澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

村岡到「文化象徴天皇への変革」紹介

村岡到さんから近著をいただいた。「文化象徴天皇への変革」というタイトル。表紙に「天皇を文化の象徴に 斬新な提起!」とある。この「あまりの斬新さ」に驚いた。

村岡到といえば左翼の理論家と自らも任じ、社会にも知られる人物。その左翼理論家が、天皇制廃絶や天皇制との対峙ではなく、「文化の象徴としての天皇」を語り、これを純化する制度を提案しているのだ。

しかも、前書きには次のような意気込みが語られている。
「私は、この小さな本で日本の左翼の伝統的な弱点を明らかにし、その欠落を埋める内実を提起した。一九四七年五月三日の新憲法によって成立した象徴天皇制の経過と根拠を解明し、象徴天皇制の廃絶と合わせて、天皇を〈文化の象徴〉に変革することを、私は提案する。これはかつて存在しない、まったく新しい提案である。」

村岡さんは、現行の「象徴天皇制」の弊害は大きくこれを廃絶しなければならないとしながら、「文化の象徴としての天皇」は残すべきだという。憲法を改正して現行の「第一章 天皇」を削除し、これに代えて「第一章 日本国の理念」とし、その章の末尾に位置する第8条に「天皇は日本に住む市民の文化の象徴とする。天皇に関する制度については、法律によって定める」を置くのだという。

さらに、その具体的な制度案として、種々のアイデアが並んでいる。
天皇とその家族は伊勢神宮内に居住する。財政は任意の寄付を基本として不足の場合にのみ国庫の負担とする。定年制とし退任後は選挙権を認める。50年に1度程度の国民投票で国民に存廃を諮る。宮内庁や皇宮警察は廃止する…。

まだよく読み込めていない。もちろん、軽々に賛成とは言えない。が、私には、村岡さんの筆の伸びやかさが好もしい。天皇制についての議論をアンタッチャブルなものとしていない。誰に遠慮するでもなく、誰からも束縛されずに、自分の意見を述べている。体制にも、右翼にも、左翼にも、どの政党にも、運動体にも、自分の支持者にも、一切おもねるところがない。大変な量の文献を渉猟したことが記されているが、共産党や学界の権威からもまったく自由だ。そして以前の自分の見解にもとらわれていない。まさしく、自分の頭で考えたことを、自分自身の言葉で語っているのだ。

この書の中に、次の一節がある。この部分が、全体の立論の基礎になっている。
「私たちの政治分野での研究は政治的に真空の状態で行うものではなく、緊迫した政治情勢における明確な立場と主張の表明を外してはならない。温和な政治環境が与えられていれば別であるが、現在はそうではない。安倍首相による乱暴な好戦壊憲策動が強化されているのが現状である。私たちは、憲法第九条を骨抜きにする好戦壊憲策動に断固として反対であり、この策動を粉砕しなくてはならない。この明確な立場から考えると、象徴天皇制にどのように対処するのが正しいのか。」

この書では、天皇や皇后、皇太子らの、度重なる憲法擁護発言・戦争反省発言を評価する立場を明確にしている。「天皇らの言動は、安倍首相による好戦壊憲策動のアクセルとして利用できないばかりか、小さくないブレーキとなっている」という認識が語られている。「この現下の政治状勢のなかでは(天皇の)『平和の象徴』としての機能に賛意を表し、その傾向を拡げるほうが良い。天皇らの言動に、戸惑いを感じたり、『裏があるのではないか』などと邪推するのは誤っている」という立場なのだ。

もちろん、憲法改正を伴う制度の改変であるからには、長期的な展望をもたねばならない。本書は「日本人はなお、何らかの〈象徴〉なしには社会を統治できない段階を生きている」ことを前提に、「以上のような内容によって象徴天皇制を廃絶し、決定的に改革すれば、天皇を政治的反動に利用することはできなくなり、天皇をテコにした優越感や差別はその根を絶たれる。『お上に従う』などの非自律的習性も衰える。同時に『平和の象徴』としての天皇に尊崇の念を抱く国民に採っても不快感を募らせることはない。」と述べている。

リベラルな天皇への積極的な評価の立論は、当然にあり得ると思う。不十分ながら、私見は8月17日の当ブログに「『愚かで不誠実な首相』と『英明で誠実な天皇』との対比の構図をどう読むべきか」として書いてはいる。
  https://article9.jp/wordpress/?p=5440

このときには、保守層の比較的リベラルな部分からの天皇発言の評価について触れた。村岡さんが、左翼陣営からかくも真っ正面に肯定し、しかも憲法制度にまで踏み込んで言及していることは知らなかった。このような刺激的な提言は、自分の考えを吟味し、再考する良い機会となる。

おそらくは村岡説と同じ結論にはならないと思うが、あらためて天皇制をよく考え直してみたい。政治・文化・宗教・国民意識等々を総合して、自分なりに再整理することになるのだろうから。

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(2015年8月23日)

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