「安倍靖国参拝違憲訴訟」の原告団結成準備
2013年12月26日の安倍靖国参拝については、12月26日と27日のブログで意見を述べておいた。
https://article9.jp/wordpress/?p=1776(26日)
https://article9.jp/wordpress/?p=1783(27日)
この安倍参拝の違憲性を、集団訴訟で明確にしようという動きが各地であるようだ。その一つの動きとして、私の許にも下記の文書が回ってきている。「転送歓迎」となっているので、発信者の役に立ちたいと思う気持ちから、全文を転載する。
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安倍内閣の危険な体質を危惧されているすべての皆様へ
安倍靖国参拝違憲訴訟の原告になりませんか
(仮称)安倍靖国参拝違憲訴訟の会・東京
2013年12月26日、安倍晋三首相は靖国神社を参拝しました。
礼装し、公用車で靖国神社に向かい、「内閣総理大臣安倍晋三」と記帳し、正式に昇殿参拝しました。これは公式参拝であり、日本国憲法20条(政教分離)に明らかに違反をしております。私たちは具体的な形で安倍首相に批判の声を届けなければなりません。安倍靖国参拝違憲訴訟を起こしたいと思います。
この訴訟は違憲確認、将来にわたる公式参拝差し止めを求める裁判ですが、「政教分離」だけでなく、平和的生存権はもちろん、「秘密保護法」成立の強行、「集団的自衛権」「武器輸出」推進、その他社会全般に及ぼうとしている安倍内閣の危険な政治を総合的に問う訴訟にしたいという考えも出ております。
私たちは、この訴訟提起が、市民が法的な面から直接に安倍内閣に異議申し立てができる数少ない道の一つではないかと考えております。
この訴訟に多くの方が加わってくださること(原告、支援の会)が訴訟を強力にする道と思い、呼びかけを送ります。訴訟は4月21日(靖国神社春季例大祭の日)に提訴することを予定しています。
訴訟の内容(会の代表、原告代表、事務局、費用など)は、現在協議中ですが、この訴訟に加わりたい方、関心のある方、下のmailアドレス・FAXにて連絡ください。今までの資料や原告募集等の書類などお送りいたします。もちろん訴訟関係の事務局会議に参加くださることも歓迎します。
安倍首相は「平和を祈って参拝した」などと述べています。今回、安倍首相は、靖国神社の中にある「鎮霊社」にも参拝しました。鎮霊社は、1853年(ペリー来航)以降の全世界の戦争の死者のうち、靖国神社に合祀されていない人々を「慰霊するための施設」としてつくられたものです。そこは、ヒトラーもアウシュビッツの死者も、靖国神社に合祀されていない空襲や原爆の死者も、等しく「慰霊」する場所なのです。もし靖国神社に合祀されていない故人があなたの親族にいれば、ヒトラーと等しく勝手に「慰霊」されています。
この会は東京で立ち上げましたが、東京や首都圏だけの方でなく、全国どこからでも原告になれます。外国籍の方も原告になれます。
<呼びかけ人>(アイウエオ順)
蒲信一(僧侶)・辻子実(平和の灯を!ヤスクニの闇へ キャンドル行動)・関千枝子(ノンフィクションライター)・坂内宗男(日本キリスト教協議会靖国神社問題委員会委員長)・山本直好(ノー!ハプサ・合祀絶止訴訟事務局長)・吉田哲四郎(神奈川平和遺族会共同代表)
連絡先 「安倍靖国参拝違憲訴訟の会・東京」
FAX 03・3207・1273
mailアドレス;noyasukuni2013@gmail.com
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このような運動を立ち上げている方々には、敬意を惜しまない。が、私自身が参加するするかどうかは判断しかねている。もう少し考えてみたい。
