澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「竹富町教科書採択問題」から見えてきたもの

「竹富町教科書採択問題」が、一応の決着をみた。
小さな竹富町が、文科省・自民党文教族と対等以上に渡り合って一歩も引かず、結局は育鵬社教科書の押しつけ拒否を貫徹した。沖縄県も竹富町も、下村博文文科相の嫌がらせと恫喝に屈することなく毅然たる姿勢を堅持し、文科相は振り上げた拳の下ろし場所を失ったまま終局を宣告せざるをえない事態となった。公権力による子どもたちへの、国家主義教科書押しつけ策動の失敗。痛快の極みである。

5月21日、沖縄県教委は教科書無償化法改正に伴う採択地区の再編手続において、八重山採択地区(石垣市・与那国町・竹富町)から竹富町を分離独立させ、「竹富採択地区」を新設することを決めた。竹富町の要望を容れた「満額回答」である。これで、竹富町教委は、後顧の憂いなく単独で教科書を採択できるようになった。正確に言えば、これまでも採択の権利はあったのだが、無償配布は拒否という文科省の嫌がらせを甘受せざるをえなかった。来年度からは、竹富町立中学校生徒に東京書籍版公民教科書の無償配布が実現する。

この県教委の決定に対して、文科相は「無償措置法の趣旨を十分踏まえたものとは言い難く、遺憾だ」と不満を述べていた。その不満を形に表す最後に残された恫喝手段が竹富町に対する違法確認訴訟の提起であったが、5月23日文科相は記者会見でその断念を公表した。文科省は、これまで育鵬社教科書の採択を拒否した竹富町には教科書無償配布を行わず、さらには育鵬社版の教科書を使えと異例の「是正要求」までして圧力をかけて、精いっぱいの恫喝と嫌がらせをしては見た。しかし、腹の据わった相手にブラフが通じず、拳を下ろさざるをえなくなったという図なのだ。教科書採択の権利が教育委員会にあるというのが、一貫した文科省の見解であった。竹富町側に違法があるという主張が明らかに無理筋なのだ。

むしろ、採択地区内の各教育委員会の意見がまとまらないからとして、竹富だけに教科書の無償配布を拒否した文科省の違法をこそ問題としなければならない。協議がまとまらなかったことにおいて同じなのに、育鵬社版を採択した石垣と与那国には無償配布を実行しているではないか。東京書籍版を採択した竹富だけに無償配布を拒絶したことは筋が通らない。文科省・文科相の歴史修正主義教科書採択加担の姿勢が余りに露骨ではないか。

そもそも、八重山採択地区の事前調査において、東京書籍版が最高の評価を得ていた。育鵬社版は最低評価。担当教科教員でこれを推薦する見解は皆無だった。真摯に教育の在り方を考える立ち場からは、竹富町教委の姿勢こそが常識的で真っ当なもの、国や歴史修正主義勢力に擦り寄った石垣・与那国の方がおかしいのだ。

5月22日の琉球新報社説「竹富分離決定 妥当な解決を国は阻むな」の言辞の厳しさに驚く。この件について、沖縄の良識がどれほど怒っているかが伝わってくる。下記の抜粋に目を通されたい。

「下村博文文科相は竹富の単独採択を阻みたい考えを露骨に示してきた。自民党内でも分離を疑問視する声がある。だが…自治体が工夫して導いた解決を国が不当に介入して阻害するのは断じて許されない」「問題は、八重山採択地区協議会会長が規定を無視して独断で採択手順を変更したことに始まった。極めて保守色の強い育鵬社版教科書を恣意的に選ぼうとしたのは明らかだ」
「下村氏らは(竹富町の教科書採択を)教科書無償措置法に違反すると強弁するが、無償の措置を受けていないのに、無償措置法違反とは矛盾も甚だしい。地方教育行政法は市町村教委の教科書選定を定める。この法に照らせば竹富は明らかに合法だ」
「政府は竹富の措置について『違法とは言えない』とする答弁を2011年に閣議決定し、先日も内閣法制局が答弁は有効と述べた。だが下村氏ら自民党文教族は違法だと非難し続ける。権柄ずくの、理性に欠ける態度と言うほかない」
「教科書無償措置法改正に伴う政令が近く出る。保守的な教科書が採択されるよう、採択地区の構成を国が恣意的に定める政令を出すのではないか。そんな危惧を聞く。政治家の利益を図るための、教育への政治介入は許されない」

沖縄タイムス社説「『竹富分離決定』地域の主体性生かそう」(5月23日)には、以下の解説がある。

「八重山教科書問題は、そもそもなぜ起きたのか。
2012年度の中学校公民教科書の選定をめぐり石垣、竹富、与那国の教育長らで構成する『八重山採択地区協議会』の玉津博克会長(石垣市教育長)が、これまでの選定ルールを突然変えたのが発端だ。選定ルールの変更は、保守色の強い育鵬社版の教科書の使用を決めるのが目的だった。これに反発した竹富町が結果的に、文科省から是正要求を出された。
 国の不当介入が、八重山教科書問題をいびつに発展させてきたのは論をまたない。だが、足元の『ゆがみ』にも目を向ける必要があるのではないか。教科書採択をめぐっては、与那国町の教育長も石垣市に同調している。なぜこうしたことが八重山で起きたのか。
 玉津教育長は20日、県教委が竹富町を単独採択地区化する方針を示していることを受けて上京。文科省の上野通子政務官との面会後、自民党文科部会にも出席し、県教委の姿勢を批判した。玉津教育長はこの際、記者団に『八重山は教育も行政も経済も一体だ。教科書だけ別というのは理解できない』と述べている。
 竹富町の分離を余儀なくしたのは玉津氏ではないか。その張本人が、『八重山の一体化』を強調するのは皮肉に響く。とはいえ、玉津氏の指摘に一理あるのも事実だ。
 八重山の3市町は、…政治的な立場の違いを超え、観光などの分野で協調してきた。今回の竹富町の分離で、八重山社会全体に亀裂が波及する事態は避けなければならない」

問題は、竹富町に関しては決着した。しかし、石垣・与那国では、現場教員に悪評高い育鵬社の教科書が引き続き使われている。教科書採択問題に権力がかくも露骨に介入し、国家主義的・歴史修正主義的な教科書の押し付けにかくも執心していることが見えてきている。何が起きているのかをしっかりと社会に訴えて、自民党文教族や文科省に対抗しうる世論形成に力を尽くさなければならないと思う。

そして、竹富町の奮闘の成果は、おおきな励ましである。いまなら、まだ間に合う。偏頗な教科書の使用を拒絶する闘いは十分に可能なのだ。
(2014年5月25日)

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Published in 日曜日, 5月 25th, 2014, at 22:04, and filed under 教科書.

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