澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

がんばれ竹富町

昔訪ねた竹富島は、思い描いたとおりののどかな南国の風景だった。赤瓦の屋根の上のシーサー、石積みの垣根、そして水牛。珊瑚礁の海、浜で掬った星砂…。小高い丘の名が「んぶふる」だったことをよく覚えている。その竹富町が、中学校公民教科書の採択問題で文科省と対立しながら筋を通している。小さな島が、政権や文科省と互角に渡り合っているのだ。その毅然たる姿勢に惜しみない拍手を送りたい。

昨日(3月14日)、下村博文文部科学相は竹富町教育委員会に対して、八重山教科書採択地区(石垣市、竹富町、与那国町)で一括採択された育鵬社版教科書を竹富町内の中学校で使用するよう、地方自治法に基づく「是正の要求」を発出した。国が市町村に直接「是正要求」するのは前例のないことだという。

なんと言っても安倍政権である。しかも名うての下村文科相である。さらに育鵬社版の公民教科書。舞台の右端に役者が揃った。政権も文科省も、天皇、「日の丸・君が代」、領土、自衛隊、公の秩序という記述満載のこの公民教科書のシェアを拡大したくてしょうがないのだ。とうとう、我慢がならずにしゃしゃり出て前代未聞の国から町への是正の要求となった。

竹富町側の対応は落ちついている。これまでどおりに、国の費用ではなく寄付を募って東京書籍版を使ってなんの混乱もないとしている。こちらは、沖縄の基地問題にページが割かれている。

「領土に手厚い育鵬社版と米軍基地に詳しい東京書籍版。文科省が育鵬社版に肩入れしているとすれば、教育行政の政治的中立性を脅かす非常事態と言うほかない。」(東京新聞社説)というのが、常識的な見方。

ところで、「是正の要求」とはなじみがない。地方自治法上の、「文部科学大臣の地方公共団体に対する関与」の一形態だという。本来は、各市町村の自治に任せるべきことに例外的に国が口出しできるとする定めだ。しかも、都道府県を飛び越しての各市町村への直接の口出し。今回は、文科相から沖縄県に「竹富町への是正の指示」を求めたが、同県がこれに従わないからとしての、県を飛び越えての町への直接の要求。例外中の例外なのだ。当然に、要件は厳格である。

地自法245条の5の第4項は、「各大臣は、…その担任する事務に関し、市町村の事務の処理が法令の規定に違反していると認める場合、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認める場合において、緊急を要するときその他特に必要があると認めるときは、自ら当該市町村に対し、当該事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。」と定める。これが、下村文科相の竹富町教委に対する「是正の要求」の根拠規定。

整理してみると、
要件は、
?事務の処理が法令の規定に違反、
?著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害している場合
a緊急を要するとき
bその他特に必要があると認めるとき

権限は、
大臣自らが当該市町村に対し、当該事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる

効果は、
当該市町村は必要な措置を講じなければならない義務を負う。

是正の要求を受けた当該市町村がその義務を果たさず、かつ国地方係争処理委員会等への審査の申出もしない場合には、国は「国等による違法確認訴訟(地方自治法第251 条の7)」を提起することができる。

竹富町側に、是正を要する法令の違反があったとは考えがたい。ましてや、著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害しているわけはない。緊急性はさらにない。政権や文科省の姿勢を明瞭にして、意に沿わない教科書を採用しない町を恫喝しているというべきであろう。

頑張れ竹富町。「んぶふる」の島。
(2014年3月15日)

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