昔訪ねた竹富島は、思い描いたとおりののどかな南国の風景だった。赤瓦の屋根の上のシーサー、石積みの垣根、そして水牛。珊瑚礁の海、浜で掬った星砂…。小高い丘の名が「んぶふる」だったことをよく覚えている。その竹富町が、中学校公民教科書の採択問題で文科省と対立しながら筋を通している。小さな島が、政権や文科省と互角に渡り合っているのだ。その毅然たる姿勢に惜しみない拍手を送りたい。
昨日(3月14日)、下村博文文部科学相は竹富町教育委員会に対して、八重山教科書採択地区(石垣市、竹富町、与那国町)で一括採択された育鵬社版教科書を竹富町内の中学校で使用するよう、地方自治法に基づく「是正の要求」を発出した。国が市町村に直接「是正要求」するのは前例のないことだという。
なんと言っても安倍政権である。しかも名うての下村文科相である。さらに育鵬社版の公民教科書。舞台の右端に役者が揃った。政権も文科省も、天皇、「日の丸・君が代」、領土、自衛隊、公の秩序という記述満載のこの公民教科書のシェアを拡大したくてしょうがないのだ。とうとう、我慢がならずにしゃしゃり出て前代未聞の国から町への是正の要求となった。
竹富町側の対応は落ちついている。これまでどおりに、国の費用ではなく寄付を募って東京書籍版を使ってなんの混乱もないとしている。こちらは、沖縄の基地問題にページが割かれている。
「領土に手厚い育鵬社版と米軍基地に詳しい東京書籍版。文科省が育鵬社版に肩入れしているとすれば、教育行政の政治的中立性を脅かす非常事態と言うほかない。」(東京新聞社説)というのが、常識的な見方。
ところで、「是正の要求」とはなじみがない。地方自治法上の、「文部科学大臣の地方公共団体に対する関与」の一形態だという。本来は、各市町村の自治に任せるべきことに例外的に国が口出しできるとする定めだ。しかも、都道府県を飛び越しての各市町村への直接の口出し。今回は、文科相から沖縄県に「竹富町への是正の指示」を求めたが、同県がこれに従わないからとしての、県を飛び越えての町への直接の要求。例外中の例外なのだ。当然に、要件は厳格である。
地自法245条の5の第4項は、「各大臣は、…その担任する事務に関し、市町村の事務の処理が法令の規定に違反していると認める場合、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認める場合において、緊急を要するときその他特に必要があると認めるときは、自ら当該市町村に対し、当該事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。」と定める。これが、下村文科相の竹富町教委に対する「是正の要求」の根拠規定。
整理してみると、
要件は、
?事務の処理が法令の規定に違反、
?著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害している場合
a緊急を要するとき
bその他特に必要があると認めるとき
権限は、
大臣自らが当該市町村に対し、当該事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる
効果は、
当該市町村は必要な措置を講じなければならない義務を負う。
是正の要求を受けた当該市町村がその義務を果たさず、かつ国地方係争処理委員会等への審査の申出もしない場合には、国は「国等による違法確認訴訟(地方自治法第251 条の7)」を提起することができる。
竹富町側に、是正を要する法令の違反があったとは考えがたい。ましてや、著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害しているわけはない。緊急性はさらにない。政権や文科省の姿勢を明瞭にして、意に沿わない教科書を採用しない町を恫喝しているというべきであろう。
頑張れ竹富町。「んぶふる」の島。
(2014年3月15日)
神戸新聞や毎日、そして赤旗が報じている。神戸市が「中立性損なう」という理由で今年5月3日に予定されている「神戸憲法集会」の「後援」要請を拒絶したという。これは、見過ごせない。
後援を求められた「神戸憲法集会」は、50年も継続しているイベントで、神戸市内の労働団体や護憲グループがつくった実行委員会が主催する。地域に根づいた典型的な草の根憲法運動だ。今年は、同市中央区の神戸芸術センターを会場として、メインの企画は内田樹神戸女学院大名誉教授の講演だという。
これまでも、要請して後援を得た実績がある。最近では、1998年と2003年には、同じ集会が神戸市の後援を得ている。ところが今回、実行委員会は昨年12月、市と市教委に後援を申請したが、今年2月に「後援しない」との通知を受けた。申請して拒否されたのははじめてのことのようだ。
市が申請された後援を拒絶した理由が問題だ。「昨今の社会情勢を鑑み、『改憲』『護憲』の政治的主張があり、憲法集会そのものが政治的中立性を損なう可能性がある」というもの。
問題は3点。「昨今の社会情勢」とはいったい何のことか。「『改憲』『護憲』の二つの政治的主張」を同じに扱ってよいのか。そして、「憲法集会そのものが政治的中立性を損なう可能性がある」とは、まことにもって聞き捨てならない。
「昨今の社会情勢」とは、安倍政権下の改憲動向を意味するものであろう。明文改憲の動きが急で、解釈改憲の流れも明確だ。神戸市は、安倍政権の動きだけを見て、天下の形勢が改憲に傾いているとでも思っているのかも知れない。しかし、改憲阻止の動きも活発だ。けっして、昨今の民意の動向が改憲に向かっているわけでも、社会情勢が全体として右傾化してるわけでもない。
現在の神戸市長は元総務省自治行政局長の肩書をもつ人。昨年(2013年)10月に副市長から初当選している。自・公・民の3党に推薦され、選挙戦では麻生太郎や石破茂、菅義偉ら政府・自民党の大物からの応援を得ての「辛勝」と報じられている。今は律儀に、そのご恩返しのときと考えているのかも知れない。
神戸市は、「『改憲』『護憲』の政治的主張があり」と、あたかも「改憲」も「護憲」も同等の政治的主張であるかのごとき扱いをしている。これは許されない。
憲法とは、社会の公的なルールとして最も高次の存在であって、政治権力にはこれを尊重し擁護すべき義務がある。このことを、憲法99条はすべての公務員に対して、「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と定める。神戸市長も市教育委員長も、私人として憲法改正の思想を持つことは自由であるにせよ、公務員として職務を行うに際しては、「日本国憲法を尊重し擁護する義務」を負う。
