澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

日民協・司研集会に、司法の嵐の時代を想う

本日は、第48回の日本民主法律家協会・司法制度研究集会。今回はこれ以上はない大きなテーマ。「憲法施行70年・司法はどうあるべきか―戦前、戦後、そして いま」。戦前・戦後の司法制度に詳しい内田博文教授(神戸学院大学・九州大学名誉教授)の講演がメインだった。旧憲法下の「戦時司法」が、戦後、日本国憲法の制定により、果たして反省・総括され克服されたのかという視点から、憲法施行後70年の日本の司法を振り返っていただく。そして、人権保障の砦としての司法を国民の手に取り戻すにはどうしたらよいかという問題提起をしていただく、という内容。

その講演にサブタイトルが付けられた。「戦前司法への回帰?ー「公共の福祉」論から「公益及び公の秩序」論へ」というもの。戦前と比較してみて、安倍政権の今の動向は、相当にやばいところまできている、という危機感横溢した報告だった。

語られたことは、天皇の名において行われた戦前の法と司法が、新憲法下においても連続の契機を多く持っているということ。実定法の分野では治安維持法や国防保安法、戦時刑事特別法などの戦時法体系が、戦後の平時法体系に伏在していること。そして、司法を担う裁判官は、そのまま職にとどまって戦後司法の担い手となった。

戦後の司法は、国家からの独立の気概をもたなかった。現在の司法の基礎が築かれた時期(50年代)に10年にわたって2代目最高裁長官を務めた田中耕太郎がその象徴といってよい。彼は、強烈な反共主義者で、自ら「国家の番犬」を任じた。その国家が、アメリカの僕だったのだから、日本の司法はアメリカの番犬でもあった。こうして、砂川事件における在日米軍の存在を容認する「論理」が構築されたのだ。

田中耕太郎後の60年代には、少しはマシになるかに見えた司法であったが、70年代には「司法反動」の時代を迎える。この時代を代表する人物が石田和外。そして、時代を代表する事件が宮本判事補の再任拒否だ。本日、宮本さんと同期の元裁判官が、当時の裁判所の空気についてフロアーから発言をした。

「宮本裁判官の再任拒否が噂された時期、多くの裁判官がよもやそんなことはあるまいと思っていた。宮本さんの上司の裁判官も『そんなことはあり得ない』と言っていた。それだけに、宮本再任拒否の衝撃は大きかった。多くの裁判官が萎縮を余儀なくされた。以前は、自分の考えだけで判決を出すことができたが、宮本再任拒否以後は明らかに変わった。すこしでも政治がらみと思われる事件の判決に筋を通すには、身分上の覚悟を要することとなった。」

宮本さんが、13期。私が23期である。宮本さんが10年の裁判官生活を経て再任を拒否された1971年4月。時期を同じくして、23期の裁判官任官希望者7人が任官を拒否された。うち、6人が青年法律家協会の会員だった。我々にとっては明らかな、思想信条による差別だった。

差別された思想とは、裁判所・裁判官は憲法の求めるものでなくてはならないという当たり前の考え方。もう少し具体的には、裁判官は、毅然として国家権力や時の政権から独立していなければならない、とする憲法に書き込まれた思想だ。

憲法理念に忠実でなければならないとする若手の裁判官や司法修習生は青年法律家協会に結集していた。時の自民党政権には、これが怪しからんと映った。当時続いた官公労の争議権を事実上容認する方向の判決などは、このような「怪しからん」裁判官の画策と考えられた。

いつの世も、まずお先棒をかつぐ輩がいる。当時の反共雑誌「全貌」が特集で青年法律家協会攻撃を始めた。自民党がこれに続き、石田和外ら司法の上層部はこの動きに積極的に迎合した。こうして、裁判所内で「ブルーパージ」と呼ばれた、青年法律家協会会員への脱会工作が行われ、これが宮本再任拒否、23期任官拒否となった。23期の修了式で任官拒否に抗議の発言をした阪口徳雄君の罷免という事態も加わって、「司法の嵐」といわれる時代を迎えた。

最高裁の暴挙には当然大きな国民的抗議の世論が巻き起こった。そのスローガンは、「司法の独立」であった。行政権からも立法権からも独立して、多数決原理とは異なる理性の立場から、人権を擁護し憲法理念に忠実な司法を形づくらねばならない、という大きな世論の形成があった。政府の番犬ではない、国家権力から独立して、主権者国民に奉仕する司法が求められたのだ。

1971年以後、裁判官の多くは、青年法律家協会とは絶縁して無難にその職業生活を全うした。しかし、いつの世にも、どこの世界にも、少数ながら硬骨漢といわれる人物はいる。そのような裁判官は差別的な処遇に甘んじた。昇格昇給や任地で差別され、政治的に影響の大きな事件の担当からは排除され、合議体の裁判長からも外されることで後輩裁判官との接触を絶たれた。

先日、そのような境遇で筋を貫き通した同期の元裁判官と話をする機会があった。裁判官としての仕事は充実し能力にも自信をもっていたが、明らかに任地で差別され出世が遅れていた。その彼に、裁判官生活の最後の一年を「所長に」という話があったという。即答せずに妻と相談したら、即座に反対されたそうだ。「これまで筋を通してきたのだから最後までその姿勢を貫いたらいい」。その一言で、結局所長にはならず終いだったという。立派なものではないか。

46年前の4月に司法修習を終えた23期は、「司法の嵐」のさなかに、船出をはじめた。同期の多くの者にとっては、憲法の理想とはほど遠い反動的最高裁との対決が、法曹としての職業生活の原点となった。この原点としての姿勢を貫いている仲間の存在は、痛快であり希望でもある。安倍自民党の策動、軽視はし得ないが、それに対抗する力量も各界に存在しているはずではないか。

本日の報告の全体像は、「法と民主主義」12月号に特集される。ぜひ、これをお読みいただきたい。
(2017年11月23日・連日更新第1698回)

第48回 日民協・司法制度研究集会ご案内

日本民主法律家協会の秋の行事として定着している司法制度研究集会(「司研集会」)が、今年で48回目となる。今回のテーマは、「憲法施行70年・司法はどうあるべきか―戦前、戦後、そして いま」。

憲法施行70年というスパンで日本の司法制度を俯瞰しようという試み。よく知られているとおり、戦後民主化の過程で裁判官にパージはなかった。天皇の名による裁判に従事した戦前の裁判官が、そのまま戦後の日本国憲法の砦と位置づけられた司法を担ったのだ。昨日までは不敬罪を裁き治安維持法で有罪を宣告し、あるいは京城の裁判所で朝鮮独立運動弾圧に一役買っていた裁判官たちが、人権の守り手たるべき地位に就いた。昨日までは国体の護持のために、今日からは基本的人権擁護のために…。この転身はどのくらい成功したのだろうか。

それから70年。戦後の司法は何をし、何をしなかったのか。この70年、憲法の理念に照らして、ふさわしい司法であったであろうか。政権によって露骨な憲法攻撃が行われている今、司法はどうすれば憲法理念の守り手としての本来の使命を達成できるのだろうか。この実践的課題に興味をもつ方のご参加を呼びかけたい。

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日本民主法律家協会(日民協)では,次のとおり,「第48回司法制度研究集会」を開催します。

