澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

96条改憲批判ーその5          衆院憲法審査会・笠井亮意見に共感

5月9日の衆院憲法調査会で、焦点の96条改憲問題が議題とされ、各党の意見が表明された。日本共産党の笠井亮さんの意見の全文が、本日の「しんぶん赤旗」第2面に掲載されている。見出しは、「96条改憲 根本精神を否定」。よく練られた完成度の高い内容で、審査会でのこれからの論議は、この笠井意見を軸にして行われざるを得ない。96条改憲問題に関心を寄せる全ての人に熟読していただきたいと思う。

その全文は、既に赤旗ウェブ版にアップされている。(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-05-10/2013051002_04_0.html)
それをお読みいただくこととして、要約をご紹介したい。但し、赤旗の掲載記事は、編集の都合だろうが、必ずしも小見出しの付け方が適切とは言いがたい。私なりに整理しての笠井意見紹介である。

『笠井亮委員意見要約』
※96条は立憲主義の表れ
 近代の立憲主義は、主権者である国民が、その人権を保障するために、憲法によって国家権力を縛るという考え方に立っています。ですから、憲法改定の要件も、ときの権力者に都合のいいように改変することが難しくされています。日本国憲法でも、圧倒的な賛成が得られて初めて、国民に承認を問えることにしているのです。
 96条の改定は、単なる「手続き論」や「形式論」ではなく、憲法の根本精神を否定するもので、憲法が憲法でなくなるという「禁じ手」なのです。ましてや、ときの政権がこれを求めるなど、本末転倒といわなければなりません。

※96条改憲の真の狙いは9条改憲
 なぜいま、96条改定か。その狙いが9条改憲にあることは明白です。
 9条改憲に向けてハードルを低くする、あるいは、国民に改憲の体験を積ませることで改憲に「慣れ」させる。このような姑息なやり方は、国民をあざむくものと言わなければなりません。

※96条改憲正当化根拠への反論
*日本国憲法は、「世界でも特別に変えづらい」「諸外国と比較して厳しすぎる」という主張がありますが、事実に反します。多くの国で共通しているのは、一般の法律の制定・改正よりも厳しい規定が設けられているということです。国民主権と立憲主義の要請によるもので、日本だけが特別に憲法改定が難しい国などということは、まったくありません。
*「国会が過半数で発議したとしても、国民投票がある」という主張もありますが、国民投票で判定できるのは、国会が発議した改憲案に賛成か反対かだけであって、国民が憲法改定案の内容を変えられるわけではありません。だからこそ、国会の発議は、熟議の結果、国会の圧倒的多数が合意しておこなう必要があるのです。
*「諸外国では改憲が頻繁に行われており、日本国憲法は時代に合わなくなっている」などという主張がありますが、日本国憲法は、9条をはじめ、基本的人権でも世界に誇れる先駆的な内容をもっています。先駆的で豊かな内容をもっている日本国憲法だから国民は改憲してこなかったのであって、ハードルが高いからではありません。

※改憲ではなく、憲法の完全実施を
 今日、憲法問題で問われていることは、改憲ではなく、9条をはじめとする憲法の平和的、民主的条項の完全実施をはかるとともに、憲法の全条項を守り抜き、どう生かすかです。

※96条改憲反対の国民的共同を
 憲法96条改定を9条改定の突破口として押し出す動きは、いま、9条改定の是非をこえて多くの人々からの批判を広げています。日本共産党は96条改定反対の一点で、国民的共同を広げ、改定を許さないため力をあわせるものです。

笠井意見については、ぜひ次のように語りたい。

★国会の憲法審査会での憲法改正の是非をめぐる議論が話題になっているね。
☆衆参両院に憲法審査会が設置されている。参院の方は選挙を目前にして、ほとんど審議は進んでいない。これに比して、衆院の方は、昨年末の総選挙で大勝した自民党の主導で一気呵成の勢いだね。

★改憲派、護憲派入り乱れてたいへんだろうね。
☆実は、「入り乱れる」という状況にはほど遠い。国会の議席は国民世論の分布を反映していない。50人の審査会委員のうち憲法改正阻止を明確に掲げる委員は、日本共産党の笠井亮さんたったひとりなんだ。

★そういえば委員の名簿の中に社民党の議員の名前がないね。
☆前回総選挙で5議席から2議席に後退した社民党には、委員の割り当てがなかった。笠井さんが孤軍奮闘せざるをえない。

★そのような勢力関係で、自民党が96条先行改憲論を目論むようになったのはどうしてだろう。
☆安倍自民は、世の中にある「憲法は古くなった」「そろそろ変えても良いんじゃない」という漠然としたムードが利用できると読んだのだろう。具体的に憲法のどこをどう変えるかとなると話しはなかなかまとまらない。しかし、96条の改憲手続き条項の改正なら、改憲派を総結集できるに違いないと踏んだ。橋下維新という右からの応援団の後押しもあったしね。

★しかし、昨日の審査会の論議では、96条先行改憲が成功しそうな勢いではないようだね。
☆そのとおり。安倍自民の思惑大外れというところだ。東京新聞の見出しが、「96条先行に異論続出」。船田元・自民党憲法改正推進本部長代理の「国民の多くは、改正のための改正と受けとめるきらいがある」の発言を紹介。自民・維新・みんなの積極改憲3党内でも、前向き、慎重の議員が混在していることが浮かびあがった、と報道している。毎日も、「96条先行 自民にも異論」「『ためにする改正』批判を懸念」と見出しを打った。

★その中で、笠井さんの発言はどうだったの。
☆朝日が、「一般法並みにハードルを下げるのは、憲法が憲法でなくなる禁じ手」と要約している。本質をよくとらえているだけでなく、分かり易く説得力がある。

★近代立憲主義が硬性憲法を要求することに必然性があるという、あの論理だね。
☆それだけでなく、いくつかの96条改憲の論拠とされるものに、的確な批判がなされている。短い文章だが全面的だ。論戦を通じて、「多数派のゴリ押改憲を可能とする96条改憲は姑息で本末転倒。国民を欺す禁じ手でもある」ということが、審査会全体にもメディアにも浸透してきた印象がある。

★それは心強いけれど、議会での共産党の議席は絶対少数だ。改憲阻止の防波堤の役割を果たせるだろうか。
☆そのことは国民世論の動向次第。今や、日本共産党が改憲阻止運動の最前線の主力部隊であることが明確になっている。改憲阻止の成否が、日本共産党の消長にかかっているといって過言でない。参院選も、その前哨戦である都議選も、憲法の命運をかけた闘いだが、その焦点は日本共産党の議席がどうなるかだ。
★結局は、安倍自民や、橋下・石原維新の改憲目論見を阻止するためには、なによりも共産党の議席を増やすことが王道ということだな。

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