(2020年11月24日)
季節外れの「桜」の話題が盛り上がっている。話題の火を付けたのが、昨日(11月23日)付け読売のスクープ記事。これにNHKが続いた。しっかりと、安倍側有罪の証拠の存在を報じている。
問題は、当時首相だった安倍晋三が主催する「桜を見る会・前夜祭」。ホテルニューオータニ東京の豪華な会食は、どう見ても一人あたり最低1万1000円はするという。それを、前夜祭出席者は、5000円ポッキリの会費で堪能していた。安倍の側から、資金が注ぎ込まれているに違いないというのが疑惑。金を出していれば、公職選挙法違反にも、政治資金規正法違反にもなる。
細かい法律の条文を知っているかどうかなどという些細な問題ではない。これは選挙民の政治家へのタカリの構造なのだ。山口4区の安倍晋三後援者は、恥を知らねばならない。そして、同時に政治家が未熟な選挙民を買収・供応する構造でもある。飲ませ喰わせして票を集めた汚い政治家が、汚い政治で金を集め、その金でまた汚い票を集める、その悪循環の縮図が「桜を見る会」「前夜祭」に浮かび上がっている。
この前夜祭という宴会の主催者の側から、飲食費に金を出していたのだろうという疑惑に対して、これまで安倍は全否定して、なんと言っていたか。
「夕食会に関しても、参加者が実費を払って、支払っており、安倍晋三後援会としての収入、支出は一切ありません」
「夕食会の費用については、ホテル側との合意に基づき、夕食会場入口の受付において安倍事務所の職員が一人5千円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受付終了後に集金した全ての現金をその場でホテル側に渡すという形で参加者からホテル側への支払がなされたものと承知しております。」
「夕食会に関して安倍晋三後援会としての収入、支出は一切ないことから、政治資金収支報告書への記載は必要ないものと認識しております」
つまり、会の参加者一人ひとりが、ホテルに費用を支払ったもので、安倍も事務所も関与していない、と言ったのだ。これを、「我が国の総理大臣がそう言うのだから、そのとおりだろう」と信用した人柄のよい方も少数はいたようだが、国民の大部分は安倍晋三を嘘つきだと判断した。おそらく、安倍晋三後援会員もそうだろう。
NHKは、安倍の嘘の証拠となる領収書の存在を報じた。その宛先について、「複数の関係者への取材で、ホテル側の領収書の宛名がいずれの年も、安倍前総理大臣自身が代表を務める資金管理団体「晋和会」になっていたことが新たに分かりました」と具体的に指摘した。これは安倍にとっての嘘つきの証明書。政治家としての致命傷と言ってもよい。
読売もNHKも、安倍晋三のオトモダチではないか。しかるべき誰かが、何らかの思惑あって、この2者を選んでリークしたものと見るべきではあろう。だから、単純に、「特捜よくやった。がんばれ」とまでは言いにくい。
それでも、前首相の陣営に対する捜査の衝撃は大きい。「#安倍晋三の逮捕を求めます」が、Twitterでトレンド入りしているという。特捜には、徹底した捜査を期待したい。それが、政権の番犬とまで言われる事態に追い込まれて失墜した検察の権威を回復する唯一の方途であろう。
「モリ・カケ・桜」は、安倍前政権による《政治の私物化》を象徴する三大事件である。安倍晋三という個性の問題性もさることながら、安倍晋三の「悪事」を抑制できないこの時代状況の深刻さを噛みしめなければならない。この社会、この国の民主主義が正常に機能していないのだ。巨悪が枕を高くしてきた、7年8か月。
「モリ・カケ・桜」とも、真相の徹底究明はなされず、生煮えのまま安倍晋三の政権は幕を下ろした。しかし、事件が終熄したわけでも解決したわけでもない。安倍やその後継の立場は、権力の旧悪を隠蔽したままにしておこうという魂胆。これに対して、徹底して旧悪を暴いて究明しようという法的正義追及派との対峙が続いている。その決着は、国民世論の動向次第である。
本日(11月24日)昼過ぎに、安倍晋三は、記者団の取材に応じてこう語ったという。
「告発を受けて捜査が行われていると承知している。事務所としては全面的に協力していく。それ以上のことについては、まだ今の段階でお答えすることは控えたい」
翻訳すれば、こんなところだろうか。
「告発があったから、検察庁も立場上捜査を行わなければならないということでしょう。まさか、本気で捜査しているとは思っていないはず。最悪の場合でも、安倍事務所の問題で私自身の問題ではない。安倍事務所の秘書たちが責任追及されても、私が刑事訴追される筋合いではない」
さらに、夕刻にははっきりとその筋書きが見えてきた。例の「秘書がー」という、政治家の常套手段である。安倍晋三、またまた、何本かの尻尾を切ろうというのだ。
安倍晋三前首相(66)の後援会が主催した「桜を見る会」の前夜祭を巡り、安倍氏周辺は24日、ホテルに支払った費用総額の一部を同氏側が補塡(ほてん)していたことを明らかにした。安倍氏は首相在任中に国会などで、「後援会としての収入、支出は一切ない」などと事実と異なる答弁をしていた。
「周辺によると、安倍氏は前夜祭の問題が発覚した昨年後半、経緯について事務所の秘書に「会費の(参加者1人当たり)5000円以外、(安倍)事務所が支出していないよね」と電話で確認。秘書は会費以外の支出はないと答えた。秘書は前夜祭の総額の一部を安倍氏側で補塡している事実を把握していたが、政治資金収支報告書に記していなかったため、帳尻を合わせるため、そう答えたという。
この秘書は、安倍氏に23日、自身の報告が誤りだったと伝えたという。」(毎日)
逃げ切れないとなって、安倍は秘書への責任押しつけをはかったのだ。今や、問題は、安倍得意の尻尾切りの術での遁走を許すか否かである。「#安倍晋三の逮捕を求めます」がトレンド入りするのもむべなるかなの事態なのだ。
誰が言ったか、「嘘つきはアベの始まり」とは至言である。嘘つきの政治家に甘い主権者は、主権者として失格である。今回も、アベノウソは厳しく糾弾されなければならない。しかし、我々が告発し、特捜が捜査をしているのは、安倍晋三の国会内外での嘘という政治的・道義的責任ではない。あくまでも、刑事責任なのだ。7年間・7回も続いた安倍晋三後援会の恒例目玉行事の「前夜祭」である。その会計のありかたを、安倍晋三自身がまったく知らなかったはずはない。知らぬ存ぜぬで通してはならない。
