澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

台湾総統選は、「民主主義を守ろう」対「みんな金持ちになれる」の抗争。

台湾総統選の結果には注目すべきだろう。時事の記事には、蔡英文氏が再選 過去最多得票で韓氏に圧勝―「一国二制度」拒絶」と見出しが打たれている。取材者の印象が「圧勝」だというのだ。

昨日《1月11日》の投開票で、投票率は75%と高い。前回が66%だから、選挙民のこの選挙への関心の高さがよく分かる。民進党・蔡英文の得票が817万票(57%)で過去最多であったという。対する最大野党国民党の韓国瑜は552万票(38%)だった。

各紙の報道は、対中関係での強硬路線と融和路線の争いと見て、強硬な姿勢で臨んだ蔡氏に絶大な支持が集まり、対中融和路線派に圧勝した」とする。なお、同時に行われた立法院(定例113)選でも民進党は61議席を得て過半数を維持した。

時事によれば、蔡候補の訴えは、
「台湾の主権と民主主義を守ろう」
これに対する韓候補のフレーズは、
「中国と関係を改善すれば、台湾は安全になり、みんな金持ちになれる」
というもの。

もう少し敷衍すれば、
蔡「なによりも、主権の確保・民主主義の貫徹・自治の防衛が重要ではないか。けっして、大国である中国に呑み込まれてはならない。目先の経済的利益のために、あるいは政治的摩擦を恐れての安易な妥協は将来に取り返しのつかない禍根を残す」
韓「所詮中国の政治的・経済的影響を排除することなど無理なこと。現実的に考えれば、対中融和こそが、望ましい安全保障政策であり、台湾経済を豊かにすることができる」

理念派対実利派の対抗関係でもあり、政治重視派対経済重視派の争いでもあり、短期利益重視派対長期利益重視派の論争でもあると言えよう。

日本各地でもありふれた政治抗争パターンである。原発立地問題や基地建設問題、アベ友学園建設問題、カジノ誘致…、みんなこの手の争いである。日本では、実利派が圧倒的に強く、理念派の旗色が悪い。しかし、香港でも台湾でも、また韓国でも、良識ある理念派の層の厚さに敬意を表せざるを得ない。

なお、4年前の蔡政権発足以後、政権への民衆の支持は必ずしも高揚せず、世論調査による政権支持率は低迷していたという。しかし、中国が事態を逆転させた。2019年1月、習近平が将来の台湾統一に向けて「一国二制度こそが最良の形だ」と発言した際には、蔡氏は即座に「絶対に受け入れられない」と反発した。

そして、同年6月以来の、「一国二制度」の悲劇が香港で繰り広げられた。香港の運動に共感する人々が蔡政権への支持を高揚させた。反対に、台湾でも中国への警戒感が高まり、対中国融和派には、強い逆風となってしまったという。

逆風の源は香港だけではない。たとえば,昨年暮れには上海からこんなニュースが発信されている。

上海に復旦大学という名門がある。日本の大学になぞらえれば京都大学に相当するという。その大学規約の改正が話題となった。毎日の年末の報道では、大学規約から『思想の自由』削除に抗議 中国の名門・復旦大で異例の集会」という見出し。

中国では大学の規約改正に教育省の許可が必要。同省が12月5日に許可した復旦大の新規約によると、序文にあった「学校の学術・運営理念は校歌にうたわれている学術の独立と思想の自由」との部分が削除された。そして「学校は中国共産党の指導を堅持し、党の教育方針を全面的に貫徹する」となった。

 大学では学生らによる抗議集会が18日以降、断続的に開催されている。中国当局は大学での思想管理を徹底。名門大でのこうした集会は極めて異例だ。

 この動きは、ネットで伝えられたが、12月末、既にネット上では関連投稿がほぼ削除されている。検索サイトでも「復旦」「自由」などのキーワードで検索できなくなっている。復旦大当局は18日に「改正手続きは合法的に行われ、党の指導をさらに徹底するものだ」とのコメントを出した。

これだから、香港の人々も、台湾の人々も、中国には呑み込まれたくないと必死にならざるを得ないのだ。
(2020年1月12日)

 「これが民主主義の力だ。民主主義の津波だ」 ー おめでとう香港! おめでとう民主主義!

世界が見つめた11月24日の香港区議会議員選挙。「民主派」の圧勝となった。香港市民に、祝意と敬意を表したい。もちろん、この先の険しさは予想されるところだが、取りあえずの勝利に乾杯である。

香港区議選は4年に1度行われ、18の区議会の合わせて452議席を選ぶものだという。他の選挙と違い「市民による直接選挙」であることが強調されている。この選挙結果を香港の民意と見てよい。

この選挙が、「民主派」「親中派」との争いと報じられて、誰もいぶかしく思わない。つまり、一方に「民主主義の香港を目指すグループ」があり、他方に「中国と宥和する香港」を望む政治グループがあって角逐している。「民主」と「親中」が相容れないことは常識となっている。そのことは、この半年間のつぶさな報道で、世界に明らかともなった。実のところ、真の対決は「香港市民」「中国政権」の間にあるのだ。

最終報告で民主派385議席となった。議席占有率でほぼ85%という圧勝。これまで7割の議席を占めていた親中派はこれ以上はない惨敗に追い込まれた。小さな香港が、大きな中国に勝った。香港市民は自信と余裕を得るであろう。香港の雰囲気は変わるに違いない。中国は、この圧倒的な民意を尊重する賢明さを見せなければならない。香港市民への恫喝と弾圧を継続することは、国家と党と政権の権威を自ら貶めることになる。

注目すべきは投票率が71・2%に達していること。過去最高だった前回選挙の最終的な投票率を約24ポイント上回ったという。香港市民の、政治意識変革の反映と見るべきだろう。

わが国の2009年総選挙を思い出す。民主党政権を誕生させた総選挙は、最近では記録的な高投票率(69.28%)となった。それまで自民党政治に絶望しながらも、無力感から投票しなかった1000万人が動いたのだ。政治変革を求めたこの1000万人が、政権を変えた。「第1党・民主党308議席」対「第2党・自民党119議席」という民主党の圧勝だった。

しかし、次の2012年総選挙では、この1000万人が姿を消した。投票率は59.32%に戻って、民主党政権誕生の主役となった10%の有権者が退場することで、再びの自公政権となり、その後の投票率はさらに下落しながら安倍政権を継続させている。安倍一強体制を支えているのは、もの言わぬこの1000万人の選挙権不行使なのである。

それにしても、日本では10%の投票率アップが政権を交代させた。香港の24%アップは、さらに劇的な変化をもたらした。ニワトリとタマゴの関係でもあろうが、投票率アップは政権交代に欠かせない。

香港に学び高投票率を再現して、日本も香港に続きたいものである。
(2019年11月25日)

恥を知れ、安倍晋三。

昨日(11月8日)の参院予算委。質疑の中で、またまた安倍晋三の醜態が明らかとなった。改めて思う。こんな人物を行政府の長としている、わが国のみっともなさと不幸を。そして、最近よく聞く安倍晋三こそ国内最大のリスク」というフレーズに同感する。

