正月に多くの方から年賀状をいただいた。中には何通か「毎日のブログを楽しみにしています」などというお世辞も。とてもありがたいことと思う。だが、私の方はこの20年ほどは賀状を出していない。汗顔、無礼をお詫びするばかり。
年賀状はそれぞれのメッセージに満ちている。なるほどごもっとも、と膝を叩くようなご意見をたくさん頂戴した。以下はそのうちの一つ。学生時代同級だった多菊和郎さんからのもの。多菊さんは、元はNHKの国際放送局国際企画部職員。NHK放送文化研究所のメディア経営研究部長の任にもあった。退職後には、江戸川大学の教授として、その紀要に「受信料制度の始まり」という優れた論文も書いている。(http://home.a01.itscom.net/tagiku/)
ご承諾を得て、挨拶の部分を割愛してご紹介する。
「broadcastという英語の第一の語義は『種を播く』という意味です(OED)。とすると40?の貸農園で少しの野菜を作る私も一人のbroadcasterということになりますが、さて東京・渋谷の大農場ではどのような采配の下にbroadcastingの事業が営まれているのでしょうか。
去年の夏NHK退職者有志が呼びかけた『籾井会長の罷免を求める活動』には1,500人を超える元職員が賛同の意思を表明しました。古巣の組織の変事というよりは民主主義を毀損する、節度を欠いた権力主義的人事との問題意識が多くの人の脳裏にあったと思います。
原発再稼動、集団的自衛権行使、言論統制、沖縄‥。暴走する戦車を傍観していてはいけないと私は考えます。」
さすがにメディアの人らしいセンス。ネギやキャベツ、レタスなどが青々とした農園の写真が添えられている。これが彼のbroadcast成果。対して、本家のbroadcasting事業者の方は、豊かな成果どころではない。芽生える緑を踏みつぶすブルドーザーと化そうとしている。「民主主義を毀損する、節度を欠いた権力主義的(会長)人事」とは、事態の本質を喝破したものだ。
OBと現職、思想信条も感性も大きく異なっているはずはない。1500人の「もの言うOB」は、明らかに現職の気持を代弁し現職を励ましていることだろう。がんばれ、NHK職員諸君。
多菊さんの目には、「暴走する戦車」が映っている。NHK人事を通じての言論統制だけでなく、原発再稼動、集団的自衛権行使、沖縄‥等々。同感だ。いま、あらゆる分野で「暴走する戦車」の脅威が目に余る。暴走する戦車を止めなければならない。まずは暴走にブレーキをかけよう。そして止めた戦車には退場を願おう。いまなら、まだ間に合うのだから。
なお、多菊さんの賀状の冒頭に、「謹賀新年 2015年元旦」とある。これが嬉しい。NHKはいまだに元号使用にこだわっているからだ。私も元号不使用にこだわりがある。元号使用は一世一元制の尊重という、体制に従順な姿勢の表明ではないか。なにしろ、「現天皇の即位を起算点として年を特定」しようというのだから。今年の年賀状を眺めると、元号使用派がめっきり減っていることを好ましく思っている。
(2015年1月4日)
安倍改造内閣で最も気になったのが高市早苗の総務大臣ポスト。安倍晋三の思惑からは「適材を適所に配した」のだろうが、民主主義の目線からは、渦中のNHKに最悪の人事。
案の定である。本日(9月6日)の東京・朝刊によれば、高市早苗総務相は、5日の報道各社とのインタビューで、海外向け放送を行っているNHKに対して「領土などの正しい情報や日本の素晴らしさをアピールするため、必要に応じて放送法に基づく放送要請をすることはあり得る」と表明したという。
下に「政府が右といえば、左ということはできない」というNHKありて、上に「日本の素晴らしさをアピールせよ」という大臣あり。まったくお似合いだ。権力への批判を真骨頂とするジャーナリズムの片鱗もない。もう、うんざり。
政権から見れば、NHKは国営放送であり、政権御用達放送機関なのだ。「こんなNHKには受信料を払いたくない」「正常化までは受信料支払いを凍結したい」と考える多くの人々がいて当然。NHKによると、2013年度末現在、1年以上の受信料未払い者は138万件、計1635億円におよぶという。
その人々にお伝えしておきたい。NHK受信料支払い請求権の時効は5年である。5年以上遡って支払う必要がない。その点の注意が肝要だ。
本日の各紙が、「受信料時効5年確定、NHKの上告棄却…最高裁初判断」という記事を載せている。比較的毎日が詳しい。
「NHK受信料の滞納分を何年前までさかのぼって徴収できるかの時効期間が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(鬼丸かおる裁判長)は5日、『時効は5年』とする初判断を示した。その上で『時効は10年で、10年前の滞納分まで請求できる』としたNHK側の上告を棄却した。『5年より前の滞納分は徴収できない』とNHK敗訴とした2審・東京高裁判決が確定した」
「NHKによると、受信料の時効を巡っては263件の訴訟が係争中だが、今後は最高裁判決に基づいて審理されるとみられる。1審が簡裁で争われるなどして高裁で確定した判決は95件あるが、全て時効は5年との判断が示されていた」「最高裁で争っている20件について、NHKは訴訟を取り下げる」
民法の解釈問題に立ち入る必要はない。一般原則の「10年」ではなくて、この場合は「5年」との解釈が確定したのだ。指摘したい問題はここから。
各紙が、「NHK広報局は『判決を真摯に受け止め、今回の判断を踏まえて対応する。引き続き公平負担の徹底に努める』とコメントした」(東京)と報じている。多くは、このコメントの紹介を結びとしている。さて、このコメントをどう読むか。
「判決を真摯に受け止め、今回の判断を踏まえて対応する」とは、「5年を超える過去に遡った受信料滞納分の請求はしない」のだろうと、普通の読者は思うだろう。ところがさに非ず。「引き続き公平負担の徹底に努める」とは、「この判決のあとも以前と変わることなく、遡って全額を請求します」という宣言なのだ。ちょっとひどいよ、NHKさん。
毎日の記事は、次のように続く。「最高裁判決を受けNHKは5日、受信料を滞納している視聴者から時効の主張があった場合、これまで『10年』さかのぼって請求するとしてきたのを、今後は『5年』とすることを明らかにした。」という。注意深く読まねばならない。今後は『5年』の請求とするのは、「視聴者から時効の主張があった場合」に限られるのだ。これまでだって、『10年』に限っていたのは、時効の主張があった場合についてだけのこと。今後も、「5年で時効が完成しているはずだ」という視聴者からの「時効の援用」がない限りは、あくまで「全額をいただこう」ということなのだ。
毎日記事の最後は、「長村中・営業局専任局長は『公平負担の徹底のため、引き続き未払いの全期間について請求する方針に変わりはない』としている」と結ばれている。
朝日はこうだ。「判決を受け、NHKは『引き続き、支払いが滞っているすべての期間について請求するが、契約者側から時効の主張があった場合には「5年で時効」として取り扱う』との方針を明らかにした」
毎日・朝日の報道が合致している。要するに、NHKは視聴者側から「時効援用がない限りは」、15年分でも、20年分でも、遡って滞納の全額を請求する方針ということなのだ。
法律上は、時効期間の経過によって客観的には時効が完成していても、債務者側からの時効の援用がなければ、裁判所は時効によって権利が消滅したという判決を言い渡すことができない。うっかりすると、時効利益の放棄とみなされることだってあり得る。
その意味では、NHKの「方針」が違法でも不当でもない。そのように一応は言いうる。とはいうものの、時効が完成して支払う必要がなくなったことを知った上で、それでも支払いをしようなどということは、普通は考えにくい。
