天皇の政治的利用とは
本日は政府主催の「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」。天皇の発言内容に注目していたが、「お言葉はなかった」との報道。「主権回復の日」の意味づけにも、式典開催自体にも、国民の賛否が定まらない中での天皇出席である。沖縄では大規模な反対集会があり、4野党の党首が意識的な欠席をしている。このような中で、いったい「国民統合の象徴」にどのようなスピーチができるのだろうか。「助言と承認」をすべき立ち場の内閣が思案の末に「何もしゃべらせない」という選択をしたのであろう。
とはいえ、内閣は式典に天皇をひっぱり出すことまではした。さして広くもない舞台の正面に、やたらと目立つ大きな日の丸とその下に天皇と皇后を据えた舞台の作りは異様というほかはない。
このような式典に天皇を引っ張り出した安倍内閣に対して「天皇の政治利用」とする批判がある。しかし、この批判の立脚点は一色ではない。もちろん、天皇制に対する本質的な批判の立ち場から、政治的色彩を帯びたいかなる天皇の行為も「時の権力による政治利用」として容認しがたいとする見解はシンプルで分かり易い。それだけでなく、もう一つ、政治利用の手法が拙劣という批判もあり得ることに注意が肝要である。その場合の表現は、「天皇という神聖な存在を軽々に政治対立の舞台に担ぎ出すことは畏れ多いこととしてなすべきでない」という表現となる。
天皇という存在は本来的に政治利用を目的に作られた。誰もが承知していることである。その天皇の最有効活用のためには、神聖性や文化的権威や国民全体の象徴などという、ゴテゴテの虚飾が不可欠なのである。「主権回復を記念する式典」ごとき舞台に引っ張り出すことで、その虚飾のメッキを剥ぎ落としてはならないとするのが、政治利用の手法において拙劣という批判である。
分かり易くいえば、「もっと高次の天皇の利用をすべきで、このように軽々しく天皇を取り扱ってはならない」という立ち場からの批判である。天皇を国民全体の象徴とするフィクションのメリットは極めて大きい。それだけに、伝家の宝刀と同様、抜く時期と舞台を選ばなければならない。いつもいつも、時の政権に軽々しく利用される天皇では、いざというときの利用価値がなくなる。
天皇が全国民の象徴というタテマエは、実は、国民多数派が少数派を制圧する道具としての天皇の有効利用に本質的に不可欠なのだ。「天皇とは所詮そのようなもの」と国民に底が割れれば、この道具はその機能における有効性を失う。天皇の政治的利用も、実はこれでなかなか難しい。
『目黒天空庭園のこと』
高架の3号渋谷線(東名高速道路へつながる)と地下トンネルの高速中央環状線をつなぐために大橋ジャンクション(JCT)は作られた。敷地を節約するために道路をグルグルと螺旋状にして、輪になったロープのような4本の道路が重なっている。東北自動車道、関越自動車道、常磐自動車道 からの車を都心環状線を通さずに、高速中央環状線を通して東名自動車道路へ逃がす役割を担っている。以前よく調べもせずに、大橋ジャンクションを通ったことがあるが 、グルグル回って、分岐が多くて 、どちらに行ったらいいのか迷って怖かったのを覚えている。こういう仕組みになっていたのかと今頃解っても後の祭り。
そのループの外側と内側をコンクリートで覆って、太い煙突を斜めに切ったような壁を作った。自動車の騒音と排気ガスを遮蔽するための工夫だ。それだけでは味気ないし、夢がない。そこで、一番上のループ道路のうえに幅16?24メートル、長さ400メートルの散策庭園を作った。最も高いところは35メートル、富士山も見える空中庭園である。そばに2棟の超高層の再開発マンションが聳える 。その高い方の42階建マンションの9階と庭園は連絡デッキでつながつている。建物に入ると中は明るく広々とした「大橋図書館」となっている。太い煙突の真ん中の空間はスポーツ施設付きのイベント広場になっている。公園も図書館も広場も目黒区が管理して入場無料。東急田園都市線で渋谷から一駅目の池尻大橋が最寄り駅だ。都会のオアシスとしてとてもよく考えられた魅力的な空間で、人気スポットになっていくだろう。
さて、空中庭園だが、空中というだけに眺めは確かに抜群だけれど、風がとても強い。植えてある木々がまだ小さいので風を遮蔽するものがない。しかし、木々が高く育てば、眺望は遮られて、ただの傾斜のついた細長い公園になってしまう。風が強く乾燥も激しそうなので、日本庭園には適さないと思う。乾きに強い丈の低い植物を集めたロックガーデンはどうだろうか。試行錯誤して、落ち着いた憩いの場にしていって欲しいと思う。
(忌憚のない感想を言えば、実物はヘリコプターから写した写真ほどの面白さはなかった。写真の天空庭園はアニメの「天空の城ラピュタ」のように見えてワクワクした。当たり前だが、フェンスに囲まれて地に足がついていたのでは高いところにいても、ちっとも浮かんでいる感じはしない。)
26日付毎日新聞に「高速老朽化対策10兆円」という記事がでていた。少子化や景気の低迷を考えるとこうしたインフラの整備はますます困難になっていくのは必然だ。高速の無料化などというのは夢物語だと思っている。それどころか高速道路を走る時は、トンネルの天井板が落ちてこないか、壁がはがれて倒れてこないかハラハラする。願わくは、この空中庭園が100年後に東京の廃墟コロセウムとなることなどありませんように。
(4月28日)