事を求めると共に、謝罪及び必要な行動を自ら行うことを求めるものである。
 以上、決議する。」

 小坪は、この決議に反発した。「本件爆破予告事件の原因は、原告の「SNSでの意見表明」ではなかった。にもかかわらず、本件決議案等は、本件爆破予告事件が起こるや否や、犯人が逮捕されもしないうちから、『小坪慎也議員が、平成28年4月に熊本地震が発生した際、差別的にとらえられるSNSでの意見発表を行った事を発端としている。』と事実を適示し、それを前提に、原告が市民・国民に迷惑を及ぼし行橋市議会の信用を傷つけたと決め付け、良識が無い、品位を汚すなどと非難したものである。」との言い分である。

 この決議の事実摘示が間違っている。徳永市議は、この間違った決議を提案し、成立させ、事後にはこれをインターネットサイトに掲載し、拡散もした、ことを違法として提訴した。2019年12月のこと。2022年3月17日、福岡地裁小倉支部は行橋市議ヘイト・スピーチ事件裁判について原告の請求を棄却する判決を言い渡している。「本件爆破予告事件の原因が、原告の「SNSでの意見表明」ではなかったにせよ、それが真実であると信じるについての相当な理由が認められるということである。

 小坪は、もう一度真摯に市議会決議を読み直さなくてはならない。「公人である市議会議員は、住民を代表する立場にあり、議会外の活動であっても良識ある言動が求められるのは当然である」。にもかかわらず小坪は、ヘイトに重ねて、スラップにまで及んで良識を放擲したのである。「品位を汚すことの無いよう、公人としての立場をわきまえるべきこと」が求められている。

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