日時:11月23日(木・祝)午後1時~5時
場所:全国町村会館ホールA(地図は下記URLをご覧下さい)
http://www.jdla.jp/shihouseido/2017.pdf
テーマ:憲法施行70年・司法はどうあるべきかー戦前・戦後,そしていま
基調講演:内田博文先生(九州大学名誉教授・神戸学院大学教授)

プログラム
受付開始 ………… 12 :30
開 会  ………… 13 : 00
開会の挨拶   右崎正博(日本民主法律家協会理事長)
基調報告…………………13 : 10~1 4 : 40
内田博文(九州大学名誉教授/神戸学院大学教授)

…………休憩…………

■特別発言 ………………………14 : 55~15 : 40
内田先生の基調報告をうけ、花田政道先生(元裁判官・弁護士)、岡田正則先生(早稲田大学教授・行政法研究者)などからの特別発言を予定しています。
■質疑応答・討論……………15 : 40~16 : 45
■集会のまとめ………………16 : 45~17 : 00
新屋達之(日本民主法律家協会司法制度委員会委員長)

 

今年は,憲法施行70周年の年です。
安倍首相の9条改憲案,共謀罪の強行採決,臨時国会招集請求の放置,突然の解散総選挙,与党3分の2の議席獲得等々,あまりにも反憲法的な動きがあわただしく,忘れられているようですが……。
このような情勢の下,今年の日民協の司法制度研究集会は,戦前の司法制度・治安維持法,そして戦後の法制史の研究者でもある内田博文先生をお招きして,いまの状況が戦前と似ていないか,そもそも戦前の司法の責任が果たして新憲法下で反省・克服されてきたのだろうかという視点から,憲法施行後の70年の日本の司法を振り返っていただき,人権の砦としての司法を国民の手に取り戻すにはどうしたらよいかという問題提起をしていただきます。
元裁判官や行政法学者にもコメントをいただいた上で,会場からの質疑応答やご意見にもたっぷり時間をとる予定です。
どなたでも参加できますので,ぜひご参加下さい。
なお,資料準備などのため前記URLを開いて添付の申込み用紙で事前に参加申込をいただければ有り難いのですが,事前申込みがなくても自由にご参加いただけます。
みなさまのご参加を心からお待ちしております。
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日本民主法律家協会・第48回司法制度研究集会
「憲法施行70年・司法はどうあるべきか―戦前、戦後、そして いま」おさそい
日本国憲法施行70年の今年は、安倍首相による憲 法9条改憲のメッセージ、共謀罪法の強行採決、臨時国会冒頭での衆議院解散、与党が再び3分の2を維持と激動の年になり、私たちはまさに9条の改憲・戦争への道を許すのかどうかの岐路に立たされています。
こうした情勢の下、昨年の辺野古訴訟の高裁・最高裁判決などを見ると、司法が「政治」に積極的な支持を与えており、トランプ政権下のアメリカの司法と比べても、日本の司法の「弱さ」を痛感させられます。
そこで、今年の司法制度研究集会は、戦前・戦後の司法制度に詳しい内田博文教授(神戸学院大学・九州大学名誉教授)をお招きして、旧憲法下の「戦時司法」が、戦後、日本国憲法の制定により、果たして反省・総括され克服されたのかという視点から、憲法施行後70年の日本の司法を振り返っていただくと共に、人権保障の砦としての司法を国民の手に取り戻すにはどうしたらよいかという問題提起をしていただきます。
また、講演を受けて、元裁判官、行政法研究者等の方々からそれぞれの視点でご発言をいただくことを予定しております。
どなたでも参加できます。ふるってご参加下さい。

内田博文先生略歴
(九州大学名誉教授/神戸学院大学教授)
九州大学法学部教授を経て、2010年より神戸学院大学法科大学院教授。日本刑法学会、ハンセン病市民学会(共同代表)等を歴任。著書に「刑法と戦争 戦時治安法制のつくり方」(2015年 みすず書房)、「治安維持法の教訓 権利運動の制限と憲法改正」(2016年 みすず書房)、「治安維持法体制を問う―刑事法の戦後」(近刊予定岩波書店)等多数。
日 本 民 主 法 律 家 協 会
〒160-0022 東京都新宿区新宿1-14-4 AMビル2階
TEL 03-5367-5430 FAX 03-5367-5431
(2017年11月12日)

安倍改憲策動に抗する日本民主法律家協会第56回定時総会

本日、日本民主法律家協会の第56回定時総会。毎年総会議案書を読むたびに、日本国憲法が常に危機の事態にあることを痛感させられる。

考えてみれば、途中にやや途切れはあったにせよ、1955年以来の長期保守政権である。日本国憲法を敵視し、改憲を党是にするという保守政党が政権を握り続けてきたのだ。とりわけ今は、保守というよりは右翼というべき安倍政権。こんなものが権力を握っているのだから、「改憲」の危機でもあり、憲法理念がないがしろにされる政治がまかり通っている「壊憲」の危機でもあるのだ。

それと同時に、毎年総会議案書を読むたびに感じるのは、国民の政権への抵抗による改憲阻止運動の粘り強さである。それは同時に、憲法理念の徹底を求めて闘う種々の国民運動の逞しさでもある。

おぞましい安倍政権である。発足以来、教育基本法を改悪し、特定秘密保護法を制定し、戦争法を強行し、共謀罪も通した。しかし、その都度大きな抵抗を受け、各法律も使いにくいものとなっている。そして、安倍政権の危険な本性が多くの国民に知られるようになってきている。安倍と安倍を擁立する右翼勢力の憲法敵視攻撃の激しさにもかかわらず、抵抗勢力はよくこれに耐え凌いできた。

結局のところは、緊張感張り詰めたせめぎあいが続いている。こうして、今年が憲法施行70周年の年。この70年、権力に抗して改憲を阻止し続けることで、この日本国憲法を自分自身のものとして、日々獲得してきたのだ。

この一年の共謀罪反対運動と改憲阻止に向けた運動での総括は、日本民主法律家協会の果たした役割を自信をもって報告するものだった。そして、改憲を阻止するためには野党と市民の共闘を緊密にそして大きなものとする以外になく、各野党の紐帯のために法律家が積極的役割を担おうと、確認された。

本日の総会人事で森英樹理事長が退任した。一抹の淋しさを感じる。そして、新理事長に右崎正博さんが就任。「暴走する安倍政権の壊憲策動とどう闘うか」と題する記念講演をされた。自ずと、安倍のいう「9条3項『加憲』案」に、話題は集中した。

 

後法は前法に優先する。2項がそのまま手つかずであったとしても、これと矛盾する3項が付け加えられると、2項の「戦力不保持」「交戦権否認」が空文化することになる。その右崎記念講演詳細レジメの「結び」の部分だけをご紹介する。

この秋が焦点となるであろう、暴走する安倍政権の改憲策動とどう闘うか。9条3項「加憲」案の日本国憲法との不整合性を徹底して理論的に明らかにするとともに、広く国民にその危険性を伝え、改憲の発議を阻止する道助を組織していく必要がある。
すでに特定秘密保護法、安保法制と政府与党による強行採決に対して、国民的な共同が組まれ、2016年7月の参議院選挙ではじめて野党の選挙協力により大きな成果を上げた経験がある。共謀罪の与党・維新による強行採決に対しても、同じ国民的な共同が組まれた。これが安倍改憲策動への大きな障害となり得る。
6月8日野党4党の党首が国会内で会談し、「安倍政権の下での憲法9条の改悪に反対すること」など、当面する政治課題での対応とともに、次の総選挙における4野党の協力について合意したと伝えられた。公権力を私物化する安倍政治を総括するとともに、この秋に向けて、安倍改憲阻止のために国民的な共同を作ることが求められている。

