澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

『法と民主主義』6月号(特集「新型コロナウイルス問題があぶり出したもの」)のお勧め

(2020年7月3日)
日本民主法律家協会発行の『法と民主主義』6月号(6月29日発行・第549号)のご紹介とご注文のお願い。
5月号に引き続いての新型コロナ問題特集となっている。先月号の特集が「新型コロナウイルス問題を考える」だったが、今月号は「新型コロナウイルス問題があぶり出したもの」。今までは見えなかった、あるいは目につきにくかった諸問題が、このコロナ禍の中であぶり出されている。まずは、目を背けずに見つめなければならない。

巻頭論文が金子勝氏の「新型コロナウイルス対策はなぜ失敗するのか」。筆者は、住専破綻に端を発した金融危機や福島第1原発事故に典型的に見られるように、日本社会はリスク対応能力を欠いた無責任社会であるとし、今回のコロナ危機にも、適切な対応ができていないという。日本のコロナウィルス対応を失敗と断定して、クルーズ船「ダイアモンド・プリンセス号」事故以来の政府の対応を分析する。その上で、「危機管理の鉄則を踏まえた抜本的なコロナ対策こそが、最大の経済政策になる」という。

次いで、コロナ感染の拡大によってあぶり出された医療の脆弱性が、医療者からの2本の論文によって明らかにされる。これまで、政策的に医療は質も規模も脆弱化させられてきたのだ。

子どもの発達成長権から見た教育も脆弱なのだ。政治的思惑から学校が全国一斉の休校となって、子どもの環境における経済格差が教育格差となっている実態が語られている。

コロナ禍の中では、公文書の作成・保管もおろそかになっている。専門家会議の議事録はいまだ作成されていない。

そして、ドイツ・フランス・イタリアからの報告である。各国とも、真摯な議論をしていることがよく分かる。

さらに、各界各現場から「『新型コロナ問題』から見えてきたもの」の寸評をいただいた。この深刻な事態だからこそ見えてきた様々な問題、とりわけ、この「危機」から生じた社会的弱者への深刻な被害のしわ寄せは看過しがたい。敢えて、お一人の原稿字数を800字に抑えての凝縮したコメント。読者の関心に応える貴重なものとなっている。

なお、「あなたとランチを〈番外編〉」は、「美魔女は法民に乗ってⅡ」と題して、33年間「法と民主主義」の編集に携わってきた林敦子さんのインタビュー。この間、1号の欠落もなく「法と民主主義」を作り続けてきたことが、どれほどたいへんなものだったのか、その片鱗が語られている。

そのほか、特別報告が2本。「黒川弘務元東京高検検事長の定年延長と検察庁法改正案問題 ─ 問題の本質と廃案までの経過」「法律家662名が安倍首相を刑事告発 ― 政治資金規正法違反・公職選挙法違反」

以上、読み応えは十分と思う。

ホームページはこちら。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html

そして、ご注文はこちらから。よろしくお願いします。
https://www.jdla.jp/houmin/form.html

特集●新型コロナウイルス問題があぶり出したもの

◆特集にあたって ……… 編集委員会・丸山重威
■日本はなぜ間違ったのか
◆新型コロナウイルス対策はなぜ失敗するのか ……… 金子 勝
◆医療政策の大転換を─ショックドクトリンの向こうへ─ ……… 吉中丈志
◆新型コロナ危機、なぜ日本の医療は、脆弱な実態をさらけ出したのか ……… 本田 宏

■基本的人権とコロナ緊急事態── 欧州各国に学ぶ
◆ドイツにおける新型コロナウイルス感染症への対応 ……… 奥田喜道
◆フランスの緊急事態における権力の統制 ……… 植野妙実子
◆期間限定と比例性の原則── イタリアからの報告 ……… 高橋利安

◆緊急事態時における公文書は誰のものか? ……… 榎澤幸広
◆新型コロナウイルス感染症の拡大と子どもの権利 ……… 世取山洋介
◆「新型コロナ問題」から見えてきたもの
前川喜平/鈴木敏夫/大久保賢一/原 和良/笹渡義夫/二平 章/伊賀興一/青龍美和子/大竹 進/菊地雅彦/長谷川京子/笹本 潤/長谷川弥生/原いこい/浪本勝年/金 竜介/岩崎詩都香

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◆連続企画●憲法9条実現のために〈30〉
新型コロナと在日米軍、日米地位協定 ……… 布施祐仁
◆特別報告
黒川弘務元東京高検検事長の定年延長と検察庁法改正案問題
── 問題の本質と廃案までの経過 ……… 大江京子
◆特別報告
法律家662名が安倍首相を刑事告発
──政治資金規正法違反・公職選挙法違反 ……… 米倉洋子
◆メディアウオッチ2020●《コロナ危機・余聞》
逃走する政治、問われるメディア、そして電通
国会閉幕、「火事場」に問題は錯綜 ……… 丸山重威
◆あなたとランチを〈番外編〉
美魔女は法民に乗ってⅡ ……… 林 敦子さんインタビュー×佐藤むつみ
◆改憲動向レポート〈No.25〉
コロナ禍の最中にも憲法審査会開催に固執する自民党・公明党・日本維新の会 ……飯島滋明
◆書評●道理の通る国をめざしての刑事弁護六〇年余
── 石川元也著『創意─事実と道理に即して 刑事弁護六〇年余─』(日本評論社) ……… 加藤文也
◆インフォメーション
◆時評●子育て・教育の行方~暴言・暴力の威力(弊害) ……… 村松敦子
◆ひろば●マイナンバー利用の失態と懲りない策動 ……… 奥津年弘

「法と民主主義」5月号購読のお薦め

(2020年5月30日)
私も編集委員の一人なのだから自画自賛となるのだが、最近の「法と民主主義」は充実している。「新型コロナウイルス問題を考える」を特集した5月号(5月27日発刊)も出来栄えがよい。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html

特集の意図や内容については、下記を参考にされたい。
https://www.jdla.jp/houmin/backnumber/pdf/202005_01.pdf

以下は、私の私的な感想である。

巻頭論文の「グローバル化のなかのコロナ危機ー市民社会と科学の役割 … 広渡清吾」論文は、さすがの格調。「1 COVID-19のグローバル化」「2 市民社会と国家緊急権」「3 市民社会と科学者の社会的責任」の3節からなり、それぞれが完成度の高い論文となっている。市民社会の本質論からの緊急事態考察にも、元学術会議会長が語る科学者の社会的責任論の展開も、読み応え十分である。

そして、医療、国際比較、経済、憲法、改憲、立法、政権手法などの各分野の論文が続いている。

医療の分野での、「後手後手から迷走した安倍政権─新型コロナ対策迷走の真相と今後の課題 … 上昌広」は、市民読者に対する本号目玉の論稿である。忖度とはまったく無縁の医学研究者が、歯に衣きせぬ貴重な論述で、多くのことを教えてくれる。「医系技官の責任」を語り、政権が感染症蔓延の初期対応を誤り、その軌道修正もできなかったことの経過が具体的に論じられる。戦争や災害の失敗の歴史の再現を見せつけられる思いである。

「世界各国のCOVID-19と緊急事態法制 … 稲正樹」論文は、短いスペースに、各国の対応を比較して興味深い。「成功している国」として、オーストラリア、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ニュージーランド、台湾を挙げ、「失敗している国」として、インド、インドネシア、ブラジル、メキシコを挙げている。また、立憲主義の観点から問題のある国として、アメリカ、ハンガリーが検討されている。その他は、「新法の制定で対応した国」「緊急事態を発動していない国」「緊急事態を発動した国」とのカテゴリーで説明している。

「コロナ禍の経済政策 … 阿部太郎」は、誰しも関心をもたざるを得ない「財源論」において、「将来的には租税負担率を増やしていくのもひとつの手」とした上、消費増税ではなく、「この機に、所得税、法人税の累進性を高めること」を提案している。「各国が同時に累進性を高める方法もあり得る」と示唆的である。

憲法学者二人の専門性が高い論稿もお薦め。
「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法における『緊急事態宣言』と野党の対応 … 成澤孝人」と、「新型コロナ感染症対策に便乗する緊急事態条項改憲論 … 小沢隆一」の両論を併せて読むと、憲法レベルでの「緊急事態」と、法律レベルでの「緊急事態」の区分の整理のうえ、ことさらにこれを混同しようとしている改憲派の思惑が見えてくる。