安倍の「醜態その1」は、一昨日の衆院予算委に続いての閣僚席からの野次である。
毎日が、簡潔にこう伝えている。「安倍首相、再びやじ 質問議員指さして」「金子参院予算委員長『厳に慎んで…』」
https://mainichi.jp/articles/20191108/k00/00m/010/282000c

首相が8日の参院予算委員会で、質問する立憲民主党の杉尾秀哉氏を指さしながらやじを飛ばしたとして、杉尾氏が抗議する一幕があった。首相は6日の衆院予算委でも野党議員にやじを飛ばし、棚橋泰文衆院予算委員長が不規則発言を慎むよう要請した。
杉尾氏によると、放送局に電波停止を命じる可能性に言及した2016年の高市早苗総務相の発言について質問した際、首相が自席から杉尾氏を指さして「共産党」とやじ。金子原二郎参院予算委員長が「不規則発言は厳に慎んでほしい」と注意した。
杉尾氏は取材に「国会は政策を論議する場であり、やじは首相の適性や品格に関わる問題だ」と語った。

安倍にとっては、「共産党」が悪口なのだ。戦前の天皇制時代に作られた時代感覚そのままの恐るべきアナクロニズム。それにしても、立憲民主党の杉尾秀哉氏を指さしながらの「共産党」である。意味不明。というよりも、理解を超えた発言。他人ごとながら、「この人、ほんとに大丈夫かね」と心配になる。

安倍の「醜態その2」は、共産党・田村智子議員の質問によって、明らかになった醜行。本日(11月9日)の赤旗トップ記事になっている。
「桜見る会を安倍後援会行事に」「参加範囲は『功労・功績者』のはずが」「税金私物化 大量ご招待」「田村氏追及に首相答弁不能」という大見出し。
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-11-09/2019110901_01_1.html

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-11-09/2019110903_01_1.html

「安倍内閣のモラルハザード(倫理の崩壊)は安倍首相が起こしている」―。日本共産党の田村智子議員は8日の参院予算委員会で、安倍晋三首相主催の「桜を見る会」に安倍首相や閣僚らが地元後援会員を多数招待していた問題を追及しました。安倍首相は質問に答えられず、審議はたびたびストップ。安倍首相が先頭にたって公的行事・税金を私物化している疑惑が深まりました。

「桜を見る会」の参加者数・支出額は安倍政権になってから年々増え続け、2019年の支出額は予算額の3倍にもなっています。田村氏は、各界で「功労・功績のある方」を各府省が推薦するとしながら、自民党議員・閣僚の後援会・支持者が多数招待されていることを明らかにしました。

安倍首相の地元・山口県の友田有県議のブログ記事では、“後援会女性部の7人と同行”“ホテルから貸し切りバスで会場に移動”などの内容が記されています。
田村氏は「安倍首相の地元後援会のみなさんを多数招待している」「友田県議、後援会女性部はどういう功労が認められたのか」とただしました。
安倍首相は答弁に立てず、内閣府官房長が「具体的な招待者の推薦にかかる書類は、保存期間1年未満の文書として廃棄している」と答弁しました。田村氏は「検証ができない状態ではないか」と厳しく批判しました。

田村氏は「安倍事務所に参加を申し込んだら、内閣府から招待状がきた」という下関の後援会員の「赤旗」への証言を紹介。「下関の後援会員の名前と住所をどの府省がおさえられたのか。安倍事務所がとりまとめたとしか考えられない」とただしました。
さらに田村氏は、友田県議や吉田真次下関市議のブログに、「桜を見る会」とあわせて安倍首相夫妻を囲んだ前夜祭の盛大なパーティーの様子が紹介されていると指摘。「桜を見る会が『安倍首相後援会・桜を見る会前夜祭』とセットになっているんじゃないか」「まさに後援会活動そのものだ」と追及しました。

安倍首相は「お答えを差し控える」と答弁を拒否し、議場は騒然。田村氏は「桜を見る会は参加費無料でアルコールなどをふるまう。政治家が自分のお金でやれば明らかな公職選挙法違反だ。こういうことを公的行事と税金を利用して行っていることは重大問題だ」と強く訴えました。

なるほど、安倍晋三は共産党が嫌いなわけだ。が、問題は安倍自身がしたことの責任だ。田村議員が指摘するとおり、「政治家が自分のお金でやれば明らかな公職選挙法違反」なのだ。これに呼応して、山添拓議員が、「私費でやれば公選法違反。税金で堂々やるとは、私物化も甚だしい!」とツイートしている。さて、政治家が自分のお金でやれば明らかな公職選挙法違反」だが、「税金で堂々やる」のは犯罪にならないのだろうか。そんなはずはなかろう。

問題の条文は公選法199条の2 第1項である。公選法の条文は、極めて読みにくく作られている。文意をとりやすいように整理すれば次のとおりである。

公職選挙法第199条の2
第1項 政治家は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならない。

その違反に対する罰則は、下記のとおり。
第249条の2
第1項 第199条の2第1項の規定に違反して当該選挙に関し寄附をした者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する。
第2項 通常一般の社交の程度を超えて第199条の2第1項の規定に違反して寄附をした者は、当該選挙に関して同項の規定に違反したものとみなす。

もちろん、有罪が確定すれば、原則5年間の公民権(選挙権・被選挙権)停止となる。

問題は、この安倍晋三による「税金私物化 大量ご招待」を、「寄附」と見ることができるか、である。私は、できると思う。もしこの安倍晋三の税金私物化が、公職選挙法違反にならないとすれば、公選法は甚だしいザル法である。ザルの目を塞ぐ法改正が必要となる。

「寄附」の定義規定は次のとおりである。
公職選挙法第179条第2項
「この法律において「寄附」とは、金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付の約束で党費、会費その他債務の履行としてなされるもの以外のものをいう。」

つまり、安倍晋三が山口1区の有権者に、「金銭や物品」を配ることだけが、公職選挙法で禁止された「寄附」に当たるものではない。禁じられているのは、「財産上の利益の供与」一切なのだ。

立法の趣旨は明らかである。カネを持つものが、カネで政治を壟断することを防止するためである。典型的には、カネで票を買うことは買収罪となり、カネを支払っての選挙運動員を使って票を集めることは、間接的に票を買うことになるとして、運動員買収罪となる。しかし、通常の選挙犯罪は、特定の選挙との具体的な関連性が要求される。たとえば、次のとおり。

第221条1項 次の各号に掲げる行為をした者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
第一号 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。

選挙「買収」は、「当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて」という形で、特定の選挙との具体的関連性が要件となっている。しかし、寄附にはその目的規定がない。特定の選挙との関連性が希薄ではあっても、カネの力で選挙民の投票行動が左右されるようなことがあってはならないとするのが法意なのだ。

