澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

安倍晋三の憂鬱ー「政権の存立危機事態」が目前だ

日曜日、ゴルフコースの坂道を登りながらこう考えた。説明責任を果たさなければ叩かれる。さりとて、丁寧に説明すれば世論は離れていく。ほんに、政治家も楽ではない。人をたぶらかすのは難しい。

そんな沈んだ気持の週明け。各紙の朝刊に碌な記事が出ていない。とりわけ不愉快なのが、日経だ。1面に「本社世論調査」の結果として「安保法案『今国会で』25%」という大見出し。
「日本経済新聞社とテレビ東京による22?24日の世論調査で、集団的自衛権の行使を可能にする関連法案の今国会成立に『賛成』が25%と4月の前回調査から4ポイント低下し、『反対』が55%と3ポイント上昇した。政府・与党は今国会での法案成立を目指すが、慎重論の強さが改めて浮き彫りになった。」
見出しの付け方も、記事の書き方も、もっと別の言い方があるだろう。産経や読売を見習うように、よく言って聞かせなければならない。

日経記事が癪に障るのはむしろ2面の世論調査詳報だ。見出しが、「安保法案『説明不十分』8割」というもの。「成立への懸念強く」「内閣支持層でも7割」というのだ。
「日本経済新聞社の世論調査で、26日に衆院で審議入りする安全保障関連法案への懸念の強さが改めて浮き彫りになった。8割が政府の説明は不十分だと回答。安倍晋三首相の『米国の戦争に巻き込まれることはない』との発言に『納得しない』も7割を超えた。政府・与党は今国会成立をめざすが、必要性はまだ浸透していない。」

何より頭にきたのは、今年1月から5月までの世論変化のグラフを掲載していること。わざわざ「集団的自衛権行使に関する法案成立には反対が増えつつある」というコメント付きでだ。反対世論は順調に増加して、「49%→55%」となっており、私の愛する賛成派国民は「31%→25%」と着実に減っている。

また、わざわざ目立つように表を拵えて、次のように報じている。
◇集団的自衛権行使に関する法案成立に
  賛成   25%    反対  55%
◇首相の『米国の戦争に巻き込まれることはない』との説明に
  納得する 15%   納得しない73%
◇政府の安全保障関連法案に関する説明
  十分だ   8%   不十分だ 80%

こんな数字は、細かいポイントで目立たないようにすべきが常識ではないか。たかが民間新聞の分際で、政府に楯突こうというのか。

日経だけではない。毎日の世論調査結果もその報道姿勢も不愉快極まる。政権批判が新聞の使命だといわんばかりではないか。父の晋太郎が在籍していた社ではあるが、最近偏っているのではないか。いや、いつまでも昔のままで時代の風を読めていないのではないか。

「毎日」1面の見出しは、「安保法案『反対』53%」というもの。活字が大きすぎる。太すぎる。続いて、「今国会成立『反対』54%」「本社世論調査」というもの。

記事の内容は以下のとおり。
「毎日新聞は23、24両日、全国世論調査を実施した。集団的自衛権の行使など自衛隊の海外での活動を広げる安全保障関連法案については『反対』との回答が53%で、「賛成」は34%だった。安保法案を今国会で成立させる政府・与党の方針に関しても『反対』が54%を占め、「賛成」は32%。公明支持層ではいずれも『反対』が『賛成』を上回った。」

「質問が異なるため単純に比較できないが、3月と4月の調査でも安保法案の今国会成立には過半数が反対している。政府・与党は26日から始まる国会審議で法案の内容を丁寧に議論する姿勢をみせているが、説明が不十分なまま日程消化を優先させれば、世論の批判が高まる可能性がある。」

これが最新の調査結果。これが、昨年7月1日集団的自衛権行使容認の閣議決定後の国民的議論の暫定結果だ。今や、政府が閣議を経て国会に上程した法案に、国民世論の過半が反対しているのだ。賛成派は、4分の1か、3分の1。しかも、説明すればするほど、国民は「分からない」と言い「説明不足だ」という。そして「反対だ」という世論が増えていくのだ。なんとものわかりの悪い国民だろうか。

ここでの国会戦術はよく考えなければならない。強行突破か、一歩後退しての迂回か、いずれの戦術をとるべきか。

我が手には、小選挙区制のマジックで掠めとった圧倒的な国会の議席がある。幸いに、官製相場と悪口を言われながらも株価を維持しているおかげで、まだ安倍政権支持の世論は不支持を上回っている。今のうちなら、強行突破は可能だ。どうせ「丁寧な説明」を重ねたところで、国民が納得するはずはない。むしろ、世論は集団的自衛権反対、戦争法案反対などに固まりつつある。ならば、ジリ貧を避けるのが上策だろう。公明と次世代を語らって、強行に審議入りし、強行採決を重ねても法案成立に漕ぎつけるのが得策ではなかろうか。

とは言うものの、これは大きな賭けだ。リスクはこの上なく大きい。60年安保の教訓を思い起こそう。あの騒ぎは、新安保条約の危険性に国民が反対しただけではない。衆議院の強行採決が民主主義の危機という世論を喚起して、あの盛り上がりとなったのだ。結局は、新安保条約は自然成立となったが、祖父岸信介は政権を投げ出さざるを得なかった。こんな事態の再来は十分に考えられる。まさしく私の政権の「存立危機事態」の到来だ。いや既に、「重要影響事態」の水域には到達していると考えざるをえない。

憂鬱だ。ほんに、政治家も楽ではない。人をたぶらかすのは難しい。
(2015年5月25日)

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