「改正コロナ特措法の制定と緊急事態宣言 … 海渡雄一」は、弁護士の目から見た、立法と宣言の経過を追って、問題点を指摘している。

最後の論稿が、「惨事便乗、場当たり対策から改憲まで ─ コロナ対策の経緯と安倍政権の手法 … 丸山重威」 惨事に便乗した安倍政権のこの手法。このように、まとめて提示されると、なるほど凄まじいばかり。貴重な記録となっている。

そして、もう一つの特集の目玉が、『「新型コロナ問題」私はこう考える』である。各界の然るべき15人が、新型コロナ感染問題を。それぞれの切り口で問題意識を語っている。
自然科学、社会科学、法学、教育学などの知性を代表する方、中国や韓国の事情に詳しい方、コロナ禍がもたらす、格差や差別と対峙している方、医療や薬学と切り結んでいる実務法律家。お一人の字数を敢えて800時に抑えた寄稿をいただいた。

島薗 進/池内 了/右崎正博/矢吹 晋/堀尾輝久/吉田博徳/鈴木利廣/李 京 柱/藤江- ヴィンター 公子/徐 勝/角田由紀子/井上英夫/水口真寿美/大森典子/田島泰彦

特集以外でのもう一つの目玉は、西川伸一(明治大学教授)さんの「最高裁裁判官の指名・任命手続について─第二次安倍政権による異例の人事から考える─ 」 これは、今年の司法制度研究集会・プレシンポでの講演内容の書き下ろし。来年(2021年)が、「司法の嵐」と言われたあのときから、50周年となる。あらためて、裁判官人事の在り方は、大切な論点となっている。

お申し込みは、下記のURLから
https://www.jdla.jp/houmin/form.html

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「法と民主主義」5月号
特集●新型コロナウイルス問題を考える
◆特集にあたって … 編集委員会・飯島滋明
◆グローバル化のなかのコロナ危機
──市民社会と科学の役割 … 広渡清吾
◆後手後手から迷走した安倍政権
── 新型コロナ対策迷走の真相と、今後の課題 … 上 昌広
◆改正コロナ特措法の制定と緊急事態宣言
── 日本政府のコロナ禍への対応がもたらす、いのちの危機と自由の危機 … 海渡雄一
◆世界各国のCOVID-19と緊急事態法制 … 稲 正樹
◆新型コロナ感染症対策に便乗する緊急事態条項改憲論 … 小沢隆一
◆コロナ禍の経済政策 … 阿部太郎
◆改正新型インフルエンザ等対策特別措置法における
「緊急事態宣言」と野党の対応 … 成澤孝人
◆惨事便乗、場当たり対策から改憲まで
── コロナ対策の経緯と安倍政権の手法 … 丸山重威
◆「新型コロナ問題」私はこう考える … 島薗 進/池内 了/右崎正博/矢吹 晋/堀尾輝久/吉田博徳/鈴木利廣/李 京 柱/藤江- ヴィンター 公子/徐 勝/角田由紀子/井上英夫/水口真寿美/大森典子/田島泰彦
◆特別寄稿
最高裁裁判官の指名・任命手続について
─第二次安倍政権による異例の人事から考える─ … 西川伸一
◆連続企画●憲法9条実現のために〈29〉
国際法から読み解くソレイマニ司令官殺害事件と自衛隊中東派遣 … 山形英郎
◆司法をめぐる動き(57)
・湖東記念病院事件再審無罪判決のご報告 … 井戸謙一
・4月の動き … 司法制度委員会

◆追悼●追悼 森英樹先生 … 米倉洋子
◆追悼●もっとご一緒に闘いたかった … 南 典男
◆メディアウオッチ2020●《コロナ危機とメディア環境の変化》
「つぶやき」が「火事場泥棒」を退治した…真実の伝達と民主主義への信頼を … 丸山重威
◆改憲動向レポート〈No.24〉
「国民の命と健康を守るため、
……政策を総動員して各種対策を進めています」と発言した安倍首相 … 飯島滋明
◆BOOK REVIEW●全集から全て書き出して編集に4年かけた力作
── 市橋秀泰著『立憲主義をテーマにマルクスとエンゲルスを読む』(東銀座出版社) … 井上幸夫
◆時評●異例ずくめの憲法記念日 … 丹羽 徹
◆ひろば●火事場泥棒を許さない─ウェブ集会などの取り組み─ … 江夏大樹

「法と民主主義」5月号は、コロナ問題特集

世はコロナ問題一色である。消費生活も、文化も、言論活動も、教育も、経済も、国内政治も、国際政治も。そして、当然のことながら、医療や福祉も、今や一つとしてコロナと関わらざるものはない。

どうしてこんなことになってしまったのか、防ぐことはできなかったのか。今の対策は適切なのか、という問題意識が必要なのは当然として、このどさくさに紛れて何かをなそうとする者への警戒が必要であり、格差社会にこの危機がもたらす弱者へのしわ寄せの実態を直視しなければならない。誰もが、自宅への引きこもりができるわけではないのだ。

日本民主法律家協会の機関誌「法と民主主義」5月号(5月下旬発刊)は、『新型コロナウイルス問題を考える』(仮題) を緊急特集する。現下の状況に変化のない限り、おそらく6月号もその続編となる公算が高い。

飯島滋明・丸山重威両編集委員が中心となって、現在のところ依頼論稿は8本だが、その中には下記のような目玉となる記事がある。

コロナ感染症対策の在り方      上 昌広
コロナ対策の国際比較        稲 正樹
コロナ問題後の社会と立憲主義    広渡清吾

このどさくさに紛れてのアベ政権への警戒については、次の論稿が予定されている。

緊急事態条項の明文改憲の政治的意図 小沢隆一
コロナ対策の経緯と安倍政権の手法  丸山重威

以上の各論稿とは別に、「コロナ規制の中で考えること」を800字の寸評(コメント)として、各界の然るべき方に寄稿をお願いしている。

こちらの担当は私で、依頼の趣旨を以下のようにお伝えしている。

 日ごろのご活躍に敬意を表します。
 「法と民主主義」誌からのコメント寄稿のお願いを申しあげます。内容は、「新型コロナウィルス感染症蔓延とそれにともなって見えてきた様々な問題」について、それぞれのお立場からの寸評をいただきたいと存じます。問題意識は、次のとおりです。

 新型コロナウィルス感染症が猛威を振るっています。その勢いは世界の隅々にまで及び、しかも全ての人びとに脅威を与えて行動の萎縮を強要しています。その収束の兆しは見えないまま恐怖と倦怠が世に満ち、人類が立ちすくんでいる感さえあります。誰にも、真剣にこの問題を考えること、克服のために声を挙げることが求められています。

 また、この深刻な事態だからこそ見えてきた様々な問題があり、この事態にともなって副次的に生じた問題もあります。日本民主法律家協会が発行する「法と民主主義」は、2020年5月号(5月下旬発行)を「『新型コロナウイルス問題』を考える(仮)」緊急特集号とすることにし、その一章を割いて、多くの方に、「この問題を私はこう考える」という意見・論評集を掲載しようと企画しました。敢えて、お一人の原稿字数を800字(表題を除く)に抑えていただき、それぞれのお立場において最も関心ある角度から切り込んだ、凝縮したコメントをいただきたいと存じます。

 この感染症蔓延に関しては、人類史や文明史との関わりにおいて論じる必要があるとも思われますし、この事態をもたらした人と物との国際交流やそれを前提とした経済の在り方にも検証の必要がありそうです。また、当然のことながら、疫学や予防医学、臨床医学からの分析や提言も期待されるところですし、医療行政や医療システムの脆弱性が問われてもいます。医学教育にも考えねばならないところがあるとおもわれます。

 そして、この「緊急事態」に際して、実効ある感染予防と危険な権力の暴走の抑制という矛盾する二つの要請のバランスをどうとるべきか。これが、憲法や人権を大切に思う市民の最大の関心事であって、この政治的・法的な実践課題に喫緊の解答が求められています。

 さらに、各国政府が共通の問題に取り組み、それぞれの流儀でそれぞれの結果を出しつつあります。各国の流儀を比較する視点は、権力的強制と民主的統制との優劣ではないでしょうか。また、この緊急事態を機に、統制型の政治システムが平時にも常態化する危惧はないでしょうか。

 また、社会に「危機」が生ずれば弱者に被害が集中します。格差社会においては、その被害は深刻なものとなります。休校や休業に伴って、地域に企業に家庭に生じている具体的な問題をご指摘ください。