(2020年11月18日)
昨日(11月17日)の毎日新聞夕刊が、「最高裁判事が高校生にオンライン講義 法曹の魅力伝える初の試み」という記事を掲載している。
「若い世代に法曹の仕事の魅力を伝えようと、最高裁の木澤克之判事(69)が16日、須磨学園高校(神戸市)の2年生400人に向けてオンラインで講義した。初の試みで、生徒らは「憲法の番人」と称される最高裁の判事の声に耳を傾けた。」
最高裁と学校の教室をウェブ会議システムで結び、2016年に弁護士から最高裁判事に就任した木澤判事が約50分にわたって語り掛けて、こう言ったという。
「『社会のルールを巡るトラブルを一つ一つ解決するのが裁判の役目。ルールを安定させ、信頼できるものにするのが法律家の仕事』と解説した。『裁判官として一番大事にしていることは』との質問には『結論が正義にかなっているかどうか、よく考えること』と答えた。」
同じ言葉も、誰が言うかで印象は大いに異なる。ほかの判事がこう言えば無難な内容だが、この人が口にすれば大いにシラける。
彼は、1974年に立教大法学部を卒業し77年に弁護士登録をしている。東京弁護士会に所属し、東京弁護士会人事委員会委員長(念のためだが、人権委員会委員長ではない)や立教大学法科大学院教授などを務めたという。それだけなら、なんの問題もない、普通の弁護士。
この人、立教大学で、加計孝太郎という有名人と同級生だったという。その誼で、加計学園という学校法人の監事の役に就いた。これも、まあ、問題とするほどのことではなかろう。
よく知られているとおり、加計孝太郎には、安倍晋三という「腹心の友」がいた。木澤は、加計孝太郎に誘われて、安倍晋三とゴルフを楽しむ仲となった。こうして、加計を介して、「アベ・カケ・キザワ」の濃密な関係ができた、と思われる。濃密の評価は推測だが、少なくも、そう見られる状況ができた。これで、問題を孕むこととなった。もっとも、これだけならまだ問題は顕在化しない。
問題は、木澤克之が最高裁判事に任命されたことだ。任命したのは、もちろん安倍晋三である。これは、大問題ではないか。安倍晋三は、加計孝太郎のために、岩盤にドリルで穴をこじ開けて、加計学園が経営する大学の獣医学部開設に道を開いている。腹心の友のために、不可能を可能としたのだ。これが行政私物化と世の顰蹙を買ったアベノレガシーのひとつである。
その安倍晋三が、加計学園監事の弁護士を最高裁判事に任命したのだ。トモダチのトモダチの任命である。行政の私物化だけではない、司法の私物化ではないか。
この木澤という人、立教大学出身の初めての最高裁判事だという。周囲がその姿勢や人格を評価した結果であれば、その経歴は誇ってよい。しかし、オトモダチのお蔭で加計学園監事となり、オトモダチのオトモダチと懇意になっての、最高裁判事任命はいただけない。子どもたちの前で、正義を語る資格に疑問符が付く。
この人、既に前回(2017年10月)総選挙の際の最高裁裁判官国民審査を経ている。その際の、「最高裁判所裁判官国民審査公報」における経歴欄に、加計学園監事の経歴を掲載しなかったことが、話題となった。最高裁ホームページには、今も明記されているにもかかわらず、である。
私も東京弁護士会所属だが、この人のことは、最高裁判事就任まで知らなかった。知っての後は、とうてい「正義を語る人」のイメージではない。「有力な人、権力をもつ人に擦り寄って仲良くすれば世の中を上手に渡れますよ」と、子どもたちに「教訓」を垂れるにふさわしい人のイメージなのだ。大新聞が、無批判に木澤の行動を報じていることに、違和感を覚える。
本日(9月16日)、アベ内閣が総辞職してスガ新内閣組閣となった。長いトンネルを抜けて、またトンネルに入っただけ。あるいは、ラッキョの一皮を剥いても同じラッキョでしかなかったという印象。歴史的な意味は無に等しいスカみたいな日。
確かに、最低・最悪のアベ政権は終わった。しかし、居抜きのママ、首をすげ替えただけのアベ後継スガ政権の再発足である。何しろ、スガは「安倍後継」以外に、何の政治理念も語らない。語るべき何もないのだろうか、なんにも語らないことがボロを出さずに安心と思い込んでいるのかもしれない。
前政権による国政私物化疑惑への国民の批判に対しては、弁明も、反省も、再発防止の決意の表明もない。まるまるこれを承継するという態度。にもかかわらず、この点に対する国民的な批判が乏しい。メディアの甘さにも、歯がゆくてならない。
そのスガがこだわっているのが、アベ政権数々の不祥事のお蔵入りである。蔵に鍵をかけて、近づくなという姿勢。蔵の中は、モリ・カケ・サクラ・カジノに黒川・河井、公文書の隠蔽・改ざん、ウソとゴマカシの政治姿勢まで、まことに盛り沢山。全てはもう済んだこと、再調査はしない。
つまりは、アベからスガへ、政権の体質は何の変わりもないままに承継された。その上で、「巨大な負のレガシー」と言われる不祥事について、この機に隠蔽を決めこんだのだ。スガにすれば自分も共犯なのだから、こうするしかないと言わんばかり。
またしばらくは、アベ政権との闘い同様の姿勢で、スガ政権と対峙していかなければならない。そのような決意を固めるべき日。
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ちょうどこの日に、かもがわ出版からの新刊書の贈呈を受けた。
上脇博之さんの最近著「忘れない、許さない!」、副題が「安倍政権の事件・疑惑総決算とその終焉」というもの。アベ退陣以前からの出版企画だそうだが、アベ辞意表明となっての緊急出版とある。その筆力に脱帽せざるを得ない。
「許そう、しかし忘れまい」は、戦後補償を求める運動の中での、侵略戦争被害国の民衆の気持として語られる。しかし、それは加害国の真摯な謝罪の存在を前提としてのことである。アベ旧政権とスガ新政権は、旧悪を徹底して隠蔽し、丁寧に説明するなどと嘘を言って、ゴマカシ続けている。
この書の題名のとおり、最低・最悪のアベ政権悪行の数々を「ワスレナイ、ユルサナイ!」でなくてはならない。
この書の構成は以下のとおり。
第1章 「お友達」行政と公文書改竄・廃棄?財務省の「森友学園」事件
第2章 公金の私物化と裏金?「桜を見る会」&「前夜祭」事件
