澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

 自治体の『対統一教会断絶決議』に対するいやがらせ訴訟には、原告に対する応訴費用請求の反訴を

(2022年12月19日)
 統一教会と伝統右翼、その主張は水と油。むしろ互いに天敵の関係。天皇を含む日本人は韓国に跪いて奉仕すべしとする教義を持つカルトと、皇国史観から旧植民地韓国を差別して恥じないレイシスト集団。しかし、本来は不倶戴天のこの両者が、「反共」の一点では連携するのだ。だから、あの歴史修正主義者・安倍晋三が、統一教会の教主には歯の浮くようなお世辞のメッセッージを送ることになる。

 いま、統一教会に対する日本社会の風当たりが強い。当然に、それなりの理由あってのことである。しかし、これまで息をひそめていた教団が、少しずつ反撃を試みつつある。その主要なものが、メディアを通じての教団の主張の展開であり、スラップの提起である。また、「信者」による各自治体への要請・陳情などでも報じられている。

 さらに、あらたな手段が登場した。《旧統一教会と関係断つ富山市議会決議、取り消し求め信者が「全国初」提訴》(読売)と報じられている件。
 「富山市議会が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を断つと決議したことで、憲法が保障する信教の自由や請願権を侵害されたなどとして、同市に住む50歳代の男性信者が16日、決議の取り消しと市議会を設置する市に慰謝料など350万円を求める訴訟を富山地裁に起こした。代理人弁護士によると、旧統一教会を巡る同種の決議に対し、取り消しを請求する訴えは全国初とみられる」。この原告訴訟代理人の弁護士が、伝統右翼側陣営の人物。

 富山市議会の決議は9月28日におけるもの。全会一致での可決だった。「旧統一教会や関係団体と一切の関係を断つ」とす内容。その全文は以下のとおり。

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富山市議会が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)及び関係団体と一切の関係を断つ決議

 安倍晋三元総理の銃撃事件をきっかけに政治と世界平和統一家庭連合(以下「旧統一教会」という。)との関わりの深さが浮き彫りとなっている。
 問題は、政治家が宗教団体と関わることではない。消費者の不安をあおり、高額な商品を購入させる「霊感商法」などで大きな社会問題となった団体とのつながりを持ってきたことにある。
 藤井市長並びに当局は、旧統一教会及び関係団体との関係について調査し、記者会見並びに議会でも公表した。富山市議会も藤井市長並びに当局と同じく、議会として過去の関係について次の通り調査し公表する。
1 各会派と旧統一教会及び関係団体との関係の有無について調査する。
2 会派として関係があった場合は、その内容について調査する。
3 会派の政務調査活動や政策立案の判断に影響が及んでいないか調査する。
4 以上のことを会派が取りまとめ議会として公表する。
 藤井市長並びに当局は、旧統一教会は極めて問題のある団体として、旧統一教会及び関係団体とは一切関わりを持たないことを決意し、表明した。
 富山市議会も、藤井市長並びに当局と同じく旧統一教会及び関係団体と今後一切の関係を断ち切ることを宣言する。

令和4年9月28日

富山市議会

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 この決議を違憲違法というのだから恐るべき偏見。恐るべき没論理。意見は勝手だが、被告となる自治体の住民に迷惑をかけてはならない。

 この決議についての一般紙の報道は、下記のように簡略である。

 「訴状で男性は、決議について『市における信者の政治参加を全面的に排除するものだ』と主張。取り消しを求める請願をしようと複数の市議にかけ合ったが、決議の尊重を理由にいずれも断られたといい、信仰を理由に不当な差別待遇を受けたとしている。
 また、決議自体についても、憲法が定める信教の自由や法の下の平等に反すると訴えている。」

 このようにしか報道されないのは、箸にも棒にもかからない、敗訴確実の提訴だからだ。行間に、記者の嘲笑が聞こえるような記事の書き方。

 ところが、統一教会の機関紙と目される「世界日報」だけは調子が異なる。内容が妙に詳細なのだ。タイトルは、「富山市を憲法違反で提訴 旧統一教会信者 断絶決議で請願権侵害」(2022年12月17日)

 「富山県富山市の男性が16日、自身が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者であることから市議会への請願を受け付けられなくなったことは憲法違反であるとして、富山市を相手取った訴訟を起こした。

 背景にあるのは、安倍晋三元首相銃撃事件で逮捕された容疑者が旧統一教会への恨みを供述したとの報道から激しい旧統一教会批判が巻き起こり、政党が競うように同教団との関係断絶をアピールしたことだ。

 特に自民党総裁である岸田文雄首相が8月31日、自民党と教団関連団体との長年の関係を陳謝し、同教団と一切の関係を断絶すると宣言。その後、自民党は地方組織にも通達した。

 来年に統一地方選挙を控えて各地の地方議会で教団との接点が政治材料となり、関係断絶を求めるなどの決議案が主に共産党から提出されている。が、富山市議会では、党中央の方針を受け自民党市議団から教団との関係を断絶する決議案を提出し、9月28日に可決した。

 富山市を相手取った原告の代理弁護人がツイッターで公表した訴状によると、原告の男性Yさんは現市長や自民党市議団所属の議員を応援し、選挙協力してきたという。しかし同決議を理由に請願の紹介議員となることを断られたという。

 Yさんは、『何人も…請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない』とする憲法16条、同14条の法の下の平等、同19条の思想良心の自由、同20条の信教の自由などに違反するとして、同決議の取り消しと請願権を侵害された損害などから慰謝料など350万円の支払いを富山市に求めた。

 直近の選挙まで篤い支持を選挙で受けながら、教団の信仰を理由に信者が投票した議員が請願を拒否する問題は国政から地方にまで広がっている。このような「関係断絶」決議案を否決する地方議会もあれば、可決する地方議会もある状況だが、要は基本的人権にかかわる問題だ。」

 こう詳しく報道されれば、一見して無理筋の訴訟であって、勝ち目のなさが明々白々である。被告の自治体(議会)が、こんな提訴で萎縮することはあるまいが、応訴の費用は自治体住民の負担となる。富山市は、この提訴にかかった全費用を、原告の「Yさん」に請求すべきであろう。また、場合によっては、共同不法行為として原告代理人の弁護士にも請求してしかるべきである。

 そのようにして、傍迷惑な濫訴を防止する必要がある。この手の濫訴の放置は民主主義の脆弱化につながりかねないのだから。

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