昔お世話になって借りた金、その恩を忘れずに時効が完成していることを承知しながら、きちんと支払いたいということはあるだろう。しかし、NHK受信料債務を時効完成後もお支払いしたいなどという者があろうとは常識的に考えられない。
結局のところ、NHKの「方針」は、視聴者の無知や無理解あるいは迂闊に付け込もうというものではないか。姑息というほかはない。
意識的な受信料不払いの皆様、支払い凍結者の皆様。いざというときには、時効の援用が必要であることをお忘れなきよう、くれぐれもご用心。
(2014年9月6日)
本日は、下記ホームページの紹介である。
「多菊和郎のホームページ」http://home.a01.itscom.net/tagiku/
多菊さんは、NHKのOB。
8月21日、NHK退職者有志が、NHK経営委員会に対して「籾井勝人会長に対して辞任勧告をせよ、会長がこれに応じない場合には罷免せよ」という申し入れを行ったことが話題となっている。申入は、賛同者1527名の名をもって行われた。浜田委員長ならずとも、「退職者の1割が署名したというのは、少ない数字ではない」(8月26日時事)と言わざるを得ない。
「NHK全国退職者有志のホームページ」http://obseimei.sakura.ne.jp/ を開くと、呼びかけ人180名の中に、「多菊和郎(報道番組プロデューサー・国際放送局国際企画部長)」を見つけることができる。彼も、1527のドラマのひとこまをプロデュースしていたのだ。
実は多菊さんは私の学生時代の同級生。1964年進学の東大文学部社会学科で席を同じくした仲である。とはいえ、当時親しかった記憶はない。いや、お互いの存在すら知らなかった。わずか30人ほどのクラスでのこと。私の授業への出席率が極端に悪かったからなのだ。当時私は、もっぱら生活費を稼ぐためにアルバイトに明け暮れていた。
その多菊さんと、偶然この7月に初対面同然で巡り会った。そして、彼がNHKに勤務していたこと、既に退職し、OBとして籾井勝人会長の発言に怒り心頭であること、退職者有志1000人の糾合を目標に会長罷免要求の賛同者を集めて運動していることなどを知った。
なによりも驚いたのは、彼がNHK退職者でありながら、受信料支払い停止を実践していることだった。しかも学ぶべきは、彼の行動が実に堂々としていることである。匿名に隠れたり、遅疑逡巡するところが皆無なのだ。信念の行動であると感じさせずにはおかない。
彼には、「放送受信料制度の始まり? 『特殊の便法』をめぐって?」(江戸川大学紀要『情報と社会』第19号 2009年3月14日発行)というボリューム十分な論文がある。
「NHKを定年退職し大学の教員をしていた2008年に、上記題名の論文を書きました。大正末期のラジオ放送開始に際して聴取料制度がどのように形づくられたかを検証したもので今日の時事的なテーマを扱ったわけではありません。しかし執筆の動機となった出来事は直近のNHK経営問題でした。」というもの。
彼は、受信料制度を支持する立場である。しかし、「2004年7月に明るみに出たNHK職員による巨額の番組制作費不正支出問題に端を発して,多くの視聴者が受信料支払いの拒否や保留に転じたためNHKの経営が危機に瀕した」事件に関して、「少なからぬ受信者が…NHKの側が十分に“視聴者に顔を向けた”放送局でなかったために,視聴者の“権利”のうちの『最後の手段』を行使した。その意味では,受信料制度は破綻したのではなく,設計どおりに機能したと言えよう」と、視聴者の「最後の手段」としての受信料支払い拒否を「制度の設計どおりの機能」と肯定する。
その一方で、「なお一点確認しておくべきことがある。それは,NHKの経営基盤が弱体化すれば,政治権力は間髪を容れずこのメディアヘの支配権拡大に着手することがはっきりと見えたことである」ともいう。
視聴者の賢い対応で、公共放送を育てていくことが必要だということなのだろう。
ほかならぬその彼の受信料支払い停止実践の記録が、紹介するホームページに掲載されている。
掲載文書は以下のもの。とりわけ、「3 受信料支払い停止の経緯」が興味深い記録。
1 籾井勝人NHK会長あて「会長職の辞任を求める書簡」(2014年3月3日付)
2 浜田健一郎NHK経営委員長あて「NHK会長の罷免を求める書簡」(2014年3月3日付)
3 受信料支払い停止の経緯に関する報告資料
4 参考資料 「放送受信料制度の始まり」(論文)
いろんなところで、自分の持ち場となるところを定めて、民主主義や人権を自分自身の生き方の問題としてとらえて、深くものを考え実践している人がいる。そのことに心強さを感じる。この社会、まだ捨てたものではない。
(2014年8月28日)
今、ジャーナリズムが最も関心を寄せるべきテーマとして衆目が一致するところは、安倍内閣による集団的自衛権行使容認以外にはない。曲がりなりにも戦後続いた平和を危うくして、国と国民の命運を変転させかねない重大な内容もさることながら、立憲主義をないがしろにしている点でも、行政の継続性の観点からも、国民への説明責任を尽くすことなくあまりにも性急にことを運んでいる点でも、ジャーナリズムが最大級の関心を持って取りあげるべきは当然である。
そして、まっとうなジャーナリズムであれば、権力批判の視点を持たねばならない。「政府が『右』と言っているものを、『左』と言うわけにはいかない」では、ジャーナリズムとしては失格。こんな姿勢のメディアは、報道機関と言うに値しない。政府広報部門に等しく、「大本営発表」の伝声管に過ぎない。権力に畏怖しない毅然たる態度で事実を糺してこそ、ジャーナリズムでありジャーナリストではないか。
NHKの経営陣が安倍人事によって籠絡され、ジャーリストとしての矜持を捨て去っていることは既に天下周知の事実となっている。しかし、現場までが一色に塗りつぶされているわけではない。多くの良心的な職員が重苦しい雰囲気の中で、精いっぱいの努力をしていると理解してきた。その努力が、実るのか押し潰されるのか、象徴的な事件が、7月3日に放送された『クローズアップ現代』の官房長官インタビューを舞台に生じているという。
本日(11日・金曜日)の主要紙朝刊に、講談社の「FRAIDAY」の広告が掲載されている。そのトップに「安倍官邸がNHKを『土下座』させた一部始終」とある。「国谷キャスターは涙した‥」と付記されてもいる。小さく「『クローズアップ現代』で集団的自衛権について突っ込まれた菅官房長官側が激怒。‥」との説明。集団的自衛権の問題としても、NHK問題としても、これはただごとではない。見過ごせない。
「FRAIDAY」を入手して目を通してみた。2頁だけの短い記事だが、「官邸・経営陣・現場」をめぐるNHK問題を浮かびあがらせている。
「FRAIDAY」の記事を引用する。
「この日の『クロ現』は、菅義偉官房長官(65)をスタジオに招き、「日朝協議」と「集団的自衛権の行使容認」について詳しく聞くというものだった。官房長官がNHKにやって来る??局には緊張感が漂っていたという。「菅さんは秘書官を数人引き連れて、局の貴賓室に入りました。籾井会長も貴賓室を訪れ「今日はよろしくお願いします」と菅さんに頭を下げていました。その日の副調整室には理事がスタンバイ。どちらも普段は考えられないことです」(NHK関係者)
官房長官は、政府公報機関に出向いたつもりだったのだろう。ところが、ほんの少々だが、あてがはずれたようだ。現場には、政府公報機関意識が乏しく、ジャーリストとしてのプライドが残っていたからだ。
FRAIDAYは、「『他国の戦争に巻き込まれるのでは』『憲法の解釈を簡単に変えていいのか』 官房長官が相手でも物怖じしないしない国谷氏の姿勢はさすがだった」と評している。
「だが、直後に異変は起こった。秘書官がNHKにクレームをつけたという。」「そして、数時間後再び官邸サイドからNHK上層部に、『君たちは現場のコントロールもできないのか』と抗議が入ったという。局上層部は『クロ現』制作部署に対して『誰が中心となってこんな番組作りをしたのか』『誰が国谷に「こんな質問をしろ」と指示を出したのか」という。『犯人捜し』まで行ったというのだ。」
