澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

「NHK受信料凍結」運動に刑事事件はあり得ない

本日の朝日の報道によれば、市民団体「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」が、「受信料支払いを半年間凍結するよう視聴者に呼びかける運動」を始めるとのこと。その運動方針に全面的に賛意を表明し支持を惜しまない。

報道内容は以下のとおり。
「就任会見での政治的中立性を疑われる発言などが問題になっているNHKの籾井勝人会長について、市民団体『NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ』は17日、籾井氏が4月中に自ら辞任しない場合、受信料を今後半年間支払わないよう視聴者に呼びかける運動を始める、と発表した。
醍醐聰共同代表によれば、同団体は21日にNHKの担当者と面会する予定。籾井氏に4月中の辞任を求めるとともに、籾井氏と全理事、経営委員会に対し、運動を起こすことを通知する。受信料の不払いではなく、あくまで『支払いの凍結』とし、籾井氏が辞任した場合は支払いを再開するとともに、滞納分も支払うよう呼びかける。」

運動には、なによりも道理が必要だ。多くの人の共感を得るための道理。それなくしては運動として成立する余地がない。運動の目標を達成することもおぼつかない。しかし、運動とは闘いでもある。道理だけでは必ずしも十分ではない。目標達成のための武器が必要だ。人を殺傷する本物の武器は逆効果、要求獲得のための手段・力が必要なのだ。まずは多くの人に問題を正確に知ってもらうこと。そして、運動への共鳴の声をあげてもらうこと。それが力となる。それだけではなく、社会的に許容された範囲での実力行使の武器が欲しい。

労働者は、労働条件改善の要求実現手段として、労働組合を結成して、団体交渉をするだけではない。実力を行使することによって目標を達成する。交渉力は、実力行使を背景とすることを源泉とする。要求は、口達者が交渉で勝ち取るものではない。とどのつまりは、どれだけの争議ができるかが交渉による妥結の水準を決める。団結権・団体交渉権だけではなく争議権を含む労働三権が、労働者自身による労働条件改善のためのワンセットの闘いの武器として憲法28条によって保障されている。

消費者運動では問題企業を糾弾するために、不買運動が呼び掛けられる。企業と闘う強力な武器として、不買運動は有効な実力行使手段である。

NHKの会長や経営委員辞任要求には十分な道理がある。道理だけはなく、受信料支払い凍結という要求獲得手段は、極めて大きなインパクトを持ちうる。受信料支払い凍結は、籾井会長辞任要求の手段としてだけに限定される模様だが、5月以降の半年間にどれだけの視聴者が参加するかが、闘いの成果の分かれ目となる。

この運動の特徴は、「受信料不払い」ではなく「半年間の支払い凍結」としている点にある。籾井会長が辞任すれば、その時点で遡って支払いを回復するとしているわけだ。凍結期間の半年を経過して、籾井会長がまだ居座っている場合にどうするか。報道では、会の方針は明確にされていないが、半年と期間を限定しているのは、運動としてはそれ以上の支払留保の継続を呼び掛けない意向だと忖度される。おそらくは、そこで凍結継続の是非は各人の意思に任される。事実上多くの人が継続することになるだろう。

しかし、運動としては、取りあえず半年の期間だけの受信料の凍結、すなわち支払いの留保の呼びかけなのだ。不払いよりもずっと参加のハードルが低い。「会長辞任までは無期限で凍結継続」と悲壮な覚悟を決めなくても、多くの人の参加を期待しうる。安倍政権による籾井会長人事への不快感や、NHKの公共放送としての在り方に疑念をもつ人は多い。このよう人に、格好の意思表明手段ではないか。なによりも、NHKにダメージを与えることが運動の主目的ではないことが明白とされている。現場スタッフの良心を大切にし、これを励まし、連携した運動を志す運動であることに意味が大きい。

訪問集金の視聴者は、今後半年の訪問による受信料集金への支払いを凍結する。口座引き落としであれば当面半年間の引き落としを止めることになる。その半年の間に、籾井会長辞任となれば、直ちに支払い凍結を解除し未払い分も支払うことにするということになるだろう。運動提起者の認識は、短期決戦ということと推察される。

ところで、「視聴者コミュニティ」のホームページのトラックバックに、次の記事を見つけた。

「今回の騒動で、個人的に不払いという形で抗議の意思を明らかにしてます。しかし、受信料不払い・支払い延期運動を団体が起こした場合、威力業務妨害罪に問われやすいよね。あの馬鹿な長谷川だって2ヶ月後には払ってる訳だし・・。この運動に賛同したいんだけど威力業務妨害罪は刑事事件にあたるから友人知人を誘いづらい。出来れば、法的に一切問題がないとの当局なり弁護士団体なりの御墨付きが欲しいと思います。」