本件では、安倍晋三がその選挙区の有権者を「参加費無料でアルコールなどをふるまう」会に招待し参加させたことが寄附に当たるか、が問われている。本来の「功労・功績者」への招待であれば公職選挙法条の犯罪とはならないが、欲しいままに予算を計上し、あるいは予算を大幅に上まわる人を招いて、事実上後援会員を「タダで飲み食いさせ」たのは,明らかに財産上の利益の供与であるから、寄附に当たる。問題は、「寄附」とは、自腹を切っての供与だけをいうもので、権力者が税金を欲しいままに使っての選挙民に対する利益供与は除かれるのか、という点に収斂する。

この寄附禁止規定は、「政治家が自分のカネでやる」ことを想定していたには違いない。しかし、身銭を切っての寄附の悪質性よりも、権力者がその地位を利用ないし悪用して、国民の財産を掠めとっての「寄附」がより悪質であることは、誰の目にも明らかではないか。

法の制定時、こんな安倍晋三流の悪質極まりない選挙違反は想定されていなかった。それが、安倍一強の驕りによってここまで腐敗が進行したということではある。しかし、実質的な負担者が誰であれ、有権者に利益を供与せしめた者すべてが、公選法199条の2 第1項違反と解すべきで、その解釈が罪刑法定主義に反するものではないと、私は思う。
それにしても、汚い。恥を知れ、安倍晋三。
(2019年11月9日)

「法と民主主義」特集《市民と立憲野党の13の共通政策・私たち法律家の闘い》のお勧め

「法と民主主義」2019年8/9月合併号【541号】が好評発売中である。
https://www.jdla.jp/houmin/index.html

特集の総合タイトルが、参院選2019と法律家の課題」というもの。その目玉が、市民と立憲野党の13の共通政策・私たち法律家の闘い」という企画。

リードの一部を紹介しておきたい。

 「…『市民と立憲野党の13の共通政策・私たち法律家の闘い』は、市民連合呼びかけ人である広渡清吾氏のほか13名の論者に執筆頂いた論考である。
 19参院選は、安倍政治に終止符を打つべく、安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合と立憲野党四党一会派による13項目の共通政策についての合意が実現する中でたたかわれた。
 改憲問題対策法律家6団体連絡会は、この政策合意が挙げる13項目の分野の第一線で活動する法律家に呼びかけて、それぞれの立場から、この政策合意の項目に賛同し、安倍政治からの転換を目指す立憲野党会派を支持する記者会見を参院選前7月1日に行った。
 法律家たちは、
?安倍政治によっていかに国民生活が疲弊し、軍事大国化が進み、民主主義と人権が危機に晒されているか、
?憲法の諸価値が壊されることに対して、それぞれの課題について市民運動がいかに粘り強く奮闘しているか、
?安倍政治のもとでそれぞれの課題を実現することは困難を極めており、草の根の市民運動とそのたたかいは、安倍政治に代わる、憲法の諸価値を実現する新たな政治をどれほど求めているか
を豊かに語った。
 本特集では、この記者会見で報告頂いた法律家の皆さんに、改めて論考を執筆頂き、『市民と立憲野党の13の共通政策・私たち法律家の闘い』として構成した」

 昨日(9月30日)が、「法と民主主義」編集会議。【541号】の総括について真っ先に出た意見が、「『参院選2019と法律家の課題』というタイトルの付け方が間違っていたのではないか」というもの。『法律家の課題』ではなく、「市民の課題」とすべきではかったか。このタイトルでは、あたかも法律家の、その専門分野だけの課題の特集のごとくではないか。むしろ、その内容は、市民に読んでもらいたいという法律家からの呼びかけではないか。
なるほど、まったくそのとおりだ。本特集は、『市民と立憲野党の13の共通政策』の各課題を法律家の視点から受けとめて掘り下げたものだが、法律家は市民の一部に過ぎない。法律分野で完結する問題など一つもありはしない。市民に呼びかけ、市民と連携することでしか、政策課題の実現はあり得ない。
 多くの市民にこれをお読みいただくとともに、各分野で,各課題への具体的取り組みを進めていただきたい。そんな思いでの、購読のお薦めである。

それに、今号は増ページで定価は据え置き。いつもよりは、多少のお買い得感がある。

「法と民主主義」(略称「法民」)は、日民協の活動の基幹となる月刊の法律雑誌です(2/3月号と8/9月号は合併号なので発行は年10回)。毎月、編集委員会を開き、全て会員の手で作っています。憲法、原発、司法、天皇制など、情勢に即応したテーマで、法理論と法律家運動の実践を結合した内容を発信し、法律家だけでなく、広くジャーナリストや市民の方々からもご好評をいただいています。定期購読も、1冊からのご購入も、下記URLから可能です(1冊1000円)

https://www.jdla.jp/houmin/form.html

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法と民主主義2019年8/9月合併号【541号】(目次と記事)

特集●参院選2019と法律家の課題

◆特集企画にあたって … 編集委員会・南 典男
■特別報告●参院選の結果と安倍改憲をめぐる新たな情勢・課題
── 日民協第58回定時総会記念講演より … 渡辺治
■市民と立憲野党の13の共通政策・私たち法律家の闘い
◆新しい政治の旗印 ─ 市民連合と立憲野党の共通政策を発展させる … 広渡清吾
◆立憲野党会派の政策合意と改憲・軍拡反対の法律家共同 … 大江京子
◆「戦争法」の違憲性、歴史への冒涜を問う ─ 安保法制違憲訴訟 … 杉浦ひとみ
◆いまこそ共謀罪の廃止を展望する … 海渡雄一
◆沖縄・辺野古新基地建設問題 … 稲 正樹
◆「共通政策」第5項目の評価と注文
─ 朝鮮半島の平和と非核化、北朝鮮との国交正常化等のために… 大久保賢一
◆「原発ゼロ基本法案」の審議・成立を! … 海部幸造
◆日本で働くすべての労働者が安心して公平に働ける労働法制の実現を…棗一郎
◆消費税の増税中止と税制の公平化 … 浦野広明
◆教育政策の真ん中に子どもの人格的成長を … 小林善亮
◆貧困・社会保障─生活実態を踏まえ、希望の持てる共通政策の発展を…加藤健次
◆ジェンダー平等の確立に向けて
─ 法律家及び法律家運動に求められること… 角田由紀子
◆公文書にまつわる疑惑の徹底究明と透明で公平な行政の実現 … 右崎正博
◆報道の自由と改革の課題 … 田島泰彦

◆特別寄稿●冤罪防止と再審請求を実現するため
── 三鷹事件の再審請求棄却決定から考える── … 高見澤昭治
◆司法をめぐる動き
・「法科大学院関連法」の成立について … 戒能通厚
・7/8月の動き … 司法制度委員会
◆メディアウオッチ2019●《「言論の自由」の責任》
韓国叩き、トリエンナーレ…、その背景
「改憲情勢」は時代の風潮なのか … 丸山重威
◆あなたとランチを〈№48〉
上田誠吉を仰ぎ見て … ランチメイト・泉澤章先生×佐藤むつみ
◆BOOK REVIEW●『国家機密と良心』(ダニエル・エルズバーグ著)を創った … 梓澤和幸
◆BOOK REVIEW●自著『「核の時代」と憲法9条』を語る … 大久保賢一
◆改憲動向レポート〈№17〉
父の墓前で改憲を誓う安倍首相 … 飯島滋明
◆ひろば●50回目を迎える「司法制度研究集会」を成功させよう! … 大山勇一
◆時評●消費税の呪縛を解く … 浦野広明
(2019年10月1日)

