「映画・図書館戦争」と「自衛隊・情報保全隊」
「図書館戦争」という映画が大ヒット上映中だという。ベストセラーとなった有川浩の同名小説を映画化したもの。
まず、以下の宣言をご覧いただきたい。
図書館は資料収集の自由を有する。
図書館は資料提供の自由を有する。
図書館は利用者の秘密を守る。
図書館はすべての検閲に反対する。
図書館の自由が侵される時、われわれは団結して、あくまで自由を守る。
小説の中の空想の図書館が掲げる宣言だと一瞬思ってしまいそうだが、さにあらず。これは1954年日本図書館協会が綱領として採択した「図書館の自由に関する宣言」で、現在も全国の図書館に掲げられている。
この映画のロケの舞台となった水戸市立西部図書館の立花郷子館長は「『宣言』は司書の資格を取るための勉強では必ず学びますし、司書になってからもいろいろな研修などで触れますから、図書館に勤務する者にとってはおなじみです」。「『図書館戦争』では、図書館は出版の自由、表現の自由、思想の自由を守る拠点のように描かれています。現実の図書館とは違いますが‥利用者の読書の自由を守るという立場は一緒です」と語っている(5月2日付毎日)。
知らなかった。それで興味を持って調べてみると、この宣言が出る前の1948年に国立国会図書館法が制定されている。この法律の前文が素晴らしい。こう高らかに謳っている。
「国立国会図書館は、真理がわれらを自由にするという確信にたって、憲法の誓約する日本の民主化と世界平和とに寄与することを使命として、ここに設立される」
この法律はアメリカ合衆国の図書館使節団の意見をいれて成立したものだが、この前文を挿入したのは当時参議院議員であった歴史学者の羽仁五郎だそうだ。衆参両院の本会議で、羽仁五郎参議院図書館運営委員長は「従来の政治が真理に基づかなかった結果悲惨な状況に至った。日本国憲法の下で国会が国民の安全と幸福のために任務を果たしていくためには調査機関を完備しなければならない」と述べている。
戦前は思想弾圧を受け、後に文部大臣ともなった森戸辰男がやはり衆議院議員としてこの法律の制定に関与している。同議員は次のように趣旨を説明している。
「民主主義は何よりもまず人間の理性、道理と真実に基礎をおく政治でなければならない。国会が真実を尊重し、真理に聴従するところとなり、衆愚の政治の府ではなく衆智の政治の府となり、かくて新議会の品位を高め、新政治に科学性を加え、もって平和と文化と人道を目指す民主主義を樹立しなければならない。国会図書館はこうした民主主義を樹立し、文化国家を建設する為の極めて大切な基礎条件の一つである。何よりも真実をつかみ, 真理をとらえようとする態度が大切であり。真の自由はそうした中から得られるものである」
国立国会図書館のホームページで、現在の第15代大滝則忠館長も「この前文は国立国会図書館の原点を示しています」と述べている。「真理がわれらを自由にする」という言葉は、設立理念として、東京本館のホールの梁に刻まれている。これらの立法経過や「図書館宣言」からは、戦後の新生民主主義日本を作り上げていこうとした先人たちの熱気が伝わってくる。
「図書館戦争」という映画は、「メディア良化法」で検閲が正当化された近未来に、図書館が独自に組織した自衛組織「図書隊」が読書の自由を守るために戦うというストーリーらしい。荒唐無稽だが、「読書の自由を守る」「読書の秘密の自由をまもる」というコンセプトは素晴らしい。
ところで、佐藤信介監督は「自衛隊のおかげで、基地での撮影が可能になり‥図書館のディテールを表現することができました」と言っている。えっ? 自衛隊の協力?
「自衛隊はなぜ協力してくれたのでしょう」という問いに「国民の思想の自由を守る組織として、協力したいと言っていただきました」との答え(5月2日付毎日)。
冗談ではない。欺されてはならない。現実の自衛隊は、国民の思想・良心の自由を守るどころではない。自衛隊は思想良心の自由の弾圧者である。情報保全隊をフル稼働させて国民の政治運動、市民運動の監視に怠りない。国防・治安の目的のためには、国民の図書館利用の秘密なんぞになんの関心もない。それにもかかわらず、図々しくもあっけらかんと協力を申し出る自衛隊の神経に驚く。この自衛隊の自信を支えているものをこれ以上大きくしてはならない。
2012年3月26日仙台地裁判決は、陸上自衛隊東北方面情報保全隊が「市民99名の表現活動を対象とした監視活動によって違法に情報を収集・保有した」と認定。これを、自己の個人情報をコントロールする権利の侵害として国家賠償の請求を認めた。もちろん、発覚した違法情報収集活動は氷山の一角に過ぎない。
今は亡き羽仁五郎も森戸辰男も、後世軍事組織が復活し、憲兵隊よろしく国民を対象に思想調査活動をすることなど想像もできなかったろう。自衛隊は、「戦場は二つある」と言っているそうだ。第1の戦場が戦闘力がぶつかり合う本物の戦場。そして、第2の戦場は、世論やマスコミとの情報戦だという。第2の戦場では、市民が敵になる。図書館利用の自由を守ろうとする限り、図書館も自衛隊の敵である。「図書館の自由が侵される時、われわれは団結して、あくまで自由を守る」との宣言は、そのとき真価が問われることになる。