これには、少し驚いた。どこかで、悪質な宣伝活動が行われているのかも知れない。籾井会長の「政府が右といえば左とは言えない」「従軍慰安婦はどこの国にもあったこと」発言を支持する勢力はあるのだから。会長辞任要求などはとんでもない、ましてや不払いの呼びかけなど、という動きがあってもおかしくはない。

当局からの「御墨付き」を得ることは無理である。弁護士団体の御墨付きは、間に合わない。私の言では「御墨付き」にはならないが、法律家の常識を以下のとおり述べておきたい。

NHK受信料の支払い義務は、NHKと視聴者個人との各受信契約締結の効果として生じている。支払い凍結は、受信契約を締結した視聴者についてのものであるから、民事上の債務不履行という状態にはなりうる。本件の場合金額は小さいものの、借金の返済が遅滞している、家賃の支払いが滞っている、キャッシングの決済が未了となっている、などと同じ事態。だから、NHKから民事的な催告があることは予想される。

催告を拒否しても、民事訴訟の判決がない限り強制執行はできない。では、民事訴訟はあり得るか。その可能性はないとは言えない。とはいうものの、訴訟コストを考えれば、半年の期間の支払い凍結に対する提訴は現実的には合理性を欠き可能性は低い。おそらくはあり得ないと考えるのが常識的だろう。

仮に、NHKからの提訴があった場合には、多くの視聴者が共同して応訴することになるだろう。その場合には、視聴者側の言い分を堂々と述べることになる。受信契約は双務契約であるから、NHK側が自分の債務を履行していることが大前提でなくてはならない。放送法に定められた公共放送としての責務をきちんと果たしているかを問題としなければならない。籾井会長や、百田・長谷川などの経営委員の、人選や言動、あるいはその放送内容への影響などが裁判の焦点となるものと考えられる。安倍晋三の女性国際戦犯法廷取材番組への介入の事実も再度問題となろう。大裁判といってよい。到底半年で決着がつくはずもない。凍結期間半年が経過すれば、裁判も終了する。以上が民事の問題。警察や検察が介入する問題ではない。

では、刑事的に問題となりうるか。絶対になり得ないと言ってよい。仮にこの受信料支払い凍結運動で、いささかなりとも警察が動くようなことがあれば、それこそ日本は警察国家と言わねばならない。世も末の全体主義、安倍政権の恐怖政治というほかはない。

おそらく、悪質な税金の不払いが犯罪となりうるという類推から、NHK受信料の滞納も刑事事件となりうるのではと心配の向きがあるのではないか。NHK受信料の不払いは、あくまで民事的な問題で、刑事上の制裁とは一切無縁である。

放送法に、「受信料不払いの罪」があるわけではない。その他NHKの受信料収入を刑事制裁をもって確保する特別の法律はない。受信契約なしでは受信料の請求すらできないのだから、税金の取り立てとはまったく異なるのだ。

では、刑法上の業務妨害となるか。刑法の規定は、以下のとおりである。
第233条: 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
第234条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

「偽計を用い」た場合が偽計業務妨害、「威力を用い」た場合が威力業務妨害罪となる。偽計とは、「人を欺き(欺罔し)、あるいは人の錯誤・不知を利用したり、人を誘惑するほか、計略や策略を講じるなど、威力以外の不正な手段を用いることをいう」。威力とは、「人の意思を制圧するような勢力をいい、暴行・脅迫はもちろん、それまでに至らないものであっても、社会的、経済的地位・権勢を利用した威迫、多衆・団体の力の誇示、騒音喧噪、物の損壊等およそ人の意思を制圧するに足りる勢力一切を含む」(前田雅英編「条解刑法」)とされている。

本件の受信料凍結運動に、「偽計」の要素がないことは一見明白である。また、上記に明らかなように「威力」とは人の意思の制圧であって、受信料の支払いを留保することがNHKの職員の意思を制圧して放送業務を妨害することにはならない。集団での抗議行動が喧噪状態と捉えられるような場合には、威力業務妨害罪が弾圧法規として働く余地あることを警戒しなけれはならないが、単なる料金不払いが人の意思を制圧する行為にはあたらない。

威力業務妨害罪は粗暴犯的色彩の強いものとされており、判例上の具体例としては、暴行・脅迫、物の損壊・隠匿、多衆・団体の力の誇示(労働争議に関わるもの)、騒音・喧噪によるもの、その他(デパートの食堂に蛇20匹を撒き散らした。猫の死骸を事務机の引出に入れた。国税調査官の車の前に座り込んだ…)などからイメージの把握が可能である。また、その保護法益は、業務の平穏円滑な遂行と理解されており、不払い自体が放送業務の遂行を妨害するものではなく、この点からも犯罪は成立し得ない。