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日本民主法律家協会第56回定時総会アピール
   憲法の危機に立ち上がろう
安倍音三政権は、特に2012年の第2次政権以降、「戦後レジームからの脱却」を唱え、国民の強い反対の声を押し切って、特定秘密保護法の強行成立、国家安全保障会議の創設と国家安全保障戦略の決定、武器輸出三原則の廃止と防衛装備移転三原則の決定、武器の共同開発の推進、日米防衛協力ガイドラインの第3次改定、戦争法(安保関連法)の制定、刑事訴訟法・盗聴法(通信傍受法)改悪、そして今年6月15日の共謀罪法案の強行成立と、矢継ぎ早に憲法破壊の法制、施策を進めてきました。
こうした経緯を経て、安倍首相は今年5月3日以降、「憲法9条1項2項を残したまま3項を加え自衛隊を書き込む」と提案し、秋の臨時国会で自民党改憲案を国会に提出、来年6月を目標として通常国会で改憲の発議、国民投票を経て2020年新憲法施行という改憲スケジュールを打ち出しました。
310万を超す日本人と2000万に及ぶアジアの人たちの犠牲の上に生まれた日本国憲法は、戦後70年余、日本を戦争に巻き込ませず、1人の日本人も戦争で命を落とすことなく、また1人の外国人兵士をも殺すことなく、平和創造に寄与してきました。
しかし、安倍政権は、米国の庇護の下で、沖縄基地の恒久化と「日米軍事一体化」を進め、「世界で最も企業が活動しやすい国にする」という新自由主義を推進し、教育・文化など国民の意識をも改変しようとしてきました。そして、今回、遂にその「本丸」である9条をターゲットとして、改憲の具体化に乗り出したのです。
特に、安倍政権の政治手法は、日本国憲法の下で長年積み重ねられてきた、社会や政治の民主主義的ルールを全く無視し、小選挙区制と政党交付金制度による与党内部の締め付けの強化、内閣府に一元化された官庁の人事権の恣意的運用、重要な行政上の経過を示す公文書の破棄、隠蔽など、かってないほどの独裁性を強めてきた点て重大な問題を抱えています。とりわけ第193通常国会における政府・与党の政治行動は、森友学園問題や加計学園問題など首相による政治と行政の「私物化」に対する国民からの異論や質問に答えない「問答無用」の姿勢、最大の対決法案であった共謀罪法案について「中間報告」という異例の手法で委員会採決を省略し本会議で採決を強行するなど、あまりにも強引な議事運営に終始したものでした。このような安倍政権に憲法や民主主義を語る資格はありません。
さらに、「9条を残したまま憲法に自衛隊を書き込む」とする首相の改憲構想は、公明党の「加憲」論にすり寄り、「日本会議」の論文に明らかな通り護憲勢力を分断し、憲法9条2項の戦力不保持の原則を空文化させるものです。世界有数の軍隊に巨大化し、戦争法で米軍等と共に海外で戦うようになった自衛隊を、「その存在を憲法に書きこむだけなら問題はない」という論理は成り立ちません。しかし安倍政権は、この誤った宣伝を、囲い込んだ巨大マスコミを巧妙に使って、広めようとしています。
しかし、憲法9条を守り活かすことの意義は、ここ数年、諸悪法への反対運動や「九条の会」の運動などによって、広く国民の間に共有されてきています。この度の東京都議選の結果はその証左です。私たちは、さらに進んで「安倍改憲論」の狙いを見抜き、広げ、反対してこれを挫き、併せて憲法を擁護し発展させる運動を一層発展させていかなければなりません。
私たちは、憲法を守り活かす法律家として、国民の運動の先頭に立ち、闘いを広げることを、改めてここに宣言します。日本の平和と民主主義のために、ともに頑張りましょう。
2017年7月8日
日本民主法律家協会第56回定時総会
(2017年7月8日)

「日本国憲法施行70年に際し、安倍首相の改憲発言と戦争法の発動を断固糾弾する」ー日民協声明

日本国憲法が施行されて70周年の2017年5月3日に相前後して、安倍晋三政権による憲法破壊の暴挙が相次いだ。

安倍首相は、5月1日に開催された「新憲法制定議員同盟」の集まりで、「改憲の機は熟してきた。必ずや歴史的一歩を踏み出す」と挨拶したのに続いて、5月3日に開催された改憲派の集会にビデオ・メッセージを寄せて、「憲法9条に自衛隊の存在を明記した条文を追加して、2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と述べた。また、日本維新の会が主張する憲法改正による教育無償化に関して、「高等教育についてもすべての国民に真に開かれたものとしなければならない」と述べ、実現に意欲を表明した。

同首相は、これを「内閣総理大臣としてではなく、自民党総裁としての意見表明だ」としているが、そのような手前勝手な「使い分け」はおよそ通用しない。憲法99条によって憲法尊重擁護義務を負い、かつ73条1号により「法律の誠実な執行」の事務を担って、66条3項によって「行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う」内閣のトップとしての立場をわきまえない、憲法無視の態度に他ならない。日限を明確にし、かつ内容もきわめて具体的な改憲発言である以上、首相の権限逸脱のそしりも免れない。この問題を国会で追及されてまともに答えずに発した「読売新聞を読め」との言は、国会軽視と自らの職責の無自覚も甚だしい。

その発言内容に着目すれば、自衛隊の存在を明記する第3項の9条への追加、いわゆる「加憲」は、9条改憲の一形態に他ならず、現行憲法を「改正」する点においては、自民党の2012年改憲案と何ら異なるところはない。自衛隊の存在を合憲化する3項を加えれば、現在の9条1項と2項の意味は自ずと変わるのであり、より端的に言って、3項によって「上書き」された2項の「戦力不保持」の規定は死文化する。そして、合憲化される自衛隊は、2015年制定の安保法制(戦争法)によって集団的自衛権行使や他国軍への「後方支援」の権限を付与された自衛隊であって、「専守防衛の自衛隊の合憲化」では決してない。3項の追加を契機にして、いずれは軍法会議や緊急事態条項の提起にまで及ぶことは必至である。また、高等教育を含む教育の無償化の問題は、あえて憲法に書き込まなくても法律の制定や予算措置で実現可能なことであり、この問題の「憲法化」は、むしろ現在の日本における喫緊の教育課題であるはずのこの問題の「先送り」を意味する。

さらに、安倍政権は、GWのさなかに、北朝鮮とアメリカとの対立と緊張が激しさを増す情勢の下、安保法制によって新設された自衛隊法95条の2による「米艦防護」の「任務」を米側の要請を受けて自衛艦に付与し、自衛艦は米艦と太平洋上を並航した。ところが、安倍首相や菅義偉官房長官らは、今回の活動の内容について国会で質問されてもつまびらかにせず答弁を拒否している。もし、自衛艦の行動が米艦の軍事作戦に対応したものであれば、状況から判断して北朝鮮に対する「武力による威嚇」に他ならず、これらは国連憲章2条4と日本国憲法9条1項に違反する危険極まりない軍事行動である。