 もちろん、以上の捉え方では不十分で、別の角度からの言及が必要とのご意見も、ぜひ承りたいところです。
 以上、よろしくお願いいたします。

 これまでにご承諾をいただいた主な方は、以下の各氏。
池内了/島薗進/右崎正博/堀尾輝久/吉田博徳/矢吹晋/李京柱/井上英夫/鈴木利廣/角田由紀子/大森典子

なお、「法と民主主義」の購入申込みは、下記のURLから。よろしくお願いします。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html

(2020年4月25日)

「法と民主主義」2019年11月号・特集「『表現の不自由展・その後』中止問題」購読のお願い

「法と民主主義」2019年11月号【543号】が好評発売中である。
本号の特集は、「あいちトリエンナーレ 『表現の不自由展・その後』中止問題を考える」。この問題を考える上での基本論稿が並んでいる。

また、特集冒頭に前川喜平氏のロングインタビューがある。「あいトリ」問題を入り口に、教育行政のあり方を縦横に語って、これは読ませる。特集以外も充実している。

その概要は、下記URLをご参照いただきたい。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html

お申し込みは、下記URLから。
https://www.jdla.jp/houmin/form.html
「法と民主主義」(略称「法民」)は、日民協の活動の基幹となる月刊の法律雑誌です(発行は年10回)。毎月、編集委員会を開き、全て会員の手で作っています。憲法、原発、司法、天皇制など、情勢に即応したテーマで、法理論と法律家運動の実践を結合した内容を発信し、法律家だけでなく、広くジャーナリストや市民の方々からもご好評をいただいています。定期購読も、1冊からのご購入も、上記のURLから可能です(1冊1000円)。

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目  次

特集●あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」中止問題を考える
◆特集にあたって … 編集委員会・小沢隆一
◆インタビュー●文科省は教育、文化、学術を護る砦に
目に余る政治の介入 トリエンナーレ問題と「表現の自由」 … 前川喜平
◆あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」中止問題とは何だったか
─「その経過」と「これから」 … 飯島滋明
◆「表現の自由」を改めて考える ─ 表現の自由の保障の意味 … 市川正人
◆「芸術の自由」をめぐる憲法問題 ─ 支援の中の「自由」とは … 志田陽子
◆あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」は
どのようにして再開されたのか … 中谷雄二
◆資料「表現の不自由展・その後」の中止と補助金不交付問題についての声明

◆連続企画●憲法9条実現のために〈25〉
市民連合と立憲野党の政策合意13項目を生かし広げるための法律家懇談会 … 大山勇一
◆司法をめぐる動き(52)
「スラップ違法の方程式」─ DHCスラップ「反撃」訴訟一審判決 … 澤藤統一郎
・10月の動き … 司法制度委員会
◆利谷信義先生を偲んで … 戒能通厚/戒能民江
◆メディアウオッチ2019●《書かなくてはいけないことが多すぎる》
公選法、政治資金、憲法審、桜を見る会…「臭いものにフタ」の政権と闘いを … 丸山重威
◆あなたとランチを〈No.50〉
「きよし、たかし」弁護士ブログ … ランチメイト・細川潔先生×佐藤むつみ
◆改憲動向レポート〈No.19〉
憲法改正を「必ずや皆さんとともに成し遂げる」と発言する安倍首相… 飯島滋明
◆BOOK REVIEW●改憲策動に抗する市民運動へ知恵と活力を与えてくれる書
─ 清水雅彦 著『9条改憲 48の論点』(高文研) … 神保大地
◆インフォメーション
◆時評 司法の希望を語りたい。 … 梓澤和幸
◆ひろば 中谷弁護士と目が合って~「表現の不自由展」中止問題の真っ直中に遭遇してしまいました~ … 北村 栄

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特集のリード(抜粋)から。

企画展「表現の不自由展・その後」は、「ごあいさつ」で次のように述べている。
「いま、日本社会で「あること」が進んでいます。自由に表現や言論を発信できなくなっているのです。… 本展では、この問題に特定の立場からの回答は用意しません。自由をめぐる議論の契機を作りたいのです。そして憂慮すべきなのは自由を脅かされ、奪われた表現の尊厳です。」

ここで語られている「表現の自由をめぐる議論の契機を作りたい」という切なる思いは、この展示が被った「受難」によって、なかば阻まれながら、他方ではそれをもって、皮肉にも叶えられることとなった。ただし、そこではしなくも「展示」されたのは、この国における「表現の不自由」の現在形である。

憲法に根ざした文部科学行政の重要性を説く前川喜平氏のロングインタビュー、市川正人、志田陽子両氏による憲法論からの考察、飯島慈明、中谷雄二両氏の現地からのリポートをお寄せいただいた。
資料として掲載した本協会の声明も含め、ぜひ熟読いただきたい。
(編集委員会・小沢隆一)

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また、表紙裏の「時評」。私と同期の梓澤和幸君が、いつもながらの高いボルテージで書いている。その書き出しが以下のとおり。

司法研修所を卒業するその日に、同期の仲間の一人が罷免された。23期の法律家はその刻印を背負って法律家としての日々を歩むことになった。
阪口徳雄君が、「裁判官を志望して任官を拒否された7名の拒否理由を明らかにしてほしい」と卒業式で発言したことを理由に罷免されたのは、1971年4月5日夕方のことである。これは石田和外長官が率いる最高裁裁判官会議の決定による処分であった。…

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私も、寄稿している。

「司法をめぐる動き」に、下記の記事。
「スラップ違法の方程式」─ DHCスラップ「反撃」訴訟一審判決
あれもこれも、お読みいただけたらありがたい。

(2019年12月1日)

「表現の不自由展・その後」の中止と補助金不交付問題についての声明

日民協は、「あいちトリエンナーレ」の企画展「表現の不自由展・その後」をめぐる一連の問題について、一度は権力を持つ者などからの圧力によって中止に追い込まれたこと、そしていったんは決まったはずの補助金交付が事後的に不交付とされたことについて、看過できないとして下記の声明を出した。ことは、憲法の定める表現の自由に関わる。やや長文であるが、ぜひお読みいただきたい。できれば、拡散もしていただくようにお願いしたい。
なお、「法と民主主義」11月号は、この「表現の不自由展・その後」の問題を特集として取りあげる。タイムリーというだけでなく、興味深く読んでいただける内容になるはず。楽しみにしていただきたい。

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2019年11月7日

日本民主法律家協会

8月1日から愛知芸術文化センターで開催された国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の一部を成す企画展「表現の不自由展・その後」について、翌2日に会場を視察した河村たかし名古屋市長は、展示物のなかに〈平和の少女像〉などが含まれていたことを理由に、「日本国民の心を踏みにじるもの」などと発言して展示の中止を求め、それを受けて同日、菅義偉官房長官も、「あいちトリエンナーレ」が文化庁の助成事業であることに言及し、「審査の時点では具体的な展示内容の記載はなかったことから、補助金交付の決定にあたっては事実関係を確認、精査して適切に対応したい」と述べ、補助金交付の是非など対応を検討する考えを示しました。
これと前後して、インターネット上で企画展に対する批判や攻撃が数多くなされ、主催者側に対しては抗議の電話やメールが多数寄せられるとともにテロ予告や脅迫が相次ぎ、わずか3日間で企画展が中止されるに至りましたが、その後、企画展は、再開を望む多くの声を受けて、入場制限を課し、観覧方法を変更したうえで、10月8日、再開されました。
ところが、文化庁は、企画展の再開の方向性が決まった翌日の9月26日、円滑な運営に対する懸念があったにもかかわらずそれを申告していなかったという「手続上の不備」を理由として「あいちトリエンナーレ」への補助金、約7800万円の全額の不交付を決定しました。
私たちは、これら一連の出来事は憲法21条が保障する「表現の自由」を侵害する重大な問題を含むものであると考え、以下のとおり意見を表明いたします。

