澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

ワニの口が閉じた。これからは逆に開いて安倍内閣を飲み込むぞ。

本日の毎日新聞1面の左肩に、何度見ても笑みがこぼれる折れ線グラフが掲載されている。安倍内閣成立以来毎月続けられてきた、内閣支持率と不支持率。青の線の内閣支持率が上側にあっ下落を続け、赤の線の不支持率が右肩上がり。内閣成立直後は、支持が70%で不支持はわずかに15%程度。その大差そ55ポイントが次第に縮まって、最新調査でついに逆転したのだ。

普通、「ワニの口」は時とともに開いていくことの喩えに用いられるが、この図は、まさしくワニの口が閉じたことを連想させる。これまでの、安倍内閣の世論誘導策が吹き飛んだ。騙しのテクニックのメッキがはげた。これからが、ビリケン(非立憲)内閣を追い詰める正念場だ。

いったん閉まったワニの口は再び開くことになるだろう。そのときは上顎と下顎か逆になっているはずだ。赤線(不支持率)が上になり、青線(支持率)が下に逆転のワニの口が大きく開いて、戦争準備内閣を飲み込むことになる。

《毎日新聞世論調査:安倍内閣不支持上回る 安保法案、説明不十分8割》
 毎日新聞は4、5両日、全国世論調査を実施した。安倍内閣の支持率は5月の前回調査から3ポイント減の42%、不支持率は同7ポイント増の43%で、2012年12月の第2次安倍内閣発足後初めて、支持と不支持が逆転した。政府・与党が衆院通過を急ぐ安全保障関連法案については、国民への説明が「不十分だ」との回答が81%に上った。会期延長した今国会で安保法案を成立させる方針にも61%が「反対」と答え、「賛成」は28%にとどまった。

 安倍内閣の支持率は13年3月に70%に達した後、徐々に低下し、14年6月以降は40%台半ばで横ばい状態が続いていた。今回の42%は衆院選のあった14年12月の43%をわずかに下回り、第2次、第3次内閣では最低を記録。一方、不支持率は初めて40%台になった。自民党の国会議員が開いた勉強会で「マスコミを懲らしめる」など報道機関に圧力をかける発言があったことについては「問題だ」が76%に上り、「問題ではない」は15%。自民支持層でも「問題だ」が7割弱を占めた。

注目すべきは、次の数字だ。
  戦争法案に  「反対」      58%(前回53) +5
            「賛成」      29%(前回34) ?5
  今国会成立に 「反対」       61%
            「賛成」       28%
  戦争法案は  「違憲だと思う」   52%
            「違憲と思わない」 29%
  政府の説明は 「十分だ」      10%
            「不十分だ」    81%

解説記事が付いている。
「首相官邸や与党は、安全保障関連法案を今国会で成立させようとすれば一定の支持率低下は避けられないとみていたものの、自民党の若手勉強会による報道機関への圧力発言問題も重なり、「法案への国民の理解が広がらないまま衆院で採決を強行すれば、さらに10ポイント前後下がるのではないか」(同党幹部)と危ぶむ声も出始めた。

自民党幹部も「ついに来たかという感じだ。勉強会の問題が響いていると思う」と述べた。さらに「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉が大詰めを迎え、結果によっては党内で反発が出るだろう。経済もいつまでいいか分からない」と懸念を示した。公明党幹部は「自民が次から次へとオウンゴールした影響が大きい」と語った。

今国会での成立に反対する層では内閣支持率が24%にとどまり、不支持率は63%。政府・与党が採決を急げば、支持率はさらに下がる可能性がある。

以上は、常識的なものの見方。ところが、世の中、常識的なものの見方だけではない。とりわけ、政府中枢の考え方は、常人には計り知れない。

菅義偉官房長官は記者会見で安保法案を今国会で成立させる方針を繰り返し表明している。安保法案の国民への説明が「不十分だ」との回答が81%だったことに対しても、参院自民党幹部は「100時間審議しても200時間審議しても、この質問への答えは変わらない」との見方を示す。同党の支持率自体は大きく下がっていないことも強気の背景にあるようだ。

同時期に読売も世論調査をし、本日結果を発表している。
こちらはワニの口はまだ閉じていない。しかし、「安倍内閣の支持率は49%で、前回調査(6月5?7日)の53%から4ポイント低下した。内閣支持率が5割を切ったのは、14年12月の第3次安倍内閣発足直後(49%)以来で、「報道規制」発言が影響したとみられる。不支持率は40%(前回36%)。」と、支持と不支持の差は、17%から9%と8ポイント縮まった。読売の調査をもってしても、1億の有権者の内400万人が、安倍内閣支持から不支持へと鞍替えした計算になる。

戦争法案の審議が始まって一か月半。「法案に対する政府の説明は不十分」が圧倒的な民の声である。さりとて、「丁寧に説明すればするほどボロが出る」「審議が進むほどに反対世論が大きくなる」。「次から次へのオウンゴール」はたまたまのことではない。すべては、安倍内閣の体質そのものの露呈ではないか。

内閣支持率に火が付いたこの事態で、政府与党が戦争法案の採決を強行できるはずはない。まさしく、それは火に油を注ぐ愚行だ。

政権の選択肢は二つ。自暴自棄に採決強行してワニの口に飲み込まれるか、それとも法案を撤回してワニを宥めるか。ワニをなめてはならない。
(2015年7月6日)

7月3日雨の金曜日 澁谷に集まった若者たちに寄せて

若者よ
 未来の担い手である君たち。
 未来のすべてが君たちの手の中にある。
 君たちがこの社会を受け継ぎ支え、
 君たち自身がこの社会を作りかえていく。

 誰もが等しくこの世に生を受けたことを喜びとする社会、
 恐怖と欠乏から免れ平和のうちに生きる権利が保障された社会。
 今の世の私たちには作ることができなかったそのような社会。
 そのような社会を作ることができるのは君たちだ。

戦争法案に反対の声を上げつつある若者よ
 君たちの目の前に、
 君たちの受け継ごうとしているこの世の現実がある。
 富を持つ者が支配者となり、
 権力を持つ者が富を持つ者に奉仕するこの社会。
 不本意ながら、これが現世代の君たちへの遺産だ。

 富を持つ者はさらに収奪をくわだて
 権力を握る者は、持たざる者の抵抗を押さえつける。
 富める者、力ある者に、正義も理想もない。
 
雨の中、澁谷で「9条守れ」と声を上げた3000人の若者よ
 君たちこそが未来への希望だ  
 君たちの自覚こそが、社会を変えるエネルギー。
 「9条守れ」の声は、富と権力に驕る者に鋭く突き刺さる。
 「憲法守れ」「戦争法案を廃案に」「安倍政権に終わりを」
 そう叫ぶ若者の行動が、支配の構造に打撃を与える。
 君たちの声と行動とが確実に社会を変える。