貴重な報道である。官邸は、NHKに「君たちは現場のコントロールもできないのか」と不満をぶつけてよいと思っているのだ。NHK経営陣は、毅然とこれに抗議して現場の良心的職員を守ろうという気概はカケラもない。右往左往するばかり。いや、官邸の意を酌んで現場を締め上げているのかも知れない。
大切なことは、官邸とNHK経営陣に抗議すること。NHKの現場の良心を励ますことではないか。「国民は、その国民にふさわしい政府を持つ」という。「国民は、その国民にふさわしいメディアを持つ」とも言えよう。発言しなければ、NHKを再びの大本営伝声管にしてしまう。
さっそく、知人がメールで抗議・要請先を教えてくれた。番組専用サイトへコメントを送信するには、次のURLを開き、「コメントを投稿する」をクリックすると、コメント送信用の画面が出てくるそうだ。ぜひ、ものを言おう。
http://www.nhk.or.jp/gendai-blog/100/192625.html#comment
(2014年7月11日)
韓国KBS理事会が、キル・ファニョン社長の解任を決定した。日本に置き換えれば、NHKの経営委員会が、籾井勝人会長の解任を決議したことに相当する。政権との癒着を批判した世論と、解任を求めてストライキ決行までした労組の輝かしい勝利。一連の経過から、ジャーナリズムのあるべき姿と、理念を守るための運動の在り方を学びたいと思う。この経過を通じて、韓国KBSは政治権力から独立した報道機関としての評価を勝ち得た。国民からの信頼は貴重な財産となるだろう。
それに比べて…である。わが国では「政府が右といえば、左とは言えない」と象徴的な迷言を吐いた人物が公共放送のトップに居座ったまま。政権から独立した報道機関としての信頼は地に落ち、泥に汚れたままである。
隣国の公共放送経営体トップが、政権との癒着を指摘されて解任に至ったニュースを、同様の立ち場で、同様の問題を抱えるNHKがどう報道するか、関心津々たるところ。
NHKオンラインは、本日早朝(6月6日4時10分)のNHKニュースウェブ欄に、「韓国KBS 理事会が社長解任決める」という記事を掲載した。その全文は、以下のとおり。
「韓国の公共放送KBSは、『社長が政府の立場に配慮して報道内容に不当に介入した』などとして報道局の幹部や記者らが職務を放棄する異例の事態が続いていることから、理事会が社長の解任を決め、混乱はようやく収拾に向かう見通しとなりました。
韓国の公共放送KBSでは、先に、旅客船沈没事故について不適切な発言をしたと伝えられた報道局長をキル・ファニョン社長が更迭し、これに対して報道局の幹部や記者らが「社長は政府の立場に配慮して報道内容に不当に介入し、報道の独立性を侵した」などと反発して職務を放棄し、労働組合もストライキを続けています。
こうしたなかKBSで5日、理事会が開かれ、キル社長の解任を求める決議案が賛成多数で可決され、KBSの社長の任命権を持つパク・クネ大統領もこれを受け入れるとみられます。
KBSは、ニュースの時間が大幅に短縮されているほか、4日行われた統一地方選挙では、当選が決まった候補を取材する記者がいないなどといった異例の事態が続いていました。
これで、混乱はようやく収拾に向かう見通しとなりましたが、かたくなに辞任を拒否してきたキル社長だけでなく、視聴者を無視してストライキを続けたなどとしてKBS全体に厳しい目が向けられており、信頼回復には時間がかかりそうです。」
呆れた報道姿勢と言わねばならない。NHKは、問題を「混乱」としかとらえられないのだ。だから、社長辞任を「混乱の収拾」としか表現できない。「視聴者を無視してストライキを続けたなどとしてKBS全体に厳しい目が向けられており」と根拠を挙げずに労組を誹謗し、「(KBS全体の)信頼回復には時間がかかりそうです」と、世論を「混乱への批判者」と決めつけて結んでいる。
傍観者を決めこみ、ジャーナリズムの政治権力からの独立を重視する観点を意識的に否定した姿勢とも言えよう。これでは、「NHKに向けられた厳しい良識の目からの批判は避けられず」「国民からの信頼回復には時間がかかりそうです。」と言わざるを得ない。
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受信料支払い凍結運動にご参加を
具体的な受信料支払い凍結の手続については、下記のURLに詳細です。是非とも参照の上、民主主義擁護のための運動にご参加ください。
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/nhk-933f.html
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支払い凍結と並んで、NHK籾井会長、百田・長谷川両経営委員の辞任・罷免を求める署名運動も継続中です。こちらにもご協力をお願いします。
運動の趣旨と具体的な手続については、下記URLからどうぞ
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post-3030-1.html
http://chn.ge/1eySG24
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NHKに対する「安倍首相お友だち人事」への抗議を
☆抗議先は以下のとおり
※郵便の場合
〒150-8001(住所記入不要)NHK放送センター ハートプラザ行
※電話の場合 0570?066?066(NHKふれあいセンター)
※ファクスの場合 03?5453?4000
※メールの場合 下記URLに送信書式のフォーマット
http://www.nhk.or.jp/css/goiken/mail.html
☆抗議内容の大綱は
*籾井勝人会長は即刻辞任せよ。
*経営委員会は、籾井勝人会長を罷免せよ。
*百田尚樹・長谷川三千子両経営委員は即時辞任せよ。
*経営委員会は、百田尚樹・長谷川三千子両経営委員に辞任勧告せよ。
こちらもよろしくお願いします。
(2014年6月6日)
昨日(5月29日)のソウル聯合ニュースが、韓国放送公社(KBS)労組のストライキ突入記事を配信している。これは、大きな注目に値する。
「韓国旅客船セウォル号の沈没事故をめぐり、韓国放送公社(KBS)の吉桓永(キル・ファンヨン)社長が青瓦台(大統領府)の意向を受け、政府批判を自制するよう指示したとの疑惑が浮上している問題で、KBS理事会は29日、吉氏の社長解任案提出の是非を問う表決を来月5日に延期することにした。これを受け、吉氏の退陣を求めていた同社の二つの労組は同日午前5時からストライキに入った。
KBS理事会は同社の独立性や公共性を保障するため、経営などに関する決定を下す最高議決機関。11人の理事で構成され、与党が7人、野党が4人を推薦し、大統領が任命する。
KBS理事会は今月26日、臨時理事会を開き、報道の公正性を損ねたなどとして、吉氏の社長解任提出案を上程した。
これに先立ち、「全国言論労組KBS本部(新労組)」と「KBS労働組合(1労組)」は吉氏の解任提出案を可決しない場合、ストを実施するとしていた。1労組には技術や経営職など約2500人、新労組には記者やプロデューサーら約1200人が所属している。2010年に新労組が発足して以来、両労組が同時にストを行うのは初めて。
KBS記者協会とKBS全国記者協会による19日からの業務中断でニュース番組が短縮されるなど、同社の報道機能はすでに事実上まひしている。ストにより、統一地方選(6日4日投開票)やサッカーワールドカップ(W杯)ブラジル大会などにも支障が生じる見通しだ。」