第3章 自民党本部主導選挙と使途不明金?河井議員夫妻「多数人買収」事件
第4章 政治的な検察官人事?黒川検事長の定年延長と検察庁「改正」案
第5章 安倍政権の政治的体質と自民党の変質?保守からの右旋回
終 章 国民置き去りの新型コロナ対応と支持率の低下〜政治的体質が招いた終焉
そして、あとがきの最後の一文がこうなっている。
「本書が安倍政権の政治的体質を総決算し、安倍政権が生み出した体質そのものの終焉を決定づける一冊になることを願って。」
アベが退陣しても、実は何も変わらない。この最低・最悪のアベ政権が生み出した体質そのものを終焉させなければならない。そのためのこの書のご紹介である。
http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/wa/1114.html
出版社名 かもがわ出版
発売予定日 2020年10月1日
予定税込価格 2,090円
そして、出版社は、この書についてこうコメントしている。
「安倍首相辞任 緊急出版! 森友学園、桜を見る会、河合選挙買収、黒川検事長…安倍政権の相次ぐ不祥・疑惑事件を総棚卸。安倍自民党の政治的体質、ここに極まれり。転換期の今、民意に寄り添う清潔・公正な政治を!」
(2020年6月25日)
本日(6月25日)の朝日社説が、「『森友』再調査 この訴えに応えねば」と訴えている。その姿勢を大いに評価したい。
「森友再調査」の必要は、亡くなられた赤木俊夫さんの手記が遺族によって発表され、この手記が多くの人の魂を揺さぶったことを理由とする。赤木俊夫さんは、自分にとって死ぬほど恥ずべき嫌なことを押し付けられたのだ。これを、自己責任として済ませるわけにはいかない。いったい、誰が、なんのために、どのように、彼に文書の改ざんを押し付けたのか。そして、究極の責任をとるべきは誰なのか。それを、明確にしなければならない。
そのための手段として、ひとつは遺族による民事訴訟が提起されている。また、国会による「予備的調査」も進行している。そして、然るべき第三者機関を設定しての「再調査」要求である。今のままで、よいはずはない。朝日の社説をご紹介して、コメントしてみたい。
国会閉会から1週間。コロナ禍への対応のみならず、様々な課題が積み残された。なかでも、森友問題の再調査を安倍政権が拒み続けていることは見過ごせない。真実を知りたいという遺族の思いに応えずして、信頼回復も再発防止もない。
※ アベ首相は、数々の疑惑が問題となる度に、「ていねいに説明申し上げる」「説明責任を果たす」と言い続けて、その実何もしてこなかった。国民から、「嘘とゴマカシにまみれた」と指弾される珍しい首相。この度も、ごまかして、逃げた。しっかりと調査し、真実を明らかにしてこその信頼回復である。ことさらにそれをしないのは、真実が暴かれることで、政権に不利益がもたらされると考えているのではないのか。
国会が閉じる2日前、35万2659筆にのぼる署名が、安倍首相、麻生財務相、衆参両院議長宛てに提出された。財務省の公文書改ざんに加担させられ、自ら命を絶った近畿財務局の赤木俊夫さんの妻雅子さんが、第三者委員会による公正中立な再調査を求めたものだ。
※35万2659筆とは、たいへんな署名の数である。これだけの人が、公正な第三者委員会を設置して、赤木さんの手記で明らかになった事実を確認せよと言っているのだ。前回の、仲間内による調査ではとうてい信頼に堪えない。公正中立な、信頼できる第三者による再調査が求められているのだ。
雅子さんが3月、国と改ざん当時理財局長だった佐川宣寿(のぶひさ)氏に損害賠償を求める訴えを起こしても、首相や麻生氏は再調査に応じなかった。そこで、雅子さんはインターネットサイトで署名を呼びかけた。「このままでは夫の死が無駄になってしまう」という訴えに、共感の輪が広がったのだろう。
※ 世論はいま、赤木さんのご遺族の訴えに共感の輪を広げている。ということは、アベや麻生を信頼できないとしているのだ。遺された赤木さんの手記は、生前の赤木さんが直接体験したことを記してはいるが、改ざんの方針決定と指示は、赤木さんの知らないところで行われている。赤木さんには、推認された事実ということになる。赤木さんの手記に表れた直接体験事実の真実性を検証し、非体験の推認事実に関しては厳格に関係者から事情を聴取する調査が必要なのだ。国と佐川に対する民事損害賠償請求の訴訟は、判決に至るまで長い期間を要する。早期の調査が必要なのだ。
それでもなお、首相と麻生氏の姿勢は変わらない。なぜ再調査は不要と言えるのか。
麻生氏は記者会見でこう述べた。「財務省として調査を徹底してやり、関与した職員は厳正に処分した」。しかし、その調査は身内によるもので、佐川氏の具体的な指示内容は明らかになっていない。そもそも、国有地がなぜ8億円も値引きされたのか、首相の妻・昭恵氏が学園の名誉校長だったことが影響してはいないのか、問題の核心は一向に解明されていない。
※麻生の調査拒否が理由に挙げる「財務省として調査を徹底」が嘘なのだ。2018(平成30)年6月4日付の財務省報告書は、明らかに政治家の責任追及に至らぬよう配慮されたものなのだ。51頁のこの報告書で、誰もが真っ先に注目するのは、改ざんの目的である。34ページにこうある。「応接録の廃棄や決裁文書の改ざんは、国会審議において森友学園案件が大きく取りあげられる中で、さらなる質問につながり得る材料を極力少なくすることが、主たる目的であったと認められる」。政治家からの指示も、政治家への忖度も出てこない。この点を問題にした調査ではなく、この点の疑惑を糊塗するための調査と疑われて然るべきなのだ。
首相は国会でこう述べた。「最強の第三者機関と言われる検察が捜査をした結果がすでに出ている」。これも筋違いというほかない。刑事責任を追及する捜査と、信頼回復や再発防止につなげるための事実の検証を同列にはできない。
※さて、検察は「最強の第三者機関」であったか。「捜査した結果が出ている」か。はなはだ疑問なのだ。検察は政権から独立した検察ではなく、「アベ政権の守護神を抱えた検察」でしかなかった。「最強のアベ政権守護機関」ではなかったか。その検察も、文書の改ざんに関しては、「嫌疑なしの不起訴」にしたのではない。「嫌疑不十分の起訴猶予」としたのだ。けっして、「結果がすでに出ている」わけではない。
