政府が「裏切り知事の埋立承認」を錦の御旗としているのは納得しがたい
交渉とは、まずはお互いの主張を述べあう場だ。しかる後に、相手の主張にも耳を傾けつつ妥協点を探るのが通常の交渉の在り方。双方に妥協の意がなれば交渉の場の設定自体がなりたたない。
しかし、初めから「絶対に妥協しないぞ」と決めてかかる「交渉」もないではない。相手の言い分に耳を傾けるのはポーズだけというもの。あるいは、自分の主張の正当性を断固として述べる機会との位置づけのものだ。
政府と沖縄県との「交渉」は、双方とも話し合って妥協の着地点を見つけようなどとは考えていない。政府は、「普天間返還のためには辺野古に移転するしかない。断固工事を進める」と言い、沖縄は「あらゆる手段を講じて辺野古の新基地は作らせない。絶対に建設できないという確信を持っている」と言うのだ。これでは交渉の余地はない。
政府の側は、一応は沖縄の言に耳を傾けたという体裁を取り繕わねばならない立場に追い込まれての、ポーズだけの交渉。これに対して、沖縄県側は、断固たる県民の辺野古基地新設反対の民意を政府と国民世論やアメリカにも知らしめることが目的の「交渉」。これが、安倍・翁長会談となった。
政府の本心は沖縄との交渉などしたくはない。しかし、世論に押されて交渉の席に着かざるを得なくなったというだけのこと。「一応は沖縄の言い分を聞きました」「辺野古沖埋立工事の進行はまったく別のこと。着々と進めます」という不誠実極まる姿勢で会談に応じたというだけのこと。
会談を終えてみて、あらためて沖縄側の言い分に分があること、政府の対応が姑息でひどいものであることが国民全体に理解されつつある。その意味で「交渉」の席が設けられたことには大いに意味があったというべきであろう。
昨日(4月17日)官邸でおこなわれた、安倍晋三首相対翁長雄志沖縄県知事との会談は、冒頭首相が2分50秒発言し、これに対して知事が3分13秒発言したところで、翁長発言の途中であるにかかわらず記者団は会談の場から退出を命じられた。会談終了後、知事は記者会見に応じているが、首相の会見はない。沖縄タイムスなどは、知事の「非公開発言」まで詳報しており、会談内容はほぼ全容を掴める。
政府が会談に応じたのは、文字どおり「形作り」のためだけのもの。首相の発言内容があまりに空疎なのだ。「知恵がない」という表現はあたっていない。「舐めている」「本気さがない」というべきだろう。
首相側の発言内容は「辺野古への移設が唯一の解決策だ。」と言っているだけ。新基地建設問題に関して他に述べているところはない。代わりに時間を割いたのは、沖縄振興策についてのものだ。首相は、もうこんな態度は沖縄県民に通じないことを知らねばならない。
これに対して、知事側は、発言内容を周到に練って会談に臨んだ。気迫だけでなく、発言内容においても、明らかに首相側を圧倒していた。
知事側の発言内容は次のように要約できよう。
☆「辺野古への移設が唯一の解決策」は、かたくなな固定観念に縛られているに過ぎない。まずは辺野古への移設作業を中止することを決断し、沖縄の基地固定化の解決・促進を図るべきだ。
☆沖縄は自ら基地を提供したことは一度もない。戦後、強制接収で土地を奪っておきながら、老朽化したから、世界一危険だから、沖縄が負担しろ、それが嫌なら代替案を出せと言われる。こんな理不尽なことはない。
☆政府は今、前知事が埋め立てを承認したことを錦の御旗として辺野古移設を進めている。しかし、この前知事の承認は、普天間飛行場の県外移設という公約をかなぐり捨ててのこと。昨年の名護市長選挙、沖縄県知事選挙、衆議院選挙は前知事の埋め立て承認が争点となって、すべての選挙で反対派が当選している。辺野古反対という圧倒的民意が示された。
☆菅官房長官らが「16年前に当時の知事、名護市長が移設を受け入れた」と主張しているが、これは十五年の使用期限などの条件を附して認めたものだが、政府が条件を守っていない。だから、「受け入れた」というのは間違いだ。
知事側の言がいちいちもっともではないか。沖縄の世論は、一貫して辺野古新基地建設に反対だった。ところが、一時期、知事が県民を裏切って埋立工事を承諾した。その裏切り知事は次の選挙では手痛い県民の審判を受けて退陣した。しかし、政府は、「裏切り知事の埋立承認」を錦の御旗としている。沖縄の民意を敢えて無視してまで、辺野古基地建設工事続行にこだわる政権の姿勢は納得しがたい。
沖縄の民意に寄り添って、日本全国の世論を喚起し、オバマに向かって「事情が変わりました。沖縄の民意が、辺野古新基地建設を許しません。もう無理です。ご了解を」というべきが、日本の首相としての安倍晋三のとるべき筋道ではないか。
(2015年4月18日)