武藤貴也(自民党公認議員)の口から出た「新規公開株割当の国会議員枠」は本当にないのだろうか
自民党公認で滋賀4区から出馬し当選した武藤貴也・衆議院議員。世に埋もれた無名の存在だったが、学生たち(シールズ)の戦争反対の声を「利己的」と言って俄然全国的な有名人となった。安倍チルドレンの内実とレベルの程度を天下に知らしめた点において、その功績は大きい。
さらに、8月19日発売の週刊文春で「未公開株詐欺」まがいの集金手口を暴露されて、政治家としての知名度ランキングのトップレベルに躍り出た。しかもそのあと自民トカゲのシッポとなって、安倍自民党の「イヤーな感じ」高揚に大いに貢献してもいる。
が、この問題それだけではない。もしかしたら…、政治とカネの薄汚い関係を壮大に暴露する発端であるのかも知れない。その意味では事件の奥行きはもっと深く暗いものなのかも知れないのだ。
8月19日以来、私の仲間内では「武藤のやったことは典型的な未公開株詐欺だろう」「『国会議員枠』なんてあるはずがないものを目玉にしての勧誘なのだから詐欺」「もし、欺していなければ、委託の趣旨に反した預り金の流用として横領は確実なところ」「金融商品取引法の無登録業者の違法勧誘行為や、出資法1条の『出資金の受入の禁止』にもあたるだろう」「こんなひどい議員は告発に値する」「安倍政権への打撃にもなるはずだから、告発したらどうだ」。「詐欺・横領・金商法違反・出資法違反を射程に告発すべきだ」と声は出ている。
しかし、大方は口だけは動くが、なかなかそれ以上には進まない。誰かやってくれるだろう、と他を期待しているからだ。こういうときに頼りになるのが、「政治資金オンブズマン」(共同代表、阪口徳雄弁護士・上脇博之神戸学院大学教授ら)。よく調べ、果敢に行動する。今回も動いた。
興味深いのは、彼らが「いきなり告発」ではなく、問題となった未公開株の上場手続幹事を務めた証券会社に対する公開質問状の発送という形で、宣戦を布告したことである。主たる質問内容は、未公開株の配分割当に関して、「国会議員枠」(あるいはそれに類するもの)があるのかどうかということである。
公開質問状は、昨8月24日付で「エイチ・エス証券株式会社 代表取締役社長 和田智弘」宛に発送された。公開質問状の全文は、共同代表である上脇教授のサイトに掲載されている。URLは以下のとおり。
http://blog.livedoor.jp/nihonkokukenpou/archives/51811709.html
上脇さんは、公開質問状を発信した趣旨に関連して「自民党が詳細な内部調査をすることなく議員辞職もさせず除名もせず離党させたのは不可解な対応であり、自民党は株の購入につき「国会議員枠」(あるいはそれに類するもの)があるのかどうかの論点を話題にさせることを回避しようとしたのではないかの疑惑が生じる」と述べている。
「国会議員枠」という表だった制度が存在するわけはない。しかし、問題は、表向きの制度がどうなっているかではない。いかなる態様にせよ、証券会社が未公開株の割当をする際に、政治家に甘い汁を吸わせている運用の実態はないのか、ということなのである。
「国会議員枠」を明示の制度として理解すれば、そんなものはないとニベもなくはねつけられるに決まっている。しかし、運用の実態が問題なのだ。未公開株の配分という美味しい手続に、政治家への手心が加えられている実態があれば、「国会議員枠(あるいはそれに類するもの)」が存在することになるということだ。
エイチ・エス証券株式会社には、幹事社として未公開株上場を担当する際の手続については「募集等にかかる株券等のお客様への配分にかかる基本方針」(公開質問状では「本基本方針」と言っている)という内部基準がある。
http://www.hs-sec.co.jp/book/haibun.pdf
公開質問状の質問事項は、次のとおりこの基準の運用についてのものとなっている。
1 本基本方針では「新規公開株の配分について、
?抽選による配分、
?抽選によらない配分、
という2種類の配分方法があります。
抽選又は抽選によらない配分の中に「国会議員枠」又はこれに類する配分方法があるのですか。
2 国会議員、又はその秘書について、本基本方針第3項(2)??「当社と継続的にお取引を頂いていること、又はお取引拡大が期待できること」に該当するとして事実上国会議員枠又はそれに類する配分方法を設定することがありますか。
3 (1)貴社が主幹事を務めた2014年11月の株式会社CRI・ミドルウェアの新規公開株につき、抽選又は抽選によらない方法で、武藤議員又は政策秘書の宮崎資紹氏から、何らかの配分を受けたいという申し入れがありましたか。
(2)その場合に武藤議員又は政策秘書の宮崎資紹氏に現実に配分しましたか。又は配分がなかったですか。
この「基準」には、「公平」と「公正」そして「適切」が何度も繰り返されている。
たとえば、「株券等の配分を行うに際しては、…適切な募集等の取扱いを行うとともに、公平かつ公正な配分に努めることを基本方針としております」「以上のような配分の基本方針に基づき、公正な配分を通じて証券市場の発展に寄与していくことが、当社の使命であると考えております。」という具合。
但し、その運用が公平・公正、かつ適正に行われているかはよく分からない。この基準が公平・公正かつ適正な運用を担保するほどのものとなっているとは考えられない。そして、「国会議員枠」を明示的に排除しているとは読めないのだ。
但し、「当社は、当社の役職員、当社に対して特定の利便を与え得るなど社会的に不公平感を生じせしめる者、暴力団員又は暴力団関係者、いわゆる総会屋等社会的公益に反する行為をなす者及び配分を行うことが適切ではないと当社が判断するお客様への配分を行いません。」という一文がある。暴力団・総会屋には配分しないとは明記されているが、国会議員に対する除外は明記されていない。もっとも、「当社に対して特定の利便を与え得るなど社会的に不公平感を生じせしめる者」には国会議員が含まれる可能性がある。しかし、仮にはいるとすれば、なぜ端的に「国会議員」を配分対象から外すと明記しないのだろうか。
本当に国会議員枠は、ないのだろうか。換言すれば、「未公開株の配分において、国会議員に便宜を図る運用がなされてはいないのだろうか」。「議員枠的なもの」が本当にないのか、実はあるのではないか。本件では、エイチ・エス証券が武藤に、そのような便宜を図ろうとしたのか否か。それが問題なのだ。
「イエス」の回答があれば、世の中がひっくり返るほどの大騒ぎとなるだろう。「ノー」である場合には、武藤の詐欺が濃厚となる。回答拒否も考えられるが、これは何らかの不都合があって回答ができないと考えざるをえない。何らかの形での「国会議員枠」存在が推認されるといって差し支えなかろう。
実は、こんなことは自民党が自ら調査すべきなのだ。天下の与党に、自浄の意思も能力も欠けているばかりに、民間が代わってこんなことまでしなければならないのだ。安倍自民党無責任体質、ここに極まれりではないか。
(2015年8月25日)