KBSは、日本のNHKに相当する公共放送。受信料収入で経営されている。KBSとNHK、ちょっと似てるが大きく違う。その報道姿勢や職員のジャーナリストとしてのプライドには雲泥の差がみえる。今回のこのストライキ。韓国国民からの信頼獲得に大きな財産となるにちがいない。ワールドカップが放映されないことなど、些事としてとるに足りない。
このストライキは、職員の労働条件の改善を求めてのものではなく、政権との癒着の疑惑あるKBS社長の退陣を求めてのもの。全職員が総力をあげてKBSの公正な報道に関する国民の信頼を勝ち取ろうという要求なのだ。労組側は、「人々が信じられる放送メディアをつくるという目標をもってのスト」と言っている。「敬意を表する」程度の讃辞では足りないと思う。それに比較して、わがNHKにおいては…、と考え込まざるを得ない。
韓国で起こったとされていることを、時系列で要約すれば以下のとおり。
*大統領府からKBS吉社長に政府批判自制の要請があった
*これを受けた吉社長が、政府批判を自制するよう内部に指示した
*そのことを不都合としてKBS理事会が吉氏の社長解任案を上程した
*28日に予定されていたその評決が延期となった
*これを不満として労組がストに突入した
KBSをNHKに置き換えてみよう。その場合、大統領は首相に、吉社長は籾井会長に、理事会は経営委員会に置き換えることになる。日本で、以下のようなことが起こっても不思議はないのだ。
*安倍首相が、お友だち人事で籾井勝人をNHK会長に据えた
*籾井会長は首相の意を受けて「政府が右といえば左とは言えない」と発言
*一連の会長の言動を問題に経営委員会が会長の罷免案を上程した
理由は、「報道の公正についてNHKの信頼を損ねた」というもの
*ところが、官邸からの圧力あって、その評決に至らない
*業を煮やしてNHK職員の労組が全組織を挙げてストに突入した
このタイミングで、元NHKに勤務していた堀潤が主宰する「市民投稿型ニュースサイト8bitNews」にKBS労組委員長のインタビューが掲載されている。
http://8bitnews.org/?p=2565
のサイトでの組合側の言い分は、以下のとおり格調が高い。
「報道局長が会見で社長の行為を告発しました。大統領府からニュースに関する圧力がかかっていたというものです。その過程で、KBSの社長が報道に干渉したという情報がありました。公共放送の本来の役割を取り戻すために、まず社長職から退いて、さらに朴大統領が謝罪しなくてはいけないと思っています。」
「KBSの社長を大統領が任命するという今の構造が根本の問題です。KBSの社長は大統領の顔色を常にうかがっており、実際の人事を決める過程でも影響を与えています。社長の任命にとどまらず、政府の意向は社長が任命した報道局長や部長などに連鎖していくので、そうした連鎖を断ち切らなくてはいけないのです。構造を変える必要があります。公共放送の基本的な使命である真実の報道、国民の知る権利の保障が重要です。これらをどうやって守っていくのかというがメディア人の役割だと思っています。人々が信じられる放送メディアをつくるという目標をもってこのストを進めています。」
「KBSでは1990年4月にもこうした、政権に対立して公共放送の独立性を求めるストがありました。放送民主化闘争です。2000年にも長期にわたってストもありました。不利益、解雇や転職もありましたが、KBSの構成員たちは使命を守るために恐れもなく闘ってきました。」
「KBSという公共放送は国民の財産です。権力者の所有物ではなく国民の財産です。国民の財産を守るために闘っています。闘いの正当性が保証されていますので恐れはないです。今の時期は朴政権の初期にあたります。韓国の政治状況は大統領の配下で絶対的な権力をもっていると見えます。大統領の意向は絶対的な権力です。ですから今までも大統領に対する批判を自制する風潮はありましたし、一方で数多くの言論人達がそれを克服しようと努力しております。」
韓国に学びたい。韓国に学んで、われわれもNHKを批判の世論で包囲しなければならない。「人々が信じられる放送メディアをつくる」ために。切実にそう思う。
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受信料支払い凍結運動にご参加を
具体的な受信料支払い凍結の手続については、下記のURLに詳細です。是非とも参照の上、民主主義擁護のための運動にご参加ください。
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/nhk-933f.html
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支払い凍結と並んで、NHK籾井会長、百田・長谷川両経営委員の辞任・罷免を求める署名運動も継続中です。こちらにもご協力をお願いします。
運動の趣旨と具体的な手続については、下記URLからどうぞ
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http://chn.ge/1eySG24
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NHKに対する「安倍首相お友だち人事」への抗議を
☆抗議先は以下のとおり
※郵便の場合
〒150-8001(住所記入不要)NHK放送センター ハートプラザ行
※電話の場合 0570?066?066(NHKふれあいセンター)
※ファクスの場合 03?5453?4000
※メールの場合 下記URLに送信書式のフォーマット
http://www.nhk.or.jp/css/goiken/mail.html
☆抗議内容の大綱は
*籾井勝人会長は即刻辞任せよ。
*経営委員会は、籾井勝人会長を罷免せよ。
*百田尚樹・長谷川三千子両経営委員は即時辞任せよ。
*経営委員会は、百田尚樹・長谷川三千子両経営委員に辞任勧告せよ。
こちらもよろしくお願いします。
(2014年5月30日)
NHK・籾井勝人会長。これほど任務にふさわしからぬ人はない。また、この人ほど人格識見のなさを天下に晒した例も少なかろう。このみっともない会長人事が、NHKの権威も信頼も傷つけた。安倍政権の足をさえ引っ張っている。「NHKの新年度予算審理が終了すれば辞任するだろう」「自分で辞める気がなくても、政権が詰め腹を切らせるにちがいない」「政権にその気がなくても、NHKの総体が、まさかこんな会長を居座らせることはないだろう」。誰もがそう思っていた。ところが、そうはなっていない。それどころではなく、籾井のNHK乗っ取りが始まった。籾井の逆襲である。このままではたいへんなことになる。まさしく、「政府が右と言えば、左ということのできない」NHKになりさがる。これは、民主主義の危機にほかならない。
4月22日のNHK経営委員会でのできごとは、ある程度のことは各紙に報道されていた。しかし、昨日(5月1日)発行の週刊新潮の記事を読んで愕然とした。タイトルは、「NHKには独裁者がよく似合う」「『私が人事を決める』とすごんだ籾井会長の『経営委員会語録』」というもの。これほど深刻な事態とは知らなかった。視聴者・国民の受信料支払い凍結運動がどうしても必要だ。それ以外に籾井会長を辞任に追い込む手段はなさそうだ。受信料支払い凍結が、日本の民主主義の危機を救う。
週刊新潮の記事は、経営委員会委員長代行の上村達男さんを中心に書かれている。私は、弁護士としては消費者問題分野での活動家である。消費者問題の最大課題はは、新自由主義的な規制緩和路線との対決。商法や金融商品取引法の専門家としての上村さんは、規制緩和至上主義を厳しく批判する立ち場で消費者族とは肌合いの合う研究者。企業コンプライアンスに関しては厳格な立ち場を崩さない方だから、NHKの経営委員としては誰が見ても適格であろう。