「2人は調査される側で、再調査しないと発言する立場ではない」という雅子さんのコメントを重く受け止め、政府は再調査に応じるべきだ。
※ これこそ名言である。アベも麻生も、「被疑者」である。当然に再調査はしたくない立場。そんな二人の言い訳を聞いている暇はない。したくなくても、させなくてはならないのだ。
国会では新たな動きがあった。衆院財務金融委員会が野党の求めに応じ、公文書改ざんの経緯をつまびらかにするよう、衆院調査局長に調査を命じたのだ。国会のチェック機能を強化するため、97年につくられた「予備的調査」という制度で、委員会審議に役立てるための下調べという位置づけだ。少数会派に門戸を開くため、議員40人以上の要請で実施される。
関連資料の提出など、政府に協力を求めることはできるが、強制力はない。政府は自ら第三者委を設けないのなら、国会によるこの調査に全面的に協力すべきだ。国会もまた、行政監視の本分を果たすために、全力で真相に迫らなければならない。
※ 「民事訴訟」、「予備的調査」、そして然るべき第三者機関を設定しての「再調査」。場合によっては、再告発もあるだろう。あらゆる手段を考えねばならないが、全ては世論の支持にかかっている。
(2020年6月1日)
本日(6月1日)、上脇博之さん(神戸学院大学法学部教授・憲法学)が原告となって、注目すべき情報公開請求訴訟(開示・不開示決定取消請求訴訟)を大阪地裁に提訴した。被告行政庁は、法務省法務大臣、人事院事務総局給与局長、内閣法制局長官である。
情報公開請求者として原告適格をもつのが上脇さんお一人、阪口徳雄君ら大阪中心の情報公開訴訟ベテラン弁護士が中心の弁護団だが、何人か東京からの参加弁護士もあり、私もその一人となった。
この提訴を「注目すべき情報公開訴訟」というのは、上脇さんが開示を求めた文書が、いずれも黒川弘務元東京高検検事長の本年1月31日定年延長閣議に至る判断過程を明確にするためのものだからである。
このところの議論で知られところとなったのは、かつては一般公務員の定年制に関する規定は、検察官には適用ないものというのが関係各省庁での統一解釈であった。それが、どこかの段階で解釈変更となって、1月31日黒川検事長定年延長閣議決定となった。しかし、いつ、どのような議論を経て、誰がそのような判断をしたのかは定かでない。
上脇さんは、こう考えた。「閣議決定のための法務大臣請議(閣議を求める手続き)以前に、関係省庁で検察官の定年延長に関する解釈変更摺り合わせが行われたであろう。その摺り合わせの過程の文書の開示を得れば、どこの段階で、『検察官にも一般公務員と同じく定年延長の規定適用が可能』という解釈変更の決断に至ったかわかるはず」。その関連文書の開示を求めることで、解釈変更の過程と理由を明確にすることができる。仮にそのような文書が不存在なら、それ自体で閣議決定の違法を明らかにすることができる。また、閣議決定前に不存在なら、そのような文書は、閣議決定後には存在するはずではないか。
こうして、上脇さんは、本件解釈変更に関係する法務省・人事院・内閣法制局に、閣議決定以前の関係全文書、ならびに閣議決定以後の関係全文書を開示するよう情報公開請求をした。これに対する各行政庁の決定では、貧弱ながらも閣議決定以前の関係文書(各省庁各1点)は出てきた。しかし、これは内容・体裁から、本当に当時作成したものとは信じがたい。そして、閣議決定後の関係文書は、いずれも不存在として不開示決定となった。
そのため、この訴訟の事件名は、「開示及び不開示決定処分取消請求事件」とされている。閣議決定前に作成されたものとして開示された3件の文書についての開示決定と、閣議決定後には作成されていないとして不開示とされた求める3件の文書についての不開示決定を、いずれも違法として合計6件の処分取り消しを求める訴えである。請求が認容されて、取消の判決が確定すれば、各行政庁は改めて真正の開示決定をしなければならない。
分かり易く言えば、求めるものとは違う文書を開示した3件の処分は違法だから取り消せ、あるはず文書を不存在として不開示とした3件の処分も違法だから取り消せ、隠さずにもっとちゃんとした文書を出せ、と求めているのだ。
この情報公開請求は、いずれについても本年1月31日黒川定年延長閣議決定に至る判断過程を国民が知るために不可欠なものである。安倍政権発足以来、森友事件、加計学園事件、桜を見る会事件等々、政権の疑惑として報じられる案件において、当然なされるべき公文書の作成、管理及び情報公開が極めて杜撰である。本件黒川元検事長の定年延長問題もその例に漏れず閣議決定に至る経過が不透明極まる。
閣議決定前に作成された文書として、法務省、人事院、内閣法制局から上脇さんに開示された各行政文書については、真実、閣議決定前に作成された文書であることを示す内容が記載されていない。各省庁の協議の結論だけが一応記載されてはいるが、作成年月日、作成者、その結論に至るまでの協議内容、経過が全く記載されていない。公文書管理法、公文書ガイドライン、各省庁の公文書管理規則などに従えば当然に記載されているはずの、誰と誰が協議して、いつそのような結論に至ったかの「意思形成過程」を明確にする内容が開示されていないのだ。
公開された文書は、無責任に、誰でも、何時でも作成できるメモ的文書あるいは、「作文」に過ぎないと言って過言でない。閣議決定後の文書は不存在という決定であったが、開示された文書は実は閣議後に作成された文書とも思われる。
本件裁判は以上の疑惑を明らかにして、黒川元検事長の定年延長閣議決定過程における、法務省、人事院、内閣法制局の行政文書の作成や情報公開の在り方を問う裁判である。
Q おじさん、専門家でしょう。「#検察庁法改正案に抗議します」が大きな話題になっているけど、いったいどんな法案で、何が問題なのか教えて。
A 現在衆議院で審議中の検察庁法改正法案は、検察官の定年延長の法案なんだけど、検察官の定年を単純に延長するわけじゃない。幹部検察官について、その役職の定年延長に官邸の意向を反映させる仕組みが織りこまれている。つまり、検察官の人事に官邸が介入できるというところが大問題。
Q これまでは、検察官の定年に官邸が介入する余地はなかったの?