 人は齢を重ねるにつれて、しがらみを身につけていく。
 身にまとわりついたしがらみは、理想や理念を枯らしていく。
 だから人は齢を重ねると、心ならずも人におもねり社会におもねり、
 口を閉じて下を向いて、うずくまってしまう。
 
若い君たちだからこそ
理想や理念のままに声を上げ行動することができる。
 だから若者たちよ、大きく声を上げよう。
 おかしいことはおかしいと言おう。
 理不尽を押しつけられるのはマッピラごめんだと声を揃えよう。
 殺すことも殺されることも断固拒否する、と。

 ぜひ、そう言っていただきたい。
 君たちの若々しく朗々たる声の響きは、多くの人々を励ますことになる。
 しがらみの中でうずくまっていた人々も、
 君たちの声の響きに励まされて立ち上がり、閉じた口を再び開けることになるだろう。
 そのことが、戦争法案を廃案にし、安倍内閣を退陣に追い込むこととなる。
 さらにその先の未来も開くことになる。

 この次ぎの金曜日、7月10日渋谷・ハチ公前広場は
 さらに多数の若者たちであふれるだろう。
 ハチ公前広場に集うあふれんばかりの若者たちのその声の響きこそ、
 未来への希望の確かさなのだ。
(2015年7月5日)
  

戦争法反対運動の中での「日本民主法律家協会第54回定時総会」

日本民主法律家協会(日民協)は60年安保改定に反対する大国民運動から生まれた。幅広い多くの法律家が、自らの職能の持つ使命感から安保反対の国民運動に参加した。その法律家集団が、「安保条約改定阻止法律家会議」を経て、1961年10月に日民協の設立に至った。協会は、安保闘争の申し子である。

安保闘争が、主権と平和と民主主義の擁護を願う国民的な拡がりを持つものであったことから、日民協は自ずと法律家団体の統一戦線的組織となった。思想的な幅の広さだけでなく、「法律家諸団体の連合組織として、また学者・弁護士・税理士・司法書士・裁判所職員・法務省職員・法律事務所職員など多職能の法律分野で働く人々が参加しているという、他に例のない特色」(「協会案内」から)をもっている。

その「安保闘争の申し子」が、新安保闘争というべき戦争法案反対の国民運動燃えさかる中で、本日第54回定時総会を迎えた。アメリカと日本との関係、支配層の憲法嫌悪、世論と議席数の乖離、民主主義の脆弱さ…、基本的なことがらが60年安保の当時と少しも変わっていないことに驚かざるを得ない。なんと、当時の首相の孫が、現首相という因縁さえもある。悪夢のデジャヴュではないか。

日民協が自らに課してきた主たる課題は、一つが「憲法の擁護」であり、もう一つが「司法の独立」である。その取り組みが憲法分野重視のこともあり、もっぱら司法問題を重視したこともあった。今は、まぎれもなく熱い憲法の季節。

以下が、総会で採択された「壊憲と戦争への道を許さず、国民の力で憲法を守り抜こう」と題する、「戦後70年にあたってー日本民主法律家協会第54回定時総会アピール」である。同アピールは下記の3パラグラフから成っている。
 第1パラグラフで、日本国憲法に内実化されている平和を説いて、戦争法案が違憲であって、それ故に国民の平和への願いを踏みにじるものとして指摘し、
 第2パラグラフで、今や憲法9条だけでなく、あらゆる憲法理念が、安倍政権によって全面的に攻撃されていることを、「壊憲」として指摘し、
第3パラグラフにおいて、戦争法案審議の強行と壊憲の動きに反対する歴史的な国民運動を巻き起こそうと呼びかけている。
 ぜひ、ご一読いただきたい。

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    壊憲と戦争への道を許さず、国民の力で憲法を守り抜こう
1 戦後70年。この節目の年に、この国は再び戦争への道に足を踏み出そうとしています。
 日本は、アジア諸国民2000万人以上、日本人約310万人の尊い命を奪った侵略戦争の悲惨な経験から、再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、不戦の誓いを持って戦後の国際社会に復帰し、戦争放棄と戦力不保持を規定した憲法9条の下、戦後70年にわたり、海外での武力行使を許さない立場を堅持してきました。
しかし、今国会に提出された安保関連法案(戦争法案)は、戦闘地域を含め世界中どこでも、いつでも、アメリカをはじめとした他国の軍事行動に対し、弾薬や武器の提供などの兵站活動、武器の使用、さらには参戦も、切れ目なくできるようにしたもので、平和国家としての日本の国のあり方を根本から変える戦争法案です。
 憲法9条は、戦争を永久に放棄し、戦力の不保持,交戦権の否認を謳っており、本来、自衛隊の存在を認めることさえ困難です。戦争法案は、憲法9条によって守り抜かれてきた「戦わない」という一線を踏み越えるもので、明らかに憲法違反であり、解釈で憲法9条を壊すことは立憲主義の見地から許されないことはもちろん,70年間戦争を拒否してきた日本国民の平和への意思を踏みにじるものです。

2 安倍政権の政策は、憲法9条の破壊にとどまりません。日本の戦後の制度の根幹を揺るがす重大な政策転換を全面にわたって行おうとしています。
 労働者の権利を壊す残業代ゼロ法案、命と環境を壊す原発推進、暮らしを壊す社会保障大幅縮減、農業破壊のTPP、軍事国家化のみならず国民の知る権利・批判の自由を壊す秘密保護法、国民のための教育権を壊す教育の国家統制、学問の自由・大学の自治を壊す大学管理強化・文系学部圧殺、司法の独立を壊す司法「改革」、法科大学院制度導入に伴う法学研究の破壊、刑事被告人・被疑者の権利を壊し監視社会を作る刑事司法制度の大改悪(盗聴拡大・司法取引導入など)等々の、個別問題としても大きな憲法破壊の動きが同時進行で襲いかかってきています。
 安倍政権は、憲法を頂点とする戦後の制度を「戦後レジーム」と罵倒し、ここから「脱却」することを目標として暴走しています。これらはいずれも憲法壊し、つまり「壊憲」です。