本協会は、4月19日、「軍事力で問題は解決しない!米朝対立による戦争の危機を回避せよ」を緊急声明として発表したが、その趣旨をここでも再確認したい。今回の「米艦防護」を口実にした自衛艦の行動は、安保法制とその発動が、「軍事秘密」のベールに包まれて国民と国会の監視を受けることなく行われること、その意味において安保法制は、憲法9条に違反すると同時にアジアの平和にとって役立つどころか戦争の引き金になりかねない危険極まりないものであることを如実に示した。

私たちは、以上のような安倍首相の改憲発言と安倍政権による違憲の戦争法の発動を断固糾弾するとともに、施行70年を迎えてますますその価値が高まりつつある日本国憲法を守り、アジアひいては世界の平和のためにこれを実現していくための努力を今後とも続けていくことをここに宣言する。

2017年5月11日
日本民主法律家協会
理事長  森 英樹
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以上が本日確定し発表した、日本民主法律家協会の安倍晋三改憲発言に関する抗議声明である。

論点はいくつもあるが、本声明の特色は、「自衛隊の存在を合憲化する3項を加えれば、現在の9条1項と2項の意味は自ずと変わる」ことの指摘にある。いうまでもなく、「自衛隊」は日本国憲法上の概念ではない。問題は、これを憲法に押し込むことがどのような意味を持ちうるか。単なる現状の追認にとどまるだろうか。

7・1閣議決定と戦争法によって、自衛隊とは集団的自衛権行使可能な実力組織となっている。つまり、海外で戦争遂行が可能な装備と編成を常備し、ことある折には個別的自衛権の行使を超えた実力の行使をなしうるとの解釈が可能なものとなっている。

安倍晋三が9条3項をおくことによって合憲化しようという自衛隊は、そのような「自衛隊」なのだ。けっして、「戦力にあたらない実力組織」などという無色のものではなく、戦争法によって黒く色塗りされた、戦うことのできる「自衛隊」にほかならない。その結果、「3項によって『上書き』された2項の『戦力不保持』の規定は死文化する。そして、合憲化される自衛隊は、2015年制定の安保法制(戦争法)によって集団的自衛権行使や他国軍への『後方支援』の権限を付与された自衛隊であって、『専守防衛の自衛隊の合憲化』では決してない」と説明されているとおりなのだ。
(2017年5月11日)

憲法記念日を前に訴える緊急声明(日民協)ー「軍事力で問題は解決しない!米朝対立による戦争の危機を回避せよ」

1.日本国憲法施行70年を迎える憲法記念日が近づいています。憲法は前文
で「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存す
る権利を有することを確認」しています。ところが今、朝鮮半島に「戦争の
危機」が迫っています。
私たち日本民主法律家協会は、米国および北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和
国)両国の対立から、東アジアで戦争が起きることを断固として回避し、あ
くまで話し合いによって問題解決を図るよう、米、朝両国政府に訴えるとと
もに、日本政府と韓国、中国、ロシアを初めとする東アジアの各政府が問題
を深刻にとらえ、対話による問題解決の道を開くため、あらゆる努力を傾注
することを求めます。

2.北朝鮮政府は、度重なる国連の決議にも拘わらず、核兵器および、その運
搬手段である中、長距離の弾道ミサイルの開発を進め、実験を続けてきてい
ます。これに対し、米国の新政権は、これまでの北朝鮮への経済制裁、韓国、
日本との共同訓練だけでなく、武力による制圧を計画し、近海への空母攻撃
団の派遣など圧力を強めています。そしてさらに、米国は「あらゆるオプシ
ョンがテーブル上にある」「中国が協力しなければ、独力で北朝鮮核問題を
解決する」「一線を越えれば、トランプ大統領は行動に出る」などと発言、
一方の北朝鮮も「米国が選択すれば戦争に乗り出す」「米国の無謀な軍事作
戦に先制打撃で対応する」「トランプ政権の対朝鮮政策は、歴代政権と比べ
てもさらに悪辣で好戦的」などと応酬、「宣伝戦」を続けています。
4月18日に行われたペンス米副大統領と安倍晋三首相との会談では、ペン
ス米副大統領が、「平和は力によってのみ初めて達成される」と述べたこと
に対し、安倍首相が事実上同意して、この「力による『平和』」を支えるた
めに「北朝鮮が真剣に対話に応じるよう圧力をかけていくことが必要だ」な
どと軍事的対立を煽るかのような発言をしています。
こうした日本国憲法の平和理念と正反対の動きに竿をさす安倍首相の責任
は重大であり、私たちは強く抗議します。
これらの発言は、メディアで取り上げられ、拡大され、それぞれの考え方
や思惑を越えて、世界に不安と不信を広げています。

3.私たちは、いかなる事情があろうとも、問題を武力で解決しようとする双
方の考え方を支持することはできません。
私たちは日本中をがれきにし、アジアで2000万、日本人だけで300
万を超す犠牲者を出した戦争の惨禍を経て、非戦、非武装の日本国憲法を守
り、70年を生きてきました。
しかし、今回、いずれかの国が「先制攻撃」をし、もう一方がそれに「反
撃」をすれば、米朝両国だけでなく、韓国も日本も、その戦争に巻き込まれ
多大な犠牲を出すであろうことは、火を見るより明らかです。まして、いっ
たん核兵器が実戦に使われたならば、一地域の問題ではなく、地球規模の被
害となることも必定です。
国民の生命と財産を守るべき日本政府は、こうした状況を冷静に見据え、
あくまで、朝鮮半島がそのような事態にならないよう、両国に訴えかけるな
ど、積極的な努力をしなければなりません。そして同時に、平和的な外交手
段を通じて、北東アジア地域全域の「武力によらない平和と安全保障」を追
求しなければなりません。
いま私たちは、この危機に直面して、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と
欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とう
たった憲法前文と、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行
使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とした憲
法九条を改めて思い起こし、「軍事力で問題は解決しない」ことを、声を大
にして訴えます。

日本政府と米朝両国、また、両国をはじめ世界の人々が、直ちに、話し合
いの呼びかけなど、そのための具体的な努力をされるよう、こころから訴え
るものです。
2017年 4月19日
日本民主法律家協会
理事長 森 英 樹

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少しだけ、私見を付け加える。
今対決すべきは、「平和は力によってのみ初めて達成される」という思想。70年前の日本国憲法制定時に、われわれはこれを採らないとした思想だ。私たちは戦争の惨禍を経て、「武力による平和」という考えを捨てて平和憲法を採択した。私たちのテーブルには、豊富な平和への選択肢がある。しかし、武力による威嚇や武力の行使による平和構築という選択肢はない。

樋口陽一氏の講演録からの引用である。
「1931年の満州事変の時、国際法学者の横田喜三郎(1896ー1993)は、「これは日本の自衛行動ではない」と断言した。その横田の寄稿を載せた学生たちの文集が手許にある。その中で横田は「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」とのラテン語の警句を引き、「汝平和を欲すれば平和を準備せよでなければならない」と呼び掛けた。そして文集に、学生が「横田先生万歳!」「頑張れ!」と共感を書き込んでいる。恐らく、この2人の学生は兵士として出征しただろう。再び母校に戻ってくることはなかったかもしれない。」