その場合の「憲法を尊重し擁護する義務」の意味の解釈として、消極的に違憲の行為をしてはならないというだけではなく、憲法の理念の実現に努力すべき積極的義務までを含むものと説かれる。憲法の理念の実現や普及のための「護憲」集会への後援や支援をすることは「憲法を尊重し擁護する義務」に合致するが、現行憲法の理念に反する「改憲」集会への支援は背馳することにならざるを得ない。両者を同等に扱うなど許されようはずはない。
「憲法集会そのものが政治的中立性を損なう可能性がある」との含意は、「護憲集会も政治的中立性を損なうものでありうる。だから、自治体が後援しがたい」というもの。聞き捨てならない。
日本国憲法が制定されたとき、憲法公布の式典が貴族院本会議場で行われ、また、宮城前広場で、天皇まで出てきて新憲法公布記念祝賀都民大会も行われている。政府も、最初は憲法記念日を祝賀したのだ。長期保守政権が、憲法を邪魔者扱いするようになると、政府や自治体の祝賀行事は消えた。祝賀行事を主催しないことが、十分に政治的な意思表示なのだ。
そして神戸市は、草の根憲法運動が主催する市民集会の後援も拒絶するという。形式的な「政治的中立」をカムフラージュとした、憲法への憎悪の表明である。
かつて、青年法律家協会に所属した裁判官が数多く輩出した時代があった。最高裁の司法行政当局は、全力を上げて彼らを青法協から脱退させることに成功した。これを当時、レッドパージをもじって「ブルーパージ」と称した。そのときに持ち出された「理屈」が、裁判官としての公正性や政治的中立性であり、それへの国民の信頼であった。
青法協裁判官が、党派的な政治性をもっていた事実はない。むしろ、保守的な政治勢力や反憲法的司法行政の圧力から裁判官の独立を守ろうとし、支え合って憲法に忠実な裁判を志向しただけのことである。まさしく、その姿勢自体が当時の司法行政当局にとって思わしいものではなかった。当時の司法行政当局を使嗾していた保守勢力にとってはなおさらのことであった。
「裁判官としての公正性や政治的中立性」の強調は、実は保守政権や行政の意向を尊重せよ、というメッセージだった。神戸市の「政治的中立性の尊重」はまったく同様に、改憲勢力への政治的迎合のメッセージなのだ。「政治的中立」を称した、その実極めて党派性に偏した意思表明にほかならない。
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NHK籾井会長、百田・長谷川両経営委員の辞任・罷免を求める署名運動へのご協力のお願い
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NHKに対する「安倍首相お友だち人事」への抗議を
☆抗議先は以下のとおり
※郵便の場合
〒150-8001(住所記入不要)NHK放送センター ハートプラザ行
※電話の場合 0570?066?066(NHKふれあいセンター)
※ファクスの場合 03?5453?4000
※メールの場合 下記URLに送信書式のフォーマット
http://www.nhk.or.jp/css/goiken/mail.html
☆抗議内容の大綱は
*籾井勝人会長は即刻辞任せよ。
*経営委員会は、籾井勝人会長を罷免せよ。
*百田尚樹・長谷川三千子両経営委員は即時辞任せよ。
*経営委員会は、百田尚樹・長谷川三千子両経営委員に辞任勧告せよ。
以上よろしくお願いします。
(2014年3月13日)
3月4日に共産党の小池晃さんから「安倍政権の番犬みたいなことはしないで」と言われた小松一郎内閣法制局長官。どういうわけか、翌5日に吉田忠智社民党党首の質問にうっぷんをぶちまけ、7日に国会の廊下で共産党の大門実紀史参院議員に噛みついて口論となった。この口論について、11日午前の参院予算委員会理事会で謝罪し、大門さんに詫びに行くことの約束をした。
そのような経緯があって、今日(12日)、小松長官が参院議員会館にある大門さんの事務所を訪問し、「不適切だった」と謝罪した。しかし、気持ちの伴わない謝罪は難しい。もともと性格的に人に頭を下げることは好きではないようだ。しかも相手は共産党の議員。もともとは、犬呼ばわりをされたことが原因、どうして謝らねばならないのか、という気持ちが強かったのだろう。案の定、その場で再びの口論となって、「(謝罪は)受け入れられない。帰ってください」となったようだ。
報道では、『大門氏によると、会談で同氏が「法制局長官を辞任し、病気療養に専念すべきだ」と指摘したのに対し、小松氏は「そういうことは言うべきではない」と拒否。大門氏は「では謝罪は受け入れられない」と伝えた。』(共同)という顛末とされている。
もっとも、大門さんは、自分のツィッターでは何も語っていない。『小松長官と「口論」とか「再び口論」とかマスコミに書かれるのも、わたしの不徳の致すところです。関係投稿も削除することにしました。いいね!と応援のコメント頂いた皆さん、本当に申し訳ありません。有り難うございました。』との記載があるだけ。小松長官との応酬は恥とするところ、という姿勢。
小松長官のギグシャグはこれにとどまらない。各紙が、『小松一郎内閣法制局長官は11日の参院予算委員会で、自民党が集団的自衛権の行使を可能にするためとして、過去の国政選で公約していた国家安全保障基本法案について「首相は国会に提出する考えはない」と答弁した。党の公約を官僚の立場で否定した小松氏の発言に、党内から問題視する声が出ている。」と報道している。
安倍政権が国家安全保障基本法案を国会提出するか否か、これは重要な大問題。本当に安倍政権に提案の意思がないのならそれに越したことはないが、軽々に官僚が答弁できることではなかろう。知られたとおり、国家安全保障基本法の提案は自民党の公約でもあり、安倍首相の国会答弁も公約撤回はないと言っている。
このような小松長官の姿勢には、参院自民党筋からは悪評さくさくで、「官僚の分を超えている」といった声が強い。「法制局長官を辞任し、病気療養に専念すべきだ」との意見は大門さんだけではなく、自民党内にも確実にある。
小松長官批判は、安倍批判でもある。自民党からも連立の公明党からも、安倍批判、とりわけ集団的自衛権行使容認の解釈改憲に批判の声が出始めたことと軌を一にしている。慎重論の主唱者として、高村正彦副総裁、野田聖子総務会長、脇雅史参院幹事長、漆原良夫公明党国対委員長などの名が挙げられる。古賀誠、野中広務などの現役を去った長老クラスも「見ちゃおられない」と声を挙げている。