その上村さんであればこそ、籾井会長の言動に批判の言が鋭くなることは当然のこと。籾井会長は、この批判を何とか封じなければならない。その批判封じの手段が、「根回し」と「だまし討ち」だったようだ。昨年の12月20日、宇都宮選対から同様の「だまし討ち」の目に遭った私としては、上村さんの怒りがよく分かる。
4月22日NHK経営委員会議事録は、本日(5月2日)現在未公開である。経過は新潮の記事によるしかないが、その内容は具体的で信頼性は高い。なによりも、後に議事録公開があるのだから、いい加減なことは書けなかろう。
籾井の逆襲は、露骨な人事権の濫用を手段とするもの。4月22日に明らかになったのは、理事の人事について。NHKの理事は10人いる。籾井会長就任の際に、辞表を書かされたとして話題になった、あの10名。安倍政権や籾井会長への親疎が一様でない。籾井としては、手の内の者で人事を固めたい。優遇する者を作り出してこれを子飼いとしたい。NHKの合理的経営のための人事ではなく、自らの地歩を固めるための人事。そして、安倍政権への期待に応える人事である。
22日の経営委員会の各委員の席には、予め封筒がおいてあったという。封筒にハサミを入れて出てきたのが籾井会長の理事に関する人事案。「一瞥してカッとなった上村達男経営委員会委員長代行と籾井会長の間でバトルが繰り広げられたという」。
承認を求める理事人事の提案を封筒に入れて当日提出するとは、常識的に考えがたいやり方。経営委員会の当日に人事案を示すなどはこれまで前例のないことと報道されている。やられた方の違和感が察せられる。この日、上村さんの「なんでこういうことになるのですか!」という問に、会長は「情報が漏れるからだ」と答えている。おまえたちを信頼していないという宣言である。
人事案の提案書には、理事10名の名前と担務が記入されていたという。内2人が新理事の起用。2人の理事が退任することになる提案である。実は、4月25日に任期が切れる理事は4人だった。そのうち2人を再任、2人を退任とした。それとは別に、籾井会長は前日(21日)に2人の専務理事を呼び出して、「退任を迫った」という。「その両者とも、今年の2月に再任されたばかり。そんな無茶苦茶な話しはないと断られ」ている。会長は、できるだけ、自分の手の内の者で理事を固める腹だったのだ。
さらに問題は、担務にある。「理事の担務で最も重要なのが放送統括、2番目が国際放送統括、3番目が経営企画統括」なのだそうだ。籾井は、理事の中で「唯一の籾井派」と言われる人物を専務理事に昇格させて、放送統括と国際放送統括を兼務させた。この二つを一人の理事が握ったことは史上初。そして、経営企画統括は新たに理事になった人物。菅官房長官と親しいとされているという。「ここまで露骨な人事は聞いたことがないですね」と新潮は中堅職員の解説を掲載している。
退任した2人の理事が異例の挨拶をしている。1人は、「経営委員は何をやっているのか」と怒りを隠さなかったそうだ。なぜ、その権限を行使して籾井会長を罷免させないのか、という意味。「前代未聞のこと」であろう。もう1人も、涙を浮かべて、「現場はたいへんなんです。一生懸命やっているのに可哀想だ」と述べたという。愚かな会長の言動で、第一線の職員が迷惑していることについての精いっぱいの表現なのだろう。
ところが、である。この日出席の経営委員は11名(1人欠席)。そのうち、2人だけが籾井会長の人事提案に同意を留保したという。9人は同意に回ったわけだ。籾井にしてみれば、慣例に反して人事提案を封緘してハサミを入れさせるなどは、経営委員の神経を逆撫でする危険な行為であることは承知の上。事前の根回しなしには考えられない手法である。経営委員の何人に根回ししたのかは分からない。しかし、上村さんを筆頭とする「うるさがた」を除く根回しで、大丈夫だと踏んでの提案であったに違いない。なにしろ、「安倍友(あべとも)人事」による経営委員会なのだから。
上村さんは、事前の根回し工作を知らされず、経営委員会内部では結局は孤立させられた。籾井提案同意が9、留保2の勢力分布である。権力を握る者の、根回しとだまし討ちの効果である。
新潮記事は、さらに警告する。「5月末には、要の局長、部長級人事があるようです。籾井さんは、今度はここに手を突っ込むと噂されています」と言うのだ。そして「歴代の会長や理事たちは、手を替え品を替え政権と距離を置きながらやってきたものを、これからはツーカーでやろうとしているとしか思えない」というNHK幹部の声を紹介している。週刊新潮に政権べったりを批判されるNHKなのだ。このままで良かろうはずがない。
新潮記事は、「クレジットカード払いが主流になっている中、受信料が減ることはまずないが、もし減っていた場合、籾井さんは窮地に立たされることになるでしょう」という元理事の言葉を引用して、最後をこう結んでいる。「今回の独裁的人事が、受信料の不払いを加速させる可能性があることもお忘れなく」
以上が、受信料支払い凍結運動開始の日に発売の週刊誌の記事である。頃や良し、籾井勝人会長辞任に要求を高く掲げて、国民の手で会長を辞任させ、報道における民主主義を勝ち取ろうではないか。
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受信料支払い凍結運動にご参加を
具体的な受信料支払い凍結の手続については、下記のURLに詳細である。是非とも参照の上、民主主義擁護のための運動にご参加ください。
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/nhk-933f.html
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支払い凍結と並んで、NHK籾井会長、百田・長谷川両経営委員の辞任・罷免を求める署名運動も継続中です。こちらにもご協力をお願いします。
運動の趣旨と具体的な手続に付いては、下記URLからどうぞ
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post-3030-1.html
http://chn.ge/1eySG24
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NHKに対する「安倍首相お友だち人事」への抗議を
☆抗議先は以下のとおり
※郵便の場合
〒150-8001(住所記入不要)NHK放送センター ハートプラザ行
※電話の場合 0570?066?066(NHKふれあいセンター)
※ファクスの場合 03?5453?4000
※メールの場合 下記URLに送信書式のフォーマット
http://www.nhk.or.jp/css/goiken/mail.html
☆抗議内容の大綱は
*籾井勝人会長は即刻辞任せよ。
*経営委員会は、籾井勝人会長を罷免せよ。
*百田尚樹・長谷川三千子両経営委員は即時辞任せよ。
*経営委員会は、百田尚樹・長谷川三千子両経営委員に辞任勧告せよ。
こちらもよろしくお願いします。
(2014年5月2日)
風薫る5月。季節は晩春から初夏に移りつつある。
手許の歳時記に
メーデー歌雪形の出る岳の街(北沢昇)
という句がある。岩手山に鷲の雪形を見るころの、盛岡でのメーデーを思い起こす。
季節は美しい。しかし今年の5月は、集団的自衛権行使容認の是非をめぐる論争に明け暮れることになる。また、教員委員会制度をめぐる論議も熱している。既に国会提出となっている地教行法改正問題も山場を迎えようとしている。穏やかならざる5月の予感。
昨年の憲法記念日は、96条先行改正論をめぐる論議が白熱し、立憲主義を大切にしなければならないとする世論が広く浸透し社会に定着した。今年の、集団的自衛権論争はまさしくその延長線上にある。国会内の論議を尽くすこともなく、国民に意見を求めることもなく、時の政権が憲法の解釈の枉げて、実質的に憲法を改正してしまおうというのだ。憲法をないがしろにすること、これにすぐるものはない。
