澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

「従軍慰安婦」報道の元朝日記者を応援する

朝日バッシングは、時代を画しかねない大きな問題である。朝日の「誤報」が責められているのではない。「誤報」は朝日を叩く恰好のきっかけ提供に過ぎず、叩かれているのはリ朝日が象徴するリベラリズムそのものなのだ。戦後民主々義が攻撃されていると言ってもよい。

その意味では、「従軍慰安婦」問題と、福島第1原発事故対応の「誤報」二部門の重みは格段に異なる。「従軍慰安婦」問題での「誤報・取り消し」は、歴史修正主義派を大いに勢いづかせるものとなった。吉田清治証言の虚偽性はとっくの昔に周知の事実になっていたにかかわらず、である。

故人となっている吉田清治叩きだけでは迫力がないからか、右派メディアは、当時の「従軍慰安婦」報道担当記者をバッシングの対象にしている。その標的の一人とされたU元記者は、吉田清治証言の紹介記事とは何の関係もない。

にもかかわらず、新聞・週刊誌だけではなく、ネットでの匿名に隠れた卑劣な記事の罵詈雑言がはなはだしい。元朝日記者本人だけでなく、高校生の娘さんを含め、家族みんなが標的とされている。右派「言論」のおぞましさをよく表す事態である。

そして、元記者が非常勤講師として勤務する札幌の北星学園大学に脅迫状が二度にわたって届いた。文面の一部は以下のようなものだという。

「U(元記者)をなぶり殺しにしてやる。」「(Uを)すぐに辞めさせろ。やらないのであれば、天誅として学生を傷めつけてやる」「あの頭の程度で講義がこなせるというのか。できるというのならその程度の学校か、ほほう朝鮮系か」「これをやるーガスボンベ爆発、サビ釘混ぜて」
あきらかな脅迫であり威力業務妨害である。リベラルな言論への萎縮効果を狙った表現の自由の封殺であり、大学の自治への挑戦でもある。そして、差別意識むき出しののヘイトスピーチでもある。

このような新聞・週刊誌・ネット・脅迫状などの総掛かりの「言論の暴力」に、私たちの社会はどれほどの耐性をもっているだろうか。健全な良識が復元力を発揮しうるだろうか。社会が試されている。

幸い、北星学園大学は毅然とした態度を堅持している。「負けるな北星!の会」の市民運動も動き出している。その意味では、けっして押されっぱなしではない。しかし、学校の警備を厳重にせざるを得ず、そのための費用負担は確実に大学の重荷になっていると漏れ聞こえてくる。仮に、右派言論の暴力に屈するような事態となれば、これは一大事だ。大学にもU記者とその家族にも、「負けるな」「がんばれ」と声援を送りたい。そして、精一杯支えなければならないと思う。

ネットや脅迫状のネタは、すべて新聞・週刊誌記事からの借り物である。新聞・週刊誌がすべてのネタ元となっており、しかも、ごく少数の右翼言論人がその中心に位置している。そこから、すべてが発せられ拡散されているという構図がある。U記者の記事を捏造という、その大ネタ元の内容が、あきらかにおかしい。とうてい、U記者の記事を捏造だなどと決めつけることはできない。

U記者の最初の「従軍慰安婦」記事は朝日の1991年8月11日付。後に実名を公表して訴訟に踏み切る金学順さんを取材したもの。その記事のリードの冒頭が以下のとおり。
「日中戦争や第二次大戦の際、『女子挺(てい)身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち、一人がソウル市内に生存していることがわかり、『韓国挺身隊問題対策協議会』が聞き取り作業を始めた。同協議会は十日、女性の話を録音したテープを朝日新聞記者に公開した」

これが、右派の大ネタ元から攻撃されている。この記事のうち、
①「『女子挺身隊』の名で戦場に連行され」の部分が「経歴詐称」であり「捏造」だというのだ。そもそも、「挺身隊」とは勤労動員組織なのだから慰安婦とは関係がない、という。

しかし、この記事は『女子挺身隊』は、個別事例としての金さんの経歴を指しているのではなく、「女子挺身隊の名で日本軍人相手に売春行為を強いられた朝鮮人従軍慰安婦」という一般例を指している。また、当時は韓国内でも「女子挺身隊」は「従軍慰安婦」を意味するものとされていたと反論されている。この点は、検証可能であろう。

ちなみに、ウィキペディアの「韓国挺身隊問題対策協議会」の解説記事では、「団体名に『挺身隊』とあるが、これは日本統治時代の慰安婦を指している。挺身隊(女子挺身隊)は日本や韓国などを含めた当時の日本領内の勤労奉仕団体のことを指すが、韓国においては現在も慰安婦を女子挺身隊と混同することが多い」とされている。

何よりも、問題は「狭義の強制性」にあるはずだが、このリードには「強制連行」の言葉はなく、本文には「だまされて慰安婦にさせられた」と明記されている。

また、U記者には、同年12月25日付の記事もある。このときは、「日本政府を提訴した元従軍慰安婦・金学順さん」という見出しになっている。

この記事について、
②金さんがキーセンであった経歴を意図的に隠した。
③Uさんの義母が戦後補償裁判の原告であることを隠した。の2点が攻撃されている。
以上の3点が、「捏造」指摘のすべてと言ってよいようだ。

しかし、金さんがキーセンの養成学校に通っていたことは、本筋の問題に何の関わりもないこととして、朝日だけでなく、当時他の新聞も記事にしていない。また、Uさんの義母は裁判の原告とはなっていない。朝日の検証記事でも、U記者が義母から記事の内容について提供を受けたことはない、と確認をされている。

私には、まだ右派の批判を「何の根拠もない」ときめつけるだけの資料に接してはいない。しかし、確信を持って言えることは、これらの批判が「従軍慰安婦」問題の本質に関するものではないということである。「従軍慰安婦」とされた女性の悲惨な状況を報じる記事の内容には触れることなく、その周辺の些事についてのこのような批判が、どうして右派勢力総掛かりの大合唱になるのだろうか。

朝日バッシングの意図と、これに対抗する言論の意義は明らかというべきではないか。いずれ、右派の「批判」については、黒白が明らかになるだろう。そのときは、攻守ところを変えることになるだろう。

もちろん、その際にも薄汚い「リベンジ言論」はあり得ない。
(2014年10月15日)

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Published in 水曜日, 10月 15th, 2014, at 23:58, and filed under 未分類.

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