改憲派の大御所中曽根康弘元首相や、保守派メデイアの総元締め渡辺恒雄読売新聞会長さえも、解釈改憲による集団的自衛権行使容認には批判的なのだ。安倍?小松ラインの集団的自衛権行使容認構想は、けっして保守の総意ではない。むしろ、孤立しているのが現実の姿ではないか。小松長官が、身体に悪い「口論」などすることなく、病気療養に専念する環境は整いつつあるように思われる。
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*籾井勝人会長は即刻辞任せよ。
*経営委員会は、籾井勝人会長を罷免せよ。
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*経営委員会は、百田尚樹・長谷川三千子両経営委員に辞任勧告せよ。
以上よろしくお願いします。
(2014年3月12日)
去る2月26日の当ブログで、安倍晋三政権の罪業を数え上げてみた。あらためて、「12の大罪・8つの被害」の項目だけを再掲する。
第1の罪 明文改憲の罪
第2の罪 解釈改憲の罪
第3の罪 特定秘密保護法制定の罪
第4の罪 靖国神社参拝の罪
第5の罪 教育破壊の罪
第6の罪 NHKともだち人事の罪
第7の罪 原発再稼動と輸出の罪
第8の罪 労働法制改悪の罪
第9の罪 福祉切り捨ての罪
第10の罪 TPP交渉参加の罪
第11の罪 消費税増税の罪
第12の罪 辺野古新基地建設強行の罪
※危うくされたものは平和
※奪われたものは民主主義
※傷つけられたものは歴史の真実
※損なわれたものは国際的信用
※痛めつけられたものは国民の生活
※失われたものは社会の安定
※害されるものは国内の産業
※断ち切られようとしているものは日本の未来
以上の国民に対する罪業にもかかわらず、安倍政権が比較的高い支持率で「安泰」なのは、アベノミクス効果と喧伝される経済政策によるもの。しかし、そのメッキも剥がれ始めたとする論調が目につくようになってきた。いや、すでに客観的な経済指標が、アベノミクス崩壊の兆しを明示しつつある。
内閣府は、毎月「景気ウォッチャー調査」として経済の現状と先行きの統計資料を報告している。昨日(3月10日)、その2月度の報告があった。冒頭のリードに当たる総括評価は以下のとおり。
「2月の現状判断DIは、前月比1.7ポイント低下の53.0となり、依然高水準ながら2か月連続で低下した。
家計動向関連DIは、消費税率引上げ前の駆込み需要等もあって、家電を中心に売上が増加したものの、自動車販売の増勢が鈍化したことや、大雪の影響で客足が鈍ったこと等から低下した。
企業動向関連DIは、一部の企業で受注や生産の増加に一服感がみられたこと等から低下した。
雇用関連DIは、一部で求人の増勢に一服感がみられたこと等から低下した。
2月の先行き判断DIは、前月比9.0ポイント低下の40.0となり、3か月連続で低下した。
先行き判断DIについては、消費税率引上げ後の需要の反動減やマインド低下への懸念等から、家計動向部門、企業動向部門及び雇用部門で低下した。」
家計動向も企業動向も雇用も、すべてのDI(景気動向指数。100が最高上向き、0が最低下向き、50が現状維持)が前月比で低下している。現状判断指数はまだ50をキープしてはいるが2か月連続で低下。先行き判断指数は50(中立値)を大きく割った40。しかも、前月比9ポイントの低下というのだ。よいところ、まったくなし。
それでもさすがは内閣府。「以上のことから、今回の調査結果に示された景気ウォッチャーの見方は、『景気は、緩やかに回復している。ただし、先行きについては、消費税率引上げ後の需要の反動減等の影響が見込まれる』とまとめられる」としている。消費増税直前の駆け込み需要が見込まれていたこの時期の指標がこんなに悪いのだ。本当に、「景気は、緩やかに回復している」と言えるのか。「先行きについては、消費税率引上げ後の需要の反動減等の影響が見込まれる」などと、悠長にわかりきったことを言っているだけでよいのか。
本日の朝日の経済欄が、「アベノミクス 相次ぐ想定外」という大きな見出しで、経済指標の「変調」を詳しく報告している。小見出しだけを拾えば、以下のとおり。
「GDP下方修正・経常赤字が過去最大」
「鈍い設備投資・個人消費」
「先行き 震災時に次ぐ下げ幅」
「政権、増税後へ正念場」
リードは以下のとおり。
「安倍政権の経済政策アベノミクスで、想定していなかった経済統計の「変調」が起きている。10日には昨年10?12月期の実質経済成長率が年率0・7%に下方修正されたほか、今年1月の経常赤字額は過去最大を更新した。消費増税を控え、経済政策のかじ取りは一段と難しくなっている。」
昨年の実質成長率は、以下のとおり。
1?3月 4・5%
4?6月 4・1%
7?9月 0・9%
10?12月 0・7%
朝日は、これを「4月の消費増税前の「駆け込み需要」が成長率を押し上げると見られていたが、想定外の急ブレーキがかかっている。」としている。そして、常識的な見方として、「急ブレーキの主因は、景気回復のカギを握るとされる「設備投資」と「個人消費」の力弱さにある。」と解説している。
朝日の次の指摘は重要だと思う。アベノミクスが、自縄自縛に陥っている様をよく説明している。
「アベノミクスは、大胆な金融緩和で株高と円安に導くことで、国内では消費を盛り上げつつ、円安の恩恵がある輸出を押し上げるのが基本戦略だ。ところが、賃金が上がらないなかで、円安の影響を受ける食料品や電気代が値上がりしたため、国内消費が盛り上がらない。一方、製造業の拠点が海外に移ったため、円安でも輸出が伸びない。」
結局は輸入品の大幅高で国際収支も過去最大の大赤字。これも、アベノミクスがもたらした円安のしからしむところ。昨日(3月10日)の参院予算委員会では、安倍もさすがに景気回復の「成果」を強調することはできなかったようだ。
このような状態で、4月の消費増税を迎えることになる。朝日は、この危機的状況にある景気を支えるために、経団連の「5兆円経済対策」と「早期原発再稼働」とを望む声を紹介している。
安倍晋三とは、自ら任ずるとおりの「右翼の軍国主義者」である。人権・民主主義、そして平和という価値への理解を欠く。党内でも、連立与党内にも、その危うさを指摘する声はやまない。しかし、その安倍指弾の声が大きくならないのは、政権の安定性がまだ目に見えるかたちで揺らいでないからだ。危うい極右的政策にもかかわらず、安倍の支持率や安定性を支えてきたものは、ひとえにアベノミクスの経済効果への期待だった。
