輝かない女性閣僚たち
本日発売の週刊新潮の広告に、「小渕優子経産相のデタラメすぎる『政治資金』」という大きな活字が踊る。これに小さく、「松島みどり法相の団扇どころの話じゃない」と副題が添えられている。
あとは記事のタイトルが5本。
▽50万円で後援者御一行の「巨人戦観戦」が政治活動?
▽「下仁田ネギ」400本60万円を交際費で計上。
▽秘書に買ってあげた「スーツ」は『制服代』だって?
▽姉夫婦のブティックに3年で330万円の売り上げ貢献
▽報告書とおりなら有権者の買収!?
年1300万円の赤字が出た元後援者の「明治座貸切」
以上のタイトルだけで内容は十分に分かる。だから、新潮を買う必要は無い。
この記事は、事前に内容が話題となっていた。注目は、これだけの指摘をされた小渕が、「事実無根」と否定するのか認めるのか。そこが問題だったが、朝日の報道では、「小渕経産相は16日の参院経産委員会で『大変お騒がせし、心からおわび申し上げる』と陳謝した。一方で『観劇に関しては、私自身は出席したおひとりおひとりから実費を頂いていると承知している』と発言。関係団体にその点の確認を依頼したことを明らかにした」という。歯切れが悪く言い訳はしているが、「私は知らない。秘書が‥」ということだ。結局はアウト。
かつて、通産大臣といえば、大蔵・外務と並ぶ重要ポスト。首相へのステップとされる大物があてがわれるとされていた。女性5閣僚の中で、さすがに小渕優子は他と別格、との印象があった。なるほど、さすがに大物のやること。みみっちい「松島みどり法相の団扇」とは比較にならない。
通常、この種の記事はたれ込みがきっかけとなる。しかし、この5本のタイトルを見る限り、政治資金収支報告書を閲覧するだけで書けそう。少なくも、きっかけはつかめる。なかなかたいへんな作業ではあるが、丹念にインターネット検索をするだけで、これだけの「事件」を探り当てることができるのだ。
小渕優子の資金管理団体名は、「未来産業研究会」という。総務省のホームページで公開されている「政治資金収支報告書及び政党交付金使途等報告書」欄を開けばよい。
下記の各サイトの「未来産業研究会」欄をクリックすれば、各年の報告書(PDF)が閲覧できる。もちろんダウンロードも可能。ただし2009年以前のものは情報公開手続きを経なければ閲覧できず、2013年分の公開は今年(2014年)の11月末まで待たねばならない。
2010年分
http://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/seijishikin/reports/SS3220111130.html
2011年分
http://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/seijishikin/reports/SS3220121130.html
2012年分
http://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/seijishikin/reports/SS3220131129.html
怪しい支出項目を見つけたら領収証のコピーがほしいところだが、これはネットに公開されてはいない。情報公開の手続きを経なければならない。
ところで、今朝の毎日はすごい。1面と社会面両方の報道。
社会面は、「小渕氏資金管理団体:不透明支出、5年間で1000万円超」「事務所費でベビー用品/組織活動費でネギ」の見出しでの報道だが、「小渕氏の資金管理団体の領収書には『ベビートドラー』や『ストール』、『売場 ハンドバッグ・雑貨』などの記載がある」と大きく領収証の写真を掲載している。情報公開請求で09年?12年の領収証を入手済みなのだ。
記事の大要は「経済産業相の資金管理団体は政治活動との関係が薄いとみられる領収書を添付し、政治資金として計上していた。不適切・不透明な支出は、実姉の夫が経営する服飾雑貨店への支出分を含めると、2012年までの5年間で1000万円を超えている。」というもの。
さらに、「毎日新聞が情報公開請求で入手した小渕氏の資金管理団体『未来産業研究会』の領収書や政治資金収支報告書などによると、同団体は09年、本来は事務所の維持に充てる『事務所費』として、ベビートドラー(乳幼児向け用品)3点と化粧品、ストールの計約4万5000円を支出していた。