3 安倍政権は、戦争法案の危険性を隠したまま、また、壊憲政策と言うべき幾つもの法案を数に任せて成立を強行しようとしています。
 しかし、国民や国会を無視した安倍政権の反民主主義的態度が国民に大きな不安を抱かせ、国会を大きく揺るがせています。与党の推薦者をはじめ参考人全員が戦争法案を違憲と断じ、憲法研究者や学者が今までにない広がりで廃案を求め、国民運動の共同の輪が広がり、運動に関わったことのない人々も声をあげ始め、多くの地方議会でも反対意見書が採択され、世論調査でも、国民の大多数が反対し、さらに広がりをみせています。また、壊憲政策というべき幾つもの法案に対する反対の声も強まっています。
 延長国会となったこの夏、国民の共同を、より多様に、より広く、より地域に根ざして、大きく発展させ、政権と国会を包囲し、戦争法案を必ず廃案にし、また壊憲政策を頓挫させなければなりません。
 この国が歴史的岐路に立つ今、私たちは、本協会設立の原点である、法律家を結集する結節点としての役割、また、国民各層と共同する役割を深く自覚し、壊憲と戦争への道を許さず、主権者である国民の力を結集して憲法を守り抜くことを決意します。
(2015年7月4日)

文京区議会が戦争法案反対請願を採択ー孤立しているのは自公だ

まずは、下記の請願に目を通されたい。
安全保障法制の関連法案に反対を求める請願
 請願者  文京平和委員会
 紹介議員 板倉美千代
 請願理由
安倍政権は集団的自衛権の行使容認を柱とした「閣議決定」(2014年7月1日)を具体化するための「安全保障法制の関連法案」を国会に提出しました。これは、戦力の不保持や交戦権否認を明記した憲法9条に違反して、海外での武力行使に踏み出すことを可能にするものです。
すなわち、?自衛隊が「戦闘地域」まで行って軍事支援をする、?イラクやアフガニスタンでの治安維持活動などに参加し、武器を使用できるようにする、?集団的自衛権を発動し、他国の戦争にも参戦するなどで、これらはこれまでの「専守防衛」の安保政策の大きな転換点を意味します。よって私たちは、以下のことを強く求めます。
 請願事項
「安全保障法制の関連法案」を廃案にするよう、国に求めること。

6月30日、わが町文京の区議会本会議がこの請願の採択を決議したのだ。戦争法案の違憲を指摘したうえで、曖昧さを残さず、その廃案を求める請願の採択である。拍手を送りたい。

地方自治法第99条は「地方公共団体の公益にかかわる事柄に関して、議会の議決に基づき、議会としての意見や希望を意見書として内閣総理大臣、国会、関係行政庁に提出できる」とさだめる。この請願は文京区議会の意見として、内閣と、衆参両院に提出されることなる。

東京新聞の報道では、「白石議長は、自身の所属する自民党が成立を目指す法案に反対する要望書を送付することに『議会が決めたことですから、きっちり扱わないといけない』と語った」という。

紹介議員の板倉美千代さんは共産党の所属。ブログでもと探したが、見あたらなかったので、代わって金子てるよし文京区議(共産党)のブログを紹介する。決議成立の経過について、次のように解説されている。

■「不採択」の主張は自民・公明だけ
 請願が審議された総務区民委員会は、採決に加わらない委員長を除くと委員は8名(自民1、公明1、未来3、共産2、市民1)です。26日の総務区民委員会で自民・公明の委員は「決して戦争法案ではない」「歯止めがある」と反論しましたが、未来・共産・市民の委員は「憲法違反」と指摘し、採択6・不採択2で「採択すべき」との報告が議長にされていました。

■マスコミも注目「東京」(1日付)が報道
「安保法制関連法案の廃案を求める要望書」が区議会の意思として政府に提出されることが確実になった30日、本会議開催前から党区議団にも取材があり、共産党都委員会や民主党都連への取材も踏まえ、法案に明確に反対の請願採択は“23区では初めて”と注目し、記事を掲載しました。

「未来」とは、正式名称は、「ぶんきょう未来」。「民主、維新、無所属の10人が所属する区議会最大会派」とのこと。結局、自・公が孤立して、本議会では「賛成多数」による採択だった。今は、自公以外は戦争法案に反対の姿勢なのだ。

民主党のベテラン・渡辺まさし区議のホームページの、立派な一文(抜粋)も紹介しておきたい。
特筆すべきは「安保法制案の廃案を求める」請願が採択されたこと。この案件において、地方議会から政府にダメだしを発信できたことはとても意義あることで、まさに区民の「時の声」を反映できたものと嬉しく思っています。
……地球の裏側で自衛隊が武力行使することや、集団的自衛権を行使できるなどということは、どう解釈しても現下の憲法では読み解くことが出来ないと思います。政府は集団的自衛権の行使について「歯止めがある」と強調していますが、国会審議を見る限りそれらも曖昧なままです。これらのことを真摯に受け止めて、どうぞ今後国会においては立法府として、また国権の最高機関としての矜持を示して頂き、間違っても憲法違反となるであろう法案を成立させることのないよう強く望むものです。

6月20日のNHKニュース7が、「安全保障法制について各地の地方議会が次々と国への意見書を議決している」というニュースを報じた。
その集計結果は、
  賛成    3
  反対  181
  慎重   53
である。この数字はなかなかのものではないか。

もっとも、NHKは、「賛成」と「慎重」の各1議会を現場取材して放映したが、「反対」意見を議決した圧倒的多数の議会については、一つも取り上げなかった。このみごとな偏向ぶりが話題を呼んで印象が深い。

今日(7月3日)の赤旗の首都圏欄に、文京区だけでなく、鎌倉市(13対10)と、国立市(12対9)での廃案を求める請願採択の記事が出ている。いずれも、反対した自公が孤立して敗れている。これは、今の世論の動向を良く表した結果だ。

これで、少なくとも、反対決議をした地方議会数は184となった。国会の会期は9月下旬まで。文京区や鎌倉市の成果が他に伝播していくことを期待したい。
(2015年7月3日)

7月15日に戦争法案「委員会採決」? そりゃなかろう。

「自公の与党幹部が、昨日(7月1日)東京都内で会談し、衆院特別委員会で安全保障関連法案を7月15日を軸に採決をめざす方針を確認した。」

朝日の報道である。「会期末をにらみ、参院審議も念頭に衆院での再議決が可能な60日以上の日程を確保して衆院を通過させ、関連法の確実な成立をめざす。」という解説。そりゃ、ないよ。

丁寧に説明すると聞いた憶えがあるが、まだ丁寧な説明には遭遇していない。もう、先を決めての審議だというのか。形だけの説明、形だけの丁寧。国民が理解しようとしまいと、スケジュールのとおりに粛々と採決に持ち込む算段。そりゃなかろう。