そのアベノミクスの先が見えてきた。昨日の「景気ウオッチャー調査報告」が、安倍政権崩壊の弔鐘にきこえる。安倍政権の大罪に「経済混乱の罪」が加わことになろうが、民主主義にとっては朗報となる。
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(2014年3月11日)
戦前、3月10日は陸軍記念日だった。1905年3月10日に日露戦争での奉天会戦で勝利した帝国陸軍が奉天(現在の瀋陽)に入城した日が起源。以下の陸軍奉祝歌(作詞 陸軍省新聞班、作曲 山田耕筰)というものがある。
奉天戦の勝鬨の
聞こゆる今日の記念日は
我が陸軍の誉れぞと
国民挙げて祝うなり
日露の役に誓いたる
挙国一致を偲びつつ
東亜の光満蒙に
躍進の鐘鳴り響き
戦果は実る過ぎし日の
赤き血潮に築きたる
天業の道揺るぎなく
平和の楽土春深し
世界の柱我が日本
同胞全て九千万
鉄の結びに義は重く
幾度経ぬる聖戦の
輝く跡を身に締めて
巨き歩みや日の御旗
戦意昂揚の歌をあげつらうのも大人げないが、なんと空虚で浅薄な。
皇軍の道徳性や正当性を「東亜の光」「平和の楽土」としか言えない。そんなタヨリないもののために、「日の御旗」を掲げた「聖戦」への「挙国一致」「鉄の結び」を国民に呼び掛けている。「世界の柱我が日本」「天業の道揺るぎなく」などとはよくも言ったり。戦後レジームからの脱却を呼号する安倍晋三の頭の中には、こんなフレーズがつまっているのだろうか。
1945年の「今日の記念日」早暁、325機のB-29爆撃機が東京を襲った。超低高度で人家密集地に焼夷弾の雨を降らせた。折からの春の強風が火を煽って、人と町とを焼きつくした。防空法と隣組制度で逃げれば助かった多くの人命が奪われた。
米軍がことさらに陸軍記念日を狙って東京を空襲したという証拠はないという。しかし、この記念日に続いて翌11日が日曜日にあたり、疎開していた子どもたちの多くが一時帰宅していたという事情があった。そのために、意外にも子どもの死者が多い。 こうして、1945年の陸軍記念日は、「我が陸軍の誉れ」の終焉の日となった。この日は、「国民挙げて祝う」どころではない。死者の数は10万人を超すとされている。無惨に生を断ち切られた10万の死者の無念、遺族の無念に、黙祷し合掌するしかない。
空襲の犠牲者は、英霊と呼ばれることもなく、顕彰をされることもない。その被害が賠償されることも補償されることもない。それどころか、戦後の保守政権はこの大量殺戮の張本人であるカーチス・ルメイに勲一等を与えて、国民の神経を逆撫でにした。
広島・長崎の原爆、沖縄の地上戦、そして東京大空襲‥。このような戦争の惨禍を繰り返してはならないという、国民の悲しみと祈りと怒りと理性が、平和国家日本を再生する原点となった。もちろん、近隣諸国への加害の責任の自覚もである。2度と戦争の被害者にも加害者にもなるまい。その思いが憲法9条と平和的生存権の思想に結実して今日に至っている。
安倍政権がこれに背を向けた発言を繰り返していることを許してはならない。3月10日、今日は10万の死者に代わってその決意を新たにすべき日にしなければならない。
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「フルーツ・ハンター」(アダム・ゴウルナー著)と「カカオ採る子ら」
果物は美味い。口にすれば甘い幸せがひろがる。今の季節はリンゴ、イチゴ、キュウイフルーツ、デコポン、アボカド、バナナなど。朝食は果物とヨーグルトとコーヒーで充分だ。たしかに、私たちの先祖はチンパンジーなのだ。
子どもの頃は果物など贅沢も贅沢、なかなか手が届かないもので、「水菓子」といって珍重した。バナナなど病気になった時に食べるか、遠足に持って行けたら上等だった。それが今ではどうだ。バナナは一番安価な食べ物となった。庭の木になる柿を食べたがる子どももいないというではないか。子どものころの憧れを満たそうとする、「昔の子ども」にとって、果物は永遠に輝く魅力を失わない。四季折々、入れ替わり立ち替わり現れる果物をみれば、豊かになったものだとしみじみと思う。
「フルーツ・ハンター 果物をめぐる冒険とビジネス」(アダム・リース・ゴウルナー著 白水社)は、果物についての広大な世界を展開している。著者はカナダ出身のジャーナリスト。完熟果実の美味しさに取りつかれた著者は、ブラジル、ハワイ、ボルネオ、セーシェルのプララン島、アフリカのカメルーンそして世界中から果物の集まるニューヨークをくまなく調査する。糖度、果汁、芳醇な香り、色、手触り、艶、形の妙についての語り口は、すぐにその果物を木から直接もぎ取って味わうために駆け出したいような気分にさせる。
果物を追及する奇妙な情熱に取りつかれた人々の紹介もある。シカゴの大実業家のホイットマンは家族連れで、ジャングルの島々を熱帯果実を求めて歩き回った。ホイットマン家の息子たちは大勢の人から、あんたたちはサーカスの一団かときかれ、果物マニアの父親のそばで幸せに育った。父親が採集した植物をフロリダの庭で栽培したので、どこの家の庭にもチュパチュパがなっていると思い込んでいた。息子の友人たちは、弁当に入っているウルトラ・エキゾチックを味見したいとうるさくせがんだという。
接ぎ木に取りつかれたグラフティン(接ぎ木屋)・クリフトの情熱と強迫観念の話もある。「おれは果物作りが好きなんだ。新しいものを作り出すことがね。ワクワクする。グレートデンを産み出したブリーダーのような気持ちだ」。接ぎ木によって生みだされた「生命の木」にはスモモ、モモ、サクランボ、アンズ、アーモンド、ネクタリンが同時に実をつけていたのである。接ぎ木症とは「その技法にのめり込み、熱心さを通りこして、四六時中頭から離れなくなる」と警告される病状をさす。クリフトはそんなことはちっとも気にしない。フェアチュイルド熱帯植物園で木に登って接ぎ木をしているところを捕まったことがある。今では警備員がナイフと接ぎ木の用具を入り口で預かっているそうだ。
この本の中には果物にまつわる負の側面も書き込まれている。「知識とひきかえに魂を売ったファウスト博士のように、果物にも不快な副作用がある。殺虫剤に残留農薬。ワックスに着色料。とどまるところを知らない石油の大量消費。放射線照射および燻蒸施設。冷蔵室での数ヶ月にわたる保存。違法果実を大型トレーラーに積み込んでコロンビアから密輸する果物長者…」について書かれている。