第一に、私たちは、河村名古屋市長や菅官房長官などの自治体や政府の主要ボストにある政治家による展示会中止に向けての圧力は、憲法21条の保障する「表現の自由」を侵害する重大な問題であると考えます。
憲法による「表現の自由」の保障の中心的意味は、政府に対する自由な批判を保障することにあります。政府や政治家が抽象的な理由で制限を加えることが看過されるならば、表現の自由の中心的な意味が失われ、民主主義が形骸化してしまうおそれがあります。
表現の自由が広く国民に認められ、国民が自由に表現を行うためには、その機会を提供することも重要です。政府や自治体が文化的な催しを後援することは、国民が表現する機会を豊かにし、多様な表現を確保するのに役立ちます。そのために公的な助成が行われる場合、表現の内容に介入しないことが前提になります。そのような態度を貫くことで、国民の表現の自由が実質的に確保されることになるからです。
また、「表現の自由」には「知る権利」の保障も含まれています。他者が表現したことを「受け取る」ことも「表現の自由」の一部です。多数者の表現だけが許され、少数者の表現が締め出されるならば、国民は多数意見にしか接することができなくなります。政府や自治体は多様な表現の機会を保障し、多様な少数意見にも接することができるようにすることが求められます。
このような観点からみると、河村名古屋市長や菅官房長官の企画展への介入は、憲法21条1項によって保障されている「表現の自由」を踏みにじる行為にほかならず、多くの観客が作品を目にすることを阻止しようとしたものとして、憲法21条2項によって禁止されている「検閲」に相当する効果を持つものです。
現在の日本に「表現の自由」があるのかを問い直そうという「表現の不自由展・その後」が攻撃を受けて中止されるという異常事態は、民主主義の根幹である「表現の自由」が奪われたことを意味します。表現者や表現行為に対する脅迫行為は決して許されてはなりません。政府や自治体には、表現の自由を妨害する行為を阻止し、「表現の自由」と「知る権利」を擁護することこそが求められます。一連の出来事の経過を振り返ってみると、名古屋市や政府の対応は、少数者が表現する機会を著しく狭め、多様な表現を「知る権利」を制限するものであったといわざるを得ません。

第二に、私たちは、文化庁による補助金不交付決定について、何よりもその理由が展示内容を理由としたものではないという言い分に疑問をもちます。
8月3日時点での菅官房長官の発言は、河村市長の発言に連動し、「具体的な展示内容」に言及した上で、「事実関係を精査して補助金交付の是非を検討する」としていました。一連の経過からみて、9月26日の文化庁の補助金不交付決定は、8月3日の菅官房長官の発言に呼応し、再開が決まった企画展の「表現内容」を理由として、いったん交付が事実上決まっていた補助金を不交付とすることにより企画展の再開を妨害する意図があったことが強く推測されるものであり、「検閲」と同視すべき違憲・違法な決定であった疑いがあります。
この点で、文化庁が「あいちトリエンナーレ」への補助金の不交付決定をするに際して、その意思決定に至る過程の記録を何も残していないことには重大な疑義があります。公文書管理法4条は、各行政機関に文書作成義務を課し、経緯も含めた意思決定に至る過程や行政機関の事務・事業の実績を合理的に跡付け、検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除いて、文書を作成しなければならないとしています。
この規定をうけた文科省の文書管理規則では、文書作成義務に加えて、地方公共団体等を含む公私の団体に補助金等を交付する場合には、「交付の要件に関する文書」や「交付のための決裁文書その他交付に至る過程が記録された文書」については、交付に係る事業が終了する日から5年間保存しなければならないとしています。
「あいちトリエンナーレ」に対する補助金の交付は、専門家から成る審査委員会に諮って4月に補助金事業として採択する旨の通知がなされ、事実上決められていました。ところが、10月15日の参議院予算委員会における宮田亮平文化庁長官の答弁では、宮田長官自身は不交付の決裁をしておらず、文化庁側の答弁によれば、不交付については審査委員会に諮らず、審議官が9月26日に決裁したことも明らかにされています。
文科省も文化庁も、あくまで「手続上の不備」が不交付決定の理由であり、「表現の内容」に基づくものではないと主張していますが、不交付の決定に至る過程の記録が全く残されていないために、その適否を検証する手掛かりがないという不合理な事態に至っています。モリカケ疑惑の再現を思わせる文科省と文化庁の公文書管理法の趣旨を無視した対応に重大な疑問があることを指摘せざるを得ません。
すでに採択通知により補助金交付が実質的に決定され、それを前提として文化芸術事業が行われた後になって、補助金全額の不交付を決定するなどという事態が前例となれば、表現の自由に対する重大な萎縮効果をもたらすことは明白であり、絶対に許されてはなりません。補助金不交付決定は直ちに撤回されるべきです。まして、こうした異常な決定に至る意思決定過程が隠され、検証不能とされることは、看過できない暴挙というほかありません。

私たちは、「表現の不自由展・その後」の中止と補助金不交付問題が、憲法21条の保障する「表現の自由」の核心に関わるものであることを深刻に受け止め、上記のとおり意見を表明するとともに、すべての関係者に対して、一連の経過を振り返り、「あいちトリエンナーレ2019」が提起した問題を改めて検証し直すよう、求めます。
(2019年11月8日)

「法と民主主義」2019年10月号【542号】のご購読を

「法と民主主義」2019年10月号【542号】が発売中である。
その概要は、下記URLをご参照いただきたい。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html

特集は、以下の2本立て。ぜひとも、ご購読をお願いしたい。
Ⅰ●共生をめざして ── 民族差別を許さない
Ⅱ●国旗国歌強制の是正を求める「ILO・ユネスコ勧告」をどう生かすか

お申し込みは、下記URLから。

https://www.jdla.jp/houmin/form.html

「法と民主主義」(略称「法民」)は、日民協の活動の基幹となる月刊の法律雑誌です(発行は年10回)。毎月、編集委員会を開き、全て会員の手で作っています。憲法、原発、司法、天皇制など、情勢に即応したテーマで、法理論と法律家運動の実践を結合した内容を発信し、法律家だけでなく、広くジャーナリストや市民の方々からもご好評をいただいています。定期購読も、1冊からのご購入も、上記のURLから可能です(1冊1000円)。なお、今月号の編集は、澤藤の担当です。**************************************************************************

 特集Ⅰ●共生をめざして ── 民族差別を許さない

◆特集にあたって … 編集委員会・澤藤統一郎
◆いま、在日コリアンの人権状況は … 金 竜介
◆高校無償化の朝鮮高校除外 最高裁判決と今後の課題 … 丹羽 徹
◆「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典」の今日的意義と追悼の辞送付を拒否する小池都知事に見る問題 … 宮川泰彦
◆川崎の差別禁止条例案 ─ その立法事実と条例制定の経過 … 宋 惠 燕

 

特集Ⅱ●国旗国歌強制の是正を求める
「ILO・ユネスコ勧告」をどう生かすか

◆特集にあたって … 編集委員会・澤藤統一郎
◆ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」の意義とCEARTの役割 … 勝野正章
◆初めての「国旗・国歌強制」是正 セアート勧告の内容と意義 … 寺中 誠
◆国際人権法をいかに活用するか─ CEART勧告とNGOの課題 … 前田 朗
◆ILO・ユネスコからの勧告をどう活かしていくか … 渡辺厚子

特集外

◆特別寄稿●関西電力スキャンダルの闇
── 原発マネーの実態が露見 ── … 岡田俊明
◆司法をめぐる動き(51)
・東電刑事裁判無罪判決 ── 司法が原子力行政を忖度して東電役員を救済した … 海渡雄一
・9月の動き … 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2019●《文明が問われている》
災害、NHK、N国… メディアも共犯 積年のツケが明るみに … 丸山重威
◆あなたとランチを〈No.49〉
止まるな憲法9条号 … ランチメイト・宮坂浩先生×佐藤むつみ
◆BOOK REVIEW●市民の奮起が情報環境の「現在史」をのり超える
── 田島泰彦 著『表現の自由とメディアの現在史』(日本評論社) … 服部孝章
◆改憲動向レポート〈No.18〉
「私の考え方の基本は9 条改正にある」と発言する安倍首相 … 飯島滋明
◆インフォメーション
◆ひろば●私、こんな本を読んでいます … 宮腰直子
◆時評●天皇の代替わり儀式とオクトーバー・フェスト … 小沢隆一