A 戦後すぐにできた検察庁法では、検察官の定年は63歳、検事総長だけが特別で65歳とされてるけど、定年の定めはない。
Q だけど、そのあと、国家公務員法に定年延長の定めができたときに、検察官にも定年の延長ができるようになったと、法務大臣が言ったんじゃなかったっけ。
A そうなんだ。ところが、当時の資料を調べて見ると、検察官の職務の特性に照らして「国家公務員法の定年延長の規定は検察官には適用しない」というのが明確な政府の解釈だった。だから法務大臣答弁は明らかに間違い。
Q それでも、今年(2020年)の1月31日に、内閣は黒川弘務東京高検検事長の定年延長閣議決定をしてしまったわけね。違法な閣議決定じゃないの?
A これまでまったく前例のないことで、もちろん違法。この点を追及されて、法務大臣は「解釈を変更した」と回答した。勝手な解釈変更も大きな問題だけど、どんな必要があって、いつ、どのような手続で解釈変更したかは答えられない。決裁文書を示せと言われると、「口頭決裁」だと居直る始末。
Q いかにもアベ内閣らしいご都合主義ね。いつものとおりの、嘘とごまかしと公文書管理の杜撰さ。その黒川人事を後付けで合法化するための法案だから問題なの?
A むろん、そのこともある。黒川さんは、今年の2月8日で63歳となる。だから、既に失職しているはずだ。政府が、どうしてこんな違法で不自然なやり方にこだわったのかが、問い質されなければならない。
Q 結局は、後暗いところをたくさん抱えるアベ政権にとって、黒川さんは頼りになる人というわけのようなのね。
A そのとおりだ。今日(5月17日)の、毎日新聞「松尾貴史のちょっと違和感」に、「検察庁法改正案に抗議の声 また壊される三権分立」という記事があって、その最後がこう締めくくられている。
小渕優子元経済産業相の政治資金規正法違反問題、松島みどり元法相の選挙でのうちわ配布問題、甘利明元経済再生担当相のUR口利き問題、下村博文元文部科学相の加計学園パーティー券問題、佐川宣寿元国税庁長官らによる森友学園公文書改ざん問題、これらすべてを不起訴にしたのが黒川氏だと言われているが、つまりは政権と一蓮托生、二人三脚、ということなのだろうか。
Q なるほど、分かり易いよね。気に入ったオトモダチ検察官は定年延長を認めて、骨のある厳正な検察官は定年延長しないと、えり好み出来ることになるわけね。結局はそれが、検察官人事に官邸が介入ということね。
A 法案の問題点は、官邸が検察官の定年人事に介入できる仕組みとなっているところにあると言ってよいと思う。人事介入は結局仕事の中身への介入につながる。
Q アベ内閣のやることだから、どうせ汚いことだろうし、不愉快なことだとも思うけど、官邸による検察官の定年人事介入が、そんなに大きな問題なのかしら。
A 実は、そこがポイントだ。これは、法の支配の根幹に関わる重大問題なんだけど、アベ首相も、森法務大臣も、「検察官だって一般職の公務員だ。内閣の人事権に服して当然」という姿勢だが、それが間違っている。
Q 検察官には、準司法官としての立場もある、という検察官職務の特殊性のことね。
A そのとおりだが、このことの意味するところは重いと思う。法の支配とは、権力も法に服さねばならないという大原則だが、憲法を頂点とする法体系が適正に運用されているかのチェックは司法の役割で、この司法の場で働く実務法律家は、裁判官・検察官・弁護士の三者の職能に分かれている。これを法曹三者と呼んでいるが、それぞれが権力から独立していなければならない。
Q 司法の独立という言葉はよく聞くけど、司法権イコール裁判所だと思っていたし、裁判官の独立は大切だとも思うけど、検察官の独立性も大切だということ? そして、検察官一人ひとりの独立も?
