澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

「浮気・不倫の慰謝料」請求に特化したビジネスモデルの問題点

昨日紹介した東京弁護士会の懲戒事例。昨日の記事は、この懲戒事案との対比で、スラップ受任弁護士に懲戒あってしかるべしとの内容。
 スラップ受任弁護士には遠慮なく懲戒請求を
  ― 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第146弾
http://article9.jp/wordpress/?p=11929
本日は、この懲戒事例がアディーレの業務における不祥事であることについての感想を記しておきたい。

この事件をTBSは次のとおり報道している。さすがにこれは分かりやすい。

 アディーレ法律事務所に所属する弁護士が慰謝料の支払いを請求した相手に不当な要求などをしていたとして、東京弁護士会は業務停止1か月の懲戒処分としました。
  東京弁護士会が業務停止1か月の懲戒処分にしたのは、東京・豊島区のアディーレ法律事務所に所属する吉岡一誠弁護士(31)です。
  東京弁護士会によりますと、吉岡弁護士は2016年8月に、女性から夫の不倫相手に慰謝料500万円を請求するための依頼を受けましたが、依頼を受けたことを告げる「受任通知」を不倫相手の女性に送らず、この女性の職場に何度も電話をかけるなどしたということです。不倫相手の女性は教員で、吉岡弁護士はこの女性に対して、「誠意が見られなければ教育委員会に通告することも検討している」などと伝えていました。
  弁護士会の調査に対して、吉岡弁護士は、「正当な弁護士活動だった」などと主張しているということです。

 懲戒を受けたこの若い弁護士は弁護士としての職業生活をアディーレ文化の中でスタートした。アディーレが集客した事件を、アディーレから配点されて、アディーレのスキームにしたがって、アディーレ流のスタイルで業務に従事して、懲戒をうけた。やや気の毒な側面を否定し得ない。

アディーレは払い金請求・債務整理」に特化した業務を行っていると思っていた私が迂闊。この件で、「浮気・不倫の慰謝料請求」も行っていることを知った。この業務が、過払い金請求とならんで定型化に馴染むものと考えてのことだろう。そのニーズを掘り起こすべく顧客誘引のネット広告を打っている。

「浮気・不倫の慰謝料問題なら弁護士法人アディーレ法律事務所」というサイトがあって、「解決事例」が列記されている。「このサプリを飲んで、こんなに元気になりました」を思わせる類の広告。例えば、こうだ。

 「不倫相手を懲らしめたい! 弁護士が強気で交渉して,慰謝料400万円を獲得!」「離婚を悩んでいるなら,まずは不倫相手に慰謝料請求。弁護士の交渉で100万円を獲得!」「夫が会社の部下と浮気。離婚を前提として弁護士が毅然と主張し慰謝料150万円を獲得!」

要するに、「浮気・不倫の慰謝料トラブルに関するご相談」に特化し、「400万円獲得!」「100万円を獲得!」「150万円を獲得!」と、獲得慰謝料金額を実績としてアピールしているのだ。

多面的な社会生活の一面の一部分を切りとってビジネスモデル化した「浮気・不倫の慰謝料請求」事件の受任。医療の現場では、「この医師は病気だけをみて、病人をみようとしない」が、批判の言葉となっている。開き直って弁護士が、「病気だけ」をみようというのだ。小さな患部の治療だけを専門にやります。その範囲をはみ出した面倒なことは一切いたしません、というわけだ。

そのこと自体は違法とも不当とも言いがたい。顧客の要請に応えていると言えば、確かにそうとも言える。そのようなニーズは確実に存在するだろう。しかし、どうしても、違和感をぬぐい得ない。手っ取り早く儲かりそうなところだけをビジネスにしているその姿勢に、である。

いずれは、弁護士業務の世界にも市場原理が持ち込まれる。弁護士もビジネスである以上は、人権だ社会正義だなど言ってはおられず、楽に金になる仕事を漁ることになるだろう。そう、「いずれは…」と語られていた事態が、「既に…」現実になっているのだ。

今回の若い弁護士の懲戒事案。私が違和感を拭えないとする弁護士ビジネスのありかたと深く関わっているものと考えざるをえない。アディーレがネットで宣伝している、「弁護士が強気で交渉し」「弁護士が毅然と主張する」という手法は、懲戒事案の「弁護士が、交渉相手を威迫し困惑させる」という手法と紙一重。手っ取り早く慰謝料を獲得しようというビジネスとしての姿勢が、相手方の言い分に十分に耳を傾けて社会的に妥当な解決に至ろうという弁護士本来のありかたに背反することになったものと推察される。

真っ当な弁護士なら、相手方の言い分にも十分に耳を傾ける。それが、妥当な解決の第一歩なのだ。ところが、弁護士業務をビジネスとしてだけとらえる弁護士には、そのような姿勢がない。例えば、スラップ弁護士。スラップ提訴は、提訴で威圧すること自体が目的なのだから、社会的に妥当な解決など眼中にない。そもそも適正妥当な請求金額という考え方がない。結局は、提訴者本人にも受任弁護士にも社会的な非難が集まることになって、提訴者の利益にはならない。

アディーレも同様。高額慰謝料額の請求や獲得をアピールするような、はしたないことは真っ当な弁護士はしないものなのだ。

ネットには、下記のような、法曹でない方からの感想もある。

若い弁護士は何を焦っているのでしょうか? 早く結果を求めるのでしょうか、大手の弁護士法人でもここまで焦って事件処理をする原因は何でしょうか、事務所から早い結果を求められる、売上を求められるのでしょうか? 勤務弁護士に対し毎月のノルマでもあるのでしょうか?

このような批判には、十分に耳を傾けるべきだろう。

なお、アディーレやこれに類似の弁護士からの請求を受けた方には、弁護士会へのご相談をお勧めする。真っ当な弁護士が法律相談に乗ってくれる。個人的対応で十分という判断もあろうし、個人での対応が難しければ受任弁護士の紹介もしてくれる。請求に威迫が伴っている場合には、弁護士懲戒の手続も教えてくれるはず。
ネット検索よりは、弁護士会を信頼することの方がずっと賢明な対応手段なのだ。
(2019年1月19日)

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