上野千鶴子さんの決然たる怒りに共感
本日、山梨市が主催した上野千鶴子さんの講演会が同市で開かれた。会場は聴衆約400人で満員の盛況だったとのこと。中止騒動が話題性を盛り上げた形だ。上野さんは「ひとりでも最期まで在宅で」と題して1時間半にわたり熱弁を振るい、最後に「今回の講演料は市に寄付します」と表明して喝采を浴びた、と報じられている。さすがに、役者ですねえ。
講演会の冒頭、お騒がせの張本人である望月清賢市長が、「上野先生に無礼を働いた」と陳謝し、上野さんは「過ちを改めるに、はばかることなかれ」と応じて「和解」をアピールして見せたという。
なお、望月清賢氏は先月の選挙で初当選したばかりの新米市長。自民党県連総務会長の経歴を持ち、自民党県連から推薦を受けた元県議。前市長で、選挙戦に敗れたのが、現職の竹越久高氏。元県議で、元民主党県連代表代行の経歴。選挙は接戦で389票差であった。
同講演は市が上野さんに昨秋に依頼したもの。今年2月に広報し、164人の参加希望があった一方、上野さんのツイッターやコラムでの発言を例に「公費で催す講演会の講師としてふさわしくない」という意見が約10件メールなどで寄せられたという。ふさわしくない理由は、上野さんの演題とは無関係のテーマでの発言内容。これを今年2月に初当選した望月清賢市長が問題視し、市は3月に中止を決めた。旧民主党市長時代に企画した講演会を、新自民党市長が中止という構図となったのだ。
市から上野さんに対する、講演会中止の通知書は以下の素っ気ないものだったという。(上野さんのブログから)
「市民講演会中止について
山梨市長 望月清賢
春寒の候、先生におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。また、日頃から高齢者保健福祉行政にご理解・ご協力をいただき感謝申し上げます。
さて、来る3月18日に実施を予定しておりました市民講演会についてですが、市民の皆様から様々なご意見をいただく中で、講演会当日の運営に支障を来す恐れがあることから、やむを得ず中止とさせていただくこととなりました。
誠に申し訳ありませんがご了承いただきますようお願い申し上げます。」
中止理由として述べられているのは、「講演会当日の運営に支障を来す恐れがあること」の一点であって、その余の理由はまったく述べられていない。
これに対する上野さんご自身の長文のブログ記事の掲載がある。以下はその抜粋。
「もちろんお願いされたからといって「ご了承」できるわけがありません。
いちいち反論するのもうざったいですが、言うべきことを言っておくと、以下のとおりです。
?すでに市が決定し、告知と募集までした講演会を、講師の考えに賛同できないという少数の「市民」のメール等のクレームで中止するとはあってはならないことです。
?「講演会当日の運営に支障を来す恐れ」とありますが、具体的に脅迫や警告を受けたのか、と聞くと、それはまったくない、とのこと。何もないのに先取りして中止とは過剰な自主規制です。まんがいち脅迫や警告があったとしても、一部の脅しに行政が屈してはならないことは当然でしょう。警備をして実施すればよいだけの話です。
?上野の「過去の発言」はすべて講演依頼を受けたときにはわかっていたこと。新しい情報は何もありません。最初から問題なら上野に講師の依頼をしなければよいだけの話です。となれば、講師依頼の時と中止の時とでは、上野の側に変化はなく、講師の適切さについての判断が行政側で変化したことになります。前市長が了承した企画を、政権が変わったからと言って現市長が覆してもよいものでしょうか。
?「過去の発言」のやり玉にあげられているのが「悩みのるつぼ」の回答。「熟女にお願いしなさい」という回答のどこが問題なのでしょうか。「依頼」であって「強制」ではありませんし、「相手のいやがることはぜったいにしないこと」それに「避妊の準備も忘れずに」と書いてあります。淫行条例に違反するという指摘もありましたが、中学生に性交を禁じる法律はありません。成人が児童(18歳未満だそうです)に「みだらな行為」をすることは禁止されていますが、中学生が大人に「お願い」するのを禁じることはできないでしょう。15歳といえば昔なら元服の年齢。妻を娶ることもできました。この回答を問題視するひとたちはまさか「結婚まで童貞を守りなさい」とは言わないでしょうね?
?『セクシィギャルの大研究』『スカートの下の劇場』をきちんと読んでみてください。いずれも実証研究にもとづいた、そうは見えないけれど学術書です。『セクシィギャルの大研究』はCM写真の記号論的研究、『スカートの下の劇場』は下着の歴史研究です。いずれのタイトルにも「セックス」も「パンティ」も入っていません。仮に入っていたからといって何が問題なのでしょう?まさか性を論じることがタブーだというのではないでしょうね?性を論じる人物は、それだけで講師として不適任だと?
?というわけで上野は「過去の発言」について、天にも地にも恥じるところはありません。しかも以上の「過去の発言」のいずれも今回のテーマである「介護」には無関係です。それを理由に「中止」を決定するのは言いがかりとしか思えません。」
「これからは周辺情報からの憶測です。
?上野の発言のうち、安倍政権批判が気に入らない人々が市長の周辺にいたようです。
?前市長(民主党)から現市長(自民党)に政権交代して、前市長のやったことをことごとく否定したい、と思ったようすも。
?安倍政権が誕生して地方の保守派がいきおいづき、このくらいのこと、と安直に考えて講演会つぶしをやってしまったと。
もし以上の「憶測」が正しいとすれば、こういうことがまかりとおってはなりません。山梨市のみならず他の自治体においても同様のことが起きる可能性を未然に防がなければなりません。
こういうことはあってもらっては困ることですから、山梨市長には根拠のない憶測にすぎない、ときっぱり否定していただき、わたしや一部の市民の方の疑念を晴らしていただくことを期待します。」
市の講演会中止が報じられたのが3月14日、上記ブログが3月15日付のもの。その後16日に一転開催することととなり、当初の予定のとおり本日(18日)開催となった。
市によると、中止が報じられた14日以降、市民から開催を求める意見が相次いだことから、市の担当者が望月清賢市長に翻意を促し、一転、開催が決まった。担当者が16日夜、上野さんに電話で伝えた。その際、「介護以外の話をしない」ことを上野さんに確認し、同意を得たという。
講演会の中止については、「介護は今の社会が避けて通れない切実な問題で、多くの人が示唆を得たいと望んでいた。学ぶ機会を奪われた」などとして、市民が抗議する動きも出ていた(朝日)、と報じられている。
決然たる上野さんご自身の怒りがあり、市民とメディアの支持があったことが、「中止撤回」の成果となった。
不当には、まず当事者が断固として怒ろう。そして、当事者を孤立させぬように支援をしよう。見て見ぬふりをするのではなく、声を挙げなければならない。今回はみごとなその成果である。上野千鶴子さんと、それを支えた山梨市民に惜しみない拍手を送りたい。
(2014年3月18日)