愚かな文科大臣から、邪悪な文科大臣へ。

またまた安倍内閣の新装開店セールである。11か月前の「在庫一掃内閣」の組閣で払底したはずの在庫商品を、またどこからか引っ張り出しての並び替えである。こんな目先幻惑商法に乗せられてはならない。

11か月前、私は在庫一掃内閣を象徴する「愚かな人材」として、教育勅語への思い入れをアピールした新文科大臣・柴山昌彦を取りあげて論じた。2018年10月4日の下記ブログをぜひお読みいただきたい。安倍内閣の性格とその閣僚のレベルとを的確に描写し得ていると思う。

柴山昌彦くん、愚かなキミには文科大臣は務まらない。
https://article9.jp/wordpress/?p=11246

その柴山昌彦くんは、今回店先からは外される商品のお一人となって庫に戻る。その彼が去るにあたってまったく無視をするのも礼を失する。なにか言わねばと思っていたところ、やっぱり言うべきことが出てきた。

本日(9月11日)朝刊各紙の見出しはこうだ。「高校での政治談議、柴山文科相『適切な行為?』と投稿」(朝日)、高校生が友人相手に政権批判、違法ですか? 柴山文科相のツイートに波紋広がる(毎日)、英語民間試験、反対投稿に文科相異議 高校生は政治議論禁止!? 専門家『飛躍しすぎ』」(同)。

アベ内閣の一員である柴山くんとしては、若者の政治意識が向上することはたいへんに憂慮すべきことなのだ。20才だった選挙権年齢を18才に引き下げたのは、若者の保守化著しいことを見極めてのこと。近年の教育行政の成果ようやくにして結実し、若者は黙っていても自民党に投票してくれる存在となった。いや、正確に言えば、周囲が黙ってくれる限りは自民党に投票してくれるのだ。下手に政治意識を刺激されて、アベ政権のウソやゴマカシを論じるようになられては困る。人権や平和や民主主義や、あるいは憲法や、憲法の理念形成の歴史などを議論し合うようになられてはなおのこと。取り返しのつかないことにならぬうちに手を打たねば、せっかくの若者保守票が野党に流れてしまうではないか。そんなことになったら、安倍チームの一員としての柴山の面子が丸つぶれだ。

もっとはっきり言えば、こういうことだ。高校生に政治を議論する必要はない。その資格もない。むしろ、政治的な意見交換は有害だ。黙って、自民党に投票するだけでよい。そのための18才選挙権ではないか。政治とは何か、アベ政権とは何か、その利権との結び付きはどうだ、などとつまらぬ入れ知恵をする大人や教員の存在こそが諸悪の根源なのだ。もひとつ大事なことは、「柴山はこんなにガンバっていますよ」という姿のアピール。それが、ツイッターでの発信となった。

ことの発端は、2020年度の大学入試への英語民間検定試験導入を巡る高校生たちの議論である。9条改憲でも、辺野古基地建設でも、モリ・カケでもない。政治性は希薄だが、大学受験生の深刻な問題。
大学入試のあり方をめぐる問題を通じて、多くの高校生が自分たちの生活や将来と、政治や行政とがつながっていることを意識し始めたのだ。そして、ツイッターで、高校生や教員が不満や反対意見を述べた。そのやり取りの中で、こんなツイートがあったという。

 教員 「次の選挙ではこの政策を進めている安倍政権に絶対投票しないように周囲の高校生の皆さんにご宣伝ください」
 高校生 「私の通う高校では前回の参院選の際も昼食の時間に政治の話をしていたので、きちんと自分で考えて投票してくれると信じている。もちろん今の政権の問題はたくさん話しました」

これに反応した柴山くんは考えた。これは、たいへん深刻な事態だ。大学入試のあり方などは些事に過ぎないが、高校生が日常政治の話をしていることは看過しがたい。「きちんと自分で考えて投票する」「今の政権の問題はたくさん」とはいったいなにごとか。こんなことを勝手に喋らせておいてはならない。大学受験問題をきっかけに、高校生が政治的に先鋭化しているとすれば、オレの失敗でオレの責任ではないか。ここは、押さえ込んで、高校生を善導しなければならない。

そこで、こんなコメントを発信し,これが「高校生が友人相手に政権批判、違法ですか? 柴山文科相のツイートに波紋広がる」と話題となった。

「こうした行為は適切でしょうか?」「公選法137条や137条の2の誘発につながる」「学生が時事問題を取り上げて議論することに何の異論もない。しかし未成年者の党派色を伴う選挙運動は法律上禁止されている」

重ねて、柴山くんは、9月10日の閣議後の記者会見でこう言っている。弁明でもあり、再度の挑発でもあろうか。

 「教育基本法は学校の政治的中立確保を求めている」「教員が規定に反する行為を行っていたとすれば不適切」「昼休みであっても生徒の選挙運動は禁止することがあり得る」「公選法に反する行為を誘発する恐れもあると考えたので問題提起した。高校生の政治談議を規制することは全く意図していない」

 これって、要するに「高校生諸君、諸君らの『昼食の時間にする政治の話』も、公職選挙法違反になることがある」「未成年者の選挙運動は法律上禁止されているのだから、政治に触れた話はせぬ方が無難だぞ」と脅しているのだ。文科大臣がこう言えば、これを忖度する教育委員会も校長もあるだろうとの思惑が透けて見えている。あるいは、「文科相の意向は、総理のご意向と承れ」とでも言いたいのだろうか。バカげた話、バカげた文科大臣というほかはない。

優れた文科大臣、気の利いた政治家ならこう言うところだ。
「民主主義は、主権者一人ひとりの政治的自覚を基礎にするものです。そして、民主主義の政治過程は自立した主権者の徹底した議論によってしか成立しません。民主主義社会の国民は政治的な自分自身の意見をもって、他の人びととの政治的な議論に習熟しなければなりません。そのためには、物心ついたときから息をするのと同じように、政治な会話ができなくてはなりません。高校生と言えども、また未成年者と言えども、常に政治に関心をもち、人の意見に耳を傾け、自分の意見を述べられるよう、ことあるごとに経験を重ねましょう」

優れていない文科大臣、気の利かない政治家も、これくらいのことは言わねばならない。
「高校生が政治に関心をもち、政治的な話題を口にすることは、犯罪でも何でもありません。公職選挙法違反だという脅かしは、民主主義大嫌いな右翼勢力や、自由な選挙運動を恐れる与党勢力の常套手段です。『18才になるまでは政治的な話題を口にしてはいけない』では、せっかくの18才選挙権を生かすことができません。校内でも校外でも、政治的なテーマの議論をすることに躊躇する必要はありません」

なお、毎日が解説しているとおり、「選挙運動とは『特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為』(総務省ホームページ)を指す。いつの選挙で、だれを当選させるための特定なければ、選挙運動には当たらない。教員のツイートが問題になる余地はない。公選法137条、137条の2違反のおそれなどというのは、「若者の政治参加や教育現場に萎縮を招きかねません」(広田照幸・日本教育学会長)との指摘のとおりである。