A そのとおりだ。司法権を行使するのは独立した一人ひとりの裁判官で、司法の独立とは裁判官の独立の保障のことでなくてはならない。弁護士の身分も、行政権や司法権から守られなければならない。そして、検察官もだ。
Q でも、検察庁は法務省に属する組織でしょう。法務省は内閣に従わなければならない。検察官が独立していては、行政の統一性を損なうことにならないのかしら。
A 検察官は、刑事事件で被疑者を起訴する権限をもっている唯一の職能。権力が暴走するときの歯止めの役割を担っている。内閣総理大臣と言えども、犯罪に該当する行為があれば、検察官は躊躇なく捜査し起訴できなくてはならない。常に、権力との緊張関係を保たなければならない。権力からの検察官定年人事への介入によって、権力を忖度し、権力におもねる検察官では、法の支配を保つことができない。
Q 分かったような気がする。キーポイントは、権力に対してどれだけ厳しい姿勢をもっているかという問題のようね。
A そのとおりだ。その点、アベ政権のやること、とても分かりやすい。これだけは、安倍さんの功績かもしれないね。
(2020年5月17日)
安倍の悪事は多過ぎて、追いかけるだけでも目が回る。コロナだけに気を取られてはいけない。モリ・カケ・サクラ、テストにカジノにカワイ。その全てと関わるのが、幹部検察官人事に介入しようという検察庁法改正案。国家公務員の定年延長法案と抱き合わせとなっている。それが、昨日(4月16日)衆議院で審議入りした。こんなにも評判の悪い、こんなにも不当性見え見えの法案が、堂々と国会で審議されている。
塩川鉄也議員(共産)は、衆院本会議で質疑。これが、分かり易い。
「発端は安倍政権が1月に黒川弘務東京高検検事長の定年を延長させる閣議決定をしたことだ」「戦後、日本国憲法のもとで制定された検察庁法は、検事の定年延長は認めなかった。それは、検察官人事への政治の恣意的な介入を阻止し、検察官の独立性確保のためだ」「違法な閣議決定につじつまを合わせるため検察官の役職定年に例外を設け、内閣が認める時は63歳を超えても、さらには退官年齢(65歳)を超えても検事長などのまま勤務させることができるという抜け穴まで設けたもので許されない」「今回の法案は、検察官人事への介入を通じて内閣が恒常的に司法の一角に対する支配をを可能とすることで、憲法の基本原理である権力分立を破壊するもの」と批判した。まったくそのとおりだ。
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ところで、16日に法案の審議入りが予想されるとして、法律家6団体が、15日に記者会見を開いた。それがズーム(Zoom)を用いた「ウェッブ会見」だと報告を受けた。ふーむ、世は遷っている。
2020年4月14日
「国家公務員法等の一部を改正する法律案(検察庁法改正案)」
に反対する法律家団体の共同記者会見に関する取材と報道のお願い
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター 共同代表理事 宮里 邦雄
自 由 法 曹 団 団 長 吉田 健一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議 長 北村 栄
日本国際法律家協会 会 長 大熊 政一
日本反核法律家協会 会 長 佐々木猛也
日本民主法律家協会 理 事 長 右崎 正博
改憲問題対策法律家6団体連絡会事務局長 弁護士大江京子
お問い合わせ先 弁護士 江夏大樹
1 検察庁法改正案が衆院で審議入り
政府は,「国家公務員法の一部を改正する法律案(検察庁法改正案)」を,4月16日に衆議院で審議入りする方針を固めました。
検察官は,「公益の代表者」であり,内閣総理大臣を含む政権中枢の権力犯罪に対しても捜査・起訴権限を付与された準司法官的な地位を有する国家機関であることから,政権からの独立性・公正性が制度的に保障されなければなりません。しかしながら,検察庁法改正案では,すべての検察官の定年及び定年延長について国家公務員法の規定が適用されること,内閣ないし法務大臣の広範な裁量により定年延長ができることを規定し,次長検事,検事長,検事正,上席検察官に役職定年制を導入するとともに,内閣ないし法務大臣の広範な裁量に基づき役職定年を延長する規定が盛り込まれています。この改正案では,検察官全体の人事に政権が恒常的に介入することが合法化することになります。
2 新型コロナ感染が広がる中での検察庁法改正
現在、新型コロナの感染拡大が止まらない中、内閣ないし法務大臣が検察人事に介入するという極めて問題のある検察庁法改正案を国会で審議する必要は全くありません。
また、安倍内閣は現在、自民党の河井克行前法相、河井案里参院議員に対する公職選挙法違反事件や元自民党の秋元司衆院議員に対するカジノを含む統合型リゾート(IR)事業の汚職事件が直撃している上に、自身も森友問題や桜を見る会に関連する支出を政治資金収支報告書に記載していない等の様々な疑惑が浮上しており、捜査の対象となる立場です。そうすると、今回の検察庁法の改正は新型コロナの混乱に乗じて、自身への疑惑の追及を回避する仕組み作りにあるとの謗りを免れません。
そこで,私たちは,4月16日に予定されている検察庁法改正案の国会審議入りを前に,同法案の問題点を明らかにし,同法案の廃案を訴えるために共同記者会見を行うことといたしました。
日時: 4月15日午後3時?4時(予定)共同記者会見
手段: Zoomのウェビナー機能を用いて行います。
参加方法:幹事社の毎日新聞の方に参加URLをメールで送ります。
? Zoomのウェビナーでは参加者がパネリスト(発言可)と一般視聴者(視聴のみ)に分かれます。
? 各メディアの方でご参加いただける方は事前に江夏(enatsu@tokyolaw.gr.jp)に「お名前」と「お使いになるアドレス(Zoomに登録したアドレスの場合はそちらのアドレス)」をお伝えください。パネリストとして記者会見にご招待いたします。
? 本記者会見は一般の方々も視聴者として参加することを可能としました。
? Zoomの参加方法にご不明な点がありましたら江夏までお問い合わせください。
会見出席者:各団体からの発言をご依頼するとともに、各野党の国会議員の先生方に発言をしていただく予定です。
是非,取材をして頂くと共に,報道の程,お願い致します。
(2020年4月17日)
昨日(3月29日)付毎日新聞の「声」欄に掲載された短文の投書に目を惹かれた。
「自民党支持の皆さんへ」という表題。投書者は、広島の年金生活者、75才の男性である。