安保法制懇とは私的な機関に過ぎない。何の権限ももたず、何の権威もない。時の政権の意を体する人物たちが国会のなすべきことを掠めとろうとしているのだ。
また、教育基本法は実質において憲法の一部である。旧憲法が教育勅語と一対をなしていたごとくに、現行日本国憲法とセットをなすものである。1947年制定の改正前教育基本法冒頭の一文、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。」は、その理念を高く掲げるものとして戦後教育の理念を象徴するものであった。
これを削り取ったのが、第1次安倍晋三内閣である。そして、第2次の現政権は、戦後レジームの重要な柱のひとつである教育委員会制度そのものに襲いかかっている。政治権力からの教育の独立のための教育委員会の大骨を抜いてしまおうというのだ。それが、地教行法の改正問題である。
明後日に迫った、憲法記念日の各紙の社説に、立憲主義や教育の独立の理念に立脚した、骨太の堂々たる見解を期待する。
そして本日、NHK受信料支払い凍結運動が開始となる。
その運動への全面支援の立ち場から、「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」によるNHK経営委員会と会長ら宛の運動開始通告書を転載しておきたい。
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2014年5月1日
NHK経営委員会 御中
NHK会長 籾井勝人様
NHK副会長 堂本 光様
NHK理事
ご 通 知
籾井勝人氏のNHK会長辞任を停止条件として
本日より受信料支払い凍結運動を開始しました
NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
共同代表 湯山哲守・醍醐 聰
去る4月21日、当会は貴委員会ならびに貴職宛に、4月末日までに、経営委員会が籾井勝人氏をNHK会長から罷免するか、籾井氏が自ら会長職辞任を決断されるよう申し入れをし、期日までにこの申し入れが受け入れられない場合は、受信料の支払いを向う半年間、凍結する運動を起こすことをご通知しました。
しかし、本日、NHK視聴者部に問い合わせたところ、4月末日に至っても、籾井氏がなおNHK会長職にとどまっておられることを確認しました。
4月21日以降も、籾井会長は2人の専務理事に辞任を求めたものの拒否されたと報道されたり、本年度の新人入局式で、会長を罷免させる手続きを定めた放送法の条項は読まなくてもよいという趣旨の発言をされ、その真意を経営委員会で質されたりするといった異常な事態が続いています。
会長就任会見での数々の暴言以来、収まる気配がない籾井氏のNHK会長としてあるまじき言動を見るにつけ、いまや籾井氏が会長職にとどまられること自体が、NHKにとって害あって益なしになっていると言って過言でありません。そのため、当会と同様に、受信料の支払いを一時凍結してでも、籾井氏がNHK会長職を一刻も早く辞されるよう望む声がNHK内外で急速に広がっています。
こうした声に連携し、それをさらに広めるために、当会は、先に予告させていただいたとおり、本日(2014年5月1日)から、受信料の支払いを凍結する運動を開始するとともに、この運動への参加を視聴者各位に呼びかけることにしたことをご通知いたします。
この運動は、先に予告しましたとおり、期間を半年と定めた運動ですが(かりに半年後に至っても籾井氏が会長職にとどまっておられる場合、凍結をさらに続けるかどうかは参加者の判断に委ねることとしています)、今後、半年を待たず、籾井氏が会長職を辞される場合は、その時点で凍結分も含め、受信料の支払いを再開することにしています。
もとより、私たちは、視聴者の受信料で運営財源を支えられていることがNHKにとって政治権力や商業的圧力から自立した公正公平な放送を行うための強固な基盤になっていることを十分承知しています。そのため、現在の受信料制度を大枠として堅持することを支持しており、当会が提起する受信料支払い凍結運動は、「受信料不払い」運動とは明確に一線を画するものです。
しかし、視聴者がNHKと結ぶ受信契約は税金のような片務性の公契約ではなく、視聴者とNHKの相互の信頼関係の上に成り立つ双務契約です。この点で、「政府が右といったら左とは言えない」などと公共放送の自立性を端から理解しない籾井氏が会長職に居座り続けたのでは、視聴者は、NHKが公共放送にふさわしい自主自律の放送を提供するという信頼を保てません。このような場合、籾井氏が会長を辞任されることが、視聴者からの信頼を回復するのに必要な最低限の措置であり、そのような措置が講じられるまで視聴者が受信料支払い義務の履行を停止する抗弁の権利を行使するのは条理にかなったことです。
また、オバマ大統領も先日、従軍慰安婦は女性の人権をはなはだしく侵害するものだと発言しました。そうした従軍慰安婦を「どこの国にもあったこと」などと平然と発言した籾井氏は公共放送の会長として失格です。そのような人物に私たち視聴者が支払う受信料から年額3,092万円もの報酬が支払われることをとうてい、納得できません。
経営委員会ならびに籾井会長におかれましては、こうした多くの視聴者の意思を代弁する当会の受信料凍結運動の趣旨を重く受けとめていただき、籾井氏の会長罷免または自主的な辞職を一日も早く、決断されるよう、強く要望いたします。
以上
具体的な受信料支払い凍結の手続については、下記のURLに詳細である。是非とも参照の上、民主主義擁護のための運動にご参加いただきたい。
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/nhk-933f.html
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運動の趣旨と具体的な手続に付いては、下記URLからどうぞ
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※メールの場合 下記URLに送信書式のフォーマット
http://www.nhk.or.jp/css/goiken/mail.html
☆抗議内容の大綱は
*籾井勝人会長は即刻辞任せよ。
*経営委員会は、籾井勝人会長を罷免せよ。
*百田尚樹・長谷川三千子両経営委員は即時辞任せよ。
*経営委員会は、百田尚樹・長谷川三千子両経営委員に辞任勧告せよ。
こちらもよろしくお願いします。
(2014年5月1日)
4月21日付の日刊ゲンダイが、市民団体「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」による籾井勝人会長ら辞任要求運動を大きく紹介した。その要求貫徹のための実効手段として、「受信料半年間支払い凍結」を視聴者に呼びかける運動に関して、次の記事を掲載している。
「気になるのは“凍結運動”に賛同した場合のリスクだ。最近、NHKは受信料を払わない個人に対して容赦なく支払いを求める訴えを起こしているからだ。」
この記事を書いたゲンダイ記者は、NHK会長辞任要求運動へのシンパシーを隠そうともしていない。その記者にして、提訴されることを「気になるリスク」と表現している。誰だって、訴訟の被告などになりたくはない。裁判所から呼び出しが来るだけで気が滅入る。中には、「得難い経験をするチャンス」「法廷で思う存分言いたいことを言ってやろう」「敗訴したところで、たいした金額ではない」という方もいようが、所詮はごく少数派。
なによりも、「提訴されることを、気になるリスク」とする普通の感覚の持ち主にNHK批判の運動に参加してもらう必要がある。安倍政権のNHK支配を阻止する大きなうねりをつくるためには、避けられるものなら提訴リスクは避けた方がよいに決まっている。
提訴リスクの有無の検証として、ゲンダイは、以下の紀藤正樹さんのコメントをもち出した。ゲンダイから見て、紀藤さんは穏当で適切なコメンテーターなのだろう。