さて、本日(9月11日)発表の改造人事。柴山に代わる次の文科相は、萩生田光一である。愚かな文科大臣から、邪悪な文科大臣へ。嗚呼。
(2019年9月11日)

「れいわ」だけがやった「ワクワクした参院選」

梅雨明け宣言とともに、東京は猛暑である。猛暑の中で、参院選のしこりが、まだ拭えない。共産党の後退と、これに代わる「れいわ」の健闘も、しこりのひとつ。

昨日(7月28日)の毎日新聞朝刊「みんなの広場」(投書欄)に、長崎県大村市の主婦が「初めてワクワクした参院選」という投稿。大要、以下のとおり。

「参院選、私にとっては、これほどワクワクする選挙は初めてだった」「自分の貴重な1票を誰に投じようかと、そのための選挙情報をいつになく積極的に集めた」「テレビや新聞だけでなく、ネットからの情報も得ることにした」「さまざまな情報が入り乱れるネットの世界で、情報をたどっていくうちに、幸運にも自分自身が心から応援したいと思う政党、立候補者に出会うことができた」「街頭演説をネットで視聴しながら、どうしても応援を形にしたいという気持ちが募り、政党へ寄付をしたのも初めてだった」「投開票日をドキドキしながら迎えたのも初めて。そして選挙結果を知り、私は自分の1票を誇りに思えた。そうしたことも初めてだった。」

 「ワクワクした選挙」、「ドキドキしながらの開票」、そして「自分の1票への誇り」。なるほど、本来選挙とはこうあるべきはずのものなのだ。振り返って現状はどうか。私自身、「ワクワクした選挙」はここしばらく経験したことがない。

なにしろ、国政を私物化し、ウソとごまかしを専らにする連中が、「国政6連勝」などと誇示している現状である。業界団体やら、宗教団体やら、右翼集団やらに推された勢力が、低投票率の中で勝つという構図が定着している。「ワクワク」も「ドキドキ」もない。

が、この投書者は、間違いなく「れいわ新選組」に共感したのだ。ここにだけ、「ワクワク」と「ドキドキ」があった。薄汚く、危険で、およそロマンに欠けた安倍一強に対峙して、政治を変えていこうというロマンに選挙民を引きつけることに成功したのだ。

私は、「令和」を政党名につけるセンスには大きな違和感を禁じえない。「新選組」という権力側のテロ集団名も、真面目なネーミングとは受けとめられない。それでも、彼らの経済政策に、とりわけ税制改革案に、有権者を惹きつけるものがあったことを認めざるを得ない。ネットでみるその集会の熱気は凄まじかった。

前回は共産党に投票していたと思われる何人かが、「今回は、山本太郎に期日前投票した」と呟いたのを聞いた。山本太郎が、老舗の政党を蚕食したのだ。はるかに精緻な理論と強固な組織を持つ政党を、である。

政治団体「れいわ新選組」は、4月の旗揚げから選挙戦終了まで、4億円を超える寄付を集めたという。大金持ちからのまとまった裏金ではない。たとえば、DHCの吉田嘉明が渡辺喜美に提供した裏金は8億円だった。汚いカネは結局は、汚い政治を支えるだけ。

貧者の一灯の集積が、国民のための政治に活かされる。山本太郎は、集まった寄付を「(支持者が)おかずを1品減らしたり、外食をやめたりして、無理をして積み上げてくれた」と語ったという。

その台風の目となった「れいわ」。既成保守には脅威であろうし、既成革新には強力なライバルとなる。比例での228万票・2議席の獲得は大健闘というほかない。老舗政党の代表格である共産党が448万票(前回参院選比150万票)・4議席なのだから、共産党獲得票の半分強となっている。しかも、新聞・テレビの大手メディアの選挙報道からまったく無視されたハンディの中でのこの票数である。

これを、一方に「無党派層を掘り起こした」との積極評価もあれば、「結局は革新票を削っただけ」との見方もある。

今のところ、立憲民主党は「私たちの手が届いていない無党派層を掘り起こしている。一緒に闘えばウイングが広がる」、共産党は「演説会をお祭りのような雰囲気にして盛り上げる手法は学ぶべきだ。共闘できれば力強い援軍だ」と述べているという。既に、反自民野党共闘の一翼を担うべき勢力になっており、他の野党は共闘対象とせざるを得ない。

当面は、「消費増税反対」ではなく、「5%への減税」を共闘の条件にしよういう「れいわ」の姿勢を巡り、野党内に波紋が広がっているようだ。今後を注目せざるを得ない。

「れいわ」の訴えは、この社会の、とりわけ安倍政権が作り出した格差社会の弱者の心情の琴線に触れるところがあった。身障者、難病患者、非正規、失職者に、「消費税は廃止」「税金はすべて直接税に」「累進課税にして、あるところからとれ」「貧乏人からは取るな」と言ったのだ。

この点に限れば、実は共産党もほぼ同じことを言っている。ただ、共産党はあちこちに配慮しつつ品よくものを言い、「れいわ」は乱暴なまでにストレートに語った。今回の選挙、「れいわ」の方が有権者に訴える力で勝っていたということになる。「れいわ旋風」しばらく目が離せない。
(2019年7月29日)
 

「理不尽なことに怒ることを忘れた」 ― 有権者さんとの対話

 ようやく探し当てました。アナタですよ。アナタが加重平均的有権者その人なんです。どうしてって? いろんな指標で国民の意見分布を数値化して、それぞれの中位点を見定める。数ある中位点群のちょうど重心に位置しているのがアナタ。だから、アナタが、典型的有権者。あるいは「ザ・有権者」。有権者全体の意見を代表している。

 そのアナタにお聞きしたい。問い質すつもりも、問い詰めるつもりもありません。ひたすら、ホンネを聞かせていただきたい。どうしてアナタは、右翼につながる安倍政権を支持するんでしょうか?

 なぜって? 理由が必要ですか? ただ、なんとなくですよ。そう、なんとなく。別に熱烈に安倍さんを支持するわけじゃない。と言って、別に安倍内閣で大きな不都合もないようだし…。今あるこの社会の空気にしたがって、自民党でいいんじゃないかって感じ。

 ほかの政権選択肢は考えられませんか? たとえば、今の野党各党の連立政権とか、自民党以外のどこかの党を核にした政権とか。

 現実味ないでしょう。世の中の仕組みは、もう固まってしまってますからね。10年前の民主党ブームが例外現象。結局うまく行かなかったでしょ。自民党政権が、この国の宿命みたいなもんじゃないですか。

 今回の参院選では、アベノミクスの当否が争点のひとつでした。アナタには、アベノミクスの恩恵を受けているという実感がありますか?