バナナ共和国(アメリカ資本によってバナナなどの一次産品の輸出をとおして牛耳られた中南米諸国)を支配したユナイテッド・フルーツ社のホンジェラス、グァテマラで行った政権転覆や人権蹂躙、そしてキューバのピックス湾事件に果たした汚い役割まで、しっかり書き込んでいる。甘いおいしい果物の苦い側面も書いた骨太の物語だ。
ところで、本日(3月10日)の中畑流万能川柳の秀逸は、次の一句。
「カカオ採る子らは知らないチョコレート」(句意なし)
私たちは確かに豊かになった。果物もチョコレートもふんだんに食べられる。しかし、その豊かさが、カカオ採る子らの貧しさの犠牲においてのアンフェアなトレードの結果なのかも知れないと思うと、甘いはずのフルーツもやや口に苦い。
(2014年3月10日)
もうすぐ、あの驚愕と痛恨の日から3年になる。3・11は、自然災害としての震災・津波と、人災としての原発事故被害の両者について、真剣に向かいあうべき日となった。人類がその体験を積み重ねることによって進歩できる存在だとしたら、この深刻な体験から我々は何を学ぶべきだろうか。
各紙がそれぞれに考える材料を提供してくれている。本日(3月9日)の毎日朝刊の1面と4面に、「ストーリー 原発に裏切られた町?この怒り、どこへ誰へ」という渾身のルポがある。長文だが、このような記事こそジャーナリズムの本領だろう。袴田貴行記者の労作。
ルポは、福島県双葉郡大熊町の鈴木幸夫さん(88)を追う。先月26日、避難先の会津若松から帰還困難区域にある自宅に一時帰宅してみると、盗難に遭って家中が荒らされ、野生動物が侵入したのか床はふん尿だらけの惨めさ。
鈴木さんは、「こんちくしょう、こんちくしょう」と呟く。なぜこんなことになったのか、誰が悪いのか、どこへ怒りを向ければいいのか、分からない。やりきれなさが丸めた背中からにじんだ、と描写されている。
鈴木さんは、町議会議長の経験もある地元の重鎮として原発推進の旗振り役を務めた人。東電が2008年に発行した福島第1原発の記念誌には、鈴木さんが原発事故を懸念する人たちに「車の事故の方が心配が大きい」と言って不安を打ち消した逸話が紹介されている。
その鈴木さんが、古里を追われる原因を作った原発や東電への憎しみはないという。「東電には今でも感謝している。事故の復旧は彼らにしかできない。力を尽くしてほしい」とも。
大熊に豊かさをもたらしてくれた東電への感謝の思い。子と孫計5人が東電や関連会社に就職してもいる。大いに実利をもたらした原発であった。
ルポは次のように記している。
「福島のチベット」−−。昭和30年代、農業以外にめぼしい産業がなく、高度経済成長から取り残された双葉郡はそう呼ばれていた。大熊町は54(昭和29)年に大野村と熊町村が合併して生まれたが、慢性的な財政難で職員の給料さえ遅配することがあった。
だが、原発誘致により76年には地方交付税不交付団体となった。企業の進出で税収が伸びただけでなく、原発立地自治体などには施設の設置や稼働を促進するため国から「電源3法交付金」が支給された。74〜12年度に町が受け取ったのは計212億円で、原発事故のあった10年度には町の歳入の2割強を占めた。同年度の町の財政力指数(自治体の財政力を示し、「1」を上回るほど自立度が高い)は1・39で、福島県内でダントツの1位だった。
「出稼ぎがなくなり、家族と一緒に暮らせるようになって幸せ」がもたらされたのだ。
記者は、最後に原発推進の旗を振ってきた鈴木さんの今の気持ちを確かめる。「過去の判断に悔いはないのか」と。鈴木さんは「後悔はない」ときっぱり答える。「原発でもなかったら、大熊は寂しい町で終わっていたよ」
原発建設の地元では、原発誘致による地域振興を求めざるを得ない現実があった。これだけ深刻な事故が生じて自らの故郷が失われてなお、「東電には今でも感謝している」という現実の重さ。これまで東電と原発を抜きにして地域振興策はなく、これからも東電抜きの復旧の構想を描くことができないのだ。このような人々の民意に支えられて、原発が建設され維持されてきた。けっして、「押し付けられた」「欺されていた」ということではない。
今回の都議戦に関してノーマフィールドさんが言った「「いのち」よりも「生活」の選択」、という言葉を思い出す。本当は命が大切なのだ。世代をつなぐ命の安全を第一選択として、「脱原発こそ最重要の課題」と言わねばならない。しかし、そのような悠長なことは言っておられない。それよりも、現実の「生活」の課題を何とかしてもらわねばならない。脱原発の課題の重要性に目をつぶっても、雇傭や福祉や子育てや、そのほかの緊急の課題の充実が多くの人から求められる。それを責めることはできない。原発と生活とが緊密に結びついている福島の地元ではもっと深刻だ。「生活優先」は、「脱原発を最重要課題とはしない」レベルではない。親原発、親東電と言わざるを得ないのだ。
戦争もよく似ている。「いのち」と「生活」を分離したうえでの生活優先の選択が戦争遂行の推力となる。植民地政策、軍需景気、軍需産業による雇傭の創出、戦争推進派の羽振りのよさ、職業軍人としての誇りや生き甲斐…。戦争は、「実利」と結びついていた。少なからぬ人々の「民意」に支えられてこそ戦争は遂行された。けっして、国民が天皇や政治家に「押し付けられた」、「欺されていた」からだけではない。だから、あれだけの惨禍のあとでも、戦争の旗を振った人々が、本心から戦争を反省したわけではないのだ。同じ状況では、同じ歴史が繰り返されるだろう。
15年戦争の日本人犠牲者は310万人。戦没皇軍兵士の遺族には、莫大な軍人恩給が振る舞われた。これも、戦争と結びついた「実利」。同時に戦争批判の口封じの側面も見なければならない。
同じ「毎日」の「今週の本棚」欄に、安岡章太郎の「歴史の温もり」が紹介されている。評を書いたのは井波律子さん。辛うじて戦争を生きのびた安岡はこう言っているそうだ。
「平和は、一人一人が辛抱づよく戦争に反対し、心底から平和を守ろうとする以外に守りようがないというのは、一見タヨリないようだが真実の言葉であろう」
たしかにそうだと深く頷かされる。しかし、もう一方で、戦争に実利を見出す構造の克服こそが大切なのだという思いもつよい。植民地政策や、軍需景気、軍需産業に頼らない、庶民生活の豊かさの底上げが重要だ。格差の拡大、貧困の蔓延は戦争への実利と、それゆえの戦争支持の民意の基盤となるだろう。
原発についてもことは同じではないか。豊かさの不平等の克服が必要だ。格差の縮小、とりわけ地域間格差、産業間格差をなくしていく政策こそが、問題の解決につながるのだと思う。この格差がなくなれば、自然の豊かさに恵まれるだけ、地方に居住することがメリットになるだろう。自然とともに生きることこそ、人の理想であり、「いのち」を大切にすることなのだ。