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◆特集Ⅰのリード

人権尊重を理念とする社会に差別があってはならないことは当然だが、民族差別や人種差別は、平和と国際協調の主要な障害物でもある。戦前の軍国主義日本では、侵略戦争と植民地支配の道具として、故なき民族蔑視や排外的差別感情が作られ、煽られた。
戦後、時を経た今なお、その作られた民族差別感情は払拭され得ていない。国民の精神の奥底に澱のように沈殿して、折りあらば浮揚する。平和や国際協調に敵対する勢力の煽動によって、民族差別はときに大合唱となる。
この民族差別意識は、敗戦と日本国憲法の制定によって清算すべきであった負の遺産にほかならない。駆逐されるべくしてされなかった差別意識が、むしろ近年再生産されている側面さえ否定し得ない。
ヘイトスピーチ、ヘイトクライム、ヘイトデモという言葉と現実が横溢する昨今の国内社会は、北朝鮮・韓国との国際関係の冷え込みの反映でもある。平和と国際協調のためにも、国内の民族差別問題の克服は喫緊の重要課題である。
当誌は、今年の4月号に「日韓関係をめぐる諸問題を検証する」という特集を組んだ。昨年10月の韓国大法院徴用工判決以来の日韓関係の現状を歴史的背景に遡って考察する大型企画となったが、そのリードに「日韓関係が過去最悪」とのコメントがなされている。ところが、その後半年間の日韓関係の事態の推移は、さらに急速に悪化し深刻化している。とりわけ、政府とメディアに煽られた日本社会の「嫌韓」の空気は、人権問題としても、政治問題としても到底看過し得ない。
今、国内でどのような民族差別問題が生じているかを正確に認識するとともに、この事態に警鐘を鳴らしたい。その思いから、本号では、在日差別に焦点をおいた緊急の特集を組むこととした。
当然のことながら、官民の在日差別の深刻化があれば、この空気に抗って差別を許さないとする運動の昂揚もある。その運動の成果もあれば、この時代故の困難もある。その運動に携わっている方々に、当誌ならではの貴重な寄稿をいただいた。

総論的に金竜介氏(在日コリアン弁護士協会・代表)から、「いま、在日コリアンの人権状況は」をいただいた。氏は、差別される側の視点で、「差別を許容する社会」が既に現実化していると指摘する。陰湿な差別を看過している間に、あからさまな排外主義が大手を振ってまかりとおる時代となってしまった。永住外国人への参政権の付与が遠のき、在日外国人の無権利状態が固定化され、ヘイトスピーチが跋扈している。しかし、問題はヘイトスピーチにとどまるものではないという。問題の深刻さを認識し共有するところから、「共生をめざす」議論を始めねばならない。この論稿で、民族差別の全体状況や主要な問題点を把握いただきたい。
丹羽徹・龍谷大学法学部教授には、象徴的な「在日差別」として、民族教育を行う朝鮮高校への無償化措置からの除外問題を寄稿いただいた。高校無償化において、朝鮮高校だけを除外 した露骨な差別の実態と、この除外を違法とする全国五件の訴訟の経過を丁寧に解説いただいている。残念ながら、司法はその役割を放棄したとしかいえない。問題は、保育無償化にも及んでおり、多文化共生の理念は深刻な壁に突き当たっている。
宮川泰彦弁護士(日朝協会会長)には、日朝・日韓の歴史における負の遺産として見逃すことのできない関東大震災後の日本人による朝鮮人(中国人を含む)虐殺事件と、その犠牲者追悼碑建立と追悼式の由来をご紹介いただいている。小池百合子東京都知事の、これまでの歴代知事とは明らかに異なる追悼式への対応の問題点を、当事者として執筆いただいた。
最後に、宋惠燕弁護士(武蔵小杉合同法律事務所)から、「川崎の差別禁止条例案ーその立法事実と条例制定の経過」の論稿。最も典型的な川崎市におけるヘイトの実態や、それを克服するための差別禁止条例案発表までの道のり。そして、全国初の実効性ある罰則をともなう条例の意義や、その過程での議論は、困難な中の優れた実践例として参考になろうと思われる。

今、私たちの国では恥ずべき民族差別が横行している。本特集を通じて、この民族差別を克服して、共生の社会を作ることが、人権と平和と国際協調の第一歩であることを確認したい。(「法と民主主義」編集委員会 澤藤統一郎)

◆特集Ⅱのリード

 本小特集は、ILO・ユネスコの日本政府に対する「国旗国歌強制の是正を求める勧告」を取りあげる。
周知のとおり、公立学校での国旗・国歌(日の丸・君が代)強制が、看過し得ない大きな問題となっている。とりわけ、東京都教育委員会の強硬姿勢が突出している。悪名高い「10・23通達」(2003年10月)発出以来、都内の全公立学校では入学式・卒業式に全教職員に対して国旗に正対して起立し、国歌を斉唱するよう職務命令が発せられ、これに服しない教員に対して苛酷な懲戒処分が濫発されてきた。
この問題は、憲法訴訟として、また教育訴訟として、長く法廷で争われ、「10・23通達」16年を経た今、教員側は起立・斉唱の強制や懲戒処分を違憲とする判決を得るに至っていない。しかし、処分歴の累積を理由に戒告を超えた減給以上の処分量定は懲戒権の逸脱濫用として違法とされている。訴訟の現段階は、都教委側にも当初の思惑がはずれた事態となっている。
法廷での争訟がやや閉塞感を漂わせている状況の中で、国際人権の分野から、朗報が届けられた。それが、このほどILO・ユネスコ合同委員会(セアート)における検討を経て、両機構が日本の政府に対して発出するに至った、「国旗国歌強制の是正を求める」勧告である。
本特集では、多くの法律家にその経過と内容を報告して意義を知っていただくとともに、かならずしも勧告を積極的に受けとめようとはしない文科省や各地の教育委員会にアピールする運動に役立てたいと思う。

国連はいくつもの専門機関を擁して、多様な人権課題に精力的に取り組んでいる。労働分野では、ILO(国際労働機関)が世界標準の労働者の権利を確認し、その実現に大きな実績を上げてきた。また、ユネスコ(国際教育科学文化機関)が、教育分野で旺盛な活動を展開している。その両機関の活動領域の交わるところ、労働問題でもあり教育問題でもある分野、各国の教育労働者(教職員)に固有の問題については、ILOとユネスコの合同委員会が作られて、その権利擁護を担当している。この合同委員会が「セアート(CEART)」である。
各国の教職員組合が、それぞれに抱える問題をセアートに訴え、国連から各国にしかるべき勧告がなされるよう働きかけている。そのような試みのひとつとして、我が国のいくつかの教職員労組が、「日の丸・君が代」強制問題を取りあげるようセアートに申し立てた。この春、これが正式に取りあげられ、ILOとユネスコ両機関での正式決議が成立し、日本政府に対する勧告となった。その意義は大きい。

申し立てを行って、勧告を得たのは、東京と大阪にある二つの独立系教職員組合。「アイム’89東京教育労働者組合」と「合同労組仲間ユニオン」の教職員支部である。この申立をセアートは受理し調査を実施した。日本政府へ問い合わせもおこない、アイム’89と日本政府の双方にそれぞれ意見と反論を述べる機会を与えたうえで、2018年10月、ILOとユネスコに対する報告・勧告を採択した。この勧告に基づいて、2019年3月ILO理事会が4月にはユネスコ執行委員会が、正式に採択して公表し、小さな組合の大きな成果となった。

ILOとユネスコの日本政府に対する勧告は、以下の6点である。明らかに、「国旗・国歌(日の丸・君が代)」強制を是正するよう求めるものとなっている。
(a)愛国的な式典に関する規則に関して教員団体と対話する機会を設ける。その目的はそのような式典に関する教員の義務について合意することであり、規則は国旗掲揚や国歌斉唱に参加したくない教員にも対応できるものとする。
(b)消極的で混乱をもたらさない不服従の行為に対する懲罰を避ける目的で、懲戒のしくみについて教員団体と対話する機会を設ける。
(c)懲戒審査機関に教員の立場にある者をかかわらせることを検討する。
(d)現職教員研修は、教員の専門的発達を目的とし、懲戒や懲罰の道具として利用しないよう、方針や実践を見直し改める。
(e)障がいを持った子どもや教員、および障がいを持った子どもと関わる者のニーズに照らし、愛国的式典に関する要件を見直す。
(f)上記勧告に関する諸努力についてそのつどセアートに通知すること。

このILO・ユネスコ勧告は、「日の丸・君が代」強制の入学式・卒業式を「愛国的な式典」と呼んでいる。最も注目すべき上記(a)は「国旗掲揚や国歌斉唱に参加したくない教員」の立場を慮るものであり、(b)では「消極的で混乱をもたらさない不服従の行為に対する懲罰を避ける」よう手段を尽くせと言う。つまり、「入学式・卒業式での国歌斉唱時における強制はやめよ。平穏な不起立に対する懲戒処分は避けよ」と言っているのだ。これが、勧告の眼目である。