「弁護士の紀藤正樹氏はこう言う。訴えられたら負ける可能性はあります。ただ、果たしてNHKが裁判に訴えられるかどうか。判決が出るまで、普通は5カ月程度はかかる。半年後には支払う可能性が高いのに、わざわざ裁判を起こすのかどうか。しかも、賛同者が数万人になったら裁判費用は巨額になる。1人当たり1万円程度の受信料のために、訴訟費用だけで赤字になってしまう。なにより、裁判沙汰になったら、世論を喚起し、運動が拡大する可能性がある。損得を計算したら訴えるとは考えづらい」
目くばりの行き届いた、なかなかのコメントではないか。
まずは、「訴えられたら負ける可能性はあります」という。「勝ち味はありません」「絶対負けます」とは言わない。しかし、もちろん、「法廷で断固闘えば勝てます」などと無責任なことも言わない。「万が一訴えられたら、正々堂々と法廷で自分の意見を言いましょう」とも言ってくれないが、これはやむを得ないところ。
「果たしてNHKが裁判に訴えられるかどうか。…(NHKが)訴えるとは考えづらい」というのが結論となっている。訴訟における勝敗の帰趨とは別の問題で、NHKが原告となって、「半年間受信料凍結運動参加者」に受信料支払い請求の裁判を起こすことは、実際にはあり得ないだろうという。私も同意見だ。
その理由は3点挙げられている。第1点が、審理に要する期間の問題である。予定された賃料支払い凍結期間(半年)のうちに判決言い渡しが間に合うかといえば、「それは無理」というのが常識的な判断。どうせ無駄になるような裁判に、手間暇とコストをかけるような愚を犯すはずはないだろう、ということ。凍結期間が短く限定されていることから、ある程度の審理期間の必要性が不可避な提訴という手段が実効性をもたないというわけだ。
第2点がNHKにとっての訴訟コストの問題。「賛同者が数万人になったら裁判費用は巨額になる。1人当たり1万円程度の受信料のために、訴訟費用だけで赤字になってしまう」ことが目に見えている。NHKの受信料請求の訴訟提起の動機は、決して訴訟で債権回収を企図しようというのではない。謂わば、一罰百戒の威嚇効果を狙ってのものだ。提訴1件当たりの収支を計算すればコスト割れしていることは必定。だから提訴数を増大することは困難である。さらに、凍結運動参加者が増えれば、到底コストの点でペイするはずもなく、お手上げとなってしまう。
第3点が、「裁判沙汰になったら、世論を喚起し、運動が拡大する可能性がある」との指摘。私もそのとおりだと思う。籾井発言は誰の目にも不当なもの。籾井辞めよという世論を顧みないための受信料支払い凍結ではないか。しかも、時期を半年と区切ってのもの。この運動は、目的も手段も、極めて妥当なものではないか。これに対して、NHKが報復的な提訴で対抗すれば、火に油を注ぐことになるだろう。その点からも、NHKが「受信料支払い凍結者」への提訴は考えにくい。
また、ゲンダイ紙面には、もう一人(「NHK関係者」)のコメントが紹介されている。「もし、受信料の支払い凍結運動が大きくなったら、籾井さんは辞めざるをえないでしょう。なにしろ、NHKの事業収入6997億円のうち、受信料収入は6725億円と96%を占める。単純計算でも契約者の1割が1カ月間“支払い凍結”しただけで56億円の収入が途絶え、NHKの業務はマヒしてしまう。かつてNHKのドンと呼ばれた海老沢会長も“受信料の不払い”が急増したことで辞任に追い込まれています」
常識的に考えて、訴訟を提起されて被告となるリスクは限りなく小さい。そして、NHKに対する影響という意味での効果は絶大。これは、実によく練られた運動だと思う。本日が4月28日。籾井会長がNHKを救うための辞任の期限まであと48時間ほどである。
(2014年4月28日)
「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は、昨日(4月21日)NHKを訪れて籾井勝人会長の辞任を求め、同会長が4月中に辞任しない場合には、半年間の受信料支払い凍結を視聴者に呼びかける運動をスタートさせることを通告した。
その運動方針の概略が、同会のホームページに掲載されている。
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/
受信料支払いの拒否ではなく、支払いの凍結。それも半年間と期間を区切ってのもの。その半年の間に籾井会長が辞任すれば、凍結を解除し遡って未払い分を支払う。仮に、その時期が半年経過後であっても、未払い分の清算を呼び掛けるという。よく練られた優れた運動方針であることを改めて確認して支持を表明したい。
運動として「優れた」方針という意味は3点に集約されよう。まず「運動に道理がある」、次いで「多くの人に参加してもらいやすい」、さらに「要求実現に実効性が高い」ことである。
まず、道理がある。運動目的の道理の存在についてはいまさら言うまでもない。そのポイントは、放送法の立法趣旨がNHKの権力からの独立の確保にあるにもかかわらず、安倍晋三の「お友だち人事」が立法の理念を極端に破壊していることにある。これを是正しようという、運動「目的」の正当性が大前提。そのことは当然として、いま、運動方針の吟味に際して問題とすべきは、運動の「手段」として社会的に是認さるべき道理を具備していること。それあって初めて、多くの運動参加者が自らの行動について正当性の確信をもつことができる。
「視聴者コミュニティ」の代表である醍醐聡さんは、「受信契約は一方的な義務ではない。NHKと視聴者の相互信頼からなる契約だ。籾井氏によって信頼が壊されているなかで、支払い凍結は当然の権利だ」と語っている(本日付赤旗)。まことにもっともな道理ある説明ではないか。NHK側の信頼関係損壊への視聴者の対抗手段として適切であって、「過剰な反応」だの、「権衡を失する」などという言いがかりを許さない。社会的な支持を獲得することに十分な道理をもっている。
なお、道理の上で大切なことは、良心的なNHK職員への配慮がなされていることである。会の名称が「NHKを激励する」との文言を含んでいる。籾井や百田・長谷川を激励する趣旨ではない。権力からの締め付けの中で、ジャーナリストとしての良心を貫こうとしている現場の職員との連携を大切にする立ち場からも、「半年間の支払い凍結」という運動手段は道理がある。
次いで、多くの人に参加してもらいやすいこと。おそらくこれが、再重要のポイントである。「受信料不払い」となれば、まなじりを決した決意が必要と考える人も少なくなかろう。「支払い凍結」であれば、気楽にいける。「半年間だけ」と期限を切っのものであれば、なおのこと運動参加のハードルは低いものとなる。多くの人が参加しやすくなっている。
「NHKに打撃を与える運動に参加するのだから何らかのリスクを覚悟しなければならないのではないか」とご心配の向きに、「大丈夫ですよ。覚悟などする必要はありません。心穏やかに『半年間の支払い凍結を』」と呼び掛けたい。
刑事弾圧のあり得ないことは4月18日の当ブログで、既に詳述したので繰り返さない。下記URLを参照されたい。
http://article9.jp/wordpress/?p=2496
そのブログに、民事的なことにも触れてはいるが、少し補充をしておきたい。
NHK受信料の支払い義務は受信契約締結の効果として生じるのだから、民事上の債務不履行という状態にはなりうる。借金の返済が遅滞している、家賃の支払いが滞っている、キャッシングの決済が未了となっている、などと同じ事態。「滞納になっている」のだ。だから、NHKから民事的な催告があることは当然のこととして予想される。それ以上の強硬手段として、民事訴訟の提起があるかといえば、ないと考えるのが常識的な判断。
NHKの側に立って考えてみよう。