60年安保を思い出そう。あの大運動が本格的に盛りあがったのは、5月19日衆院安保特別委員会での強行採決、そして翌5月20日衆議院本会議強行採決を契機としてのことだった。平和の問題だけでなく、民主主義の問題までが、国民の前に突きつけられたのだ。今回、様相が似て来つつあるではないか。

そもそも、本当に採決強行などできるのか。自公に次世代だけではみっともない。せめて維新を抱き込みたいというのが政府与党の願望だろうが、いよいよ世論の支持が細りはじめている。維新も自公と心中はしたくないだろう。ダメージは大きいぞ。本当に内閣がつぶれかねない。手を貸した政党もだ。

各社の世論調査で安倍内閣の支持率が軒並み低下している。戦争法には反対、集団的自衛権は容認しない、法案は違憲だ、内閣の説明はまったく不十分、というのが圧倒的な世論となっている。朝日の調査を皮切りに、共同、産経、日経、テレビ朝日と、軒並み同様だ。それに重ねて、「若手勉強会+百田」の「マスコミを懲らしめろ」「沖縄2紙を潰せ」の発言問題。このオウンゴールがよく利いている。説明すればするほど支持率低下する。だから、世論に耳を傾けて譲歩せざるを得ないとするか、早めに強行採決した方がよいと開き直るか。

こんな折、 福島民報社・福島テレビ共同の県民世論調査結果に驚いた。この調査、6月29日時点のものだが、全国にさきがけての激動の予兆なのかも知れない。

法案「違憲」54.3%  「違憲ではない」15・3%
まず、この数値の差に驚かざるを得ない。

集団的自衛権行使容認に「反対」51・7%  「賛成」14・5%
これにはさらに驚いた。極めつけは、内閣支持率だ。

安倍内閣を「支持する」28・4% 「支持しない」50・6%
この圧倒的な内閣不支持率は、既に事件だ。安倍にとっては驚愕の数字だろう。今後の各紙各社の調査が楽しみだ。

福島民報は県内最大のメディアである。福島だけが突出しているというよりは、これが最近の世論の動向とみるべきだろう。もしかしたら、この調査結果、安倍政権の凋落を知らせる桐の一葉なのかも知れない。

常識的には、弱い立場の安倍政権、強気の強行採決などできようはずもない。しかし、坐してジリ貧を待つよりは今のうちに乾坤一擲、ということもないではない。すべては党利党略で、民意が国会にも、内閣にも届いていないもどかしさを感じる。

もとはと言えば、小選挙区制のマジックのなせるわざ。民意の風が国会にも官邸にも、さわやかに吹いてもらいたい。
(2015年7月2日)

敵に塩を送るの話ーー松村包一さんの詩とパロディ

つまらね? ??じいじの昔話

昔々、この国が未だ幾つもの領国(くに)に分かれて
互いに戦をしていた頃の話じゃがの
海辺の領国の領主じゃった謙信公はの
内陸の敵国の領主じゃった信玄公の陣営に
大事な塩をたっぷり送り届けたそうじゃ
みみっちい経済封鎖なぞ考えもせんかったと

それから幾百年もの時がたち、この国は
一つの国となり、いろいろあっての揚句だが
自由だの平和だのと叫んでも一人も掴まらず
民主主義の独立国と威張っておったが
何の、何の、独立国とは名ばかりで
実は亜米利加という大国の属国じやったと

その頃、海の向こうの半島の一角には
何々人民民主主義共和国なんたらかたら
名前だけは滅法、民主主義風の国があっての
そこの恐怖の独裁的首領様、兼将軍様は
原爆を開発したり、ミサイルをうちあげたりして
日本や亜米利加の戦狂いやら武器商人やらを
めっちや喜ばせ、活気づかせたんじゃと
つまり敵陣に塩を送っちまったわけさ

一方日本は世界第二の経済大国となり
トョタやらキヤノンやらの大企業がひしめき
ボロ儲けをした揚句、若い働き手を数千数万と
師走の巷や河辺に放り出したんじゃと
アコギなことよ、ところがそれがの
奴等の強敵共産党に元気の源(もと)を吹き込んで
ますます強い相手にしちまったんだと
ここでも 敵陣に塩 と言ったわけさ

世の中とは斯ういうもんじゃて……
何? つまらね?

以上の詩は、松村包一さんの「詩集 夜明け前の断絶?テロと国家と国民と?」(2013年1月29日刊)の一編。詩集は158頁、54編の詩が掲載されている。
「英霊に捧ぐ」「テロの源流」「ガザの子どもたち」「言葉の綾」「日米同盟とオスプレイ」「愛国心」「安全と主権の行方」等々。題名から内容の傾向は推測できるだろう。徹底して民衆に寄り添い、徹底して国の無責任を追求する「叛骨詩」である。

松村さんは、私の学窓の大先輩。「1931年水戸市で出生。茨城中学(旧制)、水戸高校(旧制)、茨城大学文理学部を経て1957年東京大学文学部卒」とある。その後の職歴は「劇団東演に所属して演劇活動。川崎市立中学校教諭」である。

この詩集は、松村さんご自身から同窓会の席でいただいた。滅法面白いので、既に何編かを抜き出して紹介した。今回は、3度目になる。
https://article9.jp/wordpress/?p=4502
https://article9.jp/wordpress/?p=4680
上記「じいじの昔話」に、僭越ながら続編をつなげてみたい。ごく最近の話題で。松村さんのことだ。笑って許していただけるだろう。

つまらね? ??じいじの「昔は今の話」

亜米利加の属国の日本という国にな
安倍晋三という戦狂いがおってな
ご主人様に気に入られたいの一念で、
属国根性丸出しにこんな約束をしおったと

「お国の兵隊が攻撃されたその折には、
 世界の果てのどこまでも、及ばずながら駆けつけて
 一緒に戦(いくさ)をいたします
 必ず今年の夏までに、
 我が国のうるさいきまりを変えまして、
 ご意志に沿うてみせまする」

で、それ以来日本という国は、戦争法案の審議をめぐって
国内での大戦(いくさ)じゃ

一応日本は、自由で平和で民主主義の独立国というタテマエだからの
安倍晋三が一人声を張り上げても、すごんでも、領国の民を説得しなければ
きまりを変えることはできんのじゃ

そこで、安倍はの、丁寧な説明を心掛けると言わなきゃならないんじゃが、
この男は元々頭が高い。しゃべれば上から目線になっちまう
丁寧に説明すればするほどボロが出る
人気はガタガタ支持率は下がりっぱなし