この問題をめぐって、本特集では4本の論稿をお送りする。
まず、勝野正章氏(東京大学「教員の地位に関するILO勧告の歴史」が、今回勧告の基本となつている1966年勧告を中心に、何が教育労働者処遇のグローバルスタンダードになっているかを解説している。また、「セアート」とは何か、その勧告がいかなる意味をもつものかを総論としてお読みいただきたい。
寺中誠氏(東京経済大学)の「ILOユネスコ勧告の内容とその意義」は、勧告の内容とその積極的意義について論じていただいた。
また、前田朗氏(東京造形大学)には、「国際人権法の射程と活用について」と題して、予想される政府と各教委の対応と、国内法の法源としての実践的活用の展望についての解説をいただいた。
渡辺厚子氏(アイム89労組「ILOユネスコ勧告の活用の展望」は、当事者としての勧告にいたるこれまでの経過と、今回の勧告を生かす今後の運動の展望を中心にご報告をいただいた。

日本政府ならびに各地教委は、国旗国歌の強制、しかも懲戒処分までしてする「日の丸・君が代」への敬意表明の強制は、世界標準からみて非常識なものであることを真摯に受け止めなければならない。本特集が、そのような事態転回の契機となることを願っている。
(「法と民主主義」編集委員会 担当澤藤統一郎)
(2019年10月31日)

第50回司法制度研究集会「今、あらめて、司法と裁判官の独立を考える」─ 司法の危機の時代から50年─

第50回司法制度研究集会へのお誘い

 司法制度研究集会は、今年第50回を迎えます。
50年前の1969年は、自衛隊の違憲性を問う長沼ナイキ基地訴訟が提起され、担当の福島重雄裁判官に対する裁判干渉の書簡が平賀健太札幌地裁所長から渡される「平賀書簡事件」が起こり、政治権力と最高裁が一体となって、憲法を守ろうとする全国の裁判官を攻撃する「司法の危機」と呼ばれる一連の出来事が始まった年でもありました。

あれから50年。いまの司法はどうなっているでしょうか。「司法の危機」の影響は形を変えながら根強く残ってはいないでしょうか。昨年の司法制度研究集会は、「国策に加担する司法」を告発しましたが、司法・裁判官は独立して職権を行使し、立憲主義・人権の砦の役割、戦争の惨禍を二度と繰り返させない役割を果たしているでしょうか。その役割を果たさせるために、法律家は何をすべきでしょうか。

第50回の節目にあたり、司法の問題を皆で考えていく出発点にすることを願い、これまで日本民主法律家協会が主催してきた集会を、今年は、法律家3団体と全司法労働組合の共催で行うこととし、準備を重ねてきました。
50年前を知る弁護士から若手の弁護士、元裁判官、研究者など、多彩な報告者・発言者から多面的な問題提起をしていただきます。ぜひご参加下さい。共に考えましょう。

日 時■2019年11月23日(祝・土)午後1時~6時
会 場■東京・永田町 全国町村会館ホールA・B
参加費■資料代1000円(修習生・学生500円)

主 催■自由法曹団/青年法律家協会弁学合同部会/全司法労働組合/日本民主法律家協会
連絡先■日本民主法律家協会(TEL:03-5367-5430 FAX:03-5367-5431)

 ■基調報告:その1
   長沼事件から50年・我々はいま、何をなすべきか
                           新井 章 弁護士

 ■特別報告
   司法の危機の時代── 何があったのか
                          鷲野忠雄 弁護士

 ■基調報告:その2
   司法の可能性と限界と──司法に役割を果たさせるために
                         井戸謙一 弁護士

 ■特別発言
  岡口裁判官問題から考える裁判官の独立と市民的自由
                          島田 広 弁護士

  刑事法の視点から最近の最高裁を批判する
                    白取祐司 神奈川大学教授

  問われる最高裁の思考様式──行政法の観点から
                                                  晴山一穂 専修大学名誉教授

報告者と報告内容の紹介

※新井章 弁護士 1954年弁護士登録(8期)。砂川・百里・恵庭・長沼など、憲法9条を巡る重要な訴訟を担当し、長沼訴訟を提起した直後に、担当裁判官の福島重雄さんが地裁所長から裁判干渉されるという平賀事件を経験。当時の社会的・歴史的背景を振り返りながら、戦後日本の軍事政策に対する国民の闘いと憲法訴訟の意義、司法の危機をもたらしたもの、そして今後の法律家がいかに行動すべきかを語っていただきます。

※鷲野忠雄 弁護士 1964年弁護士登録(16期)。「司法の危機」の時代、青法協事務局長としてまさに激動の情勢に対応された上、1971年創立された「司法の独立と民主主義を守る国民連絡会議」の事務局長として司法の独立のための国民運動に大きく貢献されました。「何があったのか」を「今」に繋がる史実として、伝えていただきます。

※井戸謙一 弁護士 1979年裁判官任官、2011年退官、弁護士登録(31期)。裁判官時代、原発差止、住基ネット差止、議員定数不均衡違憲判決等を担当し、弁護士登録後は、原発差止・再稼働禁止、刑事再審事件(湖東事件)等で大きな成果をあげておられます。裁判所の内・外で真摯に事件に取り組んできた立場から、「司法の危機」後の裁判官の意識、いまの裁判所・裁判官の状況、裁判官を動かすものは何か、等々について語っていただきます。

※島田 広 弁護士 1998年弁護士登録(50期)。2018年、東京高裁の岡口基―裁判官がツイッターヘの投稿を理由に東京高裁、最高裁から懲戒処分を受けた件で、「裁判官の表現の自由の尊重を求める弁護士共同アピール」のとりまとめをされました。岡目事件に取り組んだ問題意識、裁判官の独立・市民的自由について、ご発言をいただきます。

※白取祐司 神奈川大学教授 最近、1・2審の判断を覆して大崎事件の再審開始決定を破棄自判したり、死刑囚がハムレットの一節を記した便箋台紙の廃棄処分を適法とするなど、異例・異常とも言える最高裁の判断が続いています。刑事法の研究者として、こうした最高裁の判断・姿勢を批判的に分析していただきます。

※晴山一穂 専修大学名誉教授 行政法・公務員法をご専門とする研究者の立場から、最高裁がいかに権力側の立場を尊重する姿勢に立っているかという問題意識、これとの関係で、安倍内閣による最高裁裁判官の選任についても批判的に論じていただきます。

例年のとおり、質疑・応答・討論の時間も設けられています。ぜひ、ご参加ください。
(2019年10月15日)

「法と民主主義」特集《市民と立憲野党の13の共通政策・私たち法律家の闘い》のお勧め

「法と民主主義」2019年8/9月合併号【541号】が好評発売中である。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html

特集の総合タイトルが、参院選2019と法律家の課題」というもの。その目玉が、市民と立憲野党の13の共通政策・私たち法律家の闘い」という企画。

リードの一部を紹介しておきたい。

 「…『市民と立憲野党の13の共通政策・私たち法律家の闘い』は、市民連合呼びかけ人である広渡清吾氏のほか13名の論者に執筆頂いた論考である。
 19参院選は、安倍政治に終止符を打つべく、安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合と立憲野党四党一会派による13項目の共通政策についての合意が実現する中でたたかわれた。
 改憲問題対策法律家6団体連絡会は、この政策合意が挙げる13項目の分野の第一線で活動する法律家に呼びかけて、それぞれの立場から、この政策合意の項目に賛同し、安倍政治からの転換を目指す立憲野党会派を支持する記者会見を参院選前7月1日に行った。
 法律家たちは、
①安倍政治によっていかに国民生活が疲弊し、軍事大国化が進み、民主主義と人権が危機に晒されているか、
②憲法の諸価値が壊されることに対して、それぞれの課題について市民運動がいかに粘り強く奮闘しているか、
③安倍政治のもとでそれぞれの課題を実現することは困難を極めており、草の根の市民運動とそのたたかいは、安倍政治に代わる、憲法の諸価値を実現する新たな政治をどれほど求めているか
を豊かに語った。
 本特集では、この記者会見で報告頂いた法律家の皆さんに、改めて論考を執筆頂き、『市民と立憲野党の13の共通政策・私たち法律家の闘い』として構成した」

 昨日(9月30日)が、「法と民主主義」編集会議。【541号】の総括について真っ先に出た意見が、「『参院選2019と法律家の課題』というタイトルの付け方が間違っていたのではないか」というもの。『法律家の課題』ではなく、「市民の課題」とすべきではかったか。このタイトルでは、あたかも法律家の、その専門分野だけの課題の特集のごとくではないか。むしろ、その内容は、市民に読んでもらいたいという法律家からの呼びかけではないか。
なるほど、まったくそのとおりだ。本特集は、『市民と立憲野党の13の共通政策』の各課題を法律家の視点から受けとめて掘り下げたものだが、法律家は市民の一部に過ぎない。法律分野で完結する問題など一つもありはしない。市民に呼びかけ、市民と連携することでしか、政策課題の実現はあり得ない。
 多くの市民にこれをお読みいただくとともに、各分野で,各課題への具体的取り組みを進めていただきたい。そんな思いでの、購読のお薦めである。