今必要なのは、「平和は力によってのみ初めて達成される」に対置される、「平和を欲するがゆえの平和を準備」にほかならない。平和を欲して「平和を準備する」その一歩は、とにもかくにも平和を望む声をあげることだ。日民協の声明は、その一つの試み。その声明を紹介する私のこのブログも、そのような小さな声の一つ。

日民協の緊急声明。是非とも、転載拡散をお願いしたい。

(2017年4月19日)

「法と民主主義」516号(『特集・象徴天皇制をめぐる今日の議論』)購入の再度のお願い

過日(3月19日)、当ブログで日民協機関誌「法と民主主義」の516号(『特集・象徴天皇制をめぐる今日の議論』)購読のお願いをしたところ、昨日(3月21日)までに21人の方から当ブログを契機の購読予約をいただきました。まことにありがとうございます。貴重な論稿をお寄せいただいた寄稿者にも、この場を借りて感謝申しあげます。

同誌は予定のとおり昨日(3月24日)発刊となり、夕刻ヤマト運輸宅急便での発送作業を完了しました。お申し込みいただいた方には、明日(26日)までには届くことになろうと思われます。

なお、「法と民主主義」4月号(№517)は、小澤隆一さんの責任編集で、特集は「日本国憲法施行70年ーその歩みと展望」(仮題)。執筆者とタイトルは以下のとおり確定しており、4月下旬に発行となります。
◆目本国憲法70年の歩みと対決点……和田進
◆.集団的自衛権一内閣法制局「想定問答」を読み解く……浦田一郎
◆核兵器禁止条約交渉の実現に向けて……梶原渉
◆.差別と分断を克服して市民的自由の実現を……志田陽子
◆憲法24条「個人の尊厳」の意義……中里見博
◆.民主的な選挙制度と議会制……小松浩

さらに、「法と民主主義」5月号(№518)は、海部幸造さんの責任編集で、原発被害訴訟特集。集団訴訟第1号判決(3月17日・前橋地裁)である群馬判決を素材に当該の弁護団や原弁連の主要弁護団からの寄稿を掲載します。巻頭論文は淡路剛久さん。これに、緊急小特集として共謀罪の審議の進行に応じたビビドな論稿を予定しています。6月18日が今国会会期末。それまでの共謀罪法案廃案を目指す運動に資する内容のものを。
引き続き、ご購入いただけたらありがたいと存じます。

ご注文は、下記のURLへ。どうぞよろしく。
http://www.jdla.jp/kankou/itiran.html#houmin

さて、本日の記事は、「法と民主主義・516号」(『特集・象徴天皇制をめぐる今日の議論』)の再度のお薦めである。3月19日ブログのURLは、以下のとおり。もう一度ご覧になっていただけたらありがたい。
http://article9.jp/wordpress/?p=8299

この特集は、昨年8月の天皇(明仁)生前退位希望発言をきっかけに、活発化した象徴天皇制のあり方をめぐる議論を整理して、日本国憲法の理念からの原則的な基本視点を提供しようとするものである。基調は、リベラル派の一部にある「公的行為拡大」容認論を採らない。天皇を神権的な権威と把握することを拒否するだけでなく、象徴天皇の国民統合機能の拡大をも警戒しなければならないことを当然とする立場を堅持している。

国政に関する権能をもたないはずの天皇が、生前退位の希望を発言することによって政府と国会を動かし、皇室典範という法の改正が実現しようとしている。これは、象徴天皇制への枠組みを揺るがす異常事態というほかはない。そのような問題意識からの特集である。このような問題意識を基調とする特集は他の雑誌には見られないものと思う。

7本の貴重な論稿のうち、憲法学者の2本の論稿が、議論を整理し憲法を原点とした原則的な視点を直接に提供するもの。そして、その余の5本の論稿が象徴天皇制を考える上での多様な視点を提供するものとなっている。人選がよかった。ユニークで、読み易く、面白い。

「日本国憲法における象徴天皇の位置─生前退位問題に関連して」(植村勝慶)は、錯綜した議論の基本視点を提供するものであり、「『天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議』論点整理を憲法学から読み解く」(麻生多聞)は、論争の整理を試みたものである。

「『生前退位』をめぐる断想─象徴天皇制の根っこを見つめながら」(田中伸尚)は、エッセイのかたちで象徴天皇制の問題の根源を抉っている。「生前退位に伴う天皇代替わり儀式の問題点」(中西一裕)は、1989年天皇代替わりに伴う儀式を政教分離違反と争った訴訟弁護団からの貴重な問題提起。「戦後天皇制と捏造『教育勅語』─森友学園事件と『愛国者』たちの欺瞞」(早川タダノリ)は、教育勅語論争における右派の論理の分析として有用な視点を提供するもの。そして、「安倍政権の天皇制利用─伊勢と靖国を通じて」(辻子実)は事情通の貴重な論稿。最後の「琉球沖縄から見た天皇・天皇制」(石原昌家)は、天皇と琉球沖縄との関わりを通史としてまとめ、その視点から沖縄と本土の現在の関係を再考する。

できあがったこの特集は、象徴天皇制を憲法原則の視点から、多面的に見つめ直すきっかけとなるものと思う。是非ご活用をお願いしたい。もう一度、目次だけを掲載し、ご注文のURLも、再掲する。どうぞよろしく。
http://www.jdla.jp/kankou/itiran.html#houmin

◆特集にあたって     ………………………          澤藤統一郎
◆日本国憲法における象徴天皇制度の位置ー生前退位問題に関連して……植村勝慶
◆「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」論点整理を憲法学から読み解く……麻生多聞
◆「生前退位」をめぐる断想  象徴天皇制の根っこを見つめながら…………田中伸尚
◆生前退位に伴う天皇代替わり儀式の問題点…………………………………中西一裕
◆戦後天皇制と捏造「教育勅語」森友学園事件と「愛国者」たちの欺瞞………早川タダノリ
◆安倍政権の天皇制利用ー伊勢と靖国を通じて…………………………………辻子実
◆琉球沖縄から見た天皇・天皇制……………………………石原昌家
(2017年3月25日)

「法と民主主義」516号(『特集・象徴天皇制をめぐる今日の議論』)のお薦め

日本民主法律家協会(日民協)の機関誌「法と民主主義」(「法民」)は、年10回刊。2・3月と、8・9月号が合併号となる。2017年2・3月合併号が予定通りに校了し、3月24日に発刊の運びとなる。通巻第516号である。ぜひ、ご購入いただきたく、まず目次をお目にかけたい。

「法と民主主義」2017年2・3月号(通巻№516)目次 
特集・象徴天皇制をめぐる今日の議論
 ◆特集にあたって     ………………………          澤藤統一郎
◆日本国憲法における象徴天皇制度の位置ー生前退位問題に関連して……植村勝慶
◆「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」論点整理を憲法学から読み解く……麻生多聞
◆「生前退位」をめぐる断想  象徴天皇制の根っこを見つめながら…………田中伸尚
◆生前退位に伴う天皇代替わり儀式の問題点…………………………………中西一裕
◆戦後天皇制と捏造「教育勅語」森友学園事件と「愛国者」たちの欺瞞………早川タダノリ
◆安倍政権の天皇制利用ー伊勢と靖国を通じて…………………………………辻子実
◆琉球沖縄から見た天皇・天皇制……………………………石原昌家