 そんな実感は、ありませんね。でもね。アベノミクスをやめたら家計が潤うだろうという期待もないんですよ。だいたい、経済政策で生活が左右されるという実感自体が乏しい。

 うーん、どうしてなんでしょう。与党と野党で、ずいぶん政策が違うように見えますが。税金を、どこからどのように取って、どのように使うか。

 どんな公約を掲げた、どんな政権ができようとも、どうせ同じようなことしかできないでしょう。政権が代わったところで、やれることの幅は小さい。世の中の仕組みを大きく変えることなんてできっこないでしょうから。それなら、冒険せずに無難な選択をということですね。

 でも、アナタの経済的実状で、安倍政権の年金政策や消費増税を支持することができますかね。

 そりゃあ、年金には大いに関心ありますよ。受給額は多ければ多い方が良い。でもね、所詮無理なことはできないでしょ。高齢化に少子化が重なるんだから、我慢するところはしなけりゃね。消費税もおんなじ。税金は安いに越したことはないけど。それでは国がやっていけないというんだから、多少の増税はしょうがない。もっとも、自民党の具体的な政策は良く知りませんがね。

 安倍政権が続けば、経済でも防衛でも、アメリカに揺さぶられ、押し切られて、だんだん苦しくなりませんか。

 なんだか、そうなりそうですね。トランプさんは、アメリカの利益オンリーですからね。でも、相手がアメリカではしょうがない。そんなに極端なことにはならないでしょうしね。

 安倍内閣もしょうがない、アメリカもしょうがないですか。原発再稼働はどうですか。

 これもしょうがない。長年積み上げてきたことですから、将来の課題としてならともかく、すぐにこれをご破算してゼロベースからのスタートは難しいでしょう。

 森友や加計問題で、安倍首相による「政治の私物化、行政の私物化」の疑惑が大きく問題になりましたね。「ウソとごまかしの安倍政権」はごめんだという声は高い。安倍さんには退場してもらった方が良いとは思いませんか。

 そのときどきの報道には、腹を立ててきましたよ。確かに、安倍さんの態度は良くない。麻生さんもヒドイ。丁寧に説明するとよく言いますが、ポーズばかり。不誠実な人だとは思います。けっして信用できる人ではない。それでもね。ガラガラポンと、政権を変えてしまうのは不安なんですね。やっぱり慎重でなくっちゃ。

 安倍さんの憲法改正提案はどうですか。

 正直言って、賛成か反対かに悩みます。どうしたらよいものやら。もちろん、戦前の息苦しい時代に後戻りしたくはありません。戦争を繰り返すのは、ごめんだ。だから、9条を変えてはならないという訴えはよく分かります。でも、「非武装中立で国の安全が保てるか」と切り込まれると不安を感じますし、最低限の武力は必要ではないかとも思います。それなら、自衛隊を憲法に書き込むだけという安倍さんの提案を信じたいという気持にもなります。でもまた、「憲法をいじると副作用が大きいぞ」と言われると、それもそうだな、と揺れ動きます。安倍さんは信用ならぬ人ということもあります。ですから、結論を急ぐことではない。ゆっくれと後回しの議論で良いと思います。

 それで、アナタは結局どう投票したのですか。

 どうせ自分の1票で何も変わるはずもないのですから、棄権しようかと思っていたんです。でも、会社の関係で投票したことを報告しなければならなかった。だから投票には行きました。すぐに改憲ということではないでしょうから、積極的に安倍首相不信任の投票をする必要はない。でも、万が一国会で具体的手続が始まったら困るから、改憲発議に必要な3分の2の議席は、改憲派に与えたくはない。そんな私の気持ちのとおりの開票結果でしたね。

 沖縄の問題、とりわけ辺野古基地建設はどうですか。

 安倍政権のやり方は強引ですね。沖縄の人はお気の毒ですよ。お気の毒ですが、沖縄の地理的条件を考えると、沖縄への基地集中はやむを得ません。沖縄へは、手厚い経済援助で我慢してもらうしかないのではありませんか

 さて、選挙が終わったいま、あらためて政府や国会に一番力を入れてほしい政策として、何を望みますか?

 朝日の選挙後の世論調査のとおりですよ。
 まずは、「年金などの社会保障」(朝日調査38%)で、
 次が、「教育・子育て」(同23%)ですね。
 それから、「景気・雇用」問題、(同17%)
 以上の切実な問題ばかりで、合計78%に達しますね。そんなものでしょう。
? 調査は5択で、4番目が「外交・安全保障」(同14%)となっています。
 「憲法改正」(同3%)は最下位で、国民が憲法改正の議論を優先課題としているとは到底考えられません。

 なんとなく、アナタの考え方は分かりました。あれもこれも、仕方がない、しょうがない。どうせ自分の意見や行動で、政治を変えられっこない。とすると、棄権するか、空気を読んだ現状維持の投票行動になると言うことですね。けれど、身近なテーマでは安倍政権に不満はけっこうあるんですよね。このままで、いいんでしょうか。

 このままで良いのかって、あんまり真剣には考えませんね。だいたい、政治という分野がマイナーなんですよ。政治を熱く論じるなんて、ダサいことじゃないですか。「この社会で生きている以上、主観的に政治には無関心でも、客観的に無関係ではいられない」とか、「無関心派は与党の応援団になっている」とか聞かされるけど、胸に響かない。働くのに忙しいばかりで、政治に積極的関心を持つゆとりもないんです。

 自分たちの力で社会を変えていこうって、ワクワクすることではありませんか。政治にロマンを感じませんか。

 スローガンだけ並べられても、その実現のイメージを描けませんね。不平や不満はあっても、我慢できないほどではない。それより、何かを主張して、トゲトゲしい雰囲気になるのがイヤですね。穏やかに暮らしたい。多少の理不尽なことには、怒ることを忘れてしまいましたよ。

(2019年7月24日)

参院選、自民の後退で、改憲には一応の歯止め。

参院選が終わった。開票結果はけっして得心のいくものではない。祭りの後は大抵淋しいものだが、今回はまた一入。森友問題の追及にあれ程活躍した辰巳孝太郎(大阪選挙区)、弁護士として緻密な質疑を重ねてきた仁比聡平(比例区)両候補の落選に歯がみする思いで一夜を過ごした。

が、今朝になってすこしだけ落ち着きを取り戻している。まあ、最悪の事態は免れた。改憲策動にはブレーキを掛けた選挙結果とは言えるだろう。野党共闘の一定の成果は、今後の展望を開いたと言えなくもない。

選挙の総括は、多様な立場や視点でなされるが、今回は何よりも日本国憲法の命運の視点からなされなければならない。

参議院の定数は法改正あって248人だが、前回までは242人。今回は半数改選の定数が3増して124となった。非改選の121と合わせると、選挙後の議席総数は245となる。

だから、憲法改正発議に必要な3分の2は、164以上ということになる。

改憲勢力を自・公・維の3党と定義すれば、改憲3党の選挙前議席総数は160(自122・公25・維13)だった。これが、選挙後は157(自113・公28・維16)となった。定数3増での3議席減である。改憲発議に必要な議席数164には、7議席足りない。自・公・維以外に、無所属改憲派として3人を数えることができるとされているが、それを加えてもなお4議席足りない。