それに、今号は増ページで定価は据え置き。いつもよりは、多少のお買い得感がある。

「法と民主主義」(略称「法民」)は、日民協の活動の基幹となる月刊の法律雑誌です(2/3月号と8/9月号は合併号なので発行は年10回)。毎月、編集委員会を開き、全て会員の手で作っています。憲法、原発、司法、天皇制など、情勢に即応したテーマで、法理論と法律家運動の実践を結合した内容を発信し、法律家だけでなく、広くジャーナリストや市民の方々からもご好評をいただいています。定期購読も、1冊からのご購入も、下記URLから可能です(1冊1000円)

https://www.jdla.jp/houmin/form.html

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法と民主主義2019年8/9月合併号【541号】(目次と記事)

特集●参院選2019と法律家の課題

◆特集企画にあたって … 編集委員会・南 典男
■特別報告●参院選の結果と安倍改憲をめぐる新たな情勢・課題
── 日民協第58回定時総会記念講演より … 渡辺治
■市民と立憲野党の13の共通政策・私たち法律家の闘い
◆新しい政治の旗印 ─ 市民連合と立憲野党の共通政策を発展させる … 広渡清吾
◆立憲野党会派の政策合意と改憲・軍拡反対の法律家共同 … 大江京子
◆「戦争法」の違憲性、歴史への冒涜を問う ─ 安保法制違憲訴訟 … 杉浦ひとみ
◆いまこそ共謀罪の廃止を展望する … 海渡雄一
◆沖縄・辺野古新基地建設問題 … 稲 正樹
◆「共通政策」第5項目の評価と注文
─ 朝鮮半島の平和と非核化、北朝鮮との国交正常化等のために… 大久保賢一
◆「原発ゼロ基本法案」の審議・成立を! … 海部幸造
◆日本で働くすべての労働者が安心して公平に働ける労働法制の実現を…棗一郎
◆消費税の増税中止と税制の公平化 … 浦野広明
◆教育政策の真ん中に子どもの人格的成長を … 小林善亮
◆貧困・社会保障─生活実態を踏まえ、希望の持てる共通政策の発展を…加藤健次
◆ジェンダー平等の確立に向けて
─ 法律家及び法律家運動に求められること… 角田由紀子
◆公文書にまつわる疑惑の徹底究明と透明で公平な行政の実現 … 右崎正博
◆報道の自由と改革の課題 … 田島泰彦

◆特別寄稿●冤罪防止と再審請求を実現するため
── 三鷹事件の再審請求棄却決定から考える── … 高見澤昭治
◆司法をめぐる動き
・「法科大学院関連法」の成立について … 戒能通厚
・7/8月の動き … 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2019●《「言論の自由」の責任》
韓国叩き、トリエンナーレ…、その背景
「改憲情勢」は時代の風潮なのか … 丸山重威
◆あなたとランチを〈№48〉
上田誠吉を仰ぎ見て … ランチメイト・泉澤章先生×佐藤むつみ
◆BOOK REVIEW●『国家機密と良心』(ダニエル・エルズバーグ著)を創った … 梓澤和幸
◆BOOK REVIEW●自著『「核の時代」と憲法9条』を語る … 大久保賢一
◆改憲動向レポート〈№17〉
父の墓前で改憲を誓う安倍首相 … 飯島滋明
◆ひろば●50回目を迎える「司法制度研究集会」を成功させよう! … 大山勇一
◆時評●消費税の呪縛を解く … 浦野広明
(2019年10月1日)

第58回日本民主法律家協会定時総会 ― 新たな憲法情勢をめぐって。

昨日(8月4日)、一入暑い夏の盛りに、日本民主法律家協会・第58回定時総会が開催された。自ずと主たる議論は、改憲情勢と、改憲情勢に絡んでの参議院選挙総括に集中した。そして、「相磯まつえ法民賞」受賞対象の各地再審事件弁護団が語るホットな再審審理状況と裁判所のありかた、さらに降って湧いたような「表現の不自由展」の中止問題が話題となった。

冒頭に、渡辺治・元協会理事長から、「参院選の結果と安倍改憲をめぐる新たな情勢・課題」と題した記念講演があった。参院選の結果は安倍改憲を断念させるに至っていない。情勢は引き続いて厳しいという大筋。「法と民主主義」(8・9月合併号)に掲載の予定となっている。

政治状勢も、国際情勢も、憲法情勢も、けっして明るくはない。それでも、総会や法民賞授賞式、懇親会での各参加者の発言が実に多彩で、元気に満ちていた。年に一度、こうして集う意味があることを確認した集会となった。

名古屋から参加した会員が、「表現の不自由展」の中止問題を生々しく語り、誰もが由々しき問題と受けとめた。右翼に成功体験をさせてはならない。現地での取り組みにできるだけの支援をしたい。

伝えられる内容の脅迫電話による展示の中止は、明らかに威力業務妨害である。脅迫電話の音声を公開し、速やかな告訴があってしかるべきで、刑事民事の責任を追及しなければならない。こんなときこそ警察の出番ではないか。この件の経験を今後の教訓とすべく、詳細な報告が欲しい。

採択された、憲法問題と司法問題での2本の「日本民主法律家協会第58回定時総会特別アピール」をご紹介して、総会の報告とする。

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 2019参院選の成果を踏まえ、市民と野党の共闘のさらなる前進で、安倍改憲に終止符を

 2017年5月3日の安倍首相の改憲提言以来、自民党は、改憲勢力が衆参両院で3分の2を占める状況に乗じて、さまざまな改憲策動を繰り返してきました。しかし、市民の運動とそれに支えられた野党の奮闘により、改憲発議はおろか改憲案の憲法審査会への提示すらできずに2年が過ぎ、この参院選で改めて3分の2の維持をはかるしかなくなりました。選挙戦での安倍首相の異様な改憲キャンペーンは、その証左です。
ところが、改憲勢力は発議に必要な3分の2を維持できませんでした。この3分の2を阻止した直接の要因は、市民と野党の共闘が、安倍政権による改憲反対、安保法制廃止をはじめ13の共通政策を掲げて32の一人区全てで共闘し、前回の参院選並みの10選挙区で激戦を制して勝利するなど、奮闘したことです。また、「安倍9条改憲NO! 全国市民アクション」が提起した3000万署名の運動が全国の草の根で取り組まれ、私たち日民協も参画する「改憲問題対策法律家6団体連絡会」は、自民党の改憲案の危険性をいち早く解明し、政党やマスコミへの働きかけ、バンフの発行や集会などを通じて、安倍改憲に反対する国民世論を形成・拡大する上で大きな役割を果たしてきました。
それでも、安倍首相は改憲をあきらめていません。それどころか、選挙直後の記者会見で「(改憲論議については)少なくとも議論すべきだという国民の審判は下った」などと述べて、改憲発議に邁進する意欲を公言しています。「自民党案にこだわらない」とも強調することで、野党の取り込みをはかり3分の2の回復を目指すなど、あらゆる形で改憲の強行をはかろうとしています。しかし、参院選の期間中もその後も、「安倍政権下の改憲に反対」が世論の多数を占めていることに確信を持ちましょう。
いま、安倍9条改憲を急がせる国内外の圧力が増大しています。アメリカは、イランとの核合意から一方的に離脱して挑発を繰り返した結果、中東地域での戦争の危険が高まっています。トランプ政権は、イランとの軍事対決をはかるべく有志連合をよびかけ、日本に対しても参加の圧力を加えています。こうしたアメリカの戦争への武力による加担こそ、安倍政権が安保法制を強行した目的であり、9条改憲のねらいです。辺野古新基地建設への固執、常軌を逸したイージスアショア配備強行の動きも9条破壊の先取りにはかなりません。
私たち日本民主法律家協会は、こうした安倍改憲の企てに終止符を打つべく、今後とも「改憲問題対策法律家6団体連絡会」や「安倍9条改憲NO! 全国市民アクション」の活動に邁進するとともに、市民と野党の共闘のさらなる前進に協力していくことを、ここに宣言します。