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NHK籾井会長、百田・長谷川両経営委員の辞任・罷免を求める署名運動へのご協力のお願い
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http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post-3030-1.html
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☆抗議先は以下のとおり
※郵便の場合
〒150-8001(住所記入不要)NHK放送センター ハートプラザ行
※電話の場合 0570?066?066(NHKふれあいセンター)
※ファクスの場合 03?5453?4000
※メールの場合 下記URLに送信書式のフォーマット
http://www.nhk.or.jp/css/goiken/mail.html
☆抗議内容の大綱は
*籾井勝人会長は即刻辞任せよ。
*経営委員会は、籾井勝人会長を罷免せよ。
*百田尚樹・長谷川三千子両経営委員は即時辞任せよ。
*経営委員会は、百田尚樹・長谷川三千子両経営委員に辞任勧告せよ。
以上よろしくお願いします。
(2014年3月9日)
毎日新聞の川柳欄は、選者仲畑貴志の名をとって「仲畑流万能川柳」という。
時事ネタあり、社会ネタあり、男女や人情の機微に触れたもの、そして反戦ものまで。内容豊富で実に楽しい。川柳であるからには、ピリッと気の利いた風刺がほしい。権力や権威を笑い飛ばすものでなくてはつまらない。
驚くべきは、年間投句数は58万に及ぶという。毎日掲載句のうち1句が「秀逸」とされ、その中から「月間大賞」が選定され、さらに、58万句の中から、たった一句の「年間大賞」が選ばれる。
毎日欠かさずに、目を通しているが、「秀逸句」必ずしも秀逸とはいいがたい。秀逸句を凌ぐ出来栄えとうならせる掲載句が毎日二つ三つ。おそらくは、膨大な没句の中にも秀句が埋もれているのだろう。人生も社会も同じようなものだ。とはいえ、プロが選した58万句の年間最優秀句には興味津々。
本日の朝刊に紹介された2013年年間大賞句は、
「戦争にならないように投票す」
作者は、戸枝洋子さん(80歳)。柳名は「かもめ」、東京都北区在住とのこと。
なんと真っ直ぐな、なんの技巧も感じさせないシンプルな句だろう。いや、シンプルな言葉だろうか。昨年7月の投句だから、6月の都議戦と7月の参院選を意識しての句であろう。作者は2012年12月の総選挙の結果に驚愕したに違いない。安倍政権の危うさに戦争の影を感じて、投票を通じて平和を希求する意思表示をしたのだ。安倍自民や、その下駄の雪の公明以外の候補者に投票したに違いない。それにしても、福祉でも雇傭でも景気でもなく、平和を願っての投票が川柳となり、年間大賞受賞句となる時代なのだ。
選者の評は以下のとおり。
「普通であれば、「良い国」とか「住みよい国」とかを願って「投票す」なのですが、「戦争にならないように」というのが、この国の今の空気感なのですね。近隣諸国との問題をはじめ、さまざまなキナ臭い空気が漂っています」
仲畑貴志は、細川護煕が都知事に立候補したとき、瀬戸内寂聴や吉永小百合らとともに、真っ先に支持を表明したグループのひとり。原発関連句の選も多い。もう少し踏み込んだ辛口の評が期待できそうなのだが、これでは毒にも薬にもなっていない。それでも、「この国の今の空気感」を「キナ臭い」として、この句をトップに据えたのはたいした在野感覚。
さて、明日(3月9日)が大阪市長選の告示。私の感覚では、いかなる選挙も民意反映のチャンスであり、民意伸長のチャンスでもある。まさしく、「戦争にならないように投票す」でなくてはならない。
主要野党は橋下徹に対抗する候補を立てないようだ。それでも、安倍よりさらに右に位置する維新・橋下への投票は、「戦争を招きかねないその一票」「これがまあ戦争へつづく第一歩」「あのときに橋下支持したばっかりに」「大阪が次の戦争の火付け役」などとなりかねない。すると、「戦争にならないように棄権する」「この度は平和を願って選挙パス」となるのだろうか。
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(2014年3月8日)
千葉県柏市で起きた連続殺傷事件で、24歳の被疑者が強盗殺人容疑で逮捕された。この被疑者が、警察の取り調べに「社会に復讐する」と話したことが大きく報道されている。
被疑者の成育環境も現在の生活状況も、そして「社会に復讐する」(報道によっては、「報復する」)という言葉がどのような文脈で語られたのかも、まだよくはわからない。分からないながらも、20代の無職男性が社会との断絶感と、将来への絶望感とを抱いている状況が見えてくる。これまでも、似たような多くの事件の報道に接してきた。
本件にあてはまるかは即断できないが、図式的には、
新自由主義政策⇒経済格差の拡がり⇒若者の貧困化⇒絶望感⇒犯罪
と描いて、さほど無理がないのではなかろうか。
もっとも、こういう図式化を皮相とする、次のような指摘もある。
事件が起こると、まず「犯行の心理的動機を明らかにせよ」という掛け声だ。メディアに心理学者が登場して心理学的な推理が重ねられる。
同時並行する形で、「犯行の社会的背景を究明せよ」とキャッチフレーズが唱えられる。犯罪や家族や教育を専門とする社会学者たちの発言が華々しく飛び交う。
最後に、「性格異常ではないのか、精神に欠陥があるのではないか」と、精神病理的な分析または解釈が語られる。これがお決まりの成り行き。
「犯罪」の心理学的還元、社会学的還元、精神医学的還元といってもいい。「殺人事件」を解決するための三種還元である。
山折哲雄さんが歎異抄を語った「悪と往生」(中公新書)からの要約抜粋である。
この著名な哲学者は、「三種還元の手法には、その還元の総和によって人間の理解が可能になるとするうさん臭い人間観がひそんでいるのではないだろうか。人間には『心の闇』があるなどといいながら本当のところは誰もそれを信じてはいないのだ」と言う。実は誰も人間の心の闇を見すかすことなどはできない。犯罪を起こした人間の心など理解は不可能、とおっしゃる。
なるほど、私たちは「三種還元の手法」で、犯罪と犯罪者を理解したつもりになる。いや、むしろ犯罪の起承転結を理解したと自分を納得させて安心したいのだ。多くの場合、「三種還元の手法」は、犯罪者はこの社会の例外的な存在で、自分は犯行とも被害とも無縁で安全だと教えてくれる。しかし、哲学者はこの姿勢を人間観察における浅薄という。