各党の消長は以下のとおりである。
 自民 選挙前総議席122 ⇒ 選挙後総議席113(9議席減)
     改選66議席 ⇒ 当選57(9議席減) 

 公明 選挙前総議席 25 ⇒ 選挙後総議席 28(3議席増)
     改選11議席 ⇒ 当選14(3議席増) 

 維新 選挙前総議席 13 ⇒ 選挙後総議席 16(3議席減)
     改選 7議席 ⇒ 当選10(3議席増) 

今朝の各紙トップの見出しは、「自公改選過半数」とならんで、「改憲勢力2/3は届かず」である。自民党の当選者数9減が、9条に追い風となっている。

「東京新聞」の論調が注目に値する。その見出しを拾ってみよう。
1面の黒抜き横の大見出しに「改憲勢力3分の2割る」。縦に「自公改選過半数は確保」。「20年改憲困難に」。2面と3面を通した横見出しに、「首相の悲願遠のく」「野党共闘一定成果」。社会面には、「9条守る決意の一票」。立派なものだ。

注目すべきは、共同通信の出口調査。見出しが、「安倍政権下での改憲 反対47% 賛成上回る」という記事。

「安倍政権下での改憲賛否」が、支持政党別にグラフ化されている。
自民党支持層では賛成73.7%だが、公明支持層では46.6%に落ちる。さらに意外なのは、維新支持層でも44.9%に過ぎないのだ。これでは、少なくとも「安倍政権下での改憲」は無理筋と言うほかはない。

安倍晋三よ。今回の選挙結果を「しっかりと(改憲の)議論をして行け、との国民の声をいただけたと思う」などと、ごまかしてはならない。改憲発議可能な議席は与えられなかったではないか。改憲を唱える自民党の議席を減らしたではないか。単独過半数も失った。「安倍政権下での改憲反対」と言うのが民の声なのだ。政権は、現行憲法に従わねばならない。政権の思惑で、改憲に先走ってはならない。民意が熟すのを待たずに、政権も与党も改憲を煽ってはならない。ましてや、民意が反対を明示しているにもかかわらず、改憲を強行しようなどとは、けっして許されざる所業である。
(2019年7月22日)

恐るべしレイシスト・トランプ。いや、本当に恐るべきはトランプ支持者なのだ。

上西充子さんが上梓した「呪いの言葉の解きかた」が評判になっている。
「私たちの思考と行動は、無意識のうちに『呪いの言葉』に縛られている。そのことに気づき、意識的に『呪いの言葉』の呪縛の外に出よう。のびやかに呼吸ができる場所に、たどりつこう。」

数ある「呪いの言葉」のうちで、最も普遍的で最も打撃的なものが、イヤなら出ていけ」という物言い。「それを言っちゃお終い」のたっぷり毒が入っている。

どこから出て行けというのかは千差万別である。この家から出ていけ」「このムラから出て行け」「会社から出て行け」「ギョーカイから出ていけ」「仲間はずれだ」「この国から出て行け…。強い者が弱いものに、多数派が少数派に、主流が傍流に投げつける言葉。多くは、出て行こうにも出てはいけない状況であればこそ、呪いの言葉として機能する。

上西さんは、こう解説している。
悪いのは、「嫌だ」と思っている人間の方だ、というニュアンスが込められている。呪いの言葉とは、「会社」や「この国」の方の責任は不問に付して。社会や組織の構造的な問題については不問に付し、それをすべて個人の責任の問題に転嫁することで、その人を呪縛し、あたかも個人に非があるように思い悩ませる言葉。もっと簡単に言えば、人の生き方や働き方を縛り付け、人の自由を奪う言葉。これが呪いの言葉である。

戦前の天皇制国家では、非国民」が最大級の呪いの言葉だった。あるいは、国賊・逆臣・不忠など。天皇への忠誠が国民道徳を超えた社会規範として国民を縛りつけていた。この規範から外れた「非国民」との刻印を押されることは、社会的な死をさえ意味していた。

米大統領のトランプが、極めつけの呪いの言葉を発した。野党・民主党の非白人女性(下院)議員4人を念頭に「イヤならこの国から出て行け」と言ったのだ。文言はすこし違うが、このとおりなのだ。

トランプはこう言ったのだ。「オレが大統領だ。オレが、アメリカの正統だ。そのオレにグズグズ文句を言うのなら、この国から出て行け」

しかも、トランプの最も忌むべき卑劣さは、非白人女性を狙い撃ちにしたことだ。もちろん、このような差別言論が、自分の支持者に熱狂的に歓迎されることを計算してのことである。

トランプは、アメリカの恥ずべきレイシズムをバネに大統領になった。再選のためには、自分のレイシストぶりをアピールしておかねばならないのだ。たとえ、それが理性ある人びとの大きな反感を買うとしても、次期大統領選には自分に有利と計算したのだ。

米下院は7月16日、「人種差別的な発言」と非難する決議案を賛成多数で可決した。「新たな米国民や有色人種への恐怖や憎悪を正当化し、拡散させたトランプ大統領の人種差別的な発言を強く非難する」「暴力や圧政から合法的に避難や亡命を求める人々に対し、米国は開かれ続けるよう約束する」というもの。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、同種の決議可決は過去4回だけと米議会史でも異例で、この100年では初めてという。投票結果は賛成240票、反対187票。民主党以外では、共和党4人と独立系1人が賛成にまわった。これほどのあからさまな差別発言に対する批判決議が、けっして圧倒的な多数で成立してはいない。

決議の翌日(7月17日)、南部ノースカロライナ州グリーンビルで開かれた共和党集会では、ソマリア出身でイスラム教徒のイルハン・オマル下院議員を批判するトランプの演説に聴衆が呼応。会場全体が「彼女を(ソマリアに)送り返せ」の大合唱に包まれたという。

「非国民は、この国から出ていけ」という呪いの言葉は、天皇制社会の専売ではない。理性を捨てた国民と、これを煽る政治家がいる限り、民主主義を標榜する社会でも、呪いとして機能する。民主主義の母国アメリカにその実例を見せつけられて暗澹たる思いである。

第25回参院選の投開票日の今日(7月21日)、あらためて思う。民主主義は、けっして常に正義を約束するものではない。主権者国民と政治家とが有すべき理性が不可欠なのだ。アメリカでも日本でも、である。
(2019年7月21日・連続更新2302日)

警察は、安倍晋三の私兵になり下がってはならない。

マッチは生活に必要な小物だが、芥川の言うとおり「重大に扱わないと危険」である。マッチすら危険なのだ。権力機構の実力組織としての警察の危険はその比ではない。

マッチ同様、警察は国民生活に必要で有益だから存在している。しかし、その内在する危険のゆえに、遙かに慎重に取り扱わねばならない。

警察に内在する危険とは、何よりも時の権力者の私兵に堕することにある。権力を握る特定の人物、特定の勢力のために、警察に与えられた実力が行使される危険である。「安倍一強」と言われる異常事態が長く続き過ぎた今日、その危険顕在化の徴候に敏感でなくてはならない。国民は常に警察を監視し、その逸脱した警察権の行使には、一斉に批判の声を上げなくてはならない。

