澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

教育委員会制度「改革」とは、再びの国家による教育支配のたくらみ

安倍政権の「国家主義的日本改造」プランの重要な柱のひとつが「教育再生」。再生の用語には、戦後レジーム以前の戦前への回帰願望が透けて見えている。今、その具体策として教育委員会制度「改革」の法案を今月(3月)中に国会上程の予定で、自・公の与党内摺り合わせが進行中と報じられている。またまた例のごとく、公明党のマイナーチェックによって自民党案の大筋が法案となりそうな雲行き。今国会の大きな争点の一つとなりそうだ。

この法案は、戦後改革の重要テーマであった「教育改革」の成果を否定しようとするもの。「戦後教育改革」とは、国家による教育を否定し、教育への国家・公権力の介入を防止することを主眼とするもの。少しずつ後退を余儀なくされて来た制度を一段と改悪し、教育委員会制度をほとんど形骸化することがはかられている。自民党案は、国家や自治体首長の公権力が教育へ直接介入する道を大きく開くものである。

戦前においては、教育とは国家が望む国民を作りあげることだった。国家の大目標が「富国・強兵」にあった以上、教育の目的は、「富国」を支える従順で良質の労働力を養成すること、心身ともに頑健で上官の命令に服従する「強兵」を供給することにあった。天皇制国家は、全国の教場で、国家の存立を支える国体イデオロギーを臣民の子女にたたき込んだ。全国民を対象とするマインドコントロールこそが戦前教育であったと言って過言でない。

敗戦によって事態は一変した。偏頗な非合理的イデオロギーに基づく天皇制は瓦解し、個人の尊厳と民主主義が指導原理となった。大日本帝国憲法とともにあった教育勅語は失効し、日本国憲法に「教育を受ける権利」が位置を占め、教育基本法が制定された。47年教育基本法には、清新にして格調高い以下の前文が付されていた。時代の雰囲気と国民の関係者の熱い思いをよく伝える文章。

「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。
われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。」

戦前教育についての最大の反省点は、「国家が直接教育を行った」ことにあった。国家による教育を防止し、国家の教育への支配介入を阻むために、いくつもの障壁が設けられた。まずは、教育と教育行政とを分離し、教育に関して行政のなすべきことを教育条件の整備に限定し、教育の内容に介入してはならないとした。それでも、教育行政が教育内容に介入する恐れは払拭できない。そこで、教育行政は、国家ではなく地方自治体の任務とし、さらに教育行政を一般行政から区別して、自治体の首長から独立した教育委員会を地方教育行政の主体とした。自治体の首長は住民多数の意向を体現する立ち場にあるが、こと、教育行政に限っては時々の多数派の意向から中立でなくてはならないという原則を重視した制度設計だった。

こうして、教育基本法の理念を実現するために、1948年4月教育委員会法が制定されて、全国の自治体に、公選制による教育委員会が設置された。全国の自治体にくまなく地方議会が設置されているのと同様、全国にくまなく選挙による教育委員会が設置された。国家の教育への介入は、地方分権と、教育行政の独立と、さらに地方教育行政といえども教育内容には介入できないとする原則と、3重の障壁を設けて警戒されたと言ってよい。その制度の中心に、教育委員会が位置していた。

しかし、住民の公選による教育委員会制度は戦後の保守政権確立の過程で挫折する。1956年には、教育委員を公選とせず、議会の同意を得て首長が任命することになった。法律の名前も、教育委員会法から地教行法(地方教育行政の運営に関する法律)に変わった。

教育委員会制度は、戦後レジームの重要な構成部分である。1956年制度改変後もなお、教育委員会は国家による教育統制の防波堤であり、地方自治体の首長の教育への介入にも一定の役割を果たしてきた。全国学力テスト参加に反対を貫いた犬山市教育委員会の例などにみられるとおり、不十分ながらも、国家の教育介入へのコントロールとブロックの装置となりうる。なり得ることが、予防の機能も果たしてきたといえよう。安倍政権には、このコントロールとブロックが目障りでしょうがない。これをなくしてしまいたいのが、彼らの本音。