連続企画●憲法9条実現のために〈11〉
・自衛隊南スーダンPKO派兵差止訴訟ー戦争に子をとられる母の思いと主権者の責任…佐藤博文
・「殺し・殺される」そんな流れをかえなければ  …………………………… 平 和子
◆司法制度委員会・公開研究会〈1〉
・厚木基地訴訟・辺野古訴訟最高裁判決からたみ司法制度の現状………………岡田正則
◆司法をめぐる動き
・共謀罪(テロ等準備罪)法案ここが問題だ………平岡秀夫
・1月~2月の動き ……………………  司法制度委員会
◆メディアウオッチ2017●《国会審議と報道)
森友、PKO、共謀罪のウソとデマ メディアにも事実を隠す………………丸山重威
◆あなたとランチを〈№24〉…ランチメイト・長谷川悠美・竹村和也先生×佐藤むつみ
◆BOOKREVIEW
前田朗著「黙秘権と取調べ拒否権ー刑事訴訟における主体性」三一書房……渕野貴生
◆委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会……………………………米倉洋子/小澤隆一
◆資料●憲法違反の共謀罪創設に強く反対する共同声明……
共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会
◆時評●原発被災6年を迎えた福島の課題………今野順夫
◆ひろば●福島放射能公害訴訟に思うー6年目の3・11をむかえて……………小野寺利孝

特集が天皇制をめぐる問題、これに、自衛隊南スーダン派兵問題、厚木・辺野古訴訟、共謀罪、森友学園疑惑、原発被災問題と盛りだくさん。是非ともご予約いただきたい。

毎号、特集は責任編集者を決めている。今号は、私(澤藤)が担当し、リードを執筆した。ご購入いただきたく、リードを掲載して勧誘の惹句に換えたい。

「特集・象徴天皇制をめぐる今日の議論 リード」
昨年8月の天皇(明仁)生前退位希望発言をきっかけに、象徴天皇制のあり方をめぐる議論が活発化している。しかし、その活発化した議論は未整理のまま昏迷しており、幾つかの「ねじれ」さえあることを指摘せざるを得ない。泥縄的に天皇の生前退位を認める法整備を目前にしたいま、原理的で原則的な象徴天皇についての議論の整理が必要と思われる。
本特集は、今日的な象徴天皇制をめぐる論争の状況を整理し日本国憲法の理念からの原則的な基本視点を提供しようとするものである。

従来オーソドックスな憲法学は、天皇を日本国憲法体系における例外的存在とし、国民主権論や人権論との整合の観点から、象徴天皇の行動範囲を可及的に縮小しようとしてきた。しかし、天皇自身は「象徴としての公的行為」拡大を意識し、そのような「象徴天皇像」を作ろうと意図してきた。そのため、天皇の生前退位希望発言は、明らかに象徴天皇の公的行為についての積極的拡大論とセットになっている。

もっとも、その公的行為拡大論には、世論の一定の支持があることを否定し得ない。これまでの天皇(明仁)の発言が憲法に親和的でリベラルなものと認識され、また被災地慰問や戦没者慰霊などの行為が世論から好感を持たれているという事情による。そのため、いまリベラル派の一部に「公的行為拡大」論を容認する論調が見られ、むしろ守旧派が「公的行為縮小」論を主張するという「ねじれ」た論争が展開されている。しかし、生前退位の可否と、公的行為容認の可否とは厳格に分けて論じられなければならず、あくまで天皇の存在感と行動可能範囲を極小化する議論こそが出発点でなければならない。

なお、旧天皇制の残滓としての象徴天皇の権威拡大は、ナショナリズムと結びつけての利用の危険を常に内包している。現政権はことさらにそのような意図を有しているものと警戒せざるを得ない。その危険性を、閣僚の靖国神社や伊勢神宮参拝、あるいは伊勢サミットなどの問題として直視しなければならない。それに加えて、「天皇制批判の表現の自由への抑圧、弾圧はなくならない。」という指摘を重いものとして受け止めなければならない。

また、生前退位に伴い、大嘗祭・即位の礼が行われることになろうが、厳格な政教分離を定めたはずの憲法をないがしろにしたこれらの動きを警戒し、問題点を指摘しておかなければならない。さらに、急浮上した森友学園疑惑に関連して、教育勅語論争が天皇制再考のテーマとして関心を集めている。

今号の特集では、以上の観点から、7本の貴重な寄稿を得た。「日本国憲法における象徴天皇の位置─生前退位問題に関連して」(植村勝慶)は、錯綜した議論の基本視点を提供するものであり、「『天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議』論点整理を憲法学から読み解く」(麻生多聞)は、論争の整理を試みたものである。「『「生前退位』をめぐる断想─象徴天皇制の根っこを見つめながら」(田中伸尚)は、エッセイのかたちで象徴天皇制の問題の根源を抉っている。「生前退位に伴う天皇代替わり儀式の問題点」(中西一裕)は、前回天皇代替わりの際の儀式を政教分離違反と争った訴訟弁護団からの貴重な問題提起である。「戦後天皇制と捏造『教育勅語』─森友学園事件と『愛国者』たちの欺瞞」(早川タダノリ)は、教育勅語論争における右派の論理の分析として有用な視点を提供するもの。そして、「安倍政権の天皇制利用─伊勢と靖国を通じて」(辻子実)は事情通の貴重な論稿。最後の「琉球沖縄から見た天皇・天皇制」(石原昌家)は、天皇と琉球沖縄との関わりを通史としてまとめ、その視点から沖縄と本土の現在の関係を再考する。
この特集が、象徴天皇制を憲法原則の視点から、多面的に見つめ直すきっかけとならんことを願っている。(編集部・澤藤統一郎)

さあ、いかがか。「法民」は機関誌だから、会員配布以外の販売用の印刷部数はまことに少ない。(もっとも「残部僅少!!」は売り手側の常套作戦)。売り切れてしまえば、貴重な資料がお手許には届かない。お代は1000円と消費税。ハイとお声を上げていただいた方から、お早いが勝ちだ。

ご注文は、下記のURLへ。どうぞよろしく。
http://www.jdla.jp/kankou/itiran.html#houmin

(2017年3月19日)

春宵のまどろみにラジオのニュースがこう聞こえたー韓国憲法裁判所大統領罷免決定のインパクト

2012年4月26日、「日民協 韓国司法制度調査団」は韓国憲法裁判所を訪問した。我が国の、高邁な憲法理念と高邁ならざる最高裁判決との落差に臍を噛んでばかりの日本の弁護士には、韓国憲法裁判所の判決は驚嘆の内容。行政に対する厳格なこの姿勢はいったいどこから生まれてきたのだろう。その疑問ゆえの韓国憲法裁判所訪問であった。

韓国憲法裁判所では、見学者に対する応接の親切さと説明の熱意に驚いた。まずは15分ほどの憲法裁判所のプロモーションビデオを見た。みごとな日本語版であった。そのタイトルが「社会を変える素晴らしい瞬間のために」というもの。憲法裁判所の、国民一人ひとりの幸福に直接つながる活動をしているのだという強い自負が伝わってくる。日本の最高裁が、「社会を変える素晴らしい瞬間」を作ったという話は滅多に聞けない。そのような発想があるとすら思えない。

ビデオを見たあと、最高裁調査官にあたる憲法研究員(判事)二人から憲法裁判所の理念や仕組みそして、その運用の実態や社会的評価について2時間にもわたって懇切な説明を受け、充実した質疑応答があった。研究員の一人は、日本に留学(東北大学)の経験ある方で、完璧な日本語での説明だった。その気取らない応対の姿勢にいたく感心し、わが国の最高裁のあの威圧的で横柄な対応との懸隔を嘆いたものだった。