札幌市中央区で7月15日に行われた安倍晋三の参院選街頭演説の際、演説中にヤジを飛ばした市民(男性と女性)を北海道警の複数の警官が取り押さえ、演説現場から排除した。男性市民は、「ものすごい速度で警察が駆けつけ、あっという間に体の自由が奪われ、強制的に後方に排除されてしまった」と言っている。女性市民に対しては、その後2時間以上も警察が尾行、つきまとったという。18日には、大津でも同様のことが起こった。その動画がネットに掲載されて、何が起こったか警察が何をしたのかが明確になっている。

安倍晋三は、政治と行政を私物化した首相と刻印されているが、本来各都道府県公安委員会の管轄にあるはずの警察権力までも私物化しているのだ。国民的な批判と弾劾が必要である。

警察法第2条《警察の責務》の第2項を確認しておきたい。
「警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。」

これに基づいて、第3条《服務の宣誓の内容》はこう定める。
「この法律により警察の職務を行うすべての職員は、日本国憲法及び法律を擁護し、不偏不党且つ公平中正にその職務を遂行する旨の服務の宣誓を行うものとする。」

当然のことだが、警察組織にも、警察官個人にも、「不偏不党且つ公平中正」が求められる。「いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる警察権濫用の行為」があってはならないのだ

現実はどうか。北海道警も滋賀県警も、厳格に公共の安全と秩序の維持という責務の範囲に限られるべき警察権の行使を、安倍晋三個人の利益のために行使したのだ。市民の言論の自由を侵害して、「安倍やめろ。安倍かえれ」「増税反対」という言論を封殺し、日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる警察権濫用の行為を敢えてしたというほかない。

東京都在住の男性が、北海道警の警官らによる市民への排除、拘束が特別公務員職権濫用罪(刑法194条)と公務員職権濫用罪(刑法193条)に該当するとして札幌地検に刑事告発したと報道されている。地検の捜査と処分に注目したい。

道警の頭には、安倍晋三の「選挙活動の自由」という価値しかない。これを批判する市民の批判的言論は対抗価値としての位置づけはなく、不逞の輩の狼藉としか考えられていない。これが恐いところだ。

「不偏不党且つ公平中正」を厳正に貫くためには、市民の側よりも権力の側により厳しい姿勢を保持しなければならない一強体制の継続の中では、この本来あるべき姿勢が忘れられ、権力に対する忖度行政が横行する。道警の行為は、その氷山の一角の露呈であって、看過してはならない。

さっそく、自由法曹団の北海道支部と国民救援会とが行動を起こした。昨日(7月19日)下記の抗議の「申入書」を道警本部長宛に提出している。その迅速な対応に、敬意を表したい。
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北海道警察本部長 山岸 直人 殿

申  入  書

2019年7月19日

国民救援会北海道本部 会 長  守 屋 敬 正
自由法曹団北海道支部 支部長  佐 藤 哲 之

1 本年7月15日午後、安倍総理大臣が来札し、JR札幌駅前で、参議院選挙の自民党公認候補応援の街頭演説を行った。その際、「安倍やめろ、帰れ」などと声を発した男性と「増税反対」と叫んだ女性が、事前の声かけもなく、多数の警察官に取り囲まれ、腕をつかまれるなどして、数十メートルも強制的に移動させられ、その場から排除されるという事態が発生した。同様のことが地下道を移動中の安倍総理大臣に対して大声でヤジを飛ばした若い男性に対しても行われたと報道されている。

2 警察官によるこれらの行為は、強制的に排除された聴衆の行為が当初の北海道警察本部の説明にあった公職選挙法225条(選挙の自由妨害)に該当しないのは明白であり、法令上の根拠など全くなく、些かも正当化することができないものである。
それどころか、警察官によるこれらの行為は、特別公務員職権濫用罪(刑法194条)ないし特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)に該当する可能性さえあるものだと言わなければならない。

3 更に問題なのは、これらの行為が、複数の場所で、複数の人々に対して、複数の警察官によって行われ、現場にいた警察官が誰もそれを注意したり、制止したりしていないということである。このことから言えるのは、警察官によるこれらの行為が北海道警察による組織的なものだということである。
いうまでもなく、警察法2条は、警察の活動について、「不偏不党且つ公正中立」を旨とし、「いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない」としており、警察は公平・中立・適正にその職務を遂行しなければならない。特に、国政のあり方を決める選挙の期間中はとりわけ慎重でなければならない。
 北海道警察の対応は、時の政権におもねり、公権力が有形力を行使して時の権力者に対する批判を強制的に封じ込めることにもつながりかねないものである。

4 われわれは、民主主義社会の根幹を支える政治的言論の自由を擁護し、警察権力の違法、不当な制約を受けることなく主権者が旺盛に政治活動を行うことができるよう様々な活動を行ってきた。
 われわれは、今回の北海道警察の行為やその後の対応に対し、強く抗議するとともに、今回の事態の責任の所在を明らかにし、二度と同様の事態を引き起こさないことを強く求めるものである。

以上

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なお、公選法225条は、「交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき」を選挙の自由妨害罪の構成要件とし、4年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に当たるとする。
さて、「演説を妨害し」とは、どんな行為がこれに当たるか。公選法ではなく、衆議院議員選挙法時代のものではあるが、次の最高最判例(1943年12月24日)がリーディングケースとされている。

弁護人上告趣意について。
 論旨は、原判示第一の事実に関して、原判決が被告人の所為を選挙妨害の程度と認定したことを非難している。しかし原判決がその挙示の証拠によつて認定したところによれば、被告人は、市長候補者の政見発表演説会の会場入口に於て、応援弁士B及びCの演説に対し大声に反駁怒号し、弁士の論旨の徹底を妨げ、さらに被告人を制止しようとして出て来た応援弁士Aと口論の末、罵声を浴せ、同人を引倒し、手拳を以てその前額部を殴打し、全聴衆の耳目を一時被告人に集中させたというのであるから、原判決がこれを以て、衆議院議員選挙法第一一五条第二号に規定する選挙に関し演説を妨害したものに該当するものと判断したのは相当であつて、所論のような誤りはない。仮りに所論のように演説自体が継続せられたとしても、挙示の証拠によつて明かなように、聴衆がこれを聴き取ることを不可能又は困難ならしめるような所為があつた以上、これはやはり演説の妨害である。(以下略)

以上のとおり、選挙の「演説妨害」とは、「演説の継続を不能とせしめること」、または「演説自体が継続せられたとしても聴衆がこれを聴き取ることを不可能又は困難ならしめること」である。札幌や大津の例が、これに該当するはずもないことは、明白と言って良い。

さらに、この構成要件に該当する場合でも、権力者の選挙演説に対する市民の対抗意見の表明が、憲法に保障された表現の自由の行使として、違法性が阻却されることも考えられる。警察権の行使は、慎重の上にも慎重でなくてはならない。

明日(7月21日)投票の参院選、安倍一強体制崩壊のきっかけとしたい。そうしなければ、この国のあらゆるところが、際限なく腐ってゆく。

(2019年7月20日・連続更新2301日)

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