そこで安倍の家来の37人がイラだっての
城の本丸で秘密の作戦会議を開いたんだと
みんな首相兼総裁様へのおべっか使いだが、こいつら少し思慮が足りなくての
相談相手に百田という札付きの右翼作家を呼んだんじゃ
そりゃ38人は話が合うのさ 大いに盛りあがったということじゃ

「法案審議に国民の反対が多いのは新聞のせいだ」
「怪しからん新聞は懲らしめにゃならん」
「不買運動と広告収入日干しで締め上げろ」
「沖縄の新聞は潰さなあかん」

とまあ、勇ましくぶち上げての、
これが全部明るみに出た

城代家老の谷垣は怒ったな
おまえたち敵陣に塩を送りおって と言ってさ
謙信公がやれば格好良いがの
安倍の家来がやればタダのバカ

いやいや、塩を送ったどころの話しではなかろう
コメも野菜も鉄砲も弾薬もさあどうぞ ということじゃろう

とりあえずは37人については中心人物をお仕置きしてな
家来ども一同には「一切外でしゃべるな」とお触れを出したそうだ 
よっぽどこたえたんじゃろうな

ところがだ 谷垣が頭を抱えたことがある
客として呼んでしゃべらせた百田の口の封じかた
何しろ安倍のお友だちなんじゃから難しい
結局ここだけは口封じができない 
それで、百田は相変わらず反対陣営に塩を送り続けているそうじゃ

もしかしたら「永遠のシオ」
あるいは「安倍にとっての青菜に塩」

そんなこんなで、奴等の強敵共産党だけでなく
護憲勢力全体に元気の源(もと)を吹き込んで
ますます強い相手にしちまったんだと

世の中とは斯ういうもんじゃて……
何? つまらね? いや、そんなはずもなかろう

(2015年6月28日)

民意の怒風を巻き起こし、驕れる安倍政権を塵として吹き飛ばそう。

平家物語の名文句「驕れる人も久しからず。ただ春の夜の夢の如し」は、いくつものバリエーションで語られる。そのなかに、「驕る平家は内より崩る」というものがある。奢侈に慣れ驕慢が染みついた一族の愚行から、さしもの権勢も滅びた。滅びの原因は外にではなく内にあったのだという戒めとされる。

遠く異朝をとぶらへば、秦の趙高・漢の王莽・梁の周伊・唐の禄山、是等は皆旧主先皇の政にも従はず、楽みをきはめ、諌をも思ひいれず、天下の乱れむ事をさとらずして、民間の愁る所を知らざッしかば、久しからずして、亡じにし者ども也。

異朝の故事ではなく今の世のこととして置き換えて読めば、「憲法の定めるところに従わず、議席の数に驕って学者やメディアの提言を無視し、戦争を準備して近隣諸国との軋轢・緊張関係を高めながら、これを世論の憂いと受け止める自覚に欠け、結局は民意と乖離して政権は崩壊する」と示唆している。既に安倍政権は、「偏に風の前の塵に同じ」状態ではないか。平家物語作者の洞察力や恐るべし。

「内より崩る」を「一族の中の突出した愚か者の行為を発端にして瓦解する」と読むこともできよう。平家一族の権勢を笠に着た一門の愚行の例は、その末期症状としていくつも語られている。安倍政権でも、いくつもの末期症状が窺えるではないか。

一昨日(6月25日)の、自民党若手議員の勉強会「文化芸術懇話会」の席上発言は、典型的な末期症状の露呈だ。失言としても冗談としても、到底看過し得ない。むしろ、非公開だからとしてホンネが語られたとみるべきだろう。こういう本性をもった輩が、勇ましく先頭に立って戦争法案成立に旗を振っているのだ。

勉強会出席の議員数は、37人だという。この「37人+百田尚樹」の38人衆が、「内より崩る」の愚行の尖兵だ。「安倍政権の内側からの墓堀人」にほかならない。そして、大切なことは、内側からだけでなく外側からも大いに働きかけて、内外相呼応して戦争法案を葬りさるとともに安倍内閣を早期に崩壊させねばならない。

朝日・毎日・東京だけでなく、さすがに読売までもが本日(6月27日)社説を掲げて、自民党・安倍内閣の「異常な異論封じ」「批判拒絶体質」を批判し、報道規制発言に苦言を呈している。産経だけが様子見である。明日の社説を注視したい。メディアとしての矜持を保つか、あるいは自ら墓堀人グループの一員として名乗りを上げるか。

「異常な『異論封じ』―自民の傲慢は度し難い」と題する朝日の社説は最近珍しく、ボルテージが高い。「これが、すべての国民の代表たる国会議員の発言か。無恥に驚き、発想の貧しさにあきれ、思い上がりに怒りを覚える。」と言葉を飾らない。毎日も、東京も遠慮するところがない。

この3紙の社説を読んだあと、百田のツイッターを見て驚いた。「炎上ついでに言っておくか。私が本当につぶれてほしいと思っているのは、朝日新聞と毎日新聞と東京新聞です(^_^;)」と言っている。開き直りも甚だしい。さすがに、内側からの墓堀人の名に恥じない。

当事者性から言えば、まずは「沖縄の2つの新聞はつぶさないといけない」(読売だけは、「あの二つの新聞社はつぶさなあかん」と表現している。録音を持っているのではないか)と言われた、沖縄タイムスと琉球新報とである。

沖縄タイムス編集局長・武富和彦、琉球新報編集局長・潮平芳和両名による「百田氏発言をめぐる沖縄2新聞社の共同抗議声明」は、押さえた筆致で、ジャーナリズムの基本姿勢を語って格調が高い。「戦後、沖縄の新聞は戦争に加担した新聞人の反省から出発した。戦争につながるような報道は二度としないという考えが、報道姿勢のベースにある。」という一節が印象深い。ジャーナリストとしての理念を立派に貫いているからこその権力側からの逆ギレ批判であることが良くわかる。

「百田氏の発言は自由だが、政権与党である自民党の国会議員が党本部で開いた会合の席上であり、むしろ出席した議員側が沖縄の地元紙への批判を展開し、百田氏の発言を引き出している。その経緯も含め、看過できるものではない。」とは正鵠を射たもの。安倍政権全体の問題であることが明らかではないか。

そして、本日の両紙の社説の舌鋒が鋭い。憤懣やるかたないという怒りがほとばしり出ている。
 琉球新報は、「ものを書くのをなりわいとする人間が、ろくに調べず虚像をまき散らすとは、開いた口がふさがらない。あろうことか言論封殺まで提唱した。しかも政権党の党本部でなされ、同調する国会議員も続出したのだ。看過できない。」と言い、沖縄タイムスは「政権与党という強大な権力をかさにきた報道機関に対する恫喝であり、民主的正当性を持つ沖縄の民意への攻撃である。自分の気に入らない言論を強権で押しつぶそうとする姿勢は極めて危険だ。」「一体、何様のつもりか。」といずれも手厳しい。