森友学園への国有地売却に関する財務省の決裁文書を巡り、改ざんを強いられて2018年3月に自殺した近畿財務局の男性職員。「僕の契約相手は国民」が口癖だったというこの人の「遺書」を読み、キャリア官僚の傍若無人さに怒りを覚え、筆を執りました。
この投稿者の文体は常連のものではない。自殺した近畿財務局の男性職員の手記に心を打たれ、この人を死に追いやった者の傍若無人さに怒りを抑えきれずに、投書したのだ。
改ざんの詳しい経緯をつづった男性職員の手記が公表されても、安倍晋三首相と麻生太郎財務相は「再調査は必要なし」との姿勢です。自民党の国会議員と自民党を支持する皆さんにうかがいます。これでよいと思っていますか。
投書者の怒りは、男性職員を死に追いやった最高責任者に向けられている。この期に及んで、「再調査は必要なし」というその姿勢のこの二人が元兇、この二人こそ糾弾すべき真の対象である。しかし、投書の呼びかけは、この元兇の二人ではなく、この二人を政治的に支えている「自民党の国会議員と自民党を支持する皆さん」に向けてなされている。
男性職員の奥さんがコメントした通り、2人は「調査される側」であり、再調査は不要と発言する立場にはありません。また、改ざん問題で処分を受けた当時の財務省幹部はそれぞれ駐英公使や横浜税関長などになったとのこと。国民をばかにしていると思いませんか。今の不条理な政治を変えられるのは自民党支持者しかいないと思います。議員の方は正義感を発揮してください。
投書者は、安倍・麻生への怒りを抑えて、静かに自民党支持者に問いかける。決して、その責任を追及する口調ではない。飽くまでも、問いかけである。良識や理性をもつ人間にとって否定しようのない問をもっての訴えである。
この投書者は、心の底から、「今の不条理な政治を変えられるのは自民党支持者しかいない」と思っているのだ。それは、裏返せば、「今の不条理な政治をもたらした責任は、安倍や麻生を支持したあなた方にある」ともなるが、直截にそうは言わない。
問題点を的確に指摘して、穏やかに語りかけること。実は、このような姿勢が、人を説得し、政治を転換するために最も有効なのかもしない。この投書者の、冷静さ、穏やかさ、礼儀正しさを学びたい。
同日の「松尾貴史のちょっと違和感」が同じ問題をテーマに取りあげている。こちらは、直截で歯切れがよい。タイトルが「職員自死の質疑中ニヤニヤ私語 この品性に命預けられるか」というもの。松尾貴史も、安倍・麻生に心底憤っている。以下は、その抜粋である。
自身の発した「私や私の妻が関わっていたのであれば総理大臣も国会議員も辞める」という言葉が引き金になって、改ざんや隠蔽を強いられた近畿財務局職員の赤木俊夫さんが自死を選ばざるを得ないと思ってしまったことに、ひとかけらの罪の意識も感じない安倍晋三総理大臣や、組織のトップである麻生太郎財務大臣の、あれこれ言い訳を作って面会や墓参から逃げる様を見て、「こんなひきょう者たちに生命と生活を預けなければならない」という憤りは、日に日に高まり募る一方だ。
赤木さんの死に関する質問をされているときに、当の安倍氏はニヤニヤ笑いながら麻生氏と私語を交わしていたのが、彼の人柄、品性を象徴的に表している。
世界の危機が訪れている今、国民の命を守らなければならない立場に、こんな不誠実な人物を据えていていいはずがない。国民には休校や卒業式の中止をさせている中、自分は自民党総裁としてではなく、内閣総理大臣として防衛大学校の卒業式に出席し、祝辞に憲法改定の意欲を盛り込むという憲法99条違反の越権行為をする。もういいかげんに彼を辞めさせなければならない。
まったく同感であって、付言することもない。真っ当な政治の要諦は、国民からの信頼にこそある。自分に深く関わるこの件で、一人の官僚が自ら死を遂げたのだ。その死に関わる質問の場で、「ニヤニヤ笑いながら麻生氏と私語を交わし」ていたという。こういう政治指導者の品性の低劣は許しておけない。もういいかげんに彼を辞めさせなければならない。もちろん、その通りなのだ。
先に引用した投書子のように、穏やかに自民党支持者に問いかける姿勢も学びたいし、松尾貴史のように、安倍・麻生本人にストレートな手痛い批判をする、その切れ味も学びたい。心して、二兎を追うこととしよう。
(2020年3月30日)
本日(3月25日)の毎日新聞第8面「みんなの広場」欄に、市民感情を代表する投書が掲載されている。タイトルが、「こんな日本に誰がした」というもの。大阪の主婦・岡田マチ子さんの叫ぶがごとき文章である。
このタイトルだけでおよその見当がつく。「こんな日本」とは、「ウソとゴマカシが横溢し、正直者が苦しむ日本」である。「誰がした」か? 今さらいうまでもなく、「ウソとゴマカシが横溢した、こんな日本のトップ」である。もっとも、この『誰』は、一人とは限らない。投書は2人の名を挙げている。佐川宣寿と安倍晋三である。
もう我慢できない。平気でうそをつき、権力者の顔色をうかがい、国税庁長官に上り詰めたその人物に。
まったく同感だ。私も我慢ができない。「平気なうそ」にも、「権力者の顔色をうかがう」その卑屈な姿勢にも。そして、そのような人物の一群が、この国の権力者を支えていることにも。
森友学園への国有地売却を巡る財務省の決裁文書改ざん問題で2018年3月に自殺した近畿財務局の男性職員の奥さまが、真実を求めて国と元国税庁長官の佐川宣寿氏を相手取り訴訟を起こした。
権力を持つ者に不都合な真実は常に隠されている。厚いベールに覆われて、容易に真実に近づくことができないのだ。そのベールを剥ぎ取って、権力を持つ者に不都合な真実を明るみに曝け出すことが提訴の狙いである。そうしてこそ、亡くなった人の無念を晴らすことができようというもの。
17年2月17日、国会中継を見ていた。森友疑惑に関して安倍晋三首相は「私や妻が関係していたら首相も国会議員もやめる」と語気を荒らげた。首相の奥さまが学園の予定する小学校の名誉校長に就任していたというのに。
佐川宣寿の背後に安倍晋三がいる。安倍が佐川に不都合な文書の改竄を指示したのか、あるいは佐川が安倍の意向を勝手に忖度したに過ぎないのか。いずれにせよ、安倍の私益を擁護するために、佐川が文書改竄を指示し末端職員が違法行為の実行を余儀なくされたのだ。
男性職員の手記によるとその9日後、上司から改ざんを指示される。指示の大本は当時、財務省理財局長だった佐川氏だという。新聞記事にある「『僕の契約相手は国民』が口癖だった」のくだりで活字がにじむ。