その日、法廷の見学もした。日本の最高裁大法廷よりは、一回り小さいものだが、権威主義的ではない明るい印象があった。屋上庭園にも案内され、青瓦台を遠望もした。後年、ここで大統領の訴追に対する弾劾の裁判が行われるとは思いもよらなかった。

その韓国憲法裁判所が、本日(3月10日)朴槿恵大統領に、罷免の審判を言い渡した。憲法裁判所は、強い司法積極主義を印象づけた。

今日の夕刻、ラジオのニュースを聞きながら多少まどろんだ際に、次のようなニュースが耳に跳び込んできた…ように聞こえた。

我が国のアベ首相に対する国会の弾劾訴追を審理していた最高裁判所大法廷は10日、アベ氏の思想的同志である籠池泰典氏による小学校建設をめぐる一連の権力濫用疑惑(いわゆる「アベ友疑惑」)事件について、違法・違憲と断定し、それが在任期間の全般にわたって続いたとして、アベ氏の罷免を言い渡した。アベ氏は即座に総理大臣と国会議員としての職を失するとともに、今後7年間公民権を停止され、公職に関する選挙権と被選挙権を失うことになる。
 これに伴い憲法54条の規定に準じて40日以内に衆議院総選挙が行われることとなり新たな首班指名の段取りとなると思われるが、この際投開票日を敢えて5月3日の憲法記念日として、国民が立憲主義の基本を再確認すべきとする案も有力視されている。
 我が国憲政史上、弾劾による首相の失職は初めてのこと。この歴史的決定は、最高裁裁判官15人全員の一致した意見となった。国民の8割近くが首相の弾劾に賛成していた世論を反映した形だが、アベ氏を支持する少数派右翼層は強く反発しており、我が国社会の混乱は続きそうだ。

 テラダ最高裁長官は決定文を読み上げ、アベ友疑惑事件について、アベ氏が「首相の地位と権限を濫用した」と断定。疑惑解明のための関係者の国会招致や特別検察官などの捜査に応じなかったことについて「もともと、被訴追者アベは、立憲主義思想理解の素養に欠け、違法・違憲行為を繰り返して行政府の長として意を尽くすべき憲法遵守の姿勢の片鱗も窺えない」と厳しく指摘した。そのうえで「(アベ氏の)違憲、違法行為は国民の信任に背き、重大な違法行為だ。その違法行為が我が国の憲法秩序に与える否定的な影響と波及効果は重大」として罷免が妥当だとした。

籠池氏による極右教育を売り物とした小学校建設に伴う、アベ政権の口利き疑惑の数々は、2017年2月初旬以来我が国メディアの報道するところとなり、国民のアベ弾劾の気運は急激に高まって、各地でのアベ氏退陣を求める市民による大規模集会が行われた。

我が国国会は先日、アベ友学園疑惑に関するアベ氏の行動は、限りなく違憲濃厚として弾劾訴追案を圧倒的多数で可決。
最高裁は、
(1)国民主権主義や立憲主義・法治主義に違反したか
(2)首相の口利きや職権濫用の事実があったか
(3)籠池氏と共謀共同正犯となり得る刑事犯罪があったか
(4)メディア弾圧を行ったか
(5)教育勅語など違憲内容の教育助長の意図があつたか
の五つの争点について、違憲もしくは重大な違法行為にあたるかを審理してきた。アベ氏側は「選挙で選ばれたのだから、私が国民の意思であり法律だ」「口利きや忖度というが、正しいことをしている」「教育勅語のどこが悪い」「すべては、メデイアのでっちあげ」などと全面的に否定してきた。

政権を支えてきた保守層は既にアベ氏を見放し支持率は5%まで下落している。しかし、コアな極右勢力5%がアベの支持を継続している。トーキョー市中心部では毎週金曜日、退陣を求める大規模集会が開かれてきた。

アベ氏はこれまで、首相としての立場で逮捕を免れていたが、失職したことで近く検察に逮捕、起訴されると見られている。

心地よい夢から覚めてうつつの世界に戻ったが、さてあれは正夢か。それとも逆夢なのだろうか。
(2017年3月10日)

「トランプは4年もたない。2年で自壊するだろう。」

昨日(1月13日)、日民協の「新春の集い」が開かれた。理事会を兼ねてのことである。新春の挨拶でも、今年は楽観的な希望は語られない。話題は、自ずから「激動の世界情勢」ということになる。とりわけ、トランプ現象を起こしたアメリカの民主主義についてのシビアな意見が相次いだ。

それでも、アメリカがこのままであるはずはない、という希望も語られた。「トランプ政権はもたない。いずれ自壊する」「その時期は、化けの皮が剥がれ、中間選挙で共和党が大敗する2年後」という確信にあふれた予言が説得力をもって語られた。

都民の人気を集めていた舛添要一前知事が、あっという間にバッシングの対象となってその地位を追われた。韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領も同じだ。きっと、トランプも同じ目に遭う。

トランプは、大富豪ではないか。多くの人々を搾取し収奪して財をなした人物。それが、経済的に困窮するホワイトプアー(白人困窮者層)からの支持を集めて大統領に当選するというマンガのような逆説が永続するはずはない。彼が被告として抱えている訴訟は2000件余と報じられている。その敗訴が連続するとき、欺されていた者も覚醒せざるを得ない。

忘れてはならないのは、民主党予備選挙でのサンダース現象だ。民主社会主義者を自称するサンダースの大健闘は、アメリカ社会の健全さを示すもの。トランプ現象の結果だけからは絶望しか見えてこないが、サンダースを支持した若者たちが、トランプへの抗議を継続していることに希望を見ることができよう。

集いの冒頭森英樹理事長の挨拶があった。その中で次の指摘があった。
「あまり話題にならないのですが、今年は一九一七年一一月にロシア社会主義革命が成就して一〇〇周年、そしてその崩壊から二五周年となります。その歴史に学ぶべきところはないのでしょうか」
「また、今年はルターが宗教改革を宣言した一五一七年一〇月から五〇〇周年でもあります。カトリックの精神支配から個人を解放して資本主義の成立を準備したという宗教改革からも学ぶところはあるはずです」。

今の世界の激動と混乱の原因を、資本主義そのものの矛盾の表れとしてとらえ直すべきではないか。そしてその矛盾克服の方向を、資本主義自体を変革しようとした歴史からも学べ。そういう示唆なのであろう。

すでに、世界はポストトゥルースの時代だという。しかし、これは何も世界で新たに始まったことでもなかろうという指摘もあった。「この点、日本も世界に遅れをとっていない。まず石原慎太郎がいたではないか。橋下徹も安倍晋三も負けてはいない」。言われてみればそのとおり。「コントロールとブロックの安倍」の嘘を許容する国民が情けない。日本の民衆が、新自由主義をかざして、庶民イジメ専念の安倍に、かくも長期間欺されっぱなしというのも解せない話。

「私の周囲には安倍支持の人間などいません。反安倍の人ばかり。でも、安倍の周囲には安倍を支持しない人などはいないのでしょう。安倍支持派と反安倍派とは、断絶してお互いに説得し合おうという会話の機会さえもない」「私は、意識して安倍支持派との人々とも会話のできる機会を持ちたいと思う」という発言もあった。