また、政治活動に充てる『組織活動費』として、著名デザイナーズブランドへの支払い計3件119万円余▽下仁田ネギの送料や品代計4件261万円余−−などを計上。銀座の百貨店の『子供・玩具売り場』への支出計5件15万円余(うち1件1万円余は事務所費に計上)のうち4万1580円は、11年12月24日のクリスマスイブに支払われていた」など。
毎日の夕刊が続報で、「後援会『観劇会』費用を負担」と報道している。
「群馬県内の『小渕優子後援会』の政治資金収支報告書によると、同団体は10年と11年、東京都中央区の「明治座」で支援者向けの観劇会を開き、計約1700万円を支出し、観劇料として計約740万円の収入を記載。差額を団体が負担した可能性があり、有権者への利益供与を禁じる公職選挙法に抵触する疑いがある」
こちらは、群馬県選挙管理委員会のホームページ。下記URLの「小渕優子後援会」をクリックすれば明治座関係の収支の記載を確認できる。
2010年分 http://www.pref.gunma.jp/07/u0100119.html
2011年分 http://www.pref.gunma.jp/07/u0100223.html
毎日では、次のような弁明が報道されている。
「小渕氏は観劇会について経産委で『(有権者への)寄付行為ではないが、実費をいただいているかについて私自身は確認していないので調査している』と述べた。」という。辻褄の合わない話だが、開き直ってはいない。この人正直な人柄なのだろう。しかし、政治家は正直なだけでは務まらない。
さて、この小渕優子後援会の収支の記載が間違いだったとしよう。「単純な記載ミスだった」「記載を訂正しさえすれば済むこと」などという話はあちこちで聞かされている。その場合は、会計責任者が政治資金規正法上の収支報告の虚偽記載罪(最高刑禁固5年)を犯したことになる。
政治資金規正法第25条第1項3号の収支報告書虚偽記載罪の構成要件は、刑法総則の原則(刑法第38条第1項)に従って本来は故意犯と考えられるところ、政治資金規正法第27条第2項は「重大な過失により第25条第1項の罪を犯した者も、これを処罰するものとする」と規定して、重過失の場合も含むものとしている。
その結果、「虚偽記載」とは行為者が「記載内容が真実ではないことを認識した場合の記載」だけでなく、「重大な過失により誤記であることを認識していなかった場合の記載」をも含むものとなる。
本件の場合には、過失での間違いは苦しい言い訳だが、「わずかな注意を払いさえすれば容易に誤記であることの認識が可能であった」として、有罪となる可能性は限りなく高い。
問題はその場合の、小渕優子自身の責任である。政治資金規正法第25条第2項の政治団体の責任者の罪は、過失犯(重過失を要せず、会計責任者の選任及び監督についての相当の注意を怠る軽過失で犯罪が成立する)であるところ、会計責任者の虚偽記載罪が成立した場合には、当然に過失の存在が推定されなければならない。政治団体を主宰する政治家が自らの政治資金の正確な収支報告書に責任をもつべきは当然だからである。
つまり、この場合の小渕優子の責任は、政治的・道義的な責任にとどまらず、最高刑が罰金50万円ではあるが、刑事制裁を伴う犯罪が成立するのだ。現実に罰金刑が確定すれば、公民権停止にもなる。国会議員としての地位を失わざるを得ない。
さて、この小渕優子後援会の収支の記載に間違いがないものとしよう。そのときには、公職選挙法違反となる。根拠条文は、同法199条の5第1項(後援団体に関する寄付の禁止)である。読みにくい条文だが、読みやすくすれば、「特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む)の政治上の主義若しくは施策を支持し推薦する政治活動を行う「後援団体」は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない」というもの。違反は、50万円以下の罰金である(249条の5第1項)。
どちらにしても、処罰対象になる。
5人の女性閣僚と自民党の政調会長のうち、4人はどうしようもない極右。小渕優子と松島みどりは、普通の保守政治家。そう思っていたのだが、マシな方がぼろを出した。せっかくの登用だが、輝く女性閣僚たちとはならないようだ。
(2014年10月16日)