首相の靖国神社参拝は、外圧への対応や国益擁護の観点から論じられるべき問題ではなく、なによりも憲法原則に関わる問題である。歴史認識の所産として主権者が確定した日本国憲法を、権力者が遵守するか否かが問われている。靖国を語ることは歴史認識を語ることであり、この国が侵略戦争や植民地支配の歴史を反省しているのか否かを問うことでもある。
安倍首相の靖国神社参拝が、日本国憲法が定める政教分離原則(憲法20条3項)に違反することは疑いの余地がない。にもかかわらず、裁判所に提訴して違憲判断の判決を獲得することは、けっして容易ではない。そのような訴訟の類型が予定されていないからだ。そのことで私は提訴を躊躇している。「自分自身が勝訴の確信を得ることができないままでの提訴では、十分な運動とすることはできないのではないか」。訴訟を立ち上げようとされている人々は違う。「そんなことは承知の上で、できる手段を追及するしかない」と覚悟を決めておられる。
憲法の政教分離原則が最も関心を寄せる対象として、かつての別格官弊社靖国神社があった。靖国神社こそが、「天皇制」と「軍国主義」の両者を結節する存在であった。現在の宗教法人靖国神社は、いまだに戦前の靖国史観をそのままに、歴史修正主義の拠点となっている。また、露骨に国家との象徴的な結びつきを求める姿勢を変えてはいない。東京裁判で刑死した東条英樹以下14人のA級戦犯を合祀する場でもある。首相も天皇も、けっしてこのような宗教施設と関わりを持ってはならない。公的資格における参拝は明らかに違憲違法。しかし、だからどんな裁判ができるかというと、簡単に答は出てこない。
これまで、政教分離違反を争う訴訟の類型としては、「住民訴訟」と「違憲国賠訴訟」が試みられている。前者の典型が、津地鎮祭訴訟、岩手靖国訴訟、愛媛玉串料訴訟である。いわゆる客観訴訟として、原告の権利・利益侵害が提訴の要件とならない。この中で、岩手靖国参拝違憲訴訟が、唯一公式参拝の違憲性を住民訴訟で主張した事案で、高裁判決で主文では請求棄却ではあったが、理由中で明確な「公式参拝違憲」の判断を得た。
岩手靖国が住民訴訟として成立したのは、特殊な事情があったからで、国家機関である首相や天皇の靖国神社参拝を地方自治法上の住民訴訟で争うことはできない。結局、靖国参拝違憲訴訟は違憲国賠訴訟とならざるを得ないが、これまで「中曽根参拝違憲訴訟」(3件)と「小泉参拝違憲訴訟」(7件)の実績がある。国家賠償訴訟を提起するには、首相の参拝行為の公務性、違法と過失だけでなく、原告となる者の権利または法律上保護される利益侵害の存在が必要とされるというのが、最高裁の立ち場である。違憲確認請求、公式参拝差し止め請求とするのはなおのこと難しい。
国家賠償請求においては、宗教的人格権の侵害という構成が工夫されてきた。「静謐な環境の下で、特別の関係のある故人の霊を追悼する法的利益が侵害された」と表現されるものである。最高裁は、小泉参拝に関して、「上告人らが侵害されたと主張する権利ないし利益が法律上の保護になじむものであるか否かについて考える」とした上で、「本件参拝によって上告人らに損害賠償の対象となり得るような法的利益の侵害があったとはいえない。したがって、上告人らの損害賠償請求は、その余の点について判断するでもなく理由がないものとして棄却すべきである」(第二小法廷・2006年6月23日判決)としている。これが克服の対象である。「最高裁判決は間違っている」と言っているだけでは済まされない。最高裁を正面から説得し、あるいは側面から迂回して、このハードルを乗り越えねばならない。
現在進行中の各地での提訴準備が活発化するなかで、このハードルを乗り越える工夫が積み重ねられるだろう。その工夫の成果をもって、反憲法的姿勢を隠そうともしない安倍政権への反撃を試みたいものだ。
(2014年1月26日)