この手記は涙なくしては読めない、というのが真っ当な市民感情。安倍や麻生には、血も涙もない。手記で名前を上げられた佐川も、中村も、田村も、杉田も、そして美並も池田も、その後はみんな見事に出世している。公文書改竄で自ら命を断った者と、悪事をともにして出世した人びととのなんたるコントラスト。
森友問題、加計問題、桜問題、東京高検検事長定年延長問題……。こんな日本に誰がした。安倍氏をおいて他にない。
安倍晋三の罪は重い。国政を私物化し、国政をウソとゴマカシで固めたのだ。「こんな日本」の「こんな総理」に、国民の支持がいまだに4割を超える。その国民の責任も大きい。森友、加計、桜、検事長定年延長…、これだけあって何ゆえ「こんな総理」が生き延びているのだ。「こんな日本に誰がした」は、今切実な発問である。
(2020年3月25日)
日本という社会は、アタマからもハラワタからも腐り始めている。この腐敗を見過ごしていると、社会は腐りきって崩壊してしまうことになる。いま、この腐敗を指摘し告発することで、社会崩壊を防止しなければならない。あらためて腐敗告発の重要性を確認するとともに、現場で告発の声を上げる人々の勇気に敬意を表したい。
本日発売の「週刊文春」(3月12日号)に、「韓国人受験生を全員不合格 加計学園獣医学部に『不正入試』疑惑」という記事。そのデジタル版の前振りに、こうある。
「この入試結果はあまりにも酷い。夢を抱いて、受験勉強に励んできた学生さんに対する裏切り行為だと言わざるを得ません」
こう肩を震わせるのは加計学園の幹部職員・武田晶さん(仮名)だ。同学園は、2017年以来、岡山理科大学獣医学部の新設にあたり、加計孝太郎理事長(68)と安倍晋三首相(65)の長年のお友達関係による“忖度”が問題視されてきた。その獣医学部における不正入試疑惑を、職員が証拠文書とともに告発する。
舞台は、例の学校法人加計学園である。アベシンゾーのオトモダチとして、甘い汁を吸った加計孝太郎の事業体。その腐敗のトップの下に、廉潔の士がいたということなのだ。
昨年11月16日、愛媛県今治市の岡山理科大学獣医学部キャンパスで獣医学科の推薦入試が実施された。その韓国人受験生8名全員の面接試験が一律0点となり、不合格となったことが「週刊文春」の取材で分かったという。複数の職員が、証拠となる内部文書とともに事実を明かしている。
この「複数職員」諸氏の正義感にもとづく告発はまことに貴重である。告発者には、何の利益ももたらさず、リスクばかりが大きい行為。口を拭っていれば、表には出ないはずの不正を告発したのは、ひとえに正義感の賜物。社会には立派な人がまだいるのだ。
問題は、「A方式の推薦入試」で起こった。定員21に受験生は69名。そのうち8名が韓国籍だったという。この韓国人受験生8名全員が不合格となった。内部告発がなければ、8名すべての学力が低かったのだろうで済まされるところ。ところが、この8名が8名とも面接試験が0点とされていた。これは、内部告発で始めて明らかとなった事実。それだけで、まことに不自然。首を捻らざるをえない。
A方式の推薦入試は、「学科2科目」と「面接試験」「高校での成績を反映した評点平均値」の4項目で採点される。各項目50点、計200点満点の合計得点で合否が判定される。200点満点のうちの50点を占める「面接試験」での韓国人受験生全員の点数が0点。事実上、50点のハンディを課されての競争となっている。
「これまで面接試験で0点というのはほとんど見たことがありません。公平公正を重んじなくてはいけない入試で、国籍差別が行われている事実に怒りを覚えます」というのが、告発者の言である。
この面接結果について学内で獣医学部の教授陣は「日本語でのコミュニケーションが著しく困難だった」と説明している。だが、前出の武田さんは反論する。
「すべて日本語で記された科目試験で満点に近い優秀な成績を収めた学生もおり、韓国人受験者全員が、日本語に不自由だという説明は不可解極まりないです」
週刊文春が入手した内部文書によれば、「A方式推薦入試」の最低合格点は、200点満点の138点である。韓国籍受験生の得点は、以下のとおり。面接で、30点取っていれば合格というのが5名。40点なら7名となる。
128点(10点不足)
120点(18点不足)
120点(18点不足)
112点(26点不足)
112点(26点不足)
99点(39点不足)
98点(40点不足)
(なお、韓国籍受験生1名については評価点数がない。科目点数も合計点数も0点ではなく、書き込みがない。それでも、面接試験だけは「0点」と明記されている)
確かに、数学と英語の試験得点が、46点と47点(合計93点)とこれ以上はない好成績の韓国籍受験者も、不合格となっている。
文春は、2月21日に加計学園に書面で事実確認を申し入れたが、1週間後に「担当者から連絡します」と言ったきり回答はなかったという。ますますおかしい。回答不能の事態とみられてもやむを得なかろう。
前川喜平・元文科事務次官は、この件について、〈加計学園の韓国人受験生差別が事実なら、私学助成は打ち切るべきだ。〉〈加計学園の獣医学部の韓国人留学生枠は、国家戦略特区法が定める「国際拠点」という条件を満たす口実だった。同じく国家戦略特区でできた成田の国際医療福祉大学医学部の留学生枠を真似たものだ。加計学園は、形だけの口実すら反古にしたわけだ。〉と発信している。
女性や浪人生を差別していた医学部入試が世論の指弾を受け、私学助成打切りとなったことは記憶に新しい。国籍を理由とする入試差別は、さらに問題が大きい。加計孝太郎なる総理のオトモダチ。よくよく、学ばない人なのだ。
本日(3月5日)の共同記事は、文科省が動いたことを報じている。「文科相、岡山理科大に確認要請 不正入試報道で」という配信記事。
「萩生田光一文部科学相は5日の参院予算委員会で、学校法人加計学園岡山理科大獣医学部(愛媛県今治市)入試で韓国人受験生が不当に扱われたとする週刊文春報道を受け、大学側に事実関係の確認と速やかな回答を求めたと明らかにした。回答について国会に報告する考えも示した。
萩生田氏は『一般論として、入学者選抜は公正かつ妥当な方法で行うことが求められている。合理的理由なく出身地域、居住地域等の属性を理由に一律で取り扱いの差異を設けることは不適切だ』と述べた。」
おやおや、萩生田光一は落選時代に加計学園に拾われ、同学園が経営する千葉科学大学の客員教授となっていたことで知られる。いま、ケント・ギルバートや上念司が岡山理科大の客員教授になっている。実は、萩生田はそのお仲間なのだ。首相のオトモダチに厳正な対応などできるはずもなかろう。
それにしても、内部告発者に対する報復が心配となる。なんとしても、この人たちを守らねばならない。
(2020年3月5日)