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「国策に加担する司法」を批判する

 司法の使命は、憲法の理念を実現し、人権を保障することにあります。司法は、立法からも行政からも、時の有力政治勢力からも毅然と独立して、憲法に忠実にその使命を果たさなくてはなりません。その司法の使命に照らして、長く司法の消極性が批判されてきました。違憲判断があるべきときに、司法が躊躇し臆して、違憲判断を回避してきたとする批判です。その司法消極主義は、戦後続いてきた保守政権の政策を容認する役割を果たし、憲法を社会の隅々に根付かせることを妨げてもきました。
そのため、砂川事件大法廷判決(1959年12月16日)に典型的に見られる司法消極主義を克服することが、憲法理念実現に関心を寄せる法律家の共通の課題と意識されてきました。ところが、近時事態は大きく様変わりしていると言わねばなりません。
2018年10月に開催された、当協会第49回司法制度研究集会のメインタイトルは「国策に加担する司法を問う」というものでした。司法は、その消極主義の姿勢を捨て、むしろ国策に積極的に加担する姿勢に転じているのではないか、という衝撃的な問題意識での報告と討論が行われました。
その先鞭として印象的なものが、沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設に伴う「海面埋め立ての可否をめぐる一連の訴訟です。とりわけ、国が沖縄県を被告として起こした「不作為の違法確認訴訟」。国は、翁長雄志知事(当時)による「前知事の埋立承認取り消し」を違法として、撤回を求める知事宛の指示を出し、知事がこれに従わないとして提訴しました。一審となった福岡高裁那覇支部への提訴が2016年7月22日、判決が9月16日という異例の超スピード判決。その上告審も、国への手厚い慮りで、同年12月20日判決となり国の勝訴が確定しました。「海兵隊航空基地を沖縄本島から移設すれば、海兵隊の機動力、即応力が失われることになる」とする国の政治的主張をそのまま判決理由とした福岡高裁那覇支部の原判決を容認したのです。
また、同じ時期に言い渡された、厚木基地騒音訴訟最高裁判決は、夜間早朝の飛行差し止めを認めた1、2審判決を取り消し、住民側の請求を棄却しました。「自衛隊機の運航には高度の公共性がある」としてのことで、国策の根幹に関わる訴訟での、これまでにない積極的な国策加担と指摘せざるを得ません。
以来、原発訴訟、「日の丸・君が代」強制違憲訴訟などで、最高裁の「親政権・反人権」の立場をあからさまにした姿勢が目立っています。最近では、地裁・高裁での再審開始決定を破棄した上「再審請求棄却」を自判した大崎事件の特別抗告審決定(2019年6月25日)、また、現職自衛官が防衛出動命令に従う義務はないことの確認を国に求めた戦争法(安保法制)違憲訴訟において「訴えは適法」とした2審・東京高裁判決を「検討が不十分」として破棄し、厳しい適法要件を設定して、審理を同高裁に差し戻した最高裁判決(同年7月22日)があります。
このような最高裁の姿勢は、最高裁裁判官人事のあり方と無縁なはずがありません。既に、最高裁裁判官の全員が第2次以後の安倍内閣による任命となっています。人権擁護の姿勢を評価されてきた弁護士出身裁判官が、必ずしも日弁連推薦枠内から選任されていないとも報道されています。最高裁裁判官の人事のあり方が重大な課題となっています。
私たち日本民主法律家協会は、こうした政権に擦り寄った司法を厳重に監視するとともに、国民のための司法制度確立のために、努力を重ねていくことを宣言します。

 (2019年8月5日)

全国の漁民の皆さん、安倍自民党に票を投ずることは、自分の首を絞めることですぞ。

またまた、法と民主主義」6月号《特集・アベノミクス崩壊と国民生活のお薦めである。本日は、アベノミクスと漁業… 加瀬和俊」論文のご紹介。

「特集にあたって」と標題するリードでは、南典男編集委員が、加瀬論文をこう要約して紹介記事を書いている。

 「加瀬和俊氏(帝京大学教授)は、安倍内閣による漁業・農業の『成長産業化』方針の下で、漁業法が大幅に改変され、企業的経営体が優良漁場を優先的に確保し、免許された海面を私有地のように排他的に占有し続ける仕組みが作られ、
①小規模漁業者を排除し、
②都道府県行政を国の付属物とみなし、
③現場の実情を軽視している
と指摘している。
アベノミクスによって、漁業のみならず地域経済全体が壊されようとしている。」

加瀬さんは、長く東大社研の助教授・教授だった方。専門は、日本近代経済史(雇用・失業問題、農漁業問題)だという。今次の漁業法改正問題では、その新自由主義的本質を追及して、政府に果敢な論戦の先頭に立った。

アベノミクスとは何か、どんな特徴をもっているのか、4頁の論文によく表れている。さらに、そもそも経済とはあるいは経済政策とは、いったい何を目指すものなのかが、鋭く問われているとも思う。いったい、今の政権は、何を大義として、誰のためにどのような経済社会を作ろうとしているのだろうか。そのような問題意識が、この論文の最後の次のまとめの一文に鮮明である。

 以上のように、今回の漁業法の改訂の経緯には、資本力を有する企業的経営に最大限の便宜を図り、それが当該産業内の大多数の経営体にマイナスに作用するものであっても、それこそが「成長産業化」なのだという思い込みと、それを強権的な方法で実現するという手法とが鮮明に表れており、アベノミクスの典型例とみなすことができる。

 アベノミクスが推進するものは、「資本力を有する企業的経営に最大限の便宜」を実現することである。そのことによって、「当該産業内の大多数の経営体へのマイナスの作用」が強行される。大義は、「成長産業化」である。

もう少し砕いて端的に言えば、こういうことだ。
今のまま零細漁民に小規模な漁業をやらせていたのでは、漁業はいつまでも成長産業にはならない。今の零細漁民保護制度を抜本的に改変して、漁業界外部からの大資本を呼び寄せて漁業を企業的経営の対象とすることが肝要なのだ。そのための、最大限の企業誘致策を講じることが喫緊の課題で、零細漁民の切り捨て強行もやむを得ない。

具体的な内容は、およそ以下のとおりである。

新制度の意図するところは在来型の各種の管理方式を撤廃して漁船規模を大型化し、操業を自由に行いたいという企業の主張を受け入れていることにほかならない。

今回の漁業法「改正」は、「規制改革推進会議等の官邸主導の諸会合で水産政策審議会等にはかることもなく、仲間内だけで作った方針の提示を通じて、一気苛成に漁業法の全面改訂(2018年12月成立)に至った」のである。

 漁業法はその章別編成を含めて全文改訂といって良い大幅な変更がなされた。
 その特徴の第1は、法律の目的から「漁村の民主化」(旧法第1条)を削除し、法全体をそれに対応させて改変した。
 第2は、家族経営は遅れた存在であり、「成長産業化」のためには企業経営の優遇とともに、家族経営を企業的レベルに引き上げる必要があり、そのレベルに到達した者だけが存続する資格があるという発想」である。(以下略)

私は思う。いま、アベノミクスが強行しようとしている漁業政策は、漁民と漁村を根こそぎ破壊しようとするものなのだ。アベノミクス推進派にとっては、現在の沿岸漁業とその保護政策は、資本の自由な操業にとっての障害物でしかない。
企業的漁業に桎梏となっている零細漁民による沿岸漁業を清算して、その後に大資本による企業的漁業が行われようとしている。これは、国際的潮流である「小規模農業者・小規模漁業者の重視」とは大きく異なる特異な経済政策に外ならない。

かつては、農漁村が、保守政治の金城湯池といわれた。今や、まったく、事情は異なるのだ。アベノミクスに、新自由主義に、生業とコミュニティを奪われようとしている農民・漁民は、反安倍の立場に立たざるを得ない。

 全国の漁民の皆さんに、警鐘を鳴らさねばならない。漁民が、安倍自民党に一票を投ずることは、おのれの首を絞めることなのだ。農業においても同様である。君、欺されて与党に票を投ずることなかれ。

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「法と民主主義」(略称「法民」)は、日民協の活動の基幹となる月刊の法律雑誌です(2/3月号と8/9月号は合併号なので発行は年10回)。毎月、編集委員会を開き、全て会員の手で作っています。憲法、原発、司法、天皇制など、情勢に即応したテーマで、法理論と法律家運動の実践を結合した内容を発信し、法律家だけでなく、広くジャーナリストや市民の方々からもご好評をいただいています。定期購読も、1冊からのご購入も可能です(1冊1000円)。

お申し込みは、下記のURLを開いて、所定のフォームに書き込みをお願いいたします。なお、2019年6月号は、通算539号になります。
https://www.jdla.jp/houmin/form.html
よろしくお願いします。
(2019年7月10日)

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