政府に批判的な2紙を潰せと言っただけではない。「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番。」「文化人が経団連に働きかけてほしい」「悪影響を与えている番組を発表し、そのスポンサーを列挙すればいい」「広告を取りやめるように働きかけよう」とまで、政権政党の議員が発言したのだ。報道の自由侵害の問題として、全マスコミの怒りが沸騰しなければならない。たとえば、北海道新聞が「自民の勉強会 マスコミ批判は筋違い」「耳を疑う発言が、また自民党から飛び出した。」というが如く。

愚かな読売社説のように、「地元紙に対する今回の百田氏の批判は、やや行き過ぎと言えるのではないか。」などと、生温く政権におもねっていてはならない。

そして、メディアの怒りを国民全体の怒りとして受け止めなければならない。メディアの自由は、国民の知る権利に奉仕するためにあるのだから。

沖縄は渾身の怒りを表現するだろう。この沖縄の怒りを孤立させてはならない。日本全土の国民が沖縄の怒りを我が怒りとしなければならない。沖縄の平和は、そのまま日本全土の平和なのだから。

自民党・安倍政権は、まぎれもなく2本の虎の尾を踏んだ。一本はジャーナリズム、もう一本が沖縄である。その痛みは、虎の本体としての日本国民全体のものである。国民の圧倒的な怒りの風を起こして、安倍政権を塵として吹き飛ばそうではないか。
(2015年6月27日)

西修参考人意見「強弁」の無力

戦争法案が違憲であることは、既に国民の常識となっている。斎藤美奈子の表現を借りれば、「いまや違憲であることがバレバレになった安保法制」(東京新聞・「本音のコラム」)なのだ。「違憲の法案を国会で成立させてはいけない」という正論も過半の国民の確信だ。大勢決したいま、敢えてこれを合憲と言い繕おうという強弁は、蟷螂の斧に等しい。

そのような蟷螂の役割を勇ましく買って出たのが西修(駒澤大学名誉教授)である。6月22日の安保特別委員会での参考人発言だ。しかし、どんなに勇ましいポーズをとろうとも、蟷螂は所詮蟷螂。その斧をいかに振りかざそうとも、天下の形勢にはそよ風ほどの影響もない。

6月22日参考人意見では、宮?礼壹、阪田雅裕の元内閣法制局長官両名の発言が話題となった。「学者だけでなく、官僚も違憲の見解なのだ」と。西の発言内容はほとんど話題にもならなかった。とはいえ、他にない珍らかなる蟷螂の言である。それなりの注意を払うべきだろう。報道されている限りで、その発言を整理してみたい。

西参考人発言は、次の10項目を内容とするものである。
1 「戦争法案」ではなくて「戦争抑止法案」だと思う。9条の成立経緯を検証すると、自衛権の行使はもちろん、自衛戦力の保持は認められる。
2 比較憲法の視点から調査分析すると、平和条項と安全保障体制、すなわち集団的自衛権を含むとは矛盾しないどころか、両輪の関係にある。
3 文理解釈上、自衛権の行使は、全く否定されていない。
4 集団的自衛権(国連憲章51条)は、個別的自衛権とともに、主権国家の持つ固有の権利、すなわち自然権である。また、両者は不可分であって、個別的自衛権か集団的自衛権かという二元論で語ること自体がおかしな話。
5 集団的自衛権の目的は抑止効果であり、その本質は抑止効果に基づく自国防衛である。
6 我が国は、国連に加盟するに当たり、何らの留保も付さなかった。国連憲章51条を受け入れたと見るのが常識的だろう。
7 個別的自衛権にしろ集団的自衛権にしろ、自衛権行使の枠内にある。国際社会の平和と秩序を実現するという憲法上の要請に基づき、その行使は政策判断上の問題であると思います。
8 政府は、「恒久の平和を念願し」「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」などという国民の願いを真摯に受けとめ、国際平和の推進、国民の生命、安全の保持のため、最大限の方策を講ずるべき義務を負っている。
9 国会は、自衛権行使の範囲、態様、歯どめ、制約、承認のありようなどについて、もっと大きな視点から審議を尽くすべきである。
10 今回の安全保障関連法案は、新3要件など、限定的な集団的自衛権の行使容認であり、明白に憲法の許容範囲である、このように思うわけであります。

私の要約は、大きく間違ってはいないはず。ところどころ、テニオハが少しおかしいが、これは、西の発言の原型を尊重しているからだ。以上をお読みになって、はたして蟷螂の斧の威力の有無以前に、そもそも西製斧の形状や素材を認識できるだろうか。主張への賛否や、説得力の有無の判断以前に、主張の筋道や論理性を理解できるだろうか。

論証の対象は、「安全保障関連2法案(戦争法案)の合憲性」「法案の9条との整合性」、少なくとも「違憲性の否定」である。上記10項目がそのような論証に向けての合目的的な立論となっているとはとても考えられない。これを聞かされた自民党・公明党の委員も、さぞ面食らったのではなかろうか。

以上の、理屈らしい理屈を述べようとした部分はきわめて分かりにくい。というよりは、合憲論の論証としてはほとんど体をなしていない。分かり易いのは、西が最後に述べたところである。大意は以下のとおりだ。

「我が国の平和と安全を維持するための安全保障であれば、その目的を達するためにふさわしい方式または手段である限り、国際情勢の実情に即応して適当と認められるものを選ぶことができることはもとよりであって、我が憲法9条は、我が国がその平和と安全を維持するために他国に安全保障を求めることを何ら禁ずるものではないのである。」

これは分かり易い。要するに、「主権国家は平和と安全を維持するために、国際情勢の実情に即応して適当と認められることなら何でもできる」というのである。おそらくは、このあとに、「主権国家が平和と安全を維持するために国際情勢の実情に即応して適当と認められることをすることが違憲となることはありえない」「本法案は、そのような『適当と認められる』範囲内の法律を定めるものだから違憲ではない」ということになるのだろう。要するに、「国を守るためなのだから憲法の字面に拘泥してはおられない」という分かり易く乱暴な「論理」である。この「論理」で前述の10項目を読み直すと、なるほど了解可能である。もちろん、了解可能とは意味内容の理解についてだけ。けっして同感や賛同などできる訳がない。