「半年間受信料凍結」運動への参加が刑事事件となることはあり得ない。その点は安心して、籾井NHK会長辞任要求の運動にご参加されたい。

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     カレル・チャペックさん、無い物ねだりはおやめなさい
カレル・チャペックは「園芸家12カ月」で無い物ねだりをしている。
「園芸家は文明によってつくり出された人種であって、自然淘汰の結果ではない。園芸家が、もし自然から進化したとしたら、外観がちがっていたはずだ。第一、しゃがまないですむように、カブトムシのような脚をしていただろう。そして、翅をもっていただろう。そうすれば、見た目もきれいだし、花壇の上を飛ぶことができたからだ。人間の脚などというものは、置き場がないときはどんなに邪魔っけなものか、しゃがまなければならないときには、どんなに不必要に長いものか、また、寄せ植えのしてあるサルヴィアや、アキレシアのシュートをふまずにまたいで、花壇のむこう側にとどかせたいときには、どんなに腹が立つほど短いものか、経験の無いものには想像もできない。・・ところが、園芸家のからだもほかの人間と同じように不完全に作られているので、できるだけの芸当をやる以外に方法がない。ロシアの踊り子のように片脚をあげて、爪さきでバランスをとって宙に浮かんだり、両脚を4メートルも開いて、チョウチョか鶺鴒のように軽く地面の上を歩いたり、1平方インチの場所に全身の重みをかけ、傾斜する物体のあらゆる法則を無視して平衡をたもちながら、あらゆるものを避けて、あらゆるところへ手をとどかせる」

全く同感だ。身体を動かすたびに、やっと出てきたばかりのチゴユリの芽を踏んづけたり、モミジの大切な枝をボキリと折ったりするので、舌打ちをしながら、悔し涙を流しながらそう思う。伸縮自在の腕と指がほしい。園芸家でなくとも、座ったまま電気のスイッチをきったり、開けたままのドアを閉めたりできたら、誰だってうれしいだろう。欲を言えば、物を運ぶとき何回も行ったり来たりしなくてすむように、腕が何本もあったらいい。ワープロ打ちながら、コーヒーを飲みながら、痒いところをかくこともできる。しかし、風呂に入ったときはそんな長い腕を何本も洗うのは大変だ。何本も手があったら、爪を切るのも一仕事だ。そう考えると、腕も指も少ない方がいいかもしれない。欲張りの心は揺れ動く。目は後ろにもあったらいい。でも後ろに眼鏡をかけるのは難しそうだ。コンタクトを入れるのはもつと大変だ。脚だって4本あれば、疲れたときには別の足で歩ける。食いしん坊は口が二つあったらと思うかもしれない。嘘つき政治家は滑らかな舌がもう一枚欲しいだろう。

と、人の欲望は限りを知らない。ところが現実は、年をとるとともに、今もっている能力でさえ日ごとに失われていく。目は遠くも近くも見えなくなる。色もぼんやりしているようだ。耳も低音が聞こえないらしい。少し歩けば、脚だけでなく全身疲れる。すぐにものにつまづく。平衡感覚も悪くなってきたようだ。ただ立っていてさえ、地震がきたのかとまわりを見回したりする。決定的なのは、記憶力の減退だ。アレ、コレ、アノ、ソノで会話しようとする。そんな自分に腹が立つ。新しいことは覚えられない。古いことは思い出せない。そうであるなら、増えた腕や脚の使い方はとうてい覚えられない。古い腕や脚にこんがらがって、イライラするばかりだろう。目が見えなくなったって、記憶のなかのものの方が美しいこともある。耳が聞こえなくたって、どうせたいしたことを言ってるわけじゃない。無い物ねだりはやめておいたほうがいいのかもしれない。
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NHK籾井会長、百田・長谷川両経営委員の辞任・罷免を求める署名運動へのご協力のお願い。

下記URLからどうぞ
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post-3030-1.html
http://chn.ge/1eySG24
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    NHKに対する「安倍首相お友だち人事」への抗議を
☆抗議先は以下のとおり
 ※郵便の場合
  〒150-8001(住所記入不要)NHK放送センター ハートプラザ行
 ※電話の場合 0570-066-066(NHKふれあいセンター)
 ※ファクスの場合 03-5453-4000
 ※メールの場合 下記URLに送信書式のフォーマット
    http://www.nhk.or.jp/css/goiken/mail.html
☆抗議内容の大綱は
  *籾井勝人会長は即刻辞任せよ。
  *経営委員会は、籾井勝人会長を罷免せよ。
  *百田尚樹・長谷川三千子両経営委員は即時辞任せよ。
  *経営委員会は、百田尚樹・長谷川三千子両経営委員に辞任勧告せよ。
以上よろしくお願いします。
(2014年4月18日)

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Published in 金曜日, 4月 18th, 2014, at 22:52, and filed under NHK問題.

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