2013年3月現在で、文科省がまとめた教育委員会制度についての各党の意見分布は以下のとおりである。
※自由民主党
・首長が議会の同意を得て任命する「常勤」の「教育長」を教育委員会の責任者とするなど、教育委員会制度を抜本的に改革。
・いじめの隠ぺいなど、法令違反や児童生徒の「教育を受ける権利」の侵害に対しては、公教育の最終責任者たる国が責任を果たせるよう改革。
※公明党
・いじめや不登校問題など学校現場の様々な問題に対応するため、委員選定や委員会の権限をはじめとする教育委員会の在り方を抜本的に見直し、その機能強化を図る。
・学校ごとの裁量を広げ、教員の創意工夫を奨励する制度を推進。
※民主党
・コミュニティスクール(土曜授業も含む)を更に増やす。
・地方教育行政法を見直し、現在の教育委員会制度を見直す。
※日本維新の会
・教育制度改革(教育委員会制度の廃止を含む)
※みんなの党
・地方自治体の判断により教育委員会を設置するか否かを決定できるようにする等、地域の実情に応じた教育行政が展開できる環境整備
・教育は市町村、現場の学校に任せることを基本とし、国の役割は最低限の教育水準の維持にとどめ、地域の実情に合わせたユニークな教育の実施
・学校を地域社会に開放し、地域社会の核に。学校経営も保護者・住民・教育専門家等による運営委員会で実施。
※社会民主党
・教育委員会の在り方を抜本的に見直し、機能を強化。
・学校ごとの裁量を広げ、教職員の自発的取組が生かされるよう制度を整備。
・地方教育委員会に予算権を付与し、地域の実態を反映した教育計画の立案・推進を可能にする等、教育の民主化の推進。
※共産党
・教育への政治支配をやめさせる。
・民主的な学校運営、住民参加の学校づくり(教育委員の公選、学校への住民参加)

以上をみれば、「教育委員会制度の理念を再確認して活性化の方策をとる」方向か、「教育委員会の形骸化を制度的に追認して教育行政の権限を首長に移行する」方向かと、争点を整理することができよう。

今回の自民党案については、ペーパーとしてまとまったものに接することができない。各紙の取材内容として報道されているものを読むしかないのだが、各紙の報道を要約すれば、以下のとおり。
?首長に、教育行政全体についての中心的権限を委譲。
?首長主宰の会議を新設し、首長の権限を強める。
?教育長を責任者と位置づけ、首長が直接任免する。
?文科大臣の教育委員会に対する「是正要求」などの権限を強化。

結局、自民党案においては、教育委員会の形は残されるが、本来期待された公権力・政治権力からの教育介入防波堤としての役割は実質において失われる。

安倍政権も、そして石原や橋下などの地方権力も、そのやり口は「選挙に勝ったからには、我こそ民意」として、民意が教育に介入して何が悪いかと開き直っているのだ。時々の多数派によって形成された時の権力が、権力の望むところの教育を行ってはならない。

教育委員会制度「改革」は、戦後教育改革の原点を忘れて、教育の政治的中立性の原則を蹂躙するものである。

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     NHKに対する「安倍首相お友だち人事」への抗議を
☆抗議先は以下のとおり
 ※郵便の場合
  〒150-8001(住所記入不要)NHK放送センター ハートプラザ行
 ※電話の場合 0570?066?066(NHKふれあいセンター)
 ※ファクスの場合 03?5453?4000
 ※メールの場合 http://www.nhk.or.jp/css/goiken/mail.htmlに送信書式
☆抗議内容の大綱は
 *籾井勝人会長は即刻辞任せよ。
 *経営委員会は、籾井勝人会長を罷免せよ。
 *百田尚樹・長谷川三千子両経営委員は即時辞任せよ。
 *経営委員会は、百田尚樹・長谷川三千子両経営委員に辞任を勧告せよ。
よろしくお願いします。
(2014年3月2日)

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Published in 日曜日, 3月 2nd, 2014, at 16:49, and filed under 未分類.

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