澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「またも負けたか東京都、それで教育委員会(いいんかい)?」

西南戦争の折りに、「またも負けたか八聯隊(はちれんたい)、それでは勲章九聯隊(くれんたい)」という俗謡が流行ったという。歩兵第8連隊が本当に弱兵であったか史実はともかく、九州人の大阪隊に対する揶揄と反感が窺える。

このところ、東京都教育委員会(訴訟当事者としては東京都)が裁判負け続けである。まるで、大阪府・市と敗訴の数を競い合っているかの趣。「またも負けたか東京都、それで教育委員会(いいんかい)?」と言いたくもなる。処分の連発で教育現場の管理を徹底しようという都教委の無理な手法の破綻が明確なのだ。これで、まともな教育ができるのか、本当に心配しなければならない。

5月25日(月)の東京地裁「再雇用拒否第2次訴訟」判決に続いて、昨日(28日(木))も、都教委敗訴の東京高裁(第14民事部須藤典明裁判長)の判決が言い渡された。今週2度目の都教委敗訴である。原告団は「ダブルパンチ」と言っている。月曜日地裁判決が君が代不起立を理由とする再雇用拒否を違法として5300万円の支払いを命じたもの。そして、木曜日高裁判決が、卒業式での「日の丸・君が代」不起立に対する停職懲戒処分を重きに失して違法と取り消した逆転判決である。処分を取り消しただけでなく、国家賠償まで認めたすばらしい内容。

2007年卒業式での「君が代」斉唱時の不起立を職務命令違反として、Kさん(都立八王子東養護学校・当時)が停職3月、Nさん(町田市立鶴川二中・当時)が停職6月の懲戒処分を受けた。二人はこれを不服として、人事委員会に審査請求をし東京地裁に処分取消と国家賠償(慰謝料の支払い)を求めて提訴した。

2014年3月の一審判決は、次のとおり。
 Kさん 停職3月の処分取消請求認容 慰謝料請求棄却
 Nさん 停職6月の処分取消請求棄却 慰謝料請求棄却

各原告と東京都が、それぞれの敗訴部分について控訴し、昨日の控訴審判決となった。結果は教員側が「逆転勝訴」の旗出しとなった。以下のとおりである。
 Kさん 停職3月の処分取消請求認容 慰謝料請求10万円認容
 Nさん 停職6月の処分取消請求認容 慰謝料請求10万円認容

注目すべきは、判決理由が、都教委の機械的な累積加重処分システムを違法と断じていること。これは痛快である。次のくだりは、都知事、教育長、各教育委員、そして橋下徹(現大阪市長)にもよく読んでもらいたい。

「学校における入学式,卒業式などの行事は毎年恒常的に行われる性質のものであって,しかも,通常であれば,各年に2回ずつ実施されるものであるから,仮に不起立に対して,上記のように戒告から減給,減給から停職へと機械的に一律にその処分を加重していくとすると,教職員は,2,3年間不起立を繰り返すだけで停職処分を受けることになってしまい,仮にその後にも不起立を繰り返すと,より長期間の停職処分を受け,ついには免職処分を受けることにならざるを得ない事態に至って,自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教員にとっては,自らの思想や信条を捨てるか,それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択一の選択を迫られることとなり,…日本国憲法が保障している個人としての思想及び良心の自由に対する実質的な侵害につながるものであり,相当ではないというべきである。」

また、都側の過失を認定するに際して、国旗国歌法の制定過程での議論を丁寧に紹介し次のように述べていることも注目される。
「国旗国歌に対する起立及び国歌斉唱には,日本国憲法が保障している思想及び良心の自由との関係で微妙な問題を含むものであること…個人の歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行為を求められることとなり,その限りにおいて,その者の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があること…が意識されていたことが認められる。したがって,国旗国歌法制定に当たって,外部的行為は,思想及び良心の自由との関係で微妙な問題を含むものであることにも配慮して,起立斉唱行為を命ずる職務命令に従わず,殊更に着席するなどして起立しなかった者について懲戒処分を行う際にも、その不起立の理由等を考慮に入れてはならないことが要請されているものというべきである。」

月曜日地裁判決も木曜日高裁判決も、最高裁判決の壁に阻まれて、君が代不起立に対する懲戒処分を違憲とまでは言えないが、その制約の範囲内で思想良心の自由保障に精一杯の配慮をした判決と評価することができる。

ところで、都教委は抱えた事件で敗訴を重ねて6連敗であると原告団が発表している。
2013年12月19日の再発防止研修未受講事件(「授業をしていたのに処分」事件)一審判決が控訴なく確定して以来、再任用更新拒否S教諭事件、条件付き採用免職Yさん事件、O教諭懲戒免職処分執行停止申立認容、再雇用拒否撤回二次訴訟、そして昨日のKさん・Nさん停職処分取消事件である。今年1月16日の東京「君が代」裁判三次訴訟の判決(31件・26名の減給・停職処分取り消し認容)を加えれば、7連敗と言ってもよい。都教委のやり方が異常なのだ。

舛添要一都知事、中井敬三教育長に再度申しあげる。すべては旧レジームにおける前任者たちのしでかした過ち。控訴・上告は、その過ちに加担し責任を自ら背負い込む愚行となる。上訴を断念して、不正常な事態を一掃する決断をお願いしたい。
(2015/05/29)

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