西の立論では、憲法9条の文言が具体的にどうであるかはほとんど問題にならない。「比較憲法学的に」、一般的な安全保障のあり方の理解や、国際情勢のとらえ方次第で、憲法の平和条項はどうとでもフレキシブルに解釈可能というのだ。およそ、憲法が権力の縛りとなるという発想を欠くものというほかはない。

また、西の主張では、自衛権に個別的だの集団的だのという区別はない。どちらも国家の自然権として行使が可能というのだ。時の政権の判断次第で、我が国の存立のためなら何でもできる。憲法よりも国家が大切なのだから当然のこと、というわけだ。

これはまたなんと大胆なご主張、と驚くほかはない。あからさまな立憲主義否定の立論である。主権者が憲法制定という手続を経て、為政者に対して課した権力行使に対する制約を認めない立場と言ってよい。

立憲主義を認め、9条の実定憲法上の規範性を認めた上で、問題の法案を合憲というには、きわめて精緻でアクロバティクな立論が要求される。西流の乱暴な議論では、どうにもならないのだ。

やはり、自民党は今度も参考人の人選を誤ったようだ。とはいうものの、敢えて蟷螂たらんとする者は他になく、手札は底を突いていたのだろう。西参考人推薦は、与党側にとって合憲論での巻き返しの困難さをあらためて示したというほかはない。
(2015年6月24日)

「違憲のウワサも75日、95日でなんとかなるさ」は許さない。

95日(!!)の会期延長だという。これは戦争法案成立に向けた安倍政権の並々ならぬ執念の表れ。しかし、この非常識というべき延長日程は、安倍内閣存立の非常事態宣言ではないか。論戦での劣勢を自認し、数を恃んでの強行突破はできないという自白でもあるのだ。

世論を宥める時間が必要だ。人の噂も75日。法案違憲で沸騰している世論も、75日もあれば治まるだろう。「95日も延長すれば、説明が足りないなどとは言わせない。」「これでなんとか成立に漕ぎつけるだろう」との背水の陣とも読める。

しかし、これは政権にとっての大きな賭けでもある。時間がたてば立つほど、反対世論が大きく強固なものになっていく可能性も大きい。当然、廃案時の傷はより大きくなる。政権そのものを崩壊させることにもなるだろう。安倍の心中穏やかであるはずがない。

幸い今のところ株価の推移は順調だ。これが内閣支持率の頼みの綱。もう少し時間をかけて、法案について「丁寧な説明」を尽くせば世論はやがて変わるだろう。別に合憲と考えていただかなくても結構。強行採決をしても大きな反発を招くことにはならないという程度でよいのだ。もちろん、「丁寧な説明」とは内容についてのものではない。世論の危惧と噛み合った説明をしていたのでは、次々とボロが出る。さらに世論を刺激してしまう。そのくらいのことを心得ない私ではない。

だから、過去のことを聞かれたら未来のことで切り返す。昨日のことを聞かれたら一昨日の話しで煙に巻く。明日の天気について質問されたら、明後日の空模様を答弁する。左が問題になっていても得意の右を論じる。白ではないかと問い質されたら、黒ではないようだと答える。噛み合っていないではないかという再質問には、再び丁寧に同じことの説明を繰り返す。この洗練された「忍法・はぐらかし」で、のらりくらりと時間を稼げばよいのだ。こうして時間稼ぎをしているうちに、攻め手は疲れる。世論は飽きる。どこかで強行採決のタイミングというものが熟してくる。そんなものさ。これが安倍流逃げ切りの術。

そうは問屋が卸さない。日本の命運が掛かった根競べだ。世論の追求が勝つか、安倍が逃げ切るか。その95日レースの中間指標が、各紙の世論調査だ。法案への賛否や、内閣支持率。その数値の騰落が、政権の行動を縛りもし煽りもすることになる。

本日の朝日が、世論調査の結果を公表している。ここがスタートだ。これに続く世論調査の結果次第で、安倍を追い詰めることにもなり、安倍の逃げ切りを許すことにもなる。このスタートの状況を確認しておきたい。

朝日が20・21の両日に行った全国世論調査(電話)によると、安倍内閣の支持率は39%で、前回(5月16、17日調査)の45%から下落し、第2次安倍内閣発足以降最低に並んだ、という。
◆安倍内閣を支持しますか。支持しませんか。(かっこ内は5月調査時の数値)
  支持する   39%(45)⇒6%の下落
  支持しない  37%(32)⇒5%の上昇
1か月間で、安倍内閣支持から不支持への鞍替え組が少なくとも5%である。日本の有権者総数はほぼ1億人。およそ500万人の大移動だ。これで、支持不支持層の差は13%→2%と減じて、ほぼ差がなくなった。女性だけに限れば逆転(支持34、不支持37%)しているという。ここがスタートラインだ。

戦争法案への賛否は、「賛成」29%に対し、「反対」は53%と過半数を占めた。
 ◆安全保障関連法案に、賛成ですか。反対ですか。
   賛成 29(29)
   反対 53(43) ⇒10%の上昇、過半数に。
この「10%≒1000万人」の戦争法案反対への1か月の大移動が内閣支持率を変えたのだ。

さらに、法案をいまの国会で成立させる必要があるか聞くと、「必要はない」が65%を占め、「必要がある」の17%を大きく上回る。延長してでも今国会での成立を目指す政権に賛同する世論はきわめて少数なのだ。
 ◆この法案を、今の国会で成立させる必要があると思いますか。今の国会で成立させる必要はないと思いますか。
 今の国会で成立させる必要がある17(23)⇒6%の減
 今の国会で成立させる必要はない65(60)⇒5%の増

今国会で成立させる「必要がない」というのが、「ある」の3倍に近い圧倒的世論と言ってよい。強引にこの世論をねじ伏せようというのが、政権の95日会期延長である。明らかに、議会内の議席配分と議会外の民意とは大きく乖離しねじれている。もしかしたら、安倍は、この上なく危険な虎の尾を踏んでしまったのではなかろうか。

さらに朝日は、いくつか興味深い設問をしている。まずは、戦争法案の合違憲についての意見調査。
憲法学者3人が衆院憲法審査会で「憲法違反だ」と指摘したが、こうした主張を「支持する」と答えた人は50%に達した。他方、憲法に違反していないと反論する安倍政権の主張を「支持する」という人は17%にとどまっている。
 ◆法案について、3人の憲法学者が「憲法に違反している」と主張しました。
  これに対して安倍政権は「憲法に違反していない」と反論しています。
  どちらの主張を支持しますか。
   3人の憲法学者  50% ⇒ほぼ3倍の圧勝。
   安倍政権      17% ⇒ほぼ3分の1のボロ負け。