「安易にすべてが分かったなどとと思い上がってはならない」との戒めとしてこれを聞き置くとして、「三種還元の手法」自体は、犯罪の動機や原因を特定して講じるべき対策を考案するためには有効である。おそらくは、すべての犯罪に三種の要因が、濃淡様々に絡みあっているのだ。
なかでも、社会的な要因を重要なものとして看過することはできない。「恒産あるところに恒心あり」で、格差少なく貧困のない社会では犯罪が少ない。しかし、現今の為政者が拠り所とする新自由主義とは、飽くなき競争至上主義を是認するものだから、優勝劣敗の敗者あることを当然とする。むしろ、格差と貧困の存在を積極的に肯定する政策といってよい。しかも、できるだけ小さな政府で企業負担を減らそうというのだから、自助努力が強調されて福祉は切り捨てられる。市場原理にお任せの格差貧困と安価で使い捨て自由な労働力が求められている。
この政策は必然的に多くの人々の絶望を生みだす。絶対の格差、絶対の貧困の底に沈んだ絶望の人々。統計的にみれば、経済的困窮が犯罪の温床となることは否定し得ない。また、絶望は自殺念慮や、社会への復讐の行動につながる。自由競争にすべてを任せようという強者の論理は、結局のところ犯罪多発の不安定な社会に向かわざるを得ない。
それでも、為政者は「格差や貧困をなくす政策に転換を」とはならない。「格差や貧困に甘んじる従順な性格の国民をつくればよい」というのが彼らの発想だ。そのために教育の管理が徹底される。また、「なかには従順ならざる人格も育つだろう。それに対しては、治安の強化だ」という発想となる。
新自由主義とは、古典的な資本のやりたい放題の横暴を認めよという主張だ。儲けのためにはカジノでも、高利貸しでもなんでもやれるようにしよう。労働市場の規制をなくして人を安く使い捨てができるようにし、法人税の負担を軽くし、福祉は削ろうというもの。その結果としての格差・貧困は積極的に容認する。しかも、「自由」の主体は企業であり、資本であり、大金持ちでしかない。一般庶民は、権力に従順であれとの教育の対象となり、長じては治安対策の対象ともなる。そして、天皇を戴くこの民族の歴史と伝統とによるイデオロギー統制によって擬似的な国民の一体感の醸成がはかられる。
だから、自民党改憲草案は、新自由主義と、復古的天皇制イデオロギーや公序による治安政策とが、木に竹を接いだような不自然をなしている。しかし、それはやむを得ないこと。経済的な新自由主義という木に、治安政策という竹を接がざるを得ないのだ。治安政策の根本に教育統制や復古主義的イデオロギー教化がある。
連続殺傷事件の被疑者の「社会に復讐」という言葉は、今の為政者に、重く響いているはずなのだ。
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(2014年3月7日)
「月とすっぽん」とは、形ばかりは似たようで実は正反対なものの喩え。「月」は仰ぎ見る美しいもの。「スッポン」は泥沼を這う美しからざるもの。「あなたは月のよう」とは褒め言葉で、「スッポン同然」は悪口となる。
「番人」と「番犬」も、似ているようでニュアンスは大きく異なる。番人は自分の意思を持っている。守るべき価値あるものを意識して守る。最高裁を指して、「人権の砦、憲法の番人」と言って、最高裁が怒ることはない。しかし、番犬は自分の意思を持たずに命令に盲従する。命令の正邪や理非を解せず、守るべき物の価値を判断する意思も能力ももたない。特定の人に面と向かって「番犬」と言えば、その姿勢の批判となる。言われた方は、その喩えが侮辱だと言いたくもなろう。
共産党の論客として知られる小池晃議員が、小松一郎法制局長官に向かって、「安倍政権の番犬と言った」と報道されている。複数の報道によると、正確には「番犬」ではなく「番犬みたい」。それも「安倍政権の番犬みたいなことをしないで下さい」という言いまわしで、「番犬」との決めつけはしていなかったようだ。それでも、言われた小松さんが腹に据えかねたとして、社民党党首への答弁の機会に「反論」したことで話題となった。
各紙が報道しているが、本日(3月6日)の朝日は「『安倍政権の番犬』指摘に反論」という見出しで次のように報じ、小池さんの反論も掲載している。
『小松一郎・内閣法制局長官は5日の参院予算委員会で、4日に共産党の小池晃副委員長から「安倍政権の番犬みたい」と言われたことに対し、「国家公務員にも、プライバシーや名誉に関わるものを含め、憲法上、基本的人権が保障されている」と反論した。
小池氏は4日の同委で、菅義偉官房長官にイラク特措法やテロ特措法の条文解釈を質問したのに、小松氏が答弁に立ったとして「憲法の番人なんだから、安倍政権の番犬みたいなことをしないで下さい」と指摘していた。
小松氏は5日の同委で、社民党の吉田忠智党首への答弁の際、「他の党の所属の委員だが」と切り出し、小池氏の発言に「このようなご指摘を受けることはできない」と反論。共産党にも「日頃、国民の基本的人権をことさら重視している」と指摘した。
小池氏は朝日新聞の取材に「政権をかばうようなことをしたから指摘した。番犬だと断定はしていないし、人権をおとしめるというようなことを言われるのは心外だ」と語った。』
さて、問題は2点。小池さんの小松長官に対する「番犬みたい」発言は正鵠を射たものか。そして、小松長官の人格を侮辱するものとして人権侵害に当たるか。小松長官の反論は、後者に対するものだけで、前者についてはない。
小池さんの委員会でのとっさの発言は、「本来内閣法制局長官といえば、その役割は憲法という大切なものを擁護すべき番人ではないか。ところが、今のあなたが官房長官をかばって答弁を買って出ようというその姿勢は、憲法ではなく安倍政権を擁護しようというものでしかない。憲法の番人であるべき立場の人が、あたかも安倍政権に盲従する番犬みたいなことをすべきではない」という趣旨と解される。正鵠を射たものであること、この上ない。
いまさら言うまでもなく、小松一郎長官と言えば、集団的自衛権行使容認という解釈改憲実現の手段として安倍内閣に抜擢された人物。しかも、前例のない外務省からの異例の人事。予てから安倍政権の番犬とささやかれていた人。おそらくは自分でも気にしていたに違いない。面と向かって言われたからには反論しておかねばならないと、翌日の他党議員の質問に対する回答の機会をとらえたのだ。しかし、「私は憲法の番人の役割を放擲していない」とも、「安倍政権に盲従しているわけではない」とも弁解はしていない。おそらくは、そのような弁明の意思はないのだろう。