解散総選挙は、「今月(1月)にはないが、今年(2017年)にはあるだろう」というのが、一般的な観測である。反アベ派の仲間内だけではなく、親アベ派の人々とも会話を重ねることで、この深刻な事態を切り開いていきたい。

いたずらに、事態に絶望せず、パンドラの箱に残された美しい希望を見失わないようにしたい。政治的混乱の原因を見極め、格差・貧困・経済摩擦・雇用の縮小等々の根本原因を改善する努力を、微力でも重ねていきたいと思う。
(2017年1月14日)
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「DHCスラップ訴訟」勝利報告集会のお知らせ

私自身が訴えられた「DHCスラップ訴訟」。その勝利報告集会が近づいてきました。あらためてお知らせし、集会へのご参加を、よろしくお願いします。
日程と場所は以下のとおりです。
☆時 2017年1月28日(土)午後(1時30分~4時)
☆所 日比谷公園内の「千代田区立日比谷図書文化館」4階「スタジオプラス小ホール」
☆進行
弁護団長挨拶
田島泰彦先生記念講演
常任弁護団員からの解説(テーマは、「名誉毀損訴訟の構造」「サプリメントの消費者問題」「反撃訴訟の内容」など)
会場発言(スラップ被害経験者+支援者)
澤藤挨拶
・資料集を配布いたします。反撃訴訟の訴状案も用意いたします。
・資料代500円をお願いいたします。

この集会から、強者の言論抑圧に対する反撃をはじめます。ご支援ください。

軍事立法でも、治安立法でもなく、誤判防止の刑事司法を

一昨日(11月19日(土))、日本民主法律家協会の「第47回司法制度研究集会」が開催された。メインタイトルは、「治安国家化・監視社会化を問う 何のための刑訴法・盗聴法「改正」、共謀罪法案か?」というもの。

主催者の案内が、次のようになっている。
「今回の集会では、本年5月24日に成立した「改正」刑訴法・盗聴法の内容の危険性を暴くとともに、法律家団体と市民が協働しながら反対運動を展開してきた成果を共有したいと考えています。
 また、一昨年に施行された特定秘密保護法、「改正」刑訴法・盗聴法、そして、来年通常国会への上程が取り沙汰される共謀罪等が総体としてもたらすであろう監視社会・治安国家への対応には、「改憲」反対のすべての運動の結集が急務であると考えます。
『改憲』に向けた現政権の謀略に対峙していくための法律家運動の課題を模索するとともに、法律家運動の果たすべき役割を改めて確認し、市民とともに、大きな国民的運動を展開する決意を誓い合う司法制度研究集会になるよう、皆さまのご参加をお待ちしています。」

討論の素材となった報告は3件。「刑訴法『改悪』阻止の闘いと今後」小池振一郎、「盗聴法・共謀罪の本質」海渡雄一、そして「秘密保護法,盗聴法・刑訴法,共謀罪と治安国家・監視社会化」白取祐司(神奈川大学法科大学院教授)。前2件は、報告のタイトルで内容が推察できる。しかし、3件目の白鳥報告だけはよく分からない。集会主催者の注文で、メインタイトルに合わせた内容。

この白鳥報告が明晰で面白かった。クローズアップで問題を見極めようとする報告の中で、カメラを引いてロングでものを見ることによって、背景事情やものごとの関連性が見えてくる。そんな印象の報告だった。いずれ「法と民主主義」に掲載されるが、私流に把握した要点をかいつまんでご報告したい。

☆最近の刑事立法を概観すると、特定秘密保護法成立以来、とんでもない悪法の目白押しである。
 ・特定秘密保護法(2014年)
 ・通信傍受法改正法(2016年)
 ・刑事訴訟法改正法(2016年)
 ・共謀罪法案(2017年?)
どうしてこんなことになっているのか。政治状況の変化、端的に言えば安倍政権がもたらしたものだが、それだけではない。これまで悪法の成立に歯止めを掛けてきた勢力の変容があるように思われる。日弁連と研究者集団の変質を指摘せざるを得ない。
増員の影響か、弁護士のノブレスオブリージュの気概が希薄になってきたのではないか。また、かつて刑法改悪阻止運動の先頭に立った平野龍一のごとき存在が消え、政権や法務省にすり寄る研究者が増えている。真剣な検討を要する。

☆21世紀にはいって以来、「最近」以前の主要刑事立法を概観すれば、以下のとおり。
・少年法改正(検察官関与・原則逆送)(2000年)
・裁判長法・刑事訴訟法改正法(2004年)
・刑事収容処遇法(2005年)
・犯罪被害者参加法(2007年)
・公訴時効廃止法(2010年)
これらの刑事諸立法を貫徹する共通の理念を把握したり、傾向を指摘することが難しい。立法の背景が見えにくくなっていると言わざるを得ない。

☆一方、望ましいとして立法課題と意識されてきた下記の法は成立に至っていない。
・死刑廃止法
・再審法改正法
・監視型捜査規制法
・ミランダ法(弁護人立会権確立立法)

☆以上のごとき現在の状況を歴史的視座に置いてみると、以下の治安維持法の時代との類似性が指摘できるのではないか。
・治安維持法(1925年)
・治安維持法改正(1941年)
・軍機保護法(1937年)(1941年全面改正)
・国防保安法(1941年)*1940年大政翼賛会結成
1925年から敗戦までは、刑事法的には「治安維持法の時代」と言ってよい。上記各法は戦時法であり、戦争準備の立法であった。軍機保護法は1889年日清戦争後日露戦争を見据えて制定された。1937年に全面改正され、さらに1941年にも戦争の進展に応じて改正された。

☆特定秘密保護法は軍事立法であり、戦争準備の法と認識しなければならない。そして、「治安維持法の時代」の諸刑事立法が、改正を重ねていることに留意しなければならない。新規の立法はそれなりの抵抗に遭う。政権は妥協した形でマイルドに修正して立法に漕ぎつけ、頃合いをみてハードに法を改正する。新規立法よりは改正の方が世論の関心事とならず、抵抗は小さい。この事情は、戦前も今も同じこと。だから悪法反対運動は、立法成立後も改悪反対運動としての持続が大切なのだ。

☆分析のための視座として、
1 軍事法制下の刑事法
2 治安立法としての刑事法
3 監視社会と刑事立法
という、観点が必要だろう。

☆軍事法としての特定秘密保護法が危険で問題というだけでない。非常事態宣言下のフランスにおける刑事手続のように、テロ対策という名目の非常時立法は、常に軍事法としての危うさを警戒しなればならない。

☆いま、体感治安の悪化が煽られている。刑法犯は減少し、凶悪犯も著しく減っているにかかわらず、意図的に不信不安が醸成された結果である。警察依存型の刑事政策が意図されているからとみるべきだろう。このような策動に、どこかで歯止めが必要だ。

☆むのたけじが、自分の記者時代を振り返って語っている。
「治安維持法も国家総動員法も、法の具体的な適用の有無が問題であるよりは、そのような法律が作られ存在すること自体が大きな問題だった。」
今、そのような時代状況になろうとしているのではないか。必要なのは、軍事立法でも治安立法でもない。積極的に「誤判を防止し誤判被害者を救済する」ための、刑事司法改革こそが必要ではないか。
(2016年11月21日)

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