「この件で、何万件も提訴して、訴状を送達して、第1回の口頭弁論期日を決めて、答弁書の提出を受けて、再反論して…、証拠を提出して…、半年の間に結審して、判決を取ることなどまず不可能だ。ましてや、判決に基づく強制執行などあり得ない。だから、訴訟費用と手間暇かけての提訴は、絶対にペイしない。せっかく手間暇かけての裁判の途中で半年経って任意に支払われたら、それで訴訟は終了なのだから。たくさんの人が支払い凍結となれば、膨大な訴訟コストでNHKは経済的な苦境に追い打ちを受けることになる。半年経っても支払わない人にだけ、選択的に提訴を考えるという方針を採った方が賢いやり方だ。」
だから、NHKの提訴は考えにくいが、なにしろ籾井会長を擁するNHKの経営陣である。コストを無視しての提訴が絶対にないとは言えない。万が一には提訴されることもありうるだろう。しかし、提訴されたところで大したことにはならない。貴重な経験と思っていただいて結構なのだ。衛星契約で、せいぜいが1万3000円程度の裁判なのだから。
催告がNHKから届いているかぎりは、慌てることはない。無視していてもよい。内容証明郵便による催告でも同じこと。しかし、裁判所から来た場合には、放っておいてはいけない。おそらくは、簡易裁判所からの督促手続としての「支払い命令」が先行すると思われる。これを放っておくと、確定判決と同じ効果が生じることになるから、異議の申立をすることになる。すると、正式裁判に移行する。1万円程度の裁判。NHKの方が辛いだろう。
仮に、NHKからの提訴があった場合には、多くの視聴者が共同して応訴することになるだろう。その場合には、視聴者側の言い分を堂々と述べることになる。受信契約は双務契約であるから、NHK側が自分の債務を履行していることが大前提でなくてはならない。放送法に定められた公共放送としての責務をきちんと果たしているかを問題としなければならない。籾井会長や、百田・長谷川などの経営委員の、人選や言動、あるいはその放送内容への影響などが裁判の焦点となるものと考えられる。安倍晋三の女性国際戦犯法廷取材番組への介入の事実も再度問題となろう。大裁判といってよい。到底半年で決着がつくはずもない。凍結期間半年が経過すれば、裁判も終了する。
そして、半年間の支払い凍結が、会長の辞任という要求実現に実効性の高い手段であることは、いうまでもない。籾井会長の辞任を勝ち取ることができたら、安倍改憲志向政権に大きな打撃を与えることができる。この運動是非とも成功させたい。NHKの権力からの独立性確保のために、民主主義の大義のために、NHK受信料支払い半年の凍結をお勧めする。
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「人間の品質管理」を連想させる、キリンとライオンの殺処分
トゲのように心に刺さって忘れられない記事がある。「デンマークの動物園 今度はライオン四頭殺処分」という3月26日付け毎日新聞の報道。詳細はつぎのとおり。
2月9日、デンマークのコペンハーゲン動物園が、飼育していた1歳6カ月の健康な雄のキリン「マリウス」を殺して、ライオンの餌にした。それも、子どもを含んだ来園者の目の前で解体し、ライオンの檻に入れて食べさせた。インターネットサイトに載っている写真の、横たわった血だらけのキリンのうつろな目が正視に堪えない。
ほかの動物園や個人からの引き取りの申し出を拒否して、この処分を強行したので全世界から批判が殺到した。動物園側の主張は、「マリウスの遺伝子は繁殖という目的からすれば、平凡すぎた」「キリンの解体は来園者にとって遺伝的多様性を学ぶ機会である」「キリンの肉はもったいないのでライオンの餌にした」というもの。
さらに、園内のキリンが殖えすぎて(8頭)、近親交配を避けるため殺処分しなければならなかったと主張している。繁殖プログラムに参加しているヨーロッパの動物園団体も規約に則っているとして、この殺処分を支持した。果たして公開についても支持したのだろうか。これらの動物園のキリンの先祖は同系統で、マリウスはどこにもらわれていっても、健全な子どもの父親にはなれない。動物園のスペースは限りがあるので、遺伝子的にもっと価値の高いキリンのために場所を空けなければならないので、去勢しても飼うことはできないともいっている。
当然のことながら、動物愛護団体やたくさんの個人からは非難が殺到した。説明に当たった動物園職員はメールや電話で殺人予告を含む脅迫を受けた。解雇を要求する署名は「マリウス」の助命嘆願の4倍を超える11万通も寄せられたという。
話はこれで終わったのではない。その後の2月25日、その同じコペンハーゲン動物園がそのキリンを食べたライオンのうち4頭をやはり殺処分したという。理由は23日新しい遺伝子を入れるために、若い雄ライオンが搬入されてきたためである。年老いた16歳の雄と雌はこの若い雄と争いになるのを避けるため、また、老いた雄ライオンの子どもである2匹の子ライオンは新しく入る若い雄ライオンに殺される運命にあるため、一緒には飼育できないということらしい。理想的な若々しいライオン家族を作るため、4頭を殺して1頭を搬入したということである。気分が悪くなる。たとえ、ぬいぐるみ遊びでもこんなふうに簡単に気持ちの整理はつくものではない。子どもが古いぬいぐるみを、愛着なく平気で捨てて顧みなかったら、親は仰天するだろう。
しかし、どこの動物園でも飼育スペース確保のために余剰動物を殺処分するのは珍しいことではないらしい。ただ、コペンハーゲン動物園のように挑戦的、衝撃的にそれを公開するようなことはしない。動物園の飼育環境は良くなっているので、動物は長寿を全うする。繁殖技術も向上して、動物の数も増える。近親交配を避けるべく、動物園のあいだで動物の移動をするが、それも限界がある。動物園で生まれた子どもを自然に返すことは大変な困難を伴い、なかなかできることではない。とすれば、現代社会に動物園があるかぎり、コペンハーゲン動物園で起こった悲劇は無数に繰り返されることになる。コペンハーゲン動物園は「キリン」や「ライオン」という、目立って美しい生き物を公開殺処分して、動物園の現実をあらわにし、あえて警鐘を鳴らしたのかもしれない。
確かに、狭い檻の中をグルグル歩き回るクマを観るのは痛々しい。父親のシルバーバックが大きな背中で隠そうとしているゴリラの家族を覗くときはプライバシー侵害を恥じる気分になる。不機嫌そうにじろりと見返すハシビロコウの檻の前は「すみません」と言いながら素通りしたくなる。大きな羽をすぼめたオジロワシやエゾフクロウのしょんぼりした姿は見るに堪えない。たぶん、「見物させる動物園」の役割は終えつつあるのだろう。
だからといって、動物園がキリンを公開殺処分して、ライオンに食べさせる情景を見物させていいはずがない。「ブタやウシを殺して食べている人間が何を言うか、偽善者メ」といわれても、やはりこの殺処分には納得がいかない。合理的と情緒的の境界は明確ではない。人によって文化によってその境界は大きく異なる。殺処分はいいが、公開はいけないという人もいるだろう。コペンハーゲン動物園は非難されても、キリンの殺処分と公開に後悔の念はなく、合理的精神に則ってライオンの処分までつき進んだようにみえる。それとも、ひるんだが故にライオンの処分は公開しなかつたのだろうか。
「マリウス」と名前をつけて、慈しんできた生き物に対する惻隠の情というものはないのか。「マリウス」の生命に対する畏敬の念はないのか。公開で殺し、餌にするのは、「マリウス」の尊厳を踏みにじることにならないのか。抵抗できず、抗議もできない弱い生き物を人間の都合で安易に殺してよいはずはない。環境を破壊し、生息域を狭めてきた張本人の人間が「平凡すぎる遺伝子」とか「飼育スペースがない」といって動物を殺すのは傲慢すぎないか。だれにも「劣った遺伝子」を決め、選別する権利はないはずだ。
こんなに怯えた気分になるのは、動物園のキリンの次は「人間の品質管理」という悪夢が忍び寄っているのではという思いが浮かぶからだろうか。
(2014年4月22日)