澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「再発防止研修」という名の思想弾圧に抗議する

本日の服務事故再発防止研修受講者は、日の丸・君が代強制の職務命令に服さなかったとして懲戒処分を受け、さらに、懲戒処分を受けたことを理由に、研修受講を命じられている。その受講者を代理して、教育庁の研修課長と研修担当の職員の皆さんに抗議と要請を申しあげる。

私は先月もここに来て、本日と同じようにあなた方に抗議と要請の申し入れをした。しかし、こんな近くでマイクを使いながら、私の声はあなた方の耳に届かなかったようだ。それなら、私は、あなた方の耳に届くようなお話しをしたい。課長も、そして本日の研修に携わる職員の皆さんにもよく聞いていただきたい。あなた方の個人としての責任をお話しする。

第2次大戦が終わったあと、ドイツの戦犯を裁く国際法廷がニュールンベルグで開かれた。そこで、平和に対する罪、人道に対する罪を問われた被告人は、「自分は国家に忠誠を誓っただけだ」「ヒトラーの命令に逆らえなかった」などと抗弁したが、受け入れられなかった。犯罪行為が上司の命令だから免責されることにはならない。

このことは、後にニュールンベルグ第4原則として次のように定式化され、国際的に承認されるところとなった。
「自分の政府や上官の命令に従って行動した事実は、道徳的選択が実は可能であったならば、その者の国際法の下での責任を免除しない」

本日の研修命令受講者は、「日の丸に正対して起立し、君が代を斉唱せよ」という職務命令の違反を問われている。しかし、職務命令は必ずしも正しいとは限らない。間違った職務命令に従うことが犯罪にもなり得るのだ。研修命令に携わるあなた方にも警告をしておきたい。上司の命令に従ってするのだからという理由では、あなた方の個人としての責任を消し去ることはできない。

確認しておきたい。都教委は、最高裁判決によって、これまで鋭利な武器としてきた懲戒処分の機械的累積加重システムを放棄せざるをえなくなった。その代わりとして考え出したのが、被処分者に対する服務事故再発防止研修の厳格化である。回数を増やし、時間を長くし、密室で数人がかりでの糾問までしている。今や、あなた方が、思想弾圧の最前線に立っている。

このような、イジメに等しい研修は違法だ。いささかでも受講者の内心に踏み込み、くり返し執拗に反省を迫るようなことがあれば、思想良心を侵害することにもなる。東京都や教育委員会だけでなく、個人としてのあなた方もその責任の一端を負わねばならない。上司の命令だからということで、あなた方の個人としての責任が免除されることにはならない。

国家賠償法の法文上は、国等が賠償責任を負うばあい、公務員個人は被害者に直接の責任は負わず、国等からの求償の責任しか負わないように見える。しかし、加害行為の悪質性の程度が高い場合には、公務と無関係な違法行為と見るべきである。その場合は、国家賠償法ではなく、民法上の不法行為が成立して公務員個人の責任を追求することが可能となる。

あなた方が、無能な知事や、憲法に無知な教育委員の命を受けて、やむを得ず研修作業に携わっているという消極姿勢の限りにおいては、ニュールンベルグ原則を振りかざすようなことはしない。しかし、キリシタン弾圧の役人や特高まがいに、積極的な研修受講者への思想弾圧と思しき行為が報告された場合には、あなた方の個人としての責任を追及することを考えざるをえない。

そのような事態を迎えることがないように配慮を願いたい。これから、研修センターに入館する教員たちは、いずれも自らの思想や、教員としての良心を貫いた誇りの高い人たちだ。このような尊敬すべき教員たちを、その品性にふさわしく鄭重に遇していただきたい。本来この人たちに研修の必要はなく、真に再発防止研修の必要があるのは、研修を命じた側の知事と教育委員の諸君なのだから。

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  『「ユニクロ」柳井家大儲け』
「しんぶん赤旗」(5月8日付)のコラム「アベノミクス もうけるのは誰」によると、ユニクロ社の柳井正氏家族4人のこの5カ月間の保有株式の株価増加は次のとおりです。
柳井正氏本人              4047億円
2人の息子と妻             2093億円
家族所有の3つの資産管理会社  2408億円
驚くなかれ、合計8548億円の資産増加ということです。

同社の有価証券報告書によれば、全労働者の「給与手当」は839億円とされているので、柳井氏家族4人の資産増加額は、全従業員給与総額の10年分にも相当することになります。

同社の従業員総数は3万8339人(正社員は約半数)で、平均給与は220万円足らず。この10年間に本社の正社員は給与を上げる代わりに人数を減らして「少数精鋭化」し、元々低い準社員やアルバイトの賃金をさらに引き下げることで利益を上げてきました。

当ブログ「バングラデシュのユニクロ」でもふれましたが、柳井氏は「世界統一賃金構想」を打ち出し、日本人従業員について、「低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」と言ってはばかりません。「労働者は奴隷のごとく、我が一族は王族のごとし」というわけです。これが、公正な社会のあり方でしょうか。狂気の沙汰というべきではないのでしょうか。

神野直彦著「人間回復の経済学」は次のように書いています。
「企業組織から労働の主体である人間が急速に排除されていく。しかも、企業組織からより多くの人間を追放した経営者こそ、優秀な経営者だと格付けされていく。・・・民間企業も政府も人間の首を切るゲームに熱中するようになる。」「失業者は巷にあふれ人間の社会から人間を追放するという狂気が、正気だと思われるようになってしまう。ケインズ的福祉国家は行きづまり、人間はいつ自分が社会から追放されてしまうのかという、雇用不安におびえて生きていくことになる。」(81ページ)

人を人とも思わず、自分の金儲けを恬として恥じない柳井氏のような経営者を絶賛し、社会から追放されないために、どんな酷い労働条件にも甘んじる人を大量につくり出すのが「アベノミクス」の本質なのです。
(5月8日)

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