安倍晋三首相は法案について「丁寧に説明する」としているが、首相の国民への説明は「丁寧ではない」という人は69%。「丁寧だ」の12%を大きく上回った。
 ◆安倍首相の安全保障関連法案についての国民への説明は、丁寧だと思いますか。
  丁寧ではないと思いますか。
   丁寧だ        12%
   丁寧ではない    69%⇒「丁寧だ」派の5.75倍

もうひとつ。
◇(安倍内閣を「支持する」と答えた39%の人に)これからも安倍内閣への支持を続けると思いますか。安倍内閣への支持を続けるとは限らないと思いますか。
 これからも安倍内閣への支持を続ける    47%
 安倍内閣への支持を続けるとは限らない   49%
◇(「支持しない」と答えた37%の人に)これからも安倍内閣を支持しないと思いますか。安倍内閣を支持するかもしれないと思いますか。
 これからも安倍内閣を支持しない       60%
 安倍内閣を支持するかもしれない       33%

つまり、安倍内閣支持派の支持の度合いは不確かなのだ。浮動的といってよい。けっして確信にもとづく支持ではない。「安倍内閣への支持を続けるとは限らない49%は、支持から不支持への予備軍が大量に存在していることを物語っている。安倍不支持派拡大の「のりしろ」が大きいということなのだ。一方、安倍不支持派は、遙かに固定性が高い。しかも、留意すべきは、1か月で500万?600万人の「支持⇒不支持・意見大移動」を経てなお、この数字なのだ。

政権の説明は、国民への説得力を持っていないことが明らかとなっている。安倍内閣が戦争法案を閣議決定したのが5月14日、国会上程が翌15日。以来、1か月間の「丁寧な説明」の結果が、この世論調査結果である。これから、95日間安倍の「丁寧な説明」はさらに国民の不支持を拡げるだろう。

国民一人ひとり、のみならず子々孫々の運命に関わる大問題だ。安倍の敵失を待っているだけでは、95日レースの勝利を確実なものとはなしえない。戦争をできる国への変身の危険と愚かさをあらゆる手段で発信し続けよう。既に、「潮目が変わった」のレベルは通り越した。もはや、世論は止めて止まらぬ「大きな竜巻」になりつつある。自信をもって戦争法案を吹き飛ばそう。
(2015年6月23日)             

戦争法案を廃案に。戦争法を支える教育行政の暴走にも歯止めを。

「安倍政権の教育政策に反対する会」を代表して開会のご挨拶を申し上げます。月曜日の正午スタートという、ご都合つきにくい日程にもかかわらず、参議院議員会館での教育を考える集会に多数ご参集いただきありがとうございます。

本日の集会のメインタイトルは、『いま、教育に起っていること』であります。
まことにさまざまなことが、いま、教育に起こっております。到底見過ごすことができないことばかり。ひとつひとつのできごとをしっかりと見つめ、見極めなければなりません。この教育分野のできごとは、けっして教育分野独自の問題として独立して生じているわけではありません。当然のことながら、教育問題も政治的・経済的・社会的な全体状況の一側面であります。他の政治や経済や社会状況と切り離して論じることはできません。そのような問題意識が、サブタイトル『戦争法とも言われている安保法制下での教育、ふたたび』として示されています。

国会の内外は、戦争法案審議の成否をめぐって、いま騒然たる状況にあります。その騒然たる状況は、全国津々浦々の教育現場の状況と密接に関連しています。初等中等教育に、政権が、あるいはその意を受けた地方権力が、乱暴な介入をしているだけでなく、いよいよ大学教育にも政権の介入が及ぼうとしています。

その政権が、昨年7月1日の集団的自衛権行使容認の閣議決定に続いて、いま戦争法案を国会に上程しました。衆議院での審議は紛糾し、政府与党は本日にも大幅な会期延長で、なんとか今国会での法案の成立を画策しています。これまでは我が国の外交にも内政にも、戦争・参戦という選択肢はありませんでした。自衛隊ありといえども、専守防衛の原則を厳守するというタテマエから踏み出すことはできなかったのです。ところが、いま、世界のどこにでも日本の武装組織が出かけていって戦争をする、戦闘に参加する、そういう選択肢をもつ、国に変えようというたくらみが強引に推し進めらようとしています。

もし、政権の思惑通りにことが成就するとすれば、まさしく憲法の平和主義からの大きな逸脱であり、これこそ「戦後政治の総決算」であり、「戦後レジームからの脱却」というほかはありません。この政権の動きと軌を一にして、教育も、そのような政策に奉仕する人材を育成する内容に変更されようとしている、と考えざるをえません。

戦争を政策選択肢とする国とは、いつもいつも効率よく戦争を遂行できるよう、万全の準備を怠らない国です。いざというときには、政権の呼びかけに応じて全国民が一丸となって戦争に参加しなければなりません。そのような国を支える教育とは、いったいどんなものなのでしょうか。

自らものを考え行動する自立した主権者を育てる教育とは対極にある教育。権力が望む批判精神を欠いた国民を育成する教育。結局のところ、権力の意思を子どもたちに刷り込み、国家の言いなりに動く人材を育成する教育。その政策の根底には、国民個人を軽んじる国家主義ないしは軍事大国化の志向があり、大企業の利益に奉仕する新自由主義があります。

本日は、何よりも教育の分野総体が、いったいどうなっているかを正確に把握したいと思います。そして、その背景を煮詰めて考える手がかりを得たいと思います。冒頭に総論として世取山洋介さん(新潟大学教授)の基調講演をお願いしています。「教育情勢全般の状況について」という世取山さんならではのご報告に耳を傾けたいと思います。そのあと、各論として、まず俵義文さん(子どもと教科書全国ネット21)から重大な局面を迎えている教科書採択状況についてのご報告。また、近時新たに大きな問題となってきました政権の大学の自治への攻撃をめぐる問題について岩下誠さん(学問の自由を考える会事務局長・青山学院大学准教授)から、さらには教育の歪みの端的な表れである学校でのいじめ問題について武田さち子さん(ジェントルハート理事)に、それぞれ20分ずつのご報告をいただき、その後ご参加いただける議員や会場の皆さまを交えての意見交換をいたしたいと存じます。

目指すところは、戦争法案と同じ根っこから顔を出している政権の全面的な教育介入に対する摘発です。戦争法案とともに、政権の教育への不当な介入も吹き飛ばすにはどうすればよいのか。教育を「ふたたび」戦前に戻してしまうような愚かさを繰り返すことのないよう自覚しなければならないと思います。そのために、本日の集会が充実した実りある議論の場となりますように、皆さまのご協力をよろしくお願いいたします。
(2015年6月22日)

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