東京五輪は、早期の開催中止以外に選択肢はない。
(2021年5月23日)
本日の赤旗の紙面、ボルテージが高い。1?3面の大部分が、「東京五輪を中止せよ」の記事で埋めつくされている。
1面の大見出しが、「感染拡大しても医療崩壊しても五輪やるのか/IOC副会長に抗議/小池書記局長『政府は中止決断を』」。2面と3面にまたがる見出しが、「これで強行するのか東京五輪」「菅政権 根拠なき楽観、共産党 中止決断迫る」「医療現場も自治体も矛盾噴出」「国民の命・健康より開催優先」
2面の「主張」(他紙の社説に相当)は都議選の檄だが、「五輪固執の勢力に審判を」と小見出しが付いている。都議選も、「東京五輪中止」を軸に訴えようということなのだ。
その小見出しの付いた記事に、次の一節がある。
「共産党都議団は1月26日、五輪中止を小池知事に申し入れ、その後も繰り返し要請しています。2?3月の都議会定例会では代表質問で、五輪に1万人以上の医療スタッフが必要になることを示し、中止を迫りました。」
共産党都議団は小池都政を批判する立場の最大野党と言ってよい。その党が、今年1月以来、「五輪中止」の方針を明確化して看板に掲げた。この時期のこの選択は賢明であった。この方針がメディアの論調や世論調査の結果をリードした形となった。他党はどうだ。「主張」は続ける。
「自民党は「大会開催と成功に向けて邁進していくことを強く要請します」(定例会閉会にあたっての談話)、都民ファーストは「大会の成功に向けた取り組みを加速させるべきです」(代表質問)と、無謀な開催に突き進む小池都政に付き従います。公明党も「安全で安心な大会にしていくための対策を都民、国民に示し、理解を求めていく必要がある」(同)と開催推進の立場です。
世論調査では「中止」の回答が多数を占めます。五輪中止をただちに決断し、あらゆる力をコロナ対策に集中せよ―この声を共産党の都議選勝利ではっきり示そうではありませんか。」
赤旗「主張」が、東京五輪批判というだけではなく明確な「中止」を掲げたのは、今年の1月29日が初めてであったろう。「今夏の東京五輪 開催やめコロナ収束に集中を」という表題だった。下記の書き出しである。
「1年延期され、今年7月23日に開幕予定の東京五輪・パラリンピックまで半年を切りました。新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、感染力がより強いとされる変異株も発生し、五輪開催に対する不安や危惧、反対の声が高まっています。国内では医療体制が逼迫(ひっぱく)し、今月7日に緊急事態宣言が再び出されるなど、五輪の延期を決めた時以上に事態は深刻です。今夏の五輪は中止を決断し、あらゆる力をコロナ収束のために集中することが必要です。」
その後、コロナ蔓延への不安の拡大とともに、世論は明確に東京五輪中止を求めるものとなった。そして、注目すべきは、世論がコロナの蔓延は政権の責任だと自覚していることである。
朝日新聞5月17日発表の世論調査結果は、五輪「中止」43%、「再延期」40%、併せて83%が今夏の東京五輪中止を求めている。そして、本日発表の毎日新聞の世論調査では、「菅政権のコロナ対策を評価しない」が69%である。その結果として、菅政権の支持率は31%に急落、不支持率は59%にもなっている。
この傾向は財界にも及んでいる。楽天グループの三木谷浩史が、14日米CNNテレビのインタビューで、五輪開催について「まるで自殺行為だ」と批判。ソフトバンクグループの孫正義も、自身のツイッターで、「今、国民の8割以上が延期か中止を希望しているオリンピック。誰が何の権利で強行するのだろうか」と疑問を呈した。
各紙の社説も、実質的に中止を求めるものとなっている。たとえば、4月23日の朝日社説。「五輪とコロナ これで開催できるのか」という表題。
「こんな状態で五輪・パラリンピックを開催できるのか。強行したら国内外にさらなる災禍をもたらすことになるのではないか。それが多くの人が抱く率直な思いだろう。
ところが、政府、都、組織委員会、そして国際オリンピック委員会(IOC)は「開催ありき」の姿勢を崩さず、市民の当然の懸念や疑問に真摯(しんし)に向き合おうとしない。」「朝日新聞の社説は繰り返し、その説明と、国民が判断するために必要な情報の開示、現実を踏まえたオープンな議論を求めてきた。しかし聞こえてくるのは「安全で安心できる大会を実現する」「宣言の影響はない」といった根拠不明の強気の発言ばかりだ。菅首相以下、リーダーに期待される使命を果たしているとは到底いえない。」
本日の信濃毎日の社説が、端的に「東京五輪・パラ大会 政府は中止を決断せよ」と表題して話題になっている。「崩壊する医療体制」「開く意義はどこに」「分断生じる恐れも」と小見出しが付されている。やや長文の論説だが、一部を引用する。よく練られた立派な社説だと思う。
「不安と緊張が覆う祭典を、ことほぐ気にはなれない。
7月23日の五輪開幕までに、感染状況が落ち着いたとしても、持てる資源は次の波への備えに充てなければならない。
東京五輪・パラリンピックの両大会は中止すべきだ。」「菅義偉政権は地域医療への影響を否定するけれど、医療従事者を集められるなら、不足する地域に派遣すべきではないのか。検査も満足に受けられない国民が『五輪選手は特権階級なのか』と、憤るのも無理はない。
「東京大会組織委員会などは既に海外からの観客の受け入れを断念した。選手との交流事業や事前合宿を諦めた自治体も多い。各国から集う人々が互いに理解を深め、平和推進に貢献する五輪の意義はしぼみつつある。」
「感染対策の確認を兼ねた各競技のテスト大会は、無観客だったり海外選手が出場しなかったりと、本番を想定したとは言い難い。五輪予選への選手団派遣を見送った国もある。『公平な大会にならない』と訴える選手がいる。」
「コンパクト五輪、復興五輪、完全な形での開催、人類が新型コロナに打ち勝った証し…。安倍晋三前首相と菅首相らが強調してきたフレーズは、いずれもかけ声倒れに終わっている。「国民みんなの五輪」をうたいながら、当初の倍以上に膨らんだ1兆6440億円の開催費用の詳細を伏せている。大会に伴うインフラ整備が、人口減少社会を迎える国の首都構想に、どう生きるのかもはっきりしない。」
「菅首相は大会を「世界の団結の象徴」とする、別の“理念”を持ち出した。何のための、誰のための大会かが見えない。反対の世論は収まらず、賛否は選手間でも割れている。開催に踏み切れば、分断を招きかねない。」
「国会で首相は「IOCは既に開催を決定している」と、人ごとのように述べていた。感染力の強いインド変異株がアジアで猛威をふるい始めている。コロナ対応を最優先し、出口戦略を描くこと。国民の命と暮らしを守る決断が、日本政府に求められる。」
十分な説得力がある。これに反して、東京オリパラ開催強行派には今や何の理念もなく説得力もない。ただただ、惰性で動いているだけなのだ。国民の命が危険に曝されている。