では、小池さんの小松長官に対する「番犬みたい」発言は人格を侮辱するものとして人権侵害に当たるのだろうか。さすがに小池さんの発言は慎重で、「安倍政権の番犬みたいなことをしないで下さい」という言い方が、侮辱になるとは考えがたい。これをしも人権侵害というなら、活発な議論そのものを封じることになってしまうだろう。
一般論として、強い批判の表現が人格攻撃の色彩を帯びることは往々にしてあり得る。原則論としては、そのような批判の仕方は避けた方が好ましい。しかし、対等者間の言論交換ではなく非対等者間で、権力を持つ側、強者の側、多数を握る側に対する批判に遠慮や萎縮が生じてはならない。権力を持つ側、強者の側、多数を握る側は、民衆の側からする強い批判を甘受しなければならない。それが、民主主義の要請するところ。
場面が変れば事情も変わる。共産党の副委員長である小池さんは、党組織幹部として党内からの批判には十分に耳を傾けなければならない。たとえ、その批判が人格攻撃的な色彩を帯びるものであろうとも。
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(2014年3月6日)
日本弁護士連合会は、全国の弁護士の強制加入団体である。当然に様々な政治信条をもつ人が会員となっている。だから、政治的スローガンで、会としての行動をすることはない。
法に基づく弁護士の使命は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」である(弁護士法1条1項)。だから、「基本的人権を擁護すること」「社会正義を実現すること」を目標とした活動をすることは旺盛に行われるべきで、むしろ弁護士会の責務でもある。しかも、「弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない」(同条2項)という規定さえある。個人としての弁護士が、弁護士活動に参加して、基本的人権擁護のために「法律制度の改善に努力」すべきことは弁護士の義務ですらある。
もっとも、制度の改善は政治的な過程を経なければ実現し得ない。また、人権課題と政治課題との境界には微妙なものがある。ときに、「人権課題のようでもあるが、政治的色彩を払拭できない以上は弁護士会として取りあげるべきではない。」との意見にぶつかる。しかし、そのように萎縮していたのではすべての人権課題への取り組みが不可能になる。むしろ、「現実の社会に生起するすべての人権課題が、多かれ少なかれ政治的色彩を帯びることは当然である。人権課題である以上は、政治的色彩があろうとなかろうと弁護士会がとり組むことに躊躇してはならない」というべきだろう。
法体系の最上位にある日本国憲法は、豊かな諸人権の擁護を最高の憲法的価値とし、その諸人権の実現のために諸制度を設けている。弁護士会は、人権問題として広範な諸制度に関わる問題に取り組むことが可能である。「その課題は政治的色彩が濃いから、政治問題だ」という会内の声は克服しなければならない。法律家の団体として、自ずから圧倒的多数の賛意を得る合意形成の着地点がある。
そのような弁護士会の課題のひとつに教育問題がある。安倍政権の教育再生実行会議の動向を見極め、子どもの教育を受ける権利擁護の観点から、適切な対応をしなければならない。2006年の第1次安倍内閣における教育基本法改正問題の際にも、重大な憲法問題と考えられたが、今また教育は喫緊の重要課題となっている。
日弁連に、教育法制改正問題対策ワーキンググループができて、教育関係の各学会や市民運動団体に呼び掛けて、本日、第1回の「教育法制『改正』問題に関する各界懇談会」が開催され、私も出席した。
本日は、各参加者がそれぞれの問題意識を語った。それだけで2時間近く。
発言に共通しているものは、強い危機意識。異口同音に、このままではたいへんな事態になってしまう、戦後民主主義の成果としての教育が根こそぎ改変されてしまいかねない危機にあることが語られた。
もう少し具体的には、「教育への権力的統制の強化」と「競争による教育の破壊」の2点が柱になっている。前者は明文改憲や集団的自衛権行使容認の解釈改憲、特定秘密保護法などと軌を一にする国家主義的路線。「戦争のできる国づくりに適合する教育」と何人もが語った。後者は、一握りのエリートとそれに奉仕する従順な労働力を養成しようという新自由主義路線。格差社会化、子どもの貧困化などの問題が語られた。
最大のテーマとして関心の中心となったのが、やはり教育委員会制度改変問題。具体的には、今国会に上程予定とされる地教行法改正問題。課題はそれひとつだけでなく、教科書検定や採択の制度の問題。「日の丸・君が代」強制、教育助成の問題、在日の民族教育への差別解消、道徳の教科化、学力テスト、歴史教科書への介入、学習指導要領解説書の押し付け問題…。「安倍政権は、これからもっと多様な教育統制の具体策を出してくる予定だ」という研究者からの発言もあった。
いくつか、印象深い発言を摘記しておきたい。
「教育行政は、やらねばならない課題が山積していることが明確なのにやろうとしない。そして、やってはならないとされている教育内容への介入だけにこの上なく熱心になっている」
「今、戦後の教育改革を振り返って見るチャンスでもある。あのときに、地方だけでなく中央にも教育委員会をという声が高かった。当然、文部省など有害無益で不要ということだった。文部省は辛うじて生き残ったが、もう一度そのときの議論を今振り返って見るべきではないか」
「辛うじて生き残った文部省の大臣は、最初のうちは政治家ではなく、学者を充てていた。教育の独立と政治的中立には、それだけの気を使っていたのだ。そのことをもう一度思いおこそう」
「戦後の教育改革といえば、教育基本法、6・3制、共学、社会科、教育委員会制度ではないか。今、その全部が『教育再生』の名の下に、なし崩しにされようとしている」
そうして、自戒の念を込めて、何人もが次のように語った。
「理念や制度の問題は複雑で面倒だ。私たちは、多くの市民に理解してもらえるように話してこなかったのではないか。これからは、分かりやすい言葉で、正確にやさしく語る術を身に付けなければならない」
今後も連絡を取りあうことを確認して散会した。第1回懇談会、首尾は上々ではなかったか。
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