恐るべしレイシスト・トランプ。いや、本当に恐るべきはトランプ支持者なのだ。
上西充子さんが上梓した「呪いの言葉の解きかた」が評判になっている。
「私たちの思考と行動は、無意識のうちに『呪いの言葉』に縛られている。そのことに気づき、意識的に『呪いの言葉』の呪縛の外に出よう。のびやかに呼吸ができる場所に、たどりつこう。」
数ある「呪いの言葉」のうちで、最も普遍的で最も打撃的なものが、「イヤなら出ていけ」という物言い。「それを言っちゃお終い」のたっぷり毒が入っている。
どこから出て行けというのかは千差万別である。「この家から出ていけ」「このムラから出て行け」「会社から出て行け」「ギョーカイから出ていけ」「仲間はずれだ」「この国から出て行け」…。強い者が弱いものに、多数派が少数派に、主流が傍流に投げつける言葉。多くは、出て行こうにも出てはいけない状況であればこそ、呪いの言葉として機能する。
上西さんは、こう解説している。
悪いのは、「嫌だ」と思っている人間の方だ、というニュアンスが込められている。呪いの言葉とは、「会社」や「この国」の方の責任は不問に付して。社会や組織の構造的な問題については不問に付し、それをすべて個人の責任の問題に転嫁することで、その人を呪縛し、あたかも個人に非があるように思い悩ませる言葉。もっと簡単に言えば、人の生き方や働き方を縛り付け、人の自由を奪う言葉。これが呪いの言葉である。
戦前の天皇制国家では、「非国民」が最大級の呪いの言葉だった。あるいは、国賊・逆臣・不忠など。天皇への忠誠が国民道徳を超えた社会規範として国民を縛りつけていた。この規範から外れた「非国民」との刻印を押されることは、社会的な死をさえ意味していた。
米大統領のトランプが、極めつけの呪いの言葉を発した。野党・民主党の非白人女性(下院)議員4人を念頭に「イヤならこの国から出て行け」と言ったのだ。文言はすこし違うが、このとおりなのだ。
トランプはこう言ったのだ。「オレが大統領だ。オレが、アメリカの正統だ。そのオレにグズグズ文句を言うのなら、この国から出て行け」
しかも、トランプの最も忌むべき卑劣さは、非白人女性を狙い撃ちにしたことだ。もちろん、このような差別言論が、自分の支持者に熱狂的に歓迎されることを計算してのことである。
トランプは、アメリカの恥ずべきレイシズムをバネに大統領になった。再選のためには、自分のレイシストぶりをアピールしておかねばならないのだ。たとえ、それが理性ある人びとの大きな反感を買うとしても、次期大統領選には自分に有利と計算したのだ。
米下院は7月16日、「人種差別的な発言」と非難する決議案を賛成多数で可決した。「新たな米国民や有色人種への恐怖や憎悪を正当化し、拡散させたトランプ大統領の人種差別的な発言を強く非難する」「暴力や圧政から合法的に避難や亡命を求める人々に対し、米国は開かれ続けるよう約束する」というもの。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、同種の決議可決は過去4回だけと米議会史でも異例で、この100年では初めてという。投票結果は賛成240票、反対187票。民主党以外では、共和党4人と独立系1人が賛成にまわった。これほどのあからさまな差別発言に対する批判決議が、けっして圧倒的な多数で成立してはいない。
決議の翌日(7月17日)、南部ノースカロライナ州グリーンビルで開かれた共和党集会では、ソマリア出身でイスラム教徒のイルハン・オマル下院議員を批判するトランプの演説に聴衆が呼応。会場全体が「彼女を(ソマリアに)送り返せ」の大合唱に包まれたという。
「非国民は、この国から出ていけ」という呪いの言葉は、天皇制社会の専売ではない。理性を捨てた国民と、これを煽る政治家がいる限り、民主主義を標榜する社会でも、呪いとして機能する。民主主義の母国アメリカにその実例を見せつけられて暗澹たる思いである。
第25回参院選の投開票日の今日(7月21日)、あらためて思う。民主主義は、けっして常に正義を約束するものではない。主権者国民と政治家とが有すべき理性が不可欠なのだ。アメリカでも日本でも、である。
(2019年7月21日・連続更新2302日)